愚者のこころにともしびを




「いつかきっと」

 時折思い出す。

 何よりも強い視線、忘れがたき瞳。

 欲するにはあまりにも畏れ多き誇らかさに戦慄し、肌が粟立った。









            ◆     ◇     ◆     ◇     ◆





 ありとあらゆる力はその時、ごっそり抜け落ちて。

 守りきれぬなら。

 騎士である意味などないと。

 これで最強を名乗るとは笑わせる、と。

 誓いは、確かにこの胸で輝いていたのに。

 膝を付く間際、惨めなものだと嘲笑った。






 「・・・っ、シャ、ル様・・・・・・・」
 重苦しく冷えた空気の中、剣を捧げた君主の名を呼ぶ己の声は、ひどく虚ろで無力だった。
 氷のような石の床が、ついでの様に体温を奪う。
 何を犠牲にしても守らなければならなかった。
 それが約束であり、誇りだった。
 地位も、名誉も、命も。―例えば、真に友と呼べる者が代償であっても、必ず守り抜くと誓ったひとだった。
 醜態を晒しているという自覚はある。けれどそれがどうだというのだろう。無様に床を這い蹲る様は、最愛の主を
 守れなかった愚者にこの上なく相応しい。
 無能以外の何者でもない我が身がひたすら疎ましく、小刻みに震える全身、到る所に刃を突き立てたい衝動を、
 不釣り合いな冷静さでやりすごす。
 無意味、無価値。
 それ以外に、この身を何と形容しよう?
 唇を噛む。渾身の力で握り込んだ拳は、けれど直ぐに力を失って、だらりと床に垂れた。
 おそろしいまでに、こころは虚ろだった。
 泣き喚けたら、いっそ狂えたら、まだしも救いは訪れただろうかとぼんやり思う。
 憤怒では足りない、悔恨では生易しい。おそらく人が絶望と呼ぶものにとても近しい位置で、木偶の坊のようにもう一度、
 その名を呼ぼうとした。


 「いつかきっと」


 不意打ちのように囁かれて、のろりと顔を上げる。
 間違いなく己に宛てただろうその声は、穏やかすぎて腹がたつほど透明だった。
 焦点の定まらぬ視線の先。清々しいまでにしっかりと立つその青年は。
 敵であった。
 それ以外の何者でもなかった。
 殺すつもりの、相手だった。
 ―何故、彼は生きている? 理不尽で、けれど純度の高い疑問が沸き起こる。我が主は逝ったのに。肉片も残さず、消えたのに。


 「いつかきっと、仇をとらせてやる。」


 なんだかよくわからない事を聞いた気がして、瞬きをした。乾いた目がひどく痛む。涙の一粒でも流せれば、
 青年の表情が見えただろうか。
 仇? 彼はそう言ったのか? 自分はそんな事望んでいない。
 望みは、守る事。彼を、我が主を生かす事。
 共に戦う事。
 それだけがすべて。
 けれどそれを永遠に失った今、他の何を糧にすればいいのだろう。
 復讐ではないと、断言できる。
 そう告げようかと思ったものの、無意味だと思い直す。
 理解することも、されることも望みではなかったし、おそらく目の前の青年もそうだろう。
 気休めに等しい詭弁。優しさによるものではなく。
 罪悪感を。
 どうにかしたかっただけだろう。
 それほど今の自分が無様なだけだ、と。



 なんとなく視線を逸らし損ねて、ようやくはっきりと見えるようになった青年を眺める。
 彼は少し首を傾げ、それから仲間を促した。
 「・・・・行こう。」
 そして一瞬だけ、天井を―やたらと広く高いこの塔の最上階、おそらくそこで確かに嘲笑っているであろう老人を、
 石床透かして睨み据えた。



 目を、奪われ、た。

 なんという強い視線。

 迷いなく、ひたすら鮮やかに。



 瞠目する。
 彼の瞳を彩るのは、恐れではなく、憎しみですらなく、ただただ深い悲しみ。
 そして怒り。


 見えない手のひらで、なにもかも心臓ごと握りつぶされた気がした。


 何か言わなければならない気がしたが、相応しい言葉はなにひとつなかった。
 両の足で床を踏みしめ、誇り高く進む姿は、何だか無性に眩しいようで。
 ひどく苦労して、今度こそ視線を外す。 
 傍らを、通り過ぎる気配。
 歩みを留めもせず、速めもせず。


 「だから生きてゆけ」


 ひとりごとのように。
 いとも簡単なように放り投げられたその言葉が、わずかに震えていたのは気のせいか。
 顔をあげる。彼の姿を捜す。

 華奢な背中が遠ざかる。
 見つめ続けても、振り返りはしないだろう決して。
 今お前はどんな顔をしている?
 響く足音は王者のごとく、高らかに。


 「あんたは俺を憎んでいい」


 違う、と。
 叫べばよかった。
 疲れきった体で、けれど全身全霊をもってして、吼えればよかった。
 言葉の奥底に潜む彼の、僅かに混じる自嘲を、それだけはありえないことだと否定すればよかった。
 憎む、など。
 どうしてできただろう、あの顔、あの声、あの瞳、あの眼差しを目の当たりにして。
 なにより強い絶望そのもの、を。
 目の当たりにして。
 それでも青年は生きろという。
 憎しみでもいい、それを糧にしてでも生きろという。
 いつかお前に討たれてやる、と。
 差し伸べられた手を。
 傷だらけの手を。
 けれど自分は、あまりに驚いていたので。
 みっともなく喉をひゅうひゅう通り過ぎる声は、人間の言葉ですらなく。
 かすれた音は青年の耳には届かない。
 届かない。


 

 こころが痛む。


 泣き叫びたい衝動は、無性に、凶暴に。

 滲んで、霞んで、消える背中。








 ぱたぱたと床に落ちる水滴の正体が、涙なのだと気づいた瞬間、むしろ奇妙に笑いたくなった。

 救われたのだと。

 とめどなく流れるそれを堪えるでもなく、確信する。



 泣くことができるなら。

 きっと立ち上がる事もできるだろう。

 そして、戦うことができるだろう。

 両足に力を込める。
 

 顔を上げる。


 そして立つ。





 痛みはおそらく、死ぬまでずっとこの胸の奥に。

 忘れることはないだろう。


 けれど戦って、ゆけるだろう。





 約束を、くれたから。










 瞳を閉じる。唇を引き結ぶ。
 
 けれど、それでも。

 この痛みもまた、かけがえのないものだから。





 守りきれなかった君主のために。


 ―もう少しだけ、どうか猶予を。


 そう、例えば彼が約束した「いつか」その時まで。


 かならず。
 青年はそれを守るだろう。
 愚かな男と交わした約束を、当然のように叶えるだろう。



 そのときこそ、決然と顔を上げ、自分は宣言しよう。

 望みを。

 守ることを。

 誇らかに。
 
 命かけた、誓いを。



 迷いはしない。






 いっそ晴れやかな思いで、鷲掴みにされた心臓の上、てのひらを当てる。




 そして、


 自分は告げるだろう。いつか、きっと。
 





 あの一瞬の眼差し

 それもまた、こころの奥底で、切なさに似た痛みと共に



 輝き続けるものになったことを。


 




End






 ・・・・・・・やってしまいました。えへ。(可愛くない)
 いいのかもう後には引けねえぞ。綺月様にメールでオッケーもらったしな!(←お伺いは立ててみた。)

 アー主ですか。違いますか。そうですね。違います。(落ち着け)
 しかもアー、ヘタレっぽいです。いいのか帝国騎士。(今キーボード打ったら「定刻」騎士って・・・)
 それよりいいのか氷花。考え直せ氷花。おかーさんは泣いている!(だから落ち着け)

 題なんてもの、思いつきませんでしたが。要するに。
 仮題、さらには課題とするならば。
 ”愚者のこころにともしびを”。
 そーゆーカンジ。
 愚者ってのはアーさんの事か。違います氷花のことですごめんなさいすいません。

 ともあれ。捧げ物第一弾です初書きでございます。創作時間総計2時間40分弱!(かけすぎだ!!)
 コレが”誠意”か。”それなりの”がコレなのか。答えやがれ氷花。
 ・・・超大駄作(自覚はある。この上なく。)、無駄に熱い氷花の愛のリボンをかけて、綺月様に。(あ、”いらねえよ”って声が・・・)
 ・・・・ご愁傷様です。


 や、ネタはやたらあるんですが、ちゃんとした形にするのは(しかも一応終わってるのは)初めてでして。

 そーゆーものを人様にお出しする己の根性がアレなんですが。
 ある意味神をも恐れぬ所業!! 
 ・・・・・はぢめてはだれでも下手でとーぜんよねV うふVV

 とりあえずカマトトぶってみましたがどうですか。だめですか。そうですか。


 ・・・・・トばしすぎだ氷花。





 ・・・ちょっとまじめに語ってみようかと。(無駄に長いです。)
 うちのアーの、カーマインさんに対する思いは、だいだいこんな感じからかと想像してみるわけでございます。
 いや、そりゃカーマインさんったらグレートにビューティなセクシーボーイ(どこが真面目だ)なんですけどね?
 どうしようもなく、惚れた瞬間、心臓をつかまれた瞬間てのがあったとしたらこんなカンジ? みたいな。
 おおお、なんか語ってるっぽくていい感じだ。

 アーさんがカーマインにすっげ惚れてていつも気にしてるってのが。
 スキなんです。

 カーマインさんも何種類か私の中で存在するんですが。
 基本は天然系。
 寡黙。何考えてるかわからない。微妙にズレてる。変に鈍いのにやたら鋭い(どっちだ)。
 でも最強。
 大切なものを、大切にするために生きている人だと。


 こんなカンジ。・・・・がんばれ、アーさん。

 ちなみに私の中の主人公の呼び名は「カーマイン」で決まりです。あまりに似合っていて、使っていた名前はお払い箱に。
 スキなんですよ。
 響きが綺麗。



 はっ、これってこの場で語るべきことじゃないんじゃ!? 
 それ以前に、誰も読んでないんじゃ!!!???
 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっとして置いてください。

 お許しいただけたら、またいつか調子こいて語りだすこともあるかと思います。
 ・・・ってゆーか同盟から永久削除とかなったらどうしよう(いまさら重大な過ちに気づく)

 ・・・・・人間には、今さら後にはひけない瞬間があるのでございます。(涙) 




 んでは。
 お目汚し。
 失礼いたしました。
 (土下座)   


▽ 管理人戯言
素敵だ、素敵過ぎる・・・・(恍惚)
こ、これが初書きなんですか!?格好良すぎます!!
この場面・・・綺月も大好きなんです。そのうち書こうとかこっそり思ってましたよ。
ああもうなんていうかこの場面、この場面を氷花様テイストにイラストで表現したい、っていうか描く!←ええ?

そ、それでもって綺月さんやばいくらいに氷花様と趣味が似ている模様。
綺月もカーマインさんは天然で寡黙で、他人のことには目が行くのに自分のことになるとてんで鈍い、そして最強が
好みです。ゲーム中でちょっと俺様系発言をしているのも自分が強気でいる限りみんなが安心出来ることを知って
いるからだと思うのです。(何だこのフォローわ)
そしてそんなカーマインさんにアーさんがベタ惚れ・・・・が理想。根っからの光の救世主好きな私。

って俺が語ってどうする。
氷花様超絶素敵で切ない系のもろ綺月好みなSSを有難うございます★
第一弾、ということは第二弾を期待してもよいのですね?それに永久削除なんてとんでもない。永久に逃しませんよ。(怖っ)
次回作を過剰に期待中であります。フフフ・・・・(やめろ気色悪い)

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