孤独な英雄に観月を 後編 そういえば初めて名前を呼ばれた気がするな、と思った。 少しだけ、後悔をしている。 お前はカーマインだろう、と。 当たり前に。 ごく当たり前に肯定されて。 勿論そうだと、頷けばよかった。 紛れもなく正しい答えだと、笑えばよかった。 そうすれば月明かりの下育まれる、美しい友情話としてサマになっただろう。 けれど、理屈ではなく、こころの奥底から。 どうしようもなく込み上げる焦燥。 不安、と名付けるにはあまりにも複雑で。 行き場を失って結局、嫌悪に行き着く。 「では、誰だというのだ」 どんな刃よりも。 正確無比な冷静さで、急所をえぐる。 平静な顔で受けることは難しかった。 冗談事だと、煙に巻くにはさらに難しく。 なによりも、誤魔化しは許さない、強い瞳。 後悔と。 それとは明らかに逆の位置にある、奇妙な満足。 ひょっとして自分は裁きをこそ望んでいたのかもしれない。 有罪だと。 答えは皆知っている。 気味悪いほど白い腕だと、先程思った感想とは少しも変わらず、今度は月ではなく、判定者に差し出した。 「例えばこの腕を」 「?」 「傷つけたとしても、血は赤いだろう」 「・・・・」 「けれど、それは本当に、血であるのかとたまに思う」 馬鹿なことをいっている。 懺悔の様に。 「何を言っている?」 「知っているだろう?」 一年前。一人の老人の企てた、グローシアンによる恐怖政治の復活。 狂気じみたその妄執を、辛うじて阻止できた要因が、どこにあるか。 ―知っているだろう。俺の正体を。 グローランサーと人がもてはやす存在。 ほんとうに、それは正しいことか? 「ゲーヴァスを」 「?」 「見ただろう。あの、化け物を」 「・・・・ああ」 「あれから俺は、作られた」 「違・・・」 「事実を曲げるか?」 「・・・・・」 「あの時」 「あの時。時空制御塔が揺らいだとき。俺は少し、まともじゃなかった。」 「気づいていた」 「そうだろうな」 お前が気づいている事を、俺も気づいていた。 気遣わしげな視線に、礼を言う暇すらなかったけれど。 ―あの時。 波動に驚いて蹲ったあの瞬間の感情は。 「恐怖ではなかった。勿論、驚いただけでもない。」 認めるのは少しだけ勇気が要る。 思い知らされた瞬間。 安らぎを。 ―もう大丈夫だよと、囁かれた気がした。 「だから、俺は違うんだよ」 宮廷魔導士、サンドラの息子。 違う。 皆既日食のグローシアンの兄。 違う。 ローランディアの騎士。 違う。 グローランサー。 違う。 光の救世主。 違う。 違う、違う! 「カーマイン」 「違う。」 人に在らざる者より作られたこの体。 お前たちが、至高の存在と謳うその実態は。 「―二度にわたる『父殺し』の罪を犯した罪人だ」 あのとき、世界は確かに崩壊した。 「・・・・お前は、聡いようでいて実はそうでもないな。」 声音に、色濃いあきれを含ませることは、さほど難しくはなかった。 激情に揺れる瞳は、硝子より繊細で儚い。 強いようでいて、弱い。 常に色を変える、二面性。 他者に向ける慈悲深さとは真逆の、自戒。 危ういバランス。 ―なにより、貴い。 「カーマイン。では問う。今までお前は、元インペリアル・ナイトとして俺を認識したか」 「・・・?」 「国を、世界を裏切った、救いようのない大罪人だと、思ったことがあるか」 「・・・・・」 互いに剣を向け合った相手を今、こんなふうに思うのかと、不思議に思う。 「お前が罪人だというのなら。俺もそうでなければならないな」 「だけど、あんたは・・・」 お前を救うために、他を貶めるのが最善なのなら。 それの対象が、自分であればなおさら。 躊躇いなく、俺はそうするだろう。 ひとりでないなら、救いはあるだろう? 「俺は罪びとだ」 「違う、あんたは想いが強すぎただけだ」 強すぎて。 それゆえに。 捨て去ることが、できないで。 笑いが漏れた。何故、お前は人の事でしか必死になれない? 「では、お前と何処が違うのだ?」 お前が、おまえ自身のことで必死になれないのなら。 俺が、そうしてやろう。 見返りは、今そうしているように、本心を曝け出した瞳を見せてくれればいい。 俯くな。お前の顔が見たい。 だらりと、力を失った手を取る。弾かれる様に上げられた顔の、驚きの表情に満足しつつ、指を絡ませる。 「俺は、罪を犯したことを、死ぬまで忘れないだろう。」 「・・・」 「お前も、そうすればいい」 「俺は・・・」 「聞け。・・・苦しむなら、苦しめばいい。それはお前の勝手だ。だが」 「・・・」 「一人ではないことを、知っていろ」 それは、逆に言えば、俺が苦しむときはお前に慰めを見出すと、そういう事だが。 ・・・気づいていないな? 「俺を許せるならお前も許せ。できないのならするな」 「・・・・、っふ、」 あきれたような苦笑でも。 無理矢理笑うよりは随分ましだ。 「・・・・・凄い慰め方だな」 「気のきいた言葉が聞きたかったのなら、相手が悪かったと諦めろ」 あいにく、不器用なものでな。 お前も言っただろう? 俺を生真面目だと。 けれど。それでも 思いに嘘だけはつかない。 繋いだ手に、力を込める。 苦しむなら、共に。 片方だけの救いなら、求めない。 とりあえず月は。 秘めやかなこの誓いを、黙っていてくれるだろう。 英雄の肩書きも。 誉れ高き騎士の称号も。 罪を責める自らの声も。 この優しさの滲む乳白色の光の下では、無価値にただ光る。 「カーマイン。俺はお前がお前であれば、それでいい」 それだけがすべてであればいい。 月明かりの下。 白銀に光を弾く―けれどあの方とはまったく別物の輝き。 真紅の瞳。 炎より、優しく。 宝玉に近い―、けれど石よりもっと価値のある強さ。 悲しみと。 痛みを、知っている人だと。 言葉は、すとんとそのまま、胸に落ちていつまでも残った。 俺の名を呼ぶ声は。 どうしようもなく優しいものに思われて、何故か少し痛い。 空を仰ぐ。 絡めた指は、なんとはなしにそのままに。 「良い月だな・・・・・」 「ああ」 やわらかなやさしさに。 ほんのすこしだけ、こころをうばわれそうで。 確かなものを求めるように、ただ手を繋いでいた。 骨ばった掌は、あまり握りごごちは良くなかったけれど。 大きくて、絶対に壊れなさそうだと無根拠に笑って。 今夜の月は、怖いくらいに。 ああ、本当に綺麗だと。 穏やかな微笑みが。 細めた目の奥、じんわり染み入るようだった。 End ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ どうもこんにちわ氷花でございます。 ・・・・とりあえず完走。よかった出来不出来はともかく終わったよ・・・お疲れさまッス。 いやーなんかヤな感じに長かった気がします。・・・つっても、3時間しかたってないのか。・・・ビミョ〜だ。 冒頭、数行の独白は、カーマインさんのものではなく氷花のです。 何故あそこで「違う」とかメンドイ事を言うたのか!!! やたらだらだら続いたではないか!!!(泣) ちなみに。 前回の見どころは、”居て欲しい”のに”居ればいい”としか言えないアーさん。 今回は、思わずぎゅっと熱い抱擁ぶちかましたいのに握手しか出来ないアーさん。 ・・・・・・・あーくんの、いくじなしぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!! 、ばしぃっ(平手) ・・・・避けるな、馬鹿者。(腐っても、インペリアル・ナイト。腐ってるのは氷花か。) ちなみに、カーマインさん気づいてません多分。(天然。) ってのは、「俺を呼ぶ声は、どうしようもなく優しいものに思われて、何故か少し痛い」事から、容易に推察できます。 何故にそれを”切ない”と形容しないのか! お前のそれはむしろ残酷だ!! ・・・・がんばれアーさんちょっとだけさすがに可哀想になっちゃったよ・・・・・ いつかは報われるはず。いつかは。(←「俺の目を見て言え。byアー」) あ、アーさん、ご希望通り腕を差し伸べられてたじゃん。よかったね。(人事か) 途中に。 『「―二度にわたる『父殺し』の罪を犯した罪人だ」』ってのがありますが。 氷花グロランファーストプレイは、名前「カイン」でいきました。(カーマインが気に入ってからはあっさり鞍替え。 思い入れはないのか少しは。でも名前の響き似てるし!!) あんときは何気なく、まったく無根拠につけたのですが。 親殺し(と、敢えて言ってみる)の大罪は、彼の有名な”身内殺し”と奇妙に似通った所がある気がします。 偶然って、本当にあるものなんですね。しみじみ。 はっなんか語ってしまった真面目なのは私のキャラじゃないのに!(どんなキャラだ) 妙なテンションはお互い様です。ってゆーか氷花のはちょっとやばいです。よっぽどだったら突っ込んで下さいどうか。 お願い。たのむから。 アーさんは包容力あるようでないようで、やっぱりある気がします。道を歩いていて、へたれてる人が居たら、 とりあえず様子を見て、「なんだ、まだ歩けるじゃないか」とあっさり立たせたり。 足が痛いと泣いてみても、「それがどうした」と真面目に聞き返したり。(何気に容赦なし) かと思えば、手持ちの傷薬を見返り要求することなしに与えたり。 氷花あたりが倒れてても、素通りするだけっぽいですが。(いやする、あいつは。) あらあら、ゴーイングにマイウェイなひとがここにも一人。 優しいんだぁね、結局。 あ、これあくまでも氷花的解釈ですので。 怒んなくてもいーじゃんよー。反論大歓迎です。私に更生の道を教えてください。 もしくは一緒にあーでもないこーでもないと萌えましょう。 萌える、で思い出しましたが。 グロランUの攻略本、キャラ紹介のページでカーマインさんとアーさんが隣り合って紹介されたのを発見したとき。 『これって閉じたら抱擁一歩手前じゃん!! アーさんカーマインの肩口に顔埋めてるし!!!』などと腐臭漂う妄想を 一瞬だけしてしまったのは・・・、してしまったのは・・・・・・・・・・・・、私の秘密です・・・・(涙声) ああ、萌えたさ!!! 悪いかよ!!!!!(逆ギレ) まあそれはそれとして。 カーマインさんを何より大事に思うのは。 おんなじ境遇であるリシャール様を何より大事に思ってたアーさんなんじゃないかなと。 思うわけです。 いやべつに二人を重ねてるわけじゃないんですけどね? リシャール様が、リシャール様だから、アーさんはああいう行動に出たわけだし。 カーマインのためにだって、躊躇いがあるわけないじゃないですか。(断言してみた) ホント、あくまで、あーくーまーで、氷花的解釈ですよ? なにやらイカれた言葉の羅列ですみません。てゆーかストレートに長くてすみません。このとおりです。土下座します。 許してください。しかも意味ない・・・・。いいの? ほんとに私、ここにいていいの!?(急に錯乱) ごめんアーさん胃薬持ってきて・・・・(アーは、絶対携帯してるはず)。え、ケダモノ用は持っていない? 失敬な。 ともあれ。”孤独な英雄に観月を”はこれにて終了でございます。 失礼いたします。 ▽ 管理人戯言 う、初々しい二人だ・・・。(和み) シェイクハンドですよ、シェイクハンド!(英語にする意味はあるのか) 可愛い〜。綺月の中ではそんな初々しさがなくなってきているので、逆に頬染めちゃったりしました。 途中から有無を言わさぬアーさんが素敵。意気地なしでもいいよ、可愛いから。←は? それから気付いてない天然な救世主様も素敵〜。 んもう、残酷なまでに鈍い君が愛おしくて仕方ありません v少しは気付いてやれ vvv ちょっぴりアーさんに同情したり。でもアーさんはそれでもいいとか思ってそうですね。 何だかんだでこの二人は似たもの同士だから、些細なことも分け合えたら良いなと、思います。 辛いことも嬉しいことも二人で分け合えたらそれはとても幸せなことだと思えるので。 例え分かつものが、血を吐くような痛みでも、償えない罪悪でもいつかは報われるはずなのでやっぱりずっと 二人でいて欲しいな〜。(希望) とかなんとか。 氷花様につられて真面目に語ってしまった。あれ?綺月の辞書に真面目と言う単語はないのに。←ないんだ 暑さでちょっとらしさを見失いかけているやも。アーさん綺月にもケダモノ用でいいから胃薬持ってきてくれ。 ・・・(5分後)。ち、奴めバックレおったな。まあいっか。胃痛如きで死にやせんぞ私は。 とにかくほろ苦く、切ない、とっても萌えな(笑)SSをどうも有難うございました、氷花様 |
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