罪無き虜囚に目覚めの朝を 蝶が風を泳ぐ。 舞うかのような その、優雅さ。 薄い羽。 精一杯伸ばしたとてせいぜい掌の大きさにしか満たないそれを軽やかに操り 蝶は風を泳ぐ。 そしてついに蝶は。 「 それ 」を見つけ。 しずかに見下ろした。 無造作に四肢を投げ出し 恐れるものはなにもなくまどろむ”もの”。 漆黒の髪。 整った鼻梁。 目蓋の奥に今は眠る強きひかり。 肌の、色の。 その白さ。 たとえば”魔性”の美。 唇の。 ほんのりと色づいた薄紅。 漏れる寝息の なんと、邪気ないこと。 蝶はひらりと大きくはばたき 微風は睫を僅かに揺らしただけだというのに ”それ”はあたりまえに ゆるり、その瞳を開いた。 「 ───何故起こした 」 問いかけを蝶に向け こたえを待つでもなしに ため息をひとつこぼし 身を起こすその動きの けものの如き、しなやかさ。 草を踏み その両の足を 務めであるかのようにただ動かし けものは彷徨い歩く。 その姿は 亡者に似て。 そびえたつ大木に手を当てる。 たやすく剥げる赤茶の樹皮。 ぱらりと落ちて それは、やがて土にかえる喜び。 常緑の。 さやさやと音を立てる小さな葉。 耳をすませば。 もう一度眠ってしまえと誘う、うた。 真木の、香の。 あお苦さ。 幹の、ざらつく感触に 額を、押し付け。 ──そう、それができたならと。 震える、ため息。 悠かときを経た樹はひとことも語らず。 なげくがままにさせてくれた。 木の枝の間から上を。 仰げば、空かける”ひとびと”の姿。 薄らと淡い光を発し その背にひらめくは白き羽。 ああ、と呟く。 感嘆の声。 憧れに似たまなざしを。 ひどく、”それ”が美しく見えて ひとく、”それ”が正しく見えて。 息すら止めて、魅入られる。 ──けれどけものは知っていた。 ”あのひとたち”は決して天の使いではなく 上空に線を描くその円さに 完璧であるあかしなどない事を。 それでも。 ああ、それでも、それは。 なんと美しいさまであったろう。 月はなく 闇の、心地よさに 吐息をこぼす。 朔の、夜は はじまりを意味するという。 「 ──もしくは、すべてのおわりか。 」 どちらにしろ、この静けさ。 やわらかく包むたとえようのない優しさ。 安らぎに相応しいもの。 ──それでも、それは。 「 明るさを知るからこそ。 」 呟きに、こたえるものなどいないけれど。 目を閉じ。苦笑を、ひとつ。 ひかりあればこそ、やみなのだと。 やみあればこその、ひかりなのだと。 どちらが、欠けても。 「 ……知っている……。、それでも 」 ───その後につづく言葉を聞きはしたが 闇はやはり、こたえない。 ひきずるように足を運ぶ。 その様は。 まるで見えぬおもりをつけた様。 虜囚の、かお。 ふとその足を止め。 瞳を向けたのは、無造作に土に転がる氷のかたまり。 その中に閉じ込められた 小さな花の 彩の、はかなさ。 その美にかすかな喜びを見せ ほほ笑む、けものの 疲れに慣れたまなざし。 ──いずれ花は枯れるだろう。 そう、だから自分は触れずにいよう。 僅かでも長く咲けるように。 このてのひらは おまえを弱らせてしまうから。 足をふたたび前に出し。 後に残るは、死んでゆく花の、彩。 ──月無き夜を 闇、満ちた夜を たしかに望むのに。 ひかりあればこそ、やみを。 闇夜あればこそ、月を。 求めてまなざしは空に。 つじつまを 指摘する声は不要。 今、月が出ていれば良い。 あのどこまでも白く冷たく清いひかり浴びたなら。 けだるさも洗い流される気がするから。 手を伸ばす。空に向けて。 今は無き月に向けて。 まるで神のみささぎのような 静寂に満ちた、濃い闇の夜に向けて。 なんのためか、わからぬままに。 手を伸ばす。 けものの、その頬を撫でる風は。 なまあたたかく、よどみ。 不快に、眉をひそめ。 幾度目かの、ためいき。 ようやく無意味なその手を下ろし、 けものは目覚めを心底憂う。 知っていた。こうなる事を。 目覚めなければ、そのままであれたのに。ずっと。 目の前に、やはり蝶。 いつのまに、と疑いもせず。 むしろ、必然、といった風に。 けものは弱く笑って見せた。 「 ──何故、起こした。 お前は知っているはず。 」 蝶は、こたえず。 「 ──そう、知っているはず。この世の道理を。 例えば花氷には触れぬ事。 例えば眠る児は起こさぬ事。 …そして例えば、封じた魔の、決してその枷を解かぬ事。 」 この体を。 この世にもどせば何が起きるか。 知るからこそ、望まぬ目覚め。 「 やがてこの世界は終わる 」 「 ───俺が目覚めてしまったから 」 何故だ、と低く繰り返す。 悲しみを混ぜて。 「 お前は、お前たちは俺に何を望む? そしてそれに何の意味がある?」 蝶を静かに凝視して けものはこたえをただ待った。 いろあざやかに、その羽をひらめかせ 蝶はくるりと舞い そして、 けものは、言葉を失った。 木々はざわりといっせいにうたい 有翼のひとびとは空で踊り この夜がはじまりであるのだと闇は語り 氷の中の花はまだ枯れず咲いている 月は確かにこのそらに存在し あらゆるものが 「お前の目覚めを。 解放を。 その瞳がこの世を映す事を 望んだ。 それだけの事。」 いつか、たしかに憶えあるひびきの。 穏やかな声。 とまどいのままに。 名を、呼ばれ。 けものは 揺り起こすその力に身をゆだねて ───そして。 「さあ、めざめのときだ」 そっと、まぶたを開く。 目覚める。 夢の。 名残を払うように。 闇は明け。 目を射る、強い光。 「───おはよう」 こちらを見つめるそのまなざしに。 ほんのりとほほえんで。 手を伸ばす。 迷いなくこたえて、すぐさま絡む指のしあわせさに。 ──次見る夢が、お前のものであれば良いと。 ささやいて、くちびるを寄せる。 その、至福を。 限りない、やさしさの。 まちがいない、よろこびを。 やくそくされた朝に。 窓の外、ひらりと蝶が飛び立った。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ こんにちは氷花です。 SSの神様が降りてきたかと思えばやっぱり駄文の神様でした。またか。 悔しいので今回はちょっとばかり趣向を凝らしてみました。恥ずかしーから詳しくは言いません。でもきっとばればれ。 氷花の頑張りなんてこんなもんです。わかった方は、「また未熟者が無理な事を…」とかため息ついて氷花の駄目っぷりを 哀れんでください。ちょっと面白いかも〜とか思ったのにさあ。結局コレ。文才が欲しい。(切実) てゆーかわけわかんないですね。いつもに輪をかけて。 ごめんね? 怒んないでね?? (可愛く言ったつもり。←無茶。) とはいえ今回辞書引きましたですよ氷花としたことが! (いや、たぶんそれが常識) 言葉を使う以上、その言葉に対して間違いがあっちゃならねえなと思い立ったわけでございます。 言葉には、いろんな意味があるのだとあらためて感心。たまには辞書もいいなあ。(でも今後も使用するかは疑わしい) てゆーか日本語って綺麗ですよね。 タイトル。『罪なき虜囚に目覚めの朝を』相変わらずセンスのねぇネーミングだなおい。 ちなみに、「目覚め」→@めざめること(そのまんまじゃねーか)。目をさますこと。「お‐ですか」(使用例らしい) A本心にかえること。Bひそんでいた本能が動き始めること。「春の‐」(やはり使用例)C自覚。 さあどれだ。 くちびる寄せたお相手はご自由に。(ありがちっすか?) 場所? ちゅーの? きゃーもう言わす気ですか。(…壊?) ほっぺで。嘘です。(でもそれでも良いか)指とか。相手のまぶた? 額? まあご想像にお任せします。どこでもオッケー。どこでも。ふふ。(ここであなたのラブ認識度がわかります) 最初は素直にアーさんにしようかとも思ったのですが。 てゆーかそのつもりでいったんシメまでいったのですが。 そんな幸運、そう簡単に彼に舞い込むと思います?(どうやら彼は不運なイメージらしい) うーん…? (何故そこでためらう) てゆーか、彼らはまだデキてるとこまでいってない気もする。そっちのほーがスキだ書くのは。 カーマインはニブいし。アーさんは押し弱いし。 三歩進んで、やっぱり三歩下がってる二人なのかもしれません私の中で。 というわけで。 ここってば「帝国騎士」×主人公な場所である事ですし。(とかゆって、いつもアーばっかじゃねーか) お相手はご自由に。(アーいじめだ、結局) しかし長い。内容は薄いくせに。(前回の反動か?!) 行間を駆使したつもりが駆使しすぎてくどい。 …わかってるんです。これでも頑張ったんです。 なにしろ最初はこの三倍は軽くあって、さすがに我に返った氷花がさくさく不要部分を削ったわけですが。 不親切な意味不明さに拍車をかけただけでした。 でも、↑より三倍も長かったらウザイですよね? まだましですよね?? ね???(必死だなおい) 幻想的なイメージを目指したつもりが。 曖昧すぎてワケわからぬシロモノになって幻滅。 なんとなく雰囲気で読んで、流してください。 所詮それだけのシロモノです。 このようなもの送り付ける己の無礼さに涙が出ますが。 同盟に捧げる以外にどうしろと。(逆ギレ) カーマインさんの寝顔を眺めるのもそりゃ楽しいでしょうが。 その目を見て、声を聞いて、もしかしたら笑ってもらえて、 触れて、触れられて、そのほうがずっといいと思います。 美しい世界が壊れても。 カー君が望まなくても。 少なくとも氷花は願ってます。 そんなエゴが、いとしい。 語ってみました。カッコいいですか。(そんなわけねーな。) あーもーとにかくカー君が好きだ! それでオッケーだ!(そうなのか) アー君とまとめてセットだとなお良し。目の保養になるから。 そーゆー直情さがね、すべてを補うとは言わないですけど、結構重要なポイント。 すくなくとも、目覚めの理由にはなると思うのですよ。 愛は地球すら救っちゃうくらいですから。 ああ、オヤジか私は。愛がどーとか語るような歳ではないはずなんだけどなあ。 生き方考え直してみるべきでしょうか。人生は巨大な迷路だ!!(謎) どーにも愚痴ばかり浮かんできていやーんですねえ。氷花さんこわれたらなかなか治んないから困ったもんだ。 こんな私をいつもいつもかまってくれて、皆様ありがとーです。 ああそうだこれが一番言いたかったんだ。 皆様ダイスキですv(可愛く。←だから無茶。) ………だから愛想尽かさないでねvv(もっと無茶) 2003.9.16. 氷花 ─── 6:19 (PM) (出来上がったのはね、もう十日くらい前のことなのです) ▽ 管理人戯言 はわわわわ〜、折角素敵なSS頂いてたのにアップが遅ーい!もうもう、綺月の馬鹿!阿呆!! のろま〜!!!普段使わない頭をここで使わないで何処に使うの!?(いや、様々な場面で使って下さいよ、綺月さん) 何だってこんな目の保養かつ頭の教養になる美しい文体で知的なSSを数日間野放し(?)にしていたんだ自分! 氷花様が新たな試みを、と趣向を凝らして書いて下さった『・・・X主人公(お相手は自由)』SS。文才がない? そんなことありませんよ!というか氷花様が文才ないってことになると綺月なんて脳みそすらないですよ!?実際脳みそ あっても全く使ってないですからね。誰か綺月に文才ぷりーず(切願) ふう、自分の無能さを訴えるのも結構辛いものが・・・。うん、感想、感想書きます。そういうスペースなんだよここは(多分) ない頭をフルに使って・・・何というか客観的にというか第三者の目で綴られているからこその現実味があって状況も把握しやすい、 とでも言いますか。幻想的なのですが非現実的ではないというかまるで国語の教科書に載るような、そんな感じのカチッとした 作品かな〜と思います(判り辛いですね) 駄目だ、真面目に語れない。そんなの綺月のキャラじゃないんだよ、うん。 もういつものノリに戻りたいと思います。 相手が自由というのならもうアーさんで!固定固定〜みたいな(だったら初めからアー主の同盟にすればいいのに) ああ、でも不運なアーさんも大好きなんです(酷っ)アーさんは幸せになって欲しいけどあんまり早く幸せにはなって 欲しくないキャラなんで。矛盾しているようですが綺月の中では当然のこと、って感じになってます。結局はすっごいラブラブ〜って 感じが好きじゃないのかも。なんとなくほのぼのするような、やわやわと撫でるようなそんな関係が好きなのかもしれませんね〜。 いや違うか、多分切ない話が好きなんですねきっと。 でもそれじゃアーさんがあまりにも可哀想なのでそのうち報われた感じの話を書こう!とか言っときますか。 (あ、今赤眼のお兄さんにすっごい背後狙われてます、ピンチです!) 結局ただの独り言に!!くっ、こんな奴が管理している同盟にこのような素敵SS、毎度ありがとうございますね氷花様〜(平伏) |
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