−IF2− (堕天英雄) ・・・行かなければ。 僕はそう思った、だって、呼ばれているのだもの。 そう思った瞬間、僕は大事なことに気が付いた。 「僕は、誰だっけ?」 あれ、今の(音)なんだろう? えーと、うーんと・・・。 思い出した!「声だ。」 ひとつ思い出して、とても嬉しくなったのだけど。 でも、まだ僕が誰か思い出せない。 うーん・・・。 あっ、 そーだ、いい事思いついた! 主様ならきっと知っている。 あの方には知らないことなんて無いんだから! でも・・・、何か聞いたら怒りそうな気がする。 前に、この呼ぶ声聞いたら、見たことも無いような剣幕で怒ったんだもの。 「愚かな事だ、自らの足で立ち、自らの意思で進み、自らに責任を持って進むと大見得を切っておきながらこの様か!」 普段は穏やかな琥珀色の目が怒りで金色に染まって、その声には明らかな侮蔑や嫌悪があった。 「マイトレーヤ、聞くな。」 そう仰せられた・・・。 ・・・あれ? 「マイトレーヤ・・・、そうだ、僕はマイトレーヤ=フォルスマイヤーじゃないか。」 ・・・なぜ、思い出せなかったのだろう。 ・・・改めて周りを見る。 大地には花が咲き誇り、遠くにはこの時空を支える大樹(世界樹)が聳え立っている。 近くを流れる小川は、澄んでいてとても冷たく、口に含めば仄かに甘い気すらする。 遺跡めいた建物には、似たような衣装を着た僕の兄弟たち ・・・この世界の何もかもが美しく優しいけれど、下界から来る風だけが、大陸の異変を教えてくれていた。 そうだ、・・・ここは、ゲヴェル様の作り出した絶対空間だ。 本来、僕らには魂など無いはずだった。 だから、あの世界で肉体が滅べば、それは本当の死。 輪廻転生など望むことのできない完全な終わりのはずだったのだが・・・ 僕や、ラルフ兄さん、それに末弟のリシャールは、生命を、得てしまったのだ。 ・・・死んでから。 個性が有り過ぎたのか、僕の影響なのかは分からない。 でも、僕たちは消滅せずに、主である、ゲヴェル様の波動に惹かれて、ここに集まり。 そして、狂ったグローシアンの王ヴェンツエルの呪縛から解き放たれ本来の姿に戻られた ゲヴェル様により、この美しい大地に存在することを許されたのだ。 ・・・この、豪華な箱庭からもう一度仲間たちの待つ下界に降り立つのは難しい。 まして、兄弟たちや主様の目を盗んでは。 ・・・それでも、帰らなければ僕を呼ぶあの声の場所へ。 ・・・あの人のところへ・・・。 ・・・友としてより、敵として見舞えたことのほうが多かった。 それでも、分かるつもりだ。 あの人は悲しんでいる、僕たちの命をもってやっと繋ぎ止めた平和を踏みにじられて。 あの人は苦しんでいる、何もできない自分が歯痒くて。 あの人は嘆いている、祈ることしかできないと。 そして・・・。 ああ、だからこそ聞こえる、時空すら超えて聞こえるこの祈り。 「封印が解けたか・・・。」 気が付くと主様は僕のすぐそばに来ていた。 ・・・封印? 「ああ、封印だ、お前がもう余分な物に気を取られ、嘆かずにすむようにして置いたのだが」 ああ、そうゆうことか。 例えば、いくら猫に猫の国の言葉で助けを求められても僕には分からないし、仮に分かったとしても助け方を知らなければ意味が無い。 「ああ、そうゆう事だ。」 ニヤリ 主様は底意地の悪い笑みを浮かべ はぁ。 と、これ見よがしにため息をついて 「・・・帰りたいか? あの地獄へ・・・。」 と聞いてきた。 地獄? 「地上に戻ればお前は再び闘いに身を投じ、泣きながら死体の山を築き、血の大河を渡らねばなるまい、 そして戦いが済み再び平和になれば人殺しと恐れられる、英雄とは最も効率よく人を殺せる者の別名だからな。」 ・・・主様の言葉は的確に僕の弱点を突いてきた。 そうかもしれない。 「この世界は美しく優しいだろう? 何よりも争いが無い。」 何故進んであの地上に帰るのだ? と、主様は問いかけた。 世界を見回す・・・。 確かに、この世界は美しく優しかった・・・が。 それでも・・・。 「ええ、帰ります、あの懐かしい地獄に、醜く争いにあふれた地上に。」 僕は、胸を張って答えた。 「・・・僕が戦場で傷つき、苦しんだときに、助かる命が必ずあるはずです。そしてその命を待っていた誰かはきっと微笑むでしょう、 微笑みは微笑を生み、大陸をきっと覆うはず・・・ならば。 僕の幸せは地獄のようなあの地上にあります。どこかの知らない誰かが、愛する人と微笑むために僕はあの地獄に帰ります!」 それが僕の願い、僕の祈り。 あの大地に満ちる全ての命が「生まれてきてよかった。」とそう思えるような世界にしたい。 あの人の悲しみを止めてあげたい。 だから、 「帰してください、お父さん。」 ぼくを。 「貴方も本当はそれをお望なのでしょう?」 しばらく、心地よい沈黙があたりを包み込んだ。 「出来損ないが・・・。勝算はあるのか?」 主様の言葉は厳しかったが、口調は優しかった。 「いつも僕に勝算なんてありません、でも。」 もしかしたら。 「僕は不可能を可能にするらしいから、愛される人殺しに成れるかもしれませんよ?」 そういって僕は微笑んだ。 さあ、帰ろう。 あの人のところへ、僕を待つ皆のところへ。 光が僕の体を優しく包み込む、世界が歪む。 あまりの眩しさに目を閉じる。 浮遊感、そして ・・・落下? とゆうか木が、木が目の前にぃー がさ ごそ ごきぃ がごん どすん。 「いたたた。」 意趣返しだとでも言うのか、おとーさん。 思い切り打った背中と腰をさすりながら辺りを見回す。 ・・・ココどこ? 見れば分かる、森だ、たぶん迷いの森、時空制御塔があそこに見えるということは、おそらく南のほう。 ローザリアまで遠くは無いけれど近くも無い。 乗合馬車があれば別だけど、わざわざこんな森の中を突っ切るような酔狂な御者はいないだろう。 おまけに僕は今無一文だし。 ・・・いかん、泣きそうになった。 そこはかとなく落ち込んでいると、人の気配がした。 こちらの様子を伺っている? 気配からしてかなりの腕前と見た。 ・・・不利だ、僕は今武器を持っていない。 しばらくお互い息を潜めていると。 「・・・マイトレーヤ・・・なのか?」 ・・・この声は! 「・・・アーネスト=ライエル?」 その数瞬後。 しなやかに、力強く抱きしめられて。 僕は、「ただいま」というのが精一杯だった。 END うにゃ、途中までゲヴェ×主。路線だったんであせりました。 マーヤはどちらも大好きなんですよね・・・。 でも、 ゲヴェル=お父さん アーネスト=大切な人 という図式が成り立っているようです。 ・・・この後本当は大変なんですよ、生まれ変わったばっかりだから服も着てないし。 まあ、大切な人の腕の中でおしまいと言う事で。 お目汚し失礼いたしました。m(_)m 10・08UP ▽ 管理人戯言 むう、なんとこう来るとは!って感じの後編です。 何気にこのゲヴェルさん綺月好きなんですけど。何だかよき父といいますか娘を嫁にやるようなそんな感じ?(訳判らん) それからマイトレーヤ君・・・マーヤ君が非常に可愛いです。一人称が「僕」ですよ!?綺月が親なら絶対嫁には出しません! だって可愛いもん! はあ、そうやってアーネストさんを悩殺しているわけですね。気持ちはよく判るよ筆頭・・・。 こんなに良い子に惚れないわけないですよ。君は正しい、アーネスト=ライエル君(何様だおまえわ) 一度は失ったものが還ってきたその喜びは計り知れないものなのでしょう。もう良かったねとしか言えないです。 それにしてもこんなに素敵なSSをお書きになられる方が同盟に加盟して頂いちゃって嬉しい限りなのであります。 本当に有難うございました、花丸様vこのご恩は一生忘れませぬ〜!!! |
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