02 とどかない



Two people are like shortcake that the strawberry got on.

(二人はまるで、苺の乗ったショートケーキのようだ)


‖strowberry on the shortcake‖




龍穴塔破壊後、疲れた身体を休めるために丁度近くにあった大地の里の跡地に立ち寄った一行は、
廃れた里の中をそれぞれが思い思いの場所で感慨に耽っていたわけだが・・・。
リーダーであるメークリッヒは困ったように頭上を見上げていた。

「どうだ、ユリィ」
「駄目ですわ勇者様。ここは電気が通っていないようです」
「・・・・困ったな、照明が点かないと夜不便だ」

殆どが破壊されている建物の中で比較的、損傷の少ない宿の状態を確認していたメークリッヒだったが
幾ら傷みが少ないと言っても捨てられた里に電気など通っているはずもなく、外の光を取り込んでいるとはいえ
既に薄暗いカウンターに溜息を吐く。同行している面々に暗所恐怖症―なんて者はいないと思うが、
やはり明かりがないというのは不便でしかないだろう。どうしたものかと首を傾ぐ。

「・・・・仕方ない、少し頼りないがランプに火を着けて上から吊るすか」
「そうする他ないようですわね。これ以上暗くなってからでは作業もしづらいですし」
「じゃ、取り合えずランプを探すか」

人がいないとはいえ、ランプくらいは何処かに常備してあるだろうと踏んで、メークリッヒは本来なら経営者がいて
入れないような従業員の部屋と思われるところに足を運ぶ。三年も放置された室内は埃だらけで、口元を
腕で覆いながら色々と物が散乱している中を歩き回る。里を捨てて逃げ出す時にきっと慌てて荷を纏めたのだろう。
歩きにくい中、落ちているものに足元を掬われぬよう注意して目的のものを探す。

「ランプ・・・もしかしたら持って行ってしまっているかもしれないな・・・」

部屋の奥の方にある棚を物色し、メークリッヒは諦めの吐息を吐く。ランプが見つからなかった場合、せめて蝋燭
だけでもあるといいのだがとぼやきつつ、下段の引き戸を開けて小分けにされた箱の中身を確認していく。
端の方から開けていき、三つ目の箱を開けると目的のものが出てくる。どうやらまだ未使用の新品らしい。
少々勿体ないような気になりつつも覆っている薄い包装紙を剥がし、一緒にしまってあった蝋燭も取り出し、
カウンターの方へと戻る。ドアを開けると、個室の方を探していたと思われるユリィと目が合った。

「あ、勇者様ありましたか?」
「ああ・・・一つは。それと蝋燭がある、部屋には蝋燭を置いておこう」
「では次は火を着けるものを探しませんと・・・」
「いや、そのくらい魔法で・・・」

言って言葉通り、炎系の魔法を唱えようとするメークリッヒ。自分の勇者の暴挙に慌てたユリィはひらりと
メークリッヒの眼前に飛び込んで開きかけた唇を小さな両手で押さえる・・・というか触れる。
驚いた金眼は、長い睫を瞬かせ瞳の中に映り込む紅い光をじっと見つめた。その視線に照れたのか、
それとも愛する勇者の口元に触れてる事に照れたのか、ユリィは頬を染めて。

「だ、駄目ですわ勇者様・・・室内で魔法など危険です」
「・・・・ああ、それもそうか。ところで」
「どうかされましたか勇者様」
「ユリィ、いい加減に手を離してくれないと喋りづらい」

未だ唇の上に乗っている小さな指たち。彼女のか弱い力ではメークリッヒの言葉を妨げる事は出来ないが
違和感は齎す。白眉は若干不快そうに顰められている。自らの勇者にそんな表情をさせてしまったと
クイーンオブピクシーは申し訳ないとさっと手を外し。

「す、すみません勇者様!もう私ったら・・・」
「いや・・・まあ、別にいいんだが。火を着けるものだったか・・・」
「確かカウンターの隅にマッチがあったような・・・」
「ああ、これか。じゃあ、蝋燭に火を着けてランプに入れれば取りあえずは」

何とかなるだろうと、ランプに火の着いた蝋燭を入れ、蓋をすると今度は天井を仰ぐ。
カウンターに置いておいてもいいのだが、上にセットしなければ明かりとしてはあまり役に立たない。
窓の外はもう夕日が沈み始めている。急がなければ視界は悪くなる一方だ。メークリッヒはランプを掲げて
足場になりそうなもの、脚立を探すが見つからない。

「・・・困ったな。流石に天井には手が届かないしな・・・」
「そうですわね・・・ホフマンさんならば届くかもしれませんが・・・」
「しかしホフマンには来てもらっていないしな・・・」

龍穴塔の破壊は時間との勝負と言う事で、メンバーは機動力を重視し、メークリッヒ、ルキアス、ウェンディ、
そしてスクリーパーを懸念しゼオンシルトで構成していた。当然ホフマンはいない。現時点でいるメンバーを
思い起こしてしかしメークリッヒはふと思い立つ。

「・・・そうだ」
「勇者様・・・?」
「いい事を思いついた」

ぽんと手を叩いたと同時、外を見回っていた面々が宿のドアを開けた。その中の先頭を歩く少年に目を留め
メークリッヒは。

「ルキアス、丁度良かった」
「・・・?何だよ」
「ちょっとこっち来てくれ」
「?」

戻った早々手招かれ頭上に疑問符を浮かべながらも、ある種メークリッヒを妄信している少年は素直に
傍に歩み寄ってくると、随分と高い位置にある綺麗な顔を見上げた。かと思えば。

「失礼」
「え・・・・うわあっ!!」

不意に小さな身体に湧き上がる浮遊感。遠かったはずの綺麗な顔は近づき、むしろそれを追い越し
ルキアスの視界は常の倍以上の高さに固定された。つまり、メークリッヒによって抱き上げられた事になる。
突然の事にルキアスは大声を上げたがメークリッヒは気にしない。抱えた身体を自分の肩に座らせるようにして
持ち上げたまま言う。

「すまないがルキアス、そのままランプを上に吊るしてくれ」
「は、はあ?!つか、降ろせっ!」
「・・・俺じゃ届かないんだ、よろしく頼む」
「なっ、だからって・・・〜〜〜ッ、くそ貸せそれ、早く!」

言っても聞かなそうな雰囲気を察して、ならばとっととこの恥ずかしい状態から逃れようとルキアスは
片手でルキアスを、もう片方でランプを持ってたメークリッヒからそれを奪い天井の柱へと紐をくくりつける。
ぎゅっと固結びを施し、落ちないかどうかを確認するときつい眼差しで真下にある金眼を睨みつけ。

「終わったぞ、とっとと降ろせっ!」
「ああ、有難う・・・助かった」
「礼はいいから早くしろ!」
「・・・そう急かすな、落ちても知らないぞ」

肩の上で暴れる少年を諌めつつ、メークリッヒは言われるままに床へと少年を降ろす。途端に足元を蹴られた。
予想外の少年の行動による痛みで蹲るメークリッヒを他所にルキアスは悪びれた風もなく、ドアの付近で
ぽかんと立ち止まっている二人の元まで戻り。

「・・・・痛いじゃないか、ルキアス」
「いきなりあんな事するアンタが悪いんだろ!そう思うだろ二人共」
「えー、私はメークリッヒに抱っこされてルキアス君が羨ましかったけどなぁ」
「はあ?!何だよ羨ましいって・・・あ!そうだよ何で
ウェンディに頼まなかったんだよ、別にオレじゃなくていいじゃねえか」
「・・・・女の子にいきなり触るのは拙いだろう」

幾ら他意はなくとも、女性をいきなり持ち上げるのはよくないとメークリッヒは言う。それはそうだと思ったものの
男の身の上で軽々持ち上げられ恥ずかしかったルキアスは未だ眉間に皺寄せたまま。

「だ、・・・でもゼオンシルトだっているじゃないか」
「いや、流石に俺でもゼオンシルトをそう長い時間抱えてられるほどの力は・・・」
「まあ、明らかに俺の方がルキアスより重いだろうね」

ちらとゼオンシルトは近くに寄ってきたルキアスを上から下まで眺める。どう見てもゼオンシルトより彼の方が
細いし背も低い。体重だって二〜三十キロは違うだろう。そう考えるとメークリッヒの行動は多々問題はあれど
非常に合理的ではあったように思うとゼオンシルトは頷いた。仲間になって日は浅いもののいつも皆の
フォローをしてくれるゼオンシルトにそう言われ裏切られた気になったルキアスは三人を睨み。

「何だよ、お前ら皆して!」
「まあ、そう怒らなくてもいいじゃないか、ルキアス。むしろ俺は君が羨ましいけど」
「は?羨ましいって何がだよ・・・まさかアンタまでウェンディみたいにメークリッヒに抱っこされたかったなんて・・・」
「うん、出来るものなら代わりたかったけどな」
「??!!」

想像すらしていなかったゼオンシルトの返しに話を振ったルキアスも傍にいるウェンディ、それから当の本人である
メークリッヒと遠巻きに見守っているユリィが瞠目する。何を言い出すんだコイツはと各々の目が訴えていた。
が、ゼオンシルトはにこにこと笑んで。

「・・・俺もルキアスみたいに華奢だったらメークリッヒに触ってもらえたのに」

至極残念そうに言う。

「・・・ッ、な、気持ち悪い言い方すんなよ・・・触るって・・・」
「だって触らなきゃ抱き上げられないだろう?」
「い、いや・・・それはそうなんだけどさ・・・アンタもしかして・・・・」
「ん?」

コトリと見た目こそ可愛らしく蜜色髪が傾ぐけれど、ルキアスはむしろその様子が空恐ろしく見えた。
これまでの言動から考えてどうやらこの新入りは色々な意味でメークリッヒに興味があるらしい。
きっと多分、いや絶対。となればこれ以上話をしていれば、聞きたくない事まで聞かされそうな気がして
ルキアスは顔を引きつらせるとウェンディに向き直り。

「や、やっぱいいわ。おいウェンディ、料理教えてやるから手伝え」
「え、嘘っ。いつもは頼んだって教えてくれないのに」
「う、うるせえな。いいからとっととオレはここから離れたい・・・」
「ルキアス」

ウェンディの腕を引っ張って夕食作りに逃げようとしたルキアスだったがその後ろから更にゼオンシルトによって
引っ張られ、体格差ゆえにろくに抗う事も出来ず逃走に失敗すると耳元にぼそりと。吐息混じりに呟かれた
言葉に思春期真っ只中の少年は面白いほど顔を染め、涙目になると、肩を掴んでくる腕を振り払う。そして。

「ば、バカヤロウ、んな事聞きたくねええええ!!」
「・・・って言われても・・・もう言っちゃったんだけど?」
「うるせえ、バーカバーカ!だから大人なんて嫌いなんだぁぁぁぁ!」
「え、ちょっとルキアス君?!料理は!?」
「知るか馬鹿ぁぁぁぁぁ」

力いっぱい叫ぶと止めようとするウェンディすら跳ね除け、宿の外へと一目散に駆けて行ってしまう。
取り残された面々の間には何ともいえない沈黙が降り・・・暫くして漸く気を取り戻したらしいウェンディが
ゼオンシルトの緋眼を仰ぐ。

「ねえ・・・さっきルキアス君に何て言ったの?」
「ん?ああ・・・別に俺は多分君が考えてるのと逆でメークリッヒに乗っかりたい方だって言っただけ」
「え、そうなの?だって、メークリッヒ」

ヒューヒューと囃し立ててくるウェンディ。ユリィは真っ赤になり、言われた本人であるメークリッヒは
意味が分からないとばかりに首を傾ぎ。

「・・・・?何、おんぶの話か?」

全く見当違いの答えを導き出した。思わずずっこけてしまいたくなるほどに。

「全然違うわよ、メークリッヒ」
「?どう言う事だ、ユリィ?」
「え、そ・・・そんな事私の口からは説明できませんわ」
「ウェンディ?」
「私もー乙女だから流石に言えないかなあ。どうしても知りたいならゼオンシルトに直接聞きなさいよ」

ね?と確認を取られてゼオンシルトはこくりと頷く。が、何となく聞いてはいけないような気がしてメークリッヒは
結局ルキアスと同じく逃亡しようとするものの。今まで見た事もないくらい嬉しそうににこにこ笑うゼオンシルトに
見つめられて身動きが取れなくなり・・・。

「・・・・・・・・・・」

導かれるままに、ウェンディとユリィが見送る中、メークリッヒは半ばゼオンシルトに引きずられる形で
同じ部屋へと入っていった。その後室内で二人が何をしていたかは・・・誰も知らない。



〜蛇足〜



「・・・・ほら」

翌朝、部屋から出るとルキアスにメークリッヒはなにやら長方形の箱を渡された。
何だと思いパッケージを凝視する金の瞳。しかし目にしたそれに書かれている言葉に眉間を顰め。

「・・・俺は痔じゃないんだが・・・・」
「・・・・・?昨日は何もなかったのか??」
「ん・・・ああ・・・何だかよく分からないが添い寝をさせられた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おい、ルキアス何だその遠い目は・・・というか何だその距離は」

どうやら痔の薬を渡したらしいルキアスは、メークリッヒの応えを聞いてずささっと後退さる。
明らかに引いている様子にメークリッヒは頭上に疑問符を浮かべた。

「何で急にそんな離れるんだ・・・」
「だっておま・・・っ・・・いや、いい。分かってた事なんだ・・・。それとっとけよいつか入用になるよ」
「だから俺は痔じゃないって・・・」
「いいから、とっとけよ馬鹿!」

真っ赤な顔で昨日同様走り去っていく少年を白銀はただただ唖然とした様子で見守る他なく。
押し付けられてしまった手の中の薬をどうしたものかと頭を悩ませる。と、騒ぎを聞きつけたのかメークリッヒの
後ろから現れたゼオンシルトはメークリッヒの手にしたものに目を留める。

「・・・それ、どうしたんだ?」
「え、いやルキアスにそのうち必要になるみたいな事を・・・」
「ああ・・・大人びて見えてあの子もまだまだ子供だね。俺がそんなヘマするわけないのに」
「ヘマ・・・・?」
「ああ、何にも心配しなくていいよメークリッヒ。俺は優しくするから」
「・・・?あ、有難う?」

ゼオンシルトの含みを持たせる言葉を何一つ理解する事なく、メークリッヒはひたすら不思議そうに
首を傾げ続けていた。




fin



最初に書いていたのはものすごく暗い感じのシリアスだったんですが、
お題を裏切るアホな感じにしようと思ったらものすごくHENTAI丸出しな感じになりました…orz
ちなみにタイトルの意味は二人の色合いがまるで苺の乗ったショートケーキみたいだなと言う事で。
ギャリゼオ、ルーゼオの時と全然性格違うなゼオンシルト・・・(笑)

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