乙女の策謀

act1.



ねえ、モテない男ってのも嫌だけど。

モテすぎる男ってのも考え物だと思わない?


――ほら、例えば"アイツ"とかね。







「・・・・・む〜」

本当ムカつくくらいキレイな顔してるわねコイツ。
すやすやと仕事帰りに「疲れた」の一言を残して眠りについたアタシの相棒(?)を見て、
つい漏れてしまう唸り声。

睫毛は長いわ、肌は白いわ、唇は紅いわ、線は細いわ、もう世の乙女の敵でしかないわね!
あんまり腹が立ったもんだから思いっきり頬を突いてやったらこれまたキレイな肌してんのよね〜。
男の癖に生意気な奴!って違う違う。こんな事してたらコイツが起きちゃうわ。
ルイセちゃんに「お兄ちゃんは疲れてるんだから絶対起こしちゃだめ!」って言われてたんだっけ。
ルイセちゃん、怒ると怖いから怒らせないようにしなくっちゃ。ここはさっさと退却するに限るわ〜って
あら?噂をすれば影って奴?

コイツがちゃんと寝てるかどうか確認しに来たのかルイセちゃんが部屋の中に入ってきた。
手に、何か持ってるけどあれって巻尺?何に使うのかしら。気になって訊いてみるとシーッって
人差し指立てられちゃった。

「もう、静かにしないとお兄ちゃん起きちゃうでしょ〜」
「あー、ゴメンゴメン。で、それって何に使うの?」

今度は声を抑えて訊くとルイセちゃんは意味ありげに笑って。
「えへへ〜ちょっとね♪」
何だか楽しそうに巻尺を伸ばしてすーすー眠ってるアイツの肩に押し当てた。
ひょっとしてコイツのサイズ測定をしてるのかしら。でも、一体何の為に?

「ねえね、ルイセちゃん。コイツのサイズなんて測ってどうするの?」
「うん。実はね・・・・・・」

こしょこしょこしょ

寝てるコイツに気付かれないようにそっと耳打ちされる言葉にアタシは吃驚した。
だってルイセちゃんってばコイツに・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・ん」
「「!!!」」

ゲゲッ、ひょっとして起きちゃった!?
まさか今の話聞いてたんじゃないでしょうね?
アタシとルイセちゃんは急に唸り声を上げたアイツに一瞬肝を冷やす。
でもそれはどうやら杞憂だったみたい。アイツはちょっと寝返りを打ってまた眠ってしまった。

「・・・は〜脅かさないでよね、もう」
「ティピが大きな声出すからだよ〜」
「だあってルイセちゃんが変な事言うから」
「変じゃないよぅ。ちゃんとリーヴスさんに相談したんだもん」

リーヴスさんって・・・・オスカーさんの事よね?
なるほどーオスカーさんが絡んでるわけね。それじゃあ納得だわ。
あの人なら何でもやりかねないもんね〜☆
ま、なにはともかく。

「2月14日が楽しみだね、ルイセちゃんv」
「ね、ティピ☆」

全ては2月14日のお楽しみって奴ね。
とりあえず、覚悟しておきなさいよカーマイン?





act2.



ねえ、無防備なお姫様。

自分の事、ちょっとは自覚した方が良いんじゃない?






「ん〜、いい天気♪」

こんな日は外で日向ぼっこが一番だよね、なんて息巻いていると何だか複雑な顔してるアーネストと遭遇。
普段からこんな顔してるけど、でもやっぱりいつもとちょっと違う。何か、思いつめてる?
一応親友だからさ気になるんだよね。ここは声でも掛けてあわよくばからかってやろうかなっと♪

「や、アーネスト。何難しい顔してるんだい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

おやま、嫌そうな顔しちゃって。
ちょっとは心配してあげてるのにその態度はないんじゃないの?

「人が親切に訊いてあげてるのに無視はよくないなぁ」
「・・・・・・・・・お前の親切を宛てになど出来るものか」
「君の固い頭じゃいい考えなんて浮かばないと思うんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

どうやら頭が固いって自覚はあるみたいだね。
何か悩み出したみたいだし。これは口を割るまであと僅かだね。
さあさ、早く言った方が身の為だって。僕を相手にいつまでも隠せると思わないで?

「・・・・・・・・・お前、ジュリアが楽しげにチョコレート菓子を作っているのを知っているか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・げ」
「・・・・・・・・・しかもそのチョコレートを自分の愛剣でまな板ごと切断しているというのは?」
「・・・・・・・・・・・・・・うわー」

ジュリアがお菓子作り・・・・それはキツイ。
しかもまな板ごとチョコ切ったって?一体それで何しようって言うのさ。
っていうかそれ出来た所で食べれないだろ!?死人出す気!?

「・・・・・・・・・それで?」
「アレをカーマインに食べさせるわけにはいかない」
「・・・・・・・・確かに。世界の財産をこんな形で失うわけにはいかないよね。折角の目の保養が」
「・・・・・・・・・あのな」

おやおや呆れてるね。
でも本当に彼は綺麗だから。
しかも気立てがいいし。男女共に狙ってる人、多いと思うんだよね。
そんな人に何かあったら大変じゃない。
あ、ちなみに僕もその一人vもちろんアーネストもね。

「・・・・・・・で、人に文句を言うくらいだ。何かいい案浮かんだの?」
「・・・・・・・・・う、それは・・・・・・・・・」
「浮かばないんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」

やっぱりね。君は本当におカタイから、真面目に考えた所でいい案なんて浮かばないよね。
ならここは一つ。僕の頭の柔軟さ(不純、ともいう)を見せつけてあげようかな。

「大丈夫、いい案があるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「本当は別の事に使おうと思ってたんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・何だ」
「うん。彼の妹君にちょっと頼まれてた事があってね」

これ言ったら君、頭真っ白になっちゃうかもだけど(今でも充分白いけどね)。
他に手は(考えればあるとは思うけど)ないんだから背に腹は変えられないし。
気をしっかり持ってね、アーネスト。

「実はね・・・・・・・・・」
「!!!」

ほうら、やっぱり真っ白になった。
っていうかいい年して顔赤くするのやめなさい。君がした所で可愛くないよ?

「ま、いい経験だよきっと」
「・・・・しかしそれは・・・・本人に了承は・・・?」
「当日までのヒ・ミ・ツv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

本気か!?とでも言いたげだね。
でも本気だよ。だって面白そうだし。僕に実害があるわけでもない。
それに皆も目の保養になって良いんじゃない?

「絶対カーマインには内緒だからね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・判った」


しぶしぶって感じのアーネストに笑みを深め、
僕は遥か遠くの、何も知らないであろうお姫様の姿を思い浮かべた。





act3.



最近思ったんだけど。


俺って結構苦労性なのかな・・・?





2月14日。
世間ではその日をバレンタインデーというらしい。
何でも好きな人に想いを込めてチョコレートを贈るとか。
可愛らしい行事だと思ったのは初めだけ。いざその日になってみると俺はその日ほど
嫌なものはないと思ったものだ。

出仕しようと屋敷を出れば多くの女性に取り囲まれて。
あれよあれよという間に持ちきれないほどのチョコレートの山が出来て。
それらを屋敷に置いて再び出かけようとするとまた築かれていく山。
いちいち置いていたらキリがないので何とか抱えていくも、その量は増える一方で。
城に行くまでに何度か死に目を見た。屋敷への帰り道でも同様の事があって、やっと帰り着いた
屋敷の中は女性からの贈り物で溢れ返っていて(中には男性からの物もあった。何でだ?)。
あまりの事態に軽く意識が飛びかけた・・・っていうのも今から一年前の話なのだけれど。

さて今年は一体どうやって切り抜けようかと頭を悩ませていると何やら怪しげな笑みを
浮かべる影が一つ、いや二つ。一人は俺の妹。そしてもう一人はお目付け役の妖精。

「お兄〜ちゃん。困ってるみたいだね〜♪」
「まっさか今年も去年の二の舞するわけじゃないデショ?」
「っていうか何とかしてくれないと困るんだ〜私たち」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ルイセとティピはそれぞれ明らかに何か企んだような笑みで言い募ってくる。怪しい・・・。
が、しかしこの二人には去年、色々と迷惑を掛けてしまった。チョコレートやら贈り物やらの整理、
処理(捨てたら可哀想だから全部食べたんだよ。死ぬかと思ったな)、あとはまあ、ほんと色々。
だから・・・・一概に文句、言えない立場なわけで。借りがあるし・・・・。

「・・・・・で、何が言いたいんだ」
「「フフフフフー♪」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

嫌な予感。
訊かなきゃ良かったかも。というか何で訊いてしまったんだろう。
女子二人は本当に酷く怪しげに笑って何故か俺の両腕を掴んで拘束し、そのままズルズルと
引き摺っていく。一体何処にそんな力があるんだか・・・。

「ちょ、・・・・・何!?」
「いいから、いいからv」
「ちょ〜っと着替えるだけだって♪」
「は?着替え・・・・・!?」
「「嫌とは言わせないから」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

にっこり笑っている筈なのに、怖い。絶対ロクな目に遭わないんだろうな、俺・・・・。
ああ、なんかアーネストの気持ちが分かってきた気がする。お互い貧乏くじを引かされる運命なのかも、
なんて思ってる間に何か俺、服剥がれてるし・・・・・・。

「って、ちょっ・・・・何脱がせてんの!?」
「何って脱がなきゃ着替えらんないでしょーが」
と、これは腰に手を当ててのティピの一言。
「そ〜だよぅ。ほら、これも脱いで」
そんなティピの言に頷きながらルイセは俺の上着に手を掛ける。
「わ、やめっ・・・・・くすぐったい・・・・ひゃあっ」
うわ変な声出すな俺〜。というかこれってひょとしてセクハラって奴なんじゃないのか!?

「も、自分で着替えるから!やめてくれ!!」
「え〜っ(不満げ)」
「え〜じゃない!ほら、それ貸せ!着替えるから!」

ルイセが手に持っていたワインレッド色の服をさっと手に取る。
が、折りたたまれたそれを広げた瞬間、俺は固まった。だってそれは・・・・・・

「・・・・・・・・・・おい。これドレスに見えるんだけど・・・・?」
「えへへ〜綺麗でしょ?リーヴスさんに頼んで仕立てて貰ったのv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・オスカーに・・・・・・・?」
「そーだよ。お兄ちゃん、バレンタインに苦労するといけないと思っての予防策v」
「・・・・・・予防策ってこんなレースばっちり、フリル大量、おまけにシースルーまで入ったこれを着る事がか?」
「うんvv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

否定がないどころか語尾にハートマークが飛んでいる我が妹の科白に眩暈が起きる。
そしてルイセは零れそうなほど大きな碧眼をすっと細め、さも早くしろとでも言いたげな視線を
送ってきて。それを見た瞬間、俺は心の中でひっそりと泣いたのだった・・・・・・。





act4.



落ち着こうとすればするほど、高鳴る心音。

滅多にない役得ほど心臓に悪いものはない。

俺はそれを初めて思い知った・・・。






「アーネスト!」

聞き覚えのある何処か甘い声が自分の名を呼んだかと思うと、視界いっぱいに広がる漆黒の長い髪。
疑問に思うよりも先に胸部に軽い衝撃が奔り、見下ろせば自分の腕にすっぽりと納まっている華奢な肢体。
顔は見えないが紅いドレスを着ている事からこの人物は女性であるのと窺える。
では何故婦女子が自分に抱きついてきたのだろうか。いや、それよりも早く身を離さなくては、と彼女の
細い肩に手を掛ける。すると自分の胸元に埋まっていた彼女の白い面が現れ、絶句した。

絶世の美貌。そんな言葉がぴったりと当てはまるような、完璧に整った造形の顔。目を奪われる。
が、それ以上にそこはかとなく見覚えのある、この顔。よく目を凝らせば、すぐにその人物が誰であるか
知れた。左右色違いのヘテロクロミア。そんな瞳を持っているのはこの世にただ一人。

「・・・・・か、カーマイン////!!?」
「わ、ちょっ・・・・・静かに!」

予期せぬ事態につい声を荒げてしまった俺の口をパフッとカーマインの白い手が塞ぐ。
いや、オスカーから聞いてはいたがまさか自分の眼前に現れるとは思わなかったのだ。
おまけに何故か彼が自分に抱きついてきた。そんな状態で平静でいろという方が無理というもの。
とはいえいつまでも醜態を晒しているわけにも行かず、なんとか気を落ち着かせ今度こそ
カーマインから身を離す。対するカーマインは辺りをきょろきょろと見渡しながら、周囲を気にしている。
まあ、自分のこんな姿はあまり他人に見られたくはないだろう。・・・・・・女装してる姿なんて。

「あ、あのさアーネストは今忙しいか?」
「・・・・・・?いや、別に。今日の業務は既に上がっている」
「じゃあ、君の部屋に・・・・ああ、駄目だ。一緒に外に出ないか?」
「・・・・・・・その格好でか」
「・・・・・・俺だって嫌だが・・・・・ちょっと事情があってな(溜息)」
「俺は構わんが」
「じゃあ、行こう。すぐ行こう。さっさと行こう」
「・・・・・・・・・・・・・・・?」





閑話休題。






「・・・・・で、どうしたんだ」
何故急に外に出ようなどと言い出したのか。それ以前に何故バーンシュタインにいるのか。
訊きたい事は色々とあるがどう切り出したものかと思い、ただ一言そう訊いた。するとカーマインは
疲れきった表情で「聞いてくれるか、アーネスト」と掠れたような声を絞り出し、俺を見上げてきた。
どうやら中々話が長くなりそうな兆候が見られる。だとしたら・・・・・


「・・・・・聞くのは構わんが、場所を変えないか?」


別にカーマインの話を聞くのは構わないのだが、先程から周りの視線が痛い。
外に出ようと言われ、取り敢えず城から出て王都にいるわけだが、今日は何といってもバレンタインデー。
そこら辺に恋人たちが溢れ返っているし、こういうイベント時は大きな街には自然と人が集まるものだ。
おまけに今のカーマインはいつも以上に目立つ格好をしている。まあ、もし今日そのいつもの格好でいたのなら
てっきりローランディアにいると思われていた英雄様に出くわした事をこれ幸いと思った女性たちに取り囲まれるのが
オチだろうが。そこら辺はオスカーに感謝した方がいいのかもしれない。何と言っても『カーマインに女装させる』と
発案したのはあいつだ。本人の了承を全く得てはいないが・・・・・、と思考が大分逸れたようだ。
取り敢えず、もう少し人気のない所へ移らねば。

「その姿をあまり人に晒したくはないだろう?」
「・・・・・・・・・・・ああ、そうだな」

普段慣れぬヒールの高い靴を履いている所為かふらついている彼を支える為に差し出した腕におずおずとだが
彼の指先が絡まる。傍目から見れば今の俺たちは恋人同士のように見えているのかもしれない。
そう思うと嬉しいような、気恥ずかしいような、むず痒い気持ちになる。彼はどう思っているのかと思い、顔色を
窺おうとするが「あんまり見るな」と一蹴されてしまった。

「あの辺りなら、平気だろう」

暫く歩いて建物の影になった茂みの辺りを指差す。王都と森の境目のそこには何故か人が寄り付かない。
今の自分たちには好都合だが。とにかくいい場所に落ち着いたので先程と同じ質問を投げ掛けてみる。

「・・・・・・で、どうした?」
「うん、オスカーから少しは聞いてると思うんだけど・・・・・・」
「・・・・・その格好をしているわけ、か?」
「・・・・・うん。ちょっと、去年大変だったから・・・・・」

その話も一応は耳に挟んでいる。去年のバレンタインは屋敷中がチョコレートの山で埋め尽くされたとか。
通常では考えられない事態ではあるが。そして今年は去年と同じ轍を踏まぬように、と対策を彼、というよりは彼の妹が
考え、そして何を思ったか『僕が楽しければそれでいいんだ』が信条になりつつある我が国一の曲者に相談して
しまったが為にこんな事になっているわけで。

「・・・・・・何で女性たちから逃げる為の手が女装なんだ・・・・・・・・」
「・・・・・・あいつは何につけても遊びたがるからな。仕方あるまい」

自分も彼と同じ事を思ったのだが、いちいち突っ込んでいたらキリがない。基本的にあいつの思いつきに理由なんてない。
ただ自分が楽しければそれでいいのだから。

「その格好をしている理由は判ったが・・・・何故こっちに来ているんだ?」
「ん?ああ、それはオスカーがルイセに『(女装が)完成したら見せに来てね♪』とか言ったかららしい」
「・・・・・・何ともあいつらしいというか・・・・・。そういえば何で外に出たがったんだ?」
「・・・・・・オスカーとルイセが一緒になって俺で遊ぼうとするから逃げてきたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

(成る程、そういうわけか)

と、いう事は自分に抱きついてきたのは逃げてきた勢いでの事なのか。
そう解釈するも何となく釈然としない。逃げるなら何もわざわざ俺の所に来なくてもいい筈だ。

「・・・・何故ジュリアたちの所へ逃げなかった」
「・・・・・いや、オスカーが今日はジュリアには近づくなって」
「・・・・そうか。それ、一応俺からも言わせて貰おう。今日は近づかない方がいい」
「何で?」
「・・・・・・何でもだ。とにかく絶対近づくな。死期が早まるぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」

頭上に疑問符を浮かべているカーマインの髪を軽く撫で、笑う。
そんな俺を見てカーマインもつられるように笑った。メイクの所為もあるが、非常に可愛く。

(・・・・・・・・・まずい)

今気付いたがそういえば二人きりではないか。
しかもカーマインはいつも以上に美しさに磨きがかかった格好をしている。
何故今まで自分は何ともなかったのだろう。ひょっとしてこれは役得、という奴なんじゃないだろうか。
意識したら何だか落ち着かなくなってきてしまった。どうしたものだろう。

「アーネスト、どうかしたか・・・?」
「あ、い、いや・・・・・・何でも」
「・・・・・・・具合悪いんじゃないのか?」
「いや、本当に何も・・・・・ッ」

自分が今普通な状態でない事を悟らせるわけにはいかないと必死に平静を保とうとするが、それが返って
裏目に出た。明らかに不審がっているカーマインは事もあろうに俺の両頬を白い指先で包み、コツンと
俺の額に彼のそれを合わせてきた。

「うーん、熱は、ないかな?」
「おい、ちょっ、放せ」
「・・・・・あれ、やっぱり顔ちょっと赤いな。体調悪いんだろう」
「な、何でもいいから放せ////」

(いい加減自分が今どういう姿をしているか自覚してくれっ!)

力任せに振り切るとカーマインはやはり思いっきり俺を訝しんでいる。どうやら彼は本気で俺が不調だと
思い込んでいるらしい。一体お前は何処まで鈍いんだ、と叫んでやりたいが何とか堪えた。

「判った。城に帰って休む。だからそんなにくっつくな」
「ほんとか、ってわっ」
「!」

ああ、そうだ。彼は今慣れぬハイヒールを履いているんだった。失念していた。
バランスを崩したカーマインが後ろに倒れ込みそうになって、思わず抱きとめる。と、その拍子に。

ぽき

何かが折れるような音がした。
下を見ればカーマインが履いていたヒールが折れてしまったようだ。

「あ、折れちゃった。どうしようこれじゃ歩けない・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そんなに距離ないし・・・・・裸足で戻るか」
「ば、何を言ってるんだお前は」

裸足で歩く?何を馬鹿な事を。
そんな事俺が許すとでも思ったのか?そう思い、カーマインへと手を伸ばす。

「!ひゃあ、な何、何!?」
「妙な声を出すな。歩けぬのなら俺が運ぶ」
「運ぶって、これ・・・・・・・『お姫様抱っこ』ってやつじゃ・・・・」
「実際女の格好をしているのだから構わんだろう。それにこれじゃおぶれん」

一応建前の理由を述べるがカーマインは納得出来ないとぎゃんぎゃん叫ぶ。だが仕方ないのも確か。
よって彼の叫びは無視して城へと戻る。途中通行人などに好奇な目で見られたがそれも無視。
結局そのままの格好で俺たちは城へと戻った。






閑話休題。







「アーネストにカーマイン、見当たらないと思ったら、随分と楽しそうな格好だねv」
「な、オスカーこれには理由がっ!!」
「あ、ヒールの踵折れちゃったのかい?じゃあここからは僕が抱っこしてあげるv」
「え、ちょっとオスカー!?わ、ちょっ、やめっ」

城に戻ってくるとよっぽどカーマインで遊びたかったのか、オスカーは随分血眼になってカーマインを探して
いたらしく、俺が彼を彼曰く『お姫様抱っこ』して戻ってきたのがよほどお気に召さなかったようだ。
反論を辞さない笑みで俺の腕からカーマインを取り上げて、そのままスタスタと奥の方へと行ってしまった。
と、思いきや急に立ち止まり。

「アーネスト、あとでちょっと話があるから」
「・・・・・・・・・・・!!!」
「すっごく大事な話だから逃げちゃ駄目だよv」
「いや、ちょっと待て・・・・それはごか・・・・・・」

誤解だと告げる前にオスカーはカーマインを連れて今度こそ姿を消した。
結局最後に貧乏くじを引かされるのは俺なのか・・・・・!?これではカーマインに言った通り俺はこのあと
部屋で休まねばならなくなりそうだ。それにしても最後の最後に来てこれはないだろう。
もっとマシなオチはなかったのか!??という俺の悲痛な叫びは誰にも届くことはなかった。




こちらも使い回しです。
そして基本的にネタダブり・・・・(泡)
CPが違うだけのバージョン違いと思って下さいませ(殴)
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