恋敵 傭兵時代が長かったウォレスにとって相談を持ち込まれることは実は多々あった。例えば剣が上手く扱えないとか、 もっと強くなりたいとか、実は好きな人がいるとかの恋愛相談も含めてだ。それに対しひとつひとつ丁寧に相談に乗って やり助言をしてやるのだが…。今回、ある人物からの相談事には少々複雑な気持ちであった。 それは…。 「ねぇどう思う、ウォレス? やっぱり長距離恋愛って上手くいかないのかなぁ」 ローランディア王国の城内にある訓練場にはふたりの男性が木の下で仲良く座り込んでいた。 ひとりはこの王国の将軍・ウォレス。厳格な性格だが思いのほか優しく、文武両道の人格者として注目されている 人物である。一方もうひとりはこの国では知らない者はいない有名人で。世界を救ったとして光の救世主 ‘グローランサー’と呼ばれ、ローランディア王国の特使として多忙な日々を送っている青年・カインファロウだった。 ふたりは訓練と称して良く模擬戦をする間柄である。戦友として共に闘い抜いた仲でその関係は今も続いている。 「どうした…アイツと喧嘩でもしたのか?」 ウォレスが口にした‘アイツ’とは勿論カインファロウの恋人である彼のコト。その人物は東の大国バーンシュタインの インペリアルナイト、アーネスト・ライエルであった。 「うぅん…そんなんじゃ、ないけど…」 しょぼんとした表情で生えている草をブチブチと抜いている。どう見ても拗ねている、としか言えない態度。 そんな様子を見たウォレスは少しばかり苦笑した。 (中々逢えなくて淋しい…と言ったトコロか) そう思うが声には出さない。しかしこうやって相談をされ、なにかしらの助言はしてやりたいと思うのだがウォレスの 心中はちょっとだけ複雑だった。実のトコロ、今、目の前にいる彼のコトを戦友以上の感情で見てしまうことも度々あり…。 つまりソレは恋愛感情にほぼ近いモノがあって…。なんとかしてやりたいと思う反面、このままふたりの関係が…と 愚かな考えを抱いてしまうのだ。 (俺も相当、重症だな……情けねぇ) このままずっと見護ってやりたいと言う気持ちは今も変わりはないのだが、その考えが少しずつ変化していくのを 止められない自分がいることも認識していた。 「ふッ」 「? …ウォレス、どうかした?」 カインファロウの耳にウォレスの苦笑が聴こえてしまったらしい。 「いや……なんでもない。…で、お前はなにが不満なんだ?」 とりあえず心のなかで渦巻いているそのモヤモヤを聴くしかないと問いただす。素直なカインファロウのこと、 おそらく正直に今の気持ちを白状するだろうとウォレスは考えたのだ。そしてそれは見事に的中する。 「俺、さ……きっと我が侭なんだと思う。 彼と…アーネストと恋人になれて嬉しくて嬉しくて…ひとり浮かれていて、さ。…だけどッ」 眉間に深い皺を寄せたその彼の表情は誰が見ても辛そうで。視線はずっと地面に釘付けだった。 「……ずっと…逢っていないんだ、俺達。そりゃお互い忙しいし、 ローランディアとバーンシュタインじゃ凄く遠いから中々逢えないことは判ってる…判ってるけど…」 「…………」 「でも……なんか、辛いよ…それに……ココが、痛い」 ココと言って彼の左手が抑えたのは胸の真ん中…心臓の上。 「…カインファロウ」 「ねぇウォレス…俺、こんなに人を好きになったの実は初めてなんだ。でも恋人同士ってのは こんなに辛くて哀しくて……淋しい想いをしなくちゃいけないの? これって当たり前のコト…なの?」 世界でも珍しい左右色違いの瞳‘金と淡い蒼’がウォレスを射抜く。瞳は酷く不安に揺れていて。 一瞬、ハッとし心臓が跳ねた。 「それ、は…」 胸がキツク締め付けられるような想いと共に、カインファロウにこんな想いをさせたアーネストへ怒りにも似た感情が 渦巻くのを感じて。 「………不安なんだ俺。アーネストは凄く優しいよ、凄く……でも…」 遠く離れている距離がそうさせるのだろうか、それとも離れている時間がそうさせるのだろうか。今のカインファロウには 判らなかった。ウォレスは無言になり、彼らが恋人同士になってまだ三ヶ月しか経っていないのに気が付いた。 この頃は不安な時期を迎えることだってあるだろう。遠く離ればなれになっているふたりにとっては特に、だ。 情緒不安定といっても過言ではない。ただ、その不安がどうやらカインファロウのほうが大きいというコトで。 「なぁ…お前のアイツへの想いはそれくらいで途絶えてしまう モノなのか? 逢えないから、と言って消えてしまうくらいの小さな想いなのか?」 「!!」 大きく見開くヘテロクロミアの瞳。 「ち、違う! 俺、そんなコトは決して無い!!」 「それなら…大丈夫だ。例え逢えなくてもその想いが本物なら……大丈夫」 包み込むような柔らかい微笑みと彼の声が沈んでいたカインファロウの気持ちを優しく浮上させていく。 「……ウォレス…」 ポンと頭上に置かれた義手で優しく幾度も幾度も撫でられて、凍て付いたココロが徐々に解けていき…。いつの間にか カインファロウの頬はうっすらと色付いていた。 (なんだろう…? 俺、ウォレスと一緒にいると凄く安心する…。アーネストとはまた別な感じだ、これっていったい…?) その後しばらくの間、そんな複雑な感情がぐるぐると胸のなかで渦巻いていたのだった――――。 陽も少しずつ傾き夕方になった頃、ローザリアの城下街でカインファロウとウォレスのふたりはバッタリと 渦中の人物に出会う。 「あ…アーネスト?」 その場に立ち止まり左右色違いの瞳を大きく見開いて恋人の彼を凝視してしまった。しかし名を呼ばれた当の本人も それは同じコトで。幾分、彼のほうが冷静沈着なのでそれが表に出ることは滅多にないが…。 「久しぶりだな、カインファロウ」 緋色の瞳を細め少しだけ表情を和らげた。だが表面上はほとんど変わらない。 「うん、久しぶりだネv アーネストのほうは元気? 風邪とか引いてない?」 嬉しそうにして頬を染めながら楽しく会話する彼を背後で見ていたウォレス。「良かったな」と声を掛けてやりたいが 恋人同士の会話に割って入るのも野暮と言うモノ。両腕を組みながら三歩ほど下がって離れた場所でふたりを 観察していたのだが…。 「あぁ体調管理はナイツとして常識だからな」 「ふふ、そうだね。でも…元気そうで良かった」 「お前も変わりなく元気そうだ」 その瞬間、ほんの少しだけビクッとカインファロウの身体が反応したのをウォレスは見逃さなかった。 「ぅ、うん…元気、だよ俺も。この頃はちょっと退屈してはいるけど…」 「…そうか」 元気と言っている割には彼の全身が強張っているように見えるのは気のせいだろうか。 「今日はゆっくり出来るの?」と、聴いている最中にアーネストははたと思い出したように話を切り出した。 「俺はこれから急いでバーンシュタインに取って返さねばならない。だからゆっくりしている暇はないんだ」 「…ぇ」 差し出そうとしていた左手がピクリと空中で止まる。ほんの数秒の間だけ空中にあったが、掴み損ねたその手はとても 淋しそうにゆっくりと握り締められ徐々に下りていった。 「仕事……なんだね?」 「そうだ」 下りた手同様にカインファロウの顔もゆっくりと下を向く。下ろされた左手が震えながらきつく握り締められているのを 見たウォレスのココロがすぅと冷えていく。 (やれやれ…ココはカインファロウの為に一肌脱いでやるとするか) そんなことを思いながら三歩、足を踏み出した。カインファロウの直ぐ傍に立ち、アーネストから見えないように彼の 後頭部をさらりと撫でてやる。 (ウォレス…?) 声には出さず彼へと視線を送るがウォレスの視線は既に目の前の青年に向かっていた。 その後アーネストへと言葉を掛けた。 「忙しいようだな、インペリアルナイトというのも…」 まずは牽制。 「これはウォレス将軍、お久しぶりです。挨拶が遅れて大変申し訳ない」 アーネストは軽く頭を下げる。 「いや、気にするな。恋人同士の間に割って入るほど野暮じゃない」 しれっと言っているが今、それをしているのでは?と誰からかツッコミが入りそうなのはこの際放っておこう。 「時に…俺からちょっとした助言をしてもいいか?」 カインファロウとアーネストのふたりは同時にウォレスの顔を見て頭のなかで?マークを浮かべた。 「…助言?」 不思議そうな表情のアーネストを余所に「そうだ」と言わんばかりにウォレスはニヤリと笑う。 「なぁに、そんなに堅苦しいことじゃあない。ちょっとしたことだ」 「はぁ」 少し間の抜けた声がアーネストの口から発せられる。両腕を組み一呼吸置いてからウォレスは言葉を紡いだ。 「仕事も大いに大事だがな…自分にとって本当に大事なモノ、 大切なモノを見失うなよ? 失ってから気付くようじゃ何もかも遅いってコトだ」 「!!」 緋色の瞳が大きく見開く。 「それは…どう言う意味でしょうか?」 少しだけ声が震えているようだ。 「それをお前が考えるんじゃないのか?」 「う…」 「よぉ〜く考えることだな。どうやら少し鈍いところがあるようだが、もう少し自分の周りに 目を向けたほうがイイと思うぞ俺は」 「…………」 無言になったアーネストの視線はかなり鋭い。まるで敵を射るような視線。そんなふたりの間に挟まれた状態の カインファロウはたじたじするばかりで。 (な、なんだろう…今日のウォレス、ちょっと違う??) ウォレスの気配に押されてしまいふたりに声を掛けることも出来ない。そんなカインファロウだがふたりの会話は 順調に続いていく。 「私は周りにも目を向けているつもりだが…?」 「そうか? 生憎、俺にはそう見えん」 「……そう見えないのは貴方の気のせいでは?」 「俺はお前より年を食っちゃいるが、まだもうろくする年じゃねぇぞ」 見事にふたりの間には激しい火花が散っていた。勿論、それが判らないカインファロウではない。だがどうにも 手を出す隙は全くなくて。そんな一触即発の緊迫した状態に「待った」を掛けたのはひとりの青年。 「なぁ〜に、街中でいい歳した大人がケンカしてんだよ。みっともねぇし、すげぇ可笑しいぜ〜」 三人の視線が一斉に彼のほうに向く。その明るい声の持ち主はグランシル出身で今は剣闘王として呼ばれる人物だった。 「あ、ゼノス…」 カインファロウの呟きにニッコリと笑い「よぉ」と軽い挨拶をして右手を上げる。ゆっくりと近付いたゼノスは今、雌雄を 決しようとしているウォレスとアーネストの間に立つ。 「まったく、大の大人が口ゲンカとはね〜。少し恥ずかしくねぇ?」 そう言って肩を竦めた。だが彼の表情は思いのほか明るく、おそらく今のふたりの状態を面白がっているのだろう。 その証拠にゼノスは今までのふたりのケンカを隠れてしばらく眺めていたのだから。 「くっ…」 少々悔しそうに声を出すのはアーネスト。 「…ふっ」 小さく鼻息を漏らしたのはウォレスだった。 どうやら大人気なかったと即反省したのはアーネストのようだ。インペリアルナイトとしてあるまじき行為だとでも 思っているのだろうか。 「ゼノス! ふたりは、その…ケンカしていた訳じゃなくて、あのッ…」 懸命にふたりを庇おうとしているのは喧嘩の原因?にもなった当の本人で。カインファロウはあたふたしながらも なんとか言葉にしようと一生懸命で。無論、それがゼノスに判らない筈がない。そして先ほどのふたりの会話を 最初から聴いていて、喧嘩になった原因がなんとなく想像出来ていたので最後の駄目押しをしてやろうと考えた。 「なぁアーネスト。周りが目に入っていないアンタへオッサンに代わって俺が最後の助言をしてやるぜ、よぉ〜く聴けよ?」 「…………」 一体なにを言うつもりだ?と言わんばかりの目線でゼノスに目を向ける。それでも素直に聴こうという姿勢が あるのは本来、彼が基本的に真面目だからか。 「アンタが仕事にかまけてカインファロウをそっち退けにしておくなら、俺が………貰っちまうぞ♪」 「!!!」 これにはさすがのアーネストも普段の硬い表情から驚愕な表情へと変化し、そしてココが街中であることも すっかり忘れて威勢良く啖呵を切った。 「ふ……ふざけるなッ。彼は俺の大切な恋人だ! カインファロウは誰も渡さん!!」 思いっきり叫んでハッと気付くが時既に遅し。 耳まで赤くしてひとり恥ずかしいやら気まずいやらのアーネストに対して、カインファロウはそっと近付き彼の右手を 両手で優しく包み込むように握り締める。 「………アーネスト」 囁くように恋人の名を呼ぶカインファロウの頬もうっすらと赤く染まっている。心から嬉しそうに微笑み 左右色違いの瞳を細めた。 「カインファロウ……その、すまない。どうやら俺はお前に淋しい思いをさせていたようだ…」 「…うぅん、いいんだ。今、こうやってアーネストが俺の傍にいてくれることがなによりも嬉しいこと…だから」 ふたりの視線はねっとり絡み付くように熱い。それを側で見ているウォレスとゼノスはその熱さに当てられて更に熱い(笑)。 (ま、こんなモンか。しかしなんで俺がこんな後押しをしなきゃならねぇのかね〜) そんな心中のゼノス。 (良かったな、カインファロウ。これでしばらくは淋しい思いをしなくて済むな…) ウォレスは小さく苦笑した。そんなふたりに対しアーネストはふと向かい合って軽く詫びを入れ、お礼を言う。 「その…色々と気を使ってくれたようだな……すまなかった。それと助言に関して改めて礼を言おう…ありがとう」 少々照れている様子なのは先ほどの爆弾発言が尾を引いているのだろう。そんなアーネストの左腕をしっかりと掴み、 寄り添っているカインファロウの表情は誰が見ても嬉しそうで。 「えっと…ウォレスにゼノス、本当に…ありがとうv」 それは、ウォレスが久々に見た彼の天使の微笑みだった――――。 カインファロウとアーネストがふたり揃って仲良くローザリアの街を後にする。おそらくファンダリアの街にある彼の屋敷へ 行くのだろう。そんな彼らを見送ったふたり。 「オッサン、お疲れさん」 ゼノスがニカっと笑いながらウォレスの肩に手を置いた。それに対し小さく苦笑しながら両肩のチカラを抜く。 「お前も、な」 「へへッ。なぁ…一度訊いてみたかったんだが、オッサンはカインファロウにどんな感情を抱いているんだ?」 ずばり核心をつく質問にピクリと眉が少しだけ動くがそれはほとんど変化はなくて。ポーカーフェイスと言っても 過言ではない。 「そうだなぁ……見護ってやりたい、といったトコロか」 「ホントかよ〜??」 訝しげな視線を向けるゼノスに対し逆に訊き返す。 「じゃあお前はどんなふうに想っているんだ?」 「俺か? 俺は……隙あらば、かな♪」 かなり不穏な発言にウォレスは少々呆れながらも「そうか…」とだけ言って言葉を濁した。そんなふたりはしばらく 笑い合ってその後、酒場で夜を徹して飲み明かしたとか…。 そしてその頃、カインファロウとアーネストのふたりは甘〜い夜を過ごしていたのは言うまでもないだろう。 了 光と闇の相対性理論:魁龍様より おお、ブラボー!!(何人だ) リクは【アーネスト→1主←ウォレスでほのぼの】だったのですが 三角関係の時点でほのぼのって成り立たねえじゃねえかと後になって 気付きました(爆) ほんとに毎度毎度無茶なリクをして申し訳ありません。 でも筆頭の爆弾発言に癒されておりますvええ、素敵ですとも! 次回もまた狙わせて頂きたいと思いますv(ヤメロ) でわでわ本当に有難うございました魁龍様〜☆ |