「・・・・・・カーマイン・・・。それは何だ・・・?」
だんだんと酷くなっていく頭痛を抑えながら少年に問いかけると
「何って、これが犬以外の何に見えるって言うんだよ?」
と少年はあっさり返してきた・・・。





   我が侭



「そんな事は言われないでも解っている」
「じゃ聞くなよ」
飄々と返してくる少年に頭痛がさらに増す。
「俺が聞きたいのは陛下の犬嫌いを知っていながら何故城内に連れてきたのかだ!」
「しょうがないだろ。来る途中で見つけたんだよ!」
「だからと言ってだな・・・」
「じゃぁ何?ライエル卿はこいつを見て見ぬふりをしろとでも言うの?」
”ライエル卿”少年のその呼び方にぎくっとする。
この少年が”ライエル卿”と呼ぶ時は怒っている時と決まっているから。
「そ・・そう言う意味では・・・」
「そう言う意味じゃない?ならどういう意味なのライエル卿?」
ニッコリと笑っているが、目が笑っていない・・・。
じりじりと近寄ってくる少年に思わず後ずさる。
大の大人がこんな年下の少年の迫力に負けるのは情けないと思うが、体が勝手に動いてしまう。
そして・・・
「わ・・解った。俺の部屋だけならいていい・・・」
俺がそう言わされるまで時間はかからなかった・・・。


「やっぱさ名前つけてあげなくちゃねv」
「言っておくが、飼い主が見つかるまでだからな!」
子犬とじゃれ合う少年に釘をさす。
「わかってるってば!それより名前何がいいかな?」
「何でもいいだろ・・お前が好きに付けろ・・・」
少年が喜んでくれるのは嬉しいが、自分の情けなさにため息が出てくる。
「あっ。なんだよそのため息!そんな態度だとこいつの名前『オスカー』にするぞ!」
「それだけはやめろ」
俺の態度が気にくわなかったのか、この少年は恐ろしいことを言ってくる。
冗談じゃない。そんな名前を付けたらいろんな意味で恐ろしい!
「じゃぁオスカー以外ならいいんだ?」
「それ以外ならなんでもいい」
「あっ言ったね?」
にやりと笑った少年にゾクリッとなにやら冷たいものが背を走る。
「いや・・何でもいいと言うか・・良くないと言うか・・・」
「大丈夫v変な名前は付けないからvvアニーっていい名前でしょ?」
『アニー』その名前に嫌な記憶が蘇ってくる・・・。
「それは・・」
否定しようと口を開くが・・・
「何でもいいって言ったよね?」
「だがそれは・・・」
「何でもいいって言ったのはアーネストだよね?それとも、国の誉れと言われるインペリアルナイト様が嘘付いたの?」
―――――――――嵌められた・・・。
この少年のことだ。初めから『オスカー』なんて名前にする気は無かったのだろう。
俺にこの言葉を言わせる為に・・・・・・
「解った・・・それでいい・・・」
そう言う以外に俺に何が言えただろう・・・・・・。




アニーお手!」
「・・・・・・」
「おっ! いい子だなアニーvじゃ次はおかわり!」
「・・・・・・」
アニーは本当にいい子だなv 大好きだよアニーvvv」
「それぐらいにしておけ。カーマイン」
「あれ?わざとってわかった?」
テヘッと舌を出すその姿は可愛らしいが・・・
「解らないはずがないだろう。わざとらしく何度も名前を呼んでおいて」
「だってしょうがないじゃん。アーネストったらずぅ〜と仕事してんだからさ」
「仕方ないだろう。文句ならオスカーに言え」
俺だって好きで仕事ばかりしているんじゃない。
出来る事ならカーマインが来てくれた時ぐらいは仕事などせず一緒に居てやりたい。
だが、あの紫頭の悪魔が俺に自分の仕事を渡してくるのだから仕方ないだろう。
「オスカーにさせればいいじゃん」
「それができればとっくの昔にやっている」
拒否しようにも、奴は期限ぎりぎりまで隠すから結局は手伝わなくてはいけなくなるんだ。
「まぁ拒否なんて出来ないって解ってるけどね。だから俺だって大人しくしてるんだし」
ねぇアニー?とまた子犬に向かってニッコリ笑いながら話しかける。
何より一番気にくわないのはこれだ。
俺にはニヤリとかそういう形容しか出来ないような笑い方ばかりで、そんな風にニッコリ笑ってくれる事など滅多にない。
この少年が動物好きだということはよく知っている。
動物に対して見せる子供のような笑顔も見ていて微笑ましく好きだ。
だが、それを俺と同じ名前の犬に、俺には見せないような顔をするのはハッキリ言って面白くはない。
「あまり抱いていると、抱き癖がつくぞ」
いいながら少年から子犬をとろうとすると――――――
「ヴゥ゛・・・」
唸られた・・・。
「ほら。アニーも仕事ばっかりしてるアーネストは嫌いだってさv」
アンッと可愛らしく返事をしているが、俺を見る目に殺気を感じるのは気のせいじゃないだろう・・・。
ライバルが子犬。
そんなの冗談ではない。
今すぐカーマインから引きはがしてやりたいが、これも飼い主が見つかるまでだ。
今は我慢だ。こんな子犬に嫉妬しているとこの少年に気付かれるわけにはいかない。
「あ、そうそう。俺アニー飼う事にしたから」
「・・・・・・今、何て言った?」
考え事をしていると聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。
「だから、俺がこいつを飼うって言ったんだよ」
いいだろ?なんて嬉しそうに言っているが、冗談ではない。
「お前には特殊な任務があるだろう?家に帰れない日が多いんじゃないのか?」
「その時はルイセに世話頼む」
「だが、それではこいつが可哀想だろう。ちゃんと世話出来る者に任せた方がいいのではないか?」
「大丈夫だよ。ちょっと寂しい思いさせるかも知れないけど、その代わり休みの日はずっと一緒に居てやるから」
「・・・・・・ずっと一緒に?」
「そっ。ずっと一緒にv」
ということは、ただでさえ少ない少年と会える時間が減ってしまうという事では―――――――――
「・・・俺が・・・・・・」
「何か言ったアーネスト?」
俺の声が聞こえなかったのか、少年が聞き返してくる。
本当なら言いたくないが・・・
「俺がこいつを飼う」
そう言いながら無理矢理少年から子犬を奪う。
すると子犬はそれが嫌なのか唸りながらバタバタと暴れる。
「アニー嫌がってるみたいだけど?」
「まだ慣れていないだけだ。すぐ慣れる」
「アーネストも仕事あるだろ?世話なんて出来るの?」
「この部屋で飼えばいい。陛下が来る事もないから大丈夫だし、少なくともお前が飼うより傍に居てやれる」
「本当に可愛がれる?」
「大丈夫だ」
自分でもなぜこんなに意地にならなければいけないかだんだん解らなくなってくる。
だが、そう断言すると、さっきまで疑わしげな顔をしていた少年がにっこりと笑った。
「アーネストならそう言ってくれると思ってたv」
「はっ?」
今なんて・・・・・・
「だってさ、俺は家にほとんどいないから無理だし、仲間もみんな駄目そうだし、かと言って知らない奴に
こいつ任せられないだろ?その点アーネストなら安心して任せられるし、会いたい時に会いに行けるし♪」
「・・・・・・さっき飼うと言っていたのは嘘だったのか・・・?」
騙された事への怒りを通り越し、脱力してしまう・・・。
俺は初めから騙されていたのか・・・?
「いや。アーネストがそう言ってくれなかったら飼うつもりだったよ。
アニーなんて名前の犬を他人にやれるはずないだろう?」
「それって・・・」
「ああ!うるさいな!さっさと仕事終わらせないと帰るからな!」
怒鳴りながら俺の腕の中で暴れている子犬を取り上げる。
「カーマイン」
「うるさい。さっさと仕事に戻れ」
名前を呼んでも振り返らず冷たい言葉だけを返してくるが、髪の間から見える耳が真っ赤になっている。
そんな少年に思わず笑みが浮かんでしまう。
「何笑ってんだよ!仕事しろ仕事!!」
「ああ。だが、何か礼はくれないのか?」
「礼?」
振り返りはしないが、返事をしてくれる少年を後ろから抱きしめる。
「お前の望み通りそいつを飼うんだ。礼の一つはあってもいいと思うが?」
わざと少年の弱い耳元で囁くとぴくりと肩が揺れた。
それがまたおかしくて、ダメだと思いながらも笑いが漏れてしまう。
それを俺の腕の中の少年が気付かない訳はなく――――――
「・・・一時間」
「一時間?」
少年の言葉の意味が分からず聞き返すと、少年はくるりとこちらを向いた。
その顔はさっきまでと違い、にやりと何か企んでいるような嫌な笑み。
「一時間だけ待ってやる。それまでに仕事を終わらせられたらアーネストの言う事何でも一つ聞いてやるよ」
「一時間というのは短すぎないか?」
せめてもう少し時間をくれと頼むが
「俺は今までずっと大人しく待ってたんだぜ。こんなコトしてる余裕があるんだ。一時間もあれば十分だろ?」
さらりと痛い所を付いてくる。
確かに長い間この少年を構ってやっていなかった。(邪魔はされたが・・・)
だが、机の上の書類の山を見れば無理だと解るだろうに・・・
これは俺が笑った事に対する復讐だろう・・・・・・
「・・・わかった・・・」
結局、俺はこの少年には勝てない気がする。
これを惚れた弱みだと言うのだろうか―――――――――?




fin



色褪せぬ記憶:結城様より

アニー!!立場弱い!!素敵!(えっ)
カーマインさんに逆らえない筆頭に激萌えでございます!!
それに子犬のアニーも可愛いです。ライバルが子犬!筆頭、気が休まる時がないですね。
そして是非胃を悪くして下さい(愛です)

でも一番愛らしいのはやはりカーマインさん・・・・v
何だかんだでアニーさん大好きな彼が愛おしくて仕方ありません!!
ああ、可愛らしい・・・・・。物凄く癒されました。有難うございます!!