ふとした瞬間。 それこそ小さな記憶の欠片に触れただけでも蘇える苦い記憶。 ただ、愛しい者を護れぬ自身の弱さが口惜しい。 His Weekness His Sin 時空制御搭。 かつて自分達が砦としていた場所に封じられていた古の魔物、ゲーヴァス。 創造主に近い波動をもつ巨大な魔物を前に、自らを叱咤するようにカーマインが拳を握り締めるのを、 アーネストは視界の端に捕らえていた。 睨みすえる眼光の下に、わずかな、しかし確かな畏怖をにじませて。 気を呑まれそうな圧倒的な殺気の波。 灼熱のブレスをギリギリで回避し、十字路の左側へ逃れたのは自分とカーマイン、残りのメンバーは逆側へ。 物理的な戦力でならば二人だけでもユング数体を足止めするのは造作もないと二刀を揮う。 隣では剣を手に別のユングとカーマインが競り合っている。 「ウェイン! ここは俺とカーマインで十分だ、頭を叩け!」 頭とはもちろんゲーヴァスのこと、アレがいる限り無限にユングは沸いて出る。 と同時に。 彼を、カーマインをゲーヴァスに近づけたくなかった。 怖かったのだ、自分もまた。 カーマインが、かつてリシャールがそうなってしまったように、深い闇に引き込まれ、呑みこまれてしまうのではないか? 己の知る彼でなくなってしまうのではないか? そうならない保障がどこにある? 否、どこにもない。 そして、そうなってしまったときに彼を引き戻す術があるという確証もまた、ない。 ―――――――彼を失うことが、何より怖かったのだ。 絶叫と共に、ゲーヴァスが崩れ去ったあとも。 カーマインの青ざめた顔を直視できずに、アーネストは自分の弱さを苦々しい思いで自覚した。 戦闘において文字通り一騎当千と言われようとも、結局、近づけずに置くことでしか自分は彼を守れなかったのだと。 もしも自分がグローシアンであったなら、まだ術はあっただろう。 けれど、そうでない自分にできることといえば、距離を置かせることしかなかったのだ。 護りたい者を護れずして何が騎士だ。 そう思うと自嘲の笑みがこみ上げた。 もしも。 もしも自分があの時、気付けていたのなら。 少ないとはいえ言葉を交わしたあの時、どこか狂気にも似た光が浮かんでいたのを、何故気付けなかったのか。 報告のためにバーンシュタインに戻った折のシュナイダーの様子を思い出しながら、カーマインは後悔していた。 時空制御搭。 自分以上に、前を進むアーネストにとっては苦い思い出が残る場所。 何に変えても守りたかった、死なせたくなかった人物を失った場所。 常から寡黙な二人ではあったが、今はそれ以上に重い沈黙が二人を覆っていた。 言霊の面の元へ急ぐ緊迫感もあったが、それ以上にこの場所に残る記憶が二人から言葉を奪っていたことは 間違いない。 前を行く背を見つめて、カーマインは目を伏せた。 ……自分が奪ってしまったのだ。 彼の戦う理由、生きる目的全てを。 あの日、目の前でリシャールが溶けゆく様を彼は見ていた。 瞬きもせずに。 人ではない身だと知っていても、それはどれほど彼を苛んだだろう。 いわば兄弟であった仮面騎士達を斃し、その消える様を見たことがあったとしても。 同じ顔をした仮面騎士の消える様をその目で見てきたがゆえに、カーマインはアーネストにだけは見せたくなかったのだ。 だから。 英雄などときらびやかな称号で呼ばれていても、自分は無力だ。 戦いを終わらせるために、どれほどの犠牲を払ったことだろう。 必要とされていた人たちの命でさえも。 どちらも口にすることはない。 ゆえに伝えることもない。 想いはずっと沈めたまま。 誰も、知らない。 fin 夜更けの乱気流:霧生更夜様より 霧生様のサイトでキリ番奪取して参りましたー!! リク内容は「アー主、相互片思いで切ない話」だったのですが 本当に切なーい!!と思わず叫びたくなるほど素敵です!! 特に最後の二行が…!!胸が苦しくなります。似た者同士の二人が 愛おしくて仕方ありません。ああ、私アー主スキーでよかった…!! 本当に我侭リクに応えて頂き有難うございます! |