「………よし、決めた………後悔は、きっとしないよ。」
ある日ローランディアの美人騎士は自分の領地の木々の間で寝そべりながら微笑み、
人知れず思いを形にしようとしていた。
それは彼にとって、とても勇気を必要とすることでもあったが、
心の奥で密かに芽吹いていた暖かな思いであった。


Rigid commitment


某日日が沈みつつある時、バーンシュタイン国内のある人物の執務室にて、
人知れず、事件が起ころうとしていた。
その日、ある人物は腐れ縁であり、悪友でもある人物の国内逃亡に遭い、
己の仕事以外のものまで、指示を仰がれていた。
それ自体は珍しいことではなかったのだが、同じようなことがもう既に、
4日も続いていては胃が鈍く痛んでも仕方なかろう。
部下に悪友の行方を捜させつつも、こなさなければ色々と対外、対内に関わらず
支障をきたすものから、ため息を吐きつつも片していた。
しかし、人並み外れた体力の持ち主である彼と雖も(いえども)、
4日間の徹夜は己が身に明らかに響いていた。
自覚はあるものの、此処で手を休めるわけにもいかず、またもため息がこぼれ落ちていた。
その後、やっとの思いで早急に対処するべきものを終え、自身の執務室の扉に、
『邪魔立て禁止。』の張り紙をし、一息入れることとした。
座りっぱなしで、凝ってしまった身を解しつつ、感触が気に入っているソファに身を沈め一息吐くと、
溜まりに溜まっていた疲労のため、健やかな寝息を立てて、夢へと落ちていってしまった。




暫くして、ふと何かの重みを感じたような気がし、おもむろに、
身体を起こそうと身をよじるが、身体が動かない。

……金縛りか? それとも、根を詰めすぎたか?
だが、今回の仕事量は珍しいものでもないはず…頭にくるがな。………

だが、その時気が付いた。此処にいるはずのないある人物の香りがする。
居るわけがない、とは思いつつも、この芳しき香りを持つものに、他の心当たりが無く、自分の心内に宿った
仄かな希望を打ち消せずに、瞳を開け、問う。

「……カーマイン、か?」
「おそよう?ございます、アーネスト・ライエル卿。」

穏やかな声で、自分の腹の上から答えが返ってくる。
その不自然さに、意識が完全に覚醒していないアーネストは、気付かない。
朦朧としつつ、自分の思い人の顔に手を伸ばし、問い掛けた。

「…何故、此処に?夢では、無い…ようだな。」
「ふふっ。どーしてだろうね。 何だか…、顔、見たくなっちゃった、からかな。」

またも、穏やかな声で答えが返ってくる。意識も覚醒し始め、カーマインが座っている
位置が気になり、口元が綻びそうだが、嫌ではないので軽く流し会話を続ける。

「それは、光栄の至りって奴だな。わざわざ、それだけの為に来たのか?」
「それ、嬉しいのか、そーでないのか分かり難い答えだな。」

カーマインの言葉に僅かに拗ねるような雰囲気を見出し、意図せず自分の顔に淡い微笑みが浮かぶ。

……可愛らしいな。俺のために無限でない時間を裂いてくれたというのだから、
嬉しくないはずはないと言うのに。だが、そこがカーマインらしいところか……

「……そう感じたか?」
「……そう感じる。で?」
「嬉しいに決まっているだろう。」
「そっか。なら良かった。立ち入り禁止みたいな張り紙在ったから、怒られるかと思ったよ。」

少し緊張していたのか、カーマインの纏う空気が柔らかなものへと、
変わっていくのが判った。

「あぁ、あれか…。ちょっと気分を害すことが遭ってな……。少しばかり休息したかっただけだ。」
「じゃ、もういいの?」
「お前の顔も見れたことだしな。」
「そんなもんか?まぁ、嫌な気分になったとかじゃないならいいけどさ。」

なにやら楽しそうに、言い募っている。自分としてはこのままの体勢でも構わないのだが、カーマインが
恥ずかしがるような事態になりそうなので身体を起こし、脇に手を入れ降ろそうとした。

「あっ。ちょっ…まって、アーネスト!」
「……どうかしたのか?俺の腹の上に居なければいけない意味でもあったか?」

いきなりカーマインの制止の声にあった。訝しげに問い掛けてみるが、何やら必至にアーネストの服とソファを掴み、
自分とアーネストが動かないようにしている。

「あっと、その…何というか……ちょっとだけ待って欲しい。」
「お前が気にせんのなら俺は構わないが……。ふむ。」
「な、何…?何を納得しようとしているの?」
「いや、お前が何を考えているのかちょっとな。」
「あ、うん…。もうちょっと、待ってて。今まとめちゃうから…。」

何やらからかわれているのかと、訝しく思いつつも俯きがちに考えているカーマインの顔は真剣そのものである。
その体勢のまま待ってみるが、中途半端に身体を起こしているために
力の入っていた腹筋の上に、何時の間にかカーマインの掌が置いてあった。
その手が無意識に僅かずつ動くのが、くすぐったくて今にも唇から笑みが零れ落ちてしまいそうであった。
笑いが零れる直前に、何やら決意を固めたらしいカーマインが勢いをつけて顔を上げた。

「あっとね、実はアーネストに言いたいことがあって…。で………。」
「何だ?言ってみっ…!」
「………んっ…。好き……だよ?」

いきなりであった。言いかけた言葉を遮り、暖かなモノが自分の唇に落ちてくる。
カーマインの言葉は一応耳に入ってはいた。

「なっ……ちょっ、待ってろ。今、考えをまとめる!」
「…ん。わかった。待ってる。」

このときアーネストの脳内は凄まじい速さで思考が駆けめぐっていた。
その間、カーマインは依然変わらずアーネストの腹に乗りつつ胸に手を付き、アーネストを見ていた。

……アーネスト、考えてる、っていうか悩んでる?なのになんか格好いいんだよね…。
何かずるいかも……

などと思いつつ、見とれていると考えがまとまったのか、アーネストが顔を上げた。
だが、アーネストが言葉を発する前にカーマインは自分の内にある不安を吐露してしまう。

「迷惑、だった?…嫌な思い、して欲しくない。……忘れても、いいよ?」
「無理、だな。嬉しすぎて忘れられん。」
「……え?」
「俺も、お前の事が好きだ、と言っているんだよ。ずっと前からな。」

アーネストはカーマインを見つめつつ極上の笑みを浮かべ、カーマインの眦に浮かぶ雫を嘗め取った。
きょとんっとしたカーマインの顔を見つつ、嬉しくて堪らず口から笑みがあふれてくる。

「…え?え?……もしかして、喜んで良いのかな?」
「当然だろう。両思い、ってやつだな。カーマイン?」
「……あっ!うっわ〜〜〜。そ、そうなるのか!うっ。」
「くすっ。顔が真っ赤だぞ?平気そうか?」
「へ、平気……じゃないかも?」
「そうか。ふっ、お前を愛しく思うぞ。」
「あっ、う、うん……。」

かくして、カーマインの剛速球の思いは玉砕することなく、アーネストによって大切に受け取られました。

余談ですが、これから数日間美人騎士と壮麗なる白銀の騎士は各王城で見られる事はなく、コムスプリングスの一画で、
大小様々なハートが飛び散っていたようであった。






fin



柊氷片様より

柊氷片様から賜りましたカーマイン告白SSです・・・!
襲い受けなカーマインが愛おしく・・・・!アニーのお腹に跨ってる姿を
妄想・・・ゲフンゲフン、想像するだけで涎が・・・・!(変態)
そしてまだ付き合う前なのに既に恋人にでもするような仕種を平然とやってのける
ライエル卿が男前で・・・・!腹筋が素敵ですね!(何かが間違ってる)
更に後日のハート乱舞がツボであります!斯様な素敵作品を有難うございます!柊様!!