jealousy 突然身体に襲いかかってきた、吸い込んだ砂埃で口の中がざらつくような違和感。 それは胸の中でざわざわと何かが蠢くようで。 それはまるで生き物の浅ましさのようで。 自分の中のこの感情が何なのか、今までこんな事が無かったので分からない。 それでもそれは、俺のその感情を表に引きずり出そうと俺の心をひたすらに締め上げた。 「あれ、久しぶりですね。マイ=ロード。どうしたんですか?」 「え・・・あ、ジュリア。うん、ちょっと王様に用があって・・。」 バーンシュタイン城の長い廊下の途中、すれ違ったジュリアに突然声をかけられた。 「特使の仕事もなかなか忙しくて大変ですね。そういえば、この後アーネストには会っていかれるんですか?」 いつもなら、俺は仕事が済んだ後真っ先に彼に会いに行く。 それを知っていて確認をとってくる彼女に「否」と告げると、驚いたように彼女の瞳が見開かれた。 「この後は・・・まだ予定が入ってるんだ。だから直ぐに戻らなくちゃならない。」 「そうですか、残念です。」 そう言って、彼女が本当に残念そうな表情を浮かべる。 しかし、次に来た時は一緒にお茶をするという条件を飲むとそれはすぐに明るいものへと変わった。 「では、とっておきの紅茶を用意してお待ちしています。」 「あぁ、ありがとう・・・。」 「じゃぁ、急ぐから・・。」とその場を少し早足で立ち去る。 そして彼女の姿が見えなくなってから、漸く自分の手が汗で湿っていることに気が付いた。 何を緊張などしていたというのか。じっと掌を見つめる。 否、緊張ではない。むしろ、どちらかといえば嫌悪に近い。 先ほどからずっと感じていた。 別に彼女が何か直接俺にしてきたわけでもないのに何故そんな風に考えるのか分からない。 しかし、彼女の前ではどこか息が苦しい。 ついこの間会った時は普通に接することが出来たというのに、近くに居ることを身体が拒む。 「どうしたんだ、俺は・・・。」 きりきりと締め上げられる感覚。 堪らず右手で胸を押さえれば、鈍い痛みに混じって何処か孤独感にも似た沈黙が辺りを支配した。 「・・・ちゃん?お兄ちゃん!」 「・・・え?」 突然声をかけられてなんとなしに声の方へと視線を向ける。 すると、そこには妹のルイセが頬を膨らましながらベッドの脇に立っていた。 「お兄ちゃん、さっきから呼んでたのに何で返事してくれないの? あんまり返事が無いから部屋に来てみたら天井見上げてぼーっとしてるし・・。」 「あ・・ごめん。何でもない。それよりどうしたんだ?」 何度も呼んだということは大事な用件なんだろうか? そう思い尋ねると、ルイセは予想に反してにっこりと微笑んだ。 「今日、何の日か知ってる?」 ・・・あぁ、そうか。 「バレンタインだろ?」 すると、「正解!」という言葉と共に目の前に可愛らしいラッピングに包まれた物が差し出された。 「今年はね、ティピとお母さんと私の三人で作ったんだよ。」 「そうか。変な物が入ってなきゃいいけどな。」 語尾に笑いを滲ませて言うと、再びルイセの頬が大きく膨らんだ。 そのあまりに予想通りの反応に更に笑いが重なる。 「そんなことないよぉ!私だって手伝ってもらえばちゃんと作れるんだから!」 「はいはい。」 去年は確か焦げ臭さに下の階まで覗きに来たら、チョコレートがオーブンの中から噴出していたっけ。 あの時は正直、食べるのに勇気がいったが・・・今年は大丈夫そうだ。 小さく安堵の溜息を吐くと、ぽんぽんと妹の頭を撫でてあげる。 そして礼の言葉を言うと、直ぐにその顔が笑顔に戻った。 「また、来年も作ってあげるからね。」 「精々、期待しておくよ。」 その言葉に満更でもないように笑ってルイセが部屋を後にする。 そして扉が閉まるのを確認すると、自然と口元から再び溜息が零れた。 「そういえば今年、アーネストにチョコ渡してなかったなぁ・・・。」 渡そうとは思ったんだけど・・・。でも、あの時アーネストが・・・。 「否、やっぱり考えるのはやめよう・・。」 何だかあの時から考えが纏まらない。 しかも、考えれば考えるほど何処か苦しさが増していく。 いつもの自分とは違う『何か』が心の中を占めていく。 そして、堪らず前髪をくしゃりと掻き上げると再び寝台へと身体を沈めた。 それから数週間後、突然尋ねてきたのは城からの遣いの兵士だった。 その話によると、渡しに行かなければいけない書簡が何か手違いで届けられていなかったため、 俺に届に行けという事だった。そして、今俺が居るのがバーンシュタインの城の中。 正直、誰とも顔を合わせる気になれない。しかし、これも仕事。 何度目かの溜息を吐いて再び歩みを進めれば、いつのまにかいつも自分が尋ねていく人物の部屋の前にたどり着いていた。 「・・・あれ・・?」 ここに来てどうするんだよ。これは王様に渡すものなのに。 何だか習慣化してしまっている事に少し驚くが、久しぶりの訪問だ。 彼はどうしているのか、やはり気になる。 「先に届けてからの方がいいか・・・。」 その方がゆっくり話せる。 しかし、扉の前を去ろうとした途端に、背後から扉の開く音がした。 「カーマイン・・?」 その人物が、こちらに気づいたのか声をかけてくる。 そして声に視線を戻せば、直ぐに綺麗な緋色の瞳が視界に飛び込んできた。 「・・・あ・・アーネスト・・。」 彼に会うのはかなり久しぶりだ。最後にあったのは1ヶ月も前。 だからなのか、突然名前を呼ばれたことに直ぐに反応できなかった。 「・・・仕事か?」 「うん。これを届けに・・・。」 「王様のところまで」と言い終わる前に、彼がしきりに自分の顔を見ていることに気が付いた。 持ってきた書簡の入れ物を見せても視線をそちらに移す事も無い。 顔に何かついているというのか。 「・・・何?」 「・・・・・・。」 しかし、問いただしてみても、彼は自分の顔を見たまま動こうとしない。 どうしたんだろう・・? 少し不安になって掌を彼の眼前で振ってみようと腕を上げる。 すると、途端にその腕をアーネストの手が捕まえた。 どういう事かと視線を送れば、僅かに細められた緋眼が視界に飛び込んできた。 「・・・仕事だけ、か・・?」 「えっ・・・?」 なんだかいつもと様子が違う。 しかも、言葉の間にある間が妙にひっかかった。 何か、怒ってる・・? 「あ・・えっと・・・・・ごめん。」 「何がだ・・・?」 とりあえず怒らせたなら謝るべきだと判断したが、理由が良くわかっていないのを見抜いたのか、 彼が更に問いただしてきた。 「えっ・・・その・・・。」 「・・・・・やっぱりいい。」 しかし、言葉を探している間に、今度は逆に言葉を止められた。 明らかに不審な行動に自然と眉間を寄せる。 「アーネスト・・?」 様子が変だ、一見すれば分かる。 それにどう見ても言葉を遮られた自分よりも彼の方が眉間に皺が寄っていた。 「・・・否、なんでもない。それより、俺の部屋に寄っていくか?」 彼が掴んでいた手をそっと離して自分の執務室の方へ視線を向ける。 ひょっとしたら彼の機嫌が悪い理由がわかるかもしれないと頷けば、彼の表情が少しだけ和らいだ。 部屋に入って直ぐ、視線が止まったのは彼の机。 正確には、その上に置いてあった小さな包みだった。 「どうした?」 アーネストが紅茶のカップを乗せたトレイを持ったままこちらの顔を覗き込んでくる。 その声に慌てて視線を外せば紅茶が目の前に差し出された。 「あ、ありがとう・・・。」 それを受け取ると、甘い香りが鼻腔を擽る。 おかげで少し落ち着いてきた思考を巡らせれば、やはり今日の彼は変だと思った。 その証拠に、アーネストの口から日頃は出ないであろう言葉が出た事に俺は目を見開いた。 「・・・今日が何の日か知っているか?」 ついこの間も、妹に同じ質問をされた。そう、つい1ヶ月前。 でも、彼がこんなことを気にするだろうか? しかし、思い当たる答えが一つしかないので仕方なくそれを口にした。 「・・ホワイトデー・・?」 するとそれが当たりだったのか、「あぁ」と短い返事が返ってきた。 しかし、それ以上その事について話す気は無いらしく、今度は別の質問をされる。 「なら、この後の予定は?」 「この後・・?」 もちろん、王様に会いに行くことは伝えてあるからその事を聞いてる訳ではない。 何だろうと思考を巡らせていれば、アーネストが部屋の置くからマフィンを乗せたお皿を持って戻ってきた。 「食べるか?」 「え・・・うん。」 甘い物が好きなのは彼も知っている。 しかし、このタイミングでお菓子を差し出すのはやはりおかしい。 「アーネスト、何かあった・・?」 そして堪らず聞き返せば、今度は同じ質問が彼の口から返ってきた。 「お前こそ、どうしたんだ?」 「えっ・・?」 思わぬ返答に首を傾げる。しかし、次の言葉で彼の言いたいことが分かった。 「あの日は、何で俺の所に来なかったんだ?」 あの日というのは、おそらく前にここに来た時のことだろう。 ジュリアから何も聞いていないのだろうか。 「あ・・予定があって・・。」 少し責めているような彼の口調に詰まりながら返事を返す。 すると、彼が眉根を寄せてこちらに視線を止めた。 「・・・・・嘘だな。」 「・・・えっ・・?」 「あの日は、その後に仕事など入れてなかったんだろう?」 「なら、何故俺の所に顔を出さなかったのか。」と彼の瞳が訴えてくる。 確かにあの日、本当は予定など無かった。 でも、あの日・・・。 「だって、アーネストは予定があると思ったから・・・。」 「・・・予定・・?何のことだ?」 彼は何も悪くない。彼が何をしていようと、それは彼の自由だ。 それでも、どうしても嫌な感じがした。アーネストにも、先ほどの包みを贈った人物にも。 そして、次の瞬間俺はその言葉を口にしていた。 「あの包み・・ジュリアからもらったんだろう・・?」 そう、あの日俺がジュリアとここの廊下であった時。 たまたま彼女がアーネストと一緒に居るところを目撃していた。 バレンタインに女性が男性に贈る物と言ったら決まっている。 そして俺は、彼女がきちんと包装された包みを彼に渡すところを見てしまった。 「だから・・・予定があると思って・・・。」 思い出すだけで、胸が苦しくなる。 自分でも、こんなに一方的にまわりの人間を嫌ったりするのは良くないと思う。 でも、なんて伝えればいいのか分からない。 「・・・・ごめん・・・。」 きっと、彼が怒っているのはそんな俺にだ。だから、俺が悪い。 しかし、そのことについて謝れば突然、耳元に小さな笑い声が届いてきた。 「なんだ、そういう事か。」 「えっ?」 驚いて顔を上げれば、アーネストの口元に笑みが浮かんでいた。 「妬いていたのだろう?ジュリアに。」 その口調は先ほどとは打って変わってとても楽しそうだ。 そして、その言葉を聞いた途端、自分の顔が急激に熱くなっていくのがわかった。 「な・・!そんな事・・!」 自分が嫉妬していた?そんな事はないと思っていた。でも、考えてみれば・・・。 否定の言葉をあげるが彼の笑い声がおさまる事は無い。 「わ、笑うな!!」 「別にいいだろう。お前はこんなこと滅多にないんだからな。」 くすくすと止むことの無い笑い声に何だか釈然としない。 すると、アーネストが小さく呟いた。 「まぁ、俺も似たようなものだったがな。」 「え?」 聞き返せば、彼がはぐらかす様に顔をそらす。 そして、近くにあった包みを手に取ると、目の前に差し出した。 「ジュリアに頼んでおいた物だ。お前に渡すためにな。」 「え、じゃぁ・・・チョコじゃなかったのか?」 「もちろん。お前以外から貰うつもりはなかったからな。」 そう言って、彼がその包みを俺に持たせる。俺のためにわざわざ・・? 「ありがとう・・・。」 まさか、そんな物だとは思わなかった。 しかし受け取って礼を言えば、彼の口元が意地悪く歪められた。 「・・・・・何?」 「別に。でもまぁ、チョコはもらえなかったがな。」 「あ・・!」 そういえば、俺は彼にチョコを渡していない。 どうしようかと思案していれば、アーネストが愉しそうに口を開いた。 「チョコ以外でもいいんだがな?」 「え・・?」 「そのかわり、今日は俺の家に来てもらうぞ。」 アーネストの口調に明らかな別の意味を汲み取って、再び顔が朱く染まる。 包みを受け取った今、チョコが手元に無い限り断ることは出来ない。 すると、それがわかっていてアーネストが更に付け加えた。 「たっぷり、礼はかえしてもらうからな。」 少し皮肉の混じったその言葉に苦笑する。 「じゃぁ、俺は精々今日中に帰れるように祈っておくよ。」 そう返せば、アーネストが満足気に微笑む。 そんな彼に優しく微笑み返せば、柔らかな唇がそっと自分の唇へと降りてきた。 END えっと、まずはこんな駄文に最後までお付き合い下さった方、 本当にありがとうございますっっ!! 今回、綺月様に図々しくもリンクを張らせて頂けるとの許可を頂いたので アー主小説を謙譲させて頂きました☆ 甘いものの方が良いかと思いバレンタインものにしたかったのですが・・・ 生憎、テストと重なってしまって止む終えずホワイトデーものに←こいつめ!! おかげでアーネストもカーマインもお互いにヤキモチを妬く結果になってしまいました。 でも、私はこんな二人が大好きです(?)vvv そして、リンクを張らせて下さった綺月様も大好きですvvv←やめろ 兎に角、綺月様いろいろお手数かけてすみませんでした!! 少しでもアー主への愛が伝われば幸いです♪ 華盛 PinkButterfly:華盛様より リンク記念に華盛様から頂きましたー!! アー主イエーイ!!(謎)ホワイトデーをテーマにした 素敵小説!相互焼き餅!餅を二人して焼く姿はもう可愛いです・・・! この二人のお互いの好き好き具合(殴)が大好きです。 ええ、もう是非筆頭はカーマイン氏をお持ち帰りして欲しいものです! 今夜は離さない的に(笑) 華盛様、有難うございましたー!! |