Wish that might not never change
〜Prelude〜
事の起こりは一つの依頼がバーシュタイン王国に舞い込んできたことだっただろう。
その依頼は魔法学院から来たもので、以下の様な内容だった。
――緊急な事態のため乱雑な文体で失礼します。○月×日未明、新しく発見された遺跡に、魔物が出現いたしました。
数は多くない。集団で来るわけでもない。箇々別々に襲って来るので、我々学院内の者達で対処しようと試みましたが、非常に
腕の立つモノばかりで、我々では手に負えません。今現在は襲われた者達が、入り口等に封印の効果がある機械を設置するのに
成功したため、魔物の流出だけは未然に防いだという状態となっています。
けれども、その遺跡には貴重な知識、並びに文献等が存在しているとの情報もあるため、何とかして中の捜索を続けたいのです。
そこで、誠に勝手なお願いとは承知ですが、遺跡内の魔物の討伐と、魔物の製造機及び複製機等の発見が御座いましたら、
停止または破壊して頂きたい。出来る限り破壊しない方向でお願いします。――
この際の重要な問題は、この様な嘆願書がいつの間にかアーネストの執務室にある書類の山の中に紛れ込んでいたこと……。
「ん?これは…。あいつの仕業、か。……今すぐに執務室に行ったとしても、逃亡済みであろうな、恐らく。全く、陛下からの直の
仕事位真面目にやれば良いものを…。全くもって、役に立たない奴だ。……あいつと再会出来る日はまだ遠い、か。…ふぅ。」
今朝方、この書類は陛下からオスカーへ直々に手渡されていたはずだった。横にいたが、内容は見えなかった。しかし、
赤い『緊急』という判が押してあるのは見えていた。苦み走った顔で、ため息混じりに言葉を零す。
「過ぎたことを考えても仕方ないか。……しかし、やられてばかりと言うのもムカツクな。」
ボソッと呟いた次の瞬間に、顰めていた表情が突如綺麗だが背筋に寒気の走る様な微笑みに変わる。俗に言う
『悪魔の微笑み』と言うやつだろう。
「そろそろ、何か報復のようなモノでも用意しておくか……。ふっ、何時までも黙った儘というのもつまらんし、な…。俺が。」
一見していつも通りの無表情なのだが、よくよく見てみると違った。眼に楽しそうな色が浮んでおり、口元が微かに弧を描いている。
「幸い、あいつに反省を促す計画は以前から考えてある。すぐに準備が整うだろう。くっくっく、奴を泣く程喜ばしてやる事としよう。」
何やら妖しい気配が漂う中アーネストは嬉々として、山を崩していった。その姿は実に楽しそうである。耳を澄ませば微かに
鼻歌らしきものまでもが聞こえてきていた。
◇◆◆◇
書類を早急に済ませ、放漫なオスカーへの報復である仕掛けの準備を施す。何事にも性格というものは反映されるらしく、
書類も報復も時間を掛けずにこれでもかっ、という位力を入れてしまった。
……軽すぎる処罰ではお前の為にもならんからなぁ。全力でやらして貰ったぞ、オスカー。恨むのなら己の怠慢さを恨むが良い。
ふっ、日頃の恨みとやらを溜めるお前も悪いのだぞ?……
仕掛けに遭遇した時のオスカーの顔を想像すると、思わず知らず口の端に笑みが零れてしまう。
「さてと…。あいつへの処罰はこんなものでいいだろう。次はというと……。」
「――失礼します、ライエル様。今宜しいですか?」
次にするべき事を思案しようとしたとき、自分の補佐官であるヘイズと、困ったような顔でオスカーの補佐官であるマリウスが
執務室に入ってきた。
「ん?あぁ、お前達か。書類はすべて片づいて、机の脇に置いてある。」
「………え?もう、ですか!?私の記憶では確か、今朝の全体会議時で書類の山が四,五山はあったかと……。」
「四,五山……。まぁ、その位だろうな。」
……オスカーへの報復を考えつつ書類を片していたら、いつの間にか全て終わっていたのだが……。今度から仕事に嫌気が
差したときはオスカーへの嫌がらせでも考えるか。……
「流石、ライエル様ですね。それで……えっと、少々言い難いのですが、お耳に入れておきたいお話が……。」
居心地悪そうに萎縮していたマリウスが言いづらそうに少しづつ言葉を吐き出す。
だが、次の言葉を聞いた瞬間ハッと頭を上げ気まずそうな顔をした。
「あいつが逃亡、したか?」
既に確信していたことだった。しかし、マリウスがオスカーの不在を自分に報告に来るのが意外と遅かったなと思い、
城内を必至で捜索したのだろうという考えに至った。
「………はい、その通りなのです、ライエル様。実は、オスカー様の執務室の机に書き置きがありまして、
『こんなにやってられるかぁ!!後はまかせたよ!よっろしくぅ、アーネスト♪ By君の最愛の友より♪』とありました…。」
「………………あの馬鹿…。どの辺で最も愛されていると思えるのか。四百字レポートを十枚程要求してやるか……。
断れん様、提出されなかった時用の追加職務も用意しとこう。」
そう言った瞬間、マリウスの顔色が少し良くなった。どうやら、逃亡を阻止出来なかったことに、責任を感じていた様だ。
「ぜひ、そうしてやって、下さい……。私では、オスカー様の逃亡を、阻止でなくて…。」
「せめて、それを課すことであの方が少しでも反省なさって下さればよいのですがね。」
「はい……。切実な願いです……。」
今にも泣き出しそうな顔でマリウスがとつとつと話す。その合間にヘイズが至極真面目な顔で、合いの手を出す。
「嫌でもさせてやるさ…。本来は、補佐官は上官に嘗められてばかりでは駄目なのだが、
あいつ相手ではなかなか難しい、か……。」
「申し訳ありません……。私が至らぬ、ばかりに………。」
さらに泣き出しそうな顔になってしまったマリウスを、ヘイズが慰めるように背を撫でている。確かこの二人は同期生で、
プライベートでも仲が良く、任務や職務を互いに助け合い、こなしていたな…。などという情報がふと頭を過ぎった。
「責めているわけではない。…さて、幸いなことに私の方の書類は片づいている。ヘイズ。」
「はい。何でしょうか、ライエル様。」
「私はこれから、オスカーが放棄してしまった陛下直々の嘆願書の問題を解決し行く。
行き先は魔法学院と新たに発見された遺跡だ。」
「…はい。オスカー様はその様な重大な仕事も放り投げられていたのですね……。」
ヘイズが呆れた様にぼそりと呟いた。恐らく日頃からオスカーの奔放さをマリウスに愚痴られているのであろう。職務終了後に
城下にあるバーで二人を見かけたことがある。
「あいつの奔放さは最早死ななければ直らんだろう。……で、だ。」
「すみません、つまらない茶々を入れました。」
「気にするな。で、ヘイズ、お前はマリウスの手伝いをしてやれ。もし新たに書類が来た場合は戻ったら片づける。早急に
対処すべきもの以外は積んでおいてくれ。オスカーの書類も、早急に対処しなければならないものは二人で片づけろ。提出が
四日後以降のものは後回しにしておけ、あいつが戻ってきたらやらせよう。そして、どうしてもお前達では処理出来ないもの、
判断しきれないものはジュリアか、陛下にお願いして処理して貰ってくれ。二人には私からも一言お願いしておく。こちらの
執務室は閉めてしまうからあいつの執務室で職務をしてくれ。以上だ。」
一気に言うべき事を捲し立てる。マリウスもヘイズも外見からは想像がつかないだろうが、非常に優秀な人間である。でなければ、度々オスカーが逃亡した事により滞ってしまった仕事の処理が俺一人の負担で済む筈がない。つまりは、ヘイズとマリウスそして自分の三人が人一倍以上に優秀だった為、オスカーは幾度となく逃亡を見逃されているのだった。
「了解しました、ライエル様。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
「真に、有難う御座います、ライエル様。いつもお手数おかけしてしまい、申し訳御座いません。」
ヘイズは軽くだが頭を下げ、マリウスは深々と頭を下げる。その仕草で、二人が自分に感謝の念を抱いているのが判った。
「深くは気にするな、マリウス。お前は十分に、良くやってくれている。私はお前の直接の上官ではないが、お前の有能さは
理解しているつもりだ。自信を無くす必要は、ない。」
「「!」」
自然に自身の頬に僅かに笑みが浮かんでいるのが判った。それを見た二人が明らかに固まった。常日頃、滅多に表情を変えない自分が笑みを浮かべたことで驚いているのだろう。
「――ライエル様。長くあなた様の補佐官を務めさせて頂いておりますが、そんなお顔は初めて拝見しました。」
「私も、初めてです……。」
「それは、返答に困る発言だな。まぁ、おそらく最大の要因は世界一の性悪だろう。」
『悪魔の微笑み』なるものを浮かべつつ、しれっと言ってみる。事実、この二人の前で笑みなど浮かべない原因多くは、
逃亡癖のある某悪友の後始末をしているせいであろう。
「お前達が、私と顔を合わせるときは、仕事中くらいだからな。仕方あるまい。あの性悪のお陰で、
私達は日々しなくてもいい苦労、心労をしているからな。」
「それもそうですね。時間ごとに増えていく書類の山を前に、笑みなど浮かべている余裕はないですね………。」
「何だか激しく胸というか良心が痛むのですが……。」
「マリウス。さっきも言ったであろう、お前が気に病む必要はない、っと。」
「………はい。」
「さて、話はこれくらいにするか。これ以上あの馬鹿分の仕事を、放って置くわけにもいかんだろう。………この生真面目さが、
仕事を増やす要因の一つなのだろうが、今更というものだな。」
二人は気付いていない様だが、話し始めてから少々時間が経ちすぎてしまっている。これ以上時間を消費すると二人が
残業しなくてはいけなくなってしまうだろう。幾ら有能とは言え、オスカーの残した仕事は少なくない。処理にかかる時間は
相当なものだろう。
「真に感謝しております。いつもいつも(笑)」
「ふふ、私も感謝してますよ、上官。あなた様は仕事が速いので、私の職務時間も長引きません。」
二人は満面の笑みを浮かべ楽しそうに笑いながら口を開く。
「…くっ。ようやっと表情に笑みが戻ったようだ。そうだな……今後、機会があれば飲みにでも、食事にでも行くか?
まぁ、行くことで、お前達の気休めに成るのであれば、の話だが、な。」
「「喜んでお受けいたします♪」」
「ふっ、決まりだな。今後ともその有能さ、期待している。」
「「有難う御座います!それでは失礼します。」」
そう言い、二人は頭を下げ、退室するためにドアへと向かった。二人の口調と表情はまるで、リンクしたかの様に同じでこちらも
少し可笑しくなり、思わず口の端の笑みが浮かぶ。その時マリウスを先に外に出しつつヘイズが声を掛けてきた。
「準備にお手伝いは必要ですか?ライエル様。」
「いや、必要ない。では、後のことは頼むぞ、ヘイズ。」
「承りました。」
かちゃっと静かな音がし、ドアが閉まる。それと同時に自分の世界へと入る。
……ふぅ、この嘆願書、問題の解決策はわかりやすい、が。……実行するには問題かある、か。……
何故ならばこの所、要らぬ事件を起こす輩が多く、兵達が奔走しており、人手が足りないのである。魔物の討伐、しかも腕の立つ
魔物ばかりが襲ってくるとなれば、少しの兵達では対して役に立たないであろう。しかし放って置くわけにも行かない。
「様子だけでも、見てみるか。陛下に現状を、報告しなくてはいけないしな……。」
ひとりごち、徐に立ち上がり部屋を出、ジュリアと陛下の執務室へと向かった。マリウスとヘイズに言った通り二人が指示を
仰いできた時のみ手助けして貰える様に頼むために…。
◇◆◇◆
馬に跨り足早に街道を抜け、魔法学院へと急ぐ。あまり遅くに訪ねても相手側には迷惑であろうとの配慮だ。
「ったく。あいつがさっさとこの嘆願書の問題に取り組んでいれば、こんな配慮など考えんでもいいと言うのに………。あぁ、いかん。こんな事ばかり考えていたら胃に穴が空く。」
ハッとし、直ぐさま考えていたことを追い出す様に頭を左右にふる。危うく気分が奈落へと行く所だった様だ。
……何事も『過ぎる』ことは悪いことだ。『過ぎる』ことは人に不幸呼ぶ、真面目にやるにしても、適度というものを見分けなくては
ならない。……
などと思いつつ足を進めていると魔法学院が見えてきた。相変わらず王城の訓練所に負けず劣らず騒がしい所だ。
あちらこちらで魔法の実地練習や、実験の失敗と見られる爆発が起きている………。
「器具等部屋の大破、つまりは公共物破損、か。修理費並びに新規購入費はどこから出るんだ…。個人負担なのだろうか、
まさか学院負担……?と、なると使われているのは、各国の寄付金及び研究費用。無駄遣いではないと、言い切れない範囲では
ないか、これは……。はぁ、考えすぎだと思いたいが、有り得ぬ話でもない。心に痛い話だな…………。」
気付かなくても、良いことに考えが行ってしまい、更なる心労を増やしつつも、学院長室を訪問する。直接院長にこちらから兵が
出せないことを詫びつつ事情話す。そして、現状を確認したいから、と遺跡までの案内を用意して貰えるよう頼み、出来るだけ速く
遺跡へと向かった。
◇◆◇◆
馬を走らせること早20分一見変哲もない森へと着いた。これの何処に遺跡があるのかアーネストには見分けられなかった。
「ライエル様。この遺跡の入り口はこの部分にこうして…、こうっ!です。」
一緒に来てくれた研究員は満面の笑顔で、いきなり森に手を突っ込み、勢いを付けて何かを捻った。
「そんな所に仕掛けが……。相判った。此処までの案内感謝する。モンスターに襲われない様、気を付けて待機していてくれるか?日が沈む前には戻ってこれると思うのでな。」
「はい、判りました。それでも戻らない場合は、バーンシュタインと魔法学院に連絡を入れに、一度戻りますね。」
「よろしく頼む。それにしても、一見何もなさそうに見える場所が入り口とは、凝った作りになっているな。…遺跡中も複雑な
造りなのだろうか。」
「私は入ったこと無いので何とも………。」
同行してくれた研究員に礼と頼み事をする。それと、入り口に設置してある結界装置の扱い方も教えて貰い、慎重に奥へと進む。
遺跡自体は複雑な作りではないらしく、捜索はそんなに難しいものではなかった。
「キシャー!!オマエ、トオスワケニハ、イカン!」
「オトナシク、タチサルガヨイ!!」
「貴様らの腕では俺に傷を付けることは出来んな…。」
入ってすぐの場所で、敵にあった。その魔物達は確かに腕の立つモノが多く、並の腕では倒すのは難しいだろう。だが、
彼の敵ではなかった。
順調に奥へと進み、そして彼は怪しい機械を発見した。あまりの怪しさに思わず言葉が口から漏れてしまう。
「なんだ、これは………。形状がハニワというかトーテムポールというか、何と言うか。
まさか……これが、モンスター発生器とでも言うべきもの、か…………?」
思わず、ものすごい理不尽な様な、鬱屈な気分に成ったが、気持ちを奮い立たせる。機械の仕組みを調べるのは結構な時間が
かかったが、機械自体を破壊することなく、停止させることが可能である様に見えた。
……此処を、こうして。これを挟んで…、よし。これで良いだろう。……
その時だった、いきなり装置から、眩いばかりの光が溢れてきた。あまりの光の量に目を開けていることが出来ない。
「っく、眩しい。一体ここで、何が起きているんだ?」
「ふぅ。今日は厄日か?――いや、これぐらいで厄日などと言っていたら、毎日がそうか……。その内、胃に穴が空くな。」
ひとまず、訳がわからないが、その場を去ることを優先する。瞳の上に掌を当て、眼を押さえつつ、来た道を戻ろうとしたその時
だった。突然、全身に激しい痛みが走った。
「っつぅ!!」
自分の腕を強く掴み、痛みに耐える。流石の彼も痛みのあまり声を出すことが出来ない。痛みのあまり、苦しんでいた時間は
数秒だったのか、数分だったのか、彼自身は判別出来なかった。
「治まった、か。さっきからいったい何なんだ。……………え?」
痛みは無くなり、自身の身体に目立った違和感はなさそうだと思った。が、そうでもないらしい。
「――うっ。服がぶかぶか…、靴も大きい…、頭が重い…………。髪、か?しかも、目線がさっきより下がった………!?」
あまりに突拍子もない出来事に流石に彼も、自分に降りかかってきた出来事が信じられず、呆然としてしまう。そこへ通常よりも
大きなフロアーキーパーが彼に襲い掛かってきた。
「――っち。こんな時に!こんな時は、三十六計逃げるに如かず、だなっ。」
格好など気にしてる暇もなく、ただ走る。この現状で生き残るためには逃げる以外の手は咄嗟に思いつかなかった。
何より今現在自分がどのような格好をしてるかも認識できるような状態ではない。
「――はぁ、はぁ、はぁ。っん、はぁ〜〜。流石の、俺も、これには、参る、な。」
ひたすら走り続け、息を切らせる。そして、切れ切れながら言葉を零す。静まりきった石の回廊の中、己の足音と、自分の鼓動、
吐く息が響く。そして、立ち止まり呼吸を整えながら一人、辺りを見まわす。
「……誰も居ない、か…。さて、どうしたもの、かな。ひとまずは、出口、か…?」
『自分の身に大きな異変が起きている。』それは判っていた。だが、信じたくなかった。否、信じられなかった。
「嘘だとは、思いたいが、どうやら俺自身の、背丈が縮んだ、か?………本当に、どうしたモノか、だ……。」
悩みつつも足は勝手に出口へと向かっていた。その途中に鏡の様な壁に彼自身の姿が映る。映った自分の姿を見て、
自然に口から言葉が零れていた。
「――ふぅ。まさかとは思っていたが。これではまるで、オスカーやリシャール様と出会う前ではないか………。」
磨かれた鏡の様な壁に映っていたのは、若干10歳くらいの髪の長い少年の姿だった。実際は、アーネストの約8歳頃の姿で
あるのだが、彼は人より成長が早かった。そのため、8歳時に、既に身長は150近くあった。
「此処で立ち止まっても、仕方がないな。ひとまず魔法学院に戻って何とかして貰うか。」
現実逃避に走りそうな気持ちを何とか盛り直し、服を引きずりつつ、出口から外へとでる。
当然と言われればそうなのだが、着ている洋服が遺跡に入った時と同じな為、今の自分には大きすぎるのだった。
「これも困るな。背丈と一緒に、洋服も縮んでいれば良かったものを……至極、歩き難いではないか………。」
◇◆◇◆
一方その頃遺跡の外、入り口付近では何処からとも無く、現れたオスカーと、アーネストに会いに行こうとして、捕まったカーマイン。それに、アーネストに同行してきた、研究員が話し込んでいた。
「遅いですねぇ、ライエル様。」
「はっはっは。大丈夫さ、そう簡単にくたばる奴じゃないし。」
「オスカーは相変わらず、口悪いね……。」
「僕程上品な男は、そう居ないと思うけど?」
「…………。」
3人の間で、和やかな(?)談笑が続く中、前方の遺跡の中から『がたっ』という音がした。皆、一様に驚く。
「今、音がしましたよね?」
「したねぇ、何かな?獣だったりするかな。」
「アーネストじゃないのか??」
カーマインのみ期待の篭もった声で、音がした方に視線を投げかける。オスカーは口の端に微笑みを浮かべつているが、
決して気を抜かない。すると森のなか、すなわち隠されてある遺跡の入り口から、見た感じ10歳くらいの髪が白く、赤い瞳をした
少年が出てきた。
「お前には、俺が獣に見えるのか?オスカー。」
「………誰、キミ。」
「……だろうな。お前には期待していない。」
呆れた眼差しを向けながら出てきた少年に対し、オスカーは訝しげながら、真面目な顔をして問い掛ける。対して少年は
ため息を吐き、すぐにカーマインの方へと向き直った。
「………え?あ、もしかしてアーネスト!?あ、あの……。」
「流石だな、カーマイン。っと、顔を会わせるのはどれくらいぶりになるかな?」
「その姿を見るのは、始めてだなぁ……。」
「……ん?あぁ、そう、だったな。………良く俺だと判ったな、カーマイン。」
少年が向き直った直後にカーマインが、少し驚いた声で叫んだ。すぐに少年、ことアーネストは満面の笑みになった。
色合いが変わっていないとはいえ、いきなり現れた自分を、確実にアーネストだと認識していることが思ったよりも嬉しかった様だ。
「おやおや、何だい、そのいい雰囲気?で、そのガキが本当にアーネストな訳?」
「え?オスカー分かんないの?どう見てもアーネストだよ!」
「あいつはこんなにコンパクトで可愛くないって!それよりボクとご飯でも食べに行こうよ。どうせ暇なんでしょ♪」
オスカーが面白くなさそうに、間に割り込み、小さくなったアーネストの頭に肘を置きつつカーマインをナンパする。アーネストは
一瞬払いのけようとしたが、それを見たカーマインの行動が素早く、驚き珍しくも瞳を大きく開いた。
「何してるんだよぉ、オスカー!!」
「ぐぁ!?」
「おぉ、見事な左コークスクリューだ。って、え!?」
カーマインは感情の儘に、オスカーに華麗なるパンチを決めた。その威力は凄まじく、簡単には信じられない飛距離を叩き出した。
「オスカーの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」
「………場外ホームランだな、カーマイン。恐らく10メートルは飛んだぞ、あいつ。」
「オスカーなんか知らないモン!アーネスト行こう!!」
「あぁ。……カーマイン??」
穏やかに予測を立てていると、カーマインは素早くアーネストの背後に回り込む。徐に、両手で抱え上げ、そのまま全速力で
走り去った。予想外の行動に流石のアーネストも、頭に疑問符が浮かんだ。その場に残されたのは、響き渡るカーマインの声と、
一人残された魔法学院の研究員だけだった。
「一体、何だったのでしょうか……、今のは。……私はきっと、夢でも見てるのでしょう…。」
バーシュタイン王国が誇る、インペリアルナイトが英雄とはいえ、格段に細い男性に殴り飛ばされ姿が見えなくなった。
とても信じられるモノではなかった。
to be continued……!
柊氷片様より
なんとアニーがちびっこに・・・!(笑)
150センチ程度という事はもう、あの白髪赤眼の坊やを
見下ろしたり見下ろしたり見下ろしたり出来るのですね!(だけかい!)
当家のアニーと違いましてヘタれてないアニーさんが素敵です。
オスカーに微塵の期待も抱いてない辺りが特に・・・!(オイ)
そしてカーマインさんのハードパンチャーぶりも素敵ですNE!
10Mって指定したのは私ですが(犯人がここに・・・!)
とてもツボな作品を有難うございました!続きも楽しみです!
おまけ↓
ちびっこアニーを抱えるカーマインさんの図。微妙(泡)
|