Let's do a sweet, gentle kiss. 甘く優しいキスをしよう。 It in a soft cheek, and in the lip and in the face in thin the tip of a finger. その細い指先に、柔らかな頬に、唇に、顔中に。 I will embrace closely the more strongly more regrettable parting is. 離れるのが惜しいくらい、強く抱き締めよう。 Heart sound each other overlaps by hearing. 互いの心音聞こえるほどに重なり合って。 It cherishes it more than anyone in all of me ..you dear... 誰より愛しい君を――俺の全てで可愛がろう。 honey*honey*honey 顔色が悪いのは誰が見ても一目で分かる。 元来働きすぎだ。白皙の頬は青褪めて今にも倒れてしまいそうな疲労を湛えている。 ワーカーホリックなのか、単に根が真面目すぎるのか。とにかく体調不良は目に明らかだ。 が、当の本人は休もうとしないし、ましてや病院など幾ら勧めても全く行こうとせず。 非常に頑固な男なのだ、アーネスト=ライエルという男は。 今日も今日とて不調ながらに机上の書類に向かう姿に心配をした同僚たちは、医者を呼んでもどうせまともに 診療を受けはしないだろうと予測し、それならと、ある意味彼にとって最強の『ナースコール』をすることにした。 ◆◇◇◆ 「・・・俺は便利屋じゃない」 むっつりと。あれから程なくして呼び出された『ナース』もとい、頭に美をつけてお釣りが来るほど端正な容姿の青年が 呼び出した面々に向けて言う。ろくに事情も聞かされず、ただ早く来てくれと言われれば誰だって腑に落ちない。 せめて最低限の情報くらいくれてもいいだろう。そういう目で隣国の精鋭騎士たちの顔を順々に見ていくものの。 いつもなら絶対に是が非でもその輪の中にいて自分に詰め寄ってくるはずの姿がないことに青年は気づく。 「・・・アーネストは?」 「それ」 「は?」 「呼び出した理由ね」 「・・・ああ。どうしたんだ?」 あまりにも簡潔な言葉ながら慣れだろう、言いたいことを察した青年は一人に標準を絞って聞き返した。 渦中の人物の親友・・・というよりは悪友であるオスカーへと躯を動かし詳細を求めれば苦笑混じりに返事が届く。 「まあ基本的には僕に火の粉が降りかからない限り、 親友といえど干渉したくはないんだけど・・・。彼は融通が利かないというか――馬鹿だから」 「確かに・・・ある意味利巧とは思えないがな。愚かではないにしろ・・・。で?」 「お仕事大好き☆ライエル君がこのままじゃぶっ倒れちゃうんじゃないかと思って」 茶化すようなトーンの声ながら、オスカー以外のナイツ面々の顔を見ればそれなりに深刻な話であると知れる。 青年は一つ溜息吐いて。色違いの瞳を眇める。 「・・・だったら、俺より先に呼ぶ者がいるんじゃないのか」 「アレが素直に医者に掛かると思うかい?休めって言っても聞かないしね」 「なら俺が言っても聞かないだろう」 「いやいや、君の言うことだったら聞くと思うんだよね。むしろ君じゃないと駄目と言うか」 何て言ったってハニーなわけだしと続いた言葉に青年の目が鋭く光る。 人前で何言ってんだ貴様、と牽制の意がありありと込められたそれにしかし、オスカーは動じない。 いつものように口元には穏やかな笑みを浮かべている。この男の精神力に真正面から挑んで勝てるものは 恐らく皆無だ。今生きている人間では、だが。 「・・・・多分、無理だと思うぞ?」 「それでもいいからさ」 「・・・・まあ、心配ではあるからな。一応言ってはみる」 「頼んだぞ」「頼みます」「よろしく」 それぞれに見送られ青年はのろのろと最早見慣れた他国の城の中を勝って知ったる様子で歩き回る。 中央回廊を外れ、王族の寝室からさほど離れていない場所にあるインペリアルナイト専用の執務室へと足を運ぶ。 その一番奥に当たる部屋が、次期ナイツマスターと言われるアーネスト=ライエルの部屋になる。 暫く顔を見ていないと思いきや、どうも彼は青年に負けず劣らず仕事狂らしい。と言ってもお互い、誰かがやらなければ 終わらないからやっているようなものなのだろうが。それでも休まないと言うのはどう考えても躯に毒で。 ノックを三回。一応返事を待ってからドアを開けた。 「・・・これは凄いな」 青年の第一声はそれだった。見渡す限り紙の海。今地震が起きたら書類の海で溺れてしまいそうなほど。 ひらひらと舞い落ちてきた一枚を拾ってそっと山の上に返す。 「一体いつから寝てないんだ?」 「!・・・カーマイン」 「ん、気づいてなかったのか?・・・大丈夫かお前」 普段なら、声なんて掛けずとも気づくどころか頼んでもないのに飼い犬みたいに寄ってくるだろう、とは思っても 流石に犬扱いはどうかと思い自重する青年。代わりにゆっくりと近づいて、そっと手を伸ばす。 「少し、熱い?」 小首を傾げつつ、触れた相手の額。以前に触れた時よりも熱を帯びているような気がした。 睡眠不足による微熱だろうか。何にせよ躯が疲労を訴えているのは確か。止めさせなければと、青年―カーマインは 書類とペンを握る手を自分のそれで封じ。 「もう休め、皆が心配してる」 「しかし・・・」 「こんな量の書類、あと一日、二日寝ずに頑張ったところで終わらないだろう。 むしろ寝ないでいたら作業スピードは落ちる一方だろうが・・・休め」 優しく諭すような声音で説得を試みるが、尚も渋る男の様子にカーマインは眉間に皺寄せた。 やはり自分が言ったところでこの頑固者は考えを曲げないではないか、と。予想はしていたがそれはそれで 何となく釈然としない。自分は彼にとって何処かで特別であってほしいと思うから。 故にカーマインは、意地でもアーネストを止めようと手段を選ばないことにした。 「アーネスト、俺の言うことが聞けないのか?」 「・・・・うっ」 「アーネスト?」 一転して脅しを掛けてやるとうろたえる大男。冷静沈着だとか言われているのが嘘みたいに。 もう一押しかとカーマインはにじり寄って。 「言うこと聞けないなら、俺にも考えがあるが?」 「・・・・ッ、待て。一体何を・・・」 「んー・・・そうだな。一月お預け、とか」 「!!」 何をとも言ってもないのに、お預けが何を指すか察したアーネストはより顔色を悪くした。 ただでさえ滅多にこの青年には会うことさえ出来ないと言うのに。逢瀬の時間を奪われては堪らない。 下世話な話にはなるが、それとは現時点でもうかなりご無沙汰だ。仕事に打ち込んで打ち込んで 気を紛らわさねば狂ってしまいそうなほどに。焦がれに焦がれる愛しい人。 「休むか?」 「〜〜ッ。だが、俺は・・・償わなければならないんだ。 眠れるものなら寝たいし、お前と一緒にいたい。こんな仕事など放り出して・・・。 しかしそれは俺に踏みにじられた民たちが許さないだろう・・・」 「・・・・誰かがそう言った?」 鋭い問いに頭を振る銀髪。幼子のような仕草。よほど参っているのだろう。滅多に見ない態度に絆されて。 カーマインは優しくアーネストの頭を自分の胸に抱え込む。布地を少し硬質な髪が擦れて擽ったい。 そのままの姿勢で、指先は後頭部をそっと撫で。 「お前は・・・自分で望んで人々を傷つけたか?踏みにじりたいと思った?殺めたいと思った?」 「・・・・違う。俺はそんなこと・・・一度も望んでいない・・・っ」 叫ぶほどではなかったが、確かな響きの篭る言葉にカーマインは頷き。 「分かっている。お前がそういう奴だと俺はちゃんと知ってる。ナイツとしてのお前を数ヶ月くらいしか 知らない俺でも分かるんだ。俺よりもずっと長くお前の活躍を見てきた者たちがそれを分からないはずがないだろう」 目前の母がするような穏やかな表情が目に眩しく、緋眼が細められる。 「・・・・・・・・・・・・・」 「もっと・・・周りの者を、お前が守るべき者たちを信じてやれ。 お前が思っている以上に・・・皆がお前のことを信じている。お前の幸せを、願っている」 「・・・お前は」 「ん?」 ぼそりと零された声にカーマインは耳聡く聞き返す。それにアーネストは少しだけ逡巡して。 「お前は、他人のことには必死だな」 「・・・他人か?」 「他人じゃないのか?」 「他人と言われたいのか?」 「・・・・・・お前が認めてくれるなら、俺はお前の特別がいい」 質問に質問で返して最後のやや甘えた声にカーマインは笑う。認めるも何も初めから特別なのに。 そうでもなければ、こんな風に自分よりも大きな・・・見るからに強そうな相手の頭を撫でてやったりしない。 こういう仕草は自分よりも弱い相手か、守らねばならない相手にしかしないものだろう。 男が女にするように、母が子にするように、兄が妹にするように。 「特別が良いなら俺のために元気でいてくれないと」 「・・・・・なら、お前が俺を看ればいい」 「ん・・・?」 何のことだと首を傾げた黒髪がさらりと視界の端で揺れる。綺麗で、絡めたくなるまっすぐで艶やかな・・・。 欲のままに伸びてくる指先がそれを絡めて弄ぶ。少し乱れた毛先が頬に張り付く様子が妖艶で更に男の欲を煽る。 この美しい生き物の心と躯を自由にしてもいい権利を得ていることが、誇らしい。それはどんな武勲よりも価値があり。 他の誰にも有することの出来ない特権。譲れないもの。 「カーマイン・・・」 「何だ」 「俺は・・・おかしいのかもしれん」 「・・・頭がか?」 「・・・、かもしれん」 「・・・認めるのか」 てっきり否定やら激昂が返ってくるだろうと思っていたカーマインは驚き半分、呆れた。 一体何を考えているのかこの男はと。疑念に満ちた異色の瞳で以って見上げてやれば、それはさも当然のように 唇を奪われた。あまりにも突然で予想していなかっただけにあっさりと舌の侵入を許してしまう。 「・・・、ッ」 涼しげな面立ちとは違って濃厚で、呼吸すら許さぬ激しい口付けを寄越されてカーマインは。 常は凛とした佇まいをずるずると抜けていく力のままにだらしなく弛緩させ、自分を腰砕けにさせた張本人へと 意図せずしなだれかかった。息が弾み、染まった桜色の頬が目に毒で。支える腕に力が篭る。 「・・・何、するんだ・・・馬鹿っ」 「お前が近くにいると・・・勝手に躯が動く。お前に、飢えている・・・」 「疲れすぎなんじゃないか・・・?」 「さあ・・・?お前を目前にすると頭が沸いたように何も考えられなくなる」 お前のこと以外と続いてカーマインは目元をさっと染めた。 「〜〜ッ、病院行って来い」 「病院は嫌いだな。昔を思い出す」 「ああ・・・躯弱かったんだったな・・・。今は大丈夫なのか?」 「お前が傍にいる限りは死にそうになっても死なん」 「何だそれは・・・」 どうやら本人的にはかなり真剣に言ったつもりらしい言葉に小さく笑ってカーマインは。 「・・・全く。重症だな」 「それはどうも。自覚はしている」 「・・・褒めてないんだが」 「そうか?」 「そうだよ」 「・・・そうか?」 「何で二回訊く・・・」 呆れながらも会話は軽やかに続き、その間に悪戯な指先が細い項を擽る。そのぞわりとした感覚に異彩の双眸は 咎めるように紅を睨み付けるが、相手は全く堪えた様子もなく、むしろより煽られた感が見て取れた。 指で辿った痕を追いかけて下る薄い唇。 「・・・ッ、お前・・・さっきから、・・・アッ」 「・・・甘い」 「人をお菓子みたいに言うな、ッ・・・」 「菓子というより・・・甘露だな。虫共を唆す味だ」 その『虫』という言葉が指す意味をカーマインは知らない。恐ろしく純粋で恐ろしく鈍い彼。 なのにその辺の女よりも妖艶で、細く儚く、ただただ美しい。心を奪われない方がどうかしていると思えるほどに。 それは堅物と言われるアーネスト=ライエルとて例外ではなく。日に日に想いは加速して。 「・・・喰らい尽くしてやりたい・・・」 「おかしなことを言うな」 「お前に再会するまではマトモだったと思うが?」 「俺がおかしくさせたって?」 「そうだ。責任を取れ」 無茶を言う。言われたカーマインは困惑気味にどうやら極めて真面目らしい紅い瞳を見返す。 嘘は吐かないし、愚かしいくらい正直者のはずなのに、時々何を考えているのかよく分からないところが ある彼にカーマインはどうしたものか考えて・・・その間にするりと服の隙間から指が入ってくる。 「ちょ・・・、何して・・・服に手を入れるなっ」 「お前が休めと言ったんだろう?」 「だから、休めば良いだろうが!」 「休み中に俺が何をしようが勝手だろう」 「そんな馬鹿な話があ・・・ッ、んン」 弱いところに触れられて、紅い唇から思わずといった体で声が漏れる。抵抗しようと足掻いて、 バランスを崩す痩身。床に倒れこんで打ち付けた背に、綺麗な顔を歪めた。 「・・・ッ」 「大丈夫か?」 「・・・と、言いつつ抱き上げるな・・・っ、俺は女じゃないんだ」 「ん?床でしたいのならそれはそれで構わんが」 「誰がそんなことを言った・・・ッ、ぅ・・・」 「!どうした」 引きつったような表情を見せるカーマインに、アーネストははっとして。つられるように顔を歪める。 いかにも心配そうな・・・というか心配しているのだろう態度にカーマインは苦笑した。 「・・・大したことはない。少し痛んだだけだ」 「・・・・寝ていろ」 「お前こそ寝ていろ、隈が酷い」 「それこそ大したことじゃない。一応湿布でもしておくか?」 ベッドの淵に痩身を座らせて、クローゼットの中に仕舞い込まれた救急箱を取り出そうとした アーネストだったが、開いた扉の先、あるものが目に留まる。 「・・・・・・・」 「・・・アーネスト?」 「いいものがあった」 「・・・・?」 不敵な笑みと共に白皙が振り返る。緋色の瞳が悪戯っぽく輝くのをカーマインは見逃さない。 微かに身の危険を感じて、身構えた。そしてその反応は決して間違いではなく・・・。 「お前によく似合うと思うのだが・・・」 「・・・ッ!?」 ぴらり。 クローゼットの中から見つけたという『いいもの』とやらを見せられて異相の瞳は零れそうなまでに見開かれた。 何度も瞬きしてアーネストの手の中のものを凝視する。ごしごしと目元を擦ってみても、視界に映るそれは消えない。 随分と大まかに言ってしまえば、白い布だ。もっと限定するのならそれは特殊な衣服で名称を言うなれば・・・。 ―――ごくごく一般的にナース服と分類されるそれだった。 「?!!!ッ」 「人語を話せ」 「〜〜俺に似合うとか以前に何でそんなものがお前のクローゼットに!」 普通何処の家を探したって、身内にその手の職業に就いてる人間がいない限りあるはずがない。 まあごく一部に、敢えて『そういう服』を集めているコレクター・・・というかマニアもいるにはいるが・・・。 まさかこの男もそれなのかとカーマインは一瞬危惧したが、アーネストは首を振り。 「先に言っておくが、別に俺の趣味じゃない・・・というよりも俺のものじゃない。俺の主治医のだ」 「は?主治医・・・ってでも医者なら普通女の人でも白衣だろう?」 「いや、男だが?」 「・・・、ああ助手さんのかな」 「だから、俺の主治医のだと言っている」 「・・・・・・?」 「・・・・・・・・・・」 言っている意味が理解出来ずカーマインは首を傾げる。 妙な沈黙がその場に満ちた。 「・・・アーネスト?」 「・・・・だからつまりだな、俺の主治医はあまり言いたくないが・・・女装趣味がある」 「は?」 「・・・腕はいいんだが・・・どうにも変人でな。それを着て診察などする始末だ」 で、この前来た時に替えを忘れていったと続けられ、カーマインは混乱しながらもアーネストの手の中の 白い制服を凝視する。確かに言われて見れば、女性のものにしては少々大きめに作られてる気がした。 かといってアーネストのような如何にも男性らしい体格の人から見れば大分小さい。 カーマインと同じくらいかそれより少し大きいくらいの人間が着るような。 「次に定期健診に来た時にでも突っ返す気だったが・・・」 「か、返せば良いだろう?」 「折角だ、お前が着たところを見てみたい」 「せ、折角の意味が分からん!!というかお前は俺の心配をしてたんじゃないのか?」 「ああ・・・そうだったな。まだ痛むのか?」 するりとわき腹付近を撫でられてカーマインは一度息を飲む。 「ん・・・馬鹿、変な触り方するな」 「変とは?」 「・・・ヤラシイ」 「下心があるのだからそれは当然だろう」 「開き直るな、ば・・か・・・ッ」 まるで痴漢かと思えるほど粘着質に触られ、敏感な四肢はぴくりと跳ねる。シーツを掻き乱して身じろぐ姿は本人にそんな 意識は全くないのだろうが扇情的で再び服の中に忍び込んでくる大きな手。滑らかな肌を弄りながら、器用に服を剥ぐ。 白い上半身を露にされてカーマインは焦り、暴挙に出る手を必死で阻む。 「こら、脱がすなっ」 「いい加減観念したらどうだ。大体お前の力で抵抗したところで俺に敵わないのは知ってるだろう?」 「〜〜〜ッ、だったら、一つ条件があるっ」 「ん、何だ?」 遠慮なく脱がしてくる男にカーマインは深く溜息を吐いて一つ悪足掻きをしてみることにした。 と、いうよりはアーネストのことを思ってなのだが。 「・・・・今日だけは・・・。お前の好きにさせてやってもいいから、後でちゃんと医者に診てもらえ」 「・・・ほう。二言はないか?」 「う・・・確認するな馬鹿っ」 「何度も何度も馬鹿馬鹿と・・・俺がお前にそれを言われると弱いのを知っていてか?」 可愛いなと。直接耳に吹き込んでアーネストは、医者の診察を受けることを約束した上で細い脚を包む下衣すら 剥ぎ取り、そっと押し倒した躯を起き上がらせた。不思議そうに見上げてくる色違いの瞳。それに意地悪く口角を 持ち上げアーネストは脇に置きっ放しにしていたナース服を持ち上げ、華奢な青年に向かって差し出す。 「俺の好きにさせてくれるんだろう?」 「なっ、それを着るとは言ってない!!」 「二言はないと言ったのはどの口だ?」 むにと柔らかな感触を持つ唇を突付く指先。 「・・・、それとこれとは話が違うっ」 「違わないだろう?好きにしてもいいと言った時点でお前は容認したも同然だ」 「揚げ足取りっ」 「別になんでも構わんが・・・。ほら、袖を通してみろ」 強制的に着せられそうになって、カーマインは自分に被さる男の手を弾いた。 「ッ、着ればいいんだろう着れば!余計な手を出すな!」 「全く負けん気の強い・・・だがそういうところがまた可愛いなお前は」 「煩いっ!」 屈辱的な格好を、無理にさせられるよりはと意を決してカーマインは自ら着替える。少し大きめだが大きすぎるという ほどでもない。男の寸法のはずなのに妙に躯のラインを意識した細い造りにカーマインは眉間に皺寄せた。 短いスカートから剥き出しになっている脚がスースーする。引っ張って下げてみるも、無駄なことで。 「〜〜〜、何だこの短さはっ」 「ガーネットに言え」 「ガーネット?」 「・・・だから、俺の主治医だ。ちなみにガーネットは偽名で本名はロドリゲスという」 「・・・・・ロドリゲス・・・」 凄いインパクトのある名だと会ったこともない、アーネストの主治医とやらを脳裏に浮かべるカーマイン。 とはいえ、顔を知らない。故に名前から厳つそうな印象を受け、そのままに想像してうっと吐き気を露にする。 厳ついだけならいい。そういう人間はほどほどに見慣れている。が、その厳つい男がナース服を着ていたらと思うと 同じ男として、嫌な気分になった。その様子を見ていたアーネストは苦笑して。 「・・・多らく、お前が思っているような奴ではないぞ。 喩えるなら・・・オスカーやウェインのような・・・典型的な女顔だな。体格もまあ・・・あんなものだろう。 声を聞かなければ男だとは傍目には分からない顔をしているな・・・」 「そ、そうなのか・・」 ほっと息を吐きつつも何か気に掛かるのか、微妙な表情をしている白皙。その微妙な表情の理由を察した アーネストは意地悪く目を輝かせ。 「何だ、何を心配している?」 「!・・・べ、別に心配なんて何も・・・」 「言っておくが別に見れなくはない、というだけで女装した男に近くにいられるのは不快なだけだ」 「なっ、そう思うなら何で俺に『コレ』着せたんだお前っ!」 男の女装がお気に召さないなら、何故自分に女装をさせたのか。カーマインが憤慨するのは当然だろう。 何せカーマインは中々にプライド高い。その彼のプライドを今着せられている衣装は悉く破壊してくれている。 怒ろうと一歩足を前に踏み出しただけで、裾が捲り上がるくらいだ。彼でなくとも男なら皆同じ気持ちになるだろう。 しかしアーネストは悪びれない。 「お前は別だ、カーマイン」 「は?!」 「お前は俺の想い人なのだから、劣情を煽って当然だろう?」 「劣情って・・・」 あんまりな言い様に白い衣を纏った細身はたじろくものの、大きな手がそれを阻む。 片腕で腰をホールドされ、空いたもう一方で剥き出しになった脚をするりと撫でられる。吸い付くような 厭らしい手つきで上下する指先にカーマインはぞくりと身を震わせた。 「あ、ちょ・・・ぁっ!」 「相変わらず細い脚だな・・・女より細いんじゃないのか?」 「馬鹿、離せっ・・・ぅ、ん・・・」 軽口と共に、更に這い上がってきた指先が太腿の付け根を擽る。敏感な箇所への接触は最早愛撫と言って良い。 やんわりと追い上げられて、カーマインは零れそうになる声を必死で堪えた。しかし強く引き寄せられた白い腿に 腰を押し付けられ、紅い唇は堪えきれず小さく悲鳴を上げる。 「ひ、ぁっ」 「ほら・・・言った通りだろう?」 「〜〜ッ、セクハラッ!」 「・・・違いない。だが、俺をおかしくさせるのは、お前だ」 だから・・・お前が治せ、と耳元に吹き込まれカーマインは頬を染めた。このアーネスト=ライエルという男は いちいちストレートで聞いている方が恥ずかしくなる。おまけに普段は淡白そうな強面をしているくせに、 殊こういう時にはやたらと香気を纏っているため、カーマインは困惑した。かと思えばそんな青年をからかうように 柔らかな双丘を揉みしだく長い指。 「・・・、何処触って・・・ッ、紳士が聞いて呆れるっ」 「生憎紳士と名乗った覚えはないが・・・。ナースが淫靡だからだろう?」 「人のせいにする、な・・・アッ!ゃ、下着を脱がすな馬鹿っ」 「・・・?脱がさねば何も出来んだろうが」 「脱がすくらいなら、初めから着せなきゃいいだろう?!」 よほどナース服を着せられたことが精神衛生上によろしくなかったのか。 珍しく怒気を露にするカーマインを後目に滑らかな頬に口付けて宥め、覆い隠す布を奪われ外気に触れる 中心を掌に包み込むアーネスト。本格的に抵抗される前に弱らそうという魂胆なのだろう。 ベッドの淵に腰を落ち着け、既に滑る蜜を零していたそれを緩々と扱く。 「・・・、ふぁっ!?」 「淫靡というより・・・淫乱か?」 「だ、黙れっ・・・誰のせいだと・・・っ」 「・・・俺のせい、か?」 批難の言葉は、男にとって甘く響いたらしい。クッと喉を鳴らして笑うと抱えた肢体を更に強く抱え込み、 脚を開かせる。短いスカートが脚を開く度にずりずりと上体へと上がって腿を紅い瞳の前に晒す。 適度に肉を載せた、けれども細く白い太腿はつい強く引っ掻いて血を滲ませてみたくなる、そんな欲求を呼び起こして。 まるで獣のような本能が、理性の箍を外そうとしてくるのをアーネストはそうとは気取られないよう笑みで押し隠す。 「俺のせいなら・・・俺が治してやらんとな」 「何言って・・・アッ!」 「・・・『先生』と呼んだら達かせてやる」 本当は余裕がないのをあくまで強気でやり過ごし、ちらと金銀妖瞳を覗き込む。 馬鹿やら黙れやら強い言葉を吐く割にはもう瞳は潤みきり、欲に溺れ始めているのは目に明らか。 元来、カーマインという青年は潔癖すぎた故か驚くほどに快楽に免疫がなく、それに弱かった。 そのことを知っているのは自分だけだと思うとアーネストの頭に更に血が上る。 グッ、と限界まで追い上げておいて、手の中に握りこんだそれの根元を押さえ込む指先。 熱い息を零していたカーマインは痙攣するように身を震わせ始めた。苦痛と本能の間で揺れているのだろう。 涙を称える異彩の瞳で睨みつけてくるものの、アーネストは首を振りもう一度耳元へ同じ言葉を。 「・・・言わないのか?呼べば楽になる」 「〜〜、だれ、が・・・っく、ぅぅ・・・」 「・・・お前のそういう頑固なところも好きだがな・・・だが、我慢のしすぎは躯に良くないと思うが?」 「うるさ・・・ん、ん・・・・ば・・・かぁ」 根元は押さえたまま、脆い部分を強く擦られて、汗を浮かせながら耐えているカーマインも段々と 我慢しているのが馬鹿らしく思えてきた。大体、もうこんなナース服なんて着せられてる時点で、それ以上の 恥なんてあるのか。霞む脳裏で考えてカーマインは――碌に頭が働かないというのを差し置いても ここまで来て恥らうことは無意味ではなかろうかと思い至り、ほんの少しのプライドが邪魔したけれど唇をぎゅっと 噛み締め、逡巡した後、蚊の鳴くような小さな小さな掠れ声で。 「・・・ッ、も・・・達かせて・・・せん、せ・・・」 「言わせておいてなんだが・・・お前が言うと本当に厭らしいな」 「〜〜〜い・・から、早く、しろ」 「随分と横柄な『ナース』だな」 急かされて、クスリと低音が笑う。 「・・・そういう・・・『先生』だって変態じゃないかっ」 「ん?そうだな、一理ある」 「一理どころの話じゃないだ、ろ・・・」 抵抗の言葉も頬を朱に染めた状態で言われたのでは、可愛いとしか言いようがなく。 戒めを解いて腰掛けていたベッドへと『ナース』を押し倒す自称『医者』。華奢な躯が身じろぐ度に白いシーツに 波が出来る。漆黒の髪が広がると、そのコントラストを引き立たせる白が純潔の証のはずなのに酷く 淫猥な色として緋眼に映り込む。煽られた男の影が『ナース』を覆う。 「・・・こんな妖艶なナースなら毎日検診を受けてもいいかもしれんな」 「誰がするかっ・・・あ、くぅっ・・ん」 薄い生地の上から胸元を嬲られて、つい紅い唇から甘えた声が漏れる。それに気を良くした男の手は 片方は少しだけ前を肌蹴させ、服の下に。もう一方は熱い吐息を零すふっくらした口元をなぞり。 何事かを言いかけたのか薄っすら覗いた小さな舌に自分の指を絡ませる。ぐちゅり、溢れ出す唾液が 卑猥な音を響かせ、舌を愛でる指先がより愉しげに蠢く。 「ん・・・、ゃ・・め・・・んぐっ」 「止められたら困るんじゃないのか・・・?」 「・・・ふ、ぅ・・・」 拒絶の言葉は更に指を押し込むことで遮り、直に肌に触れさせている掌で薄い胸を撫でる。 ゆっくり円を描くように動かしていると徐々に胸の淡色が硬さを持ってくるのが分かり、力を加え時折 爪の先で引っ掻くと嘘みたいに押し倒された四肢は嬌声と共に跳ねた。 「あ・・・あ・・・」 「躯の方は恐ろしいほど素直だな、お前は・・・」 「ば、か・・・ぃ・・ぅな・・・・・」 「褒めているんだが?」 口腔を犯す指は引き抜いて、代わりに自分の唇を含ませてやりながら、唾液に濡れた指先は蜜を流してヒクつく 象徴を過ぎ、更にその奥に触れる。きゅと口を閉じた窪みに湿った感触が当たっただけで他人の熱が入り込んでいる 唇からくぐもった喘ぎが溢れ出す。 ああ、なんて愛らしい。 薔薇色に染まる頬も、涙を纏った微細に震える長い睫も、乱暴に振り乱される黒髪も、受け止めきれずに 口端から滴る唾液も敏感な肌も何もかも。いつまで経っても初々しい、けれども酷く扇情的な反応が アーネスト=ライエルという理性の男を惑わせる。 「・・・痛いくらい締め付けてくるな。お前のここは・・・」 「ひゃ、ぅ・・・駄目、だ・・・そこ・・・あぅ」 「駄目じゃないだろう?ほら『先生』に何処を治して欲しいのか言ってみろ」 「〜〜ッ、おま・・・後で覚えてろ、よ」 「お前が覚えていられたら、な・・・」 意味深な言葉の後、とうにカーマインの熱い内部へと潜り込んでいた長い指先が覚えのある、しこりを引っ掻く。 柔らかい肉壁の中で唯一硬さを持つその場所は抗いようのない悦を全身に響き渡らせ。 「んあぁ・・・!」 甘美な悲鳴が犯されている躯から搾り出される。びくんと大きく弾んだ肢体はシーツを最早シーツとしての 機能を失わせるほど掻き乱す。更に身じろぐことでずり上がった短い丈のスカートは卑猥に下肢を露にする。 蜜で濡れそぼった中心も、そこから伝い落ちた蜜が濡らす内股も隠すことなく晒し出し・・・。 「・・・全裸より卑猥な光景だな」 「誰の、せ・・・だっ」 「俺、だろう・・・?」 だからこそ、こんなにも血が騒ぐ。常は凛としたこの青年をこんなにも乱しているのは自分だけなのだと。 思うだけで欲が膨れる。気づけば本当に人間なのかと疑いたくなるほど如何なる時も涼しげで汗一つ浮かべている姿を 見せたことのないアーネストの肌を、滴るほどの汗が汚していた。ふと、あまりにも可愛い表情を見せつけてくる カーマインに対し、抑えきれない衝動が迸り。その衝動のままに、ぐちゅぐちゅと音を立てて内を探っていた指を引き抜き、 既に大胆に開かれている細い脚を寝そべる上半身に押し付けるようにして、腰を男の眼前に突き出した姿勢を取らせる。 「ちょ・・・アーネ・・・やっ!」 「今は『先生』・・・だろう?」 「・・・本当にやめ・・・」 自分のはしたない部分が視界に映るという恥ずかしい格好にさせられただけでなく、まるで見せ付けるように アーネストの長い舌が秘所を舐め上げる。ぴちゃりと湿った音がやけに大きく耳に届く。 あんまりな自分の状態に、カーマインは羞恥に染まる顔を両腕で覆い、悦楽による生理的なものとは違う涙を零す。 初めは音もなく、次第にしゃくりあげるような泣き濡れようにアーネストはしまったと思う。慌てて無理な体勢を 強いている躯を解放してやり、顔を隠す腕をそっと退けた。 「・・・カーマイン」 「・・・っく・・・やだって・・・ぃっく・・・ぃった・・・・」 「・・・ああ、すまない。俺が悪かった・・・だから泣くな・・・。いい子だから」 肌に張り付く黒髪を優しく払ってやり、滑らかな曲線を撫でる。汗に紛れて伸ばした掌に感じる涙の冷たさに 罪悪感が募ったがアーネストはそれも自分が招いたことだと、今は自分よりもカーマインを優先しようと 異彩の瞳に溜まっている塩辛い雫を唇を寄せて吸い上げ、頬に瞼に鼻先に口端へとキスをして、最後に潤む 色違いの瞳をじっと真摯な目で見つめた。 「・・・・やはり、怒っているか?」 「・・・・・・・・怒ってる」 「・・・すまん。もう、お前が嫌がることは絶対にしないと約束する」 「・・・・本当に?もう、変なことするなよ?」 くすん、と鼻を啜って涙を乱暴に拭うとカーマインは間近の整った顔に手を添えて。 言葉通り心底反省しているらしい様子に苦笑して、そっと白銀の頭を抱き寄せる。そのまま、近づいた耳に口寄せて。 意趣返しのつもりか少し強めに噛み付いた。 「・・・ッ」 「次は・・・こんなものじゃ済ませないからな。それこそ・・・『一番痛いところ』を噛み切るぞ?」 「・・・気をつけよう」 一番痛いところ、と言われて想像した場所にアーネストは変な汗が滲むのを感じた。もし、自分が想像してるのと 違わぬ場所のことであるならば、ある意味生死に関わるほどの痛みであろうと顔色を青くする。 くれぐれも気をつけねばと再度自分に言い聞かせ。さてどうしようかと逡巡する。 このまま続けて良いのか、それとも止めるべきなのか考えて。 カーマインのためを思うのであれば止めるべきなのだろう。喩え自分がどんなに苦しくとも。 膨れ上がり下穿きを押し上げてくるそれを情けなく見下ろしながらもアーネストは一つ息を吐き、覆い被さっている 痩身から降りようとしてしかし、きゅっと服の裾を掴まれたために一瞬全ての動きを止めた。 「・・・カーマイン?」 「誰が、終わりにしろと言った・・・?」 「しかし・・・嫌と言ったではないか」 「変なことは、な・・・。でも・・・・俺は、その・・・お前に抱かれるのは・・・嫌じゃ、ない」 小さな、それこそ意識していなければ聞き落としてしまいそうなほど小さな掠れ声の告げた内容に アーネストは思わず殺されそうになった。あまりにも組み敷いたその存在が可愛らしすぎて。 降りかけた躯はすぐさまもとの体勢へと戻り、赤くなって縮込まる愛しい人の綺麗な顔をゆっくりと見つめ微笑む。 「お前は・・・後で後悔しても知らんぞ?」 「・・・・こんな格好させられて、追い上げられて・・・放って置かれる方が辛いな」 「・・・そうだな。こんな状態で放って置かれたら・・・溜まったものではないだろうな」 クツクツと喉を鳴らし、アーネストはつんとカーマインの脚の間で震えるそれの先端を突付いた。 先走りが爪の先から指の根元までを卑猥に汚す。 「ぁ、ん・・・触る、な・・・」 「触って欲しそうに見えたんだが・・・?なら此方がいいか?」 「んんぅ・・・や、め・・・・も、い・・・から」 限界近いだろうに、中々堕ちてくれない恋人に呆れ半分、感心半分といった様子で、恋人の体液に濡れた 指先を丁度いいとばかりに、先ほど途中になってしまった蕾の中へと傷をつけないように優しく、けれども 躊躇うことなく潜らせる。ほんの少し襞を撫でてやるだけでヒクンと柔らかくなり始めたその場所が指を締め付け。 求められていいる実感と共に先を促される。 「・・・ッ、アーネ・・・ト・・・も・・・い・・から・・・早く・・・れて・・・」 「ん、何だって?」 「・・・聞こえただ、ろ・・・性格わる・・・な」 「大事なところが聞こえなかったんだが・・・それ以前にまだ早いだろう?」 もう少し馴らさなくてはと内側を犯す指先が中で折り曲げられる。奥を擦られて敏感な肢体は浮き上がった。 全身が愛撫に震えている。分かるだろうに惚けた振りをしてくるアーネストにカーマインは眉間に皺寄せ。 かといってこれ以上は本当に限界で靄のかかる頭で悩んだ結果、自尊心を捨て自身を組み敷く男の頭を引き寄せ耳打つ。 「・・・お願いだか・・ら・・・『先生』のコレで俺のこと・・・治して・・・?」 頬はおろか耳まで赤くし、情欲に濡れた瞳で覗き込みながらカーマインは。 ほっそりした腕をアーネストの下肢に伸ばし、やんわりとその中心へと指先を当てて。誘うように、触れる。 こんな真似をする自分を殺したくなるほどの羞恥がカーマインを襲うが、自分の手の下でぴくりと反応したそれに 少しだけ気が晴れる。馬鹿げた誘惑がどうやら成功したようだから。 「・・・はあ、全く・・・前言撤回だ」 「ん・・・?」 「お前は『いいこ』じゃなくて・・・・『悪いこ』だな?」 「フフ・・・そ、・・かも。だから、治して?」 この期に及んで扇情的に甘えてみせるカーマインにアーネストは深く溜息を。 けれど彼をこのようにさせたのは自分だという自覚があるゆえに苦笑して『悪いこ』の脚を再度持ち上げ、 膨れ上がった己の欲を、煽ってくる可憐な蕾に押し当て、焦らすように数回擦りつけた後に力を込める。 細い腰を押さえつけ、自重で押し開いていく。狭い入り口が苦しそうに閉まる。けれど。 「ああぅ・・・あ、っ・・・な、か・・・入って・・・うあっ」 「くっ・・・キツいな。少し、緩めろ」 「・・・あ、ぐ・・・は・・・ぅ・・・」 止めるという選択肢は最早頭から抜けていたアーネストは、構わず折れそうな細腰に自分自身を穿つ。 邪魔なスカートを臍の辺りまでたくし上げて緊張に強張る躯を解そうと、未だ淡い色のカーマインの欲を、包み込み 上下にゆるゆると扱く。苦悶の吐息が僅かに愉悦を含む。肌に這う汗が光を弾いて真珠のような光沢を放つ。 「は・・・、お前にかかると・・・清楚な白も・・・淫らだな」 「なっ!・・・そ・・いう自分だ、って・・・ムッツリなくせ、に・・・」 「男の性だ、諦めろ。代わりに、これ以上なく・・・可愛がってやる」 蝶よ花よと、嫌になるくらいの情愛と快楽をアーネストは捧げる。それだけ今この瞬間に腕の中に抱く存在が 愛おしいから。ぎゅうとシーツを握り締める細い手を掬い上げその甲にふわりと口付ける。騎士が姫君にするように。 行為の最中とは思えぬほど優雅な所作で。更に手首に、鎖骨に、首筋に、耳朶に口付けて顔中にキスを。 貫かれているのを忘れてしまいそうなほど、穏やかな愛に触れてカーマインは戸惑う。 本来、男が男に組み敷かれるなど屈辱以外の何物でもない。喩えそこにあるのが紛れもない愛情であっても。 本能が拒絶するものだ。なのに、初めの頃こそ抵抗はあったが、何度も躯を重ねる内、抱かれることが いつの間にか幸福なことだと感じるようになっていった。拒絶するどころか求めてしまうほどに。 与えられる愛が酷く優しくて穏やかで、暖かい。生まれて初めて母親に口付けられたように安堵を生む、愛。 何を強要されても、許してしまいそうになるほど。愛される度に、愛おしくなる・・・。 「アー・・・ネスト・・・」 「ん・・・?どうした、カーマイン」 「もっと・・・痛くしても、い・・・ぞ?お前の、好きに・・・」 知らず知らずの内に無償に近い愛故、カーマインの躯にかかる負担を減らそうとアーネストが加減をしていることに カーマインは気づいている。息は絶え絶え、開きっぱなしの口端から唾液を零し、無意識に腰を揺らすほど 乱れていながらも。大切にされていることは誰に言われずとも分かっている。分かっているからこそ、ほんの少し寂しい。 我慢ばかりをさせていることに。そして自分ばかりが幸せにしてもらっていることに。 「ね、俺で・・・達って・・・?」 偶には道具のように扱ったって構わないから。焦点の合わない瞳で見つめながらカーマインはうわ言のように呟く。 愛しているのは、アーネストばかりじゃない。自分もそうなのだと。口にすることはきっとないけれど。分かって欲しいと カーマインは力の入らぬ腕でうっすらと汗をかいている大きな背中に抱きつき、更に自分の脚を絡ませる。 「俺が、治して、やるから・・・お前の飢えも、ぜん、ぶ」 「・・・骨が折れると思うが?」 「知ってる・・・。それでも、満たして・・・やる、から・・・お前も俺を、みた・・せ」 「お前は・・・淫らなのか可愛いのか・・・どちらかにしてくれ。身が持たん」 「ば、かぁ・・・」 可愛げのない、可愛らしい言葉にアーネストは「知ってる」と返し、これまでになく誘惑をしてくる青年の口腔を蹂躙し、 熱い喘ぎを飲み込みながら誘われるままに下肢を犯す。抽出を繰り返す度に粘着質な水音が響き鼓膜すらも犯した。 身を焦がす切ないほどの快感が二人の躯と心を繋ぐ。性感を助長するためだったはずのナース服すら剥ぎ取って 裸の胸を重ね合わせ、互いの常より早い鼓動を聞き、安堵と興奮という両極端の感情の間を行き来して高みを目指す。 初めから、必要だったのは互いの存在だけ。余計なもので着飾って得る欲望よりもよほど心地良い―――。 「ああ・・・カーマイン、俺は・・・っ再確認、した・・・」 「な、に・・・アッ!」 「俺は、お前がいれば・・・くっ・・・他に、何もいらない・・・」 「あ、ああっ・・・・・・ぁ・・・ッ!」 強く深く穿たれて、一番深く踏み込まれた瞬間。脳裏すらも犯す白い奔流がカーマインを襲った。 熱く生々しい想いの欠片を注がれて、カーマインは喉を引き攣らせながら甲高い悲鳴を上げて糸の切れた 人形のように静かに、けれども美しくシーツの波に果てた。 ◆◇◇◆ 「・・・・ちゃんと・・・治った?」 荒い呼気の間に、酷く優しく微笑まれてアーネストはこくりと小さく頷くと、未だ熱の覚めやらぬ躯で 華奢な四肢を力の限り抱きしめた。この瞬間ばかりは乾きも飢えも遥か彼方の遠いもので。 「・・・俺は、お前がいればそれでいい・・・お前のために俺は生きる。 苦手だが・・・医者にも掛かる。一日でも永くお前と共にいられるように・・・。 喩え世界が俺を殺そうとしても・・・俺はお前の傍で、生きる」 「ああ・・・俺のために・・・永く生きてくれ。そのためなら、俺は何だってする、から・・・」 今日のように。アーネストが望むのならプライドも捨てる。特別な、人だから。失いたくないから。 繋ぎ止めるためならばきっとどんなことでも自分はするとカーマインは思う。アーネストも同様に。 二人でいることが二人にとって何よりも幸せなことだと無意識のうちに知ってしまっているから―――。 遠い遠い何時の日か。 逃れられない別れが来たとしても。 繋いだ手の中には、甘い甘い甘い・・・。 fin 医者プレイのはずですが何だこの駄文。 と思ったので裏とは別の隠しにしてみました。 バカップル万歳(え?) |
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