茨姫の棺







人は寂しい。

人は悲しい。

人はおかしい。

そして、とても愛しいもの。



人は醜い。

人は苦しい。

人は愚かしい。

だからこの手を離せないでいる。



―――ずっと抱いていた、疑問の答え



けれど、それを失う日はもう間近な事にも

とっくに気づいていたけれど。





Act15:序曲の終焉







小鳥の囀りが耳に届き、カーマインは目を覚ました。辺りはまだ薄暗い。人が目覚めるには少し
早いくらいの時間だろうか。もう一度寝直そうかと身を捩ると何か暖かなものに触れる。何だろうとペタペタそれに
触れてみれば、それは紛れもなく人肌だと分かり・・・・

「!!!」

ギシリと軋んだ自身の身体も何のその。カーマインは驚きに全身を大きく跳ねさせた。今まで薄暗くてよく
見えなかったが、自分の隣りには自分と同じく服も纏わずに深く寝入る男の姿があり、しかも彼の腕は自分の背へと
しっかり回されている。そこで漸くカーマインは昨夜自分たちのした行為を思い出した。

「〜〜〜〜」

納得して、自ら望んだ事とはいえ済んだ後にはやはり罪悪感と羞恥が残る。あの時、大怪我をして帰ってきた
アーネストを見てカーマインは少し冷静ではなく、同様にアーネストも冷静ではなかった。大輪の花を咲かすような
満月に唆されたのか、二人して倫理感も今の状況も全て忘れて抱き合ってしまい今に至る。

もし、昨日の事は弾みでした事だとアーネストに言われてしまったら、自分はどうすればいいのだろう。
カーマインは眉間に皺寄せる。おまけに熱情を分け合っている間、理性のたがが外れて色々それまで意図して
黙っていた事を口にしてしまった気がする、と浅はかな自分をカーマインは呪った。一体何処まで話したか。
それすら憶えていない。ただひたすら、アーネストによって熱を煽られ、自分を曝け出させられてしまった。

「俺は馬鹿か・・・・」

口に出してみると余計にそう思えてくる。だがそれも仕方のない事だった。ずっと、己の想いを抑圧してきたのだから。
相思相愛が露見した瞬間にそれが弾けてしまったとしても誰に咎める事が出来ようか。命を脅かされていては尚の事。
行為に及んでカーマインは自分が思っていた以上にアーネストを愛しく想っている自分に気づいてしまった。
彼を傷つけないように、ずっと想いを秘めていようと心に決めていたのに。彼からの告白でその決意が一瞬で崩れ、
自分の想いを口にしてしまっていた。そしてその想いは、ずっと耐えてきた筈の死への恐怖を呼び覚ました。
こんなに愛しい人がいるのに死にたくない、と。この人に自分の事を忘れられたくない、と。
それは今まで自分が願っていた全てを覆したと言っても過言ではない。

自分はずっと、自分が死んでも誰も苦しまないように、自分の事は忘れて欲しいと思っていた筈だ。
それなのに、忘れないで欲しいなんて。何を言っているのだろうと自分でも思う。けれど、その贅沢な言葉に
アーネストは忘れる筈がないと言ってくれた。望んではいけないのに、その言葉を聞いた瞬間カーマインの心臓は
このまま壊れてしまうのではないかと思うほど震えて。今この瞬間もアーネストに抱き締められ、鼓動が跳ねる。
日に日に弱まっていた自身の心音がこんなに煩いと感じたのは初めてかもしれない。少しでも落ち着きたくて
アーネストの腕の中からカーマインは逃れようと身じろぐが、途端に逃がさないとでも言うかのようにアーネストの腕の
拘束が強まる。結果、より密着した肢体にカーマインは半ば生きた心地がしないでいた。

「・・・・・・・・・・・・・・」

この状況を一体どうしたらいいのだろう。密着し、顔を平らな胸へと押し付けられたカーマインは身動きが取り辛いにも
拘らず首を傾ぐ。自分の髪が目の前の肌に擦れた音と当てられた胸の奥から響く鼓動を拾う。規則正しいそれは
取り乱している頭を少しだけ落ち着けてくれる。無意識にもっとそれを聞きたくてカーマインは自らアーネストに擦り寄る。
その際、自分に回される腕に痛々しい火傷の痕を見つけ金銀の色違いの瞳は見開かれた。行為の最中はそれどころ
ではなかったがこの傷の他にもアーネストはローランディア襲撃の際に肩と脇腹に傷を負っていた。
キュアで塞いだと言っても失った血はそれで癒す事は出来ない。ハッとして健やかな呼気を漏らす顔を覗けば思った通り
青白い。貧血気味なのだろう。治してやる事の出来ない悔しさに唇を噛みながらカーマインは労わるようにアーネストを
抱き返す。こうしていると自分が女の子にでもなったかのような気分になってくる。

「・・・・・変なの」
「・・・・何がだ?」

独り言に返事が返ってきてカーマインは再び目を瞠った。いつの間にか腕の中の男は目を醒まし、自分の事を
深紅の瞳で見下ろしている。しかも心持ち嬉しそうに口元を綻ばせて。一体何を笑っているのか。考え、カーマインは
答えに達する。慌てて広い背中に回した手を離す。すると、顔色は悪くとも端正なそれは残念そうに歪められ。

「なんだ、もう離すのか・・・・」
「な、い、一体いつから起きて・・・・?!」
「お前が俺から離れようとした時だが」
「!!?」

つまり自分からアーネストに擦り寄ったり、抱き締めたりした事は知っているという事だ。カーマインはその事実に
憤死しそうになった。今更ながらにもがいて脱出しようとするが、やはり腕の拘束は強まり、それを許してくれない。
無駄だとは思いつつ、カーマインは言葉で解放を望む。

「アーネスト・・・離してくれ」
「断る」
「・・・・・即答なのか」
「こんな事、お前の身体の事を考えるともう二度と出来ないだろうからな。浸らせてくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

確かに身体の弱り具合から言ってもう二度と行為に及ぶ事は無理だろう。そんな相手を好きだと言ってくれたのだ。
感謝しなければならないのだろうとカーマインは抵抗を諦めた。目を閉じて拘束を受け入れる。何も触れ合うだけが
愛情の示し方じゃないとは分かっているが、この方がお互い分かりやすい。恥ずかしいと思う気持ちもあるが
それには敢えて気づかないフリをカーマインは決め込む。

「・・・・・カーマイン」

真っ赤に染まった頬を見られぬようにと顔を埋めていたカーマインは名を呼ばれて少しだけ上を向く。
すると先ほどとは打って変わって真摯な瞳と目が合った。

「・・・・何、アーネスト?」
「いや・・・身体の方は大丈夫か。無理を強いてしまってすまない」
「・・・・今は安定してる。アーネストこそ怪我は大丈夫なのか?」

肩口を柔らかく触れてみれば、軽く微笑まれた。痛みはそれほどないのだろう。血が不足しているだけで。
節くれだった長い指先が黒髪に絡む。暫くそうして髪を撫でていたアーネストだったが表情は安らいでいても、
やはり顔色が悪い。カーマインはアーネストの手を止めて休むよう促す。

「アーネスト、顔色が良くない。ちゃんと休まないと・・・疲れを取らなきゃ動けないだろう」
「・・・・・確かに。いざという時に動けないのはまずい・・・」
「だろう?ヴェンツェルもいつ何を言ってくるか分からないんだ、ちゃんと休んで・・・っ」

口煩いと思われるのを覚悟で窘めるカーマインだったが、その途中で口を塞がれて黙らされる。互いの顔が
ぼやけて映るほど近い距離。数日前までは考えられなかった、その距離。知らず身体が強張った。

「・・・・・・嫌なのか?」
「あ・・・・いや、驚いただけだ」
「そうか」

忙しなく瞬く長い睫毛を見咎めて、アーネストはほっと息を吐く。

「お前が嫌がる事はしないと誓った身だからな・・・さっそくそれを破ってしまったかと思った」
「・・・・言っただろう。俺は君になら・・・・・何をされてもいいって・・・」
「ああ、そうだったな」

今はその言葉に甘えるとしよう、と耳元に囁いてもう一度軽く口付けると漸くアーネストはカーマインを解放した。
ゆっくりと身を起こし、ベッドの傍に落ちていたローブを拾い血がべったりと付着しているのを見て眉を顰めると
仕方なく部屋に備え付けられていたクローゼットまで歩いて別の上着を纏うとカーマインにも差し出す。

「・・・・暫く呼び出しはないと思うが・・・まあ、いつ呼ばれてもいいように何か着ておけ」
「あ・・・うん・・・ありが・・・・ッ!」
「!」

渡されたシャツを手に取ろうとした瞬間、白魚のように美しい腕がピクリと引き攣り、ベッドへと落ちる。
嫌な予感がアーネストの頭を過ぎった。

「カーマイン!」
「・・・・大丈夫、少し・・・・身体が痛んだだけだから」
「・・・・・・・・・・・すまない」

シーツの波に突っ伏した黒髪を気遣い、そっと背を撫でる。肌理の細かい、滑らかな肌。まるで少女のような。
初めて会った時は、もっと逞しく感じられた肢体は日に日に線が細くなっていく。仕方ないとはいえ、このところ
眠ってばかりでろくに食事をしていないのも原因の一つだろうが、やはり磨り減っていく命のせいなのだろう。
一体あとどれくらい彼は生きられるのだろうか。自分の寿命を分けたといってもそれがどれほどなのかも
よく分からない。次に眠りについた時はもうそのまま目覚めないかもしれない。考えるだけでぞっとした。

「・・・・アーネスト?」
「・・・・・・・休んでいろ。ずっと看ている・・・」
「うん・・・・そうする。少し、疲れた・・・・」
「おやすみ・・・・俺の、茨姫・・・・」

いつ死んでしまってもおかしくないというのならせめて、最期の最期の時まで傍近くで見守っていようと
気だるげなカーマインの閉じた瞼に軽く口付けて、アーネストはうっすらと翳った笑みを零した。



◆◇◇◆



「今回の被害は?」

静まり返った大広間のソファの上で如何にも勝気な少年の声が響く。それに対し彼よりも年長な青年は
独特の穏やかな、しかし何処か暢気な印象を与える口調で答える。

「サンドラ殿に聞いた話に寄れば、王都駐屯軍のおよそ三分の一が壊滅、市民に死人こそ出ていないものの
負傷者がニ十数名。戦いを苦手とするローランディアにこの被害はダメージが大きいでしょうね」
「しかも街中血痕と死体だらけ。女子供の泣き声がひっきりなしに聞こえて気分が悪ぃな」

耳を澄ませば、街中からすすり泣きと葬儀の鐘の音が届いてくる。墓地には取り急ぎ作られた簡易の墓石が
ずらりと立ち並んでいた。その惨状に国民は涙し、王は嘆く。それでも、抑えた方なのだ被害は。
だから、余計にやるせない気持ちになる。ふっと息を詰めて青年、リーヴスは向き直り。

「・・・・・結果的にゼノス君を呼びにやってよかったかもしれませんね。彼と彼の妹さんのおかげで怪我人の
治療が何とか行き届いているようです。これ以上の人死には出したくないですから・・・・」
「どうして・・・・どうしてこんな事になっちゃったの?」
「どうしてか?そんな事を考えている間に現状をどうするか考える方がよほど建設的だな」

ゼノスとカレンを迎えに行っていたため、現場に立ち会っていなかったルイセやミーシャらは戻ってきて
目にした惨状に暫く口も利けないほどショックを受けていたのだが、怪我人を黙々と治療するラングレー兄妹を
前にし漸く気丈を取り戻すと、リーヴスたちと今後の方針を話し合う事にしたのだが、中々話が進まない。
というよりもあまりに大きな被害状況と次の標的は何処かなどと言う物騒な話ばかりで少女たちには辛いのだろう。
浮かない顔ばかりみせていれば、リーダーを名乗るリシャールがしっしと手を払ってみせた。

「話についていけないのなら、席を外していろ。正直邪魔だ」
「邪魔とは何よー。ルイセちゃん言い返してやんなさいよ!」
「ティピ、いいよ。私たちここにいても落ち着かないし・・・カレンさんたち手伝ってくる」
「あ、ルイセちゃーん・・・・・んじゃアタシも行こうっと」

パタパタとミーシャの腕を引き部屋から出て行くルイセの後をティピが追う。華奢な背が遠ざかっていくのを確認し、
リシャールは深くソファに座り直す。ギシリと革張りの生地が軋んだ。

「・・・・リシャール様、何もあんな言い方をしなくとも」
「女子供が首を突っ込む事でもないだろう」
「そういうお前さんも子供じゃあないのか?」
「私には王の血が流れている。・・・・紛い物だがな。国の行く末に責任を持たねばならん」

例え齢が幾つであろうとも。告げる少年の瞳は王のそれ。確かに彼には年など関係がない。そう、ついこの前まで
敵対関係にあったはずのウォレスも感じた。しかしそれ以上に感じるのは、この不敵な少年が必死に隠すもので。
皆の前で言わない方がいいのだろうとは思ったが、逆に彼だけに言っても聞き入れなさそうだと溜息一つ漏らし
ウォレスはリシャールの肩をぽんと叩く。

「・・・・・何だ?」
「お前さん、相当無理してるだろう。こんなところで優雅に足組んでねえで休んだ方がいいぜ」
「・・・・・・何の事だ?・・・と恍けたところで気づかれているのだろうな。どちらにしろラングレーがいなければ
話を先に進められん。私はパワーストーンの精製のために身体を休める。オスカー、分かってるな」
「はい、ゼノス殿が戻って来られたらお呼び致します」

深々と頭を下げ、主君を見送る家臣の青年をウォレスは不思議な気分で見ていた。
あまり付き合いが長いわけではない自分が気づく事にこの青年が気づかなかったはずはない。それなのに、
彼は何故黙っていたというのか。訝しむ視線に気づいたのかリーヴスはにこり、笑み。

「ウォレス殿、助かりました」
「あ?何がだ」
「ウォレス殿が言って下さらねばあの方は休んで下さらなかったでしょうし」
「お前が言えばよかったんじゃねえのか?」
「いえ、リシャール様は僕の言う事なんか聞いてくれませんし、むしろ言えば怒り出したに決まってますし」

自分の身体より矜持を大事にする人ですからねえとへらへら笑うとオスカーはリシャールと入れ替わりになるように
ソファへと座り込んだ。何となくウォレスもそれに習い横に腰を下ろす。

「・・・・・・心配じゃねえのか?」
「何がですか」
「お前さんとこの坊ちゃんだよ」
「心配しても無駄なんですって。幾らウォレス殿から言われたからにしても
あのリシャール様が素直に言う事聞いたんですよ?相当身体の調子が悪いに決まってます」

さらっと言ってのけリーヴスは目前のテーブルに置かれたカップを手に取り、紅茶を口に含む。
その表情からは焦りや動揺は全く見られない。そして彼の様子からウォレスは悟る。

「それはつまり・・・もう心配してもどうしようもないとこまで来てるって事か」
「ええ、止めたって無駄なんです。あの方は自分の矜持を守るために死ぬ気ですよ」
「それをお前は見過ごせると?」
「助かる道がないのなら、思いのままに。それが僕があの方にして上げられる最善の事なんです」

薄情とも取られかねない科白を途惑いなく口にするリーヴスからは一種の覚悟が感じられた。
ウォレスは隣りで眺めながら苦笑し。

「なんだってこう、オレの周りにゃ頑固な奴ばっかいやがんのかねえ」
「それはあれでしょう」
「?」

悪戯っぽいラベンダーの視線を正面に受け、茶金の長い髪は首の動きに沿って揺れる。
そんな年長の男を見やってリーヴスは更に目を細め、一度止めた言葉の続きを唇に乗せた。

「フフ、簡単な事です。類は友を呼ぶ、って奴ですよ」
「・・・・・・人を勝手に頑固親父にするな」
「おや、違うとでも?」
「いいや、違いねえ」

返って来る答えを恐らく初めから分かっていたのだろう。ウォレスがニッと笑うとリーヴスも状況を忘れ
声を立てて笑った。きっと今笑っているのは自分たちくらいだと周囲の陰鬱さを分かった上で、それでも二人は
色違いの声を混ぜるようにただ笑っていた。



◆◇◇◆



階下から場違いな笑い声が届いてきて、ベッドでもぞもぞと身じろいでいた少年は眉間を顰めた。
睨みつけるように斜め下の床を見下ろす。天井を挟んでいるので下は見えない。けれど睨みつけた。
その視線が気づかれるはずもないと分かっていて。

「・・・・・ったく、暢気な奴らだ」

舌打ち一つ漏らし毒づくと柔らかな感触の枕に頭を深く預ける。見上げた天井には照明があるだけで他に
これといってめぼしいものはない。ちらと壁際の窓へと視線を移す。ほんの少しだけ開いたそこからは清浄な風が
吹き抜け室内に涼を運んできた。

「・・・・随分涼しくなってきたな・・・・季節が巡るか」

暖かかった日々が過ぎ去り、涼しくなってくると何故か心も何処か寂しくなってくる。いやもう、季節のせいなどでは
ないのかもしれない。自分の小さな身体の中の生きる力が日に日に弱まっていくのがよく分かるからだろう。
生気のない人間はどうしても弱気になる。死というものが近づいてくる恐怖に少なからず身が竦む。
それは孤独の王と称されたリシャールも例外ではなく。

「私はあとどれほど生きられるか・・・・考えるだけ無駄、か・・・・。
それよりもあのジジイに一矢報いるまでは体力を温存しておかねば・・・犬死は御免だからな」

唇を噛み締め、蒼い瞳はきつく細められる。己の矜持を守ったところで何が残るわけでもない。それくらい分かっていた。
それでも己の信念や思いに土足で乗り上がられれば誰だって憤るだろう。まして己の死が迫っているのなら。
何か一つくらい守って死にたい。そう、思っても。昔ならば友を、民を守りたいと言っただろうか。けれど、自分に
死期が迫って、離れていった親友を見ていてリシャールは思ってしまった。

自分が守りたかった者たちは、自分が守らなくてもきっと生きて行けると。
自分がかつて友を民を国を守りたかったように、その守りたかった者たちにもどうしても守りたいものがあるのだ。
それは物だったり人だったり場所だったり時間だったり色々ではあるけれど。それでも、それぞれに何か一つは
守りたいものがある。守りたいものがある者はとても強い。守る必要がないくらいに。それらを全て守りたいなんて
驕りが過ぎる。胸の中の一点はたった一人の身でも守れるギリギリの大きさで充分なのだ。それ以上を望んだって
二本しか腕のない生き物には難しい。望んだ分だけ取り零すだけ。ならば、守るものは一つに絞った方がいい。
この弱りきった身体では尚更の事。

「・・・・・・独り言なんて・・・アイツのクセが伝染ったかな」

脳裏に今は遠く離れてしまった友の姿を浮かべ、リシャールは自嘲と共に強い光を宿した碧眼をそっと伏せ、
押し寄せる睡魔に身を委ねた。一人寂しく、けれど階下に仲間の存在を確かに感じて、ただ。
次に目が覚めた時、終焉へのオーヴァチュアがやがて胸を抉るフィナーレの旋律を奏でるであろう事に
僅かな焦燥と恐れそして対となるような安堵と希望を抱いて―――





終焉への序曲は静かに幕を閉じて、

新たな旋律が耳に届く。

胸に刺さり貫いて、

痛みだけを残していく悲しい悲しいその詩を。


耳を塞いでも、それでも。

旋律の終わりはすぐそこまで。

視線の先に映っている事に皆が心の何処かで知っていた。


さあ、終わりの歌を始めましょう・・・?






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一応前回が裏だったので、裏を見てない方にも分かるようにと
前回の内容を入れてたらあんまり話が進んでない事に気づきましたが
次には必ず!もうクライマックスに入ってきてる・・・はずですので(今の間は?)
多分あと3回くらいで終わるはずです。多分!(強調してきた!)

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