※CAUTION

こちらは霧生様とのチャットから発生した特別設定です。霧生様発信なので霧生様宅のご令嬢カーミラ嬢と我が家の
ユリアが双子でリシャール生存→問答無用でアニー共々双子の執事にという設定です。
推奨CPはリシャール×カーミラ(女主)、アーネスト×ユリアです。




早朝。
令嬢は、ひっそりこっそり忍び込む。
……どこへ? 何しに?



偵察ミッション 〜ユリア・フォルスマイヤー嬢のやまだかつてない試練〜




それは俺に課せられた試練。
乗り越えなければ未来はなく、しかし乗り越えてもまた未来はない。
いろんな意味で人生ギリギリ崖っぷち、元男現女、ユリア・エルネスト・フォルスマイヤー17歳。

最初に俺は、その試練から逃げるという選択肢をとった。
……逃げられなかった。
既に包囲網は狭められてしまっていて、かつては味方であった人間も皆敵となってしまっていた。
国外追放の身からいまや領主としての俺たちの良き補佐役となってくれているアーネストさえ。

自分が袋のネズミだということを痛感した俺は、続いてまだ自分にダメージが少ない手段で解決を試みた。
……足元で機雷が三つ、大爆発した。
俺の選択したそれに対し、ルイセ、ティピ、ミーシャの三人が大ブーイング。
結局、俺に残されていたのはいろんな意味でダメージの大きい選択肢だけだった。
臆病だといわれるかもしれないけど、誰だって自分に降りかかる火の粉は振り払いたいものだ。
それが自尊心とかプライドとかそんなものを揺るがすならなおのこと。

さて結局俺に残された道が一本きりになった今、俺は非常に悩んでいた。
いろんな逡巡と葛藤と何日かの眠れない夜ののちに腹をくくって、いざ現実と戦おうというときになって
『どうしていいか分からない』。
何しろこの現実に対処するための情報も、そういう経験もない。
だから、下手な相手に教えを請えばどうなるか……ああ、想像しただけで恐ろしい。

そこで俺は、身近な……そう、もっとも『俺に近い』奴から情報を得ることにした。
当人には内緒で。


■ ■


早朝の、静まり返った屋敷の中を俺は歩く。
ほっかむりに忍び足と言う古典的泥棒スタイルで。
自宅内で何をやってると言われても、気持ちの問題なので放っておいて欲しい。
昼日中に見ようにもそんな度胸は俺にはなく、堂々見せてくれと頼む事も出来やしない。

度胸がないと笑わば笑え。
根性なしと言うなら言えばいい。

だが何といわれようと俺にそんな度胸はないのである、まだ。

鍵のかかっていないドアを音もなく開け、忍び込む。
ベッドの上で俺の兄弟、生粋の女であるところのカーミラがまだ眠っている。
起きていてもらっては困るんだ、ちょっとだけ罪悪感を胸にまずは本棚へ。
雑誌の類が収められたスペースを漁り、目的の薄っぺらい冊子を引っ張り出す。
パラリパラリと捲ればそこには魔術書並の異世界がある。
俺にはもはや理解も出来ない単語、単語、単語。
……解読するのは、あきらめた。

今度はクローゼットの引き出しを引っ張り出して、目当てのものを捜す。
幾つかついてる引き出しを順番にあければ、そう時間もかからずに目当ての引き出しを発見。
覗き込んで数秒、俺は黙って引き出しを閉めた。
俺の頭の中だって完全に女の子になったわけじゃない、今見たものに関してはしっかりとまだ男の頭だ。
だが今ここで逃げるわけには行かない、再び引き出しを開ける。
引き出しの中にはきちんと整頓され並べられた魅惑の品の数々。
右を見ろ、まーべらす!
左を見ろ、えくせれんと!
何か発音がおかしいが、もう俺にはそうとしか言えない。

そこにあるのは魅惑の花園、老若問わず男の夢、女性の特権、そう、下着。
色とりどりに咲き誇るそれは男物のそれとはもう別次元で美しさ可愛らしさを追求し、機能美も装飾美も
兼ね備えたまさに職人芸の品々。
少なくとも、俺の持ってる……いや、全般的に男物の下着にはないカラフルさと飾り気の、男的には人類の宝。
服と比べてなんでコイツこんなふりふりの可愛い下着集めてるんだろう。
振り返って寝顔を見ても答えが帰ってくるはずがないけど。
恐る恐る引っ張り出して眺めれば、顔が段々赤くなるのが判る。
こんな風にしげしげと眺めることが殆どなかったからなんだけど……持ち主が兄弟だけに、なんていうかその、
自分がつけてる様がありありと脳裏に浮かんでは消え浮かんでは消え。
それに続いて誰とは言わないけどそれをみて嬉しそうな顔する人の顔が……!
だめだ、れいせいにかんさつできません。
【ステータス:魅了・混乱】、そんなポップアップが頭の片隅を飛んで行き

「……素晴らしい。
 これを発明した人は英雄だ、大変な功績だ」

どこぞの天空の城でどこかの将軍が言ったようなせりふが口をついた。

「なにがすばらしいって?」
「ッッッッッ!」

心臓が口から飛び出るかと思った。
振り返ればものすごく眠たそうな顔の我が姉妹、神様は困っている人には無情だ。
枕を抱えて俺の後ろに立っていたカーミラは俺の内側の混乱状態など知る由もなく、その視線は俺の手元にあるものから
本棚からはみ出している下着のカタログを経て、再び俺の手元にある物体へ。

「……ぱんつ?
 ぶらじゃー?」

言うな、俺の手にあるものの固有名詞を言うな!

「……ほしいの?」
「何でそうなるんだ!?」
「……しげしげみてるから。
 つけるの?」
「いや、この間からルイセとかティピとかミーシャがうるさいから」
「つけるの?」

寝惚けて話が半分通じてない。

「……どんなものなのかと思って、店に行く勇気もないんだ」
「そう」

通じた!
話が通じたことで安堵しようとして、俺は自分の耳を疑った。

「じゃあ、脱いで」
「あ゛!?」


■ ■


「今どんなのつけてるんだって話だったのか……」

全身から力が抜ける。
恥ずかしながら今俺は下着だけになって、上から下まで観察されている。
そんな観察しなくてもなぁ。
ちなみに俺が着ているのはなんの飾り気もないすぽーつぶらとぱんつ……恥ずかしいからそんなに見るなって。

「よくそれでルイセとティピが騒がないね」
「もう騒いでる」
「ああそれで私の下着なんだ。
 てっきり恋の季節かと」
「わー!わー!わー!」

誤解もはなはだしい……うん、誤解だ、誤解。

「そういうカーミラこそどうなんだよ」
「あれだけしげしげ眺めておいて何を言うの」
「あれ一組しか見てない!」

さっきの一組……白いシンプルな、俺の心臓と思考回路に一番負担が少なそうな一組。
ちょっと刺繍がしてあるだけの。

「こんなの」
「わぁぁぁぁぁぁ!?」

ばっさ、と音を立ててカーミラがパジャマの上を普段のジャケットみたいな感じで肌蹴た。
カップのふちにひらひらリボンがあしらってあるそれはシンプルながらなかなか……じゃない!

「おま、お前、恥ずかしくないのか!?」
「女の子同士何を言うの、ちなみに下は揃いで」
「わあああああ!」

見る?とでも言いたげにカーミラがズボンに手をかけたとき、ドタドタと廊下がうるさくなったと思うと……

「どうしたユリア何があっブホッ!」

飛び込んできたアーネストが鼻血を吹いた。
彼には刺激が強すぎたらしい。
鼻を押さえてしゃがみ込むアーネスト、カーミラは手をかけただけで背中が見えてるだけ、ということは

「うわぁぁぁぁん!」

ぼふん。
カーミラのベッドに飛び込んで布団に包まって亀になる。
そう、俺だけなのだ、下着だけなのがまるわかりなのは。

「ユーリィ、泣かないで、彼は喜んでるようだから。
 ほらサムズアップまでして」
「そういう問題じゃないぃぃ!」

ずれた方向性で慰められても全然嬉しくない。
親指をグッと立てて頷いているのが見える……ひどいぞ、アーネスト。

「素晴らしいカーミラ、お前は英雄だ、大変な功績だ」
「二人揃って似たようなセリフを……。
 ……とりあえず部屋から出てもらわないと、ユーリィが布団から出てこないんですが。
 ひいては着替えにも行けないんですが」
「……出来るものならもう少しこのパラダイスを満喫したいんだが」
「リシャールーーー!アーネストが痴漢ーーーーーーー!」
「すまん、すぐ出る、取り消せ!」

俺の叫びに階下から近づいてくる凄まじい殺気。
常になくけたたましい足音が階下、階段、廊下とどんどん近くなる。
もそもそと寝間着を元通りカーミラが着なおすと同時に壊れんばかりの勢いで部屋の扉が開き……。

「アーネストが痴漢とは一体何事だ!?」

鬼の形相でリシャールが飛び込んできた。
布団の中から首だけ出してる俺とアーネストを見て、最後に視線は部屋の主へ。
それを受けたカーミラが黙って指差した先には……俺のパジャマ。
そう、さっき下着をチェックされたときに俺が脱いだパジャマ。

「……そうか、そういうことか」
「あ、あの、リシャール様?」
「アーネスト……どうやら私の教育は甘かったようだな。
 元騎士ともあろう者が、異性の着替えの最中に乱入するとは何事かーーーーーー!」
「違いますリシャール様、俺は決して着替えを覗きに乱入したわけではなくて!」
「下着について話し合っていたところ、ユーリィが大声上げたのを聞いて飛び込んできて眼にしたものに鼻血を吹いてサムズアップ、
 挙句このパラダイスをもう少し満喫したいと発言して先ほどのユーリィの痴漢発言に至ったというのが一連の真相。
 だよね、ユーリィ?」
「ほぅ」

目が、目が怖いぞ、リシャール。
完璧にすわった目でアーネストを見やり、アーネストは逃げ場もない室内でじりじりと後ずさる。

「さて、どうしてくれようか。
 ……ん? アーネスト、目が充血しているが疲れ目か?」
「は?
 ……ああ、昨夜は遅かったのでそのせいかと」
「ただでさえ元から赤い眼が充血してしまっては全体的に赤くなってどこのモンスターかわからないではないか。
 少し待っていろ」

言い残してリシャールが出て行く。
ものの数分もしないうちに帰ってきたリシャールの手には、ラベルはないが目薬と思しき小さな容器。

「これをさしておけ、よく効くぞ」
「はぁ」

信頼ゆえにか、ラベルのないそれを素直に受け取ってアーネストが目薬をさす。
その瞬間ギラリと光ったリシャールの目は、俺の人生の中でも五指に入る怖さだった。
……ぽちょん。
まずは右目に一滴落とし、ぱちぱちと瞬きを……あれ、しない?
目薬を差したまま彼が固まった一瞬は、傍から見ていても長く感じられ、そして。

「目が、目がぁぁぁぁぁ!」

容器を放り出してアーネストはのた打ち回り始めた。
目薬だよな、今の、目薬だったんだよな!?

「超COOL目薬 略してレモン汁だ、よく効いただろう」
「それ目薬じゃないぞリシャール」
「目がぁぁぁぁぁ!」
「むごい、むごすぎる……」
「何カーミラ、たまには我慢も仕込まんとお前の兄弟、いや姉妹が痛い目を見るぞ?」

額を押さえて呻くカーミラの前をごろごろとアーネストが転がっていく。
部屋の隅の本棚に激突し、その衝撃でばさりとさっき俺が適当に突っ込んではみ出したままだったカタログが落ちる。
開いた状態で、アーネストの顔の上に。

「うおぉぉぉ!?」

今度は別方向へ、右目を押さえたまま転がっていく。
ひき潰されたようなかたちでそこに落ちているカタログをひろい、ぽつりとカーミラが呟いた。

「さしもの彼もTバックのどアップは衝撃だった模様……」

広げたそこには確かに大きく写されたTバックの女性、のお尻。
目の前でいきなりは確かに衝撃的だったはずだ。
痛みと衝撃とでさらにのた打ち回り転がりまわるアーネストをそのままに、俺とリシャールはそのカタログの写真に
沈黙せざるを得なかった。男のエロ心を満たすために写されたものでないはずが、その健全な色気はかえって男と元男には
エロ心を刺激するものであったから。





「なるほど、つまりユリアは下着について悩んでいると」

あちこちにコブを作ったアーネストが頷きながらコーヒーをすする、下着のカタログに目を通しながら。
カーミラがよく使っている店のものらしいけど、やっぱりそこには魅惑の花園。
しかし鼻の両穴に詰め物をしてカタログを眺めるアーネスト……シュールだ。

「未使用のガーターベルトとストッキングがあるんですが入用なら」
「なぜ一気に上級編に飛びたがる。
 ……すまん、欲しい」

ゴッ。
手を差し出したアーネストの頭をティーポットの底が打つ。
さっきの一件から収まらない不機嫌さを隠そうともせず、アーネストの恨めしげな視線をものともせずに
殴った当人、執事モードのリシャールはすたすたとお茶を入れに戻っていった。
よかったなアーネスト、ティーポットが空で。
熱湯が入ってたら目も当てられないぞ。

「何故お前がそんなものを持ってるのかが気になるよ、俺は」
「ミーシャがくれた」
「「何故!?」」
「さぁ?」
「で、買う決心はついたのか?ユリア」
「……う」

回答不能。

「……あのさ」
「何だ?」
「買ったら、着なきゃいけないのかな」
「……買うだけ買って、必要なら妹達に着ているところだけ見せて封印しても良かろう」
「何か残念そうな言い方するんだな、アーネスト」
「…………」

自分であとは封印してもいいだろうなんていっておいて、アーネストはどこか残念そうな口振りをする。
あれ、なんでそれ聞いて俺までがっかりしてるんだろう。

「……見たいといったら」
「え?」
「見たいといったら俺は変態か、ユリア」
「え、あ、あのさ、」

俺はどう答えたらいいんだ、自身自分がどう思ってるかも判ってないのに。
俺は着たいのか、見せたいのか、見て欲しいのか?

「……見たいのか?」
「…………」

あっという間に場が見合いの席に早変わりした、気がする。
どっちも黙りこくったまま、カタログと、目の前の相手と、見当違いの方向とを視線が彷徨う。
長いような短いような気まずい時間に早くも耐えられなくなった俺は、混乱した頭でどうにかまとめた俺の意見を口にした。

「……とりあえず、買おう。
 それで、……あの、……気が向いたら、普段から着ることにしても、いいかな、なんて」

……俺、またどこか間違った方向に進んだな、今の瞬間。

「……なら、お前の気が向いたら見てもいいか」

……間違った方向に進んでるのは、アーネストもいっしょか。
まぁ旅は道連れ世は情け、外れる人道ご一緒に。
俺がその問いに頷いたかどうかは……黙秘権行使ということで。



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おまけ。

結局どの下着がいいか決められなかった俺は、極シンプルな奴を一組買うだけにした。
ルイセたちが今の俺には到底着けることが耐えられないような下着を手にブーイングする横で
俺は白と黒二組のガーターベルトとストッキングを会計済みの状態で無表情にカーミラから差し出された。
差し金は無論のことアーネストであったのだが、俺がそれをとりあえず受け取り拒否にしたのはごく当然の結果である。

……それがどこに仕舞われてるのかなんて、知らないからな、絶対に。
ついでにミーシャがガーターベルトを俺の姉妹に送った理由も、なんでそれが袋から取り出された状態で
引き出しに仕舞われているのかも、俺は絶対知らないからな!

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FIN


夜更けの乱気流霧生更夜様より

誕生祝いに執事シリーズ二作目頂いちゃいました!
下着に悩むユリア!キャラがどっちつかずな我が子を可愛く書いて頂いて
有難うございます。最終的には是非ともアーネストに可愛い下着見せてやって欲しいです(え?)
某天空城の小ネタ、大いに笑わせて頂きました。超COOL目薬・・・殿下のSっぷりに
惚れ惚れします。アーユリ頑張らせて頂きますわ!!活力を有難うございました!!


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