※CAUTION


こちらは霧生様宅の三周年祝いに霧生様の双子設定を使って書かせて
頂いた作品です。霧生様宅のカーミラ嬢は先天性の女性主人公です。女体化とは
違いまして初めから女の子ですのでご了承下さいませ。

ちなみに本作は男女CP(リシャール×カーミラ)で18禁ですので、
そういう生々しい感じは嫌!というお方や18歳未満のお方はバックプリーズ。
あと若干アー主(アーネスト×カーマイン)要素もあります。

ガチの男女エロもオッケーイ!というお方はスクロールプリーズ!

































報われない恋に、恋をする。

目を凝らしてどんなに見ても、私たちの指の先に赤い糸はないから。

今だけはせめて、愚かな夢を見させて・・・?




たとえ報われない恋の夢でも





「ねえ、カーマイン」

ソファに座り込んでパラパラと本を捲っていたカーマインの背後から、明瞭な声が響く。
忙しなく目を動かしていたのを止め、金銀妖瞳は自分と同じ輝きの瞳を振り返った。大きな窓に寄り掛かり、
カーマインを見つめている少女―カーミラ―はうっすらと口元に自嘲にも似た皮肉げな笑みを浮かべている。

「何だ、どうした?」

双子の片割れの意味深な表情を怪訝に思い、カーマインは読んでいた本に栞すら挟まずに閉じ、
ソファの背もたれ越しに向き合う。その視線の先、カーミラは身じろぐ事もなく、すっと細い指先を相手に
見せるように広げた。

「・・・・・・・?」
「ちょっとした疑問なんだけど、私たちに赤い糸ってあるのかな?」
「は?」

一瞬、問われた意味が判らずカーマインはぽかんと口を開けた。深刻そうな話だと思っていた矢先だけに余計に。
しかもこう言っては何だが、カーミラは現実主義で滅多に今のような乙女チックな発言をしない。
聞き違いでもしてるのだろうかとすら思ってしまう。しかし、それは杞憂だった。

「・・・・・・その胡散臭いものでも見るような目はやめてよ。ちょっと思っただけ。
ホムンクルス・・・・しかも摂理に反して造られた他人のコピーの私たちに運命ってものがあるのかどうか」

思慮深い言葉に、悪い冗談ではないのだと知るとカーマインは軽く息を漏らす。
あまり、率先して答えたいとは思えない質問だ。カーミラも問うていながら答えを欲しているようにも見えない。
それでも、何か返さなければ現実逃避をしているような気になり、カーマインは口を開く。

「・・・・・さあ。なかったら、とっくに死んでるんじゃないのか」

にべもない。くすっと小さな笑い声が背後から届く。

「カーマインってあんまりロマンないよね」
「そういうお前にあるのかというと甚だ疑問だぞ」
「そうかもね」

カーマインの反撃を一蹴すると、更にカーミラは背に冷たく当たる窓に寄り掛かった。長い黒髪が静電気で
ガラスに張り付く。それを今まで伸ばしていた手で以って払い除け、真上を仰ぎ見た。

「あ、でもさぁ・・・なんだかんだ言ってカーマイン、やる事はやってるよね」
「・・・・・・?」
「ほら、コムスプリングスの別荘であの人と・・・むぐぐ」
「余計な事を言うな、余計な事を」

カーミラの言葉を遮るようにカーマインは片割れの口元を手で覆った。それでも何か言っているが、くぐもって
聞こえない。漸く静かになった頃、口元から手は外された。

「・・・・っはぁ。死んじゃうよ」
「そう簡単に死ぬような奴じゃないだろう」
「そうかな?」
「お前は、俺を見てすぐ死ぬような奴に見えるか?」
「見えないね。カーマインは・・・・意志が強いから」

その言い方は、自分は意思が弱いと言ってるように聞こえなくもない。カーマインの眉間に皺が寄る。
双子であるが故か、それとも単に彼の洞察力の賜物かは判別しがたいが、カーマインにはカーミラの考えている事が
何となく察せられる。その逆、カーマインの考えもカーミラには完全にではないが、察せられる。

「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

それ故、二人は沈黙を守った。言葉にしてもしなくても、伝わっているのならわざわざ口に出す事もない。
むしろ口に出すべきではない、お互いがそう思った。けれど。双子のうち、心配性な方、カーマインが僅かに口を開く。
顔の向きは最早、カーミラとは逆、真向かいのソファを捉え、先ほどカーミラがしていたように手を伸ばし、広げる。
ぼんやりと自分の指先を眺めながら首を傾ぐ。

「・・・・・・カーミラ」
「何?」
「俺は・・・・自分の指の先に赤い糸なんてないと思っている」

ふらふらと空中で指先を蠢かしつつ、声は止まらず紡がれていく。

「・・・・・人間の神と俺たちの神は違うからな。糸が結びつくわけもない。でも、それがなんだとも思う。
誰しも赤い糸の人を好きにならなきゃならないわけじゃないし、運命に従うわけでもない。
自分が決めたようにすればいい。だから、お前が誰を好きになっても・・・・・構わないんじゃないのか」
「カーマインが、糸の先にいないあの人を好きなように?」
「余計な事を言うなと言っただろう」

度々カーミラが口に上らせる相手の事を脳裏に浮かべてか、淡々と話すカーマインの顔は僅かに赤い。
短い髪の合間から見える染まった耳を認めてカーミラの瞳が微笑ましげに細くなる。
この双子の片割れは、照れ隠しがあまり上手くない。そういうところが相手の男に受けてるのかもしれないと
そんな事を考え、ほんの少し、目の前の彼とその彼の思い人を羨ましく思った。

「・・・・・・私も・・・・・」
「え?」
「ううん、なんでもない。私、ちょっと出かけてくるよ」
「・・・・・・・・・気をつけて」

一瞬、窓の外がもう暗いのを見咎め、カーマインは止めようとしたが、止めた。
カーミラの少女らしい笑みが、彼女の行き先を告げている。そこならば、否彼ならば彼女を危険な目に
遭わせはしない筈だ。そう、思う。

「・・・・・報われない恋でも、お前が望むなら俺は止めないよ・・・・」

カーミラが消えた部屋の中、空気に溶け入るような囁きが闇の中へそっと飲み込まれた。



◆◇◇◆



「リシャール」
「カーミラ、か」

薄暗い部屋の中、電気も点けずに居間のソファで寝そべっていた少年が客の声を聴いて起き上がった。
ランプに火を灯し、僅かばかりの明かりを室内に取り込む。

「亡霊みたい」
「民から言わせればそうだろう。私は死んだ事になっているのだ・・・」
「ライエル卿がいない時は、いつもこんな暗がりで暮らしてるの?」
「家主のいない部屋で明かりが点いていたら不審に思われるだろう?」

淡々と説明しながら、リシャールはランプを手にカーミラへと近づく。狭い範囲の照明のせいか、上半身だけ
闇に浮かぶ彼の顔色はあまり良くないように映った。

「大丈夫・・・?」
「さあ。多少は無理をしなくては生きて行けない身体なのでな」
「・・・・・リシャールも、私たちみたいに延命してもらえればよかったのにね」
「馬鹿を言うな。私がお前たちと同じ場にいれば・・・すぐさま殺されていた。今生きているのが奇跡なのだ」

苦く笑う。何もかもが皮肉だった。世間に死んだと思われているリシャールは、そう長くない命ながら生きている。
恩赦を得て、再び地位を取り戻したライエルの別荘でひっそりと、生霊のように。いつ死んでもおかしくない状態で。
家主のライエルも気が気じゃないのかもしれない。立場上、彼を人目につかせるわけには行かない為、出仕の際は
リシャールを置いて仕事をしているわけだが、自分が戻らぬ間にかつての主君は取り留めた死を、迎えている可能性が
あるのだから。死に際を目の当たりにするのも辛いが、その逆はきっともっと辛い。その気持ちは、リシャールを
とても強く想うカーミラには痛いほど分かる。今、この瞬間も怯えているのだ。目前で、喪失するかもしれない事態に。

「・・・・・・・・・・」

不意にカーミラは手を伸ばした。彼の存在を確かめる為に。けれど、途端に後悔した。自分の指先に触れた、
生きているとは到底思えぬ冷たさに。感触は掴めているのに、熱が感じられない。それはとても恐ろしい事。
死のカウントダウンを目にしているようで。自分の息が止まりそうになる。堪らなくなってカーミラは、自分より僅かに
小さい身体に抱きついた。

「・・・・カーミラ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・まだ、死なぬ。まだ、な・・・・」

さらり。遺伝子上、姉に当たる少女の髪をリシャールは撫でる。顔は全く違う。元になった人間が違うのだから
当たり前といえば当たり前だが。けれど、父親は一緒。こうして傍に身を寄せ合う事すら、本来はとても罪深い事の筈。
それでも、惹かれてしまうのだから仕方ない。リシャールは撫でる手をそのままに、カーミラのこめかみへと口付ける。
身を屈めた事でゆらりとランプの火が揺れた。

「今、死んだらアーネストに怒られるからな」
「確かに、ライエル卿は怒るだろうね」
「アイツの居ぬ間には死なん・・・・・呪われそうだ。
それにお前を遺して逝ったとなれば、お前の片割れも怒るだろう」

言いながら、唇を瞼へと移し、細腰へと腕を巻きつける。若干ながら自分より背の高いカーミラではあるが、
重みは劣る。それを頼りにリシャールは、まだ発達途中の身体で以って少女の肢体を引き寄せ、
そして背後のソファへと押し倒した。

「・・・・ッ、リシャール」
「私を、忘れたくないだろう、カーミラ」
「何それ。遺言みたい」
「可愛くない奴だな。ここは素直に頷いておけばいいものを・・・」

溜息を零し、リシャールはランプをソファの脇のテーブルへ置く。

「・・・・・ベッドでしないとライエル卿に怒られるんじゃなかったでしたっけ?」
「アイツだってソファどころか床でしている事もあるぞ?私だけ駄目というのは納得いかんな」
「わ、何気なく凄い話聞いちゃった気がする・・・。そりゃカーマインだって腰痛めて帰って来るよね」
「兄妹の話をしている場合か?余裕だなカーミラ」

ニッと口角を上げて、不敵に笑むとリシャールはカーミラへと覆い被さる。身体の細さはあまり変わらずとも、
力の差は歴然で。腕を押さえつけられると下に位置するカーミラはもう動けない。

「お前も腰を痛めて帰るか?」
「・・・・セクハラ」
「嫌じゃないだろう?顔色が悪くて肌も冷たいこの私に、熱を与えられるのだから」

言葉尻にどうだとばかりに目を覗き込まれた。そんな言い方をされては否定は出来ない。いや、否定したところで
リシャールは止めない。王様気質だから。その証拠にカーミラが答える前に、胸の膨らみに手が置かれた。

「・・・んっ」

ぐっと指の先に力を込められれば、自然と声が出る。羞恥に頬が染まれば、空いた片手で顎を掴み上向かされ、
目が合うと微笑まれる。いつもの事だ。こうして惚けているうちに唇を塞がれる。分かっているのに、何故いつも
彼の思う通りになってしまうのだろう。呼吸を遮られながら、カーミラは思う。しかしこんな事を考えていられるのも、
今のうちだけだ。リシャールは年齢にそぐわぬほど、性的技巧が優れている。彼と違い、そのような事には不慣れな
カーミラはすぐに何も考えられなくなってしまう。舌が口腔へ忍び込んできて、ぴくりと握り締めた手が反応する。
ぬるつく感触が口の中を這い回り、カーミラの舌を捉えて離さない。優しさからは掛け離れた、吐息すら奪う口付け。
嫌がる事すら許さないとでもいうかのように、抵抗らしき抵抗も出来なくなるまでこれは続けられる。

「・・・・ん、っふ・・・・んン」

酸素を求めて首をずらしても、すぐにリシャールは追ってきてカーミラを捉える。受け止めきれない唾液が滑らかな
頬を伝い、ソファに軽く染みを作った。ライエルに怒られる。まだ僅かに残った意識でそんな事を考えたが、
それと同時、先ほど聞いた情報が脳裏を過ぎった。今、自分とリシャールがしている事を、同じ場所でカーマインと
ライエルはしていた、と。別に想像したわけではない。そんな余裕は持ち合わせてなどいないのだから。
けれど兄妹で同じ事を同じ場所でしていると思うと無性に恥ずかしくなり、常以上に早く飲み込まれてしまう。

「・・・・っ・・・ぁ、リ、シャ・・・・」
「私に・・・熱をくれ、カーミラ・・・・」

絡みつくような吐息が耳元を擽る。そのまま、唇を嬲っていた舌が、カーミラの耳の輪郭をなぞっていく。
ぞわりとした刺激に思わず、細腕は縋る場所を求め、リシャールの背に回された。甘噛みされ、悲鳴にも似た喘ぎが
漏れた。それを受け止めつつ、リシャールの指先が緩くカーミラの肢体を辿る。初めに触れられた時より幾分か
温まった肌が、直にカーミラのそれへと宛がわれた。

「・・・・・・ん」
「・・・・お前と・・・こうしている間だけは、私も生を実感出来る。この身にも、血が・・・流れているのだと」
「リシャ・・・ル・・・は生きてる、よ・・・ちゃんと」

上がる息の合間に、たどたどしく話すカーミラは自分の言葉を確かめるようにリシャールの手を握り締めた。
少しずつ、上がり始めている熱。微かに感じる脈動。血の、流れ。死んでいる者には到底ある筈もないものたち。
生きて、いる。例えそれが自然の摂理に反していても、それでも。罪の意識に胸が痛んでも、それでも。
喪失する事に比べれば、何て事のない痛み。カーミラは微笑む。カーマインの前でも、その他の誰の前でも
見せぬ、柔らかで慈愛に満ち、そして何よりも残酷な笑みを。リシャール、ただ一人の前にだけ。

「リシャール・・・私も・・・リシャールとこうしてると・・・生きてる感じがするよ」
「愛より前に、生を確かめ合うとは・・・・私たちくらいだろうな」
「そうかもね・・・・あっ」

会話の最中も、ゆるゆると動いていたリシャールの手が、カーミラの腹部から胸の膨らみまで焦らすように
移動する。下着の上から撫でて、時折指先がその下に潜る。いっそ直に触れてくれた方が楽だと思うほど、その接触は
じれったく淫蕩だった。カーミラの瞳に露が掛かる。

「どうした?物欲しげな目をして」
「・・・っ・・・・分かってる、くせに・・・・っぅ」
「さあ?お前は口では言わないから、よく分からんな」

碧眼に愉悦を湛えて、リシャールはカーミラの胸から下着を摺らす。露になった滑らかな曲線を慣れた手つきが
行き来する。震えが鮮明に伝わってきて、愛おしさが込み上げてきた。再びリシャールがカーミラの口を塞ぐ。
少しだけ加減して。けれど、充分に頭の中に靄を掛けるその濃密さ。身体中を這い回る手の動きが分からなくなる。
何もかもが熱くて、何処に触れられているのかが分からない。衣擦れの音とソファの軋み、唾液を交換する音。
全てが聴覚ごと犯し、カーミラを悶えさせる。

「・・・・落、ちる・・・・」

身体を孕む熱と疼きに堪えかねて身じろぐ肢体は確かに今にもソファから落ちそうで。黒髪が床に着きそうだった。
それをリシャールは軽々引き上げると、自分の肩にカーミラの細腕を回させる。密着が増すと、互いにうっすらと皮膚に
汗を滲ませているのが分かった。クイクイとカーミラはリシャールの襟元を引っ張る。

「・・・・何だ?」
「・・・・私だけ・・・脱いでるの恥ずかしい」
「この私に召し物を脱げと言えるのはお前くらいだぞ?」
「それは光栄・・・かな?大体、脱がないと熱を移してあげられない、よ・・・?」

いつの間に脱がされたのか、レザーパンツの取り上げられた剥き出しの腿をなぞり上げられ、身が竦む。
悠然と笑みながら、リシャールの手はゆっくりと動く。しかし、何処か面白くなさげなカーミラに気づいて、仕方ないと
いった表情で漸く自分のシャツを脱ぎ始める。カーミラを撫でる手に対し、服を脱ぐ手つきは素早い。
するりと腕からシャツが落ち、床に広がった。体勢を直し、蜜色髪が揺れる。

「お望み通り、脱いでやったぞ。我侭な姫君」
「我侭な暴君より、マシ・・・・きゃあ」
「その暴君がすきなのは何処の誰だろうな?」

からかうように、蠢く指先がレースの上を辿る。今、カーミラが纏う唯一の布―ショーツ―の上から、彼女の秘奥を弄り、
そしてしっかりとその一部が湿っている事を感じ取った指先は、戯れにそこを強く押した。

「あ・・・・や、だ・・・・んぁっ」
「こんなにしておいて嫌だはないだろう」
「ふぁ・・・・ぁぁっ!」

尋ねていいるのか、独り言なのか、それともどちらでもないのか分からない言葉は残酷に組み敷いた肢体を責める。
ショーツの隙間から不届きな指が忍び込む。濡れた花弁を擽る。それだけでも蕩けた花弁は迎え入れるように開き、
侵入者を飲み込んでいく。淫靡な水音が静かな空間にやけに大きく響く。カーミラは全身を赤くして恥じ入った。
そしてその恥が余計に熱を煽っていく。きゅうと指を締め付けられ、リシャールは首を傾いだ。
暗闇で蒼い瞳が猫のようにはっきりと輪郭を垣間見せ、輝いている。そしてそれがピントが外れたレンズ越しの映像の
ようにぼやけたかと思えば、愛液が絡みついた侵入者は抜かれ、代わりに生きているものしか持ち得ない、
熱の塊がじわりじわりと内を貫く。悲鳴が、細い喉から上がった。

「ぃ、やぁぁっ」
「・・・・・・ッ」

ほんの一瞬、常に笑みを敷いていたリシャールの顔が苦痛と愉悦に歪む。しかしそれはすぐに形を顰め、
奥へ奥へと自分自身を埋めて行く。それはカーミラの内側を侵食していくかのように痛みと甘さを伝える。切なげな
視線を軽く受け止め、リシャールは沈む。より深く潜り込み、互いの熱を共有するように。内で何もかもを奪い、分け合い、
蕩ける。技術だけでは、きっとこんな風にはならない。本来混ざり合ってはいけない二つの心が互いを侵食しあうが為、
息が弾み、熱が絡まる。決してそんな事有り得る筈もないのに、二つの身体が一つに溶け合ったように同じ熱を
抱えて二人は罪の色の濃い夢の中に浸っていく。いつか覚める、報われぬ恋という名の夢の中をただ―――



◆◇◇◆



ぼんやりと夢現の中、カーミラは何か規則正しい音を聴いた。波の音のように安心する、何か。母体の中を髣髴とさせる。
けれど、それはイメージするだけで実際にカーミラは母体の中など知らない。自分がどうやって造られたのか、
記憶にはない。ただ、どう考えても人間とは違う方法で生まれたのだろう。考えれば考えるほど泥沼にはまってしまいそうで
カーミラはそこで思考を打ち切った。それに耳に響く規則正しい音が段々と弱くなっていったから。嫌な予感がして、
今まで閉じていた瞼を無理やりこじ開ける。

「・・・・・!」

そこには、まるで自分がベッドだとでもいうかのようにカーミラの下敷きになっているリシャールの姿があった。
行為後の疲労からか、顔色がまた悪くなっているような気がした。そして先ほど聞いた弱まっていく音。それの正体が
心音だと分かり、カーミラは慌ててリシャールの心臓の上に触れた。とくとくと流れる脈動。けれど、行為中の時より、
その音は弱い。改めてリシャールの命の期限を思い知る。第一こんな風に触れて、気がつかないほど深く寝入っている
リシャールなどカーミラは見た事がない。情事の中、散々自分を苛めてくれた指先を掬い取る。まだほんのりと
温かさが残る、けれど冷えかけた指。その指の内、絶対に自分とは繋がっていない、本来赤い糸が結ばれているという
小指にそっと口を付けた。言葉に出来ない想いの全てを託すように。

「やっぱり・・・私たちに赤い糸はないね。でも・・・・初めからなければ切れる事も・・・ないよね」

それが唯一の救いだった。もし、赤い糸が互いの指に結ばれていれば、安堵する一方、いつか切れるのでは
ないかと怯えなければならない。けれど初めからなければその心配はない。ただの屁理屈だ。
それでも、不安しか浮かばない胸の奥を少しだけ柔らかな風が凪ぐ。それから長い黒髪を垂らしながら、
カーミラはリシャールのあどけない寝顔を見守る。あと何度見れるかも分からない、それ。目に焼き付けるように
熱く、けれど酷く穏やかにカーミラは自分の瞳に映し続けた。



報われない恋に、恋をする。



目を凝らしてどんなに見ても、私たちの指の先に赤い糸はないから。

今だけはせめて、愚かな夢を見させて・・・?

その夢の終わりが、どれだけ残酷な事か知っているから。

だから今だけでも、愚かでいさせて・・・・?




私たちの愛しく憎い神様。



fin



お祝い品なのにどん暗い話ですみません。
しかもパラレルにパラレルの上乗せ・・・!カーマインとカーミラ嬢が双子で
且つ、時空制御塔でリシャールが死ななかったらみたいな話です。(その上アー主含む)

文中の説明がいい加減ですみません(謝ってばっか)
人様のお嬢さんにこんな破廉恥極まりない事させてすみません。
あー、しかも性格が。違う違う、カーミラ嬢はこんな事いわね!と思いながら
展開上押し通してしまいました。ほんますみません。
殿下も殿下でただエロいだけの人のような気もしますし(あれ?)
人様の設定で書くのはやはり難しいですね。うう。ほんますんません・・・!!

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