諦めたフリの溜息 ふわり。 髪の毛を触られる気配。 振り返ろうかと思ったけど、今読んでる本の内容が気になるので悪いけど無視。 すると無視するなというかのように、軽く引っ張られる。今、いいところなのに。 あと二分待ってくれ、と急いで手に持った本の内容に目を遣るが、背後から伸びる、影。 俺の真上に被さり、本に黒い影が落ちる。おかげで本が読めない。抗議しようかと 振り返る瞬間、本を奪われた。しまったと思うよりも先に唇に違和感。何か触れている。 柔らかで暖かで、いつも与えられているそれは、唇。要するにキスというもの。 驚いて顔を離そうとすれば、後頭部に添えられる腕。しっかり固定されてしまい動けない。 ちろ、と触れ合う部分を舐め上げられて、反射的に口が開いてしまう。すかさず、 慣れたように侵入してくる生暖かな熱。歯列をくるりと辿り、逃げようと必死な俺の舌を 絡め取ってきつく吸い上げていく。唾液の混じる卑猥染みた音。耳を塞ぎたいけれど、 身体に力が入らない。ろくに俺が抵抗出来ないのを知っていて、容赦なく口腔を蹂躙する この男はよほど性格が悪いらしい。分かっているのに拒めない俺は馬鹿なんだろうか。 もう、息が限界だ。視界の端に自分の涙を認めながら、何とかそれを伝えようと、 白い服の袖を何度も引っ張る。 「・・・・・・・・・・あれ、もうダメ?」 腕に感じる微かな振動に漸く気付いたらしく、おどけた口調で問うてくる男を軽く睨めば にこにこ、微笑まれる。少しはビビれ、馬鹿。眉間にも精一杯力を込めて、いつも仏頂面な 親友を真似て怒り顔を作ってみるが、それも効果なし。 「ダメだよ、そんなアーネストみたいな顔しちゃ。皺が取れなくなるよ?」 「いいから離・・・・せ・・・・・・んんぅ!??」 「だーめ」 会話を続ける際も重ねられていた唇。漸く離されるかと思えば、再び噛み付くようなキス。 それにさっきよりも動きが荒い。激しく蠢く舌。吐息を呑まれて本当に窒息しそう。いい加減 頭にきて、出来うる限りの力で、男の腹を蹴る。流石に俺がそんな事をするとは思っていなかった ようでモロに喰らいゴホゴホ咽返る、背後の影。 「・・・・・ッ、何す、んのさ・・・・行儀悪い」 「・・・・・・・・・は、あ・・・・・いきな、り人を窒息させようとした、や・・・つが言えるのか?」 「だ・・・・・って、君が無視するから」 「あと二分、待てって言った!まさかもう呆けたんじゃないだろうなオスカー」 「生憎、呆けるほど退屈な生活は送ってないよ」 腹部を押さえつつ、深呼吸を繰り返して息を整える男―オスカー。彼とは別の意味で乱れた 呼吸を俺も何とか宥める。それから隙を見て本を取り返そうとするが、難なく、避わされてしまう。 「あ、本・・・・・!!」 「もう、いい加減本から意識を離してくれないかい?」 「それ、今一番面白いとこなんだから」 「尚更だめー♪」 無駄だと思いつつ手を伸ばしてはスッと避けられ、宙に空しく残る自身の腕。ここまでくると 自棄になってくる。俺が必死なのが楽しいのか始終笑みを零すオスカー。今更思うのも 何だけどやっぱり性格悪い。立ち上がって肩を掴み、押さえ込みつつ後方に反らされる本を持った オスカーの腕を追いかけるが、そのせいで自身の背中はがら空き。横目に不穏な微笑を 見留めた瞬間、腰を捉えられた。そのまま先ほどまで掛けていたソファへと引き摺り下ろされる。 ぽすん 軽い音と共にソファへと背を付く。それから覆い被さるように圧し掛かってくる身体。割と細く見えるが 普段は鎌を扱っているだけあって、流石に力強い。押し返そうとしても力尽くで押さえ込まれてしまう。 「全く、こんな本の何が面白いのかね。目の前にこーんないい男がいるのに」 「・・・・・・・その自信はどこから来るのか訊いてもいいか?」 「キスすると文句たれてくる割には抵抗らしい抵抗をしない恋人から、かな?」 「んなっ・・・・何言って・・・・・!!」 「あーらら、真っ赤になっちゃって可愛いねえ」 「オスカー!!」 言われて尚更熱を持つ頬。悔しくて顔を隠そうとしても、腕を掴まれている。さっきの事もあって 警戒しているのか足の方もしっかりオスカーの足で挟まれ、動かせない。どうしようか頭を悩ませれば 見計らったように三度目のキスが落とされる。 「・・・・・・ん」 「ほら、言わん凝っちゃない」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「さっき無視してくれたお礼はいっぱいさせて貰うからね」 「・・・・・・・や、め・・・・・・・・・・」 制止する前にタイミングよく、耳やら首筋やらに唇を押し付けられて、上手く動けない。 どうやら最初に無視したのがよほどまずかったらしい。今更ながら、後悔。その間にも唇と一緒に オスカーの手が身体中を這い回り始め、これはもう何を言っても無駄だなと思考の端で思う。 おまけに読んでた本の内容も吹き飛び、俺は諦めたように息を吐く。といってもやはりどこかで 抵抗はしようと思うが。要は諦めたふりというわけだ。それでもオスカーを出し抜けはしない のだろうけど。 ―――段々と息が弾む中、今度からオスカーを無視するのだけはやめようと固く誓った。 fin…? 何だか前回とカーマインさんの性格が変わってますが、まあお気になさらず。 何の本を読んでいたかはご想像にお任せです(笑) |
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