願わくは





優しい謠 綺麗な夢 ささやかな祷り

誰もが希むものだとしても俺には不要で

凍てつく雪に埋もれた暖かな春だけを唯、望む







ひらり ひらりと。
薄暗い天から白銀の雪が舞い落ちる。
表に出れば氷の如く、冷えきった風が吹き抜けて。
それに合わせるように己の心が荒んでゆくのを感じた。







凍てつく雪はやがて

吹雪となって人の心を閉じ込め

容赦なく吹き荒ぶ風はやがて

硝子の欠片となって人の心を痛めつける







ひらりひらりと。
止む事を知らないのか、雪は勢いを増してゆく。
その白で世界を覆い尽くすつもりなのか。
永い永い時を支配して冷えきった世界を創り出す。







「・・・・・はあっ・・・・・」

冬はあまり好きではない。
肌を刺す程の寒さなのに人々は幸せそうな笑みを浮かべていて。
一人取り残されたような虚しさが募る。


冬はどうあっても苦手だ。
真白な雪を見る度に、激しい木枯らしが吹く度に。
己の醜悪さとどうしようもない弱さが浮き彫りにされる。







優しい謠 綺麗な夢 ささやかな祷り

そんなものは必要ない

唯、醜い心を癒してくれる柔らかな春が欲しい







・・・・・・ひらり。
意識の海に身を投じている間に雪が治まっていたらしく。
窓の外の分厚い雲は姿を隠し、少しずつ光が差してくる。
痛む程の寒気も衰え、じんわりと陽光が大地を照らし出してゆく。





冬はやはり好きではない。
だが、こうして晴れゆく天を見上げるのは悪くない。
どこか和やかな優しい気持ちになれる、そう思った時。





トン トンと。
小さく戸を叩く音がした。
遠慮するように、軽くて優しい『彼』の奏でる音。



「・・・・・・アーネスト、いるか?」

ふわりと。
大地を包み込むような柔らかな声。
厳しい冬を乗り越えた先の春を思わせる甘い、声。



「開いているぞ。カーマイン」



負けずと。
隠しようのない愛しさを滲ませて。
そっと己が求めていた『彼』を呼ぶ。







優しい謠 綺麗な夢 ささやかな祷り

誰もが希むものだとしても俺には不要で

凍てつく雪に埋もれた暖かな春を唯、望む







「久しぶりだなアーネスト。
・・・まだ少し寒いが、二人で外に出ないか?君の都合が良ければ、だが」
「俺がお前の誘いを断るとでも思っているのか?カーマイン」



そう言うと。
白いコートを手に取って己が身を置く山小屋を後にする。
ずっと待ち焦がれていた『春』の傍らを歩みながら・・・・・・・・。






───願わくは『彼』という名の『春』が永久に自分の隣に在らん事を・・・・・







fin






頭数合わせのために随分と古いの発掘して参りました(おい)
UED後の筆頭ということで。短い話を行を空けまくって長く見せているのは
内緒です(ばらしたー!!)

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