それはウォルフガング追跡のために、フェザリアン遺跡へと魔力波レーダーのアンテナを 取りに行く前日のことだった。 悩み事 「・・・・・・・はあ」 思わず溜息が出る。 俺、まだ18歳なのにな・・・・と小さくぼやくと背後から低く良い声がした。 「どうした?」 確認せずとも判るその人物。 今まさに自分のコンプレックスを刺激してやまない人・・・・・・。 「・・・・・・・・ライエル」 振り向き様に名を呼ぶと黒衣の男は軽く眉を顰める。 「・・・・・・気分でも悪いのか、カーマイン?」 「・・・・・・何故だ?」 別段これといって悪いところはない。 何とも不可思議なことを問うてくる彼に向けて首を傾げると、そっと大きく硬い掌が伸ばされて。 「・・・・・・ここに皺が寄っている。おまえらしくもない」 ぐにぐにと揉み解すように眉間へと指を当てられ、自分がどうもしかめ面をしていたらしいことに気付く。 「・・・・・ッ、痛いぞライエル」 「ああ、すまんな。・・・・・別に具合が悪いわけではないのだな?」 緋色の瞳に心配の色を乗せる彼に頷いてみせるとほっと息を吐くのが判る。 大概心配性なのだな、彼は・・・・・・。 まあ、そこが彼の美点であり、彼のらしいところでもあるわけなのだが。 「そういうのじゃ、ないんだ。ただ少し厭なことを思い出しただけだ・・・・・・」 「それは?」 短く尋ねられ、答えるかどうかを暫し逡巡する。 別に話しても構わないことだが、言えば恐らく単なる愚痴になってしまうだろうし・・・。 しかしここで押し黙ればきっとライエルのことだろうから『自分には言えないような重大事だろう』とか 変に誤解してしまうだろう。何せ彼は冗談が通じないくらいどこまでも真面目な人なのだから。 「・・・・・・・背、が・・・・・・・・」 「ん?」 諦めて口を開くとライエルは聞き取りにくいのか少し屈んで俺と身長を合わす。 その優しさが今は俺の胸には痛いのだが。 「・・・・背が・・・・・・・伸びないんだ」 「・・・・・・・・・・・・・?」 「だから、身長が止まってたんだって」 「・・・・・・・・・・・ああ」 そいうことかと頷きながら何かを確かめるように俺を眺める。 「・・・・・・・何だ?」 「いや、別に男としては普通くらいではないか。そんなに気にすることはないだろう」 ・・・・・・・・・・人の身長確認してたのか。 彼なりの思いやりの言葉なのだろうけれど、何も知らない奴が聞いたらただの嫌味だぞ、それ。 俺の身長は172cmで彼は・・・・・・・187cmだったか・・・・? それだけ長身の人に普通と言われても全然嬉しくないぞ・・・・・・・大抵の人は。 まあ、一応気遣ってもらっているらしいので・・・・・相槌を打つ。 「・・・・・でもジュリアよりも低い・・・・・・・」 いくら男の平均的な身長といえど、流石に女性よりも低いというのは頂けない。 逆に彼女も男の俺より高い背を気にしている風ではあるが。 「・・・・・・別に構わんだろう」 「・・・・・・・・・あのな・・・・・」 何が構わないというのか。 そりゃ彼には関係のないことなのだろうけれども。 「おまえはそのままの方が可愛い」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 思わぬ言葉につい素っ頓狂な声が上がる。 というか彼はなんと言った・・・・?『可愛い』とか・・・・・何やら妙な言葉が聴こえた気がする。 つまりあれか・・・・・・・コンパクトで可愛いということか?失礼な・・・・、全然嬉しくないぞ・・・・・・・・。 「まあ、大きくなってもそれはそれで可愛らしいとは思うが」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・????」 何だその言い様は。 それではまるで身長のことではなく、俺自身のことを言っているみたいじゃないか・・・・。 「・・・・・おい、ライエ・・・・・・」 「ライエルさ−ん、カーマインさ−ん!」 抗議しようとしたところで遠くから自分とライエルを呼ぶ一行のリーダー、ウェインの声がする。 いつも思うが、随分と元気なものだ。 「あの、お二人ともここにいらしたんですか」 僅かに息を乱しながらウェインは俺とライエルを見遣りながら汗を拭う。 どうやらもう出発の時間らしい。確かにそろそろフェザリアン遺跡へと向かわねば間に合わぬ時刻だ。 いつまでも負傷者の様子見を兼ねてラシェルに留まっているわけにもいかないだろう。 「君が呼びに来たということはもう出るんだな。遺跡については俺の方が詳しいだろうから先に行ってるよ」 言って足早に仲間の元へと向かう。 ライエルの先程の言にはさして意味などないのだろう。そういうことにして俺は今のことは忘れるように努めた。 ちなみに先にその場を離れた俺には残った二人がどんな会話に華を咲かせたのかは・・・・・知る由もない。 ◇おまけ◇ 「ところでカーマインさんとどんな話をされていたんですか?」 「・・・・・身長が止まったとかで気にしているらしい。 あいつは下らんことで思い悩むのだな。まあ、そこら辺が可愛いところなのだろうが・・・・・」 ライエルさん、しれっとしてますが聞く人が聞けば誤解を招くであろうことを言ってます。 (ん、でも誤解じゃないからいいのか・・・?) それに対し聞き手のウェイン君は何やら目をキラキラ輝かせ。 「ですよね。カーマインさんってしっかりしてるんですけど、目が離せないっていうか・・・。 ちょっと世間知らずなところが可愛いっていうか・・・何か意地悪したくなるんですよねー」 などと嬉々として語っちゃっていたりする。 (・・・・・・・こいつは・・・・ひょっとしてオスカー属性か・・・・・・・?) なかなかに黒い発言をするウェインにライエル氏、背に冷や汗を浮かべている模様。 (カーマイン、頼むからこいつには騙されてくれるなよ・・・・・・) ふわふわニコニコなお子様の裏に隠された腹黒さを知ってしまったライエルさんはただただ想い人の身を 案じ続けたのだった☆ fin はは、小ネタだ。 とある漫画を読んでたら身体測定のシーンがあったので思いつきました。 何かウェインって非常に黒い気がするのでオスカー属性となってもらっちゃいました。<いい迷惑 |
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