容姿端麗、頭脳明晰、おまけに無敵常勝を誇る彼の文化大国の特使殿は、 現在隣国随一の王国図書館にて非常に困っていた。 5センチの距離 「・・・・・・・・・むっ」 スラリとした細い手足を限界まで伸ばし、爪先立ちすること既に数十分。 そろそろ腕も脚も痺れてくる頃だが尚も彼は男のプライドを賭けて全神経をある一点目掛けて集中させていた。 金と銀、左右色違いの双眸には古びた、しかしどこか趣のある一冊の本が映し出され。白く細い指先は確かにその本を 取ろうと伸ばされている。 ──が、悲しいことに彼の指先はあと数センチというところで届いていない。 「・・・・・あと少しなのに」 こんな時彼は自分が何故せめてあと5センチ身長が伸びなかったのかと嘆く。 そうであればこうして目当ての本に手が届かないということもなかったろうに・・・。 「・・・・・何をしているんだ?」 不意に背後から投げかけられた疑問符。顔を見ずとも判別のいく、低めの良く通るその声。 十中八九、というか確実に『彼』なのだろう。しかしどうして『彼』はこうも絶妙に嫌なタイミングで出現するんだろうか。 そんなことを考えているとまるで無視するなというかのように腰に腕を絡められる。いや、多分支えてくれているんだろう。 今の俺は目に見えてふらついているだろうし。それにしてもせっかくそういう優しい面を持っているのに何ていうかこう ・・・・・言葉もなく行動するのはどうかとも思う。そう思って俺は後ろを振り返った。 「・・・・・・・ライエル・・・・・・・」 「取れない本でもあるのか?」 未だに腰を抱えたまま、の姿勢で彼は短い銀髪を揺らしながら尋ねる。 ここで素直に頷くのはひょっとして男を下げるのだろうか。ああでもこの人はそういうこと気にしない、かな? だったらここは素直に返事をしておくのが無難だろう。 「・・・・・・・ああ」 「・・・・・どれを取りたいんだ?」 耳を掠めるように呟いて彼、ライエルは空いている方の腕を上に伸ばす。首筋に吐息がかかって一瞬びくりと 身を震わすが首を振って平静を取り戻す。 「・・・・・・・・・あ、あの左から3番目の薄緑の・・・・・・」 「コレか?」 迷いなく自分の望んでいた本を、それはそれは腹が立つくらいに軽々と手に取るライエルに少しだけ口を尖らせる。 やっぱり背の高い人はいいな・・・・羨ましい。その身長を少し分けてもらえないものだろうか。 じっと彼のことを眺めていた所為か不審気に眉を顰められた。 「・・・・・・・違ったか?」 「あ、いやそれで合ってる。・・・・・・ありがとう」 気恥ずかしくて顔を逸らしながら言うとライエルは親しい者にしか判らない、ごく微かな笑みを口元に履いた。 「・・・・・・・・・・・何だ?」 「いや、無理はするものではないと思っただけだ。怪我しても知らんぞ?」 「子供扱いは止してくれ」 「そんなつもりで言った訳ではないが」 怪我をされるのが嫌なだけだと完全に保護者染みた台詞を吐くライエルから再び顔を逸らすと、今度は白い面に困惑の 色が窺えた。 「気分を害させてしまったか?」 「・・・・・・・別に」 「怒っているように見える」 「・・・・・・背が、高くて羨ましいと・・・そう思っただけだ。だから気にするな」 「そうか。俺はお前のそういう素直な処が好ましいと思うが?」 「・・・・・・・・?」 「判らないのならいい」 言ってすとんと今まで抱き上げられていた身体を降ろされる。 自分を見遣る紅い瞳が優美に和むのを見て、こちらもつられて笑みを溢した。 そこに。 「カーマイン」 自分を呼ぶ、少々荒々しい声が落ちて。 そちらを向けば巨漢、といっても過言ではない体格をした男が立っていた。 「・・・・・ゼノス、どうかしたのか?」 「んー?外でウェイン達が探してたぜ?何か剣の稽古して欲しいんだと」 「・・・・・稽古?せっかくの休暇なのに・・・・ウェインは相変わらずだな・・・・・・」 堅いというか、一生懸命過ぎるというか。 偶には休息も必要だとは思うけど。でもそこが彼の良い処でもあるし、と俺は目的の本を手に携えて ここー王国図書館ーを後にした。 ちなみに相も代わらずライエルの言は不可解なことが多い、とこっそり思ったことは取り敢えずここだけの内緒である。 〜後談〜 「にしてもお前も結構、悪趣味だよなライエル」 「何のことだ」 「恍けんなって。カーマインが背伸びして悪戦苦闘してんの楽しそうに見てたくせによ」 「・・・・・何だ見てたのか。しかしそれではお前も同罪だろう、ラングレー?」 「まあ、そうだけどな。でも仕方ねえだろ、滅多に拝めるもんでもねぇしよ」 「・・・・・・・そうだな。眼福、とでも言おうか」 「普段がおカタイだけに余計に可愛く見えるんだよなー、ってそういやお前何気にアイツの腰に腕回してただろ。 ありゃ下手すりゃセクハラだぜ?」 「・・・・・・・鈍いから平気だろう」 「ハハッ、ま、確かにな」 そんな傍迷惑な会話が繰り広げられているとも知らぬカーマインは本を片手で読みつつ剣の稽古をする、という世にも珍しい妙技を可愛い年少組みの前で披露していたという。 fin 駄文、駄文、駄文〜!! 何だコレは。やる気あんのか綺月! というか実は前半はどうでもよくてただ後半部が書きたかっただけという キングオブ駄文(格好悪い)だったりします。 何方か私に鉄拳制裁を喰らわせて下さいませ(涙) |
Back |