恋情もここまでくると重症なのかもしれない・・・・・・。











仁義なき戦い










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

思わず思考が止まる。目前に広がる光景に。
動揺の程はうっかり倒置法を使ってしまっている辺りで如実に現れているか。
取り敢えず、落ち着こう。テンパるのは恐らく俺のキャラじゃない。


・・・・・・・・・・・・・充分テンパってないか自分?
少なくとも通常時に自分のキャラを気にした事はない。大分思考能力が低下しているようだ。
しっかりしろ俺、と言い聞かせ、呆ける意識を何とかしようと自身の両頬を強めに叩く。


「・・・・・・・・・・っ」

・・・・・・強く叩きすぎた。頬が痛い。自分が結構な馬鹿力だった事を忘れていたな。
だがお蔭で意識は随分すっきりした。冷静さも少しは取り戻せたようだ。相変わらず頬は痛いが。
いや、そんな事よりも今はこの光景を何とかするのが先決か。


先程から健やかな寝息を立てつつ仲睦まじく寄り添って眠る二人組み。これが宿なら寝台が別々であり得ない
現象ではあるのだが、いかんせんここは平原に立てられた簡易テントの中。狭いし特にこれといった敷居がない為、
隣り合う者同士が妙に密着してしまうのもまあ、珍しい事ではない・・・・・のだけれども。何と言うか・・・相手が悪い。


一人はグランシルで剣闘王と名高いゼノス=ラングレーという男。もう一人は光の救世主として世間に広く知られ、
その良心的な性格と老若男女問わず絶世と云わしめる秀麗な容姿で多くの者を惹きつけて止まない,
カーマイン=フォルスマイヤー。信じられない事にこちらも男。しかしそれが分かっていても惹きつけられているのは
俺だけではあるまい。現に今彼を抱えて眠るラングレーも彼を慕っているのは目に明らか。それが余計に問題なのだが。
今はあくまで兄弟的なノリだが、将来的にそうかと言えばそうとも言い切れず。放っておけばその内相思相愛な仲になって
しまうかもしれない。それだけは何とかしなくては。まあ、それ以前に自分は彼らを起こす為にこのテントの中にいるのだから。


「取り敢えず二人を引き離すか・・・・・」

有難い事に自分はかなり力はある方だ。なので未だに眠っている二人の傍に膝を付いて、ラングレーの腕の中から軽々と
カーマインの身体を抜き取る。後は個別に起こせば上々か、とも思ったが。少し、いや大分?自分の中の黒いものが蠢いた為に
ラングレーだけ先に起こす事にした。カーマインは後で起こせばいいだろう。


「おい、ラングレー起きろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・んぁ?」

広い肩を力いっぱい掴んで揺すると、ラングレーの碧眼がゆっくりと開いた。まだ少し寝ぼけているらしい。
あと十秒待って覚醒しなければ殴ってやろうなどと腹の中で思っていると、彼は一つ大きな伸びをしてしっかりと目を醒ました。


「・・・・・・・・ライエルか。わりぃ、起こしに来てくれたのか」
「・・・・・・・・・・・・・・まあ、な。ところでお前に少し話がある」
「・・・・あ?お前がオレに?珍しいな。で、何だよ」
「・・・・・・・・・・ここでは話せん。外に出てくれ」
「・・・・・・・・・・あ、ああ」

内容を濁しながらも真摯な空気を纏えば、自分よりも大きな体躯が素早く身を起こしたので、小さく笑い自分も立ち上がる。
まあ・・・・話、などするつもりは毛頭ないが。相手が素直で・・・いや、単純でよかった。オスカーが相手ならこうはいかないであろう。
朝っぱらから嫌な光景を見せてくれた礼は存分に返させて頂くとするか。この瞬間、恐らく俺の中にプチオスカーなる精神が
生まれた・・・・・(要は腹黒か)














「で、改まって話しって何だよライエ・・・・うおっ!!?」


ザスッ


ラングレーの背後から脇腹目掛けて刺突を繰り出すと寸でのところで避わされ、近くの木に剣先が突き刺さる。
牽制の一手だったにしろ俺の攻撃を避けられるのは流石というところか。混乱している獲物に不敵に笑んで木に刺さった愛剣を
手荒く抜き取り、続け様に胸部辺りへの横薙ぎ。剣閃が閃く。それもギリギリのところで避け、飛び退る獲物。
だが、こちらも剣戟を当てようとは初めから思っていない。ただ恐怖心を植えつけるだけ。


「ちょ、ライエル!??イキナリ何すんだ・・・・・って、ぎゃああっ!」
「・・・・・・・油断大敵、だな」
「・・・・・油断つか、何でオレ、お前に襲撃されにゃならんのだ〜!!」
「・・・・・・・・・・・自分の胸に訊いてみろ」
「はあ〜っ!??」

ただ寝ていただけの相手に流石にこれは理不尽かとは思うものの、一度芽吹いた黒い心は消せない。
刺突と斬撃を繰り返し逃げ場を封じ、巨木に背を取られたラングレーを追い詰める。ここまではお遊びみたいなものだ。


「ライエル、いい加減に・・・・・いっ!?」

ドスン

ラングレーの顔の二ミリほど横に剣を突き立てる。手元が狂えば確実にヒットしていただろう。

「おま、おま・・・・殺す気かぁ〜〜っ!?」
「・・・・・・・・・・・・この程度で死なれたら困る」
「・・・・・さっきから何なんだよ。オレ、何かしたか?」
「・・・・カーマイン・・・・・・・に不埒な真似をした」
「へあっ!?」


寝てたとはいえ腰を抱くとは許せん、と耳元で言ってやれば瞬時に青ざめる色黒の顔。

「・・・・え、あ、いや・・・・それは何つーか悪かったけど・・・寝てる間じゃ不可抗りょ・・・・・」
「・・・・・・・・言いたい事はそれだけか?」
「え・・・・・・あ・・・・ちょ、何でお前そんな殺気立って・・・・・・・?」
「・・・・・・・・ところでラングレー、天国とは随分いい所らしいな」
「・・・・・・は?何だよ突然・・・・て、天国!?」
「常春で美しい景観、それにいつだって平和。いい所だと思わないか?」
「・・・・・・・・・いや、まあそりゃいい所なんだろうけどよぉ・・・・・」
「そうか。では俺が直々にお前を天国に導いてやろうじゃないか」
「はあっ!?何言って・・・・つかお前剣を向けるな、剣を!!」
「何、遠慮するな。仲間の望みを無下に断りはしないぞ俺は」
「た、頼んでねえし!大体お前年下のくせに年上のオレに対する態度悪くねえか!??」
「安心しろ。最高の敬意を持って苦しませずに一瞬で逝かせてやるぞ」
「い、いいっつの。んな事に気ぃ遣うくらいならもっと別の事に遣えって・・・・・あっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「ライエル・・・・・・ちょーっと後ろ見てみ?」


散々慌てふためいていたラングレーが急に引き攣った笑みで後ろを指差すものだから、その動きに合わせて自身の首も
動いてしまう。そうして背後を振り返れば視界映るのはまだ寝ているはずの青年の姿・・・・・。

「カーマイン?いつからそこにいた・・・・?」
「いや、何か変な音聞こえたから・・・・・二人は何やってるんだ?」
「あ、か、カーマイン助けてくれっ、何かオレ、ライエルに命狙われ・・・もがっ」←口を塞がれた
「・・・・・・・・・え、何ゼノス?」
「何でもないそうだ。それより早くウェインたちの所に顔を出してやれ、カーマイン」
「ん?ああ、分かった。でも・・・・ライエルたちは・・・・・・・・?」
「俺はまだラングレーと話があるんでな。後で行く」

にっこりと微笑みながら、うーとか呻いているラングレーの口をしっかり抑えつけ、カーマインをこの場から去らせる。
特に疑う事なく踵を返してくれた彼にほっと息を吐きながら、窒息間近のラングレーへと視線を移す。

「・・・・・・地味にこのまま逝くのと、派手に斬られるのとどっちがいい・・・・?」
「むーむがっ・・・・・・んー、んー」
「・・・・・・ん、よく分からんな、まあどっちみち死ぬなら一緒か・・・・・・・・」
「ひゃめれー!!(やめれー)」


結局この後、火事場の馬鹿力で必死に抵抗されて取り逃がしてしまったがここまでやっておけば暫くはカーマインも安全
だろう。自身の黒いものも何とか治まったようだし。

「ま、良しとするか・・・・・・」




一つ呟いて、今日もウェインたちの隠密指令に身を投じる事にした。





fin




ゼノス兄さんが一方的に酷い目に合ってますね。
アニーさんは多分オスカー以外の相手にはそれなりに強気で臨める方だと思います(え?)
それにしてもアニーさんとゼノさんの掛け合いは書いてて楽しいものが。でも何気に
アニーさん黒いわ。次回は是非ほのぼので。というかカー君に出番を!!

Back