興味本位と紅い逆襲








「・・・・・・高くないか?」
「なーに言ってんのよ。それすっごく苦労したんだから!」
「・・・・・・・・・・・苦労?」
「そうそう、あの人すぐ気付くから大変なのよ?」
「・・・・・・そうか、それは悪かった。では、これを」
「はーい、確かに♪」


偶然通りかかったところに、そんな遣り取りをする二人の姿。
一体何の話をしているのか。気になるのが人情ってものだと思う。
だってそれはとても妙な組み合わせだったから。

人目を避けるように会っていた二人。
どちらも、他人との接触をあまり好まないタイプ。
しかも、そのどちらも互いに、相対している人物とは特に関わらないようにしている
節があるというのに・・・・・・一体どういう風の吹き回しか。

何かを手渡すと解散する二人。
一人手渡されたものを眺め、佇んでいる方へ思い切って声を掛けてみる事にした。
・・・・・・・・・正直、ちょっと怖いんだけど。

「・・・・・あの、ライエルさん?」
「!!?」

そーっと、驚かせないように声を掛けたつもりだったけど、ビクンと目に見えて
身を竦ませる黒衣の長身。それから慌てて手に持った厚紙のような何かを懐にしまう。
何だ、あれ。すっごい気になる。

「・・・・・・な、何だウェイン」

コホン、と一つ咳払いして何事もなかったかの表情。
むしろつまらない用だったら覚悟しろよお前、的なオーラを感じる。
この人、絶対堅気の人じゃないと思うのはおれの偏見なんだろうか。
いや、それよりも。さっき隠したものが非常に気になる。思いきって聞いてみようと
口を開こうとすれば、ギロリ。蛇のように睨まれる。やっぱ、この人怖い。

「・・・・・・あ、いや・・・・その〜、さっきリビエラと何話してたのかな〜なん、て・・・」
「・・・・・・・・・見ていたのか?」
「あ、あぅ、ちょ、ちょっと通り、かかって・・・・・」

別に覗き見してたわけじゃ・・・、と段々萎んでいく声で一応の言い訳をするが、相変わらずの
鋭い視線を向けられる。しかも何だか地獄から響いてくるかのような低い声。絶対威圧してるって!!
ビクビク、震え上がりそうな身体を叱咤して、足元に力を込めて何とか毅然と立つが、
もう、逃げ出したくてしょうがない。だって、本当にこの人怖いもん。

「・・・・・別に、大した事など話してないが」

だったら教えてくれてもいいじゃないか。そう心中で突っ込んでみた。実際に口には出せない。
だって命は惜しい。おれ、まだ十七歳だし。色々やりたい盛りだし?好きな人だっているし。
青春だって充分に謳歌し切れてない。そんな中で死んでたまるか。その辺はそう、上手く世を渡る処世術って奴だ。
下手に逆らわない方がいい。例えプライドをへし折られても。

「そ、そうですか・・・・じゃあ、いいですぅ〜」
「・・・・・・・・・・・・そうか」

ススス、と身を引けば、さっきまで怖い顔していたライエルさんが少しほっとしたような表情を見せた。
どうやらよっぽど秘密にしたい内容だったらしい。チクショウ、おれにもっと度胸があれば・・・・・・・。
そこまで思って、別に何もライエルさんから聞き出そうとしなくてもいい事に気付く。そう、もう一人の
当事者に聞けばいいんだ、リビエラならライエルさんよりは聞き出しやすいはずだろう。
そうと決まれば即行動。というかさっさとこの人から逃げたい。おれは猛然と戦闘時でも見せないくらいの
俊足を発揮した。







◆◇◆◇◆






「無理ね」

いきなり、断られた。しかもばっさりって音がしそうなほどきっぱりと。
鼻歌なんか歌いながらおれが奢ってやったコーヒーを口に含みつつ、リビエラは楽しそうな顔。
口を割らないならコーヒー奢らせるなよ、そう言ってやりたいが堪える。もう少し粘ってみればひょとしたら
教えてくれるかもしれないんだから。

「いいじゃないか、そんなに深刻な話でもしてたのか?」

そんな風には見えなかったけれど。そうでもなければ二人が会話の内容を隠す意味が判らない。
食い下がるようなおれを一瞬リビエラは見遣って、でも表情は変わらず、おまけに首を振られる。

「ダメダメ。私これでも依頼者の守秘義務は果たすつもりだから」
「守秘義務〜?」

つか、依頼者とか妙な事言わなかったかこの人は。何か、リーダーのおれに黙って商売でもしてるのか?
それは見過ごすわけにはいかない。部下の行動を把握しておくのはリーダーの特権であり、義務だ。

「あのな〜、リビエラ。お前まさか何か変な商売でもしてるんじゃないのか?」

シャドーナイトだという事実をずっと隠していたように。また、とんでもない事をしているんじゃないだろうか。
むしろそのシャドーナイトが関係とかしてたらどうしよう。厄介だ。リビエラをじっと見つめていれば、
不意にその相好は崩れ、大声で笑い出す。おいおい、いい年した女の子がそんな爆笑とかするもんじゃないって。
はしたないぞ、お前・・・・・・。

「ぶ、真面目な顔して何言うかと思えば・・・・。貴方って最高ねウェイン!」
「な、なんだよ、そんなに笑う事ないだろ!」
「いや〜、別に貴方が心配するような事はないわよ。裏家業とかそんなんじゃないから」

もっと健全な仕事よvと再びコーヒーを口にし、言う。健全な仕事なら隠さずやればいいじゃないか。
何なんだよ、ライエルさんといい、リビエラといい。よそよそしい態度を取られて、思わず剥れるとリビエラは
仕方ないとでも言うように少し、息を吐いて。

「しょうがないわね、じゃあ、ヒント」
「え、何だ!?」
「ライエル卿が一人で何かじっと見ていたらそれを観察してなさいな」
「は??」
「彼、多分アレ見てる時は油断してると思うから」
「は〜???」

じゃあ、ご馳走様〜♪とリビエラは今まで掛けていたカフェの席から立って、外へ出て行く。
残されたおれは腑に落ちないものの、コーヒー代を支払ってリビエラの言った通りにしてみる事にした。






◆◇◆◇◆






とっぷり日も暮れて。宿に戻ってみればフラリ。おれと同室になっていたライエルさんが部屋の外へ
出て行く。リビエラの忠告通りならば、追ってみるべきか。おれは気付かれないように、細心の注意で
以ってライエルさんの後を尾行する。探偵業でもやってるみたいだ。絶対向いてないと思うけど。
人目を避けるかのように、宿の外へと出て行く黒衣の長身。彼の髪が白・・・・いや、銀(と言わないと怒られる)で
良かった。でないとあの真っ黒な出で立ちでは闇に溶けて見失ってしまうところだ。

不意に街頭の下で足を止める彼。それから懐を漁って、何か取り出す。アレは昼間見た厚紙か。
何でこんなこそこそしながら見る必要があるのか。全然分からないが、よく眼を凝らす。
そして気付く。手にした厚紙をとても優しい目で見る彼に。あの目には何となく覚えがある。あれはそう。
とある人物を見ている時の彼の目。優しくて、慈しむようで、愛おしさを滲ませたような・・・・・。

「・・・・・・・もしかしてアレって・・・・・・」
「もう、わかったかしら〜?」
「うっわ!!?」

背後から急に声を掛けられて大声で叫びそうになるのを、慌てたように口に当てられた手で遮られる。
というか今の声って・・・・・・??

「りふぃえふぁ(リビエラ)!!」
「はいはーい、静かにね。ばれたら彼に殺されちゃうわ」

言って、今まで塞いでた手を外される。おれは深く深呼吸してからリビエラに向き直り。

「か、彼ってライエルさん?」
「そうそう。依頼者の守秘義務は必ず守る事にしてるからバラしたなんてバレたら困るわ」
「・・・・・・・っていうかリビエラの商売って・・・・・・・」
「んふふふ〜。今この国は娯楽に飢えてるから結構身入りのいい商売なのよ〜」
「身入りがいいって・・・・・・隠し撮りがかよ」

ほとほと呆れたように呟いた。確証はないが、ただの紙を見てライエルさんがあんな顔をするわけない。
あれは恐らく例の美麗な救世主殿が写った写真に違いない。そして正規に撮ったものならリビエラが隠すわけもない。
アレは本人に断りなく撮った、隠し撮り写真・・・・・・のはずだ。

「あら、隠し撮りってばれちゃった?」
「でなきゃ、隠す意味ないだろ。お前あれでいくら巻き上げたんだ
「何よ、その人聞きの悪い言い回し。私は自分の苦労に比例した分しか貰ってないわよ」
「苦労って言っても写真撮るだけだろ?ぼったくりじゃないか」
「違うわよ。現像するのも大変だし、それに撮るって言っても隠れて撮るのよ?
騎士様なんてすごく気配に敏感で撮るの大変だったんだから。それにただ撮るんじゃなくて一番いい画で撮るのよ?」

騎士様はどの位置から撮っても美人だけど、右斜め四十五度が一番美しいの、とかなんとかリビエラはうんちくを垂れる。
こんな事なら別に無理してライエルさんに聞く事も、リビエラに聞く事も、睡眠時間削ってまでライエルさんの尾行をする必要も
なかったのではと思う。骨折り損のくたびれもうけと言う奴だ。深々と溜息を吐いていると急にリビエラの顔色が青褪める。

「え、リビエラ・・・・どうし・・・・・」
「後は任せたわ、ウェイン!せいぜい死なないようにね!!」
「え、ちょ・・・・・リビエラ!??」

任せる、死ぬな?一体どういう事か問おうにも、目にも留まらぬ速さで駆けていく彼女に訊ける筈もなく。
ただ、さっきまでリビエラが見ていた方へ視線を走らせようとすれば、低い、声が落とされる。それはまるで死神の放つ
鎌のような鋭さで。

何をしている?
「―――――ッ!!!!?」




目前には魔王のような緋色の瞳。

そして夜の闇に響き渡るのは・・・・・・・・おれの衣を裂いたような声。

リビエラが蒼白で逃げるわけだ。



・・・・・・・・・グッバイ、おれの青春。

そして自分で思っているほどおれは世渡りは上手くないらしい。





―――その夜、黒衣の魔王におれは語るのも憚れるほど酷い目に遭わされた。







fin・・・?




オチ、逃げ?どんな目に遭わされたかはそれぞれのご想像にお任せです(おい)
最近筆頭とリビ姉さんをどうしても一緒に出したい病が(笑)お互いがコイツを敵に回しては
いけないと思ってるようです。ただ、リビエラ姉さんの方が立場は強いようですが。
それにしてもウェイン・・・・単なる被害者ですね。何だか彼の使い道を考えるとこれしか
なかったりするんですが・・・・どうなんですかね?(酷)

Back