風一つ吹かぬよく晴れた夏の午後。
一面に広がる青空、ふわふわと浮かぶ白い入道雲。
陽を受けて生き生きと輝きを放つ木々の緑。


景観だけ見れば美しい事この上ないのだけれど。
じっとりと纏わりつくような暑さと湿気がそれをご丁寧な事に裏切っていて。
書類を片付ける手も、あまりの暑さに止まってしまう。ま、もともと書類処理なんて得意じゃないんだけど。
それを得意とする親友は只今逃亡中の国王陛下と仲良く追いかけっこ中。よって仕事を押し付ける事は不可。

「あ〜、もうただでさえイライラするってのにぃ〜〜」

ガシガシと自慢の紫髪を掻き毟って思わず愚痴を漏らす。そう、僕は今すっごくイライラしてる。
暑いからとか、したくもない仕事させられてるからっていうのもあるけど、それ以上につい先日あった出来事が
尾を引いてるといっても過言じゃない。


ん、何があったかって?聞いてくれるのかい?それは嬉しいね。
いい加減一休みしたいと思ってたところだから、お茶でも淹れて全編ノーカットバージョンでお送りしちゃおうかな。





青色ティータイム





そう、あれは今から丁度一週間前。
連日連夜、快晴続きだったバーンシュタインに久しぶりに纏まった雨が降った日の事。
その日もエラーイ僕は今みたいに一人黙々と仕事をしてたわけ。こら、そこっ!単に仕事溜めすぎただけだろ、
とか言わない。僕だって偶には仕事するんだよ?偶に、とか言ってる時点でどうなのさ・・・・と思わない事も
ないけどね。まあ、それはともかく。


真面目に仕事してた僕はふと窓の外に視線を移したんだけど。その時ほど自分の視力の良さを呪った事はないね。
何とそこには浅葱色のジジ臭いお上品で堅ッ苦しそうなブランドものの傘を広げる同僚兼親友の姿があり。
それだけならなんて事はないんだけど、やや大きめの傘の下には彼以外にもう一人、漆黒の艶やかな髪に、
同系色の肩出し衣装、本人まるで自覚がないけど一言で言って色気の塊のような青年がいて。


それってひょっとしなくとも【相合傘】って奴じゃないか?
そう認識すると先ず訪れたのは驚き、次にジェラシーとかいうもので。
ああ、愛の力って怖いね。あと2cmでも親友―アーネストと青年―カーマインが密着しようものなら、思わず
アーネストに向けて鎌を投げつけるトコだったよ。え、カーマインに当たったらどうするのかって?
僕がそんなヘマするわけじゃないかv要らぬ心配というものだよ。




っと、また話が脱線しちゃったね。完璧・無敵な僕の唯一の欠点ってトコかな〜。
まあ、そんな事はどうでもいいんだ。とにかく鎌を投げつけるのは諦めて直接二人の元へと走った。
途中で会ったジュリアンに「仕事は終わったのか?」とか訊かれたけど取り敢えず無視して城門へと駆ける。
ゼーゼー息を切らしつつ目的地に着いた僕と傘を畳むアーネストの目が合ったのはほぼ同時だった。
多分、ね。僕、この時凄い目でアーネストの事睨んでたんだろうね。アーネストの細い眉が吊り上って、彼の
隣にいたカーマインも不思議そうに首を傾げてたし。だから僕は努めて冷静に、アルカイックスマイルを
浮かべた。アルカイックスマイルっていうのは口元だけで笑う事だよ。知ってた?(知ってるよ)

「・・・・・もう書類は片付いたのか?」

僕の不敵な笑みを受け、憮然とアーネストが返す。
その口調はほんの少しだけど皮肉めいていてますます僕の神経を刺激・・・?ああ、いや逆撫でした。

「・・・・・・・・・ね、君に訊きたいんだけどさ、何で君たち一緒の傘に入ってたんだい・・・・?」

出来るだけ声を押し殺して。間違っても【相合傘】なんて言わない。口に出してしまえば空しいのは自分だし。
僕の云わんとしている事を何となく察したのか、アーネストは少しバツが悪そうに。

「・・・・・巡回中に軒下で雨宿りしているのを見かけてな。放っておくわけにも行かなかったんだが問題あるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に」
「なら、そうやって睨んでくるのは止めてくれ。気分が悪い」
「んなっ、気分悪いのはコッチだよ。大体男なら困ってる子に
自分の傘をあげて自分は濡れて帰るくらいの漢気を見せたらどうなんだ!」
「はあっ!?そんな事したら風邪を引くだろうが!それに目的地は同じなのに別々に行く意味はあるのか!?」
「少なくとも君みたいに図体のデカい奴と一緒に入るよりはカーマインが濡れずに済むよね。ほら、見てみなよ。
ただでさえ剥き出しの肩が濡れちゃってるじゃないか可哀想に!!」
「俺だって濡れてるだろうが」
「いいんだよ君は。ナイトなんだからお姫様を護ってトーゼンでしょ!」
「何かお前、言ってる事が支離滅裂じゃないか!?」
「大きなお世話だよ!」




フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。
・・・・・・・・って、何か違くないか?そうだよ僕は別にアーネストと喧嘩しにきたわけじゃないんだよ。
強いて言えばそう・・・・・・・・・・・・・何だったっけ??そういえば何も考えずに来ちゃったよ。うわー、何だそれ。
何か僕、馬鹿みたいじゃないか。あ、言っとくけどあくまで【みたい】だからね?馬鹿じゃあないんだよ決して。

「・・・オスカー?」
「わあっ!?」
「あ、悪い・・・。でもそんなに驚く事ないじゃないか」

プチ混乱中に急に声を掛けられて僕の身体はみっともなく跳ねた。

「あ、カーマイン。アーネストに何か変な事されなかった?」
「・・・・・・・・・・・は?」
「・・・・・・・・おい(怒)」
「だって傘の中という狭い空間に二人きり☆なんてそんな美味しい機会、僕なら逃さな・・・・あたあっ」

ボコッ

鈍い音を立てて頭に軽い衝撃。

「いったいなー、傘で殴らないでよ傘で」
「・・・・悪かった。次からは素手で殴る」
「そういう事じゃなくてさー。あ、もうカーマインからもアーネストに言ってやってよ」
「え・・・・突然俺に振られても・・・・・・。まあ、傘で殴るのはよした方がいいよ。傘も傷むしさ・・・・」
「ああ、判った」

『ああ、判った』、じゃない。
殴る事自体いけない事なんだってば。っていうかカーマインも微妙にズレた事言ってるし・・・・。
僕の事より傘の事心配してるし・・・・・・ヘコむよ。しかもなんか僕ちょっと泣きそうだし。
そんな感じで僕の海のように深い碧眼(自分で言った!)が潤みだしたところに。

「なあ、オスカーは何しに来たんだ?」

自分でもよく判ってない事をカーマインに訊かれ、困ってしまう。
ホント僕何しに来たんだか。大体よく考えてみればこの二人に限って艶めいた事なんてある筈ないんだよ。
片やこれ以上ないくらい一方的な片思い中、しかもお堅くて奥手なアーネスト。片や母親の方針で色事に疎く育ち、
ワザとなんじゃと思うくらい絶望的に鈍いカーマイン・・・・・・。アーネストの理性がぶち切れない限り、
何事も起きはしないだろう。

「はあ・・・・・心配して損した・・・・・・・・・」
「何がだ」
「ん〜、いやいやコッチの話。それより二人ともさっさと身体拭いたら?風邪引くよ?」
「・・・・・ああ、誰かさんが足止めせねばもっと早くそれをしていたんだがな・・・・・・・」

はあっ、とわざとらしく溜息吐いてアーネストは僕の脇をすり抜ける。カーマインもアーネストに付いて歩く。
わ〜、何かアヒルの親子みたいだなー。可愛い〜(カーマインだけ)なんて思いながら二人を眺めていると
思わぬ落とし穴。


どこからかタオルを調達してきたらしいアーネストが紳士振りを発揮して、自分の方が濡れてるくせに
カーマインの身体を拭きだした。それはいいんだけど、それは。僕が彼の立場だったら同じ事するだろうし?
でも・・・・・・・アレは触りすぎだと思う。多分、濡れてないか確認してるんだろうけどさ。ペタペタ頬やら肩やら
腕やらに触れて。まあ、ねアーネストは自分がカーマインに意識されてないって判ってるからああして何の
躊躇いもなく平気で触れられるんだろうね。それは判るんだけど・・・・・・でも。



羨ましいんじゃコラー!!!

と思う僕の複雑で繊細な心も判って欲しい。あ、コラそこ!何言ってんだかって生暖かい目で僕を見ないの!
これでも僕は真剣なんだよ?説得力ないかもしれないけど(痛)


むう・・・・何かだんだん腹が立ってきたぞ。
いやいやいや、大人になれオスカー。ここで怒っちゃだめだって。ここはそう、冷静に余裕って奴を見せなくちゃ!

「・・・・・・・・あ!」

余裕を保て、と脳が命令した時。
アーネストが少し強めに拭いた為、乱れてしまったカーマインの髪を手櫛で梳く。
羽根でも辿るみたいに優しい動作。それを受けてカーマインも目を閉じ、嬉しそうに、そして幸せそうに微笑んでいて。
その様は親子どころか仲睦まじい恋人同士のよう・・・・・。


ってコラコラコラー!!!君たちいつからそんなステディな仲になったんだー!!!
こうなったらもう、前言撤回。余裕なんてなくたっていい。大人気なくって結構だ!とにかく二人の邪魔をしなければ。
思ったら即実行。我ながらこの行動力には惚れ惚れするね(言ってろ)

「や、ちゃんと身体は拭いたかな?」
「あれ、オスカーまだいたんだ」

グサッ


カーマインの何気ない素直な言葉が胸に刺さる。
うん、流石の僕もちょっと落ち込んじゃうよ。別に邪険にしてるわけじゃないって知ってるけどさ。

「・・・・う、うん。折角のゲストに風邪を引かれても困るし、気になって」
「そうなのか、ありがとね。でも俺はちゃんと拭いてもらったから平気だよ?」
「でも身体冷えてるでしょ?シャワー使っておいでよ。着替えは僕の貸してあげるから」
「あれ、いいの?ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」
「ごゆっくりどうぞーvあ、アーネストは残ってねvちょ〜っとお話あるからv」
「・・・・・・・・・・・お話・・・・・・・・だと?」
「うん、そう。親友同士のと〜っても大事な話だからv・・・・逃げるなよ
「!!!?」
「じゃあ。またあとでね、カーマインv」

小声でドスの利いた脅しを吐きつつ、カーマインをにこやかに見送る。そしてその後姿が見えなくなったところで
アーネストの、自分より高い位置にある肩に腕を廻して、人気のない方へ無理やり引き摺っていく。

「さあて、アーネスト。今日はゆっくりじっくり話し合おうじゃないかv」
「い、嫌だ断っ・・・・・・ぐえっ」

否定の言葉を吐こうとするアーネストの首を絞める。咽喉が絞まって随分と苦しそう。
まあ、これも僕が味わったココロノイタミという奴だと思って欲しいものだね。何か僕の腕を外そうと頑張ってるけど
残念、僕もそう簡単に離してあげないからね〜っと。

「・・・おす、かー・・・・話し、合い・・・じゃ・・・・・・・」
「ん?さっき嫌とか言ってなかったっけ?ほ〜ら、僕優しいから話し合い以外の事で決めてあげるよ?」
「ぐ・・・・どこ、ぐがっ・・・・・・・す、みませ・・・・・お願い、です・・・から話し合い、で・・・・・・・・」
「ん、話し合いがいいのね。じゃあ離してアゲル」
「・・・・・・・ゲホ、ゴホッ・・・・お、前あとで覚えてろよ・・・・・」
「わあ、楽しみvでも、後悔するのは君かもしれないねv(にっこり)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ひっ」




暗転。






まあ、それから僕とアーネストはとっても楽しいお話し合いを延々八時間続けました。
何を言ったかあんまり覚えてないけど、取り敢えず物凄く顔色の悪いアーネストの死相のような顔を少なくとも
三回は見たような気がするな〜。

















と、まあここまでが僕の苛立ちの原因かな。
もう既にストレス発散してるじゃないかって?あの程度で僕の気が晴れるわけないじゃないか。
それに進展しないと思ってた二人が意外と気が付いたら出来あがってそう、という事実も発覚しちゃったし?
これからもず〜っと目に穴が開くほど見張ってないとねえ。結構、邪魔するのも気が滅入るもんなんだよ?
おっと、とか言ってたらどうやらアーネストが陛下を捕まえて帰って来たみたいだね。
んじゃ、これからストレス発散の為に仕事押し付けてこようかな〜っと。


ああ、そうそう。僕の話聞いてくれて有難うね。おかげでいい休息になったよ。
また何かあったら聞いてくれると嬉しいな。ま、次回もきっと同じような内容だろうけどね。
じゃあ、今度もまたお茶でも淹れてお話しようね、約束したよ〜。








fin…?





え〜、大変遅くなりました高崎様。
リクは『ラヴいアー主と、その後ろから邪魔しようと予定決行、準備OK♪なデビル・オスカー』だった
わけですが、準備OKどころか既に邪魔してるよ!という内容に落ち着きました(アイタ)
しかも初のオスカー視点ですね。書いてみると意外と書きやすかったんですが、リク内容とかなり
かけ離れた内容になってる気がしなくもありません(あれ〜)

それはともかくとにかく26666のリク、ありがとうございましたv
書き直し・リテイクは随時受付中ですのでさくっと言っちゃって下さいませ〜。

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