それはほんの一瞬の、些細な失態から起きた。






狂言ラプソディー






マクシミリアンの凶行より約一年。諍いの多かったローランディア、バーンシュタイン二大国の友好も以前と同様に
落ち着き始めた頃。それでも両国とも互いに水面下では牽制しあっているのが現状で。そんな好ましくない状況を打破
しようとバーンシュタインの若き君主の提案で、某特使殿と某近衛騎士による、近頃活性化しつつある魔物の討伐、
及び先の戦争によって焙れた傭兵の鎮圧を共同で行う事となった。とはいってもあくまで形程度の物なので本格的に
兵を動かしたりはしないし、陣を張る予定もない。彼らにとっては取るに足りない、軽い運動レベルの話である。
まあ、任務の内容よりも二国の要人が”共闘”したという事実が大事であるので、派遣される人員は特にこれといって
気にも留めない。それどころか、その程度の緩い任務で、なかなか会えぬ親友と会える事にお互い喜ぶくらいで。
いささか不謹慎と思いつつも、皆その日を楽しみにしていた。実際に任務に取り掛かるまでは・・・・。



******



「・・・・・・ソウルフォース」

深い樹海の奥にて、男にしてはやや高い、女にしては低めの落ち着いた声が響き、数瞬後魔法の刃が荒れ狂う魔物を
蹴散らし、消滅させる。ふわりと漆黒の髪が魔法による烈風で掬い上げられ風に靡く。金と銀の瞳が軽く辺りを彷徨って
紅と紫の対照的な二色を捉え、桜色の唇が問う。

「そっちは片付いたか?」

確認するまでもない、とでも思っているのか少し揶揄るような口調。それに紫が「片付いたよ」と応え、紅が静かに
歩み寄って、そっと戦場には似つかわしくない美しい白皙の造形へと手を伸ばす。

「・・・・・・・血が飛んでいる」

短く言って、敵の返り血を浴びた青年の頬を染める赤黒い血液を自身の白い手袋が汚れるのも気にせず拭う。
それを悪いと思ったのか、金銀妖瞳は申し訳なさそうに歪んで。

「・・・・・すまない」
「謝るな、俺が勝手にした事だ。それにどうせ言われるなら礼の方が良い」
「・・・・・・・・じゃあ、ありがとう・・・・・アーネスト」
「どう致しまして」

言葉の割りに憮然としたアーネストにクスクスと笑って、カーマインは置いてきぼりにされ少し面白くなさげに
笑顔を崩す男―オスカーに向き直って一言。

「オスカーもそんな離れてないでこっちに来たら?」

おいでおいでと子供や犬猫を招くように手を拱きするカーマインに不機嫌を露呈していたオスカーも淡く微笑む。
戦闘後とはとても思えぬ優美な所作で己の獲物をリングに戻しつつ二人のいる位置まで寄ってきた。

「相変わらず、剣も魔法も超一流だよねえ、カーマインは。思わず見惚れてしまったよ」
「仕事中に惚けるな、オスカー」
「おや?そういう誰かさんもずっと余所見をしてた気がするけどね、アーネスト」
「・・・・・・下衆いた連中やグロテスクな生き物と戯れているよりはよほど健全だろう?」
「まあ、違いないけど。戦場なんて薄汚れたとこにはやっぱり華が必要だもんねえ」
「・・・・・・・・・・・?二人ともさっきから何の話をしてるんだ?花・・・・?」
「いやいや、花じゃなくて華ね。それにしても君は相変わらずこっち方面は鈍いよねえ」
「普段の勘のよさが嘘のようだな」

自身を話題に出されている事にすら気付けぬカーマインはきょとんと首を傾げ、何気に失礼な事を言ってくれる
男二人を軽く睨み据える。・・・・・が、フッと感じた殺気に更に鋭く目を細めた。カーマインに続きアーネストと
オスカーも緊張を取り戻す。

「・・・・・おい、オスカーあちらは片付いたと言わなかったか」
「あっれ〜、おかしいな。確かに殲滅したと思ったんだけど」
「どんな仕事も手を抜かずにこなして欲しいものだ、なっ」

オスカーがついさっきまでいた方角から出現したモンスターに向かってオスカーよりも足の速いアーネストが
駆け出す。しかしそのアーネストよりも更に俊足なカーマインが既にそこへと到着していて、ザンっと身の丈2Mは
あろう獰猛な獣を一撃で斬り伏せた。素早く、鋭い太刀筋でありながらその軌跡は銀月のように美しい弧を描き、
時と場合も忘れさせ、それは見る者を魅了する・・・・・はずだったのだが、ここで予想外の事が起きた。
カーマインは確かに魔物を倒した。が、その倒した魔物から、仄暗い霧のようなものが噴出し、持ち前の反射神経を
駆使して何とか直撃は逃れたものの、軽く身体に浴びてしまい、ふらりと体勢を崩す。

「カーマイン!」

そちらへと先に向かっていたアーネストが倒れ込む細い身体を支え、後から来たオスカーが早口にファインを唱えたが、
それはその程度の状態回復魔法は効かないらしく、気を失ったカーマインは目を醒まさない。

「・・・・・どうしよう今の瘴気みたいなの・・・・毒でもあったのかな」
「・・・・そういえば今の奴・・・・ここらでは見ない型のモンスターだったが・・・・新種か!?」
「え、じゃあ何か新しい効果とかだったかもって事!?」
「・・・・・その可能性は否めん。とにかくどこかで休ませた方がいい」
「そうだね、早くどこか別の場所に移らないと」

自分たちまで瘴気を浴びないように気をつけつつ、アーネストはカーマインを肩に担ぎ、オスカーは背後からの
襲撃に備え二人をガードしながら、走り出す。そうして木々が並立する山道を全力で駆け、途中見つけた、泉の
近くでようやく足を止めた。

「・・・・・・どうやらここなら敵も来なそうだ」
「一応僕が見張っとくから、水でも飲ませてあげてよ」
「・・・・・・ああ。それと効かんとは思うが一応回復魔法も掛けてみる」

言って、担いだ肢体を地面に横たわらせ、キュアを掛ける。それでもやはり目を醒まさないのに若干眉を顰め、
口で指を咥えつつ、手袋を外すと泉の冷たい清水を救い上げ、もう片方の手で口を開けさせて口内へ流し込む。
すると気管支に入ってしまったのかこんこんと噎せ、その反動でカーマインはようやく目を醒ました。

「・・・・・・気がついたか?」

口元を拭って遣りながらアーネストが問えば、異彩の瞳はぼんやりとしつつも軽く頷く。その反応に安堵しつつ
アーネストはもう一つ質問をする。それはちゃんと意識が戻っているか確認する為のもの。

「・・・・・・・・一応訊くが・・・・俺が分かるか?」

問うと今度はカーマインは首を捻った。まるで目の前にいるのが誰か判らないかのように。その曖昧な反応に
嫌な予感を覚えつつ、アーネストはもう一度問う。

「カーマイン、俺だ。分かるか?」

先程よりも強く口にするもののやはりカーマインの反応は薄い。それどころかそわそわと目が泳ぎ始める。
ひょっとして先程の瘴気の影響で声が出ないのでは、と気休めのような事を思いつつ、アーネストは嫌な予感を
振り切ろうとするが、それも虚しく。

「・・・・・・・・あ、の・・・・・・貴方、誰ですか?」

うっとりと聞き入ってしまいそうな遠慮がちな美声にがくーっと首を落とす銀髪。どうやら嫌な予感は当たって
しまったらしい。念の為にとアーネストはオスカーを呼び寄せた。

「おい、オスカーちょっと来い」
「は?あ、カーマイン気がついたんだ」
「ああ。だが・・・・・・不味い事態になった」
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
「おいカーマイン、コイツが誰だか分かるか?」

今度はオスカーを顎で示すがカーマインは再度首を捻り、そしてそのまま細い首を横に振った。

「いいえ。・・・・・あの、貴方たちは・・・・・・俺の、知ってる方なんでしょうか」
「え・・・・・、ちょ・・・・・アーネスト、どういう事?」
「どうって、見たままだ。どうも記憶がなくなっているようだ」
「え〜、そりゃ不味いんじゃないの・・・・。えっと、さ自分の名前は分かる?」
「はい、俺はカーマイン=フォルスマイヤー・・・・・・ですよね?」

少し自信がないのか語尾が疑問系なもののまだ誰も口にしてない姓を言えている辺り確かに自身の事は
誰だか分かっているようだ。もう少し、質問をしてみる。

「えっと、じゃあ、君普段は何してるのかな」
「・・・・・・・・騎士をしてます。ローランディア王国の」
「・・・・・うーん、つい最近の記憶だよね、これ。・・・・本当に記憶喪失なのかな?」
「うむ、もう少し絞り込んでみるか・・・・・ではジュリア=ダグラスという名に聞き覚えはあるか?」
「はい。彼女はインペリアルナイトで俺の友人です。・・・・そういえば貴方たちもインペリアルナイトのようですね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おかしいな」
「ジュリアは覚えてるのに僕らは覚えてないなんて・・・・・・・」
「俺たちの事だけ忘れているのか・・・・・・・?」
「うーん、それは心外と言うか何というか・・・・。でも僕らの事だけ忘れてるならいっそ好都合のような・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「いやぁ、今なら記憶の改竄が効くかなあ、なんてv」

にんまりと悪戯な笑みを零す親友の姿に、更に嫌な予感が増す、ナイツ筆頭。状況が分からず首を捻って
ばかりいる、無邪気で哀れな漆黒の子羊。どうやら紫の悪魔に狙いをつけられてしまったらしい。

「・・・・・・ひどいなあ、カーマイン。僕の事忘れちゃうなんて」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
「君と僕との仲なのにねえ・・・・・」

顔を伏せ、声を震わせながらの芝居がかった物言い。終いにはヨヨヨ、と身を崩し片手を地に付き、上体を後方へと
逸らし口元に空いた方の手。完全に嘘泣きが入っている。しかし、記憶の飛んでいるカーマインにとってそれが嘘泣き
だとは思えず、おろおろと普段の凛々しさも差し置いて狼狽しだした。

「あ、あの・・・・!??」
「うっ・・・・いいんだ、いいんだよ別に。君が悪いわけじゃ・・・・くうっ、・・・・悪いわけじゃない、から」
「い、いいって、え??だって貴方泣いてるじゃないですか!??」
「いや、ほんと、いい・・・・ううううっ」
「え、え、えー!???」

「????」と疑問符を頭上にてんこ盛りにしながらカーマインは完全に泣き体勢に入ったオスカーを心配し、
地面に頭を付けて丸まった背をあやしながらもどうしたものかと思考を巡らせる。が、いい考えも浮かばず、
しかし放っておくわけにもいかず、訊いてはならない事をついに口にしてしまう。

「あ、あの・・・・忘れてしまってごめんなさい。あの、貴方は俺とどんなご関係の方ですか??」

泣いている人にこんな事を訊くのは酷だろうと胸を痛ませながら吐かれた、記憶のない人間にとっては恐らく
至極当然の質問。それを聞いたからといってそうそう思い出せるものではないだろうと、分かっていながらも
何も知らないよりはマシだろうと判断して、痛む胸を押しながらも尋ねたカーマインだが、彼は気付いていない。
バーンシュタインにおいてもっとも信用してはならない曲者を今現在相手にしているのだと。
その証拠に肩を震わし嗚咽を漏らす伏せられた顔には見事に罠に掛かってくれたカーマインに対する笑みすら浮かんでいる。
しかもにやりという擬音が聞こえてきそうな、性質の悪いそれ。待ってましたとばかりに逸る気持ちを抑えながら
オスカーは意識的に声のトーンを押さえ一言。

「・・・・・・あんなに好きだと言ってくれたのに・・・・・あれは嘘だったんだね・・・・・・」
「・・・・・・はい!??」
「・・・恋人の僕に対してこの仕打ち・・・・!!あんまりだぁ・・・・・!!!」
「えー!!!???」
「僕は君だけを愛していたのに・・・・君にとって僕は簡単に忘れられる存在だったんだ〜!!」
「・・・・え、そ、そんなこ、恋人??貴方と俺が!??だって、え、男同士じゃないですか?」
「本当の愛に性別なんて関係ないって言ってくれたのに、やっぱり嘘だったんだね!」
「ふええ????」

わあっと大袈裟に泣き崩れるオスカーの嘘八百、しかも昼メロ気味な科白を真に受け、カーマインはすっかり
なんて自分はだらしのない奴なんだろうなどと思ってしまっている。対するオスカーはといえば猿芝居を本気にしている
カーマインについ声を出して笑いそうになるのを堪えていた。そしてぽつんと取り残されているアーネストは実は
一人でずっと葛藤を続けていたりする。

曰く。

『カーマインは記憶がない。ならばオスカーの言う通り記憶を改竄出来る。』

最近オスカーのせいで芽生えつつある黒い自分が頭の中で言う。それに対し、モラルに煩い良心が返す。

『何を言っている。そんな弱みに付け込むような事はフェアではない。騎士どころか人の風上にも置けん』と。

しかしそれにすかさず、邪心が畳み掛ける。

『そんな悠長な事を言っていていいのか?現にオスカーは既に洗脳しようとしているぞ?』
『このまま、放っておいたらカーマインはオスカーを恋人だと思い込むぞ?お前はそれでいいのか?』と。

そんなもっともな言い分に良心は押され始めた。

『・・・・・しかし、嘘をつくのは良くない。・・・・・・・それに俺は嘘は苦手なんだ』

しぼんでいく声に勝ったと思ったのか邪心は妙に自信たっぷりに言い放つ。

『今ならカーマインは嘘を吐いたところで分かりはしない。むしろ嘘を吐く事でオスカーから護る事が出来る』

その一言でアーネスト=ライエル、ちなみに名前の意味は”真実”(笑)は新たな一面を開花する。
スイとオスカーとカーマインの間を割って、涼やかに告げる。

「カーマイン、オスカーの言う事など信じなくていいぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「ちょ、アーネスト!後ちょっとのとこで邪魔しないでよ!」
「後ちょっと、って・・・・??」
「ああ、いやいや、何でもないよ」
「何でもないなんて事ないだろう、オスカー?嘘はいかんぞ?」
「・・・・・・・・嘘、って・・・・?」
「ちょ、アーネスト・・・今まで黙ってたくせに何・・・・・むがっ」

困り果てていたカーマインにとって割って入ってきてくれたアーネストはさながら天使、というのは言いすぎだが
それでも随分と大きな救いの手に見えた。キラキラと曇りのない異彩の瞳で縋るようにアーネストを見る。
ちなみにアーネストを見上げているカーマインにはその下で口を塞がれてむーむー唸っているオスカーの姿は
見えていないらしい。だがしかしカーマインはもう一つ見落としている。今自分にまるで助け舟を出すかのような
白い空気を纏った男の背でパタパタと自己主張する黒い翼を・・・・・・。

「カーマイン、お前の恋人は俺だからな」
「「・・・・・・・・・・・・・・ッ!!?」」

ふわりと蕩けそうな笑みすら浮かべて紡がれた言葉に二人分の息を呑む音が響く。一人は言われたカーマイン。
もう一人は息なんて呑んだらあっちの世界に逝きかけるかもしれないほど強く口を塞がれているオスカー。
カーマインは予想もしなかった言葉に驚き、オスカーはそれとアーネストが嘘を始めて吐いたその事実に驚いていた。

「え、ええっと・・・・え、あ、貴方が俺のその・・・・・恋人?」
「そうだぞカーマイン。まさか忘れたのか?」
「あう・・・・・・あの・・・・・ええっと・・・・・・?」
「それとも何か?まさか俺が嘘を吐くとでも思っているのか?言っとくが俺は今まで一度も嘘を吐いた事はないぞ」

今まで嘘を吐いていない、というのは確かに事実。だが、今現在進行形で嘘を吐いている事を棚に上げるアーネスト。
妙にはっきりと言われた、しかも若干哀しそうな顔を交えてのそれにカーマインは落ち着きかけていた頭が混乱する。

曰く。

『え、何!?俺の恋人はこっちの銀髪の人なのか??でも紫髪の人も泣いてるし・・・・どっちが本当の事言ってるんだ?』

その実は、どちらも嘘を吐いているのだけれど。

『ひょっとしてどっちも本当の事言ってるのかな。そうだよね、むやみに人を疑っちゃ駄目って母さんも言ってたし・・・・』
『あれ??ッて事は俺、二人と付き合ってるのか??それって二股??な、なんてふしだらな奴なんだ俺ー!!』
『どうしよう、どうしよう。全然覚えてないけど。本当だったら謝らないといけないよな?なんて謝ればいいんだ??』

嘘を吐かれているなんてちっとも疑いもせず、一人大慌てなカーマイン。そんな彼の様子を見て、アーネストの口角が
こっそりと上がる。その腹の中ではもう一押しかなどと腹黒い事を考えていたりする。だが、天下の腹黒男が黙っては
いなかった(今まで黙ってたけど)

「ちょっとアーネスト、いい加減にしてよー!!」

ブンとアーネストの手を振り解いてオスカーが怒鳴る・・・が、今までずっと口を塞がれ酸欠気味の状態で叫んだので
ゲホゲホと見っともなく咽せ返った。それでも何とか態勢を整えてズビシとアーネストを指差す。

「駄目だよカーマイン、騙されちゃ!嘘を吐いてるのはアーネストだよ!」
「嘘ではないぞ。大体嘘つきはオスカーの方だ。本当に俺は今まで嘘を吐いた事はないんだ」
「今まで『』!でしょ!『』!今まさに嘘吐いてるじゃない!」
「は!嘘泣きするような奴に言われても説得力も何もないな」
「なにおう〜!!嘘つきは泥棒の始まりだよ、アーネスト!アーネストの泥棒ー!!」
「それを言ったらお前はアルセーヌ=ルパンを越す世紀の大泥棒だな」
「何それ!まるで僕が大嘘つきみたいじゃない!!言っとくけど僕ほど善良で正直でピュアな人間はいないね!」
「どこがだ。嘘の上塗りは見苦しいぞオスカー」
「むきー。むっかつくぅ〜!!」
「あ、あの・・・・二人とも落ち着いて・・・・・・・」
「これが落ち着いていられるもんかい!よっし、じゃあカーマイン!僕とアーネストどっちを信じる!?」
「えー!???」

どっちを信じるも何もどちらも信じてはいけない。

「もちろん、を信じるよねえカーマイン?」

にっこり笑顔。それは脅迫と言わないんですかオスカーさん。

「俺はお前がを信じてくれると信じているぞ?」

やはりこちらも普段は見せないような爽やかな笑顔。その内心はどす黒いのだけど。
二人に詰め寄られるカーマイン。今までにないくらいのパニック状態。もう何を信じていいのかどうかも分からない。
ぐるぐる回る思考でそれでも一生懸命、物事を整理しようとするが・・・・・・限界が来た。ぷしゅーという音が
聞こえそうなほど目を回し、ふらふらし・・・・・・・・やがて先程のようにパタリ、と倒れてしまった。

「「カーマイン!??」」

二色の重なる声を遠くに聞きながらカーマイン=フォルスマイヤー、本日二度目の失神。




*****




「・・・・・うーん・・・・・ん・・・・・・はあっ!?」

眉を寄せ、うんうん唸っていた細身のしなやかな肢体がはっとしたように飛び起きる。その額にはうっすらと汗。
はあはあと荒い息を吐いて肩を揺らしつつ、ぐるりと辺りを観察するとそこはどこか見慣れた風景。
はて、ここは一体どこだったろう、一瞬考えすぐにああ、ここはバーンシュタインだ、と思い当たる。

「あ、目が覚めましたか、マイ=ロード」
「・・・・・・・・え、ジュリア?あれ・・・・俺何でここに・・・・確か任務で・・・・迷いの森の辺りにいたと・・・・」
「はい、そうですよ。それで何やら新種のモンスターの瘴気に当てられたとか。どうも最近出没し出した
奴で死に際に自身を倒した相手の意識を奪う呪いを残すのだそうです。マイ=ロードは掠っただけなので
一時的に、しかもごく部分的な記憶喪失になっていただけのようですね」
「記憶喪失・・・・?そういえばアーネストとオスカーは?」
「貴方をここへ運んで来て、何やら色々隠している風でしたので問い詰めたら状況を全て話して
くれました。で、どうも悪戯が過ぎたようなので・・・・・・私が責任持って鉄拳制裁を加えておきましたよv」
「は、鉄拳制裁・・・・?」
「ええ、鉄拳制裁です」

淡々と状況説明をする麗人の口から飛び出した物騒な台詞を鸚鵡返しのようにカーマインが呟くと
即座にぴしりとした物言いが返ってきて、しかもその端正な顔に浮かんでいるのが朗らかな微笑だったものだから
あまりに空恐ろしくてカーマインはそれ以上何も訊かなかった。いや、何も訊けなかった。そして居た堪れなくなり、
少し金銀妖瞳を泳がせるとふと目に映ってくるのは、誉あるインペリアルナイトの制服。そのズボンの裾には
何やら返り血を浴びている。その上を辿っていくとこれまた真っ赤に染まった元は白い手袋。どうやら本当に
彼女は先輩ナイト二人に鉄拳制裁を喰らわせたらしい。

「・・・・・い、一応訊くけど、さ・・・・・アーネストたち・・・・無事、なの?」
「ふふ、マイ=ロードはお優しいですね。ご心配なく。いくら私でも一応先輩に当たる者たちを殺ったりしませんよ」
「ああ、そう・・・・・え、殺る!???」
「あ・・・と言葉が悪くなってしまいましたね。大丈夫です、死なない程度には加減しておきましたv」
「し、死なない程度って・・・・・大丈夫なのか!??」
「はい、大丈夫です。陛下もこの事をお知らせしたら、新しい後釜は何とか用意しますからと仰って下さいましたし。
クルーズにも馬車馬の如く働いてもらいますから万が一二人が逝っても平気ですよ」
「いや、俺が言いたいのはそういう事でなく・・・・・・」
マイ=ロード、しっかり休んで下さいね

反論を告げようとするカーマインの美声を遮ってジュリアの少し低めの声が言う。そして中世的な美貌に上乗せ
させられた極上の笑みに、やはりカーマインは適わず・・・・・

「・・・・・・・・・・ハイ」

記憶を失っている間、自分がどんな目に遭ったのか覚えていない彼にとっては血の海に沈み、上司にも見限られた
某双璧と呼ばれる二人の男が哀れで仕方なく、だが笑っている割に怒気満々の麗人をこれ以上怒らせないようにと
大人しく返事をして寝床に就く事しか出来なかった。


こうして狂言だらけの狂騒曲は、女性初の超漢前インペリアルナイトの(鉄)拳によって終曲を迎えたのだった。
ちなみに狂騒曲の元凶二人は二ヶ月の減俸と有休剥奪、そして主君の私情塗れの始末書の山が寄越されたという。






fin…?





あれ、ギャグにすると言ってた割には中途半端ですみません。記憶喪失になる過程も疑わしくて
すみません。ジュリさん突然出てきて申し訳ありません。皆して腹黒くてごめんなさい(謝ってばっか)
いちおう「記憶喪失になった1主に自分が恋人だと教え込むアーネストとオスカー(攻めは黒く)」という
リクでしたが大丈夫ですか?ああ、今ブーイングが聴こえました。おお、イタタタ。はい、いつもの如く
やり直しは真心込めてやりますので、文句は遠慮なく言ってきて下さいませ。返品も可というか推奨ですv(刺)
それでは39500、有難うございました高橋様〜。そして毎度すみません〜!!(いい逃げ)

Back