例えば、そう例えばの話。

丁寧に、丹念に、序でに優しく、大切に育てた綺麗な花が。

無粋な盗人に手折られでもしたら。




・・・・・・・すっげぇ、ムカつかねぇか?








花泥棒










そう、それは思わず眠くなってしまうような、暖かで気持ちのいい陽射しが照る昼時。血生臭い戦場から離れて、
戦乱の中でも割と治安の良い街中にて暫しの休暇を楽しんでいる最中の事。夕暮れ前までに集合、という結構アバウトな
門限を多少気にしつつ、オレはとある人物を探していた。昼食の時間までは一緒だった、遠目に見ても目立つ人物。

大体この大陸では黒髪ってだけで随分目立つ。それに加えて男のクセにそこらの女よりずっと綺麗な顔をして、
おまけに華奢。リビエラなんてアイツのあの細腰に密かにジェラシーを燃やしてるくらいだ。更に言えば、服装も特殊。

ノースリーブの服に紅いジャケットを羽織って。それだけならまあ、問題はないだろうけど、ジャケットの羽織方がその、
独特っちゅーか、変わってるっつーか。きちんと羽織ればいいのにわざと肘の辺りまで下げている。そこまで下げるなら
いっそ脱ぎゃあいいのにと思うくらい中途半端に羽織っていて。あれじゃ、肩当の意味もないだろうに、その格好の所為で
ただでさえ多い余計な信者もついてるくらいだ。「色っぽくて素敵v」とか「ずっとあの瞳に見つめられたい〜」とかきゃいきゃい
若い女共がはしゃいでるのもよく聞く。本人の耳は見事にスルーしてるらしいが。



そんな事を思いつつ街中を探し回ってみるが、あれだけ目立つアイツの姿が見当たらない。一体何処にいるんだか。
猫みたいに身軽ですばしっこいから、結構探すのに苦労すんだよな。前なんて一際高い木の上で昼寝とかしてたくらいだし。
半日掛けて探しても見つからない、なんて事は一年前の大戦時にもよくあった。ひょっとして今日もそうか〜?と段々
げんなりして来たところに。ようやく、件の青年の姿を見つけた。街から離れた、森なんだか公園なんだか判別し難い、
まあ、要するに木がたくさん生えた広場?みてえなところに、嬉しくないおまけと一緒に、いた。

そのおまけというのが、黒衣に身を包んだ、多分オレとそんなに身長の変わらない、長身の男。まあ、オレと違って
あっちはスレンダーな体格で軽装だけどな。それでも、剣の腕はそれ一本で生計を立ててきたオレよりずっと上。
二刀流なんて大陸中でも珍しい戦闘スタイルを貫くそいつは、本来ならば国外追放中の身。こんなところでのほほんと
してられる立場じゃない。故に人目につきそうなところでは自重して仮面をしている事が多い。却って怪しい気もするが。
まあ、アイツなりにこっちの迷惑とかも考えてるんだろう・・・・・・はずだが。ここにはどうもあまり人が来ないらしくて
いつもは付けてる微妙な仮面を外していた。仮面をしている時は怪しい感じがするが、取ってしまうと、美麗・美人と
評されるあのカーマインと並んでも見劣りしない、平たく言って美形、なんだよな・・・・ライエルの奴。

そこがまたオレと奴との大きな違い。大体、カーマインはオレの親父が元だって話なのに、ぜんっぜん顔が似てない。
おぼろげに若い頃の親父の姿を思い起こすが、確か美人でも華奢でもなかった気がする。そりゃ、顔はまあ整ってたけど、
儚い感じなんて全然しなかったし、豪快だと思う事もあったくらいだし?元が親父っつってもカーマインはカーマインなわけで。
その容姿から性格から、ありとあらゆる面で元になった人物からかけ離れている。もちろん、遺伝子上、息子に
当たるオレとも。それはそれで良かったけど、せめてオレもアイツに釣り合うくらいの面に生まれたかった。そうであれば
こうしてカーマインとライエルが並んでる姿を見て劣等感を感じたりしなかったのによぅ。

ホント、男のオレの目から見ても様になってんだよな、あの二人は。こう、なんかキラキラしたオーラが出てる気がする。
普通の顔に生まれたオレには眩しいぞ。そこまで思ってはあ〜っと重い溜息を吐く。だがしかし。だがしかしなのである。
それでも、このフツーな顔に生まれたオレをアイツは選んでくれたんだ。「ゼノスの傍は安心する」と柔らかくいつもの
ポーカーフェイスを崩して、見た者全てがほにゃ〜とでもなりそうな蕩けそう微笑を浮かべてくれたんだ。だから、何も
心配する事はない。アイツらも偶には積もる話でもあるんだろう。そう思ってオレは仲良さげなライエルとカーマインを
遠目に見て、踵を返そうとした、その時。



巨木に二人背を預けて座っていた、その影が一瞬、重なって。カーマインの白く滑らかな頬にライエルの顔が近づく。
おいおいおい、それはもしかしなくてもききき、キスとかいうものじゃねえのか〜!!!うおーい、カーマイン、オレという
ものがありながらそれはねえんじゃないの!??固まったのは一瞬。すぐに意識を取り戻して、オレはそっとしておこうと
思っていた二人の元へ全力ダッシュしていた。

「か、カーマイン!ライエル!!」
「あれ、ゼノスどうかしたか?」
「喧しいぞ、ラングレー」

慌ててんだか、怒ってんだかよく分からないオレ。きょとんと不思議そうにしているカーマイン。何事もなかったかのように
しれっと、しかも失礼な事を口にするライエル。傍から見れば奇妙、いやおかしい事この上ないだろう図。ちなみにオレは
笑ってる場合じゃない。ひょっとすればひょっとするとこれは浮気現場に立ち合わせたのかもしれないんだ。言うなればそう、
死活問題に近い(そうか?)

「お、お前なあ『喧しいぞ、ラングレー』なんて言っちゃってる場合か!!?」
「・・・・・実際喧しいのだから仕方ないだろう。他に何て言えと?」
「ああ゛?そうじゃねえだろ!お前、人のモンに何手ぇ出してやがる!!」
「・・・・・・人のもの?生憎、お前の名など書いてなかったが?」

自分のものなら名前くらい書いとけ、とライエルはカーマインの顎を取って繁々とその顔を見遣る。あたかも名前を探している
かのように。その言葉を聞いた瞬間、プツンと何かが切れた音がした。これはあれだ、花泥棒をされた花の育て主の心境だ。
自分が大事にしていたものを容易く横から掻っ攫われて、いい思いをする奴なんていやしないだろ?

「ライエル、テメェ・・・・!」
「ちょっと待て、ゼノス、何をそんなに怒ってるんだ?」
「何をってカーマイン、お前なぁ・・・・・」

いくらお前が鈍くてもそれくらい察しろと叫ぼうとしたが、カーマインはそれを遮るように、しかも平然と。

「頬にキスは親愛の証だろう?」

そっち関係の常識なんててんでないくせに妙に確信を込めて告げる。しかも隣りのライエルに「ねえ?」と首を傾いで相槌を
求める仕種までする。対するライエル、いつもは無表情な随分と白い顔に性質の悪い笑みなんて浮かべて「そうだな」とか
頷いてやがるし。

「し、親愛の証って言ってもよっぽど親しくなきゃしねえだろ?」
「だって、俺とライエルは親友だし、なあライエル?」
「そうだな、親友だからな。随分と親しいはずだが・・・・・?」

当たり前の事を言うかのようにライエルと話すカーマイン。それを受けてライエルはまた性質の悪い笑み。まるでオレに見せ
付けてくるようなそれに神経を逆撫でされる。仮にもカーマインの恋人のオレにその堂々たる態度は何なんだ、この男は!

「・・・・・・よーく分かった。もう何も言わん。でも、ライエルには面貸して貰うぜ?」
「・・・・・・・・・残念だが、俺にはお前に貸せる面などない」
「話の腰を折るなっつーの。とにかく来てもらうぞライエル!」
「え、ちょ・・・二人ともどっか行っちゃうのか??」
「ああ、すまん。すぐに戻る」

引き止めに掛かるカーマインの手指をするりと抜けてライエルが面倒くさそうに立ち上がる。そしてその際、不安げに見上げる
カーマインに安心させるかのように、さっきまで見せていた意地の悪い笑みとは違う、正真正銘の微笑を浮かべて事もあろうに、
今度はオレが目の前で見ているのを知っていて、また頬に口付ける。ああ、そうか。こいつがカーマインにその親愛の証とやらを
教え込んだわけだな。人が見てない間に、盗人根性甚だしいな、チクショウ。







◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 






「で、ライエル言いたい事は分かってるよな?」
「いや、さっぱり」

しれーっとまたムカつく発言をするオレより4つも年下の男。ぴくりとオレの顔の筋肉が強張る。口の辺りなんてひくついて
きてるのがはっきり分かる。なんっか久しぶりにブチ切れそうだぞ、俺。

「だーから、人のモンに手を出すなっつってんの」
「・・・・・・・・誰が誰を想おうがお前に関係ないだろう?」
「関係はある!オレはアイツの恋人だからな!」

恋人、の辺りを強調して言うとライエルの静かな表情が微妙に鋭くなった。しかし、すぐにまた元に戻って。

「お前がアイツの何であろうと関係はない。拒む拒まないの決定権はアイツにある」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そーいう事言うかあ」
「現に、カーマインは嫌がってないのだから構わんだろう」
「それはお前が親愛の証って・・・・じゃあ、お前、リーブス卿にもアレやんのかぁ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・気色の悪い事を言うな」
「気色悪いって・・・・・お前が言ってるのはそーいう事だろ?」
「誰彼しろとは言ってない。してもいいと思う者、されてもいいと思う者にしかするなと・・・許すなと言っておいた」
「〜〜〜〜〜ッ」
「お前の負け、だな。では、あんまり待たせては可哀想だから俺は戻るぞ?」

ひらりと黒衣を翻す長身の男に「待て!」と呼び止めるが、その足は止まらない。止まらないが、しかし。
不意に低い通りのいい声が聞こえた。

「・・・・・・俺は、アイツが俺に見せる顔とお前にだけに見せる顔の徹底的な違いを知ってる」

ちゃんと、分は弁えていると肩越しに告げて。更に一言。

「本当に負けているのは・・・・・・俺の方だ」

そう言って今度こそ本当に姿を消した。言葉通り、カーマインがいたところに戻っていったんだろう。
それにしてもそんな言い方されると何か怒るどころか、潔いっつーか、かっこいいとか思っちまうじゃねーか。
盗人のクセに、よ。盗人は盗人なりに花を愛でてるっつー事、か・・・・・。はあ、とまた思い溜息を吐く。
何だか小さな事に腹を立ててた自分の方が惨めに思えてくる。正当性があるのはこっちのはずなのに、だ。
とぼとぼと特に目的地も決めずに歩いていると、前方から、一緒に休暇を楽しもうと思って捜し歩いた人物が
走ってきて、そのまま、勢いを止める事もなく、オレに向かって来て、抱きついてきた。

「ゼノス!」
「え、カーマイン??」

わけも判らず抱きとめるとふうわり微笑まれて、さっきまでの沈んだ気持ちが一気に浮上する。

「お、前なんで・・・・ライエルは・・・・・?」
「ライエルがね、行ってこいって。何か『今回は譲る』って言ってたけど、何の事だ?」
「あ、あ〜、いや何でもない。そっかそっか、ライエルも結構いー奴だよなぁ」
「そうでしょ?だって俺の自慢の親友だからね」
「自慢って・・・・お前やけにライエルの肩持つよな」

抱きついてもらって嬉しかったのは確かだが。恋人のオレの前でアイツを褒めちぎる、っつーのはなんか面白くないぞ。
そう、思って知らず拗ねた態度を取ってしまう。それにカーマインは小首を傾いで。

「・・・・・・・・・う〜ん、でも一番は・・・・・ゼノスだから拗ねるなよ」

言うもんだから、滅多にそういう事を言ってくれないカーマインからその言葉を聞けて舞い上がるオレもいて。

「お、おう」

動揺気味に返事をして、頭の隅でどうにも神経逆撫でする男の姿を思い浮かべ、滅多に聞けぬ甘い言葉を聞けたのも
この花泥棒のおかげかと、ほんの少しだけ感謝なんかしたりして。探し回ってロスした分、せっかくアイツから譲られた
時間を満喫しようと、オレは腕の中の華奢な身体を抱きしめた。







fin…?






何だか久しぶりにゼノ主書いたら筆頭が出張りすぎ、黒すぎですね。
なんとなくゼノスさん相手だと筆頭が妙に黒くなるのは何故でしょう。弱い者イジメ!(消される)
そしてカーマインさんが箱入りで世間知らずなのをいい事に何か教え込んでたり。
手口がオスカー様っぽいですね。感化されすぎですよ筆頭(背後が怖いな)
結局筆頭が好きなんですね、私・・・・。他カプにも普通に出てますからね、彼。
次はウェインx主ですか。書けますかねぇ・・・?(さあ?)

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