青天の霹靂。

どんなに窓から差し込む陽射しが暖かでも、軽やかな小鳥たちの歌声が響いてこようとも。
心許せる友との茶会の最中であったとしても、騒動というものは起きる時には起きるのである。




それは不変に突然に






「・・・・・お前たちいい加減にしろ!!」
「煩い!若白髪は黙ってろ!!」
「な、誰が若白髪だ!もう一度言ってみろ、ジュリアン!」
「お前だお前!他に誰がいるというんだライエル!」
「そーだよ、君しかいないでしょアーネスト」
「お前ら、こういう時だけ口を揃えるな!!」
「まあまあ、先輩たちここは落ち着いて!」
「「「新米は黙ってろ!!!」」」
「酷い!!」

先ほどまでは確かに優雅で和やかな茶会が執り行なわれていたはずなのに、今ではいつ剣が
抜かれても可笑しくないほど、一触即発の険悪な雰囲気を醸し出している。主に言い争っているのは
オスカーとジュリア。それに今し方アーネストも加わり、ウェインは何とかその言い争いを止めようと必死。
だがしかし、ただでさえ後輩。しかも先輩三人は揃いも揃って我が強い。リシャールならばともかく、
ナイツ暦一年の新米には到底止めようもなく。

「も〜、ほんと勘弁して下さいよぉ〜」
「・・・・・・ウェイン、言うだけ無駄だと思うが」
「カーマインさんも止めて下さいよ。っていうかカーマインさんしか止められないですよ」
「・・・・・・・何で俺?いいじゃないか少しくらい喧嘩する方が健全だ」
「そういう問題じゃないですよ。もう殺し合い寸前ですって!」
「あはは、面白い事言うねウェイン」
「冗談なんかじゃないですって!!」

一旦、先輩ナイツから離れたウェインは今度は天然救世主を相手に悪戦苦闘。救世主殿は人が良く、
冷静で頼りになる人物だが時々妙に抜けているのだった。それ以前に件の三人が言い争っている
原因も実は彼にある。それは遡る事、およそ一時間ほど前。



『これから少し店を見て行きたいんだけど、誰か一緒に来ないか?』

手が空いてたらの話だけど、と差し出されたティーカップに口をつけつつ、カーマインが言った一言から
口論が始まったのだ。口論の内容はといえば、聞くのも馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、もちろん
誰がついていくか、で。その事で延々一時間ぶっ通しで喚き続けているナイツ三人組はある意味賞賛に値するか。
遠くから傍観しているウェインとしてはよくもあれだけ怒鳴り続けて喉が枯れないものか大いに疑問である。
オスカーに言わせれば愛の力、とでも言うのかもしれないが。

「じゃあ、もう分かった!ここは公平にアミダで決めようよ!」
「くじ、か?」
「そう、アミダくじ!これなら公平でしょ!」

流石にそろそろ疲れてきたのか騒乱の中心にいるオスカーが打開策を出す。それに軽く息を乱している
アーネスト、ジュリア、更にその後方のカーマインとウェインの視線がオスカーに注がれる。そして暫し
その打開策について思案していた面々だが、ふとアーネストが何やら腑に落ちぬ表情で顔を上げる。

「ちょっと待て。そのくじは一体誰が作るんだ・・・・・?」
「誰って、そりゃあ僕v」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

再び沈黙。が、それはすぐさま覆され。

「って、待て!どこが公平だ!!貴様明らかに細工する気だろう!!」
「(ちっ、気付きやがったか)・・・・何言ってるの、そんな事するわけないじゃない」
「嘘つけぇ!!大体お前はそういう事を言う前に、周囲の人間の己の評価を知ってから言え!!」
「な、何それ!まるで僕が信用されてない人みたいじゃないか!」
「「その通りだろうが、アホ!」」

オスカーの言い分にアーネストとジュリアの声が寸分の狂いなく被さる。むしろ声だけに留まらず、
拳まで出てきそうな勢いだ。それにオスカーは「うっ」と一瞬身を引くが、その程度でへこたれる彼ではあらず。
自分一人対二人。そういう時は一人で粘っても分が悪い。さっさと矛先を変えてしまう必要がある。
にんまりと、いつもの喰えない笑みを浮かべると「待った」と片手を挙げて制す。

「分かった、分かった。じゃあ、くじはなし。その代り二人が別の案出してよ」
「・・・・・・・・・む、別の案か」
「いきなり言われてもな。・・・・・・・料理勝負とか?」
「・・・・・別に構わんがな。しかしそういうのは自分に有利なものを選んだ方がいいと思うぞ、ジュリアン」
「なっ、どういう意味だライエル!!」
「あ、いや・・・・・他意はない」
「他意はない?何だか『お前は料理が下手だから止めとけ』と聞こえたぞ」
「いや・・・・・その・・・・・・・オスカー、何とかしろ」
「自分が撒いたタネでしょ?自分で摘み取ってよね〜」
「・・・・こっの、腐れ外道めが!」

上手い事、ジュリアの矛先はアーネストへと移行し、オスカーはしたり顔。あ〜あ、またやっちゃったと
憐れむようなウェイン。そろそろアーネストが血を流す頃かと心の中で念仏を唱え始める。ちなみに
助っ人しようなどとは思ってもいない。なかなかの曲者っぷりである。

「待て待てジュリアン、ここは落ち着いて話し合おうじゃないか」
「何?私がいつ取り乱した。それに話し合いの余地はない」
「余地はないって・・・お前、ちょっ、リングウェポンが光ってるぞ!!殺す気か!??」
「安心しろ、お前の墓はリシャール様の隣りに作ってやる」
「だ、誰が安心出来るか!!大体こんな狭い室内で剣を抜く奴が・・・・っ!?本当に抜いたー!!」
「こら、逃げるなライエル!!男なら正々堂々と潔く斬られろ」
「馬鹿言うな!!それじゃ、自殺みたいなものじゃないかー!!」

指先が一瞬煌き、大剣が現れると躊躇いなく振るう、リングの主―ジュリア。何とかそれを避わし、少しでも
広い場所へと移動しようとするアーネスト。オスカーはちゃっかりカーマインの元へ避難し、暢気に茶を啜っていた。

「いやあ、あの二人も結構犬猿の仲だよねえ」
「何言ってんですか、こうなる事とっくに予想してたんでしょオスカー先輩」
「あれ、オスカーいつの間にいたんだ?」
「え、アーネストが『待て待てジュリアン、ここは落ち着いて話し合おうじゃないか』って言った辺りからv」
「殆ど最初からじゃないですか。もう、備品とか壊されたらどうするんですか」
「だーいじょうぶ。アーネストが全て悪いんですって陛下に密告するからv」
「・・・・・・・・・いつか罰が下るぞオスカー」

やれやれと息を吐くカーマイン。ちらっと時計を窺う。もうそろそろ買い物に行きたいのだが、と思いつつ
戯れを越して本当にある意味命のやりとりをしている二人が心配でそうもいかない。さて、どうしようかと
物思いに耽っていれば、ガチャンと威勢のよい音が響き渡る。

「あ、花瓶割った」
「アーネストペナルティー+1っと」
「・・・・・・何だそれ」

懐からノートのようなものを取り出し、何かを書き始めるオスカーにカーマインが問えばオスカーは
それは清々しく答える。

「あ、これ?これは陛下に密告する為の閻魔帳?」
「何で疑問系・・・・。どうせこれに書いてあるの、殆ど君が仕組んでやったんだろ」
「ははは、人聞きの悪い。アーネストが間抜けだからいけないんだよ」
「先輩が余計な事するからじゃないんですか?」
「何か言ったウェイン?君の事もこれに書いてもいいんだけど」

知らないよ〜減俸及び有給剥奪になっても♪とにこやかに告げるオスカーにウェインはやはりにっこりと
微笑んで「何も言ってませんv」と返す。何だかこの国の行く末が心配になってきた、と頭を抱えるのは
カーマイン。未だに剣を振り回すジュリアから逃げ回っているアーネストに同情すら覚える。

「時にカーマイン。そろそろ買い物行かないとお店閉まっちゃうんじゃないの?」
「・・・・・・・まあ、ね」
「あの二人、止めても無駄だと思うからここは僕と一緒に行かないかい?」
「・・・・・・・・え、オスカーと?」

実を言えばこれが本当の狙いだったのではないか、と思うほど円滑に話を進めるオスカー。対するカーマイン、
確かに時間がないからそろそろ買い物に行きたいというのが本音。しかし、先ほどからドタドタ駆け回る
足音にどうしても気が行ってしまう。

「大丈夫。いくらあの二人でも流石にそろそろ疲れるでしょ」
「それはまあ、ね。じゃあ、行くかオス・・・・・「「ちょっと待ったー!!」」
「・・・・・遅かったみたいですね、先輩」

今まさに出かけようとしたところで漸く正気に返ったのか、息を乱したアーネストとジュリアがやってくる。
その顔は双方とも鬼の形相。肝が据わっている者でなければ思わず、泣いてしまうのではないかと
思うほど恐ろしいものがある。

「リーヴス、貴様抜け駆けはゆるさん!!」
「そうだ!大体お前、俺を嵌めておいて少しは良心が痛まんのか!!」
「いや、全然」
「・・・・・・ッ!!殺す!!」
「こらこらアーネスト、言葉が悪いよ」
「知った事か!!悪いのは貴様の捻くれ曲がった性格だろう!!」
「・・・・・・・言いやがったね」

にこにこ、微笑んでいたかと思えば、どうやらぷっつり神経が切れたらしく。オスカーの顔にも鬼気迫る
ような何かが宿る。あまりに恐かったのでウェインはさりげなく数歩下がっていた。

「いいじゃない、ナイツ三人仲良く潰しあおうじゃないか!!」
「「望むところだ!!」」
「・・・・・・室内で暴れるなよ」

カーマインはぼやくが熱くなってる三人の耳にはどうも届いていない模様。カーマイン、本日何度目かの
重い溜息。ちらと後ろの方で物陰に隠れているウェインへと視線を注ぐ。

「・・・・・・・こうなったら後が長い。もう仕事に戻った方がいいぞウェイン」
「ああ、はい。っていうか、カーマインさんはどうするんですか?」
「・・・・・・・・頃合を見て三人連れて買い物に・・・・行ければ行く」

書類等の皺寄せが行ったらごめんな、と一言謝るカーマインにウェインはただただ、この人も随分な
苦労性だな〜としか思えなかった。そして三人仲良く、と言っていいのか悪いのか。とにかく取っ組み合いの
喧嘩を続ける大人気ない先輩ナイツを一度見遣って。

「・・・・・・この借りは絶対百倍返しで返して貰いますからね(暗笑)」

低く、微かにのたまう。

「・・・・・・?何か言ったかウェイン?」
「いいえ、何にもvvv」

オスカーに負けずにキラキラ輝く笑顔で言ったウェインに、カーマインは首を傾げながらも「そうか」と
応え、大人気ない三人に諦めたような、それでいて仕方ないなと母親にも似た視線を向けていた。







青天の霹靂。

どんなに窓から差し込む陽射しが暖かでも、軽やかな小鳥たちの歌声が響いてこようとも。
心許せる友との茶会の最中であったとしても、騒動というものは起きる時には起きるのである。
だがしかし、このバーンシュタインに於いてはそれは取るに足りない出来事で。
どこかで今日も誰かが呟く。

「今日もバーンシュタインは平和だ」と。




〜after〜

「・・・・・全く、いい年してここまでやる事ないだろう」
「・・・・・・・・・といういか何故ここまでボロボロになっているのか非常に謎だ」
「そりゃ、あれでしょ。アーネストは口下手のクセにいらん事ばっかり口達者だからでしょ」
「・・・・・・そうだ、私は決して料理下手ではない
「「・・・・いや、それはそろそろ認めた方が・・・・・・」」
「何か言ったか二人とも(ギロリ)」
「「いいえ、全然、ちっとも」」
「・・・・・仲がいいのは構わないけど、そろそろ店が閉まるから・・・・・」
「「「・・・・・・・?」」」
「・・・・・・・?行かないのか、三人とも?」
「「「行く!!」」」
「じゃあ、行こう?」


その日は、バーンシュタイン王都の商店街にて、やたらと目立つ四人組が目撃されたという。






fin…?




大変お待たせ致しました。45500hitを踏まれました栗原様に捧げます。
リク内容「ナイツでカーマインの取り合い」でしたか、ただ言い争ってるだけになってる
気がしてなりません。すみません、自分の中で取り合い=喧嘩という陳腐な方程式が
出来あがっとるとです。愛は一杯です。真心はギフトパックです(訳分からん)
やり直し、心よりお待ち申し上げております(コノヤロウ)

では、リクエスト頂き、誠に有難うございます!!

Back