DEAD or ALIVE




「うちの子攫った馬鹿はいねがぁ〜〜!!」

ナマハゲか。

その場にいる全員が心中でそう思った。
口に出せないのは出した瞬間、自分の命がないであろう事が本能で分かるからだ。
目を見開き硬直した状態で、お馴染みのインペリアルナイト勢は突然の来訪者を凝視する。
その理由は滅多にお目に掛かれない隣国の高官だからか、それとも意中の人物の母親だからか。

ふわりとした動作で逸早く正気を取り戻したオスカーがドアの前で息を切らしているサンドラ導師の元へ近づく。
女性を口説く時のように眼差しを伏せつつ口元には微細な笑みを湛える。その上で自分の出来うる限りの
紳士的な対応を心掛けた。あわよくば己の心証を良くしようという下心が垣間見えている。
しかしそんな見え透いたものに引っ掛かるサンドラではない。というかオスカーのそんな無駄な努力すら
気に留めていないだろう。きょろきょろと室内を忙しく見回している。
まるで何か探しているような・・・。

探している?何か・・・?
初めに『うちの子攫った馬鹿』と彼女は言わなかったか。
この際のうちの子というのは彼女のエキサイト振りと捜索場所にバーンシュタイン城を選んだ事といい
明らかに兄の方を指しているのだろう。という事はつまり。

「カーマインがどうかしたんですか?」

もしや何かのトラブルにでも巻き込まれたのか。カーマイン至上な面々は当然心配になる。
アーネストに至っては周囲からの鉄火面との謂れを堂々と返上する勢いで顔面蒼白で。見ていてちょっと笑える。
隙あらばサンドラに食って掛かるくらいだ。けれどそんな暴挙に走れば確実に『カーマインをお嫁に貰う権』が
失われてしまうので何とか理性で以って堪える。その横でジュリアも落ち着こうとして落ち着きなく剣を鞘から
抜いたり差したりしていた。基本的にここのナイツはダメ人間が多い。

そうこうしてる間に、ここにはカーマインがいないと分かったらしいサンドラが困惑顔で改めてナイツメンバーを見遣った。
蒼い瞳がわらにも縋りたいと告げている。ただ、この場合目の前に広がっているわらは果たして使い物になるのか。
一部の人間のせいでナイツ=変態のイメージが根強く脳裏に媚リ付いているサンドラとしては悩まずにはいられない。
それでも我が子可愛さに乱れた呼吸とローブを手早く整え、常の凛とした風貌を取り戻し、重い口を開く。

「実はカーマインが帰ってこないのです」
「帰ってこない?」
「ええ。仕事上、予定が変更して帰れない日というのは勿論ありますが、そういう時は必ず連絡があるのです」
「という事は今回はそれがない?」

オスカーの問いにサンドラはこくりと一度頷いた。

「ウォレスにも何か知らないか聞いたのですが・・・・あの野郎、
『あいつだってもう18ですよ、一日、二日の無断外泊くらいするでしょう、心配ないですよ』
とか無責任な事言いやがりまして腹が立ったのでソウルフォースを二、三発かましてきたんですが・・・」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
「全く手がかりなしで・・・・どうかしましたか?」
「「「いいえ、全くちっとも!」」」

首を傾ぐ宮廷魔術師に対し、全員がぶんぶんと髪を振り乱して頭を振った。それぞれの表情には目の前の美人に
対する恐怖と畏怖が浮かび上がっている。やはりこの世界に於ける最凶はサンドラ導師らしい。
逆らう事なかれと今更だが全員がサンドラに向かいビシッと敬礼する。そして一人は彼女に椅子を勧めて紅茶を出し、
更に一人は肩揉み、もう一人は何となく靴磨きをして機嫌を取ってみた。ナイツのクセに行動がせせこましいというのには
目を瞑って頂きたい。彼らとてただの人間に過ぎないのだから。

「カーマインは我々の全勢力を以って探し出してみせますので!」
「・・・・そうですか。もし、見つけて下さった方には息子との交際を考慮・・・・」

バタン!

言い終える前に全員部屋から猛ダッシュで出て行った。
取り残されたサンドラはふうと溜息一つ。

「考慮する、とはまだ言ってないのですが・・・・せっかちな人たちですね」

ゆらりと湯気の立ち上る紅い水面をくるりと揺らし、紫の長い髪はソファに深く沈み込む。
白皙の端正な面には、呆れたようでいて何処か満足げな色が覗いていた。


◆ ◆ ◆ ◆


インペリアルナイトたちが自身の持ちうる限りの権限を駆使してカーマインを徹底捜索している頃。
探されてる当の本人といえば、非常に困った事態に陥っていた。

「・・・・一体、どういうつもりだ」

悠然と微笑みながら、自分を見下ろしてくる男をカーマインは不審げに睨み付けた。
鋭く細められた相違の瞳は、研ぎ澄まされた刃のような苛烈さと美しさを秘めている。その表情が益々気に
入ったのか男は笑みを深めた。獲物を狙いすます蛇の如き視線が白い肌を舐め尽す。気味が、悪い。

「・・・・・何が目的ですか、ドルー卿」

じゃらりと、後ろ腕を交差され鎖で拘束されているカーマインは男――ヴァルシュ=ドルーの意図を掴めず
妙な不安を感じる。つうと背筋を冷や汗が伝った。

「・・・今日は警護の依頼ではなかったのですか?
このような状態では私は何も出来ないではないですか」

答えがなかなか返ってこないのでもう一度、少し言い方を変えて問い質す。
『蛮族に狙われているから警護を頼みたい』という話だったのに、何故自分は縛られているのか。
現国王であるコーネリウスの縁者の頼みでは断る事も出来ず、彼の屋敷へと足を運べばどうやらもてなしで
出された紅茶に薬が盛られていたようで今に至っているわけだが、捕らえられる理由が掴めない。

別に自分は特に失礼な振る舞いをした覚えはないのだと、カーマインは相手を射抜く視線に僅かに非難の色を乗せた。
それを受けてドルーは腰を屈め、床に座り込んでいるカーマインと視高を合わせる。腰ほどまでに長いダークグレイの
髪がカーマインの漆黒の騎士服へと絡みつき、ややくすんだ鳶色の瞳が近づく。顔つきは端正なのに病的に白い肌と
邪悪な口元の笑みが何とも言えぬ警戒心を煽る。スッと伸びてきたドルーの指先から逃れようとカーマインは出来るだけ
首を逸らしたが、背後には分厚い壁があるため逃れられない。顎を掴まれ固定された。

「・・・・ッ」
「・・・おや、怯えておいでかグローランサー殿。
誰よりも強く美しい貴方のそんな表情が拝めるとは、こうして監禁する意味があったというものです」
「なんだと・・・・?」

監禁、という言葉にカーマインの顔は引き攣る。

「以前から思っていたのですよ、王城のパーティで貴方を見初めて以来。
凛とした穢れなき美貌、そして身に纏う清廉な空気に魅入らされ、この手で乱したいと・・・」
「・・・・・・何を、馬鹿な事を・・・・」
「そう、馬鹿な事です。けれど、貴方はその愚か者から逃げられない。違いますか?」

カーマインの腕から伸びる鎖を掴み、色違いの瞳の前で揺らしてみせるとドルーは目前の痩身の服へ手を掛ける。
が、何か不穏な気配を感じたカーマインが唯一自由になる足で肩口を蹴り上げてきたためすぐに手は離れた。

「・・・・痛」
「触るなっ」
「警戒心剥き出しですね。
けれど、その憤った表情もお綺麗ですよ、グローランサー殿。
まさに堕とし甲斐があるというものです」

狂ったような耳障りな低音。このような下卑た視線に晒される事は初めてではないが、どうにも慣れない。
絶えず気持ち悪さが付き纏う。カーマインは何とかこの屋敷から、そしてドルーから逃げようと視線を巡らした。
ドアや窓の位置などを把握しようと。けれどこの部屋にはまず窓がない。入り口はドルーの背後に一つだけ。
勿論鍵が掛かっているだろう。両手が自由な状態ならそれでも逃げ出す手立てはあったろうが、手は使えない。
絶望的な状態にカーマインは小さく苛立たしげな吐息を零した。

それから軽く目を閉じてどうすべきか考える。下手に暴れても余計な体力を消耗するだけだろう。
ならば今は大人しくしているしかない。ドルーが隙を見せるその時まで。そしてその瞬間までこちらは一瞬も
隙を見せては為らない。少しでも動揺すれば付け込まれる。これでも自分はグローランサーと不本意だが
崇め立てられている。そんな自分が行方不明になれば当然捜索の手が出るだろう。見つかるのも
時間の問題の筈だ。だからそれまで待っていればいい。カーマインはそう結論付けると、もう一度ドルーを
きつく睨み付けた。

「・・・・ドルー卿、こんな真似をしておいてただで済むと思わぬ事だ」
「袋の鼠の言葉とは思えぬ迫力ですね、流石英雄様だ。窮鼠は猫を噛まれますか?
一体その強気が何時まで持つか愉しみですよ」
「煩い、消えろ」
「本当にご立腹のようだ。そこまで仰るのでしたら一度出て行きましょう。
但し貴方の食事は当面抜かせて頂きますよ。貴方が衰弱しきった頃、もう一度参ります」

とても愉快そうに言い放つとドルーは長い後ろ髪を揺らして部屋から出て行った。がちゃりと鍵が閉まる
無機質な音が室内に響いた。カーマインは気が抜けたのか背後の壁に寄り掛かる。冷たい感触、薄暗い部屋。
こんなところに長時間居ては気でも狂いそうだと再度溜息を吐く。

「さて・・・・困ったな」

まぁ、コーネリウスの縁者と聞いた時点であまりいい印象ではなかったが、まさか自国にこんなに偏った趣味の
人間がいるとは思わなかった。もし、このまま誰にも見つけてもらえなければ自分はどうなってしまうのか。
想像するだけで凍える。カーマインは不安を隠しようもなく改めて室内をぐるりと見渡す。何か、腕の鎖を切るのに
いい道具はないだろうか、必死で視線を巡らす。けれど、この部屋には簡素なベッドくらいしかない。
壁に叩きつければ壊れるだろうか、一瞬そんな考えも浮かぶがドルーに気づかれてしまうだろう。

せめてリングウェポンがあれば話は違うのだが、気を失っているうちに奪われてしまったらしい。
魔法も、どうやら結界によって封じられているらしく使えない。どうしようもない。本当に助けをただ待ち続ける事しか
出来ないのだろうか、カーマインは諦めにも似た面持ちで首を振る。

「・・・・後ろ向きになるのは良くないな」

こういう時こそ前向きに、カーマインは顔を上げる。そしてふと、思い出した。

「・・・・・あ、そうだ」

確か、発明が趣味なのかそれとも仕事のうちなのか、色々な魔道具を作り出す自身の母からこの前何か言われなかったか。
何とか思い出そうと天井を見上げる。考え事をしていると大抵の人間は上向いてしまう。カーマインも例に漏れずその姿勢のまま
記憶の引き出しをこじ開けようとした。そして、浮かんだ。

「ペンダント・・・何かあった時はペンダントの裏にあるボタンを押せとか何とか・・・」

言っていたような。うろ覚えながらもイメージを膨らます。

「でも手が塞がってるんだよな・・・・うーん」

せっかく思い出したのに無駄だったかと思うものの、ここで諦めるのも勿体無い。
もう少し考えてみる。そして結論を出す。

「・・・・衝撃でも動くかもしれないな」

大抵の機械類は衝撃を与えれば動く事が多い。例え動かなくても何もしないよりはマシだろうとカーマインは
身体の向きを変えると、身を捩り壁へとペンダントを何度かぶつける。すると思惑通り、作動したのかペンダントが
一瞬強く光った。何だと思う間もなく光は徐々に弱まり消えていく。

「・・・・・何だったんだ?」

特に何が起きるわけでもなく、カーマインは腑に落ちない。何かの思い違いだったのだろうか。
どちらにしろ振り出しに戻った事になる。カーマインは最後に一息吐いて体力を温存するため、ひょこひょこと
移動し、備え付けのベッドの上へと寝転がった。陽の射さない室内に置かれていたそれは若干湿った感触がしたが、
床で寝るよりかはまだいい。今後は絶対コーネリウスの縁者とは関わるまい、そう心に決めてカーマインは長い睫を伏せ、
つかの間の眠りに落ちた。


◆ ◆ ◆ ◆


「!キタキタキターーーー!!」

何が。
天のお迎えか?

蔑みにも哀れみにも取れる眼差しで、カーマインを捜索し続けているインペリアルナイトたちは声の主を見つめた。
その声主は何を隠そう、カーマインの母であり隣国の宮廷魔導士、サンドラで。当のサンドラはナイツたちの冷たい視線に
気づいた様子もなく、目を閉じて何かを探そうとしているような素振りを見せる。

「・・・・サンドラ殿、如何なされた?」

どんなにトチ狂った行動をしていても意中の人間の母なので幾らか気を遣い抑えたトーンでアーネストは問うた。
その問いに対し、サンドラはカッと目を開き、ぐるりと勢いよく振り返る。

「カーマインを見つけました」
「・・・・え?」
「ペンダントに仕込んでおいたGPSが作動したようです」
「ジーピー・・・?何ですかそれは」

耳慣れぬ単語にアーネストを含めナイツとその部下は怪訝そうな顔をする。仕方なくサンドラは掻い摘んだ説明を
する事にした。しかし焦っているのか非常に早口になっていて聞き取り辛い。

「いいですか、GPSとは謂わば発信機のようなもので持ち主の居場所を特定する事が出来る
私の天才的な発明です。ちなみにGlobal Positioning System の略ですよ、覚えておきなさい」
「「「・・・・・はあ」」」
「何ですかその気の抜けた返事は。インペリアルナイトともあろうものが嘆かわしい!」
「「「・・・・・すみません」」」

ナイツ三人揃って激しくテンションダウン。がっくりと首を項垂れる。
そんな彼らを見遣ってはっ、と嘆息したサンドラはふと正気に戻った。いや、人から言わせれば恐らくそれは
正気とは言えないのだろうがまあ、それはともかく。

「そんな事より、カーマインを迎えに行かなければ!」
「あ、ああ・・・居場所が分かったのでしたね。それで一体彼は何処に・・・・」
「ちょっと待って下さい。今ポイントを地図に置き換えますから。えー、A-201のZ-117地点は・・・あ、ありました。
ヴァルシュ=ドルー卿の屋敷、ですね」
「・・・・ヴァルシュ=ドルーとはコレクターとして有名なあのヴァルシュ=ドルーでしょうか?」

ドルーの名を聞いてハッとしたようにオスカーはサンドラへと尋ねる。訊かれたサンドラはよく分からないのか
小さく首を傾いだ。

「いえ、風の噂で聞いたのですが、ローランディアのドルー卿は美しいものを集めるのが趣味だとか・・・。
絵画や彫刻に留まらず美しければどんなものでも集めたがると一部では有名・・・・!」
「「「!!」」」

オスカーがドルーについて説明していると説明しているオスカーを含め全員の顔が強張る。
美しいものを集めるのが趣味な男の屋敷にカーマインがいると言うことはつまり。

「「「「野郎!!」」」」

性別も立場も関係なく全員が声を揃えて言葉悪く叫んだ。周囲で遠巻きにこちらを見ていたナイツの部下たちも
驚いたような顔をする。しかしそんな正常な人たちの反応などお構いなしにナイツとサンドラの怒りのボルテージは
うなぎ登りで上がっていく。

「ドルーめ、まさかカーマインに不埒な真似をするつもりではあるまいな」
「もしそんな事になってたらどうする?」
「決まっている。そっ首叩き落してくれるわ!!」

オスカーに聞かれ、アーネストはすぐさま答えた。けれどそんな彼に異を唱えたいらしくジュリアが女性とは
到底思えない声量で勇ましく叫んだ。

「温い!マイ=ロードに指一本触れようものなら生爪剥いで人間スイカ割り(真剣使用)を
試みた後、根性焼きをしてやるべきだ!!」

え、何その極道みたいな発想。

「それこそ温い!その後、使える臓器を根こそぎドナー提供した後、八つ裂きにすべきだと僕は思うね!!」

犯罪だよ。

「ちょっと待って下さい。だったらその前に針山の上に石を抱えさせて正座させたらどうかしら!」

何の提案だ。
古典的過ぎるよその拷問。

「とにかく死んでもらう!」

あ〜あ、ざっくり纏められちゃったよ。

「「「「よし、その意気!」」」」

妙な連帯感に包まれながら四人は、通った道の端に茂る草花全てを枯らす勢いでドルー邸へと
本来のキャラすら忘れて駆けて行った。そんな彼らの遠ざかる後姿を背に、捜索に駆り出された兵士たちは
どうしていいか分からず立ち尽くす事しか出来なかった。


◆ ◆ ◆ ◆


バターン!

物凄い音を立てて屋敷の玄関の扉が蹴破られた。
当然、屋敷の人間がぞろぞろと出てくる。が、ドアの外に立っている面々を見て硬直した。
自国の宮廷魔術師と、隣国の国の誉れが三人。
しかもただならぬ殺気を放っている。当然、普通の人間がそれと向き合うには過酷過ぎるだろう。
震えを堪えているだけ立派だ。

「・・・・ヴァルシュ=ドルーは何処だ」

低い低い声が問う。主の名を呼び捨てられれば家臣としてはその不躾さに牙を剥かねばならない筈だが、
誰一人として声を発する事が出来ない。何も発しない彼らに焦れたのか更に声のトーンを低めて同じ事を問う。

「ヴァルシュ=ドルーは何処だと聞いている」

チキリと剣を鞘から抜き放つ仕草も加わり、一人のメイドが声を震わしながら。

「だ、旦那様は奥の書斎でございます・・・・」

答えてしまった。言わなければ殺される、と本能で感じたのかもしれない。いや、感じたのだろう、彼女だけでなく
今この場に居合わせた全ての人間が。主の身に危険を及ぼすかも知れぬというのに誰も彼女を咎めないのだから。
ピリピリとした空気に触れすぎて思考が麻痺したのかもしれない。ダン、と強くナイツの一人が剣を地面に叩きつけた。
よく響き渡る音に家臣たちは震え上がり、そしておずおずと玄関を固めていた面々は突然の来訪者のために
道を開ける。その様子はさながら海を杖で割った賢人モーセのようだった。

そして無事屋敷内に進入する事に成功した四人はメイドから教わった通り、奥の書斎を一目散に目指す。
途中すれ違う使用人たちを弾き倒し、またしてもドアを蹴破る。

「「「「うちの子攫った馬鹿はいねがぁ〜〜!!」」」」
「!?」
「貴様は完全に包囲されている!
大人しく投降するなら百分の九十九殺し、抵抗するなら永遠の死だ!」
「ど、どっちも大して変わりないではないかぁーーー!!」

性悪が顔に出ているものの、如何にも冗談なんて口にしなそうなドルーが思わず突っ込んだ。
慌てて何か身を守るものを手探る。けれど、場所が悪かった。書斎では武器になりそうなものなんて
厚手の本くらいしかない。これでも脳天を叩けばそれなりに痛いだろうが、剣で斬られる方が痛いに決まっている。
逃げようとしてもサンドラがバインドを唱えたため、それも叶わない。

「ちょ、ちょっと待ちたまえ。君たち一体どうやってここへ入ってきた?
不法侵入ならば訴える事も出来るのだぞ!?」
「おや、これから死ぬ人間にそんな事が出来るんでしょうかね、ドルー卿」
「マイ=ロードを攫うなどという罪、万死に値する!」
「うちの息子に手を出したらどうなるか、その身に教え込んで上げましょう」

それぞれがドルーの脅しなど聞こえなかったかのように言いたい事を言う。
しかもその内容はどれも不穏で恐ろしい。最後にカーマイン親衛隊の中でも一番カーマインへの愛が
痛く深いアーネストが締める。

「さて、ドルー卿。最後に一つ問おう。
地獄とは一体何処にあると思う・・・・?」
「・・・・・・は?」

突拍子もない問いに当然ついていけず、恐ろしさもありドルーの声がひっくり返る。
怯えた彼の様子をじっと眺め、アーネストは満足そうに微笑み、抜き身の剣を屋敷の主の首へと突きつけ
死の宣告の如く、言い放った。

「貴様の目の前・・・・だ!」
「ヒィ!」

言葉が終わると共に剣が振り下ろされ、屋敷の中に耳を劈く悲鳴が木霊した。


◆ ◆ ◆ ◆


フッ、とカーマインは目を開いた。
随分と眠っていたらしい。時計も、窓もないので正確な時間帯は全く掴めないが。
それでもほんの少し、身体が軽い。後はきっかけとタイミングさえあれば、抜け出す事は可能かもしれない。
そんな事を考えていると、遠くの方から何やら喧騒が聞こえてきた。

「・・・・何だ?」

何処となく聞き覚えのある声が複数聞こえる気がする。それにこの屋敷の主の化け物と遭遇したかのような
恐怖に滲む叫び声。いや、むしろ阿鼻叫喚。聞いてて此方までも鳥肌が立ってしまいそうな。

「・・・・・・・・・・・・・・」

カーマインはこれ以上聞いているのが怖かったので毛布の中へと逆戻りした。
現実から逃れるようにあーあーと声を出して自分の耳に外界の喧騒が届かないよう無駄で且つ地味な
努力をしてみる。けれど本来それをするなら手で耳をぱふぱふする必要があるのだが、拘束されていては
それは不可能で。結局耳には届いてきてしまう。

「・・・・・き、気のせい気のせい・・・・気のせい・・・・・だよな?」

そんなわけがない。しっかりバッチリ知人の声だ。しかも一人は肉親のもの。
カーマインは目を閉じて先ほどまで呪っていたドルーを哀れに思った。彼の味わっているだろう恐怖を
思うだけで涙が出てきそうだ。頑張れーと意味のない応援もこっそりしてみる。

が、それも空しく数分後。
カーマインは何やら返り血を浴びた四人組にどさくさ紛れの熱すぎる抱擁を受けながら救出された。
ドルーの末路は・・・・想像にお任せする。



fin?



一応携帯サイトでのリクエスト品なのですが、これを
逃すと更新が滞りまくりなのでこちらでもアップしてみました。
ジュリアとオスカーがなんだか地味です。ウェインはこの三人ほど
テンション上げられないので今回はお留守番です。
それにしても私の書くサンドラ様は全てがおかしいですね。あれ?

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