突然ですがこんにちは。私はマスターの二代目使い魔ピティです。
私の役目はマスターのために仕える事なのですが、先代使い魔からも言い付かっているように
マスターを少しでも幸せにして差し上げる事も大事な事だと思うのです。

と、いうわけで。
最近オーディネル領主であり、マーキュレイ・オーディネル連合軍の頭目であるアルフォンスさんに
恋をしているマスターのお役に立ちたいな!と思っているわけです。ええ、そりゃもう恋のキューピッドと
いうわけですよ!ああ、何だか凄くはりきってきちゃいました☆よーし、今日もマスターの(恋の)ために頑張るぞ〜!!





ピティちゃんのとある一日







「マスター、おっはようございまーす!」

イライザさんの別荘にご厄介になって早数ヶ月。初めは今までと明らかに違う整いすぎた環境に少し戸惑っていた
マスターも漸く慣れてきたようで、近頃では元は早起きさんなのに寝心地のよさに時折寝坊をされるので、こうして
使い魔である私が起こして差し上げるのが日課となっています。でもやはり傭兵をされてるだけあって、寝起きは
よいらしく、一声かけるだけでマスターは瞼を擦りながら身を起こしてくれます。

「・・・・・お早う、ピティ」

少し掠れ気味な声で挨拶を返して下さるマスター。こう言うと親馬鹿ならぬ使い魔馬鹿とでもいうのでしょうか。
マスターは男の方なのに線が細くてとてもお綺麗なお方です。それにお優しいし、お強いし。私はそんなマスターの事が
大好きです。だから、マスターには少しでも幸せになって欲しいと思うのです。そのためには、先ずは恋愛成就!という
わけで、どうにもそういった事には鈍い傾向にあるというか控えめなマスターのためにこのピティ、一肌でも二肌でも
脱ぎたい次第であります。

「・・・・・ピティ、どうした?」
「・・・・・・・・え!?あ、な、何でもありませーん!」

どうやら既に支度を整えられたらしいマスターが不思議そうに首を傾げていて、自分があっちの世界にトリップして
いた事に気づき、慌てて取り繕ってみましたが・・・どうやら納得されていないご様子。どうしたものかと悩んでいれば
ピカーンと頭の中でひらめきが浮かび、早速それを口にしてみる事にしました。

「ま、マスター!今日は休暇ですよね!でしたらお買い物に行きませんか?」
「・・・・・・・買い物?」
「そうです、えーっとほら・・・・オーディネルとか」
「・・・・・・シドニーさんに今日はマーキュリアで過ごすと言っておいたろう」

それ以前に領地とマーキュリア以外は行かないで欲しいと言われている、と生真面目なマスターらしい返事が返って
きてしまい、内心大慌てな私はそれでも何とかマスターを説き伏せようとあれやこれやと考えを巡らせてみますが、
やはり若輩者な私ではいい案が浮かばず。うーうー唸っているとマスターがフッと小さく息を吐く姿が目に映りこみ、
どうかされたのかと首を傾げる。

「・・・・・マスター?」
「・・・・何だ、よっぽどオーディネルに行きたい理由でもあるのか?」
「え、えーっと・・・・・」

マスターをアルフォンスさんに会わせるため、と素直に言っていいものか数秒悩んで。でも、マスターはシャイな方だから
それを言えばきっと照れて嫌と仰るだろうからここはちょっと・・・悪いけれど少し嘘を吐かせて頂きます。
ああ、ごめんなさいマスター。ピティは悪い子です。後でじっくりゆっくり反省しますから許して下さいね?

「あ、あの!マギーさんにどうしてもオーディネルに買い付けに行って欲しいと言われてるものがあって」
「・・・・・マギーさんに?」
「はい、えっとーあの・・・・GLチップスを」
「GLチップス・・・・・?」

取りあえず、オーディネルにしか売ってないものといえばそれしか思いつかず。でも確か前にマギーさんが一度は食べてみたいと
仰っていたような気がして引き合いに出してみましたが・・・・・微妙、だったかもしれないですね。マスターも何だか釈然としない、
といった表情ですし。うう〜失敗した、かなぁ・・・・・?

「・・・・・何でGLチップスなんだ」
「え、えっと偶に凄く食べたくなるんだそうです。で、食べないと集中できないとか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

適当な事を言ってるなーと自覚はあるものの、話を何とか繋げなければと口にした言葉に更にマスターは訝しむように
眉根に皺を寄せて・・・・・・これは、怒られてしまう・・・・かも・・・・・・。

「・・・・・まあ、マギーさんも結構マイペースなところがあるからな・・・・」
「・・・・・・え?」
「研究が滞られても困るし・・・・シドニーさんには何とか許可を取る事にしよう」
「や、やった!・・・・じゃあなくて、有難うございます、マスター」

思いもかけず信じてくれたらしいマスターにうっかり本音を漏らしてしまったものの、慌てて言い直せばやはりマスターは
少し不思議そうに首を傾げていて。ああ、良かった、マスターが騙されやすい・・・・んじゃなくて素直なお方で。
とにもかくも、これでオーディネルに行ける!と喜び勇む私を肩に連れ、マスターは一度シドニーさんに断ってから
オーディネルへのゲートへと足を運んで下さる事になりました。ふう、一安心。







◆◇◆◇






「・・・・・相変わらずここは賑わってるな」
「ですねー」

街を散策している最中、たわいない会話をしながらも私はきょろきょろと血眼になってとある方を必死に捜索中。
まあ、言わずもがなこのオーディネルの領主を務めていらっしゃるアルフォンス=オーディネル卿なわけですが。
ただ、オーディネル卿はいつも最前線で戦われているので、お会い出来ない可能性が高いのですけど。
・・・・・っと、あれ?あそこにいるのって・・・・・・・

「・・・・・クリスさん?」
「え、クリストファー・・・・?」

街の外れ、こじんまりとしたお花屋さんの前で、銀髪に、紅いシャツ、黒のベストにレザーパンツという見慣れた
格好の男性を見つけて思わず名前を口ずさむものの、何か違和感を感じてしまうのは何故でしょう。
うーん、ここからだと良く見えないけれど・・・・何だか髪が短いような・・・・気が・・・・・

「・・・・マスター、あそこにいらっしゃるのは・・・クリスさん・・・ですよねぇ?」

指差してマスターに確認を取ってみれば、マスターの琥珀色の瞳は大きく見開き。どうされたかお尋ねする前に
走り出されるマスター。一体、どうなってるんでしょう!?

「ま、マスター!?」

呼びかけて、俊足なマスターを一生懸命追いかけていくと、近づいた事により良く見えるクリスさんらしき人物。
けれどもよくよく目を凝らしてみればその人物は・・・・・

「え、アルフォンスさん!??」

びっくりしてついつい大きな声を出してしまいました。だってお花屋さんの前でクリスさんと同じ格好をしているその人は
私の見間違えでなければ、アルフォンスさんだったから。

「な、何でクリスさんの格好を〜!?」

一人疑問を口にしていると一足先にマスターがクリスさん・・・の格好をしたアルフォンスさんに声をかけていて。

「・・・・アルフォンス、何だってこんなところに!?」
「そういうクレヴァニールこそ・・・・・」
「俺は、ちょっと買い付けを頼まれて・・・というか何でクリストファーの服を着てるんだ!??」

私と全く違わぬ疑問を投げかけるマスター。それにクリ・・・・いいや、もうアルフォンスさんで。アルフォンスさんは少しだけ
困った風に微笑んで、けれどどこか嬉しそうに。

「実はね・・・最近強行軍続きでろくに休んでいないからって兄が入れ代わってくれたんだよ」
「・・・・・・・入れ代わる?」
「そう、前線の指揮を。といってもいくら同じ顔とはいえ何日も代わってたら気づかれてしまうから今日一日だけなんだけれどね」

今は転送装置があるから一人なら一瞬で前線に戻れるし・・・・と話すアルフォンスさんに、マスターは感心そうに耳を傾けられて。
そして微かに、端正なお顔に嬉しそうな微笑が浮かんでいるのを確認して、このピティ内心ほくそ笑んでおります。

「・・・・じゃあ、今日は休暇なのか」
「そう。折角だから手土産持参で君に会いに行こうかと思ったんだけど。まさかここで会えるとは思わなかったよ」
「・・・・・俺に会いに?」
「ああ。戦いが続くと・・・どうしても君の顔が見たくなるんだ・・・・」

ふわり、アルフォンスさんが極上の笑みと共に言った言葉は傍から聞いていればまるで口説き文句のような気がして
しまうのは果たして彼がクリスさんの服を着ているからでしょうか・・・・?マスターも真っ赤に顔を染められてますし。
何だか、私があれこれしなくても良いような気がぷんぷんするんですが・・・・・

「それとこれ、クレヴァニールに」
「・・・・・・・え?」

アルフォンスさんは頬を染めるマスターに気づいていないのかマイペースに話を続けながら、手に持っていたらしい、
小さな花束をマスターへと差し出して。その様がまるで今にもプロポーズする男性のように目に映るのもマスターに幸せに
なって頂きたいという私の願望の現われなんでしょうか??いや、でもなんっかアルフォンスさんの顔を窺ってる限り
あれはマスターがアルフォンスさんに向ける表情に酷似しているような・・・・・。

「・・・・曼珠沙華?」
「君にとても映える花だと思ったから・・・・」
「・・・・・・・綺麗だな」

マスターの髪と同じく深紅の花が白くたおやかな手によく映えて。確かにアルフォンスさんの言うとおりなのだけど。
ここでも何か少し引っかかるものが・・・・。確か、曼珠沙華の花言葉は・・・・・。そこまで考えて私は自分のしている事がいかに無駄か
思い知ってしまいました。だって私がわざわざ口を出さずとも、お二人は相思相愛のようだから。

「有難う、アルフォンス」
「君がそう言ってくれる事が・・・・一番嬉しいよクレヴァニール」

ああ、もう見ていられません。私、使い魔失格ですか?だってあんなに望んだマスターのお幸せな姿がその、何と言うか
見ていてちょっと・・・というかかなり恥ずかしいと言いますか、何だか私が照れてしまいますぅ。

「まあ、マスターがお幸せならそれでいっか」

マスターとアルフォンスさんを遠目に見遣りながら、吐き出した言葉は街の賑わいに溶けて。とにかくもう放っておいても
くっつくのは時間の問題であろうお二人がとことん幸せであるよう祈るばかりです。はあ、それにしても私いつ出て行ったら
いいんでしょうか。もう、このままお二人をいっそ見守っていた方がいいんですかねぇ。

などと悩んでいる間に、お二人はより親睦を深めていたようで。今以上に仲良しこよしなお二人と、陰気漂うクリスさんと
顔を合わせるのも遠くない未来であるとこの時の私は全く考え付きもしませんでした。



(以上ピティ日記より抜粋)






fin




あれ、終わっちゃった(爆)ピティ視点って難しいですね。
いえ、これは後日UP予定のクリス編と連動する・・・気がするので(おい)
こちらで説明不足な事はきっとクリス編に持ち越しになるかと。
花言葉の意味もそちらで明らかになると思います。この後のクレとアルフの様子も。
恐らくひたすらクリス兄さんが可哀想な事になってるかと思いますが(えー!?)

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