憤り、懺悔、嘆き、哀れみ。
理由は色々あるのかもしれない。

けれど。
俺の前から去って行った皆の後姿が。
「化け物」と言っている気がした―――



無意識の行動




「・・・・ねえ、リオレーにいなくて良かったの?」

ベルシェイド刑務所で自分に行われた手術と定期的に服用させられていた薬の秘密を知ってしまった
ゼオンシルトは一人彼に付いていると決めたコリンを肩に乗せ、ふらふらとまるで雲の上を歩くかの如く
浮ついた足取りであまり整備の行き届いていない獣道を歩いていた。

アルビノの瞳は前を向いていながら、何処か遠くを見つめている。元々、口数の多い方ではないが
常よりも格段に口を開く回数が少ない。コリンの質問にも大体は首の動きだけで答えていた。
そんなゼオンシルトの横顔をコリンの赤紫の瞳はただただ心配そうに見つめている。
ひたりと小さな手のひらがゼオンシルトの頬に触れた。

「身体の方は大丈夫?どっか苦しくない?」
「・・・・・・・・大丈夫」
「・・・・嫌なの、分かるけど・・・あの薬飲んだ方がいいよ。アレ飲まないと辛いんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

薬、とコリンの口から出た瞬間にゼオンシルトはそっと白い肌には目立つ紅の双眸を長い睫で覆い隠した。
無言でありながら、聞きたくないと告げている。それが分からぬほどコリンも妖精といえど、人間の感情に疎いわけ
じゃない。では一体どうすればいいのか。分からず、何か言いかけては唇を引き結び、言の葉を飲み込む。
その場の空気が凍りついたと表現してもおかしくないほどにシンと静まり返った。

「・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

一言の会話もなく、ザッザッと土を蹴る足音だけがその場に響く。決して絶えず。上の空のようでありながら、
ゼオンシルトは立ち止まらない。休みなく足を動かし続ける。まるで目的地があるかのように。
意思があるようには見えないが足取りは何らかの目的を感じさせる。気になったコリンはゼオンシルトの肩の上から
飛び立って金の柔らかな髪の上へと移動した。次いで尋ねる。

「ねえ、どっか行きたいとこでもあるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「うーん、じゃあ・・・誰か会いたい人がいるとか・・・例えばほら、シェリスさんとか」
「・・・違うよ」

一言だけ返して、ゼオンシルトは口を噤んだ。その間も足だけは何処かに向かって前へ前へと押し出されている。
コリンは黙ってゼオンシルトが歩いていく方角だけをじっと見据え続けた。言葉にしようとしない彼の思惑を
見極めようとするかのように。そして赤紫の瞳は何かに気づいたのか怪訝そうに歪められた。

「ゼオンシルト・・・アンタ、こっちはグランゲイルの・・・・ゼオンシルト?」
「・・・・・・・・ッ」
「ゼオンシルト!」

ゼオンシルトの身体がぐらりと傾く。彼の頭の上に乗っているコリンは斜めに落ちていく視界に驚声を上げた。
無駄だと分かりながら金の髪をぐいぐいと引っ張って倒れていく肢体を支えようとする。当然、コリンの小さな手では
何の影響を与える事も出来ない。スクリーパー細胞を押さえ込む毒の影響か、ゼオンシルトは呻く事すら
出来ずに地面へと倒れ伏した。

「ちょっと、ゼオンシルト!しっかりして!!ゼオンシルト!!」

耳元に直接声を掛けても深く目を閉じ、ゼオンシルトは荒い息を繰り返すだけで。コリンは涙目になりながら、
尚も呼びかけ続ける。それでもゼオンシルトは返事をしない。一気にコリンの顔が青褪める。
最悪の事態が脳裏に浮かんで。ただでさえ、自分の身体の事で精神的にダメージを受けているのに、
薬切れまで起してしまっては助かる可能性は非常に低い。道徳的に許しがたくても今は一刻も早く
バイタルエネルギーの錠剤を飲ませなければならない。

「ゼオンシルト、ちょっと待っててね、今薬を・・・・んっしょ、んー、んー・・・・だめぇ重い〜〜」

ゼオンシルトの荷物の中から薬袋を取り出そうとするコリンだったが、彼女の力では薬袋を持ち上げる事すら出来ない。
何とか粘るが、びくともせず、焦りだけが募る。頬の丸みをじっとりと汗が滴った。

「どうしよう、アタシじゃ無理だ・・・・誰か、誰か呼んでこないと・・・・」

きょろきょろと必死で首を動かす。道標から判断すると、ここから一番近い街はグランゲイル領のゼルドックとなる。
知人の顔が浮かんで、コリンはキッと眼差しをきつくする。一度顔色の悪いゼオンシルトを振り返り、ふわりと宙へ舞った。
羽を動かし、身を翻す。水色の長い髪が緩やかに弧を描く。

「待ってて、今人を呼んでくるから!」

多らくゼオンシルトが無意識に逢いたいと思っていたであろう人物を連れてこようと、コリンは必死になる。
木枝が生い茂る森の中を器用にすり抜けながらゼルドックを目指す。が、その途中で頭に思い描いていた人物を
見つけ、慌てて下降する。びたんと相手の顔にぶつかる勢いで視界へと飛び込んでいく。

「ちょっと、止まって!」
「・・・・な?!」

コリンの小さな身体がだんだんと自分の視界の中で大きくなっていく事に驚いたのか彼女に眼前へと飛んでこられた
男は普段は細い瞳を見開いた。しかし瞬きする暇も与えずコリンは怒声を発した。

「アンタ、いいところに!!」
「テメェは平和維持軍の・・・・一体何の用だ。しかも人をアンタ呼ばわりとは一体どういう・・・」
「そんなのはどうでもいいから!大変なの!!ちょっと来てよ!!」
「大変・・・?今度は一体何をやらかした。こっちはジークヴァルトの事で忙しいんだ」
「いいから早く!ゼオンシルトが死んじゃう!!」

何の因果か、人一倍平和維持軍を嫌っているはずのギャリックと遭遇したコリンは、無理やりにでも彼を連れて
いこうと、ゼオンシルトを急かす時にするようにギャリックの前髪の一房を力の限り引っ張った。
緋色の瞳が痛みのせいか細くなる。文句をつけようと口を開きかけていたギャリックだったがコリンの最後の言葉に
それを飲み込む。代わりに彼女の細い身体を掴んで見下ろした。

「おい、テメエそりゃ一体どういう事だ」
「と、とにかく大変なの!ゼオンシルトが倒れて・・・早く薬を飲ませなきゃ命が危ないの!!」
「・・・・・・・チッ、しゃーねえな」

詳細は結局分からずじまいだが、あまりに真摯なコリンに心を動かされたのか、それとも自分の気に入りの人間の
安否が気になるからかギャリックはコリンが指差す方へと慌てて駆け出した。紅いマントと服の裾がこれ以上なく
捲くれ上がっている。それだけ急いでいるのだろう。コリンはギャリックの様子を多少珍しいと思いながらも
先ほどゼオンシルトが倒れた場所へとギャリックを導く。

「こっち!急いで!!」
「指図をするなチビ!!」
「チビじゃなーい!私の名前はコリン!コ・リ・ン・ちゃ・ん!!」
「うるせえ!さっさと案内しろ!」
「アンタこそ偉そうに命令しないでよーぅ!!」

気性が似ているのか、全力疾走ながらもまるで堪えた様子もなくコリンもギャリックも声を張る。
そうして怒鳴り合っているうちにゼオンシルトが倒れている場所まで辿り着いていた。

「ほら、早く早く!」
「だからうるせえって言ってんだろ。大体その薬って何処にあんだよ」
「ここ!これ!」

ぐいぐいとゼオンシルトの荷物の中の薬袋を指差すコリンを目に留めて、ギャリックは腰を屈めた。
袋の中から一錠取り出すとゼオンシルトのうつ伏せになった身体を抱き起こし、口元に薬を宛がう。

「おい、これ水なしで飲める奴なのか?」
「え、あ・・・うん・・・・・・多分」
「・・・・・・・まあいい。おら、飲め」

無理やり唇を抉じ開けて、ゼオンシルトの口内に薬を押し込む。相手に意識がないからか、普段ならば
照れるであろう事も大して抵抗がないらしいギャリックは薬を飲ませた後、自分のマントを脱いで掛けてやり、
少しだけ呼吸の落ち着いてきたゼオンシルトを木陰で休ませてやる。そこまでするとほっと一息ついた。
同様に安堵したのか気の抜けた顔でへたりと座り込んでいるコリンを見下ろす。

「・・・・・で、どうしたんだよコイツは」

ぶっきらぼうな口調で、ギャリックはゼオンシルトの倒れた経緯を尋ねる。コリンは複雑そうに眉を顰めた。
それからぱくぱくと口を開け閉めし、最終的にぶんぶんと首を振る。

「・・・・・アタシからは言えない」
「あ?何だと?」
「だから・・・アタシからは言えないって・・・。ゼオンシルトから聞いて。
多分、コイツはアンタに会いたかったんだと思うから」
「は?俺に?何でだよ・・・・」

コリンの言葉に納得出来ないギャリックは首を傾いだ。

「だってアンタ、この間ジークヴァルトさんにバイタルエネルギー吸収されてたじゃない。
その事、コイツは気にしてたみたいだったし・・・・・」
「・・・・・・・そういう事かよ」
「へ、何か言った?」
「・・・・ッ、何でもねえよ」

一瞬何処か残念そうな声が届いた気がしてコリンは頭上に疑問符を浮かべた。対するギャリックは
うっかり漏らしてしまった呟きに気づかれてしまった事に大いに慌てる。じっと赤紫の瞳に見つめられ、
そっぽを向く。それでもコリンの視線を感じたのでしっしと手を払いながら「見るんじゃねえ!」と
怒鳴り散らす。そのままの勢いでスクッと立ち上がった。

「どうしたの?」
「言ったろう、俺は暇じゃねぇんだ。さっさとガイラナックに戻らなきゃならねえんだよ」
「ちょっと!じゃあゼオンシルトは・・・」
「分かってる。このまま置いてくほど俺も鬼畜じゃねえよ」

一度ゼルドックに戻ると口にしてギャリックはゼオンシルトを自分の肩の上に担ぎ上げた。
思ったよりも軽い体重に僅かに目を瞠り、それから呆れた吐息を零してから踵を返し、先ほど自分が
走ってきた方向へと逆戻りする。途中、ふと気づいてコリンを見据えた。

「おい、お前先に行って医者に受け入れ準備させとけ」
「え、でも・・・・」
「俺からの要請だと言えばいい。すぐに用意してくれる」
「う、うん。分かった。その代り、ちゃんとゼオンシルト連れてきてよ!」
「分かってると言ってるだろう。さっさと行け!」

半ば追い立てるように言って、ギャリックはコリンを先に行かせた。嵐が去って気が緩んだのか
眉間の皺が微かに薄れる。改めてゼオンシルトを担ぎ直した・・・・その時。

「・・・・・ん」
「!??」

今まで静かだったゼオンシルトが急に呻き声を上げたため、ギャリックは肩を竦ませた。
そろそろと自分の肩の上にある青白い顔へと視線を飛ばす。

「・・・・・おい、気が・・・ついたのか?」
「・・・・・・・ん・・・あ、れ・・・・ここ・・・・・?!」

真横にギャリックの顔がある事に驚いたのか、どうやら覚醒した模様のゼオンシルトは起き抜けの
掠れ声で驚きを露にした。ついさっきまで青かった顔色は一気に紅くなっている。それからじたばたと
ギャリックの肩の上で足掻く。

「ちょ・・・ギャリック大尉、降ろして下さい!!」
「降ろせっつったって・・・お前歩けんのか?」
「も、もう大丈夫ですから・・・・!」
「・・・・・・・・・・・」

何やら必死な様子のゼオンシルトを見て、ムッとしたギャリックだったが、本人がそういうのなら
仕方ないと担ぎ上げた痩身を地面へと降ろした。もしふらつくようなら手を貸してやろうと密かに腕を伸ばす。
けれどそれは無用なものに終わる。薬を飲んで大分回復したらしいゼオンシルトは一人でちゃんと
歩けるようだった。

「・・・・・・・・」
「どうされました、ギャリック大尉?」
「別に何でもねえ。それよりお前、何故あんなところで倒れていた?薬がなければ危なかったらしいぜ」
「・・・・薬・・・・・。まさか俺にあれを飲ませたのですか?」
「・・・・?飲まなきゃ死んでたんだろう?なら飲ますしかねえじゃねえか」

事情を知らないギャリックはゼオンシルトの声が震えた事に気づかない。ゼオンシルトは恐ろしげに
自分の喉を押さえた。苦痛に歪んだ表情を乗せる。

「なんだ、苦しいのか?」
「・・・・・あの・・・薬・・・あの薬は飲んではいけないんです。だってあれは・・・・・・」
「・・・・・?」
「あれは・・・・バイタルエネルギーを結晶化したもの・・・・大勢の人間の命を犠牲にしたもの・・・・なんです」
「!」

突然のゼオンシルトの告白にギャリックは耳を疑った。ゼオンシルトを助けるために飲ませた薬が
バイタルエネルギーによるものとは、初耳だったからだ。あの、小さな粒一つに大勢の人間の命が封じられている。
そんな事を言われれば誰だって気味悪く思う。当然ギャリックの胸にも悪いものが過ぎった。

「人間の命を犠牲にして・・・・?一体どういう事だ!」
「・・・俺もさっき知ったばかりなんですが・・・俺は維持軍の極秘の実験体にされたそうです。スクリーパーと
対等に戦える生物兵器として・・・。そしてそのおかげで定期的にバイタルエネルギーを摂取しなければならないのだと。
俺は今まで知らなかったとはいえ、自分が生きるために大勢の人を殺してしまった・・・・・化け物なんです」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

切々とした、そして同時に色濃く含まれる自虐を耳にしてギャリックの眉間に再び深い皺が刻まれた。
やはり維持軍はろくでもない連中だと、そんな事を思って。けれどゼオンシルトに対しては嫌悪感など浮かばなかった。
元々、気に入っている者だからか、それとも自虐を口にする彼の身体が目に見えて震えているからか、それは
分からないが。とにかく込み上げてくるのは何とも言えぬ感情。それを吐露するようにギャリックは口を開く。

「・・・・・なら初めから知っていたらどうした。自分が生きるために同じ事をするか?」
「そんな事!・・・・・出来るわけないじゃないですか・・・・・」
「スクリーパーを倒せる力を失ってもか?」
「・・・あなた方のように自力で倒せる方がいらっしゃるのなら・・・俺は鍛錬して鍛錬して鍛錬して・・・・。
自力で倒せるようになるまで腕を磨く方を選びます。楽な道なんていらない、まして人の命を犠牲にするなんて・・・」

自分の問いに迷いなく答えるゼオンシルトをギャリックは横目で一瞥すると顔をまた正面に戻す。
正直、ゼオンシルトの口にする言葉は綺麗事に聞こえてならない。それでも、彼は真剣で、本気なんだろう。
自分の命より人の命を重んじ、楽な道よりも苦行の道を進むのだろう。そういえばそんな奴をもう一人知っているなと
ギャリックは脳裏に自身の親友を思い浮かべ苦笑した。どうやら自分はこの手の人間が好きらしい、と。

「・・・・・誰かを犠牲にするのも、楽な道に逃げるのも嫌か。難儀な性格だな」
「・・・・・・・・?」
「お前、さっき自分を化け物だと口にしたが、お前は何処にでもいるただの人間だろ」
「・・・・え?」

とてもガラじゃないが、手を差し伸べてやりたくなり、ギャリックは俯くゼオンシルトの頭にぽんと
手を乗せた。頭から走った小さな衝撃にゼオンシルトの緋色の目が丸くなる。次いで俯かせていた顔を引き上げた。
その時には既にギャリックの顔はあさっての方向を向いている。こちらと目を合わせたくないらしい。
けれども僅かに覗く耳が赤くて、ゼオンシルトは彼の特性を思い出して、あ・・・と小さく呟いた。
それを掻き消すようにギャリックの声が被さる。

「・・・・んな情けねえツラした化け物なんていやしねえからな」
「・・・・・・・・あ」
「・・・・もし、今自分が生きている事に罪悪感を感じてるなら、何があってもお前は死ぬな」
「・・・・え・・・・」

意外な言葉を聞いた気がして、ゼオンシルトは間の抜けた返事をする。いつの間にかギャリックの顔は正面を向き、
いつもの仏頂面に戻っていた。止めていた足を動かし、ゼオンシルトの前を歩く。

「ギャリック大尉・・・?」
「罪悪感を一生背負って生きろというのも酷な話だがな・・・維持軍の連中は言わねえだろうから言っておく。
お前が今の自分に罪を感じているのなら、少しでも長く生きろ。平和維持軍は、真の平和とやらを目指すんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前が直接殺したわけでも、それを望んだわけでもないにしろ、犠牲になった奴らがいるのは確かだ。
だったらそいつらのためにそいつらが守りたかったものを代わりに命懸けで守れ。そいつらが目にする事が
叶わなかった真の平和の世界とやらを実現させて、少しでも長くその世界をお前を通して見せてやれ。
・・・・・それがお前に出来る奴らへの償いだ」

ざあっと風が吹き、長い前髪が攫われ、垣間見えたギャリックの表情はとても真摯なもので。
ゼオンシルトは今言われた言葉をゆっくりと噛み締める。本当は、この場で彼に殺されるのではないかと何処かで
思っていたから。むしろそれを望んでいたのかもしれない。これからどうすればいいのか、すっかり道を見失って
しまっていたから。けれど、今ギャリックはそんなゼオンシルトの気持ちを察しているわけではないだろうが、
道を示してくれた。とても苦しい道だけれど、それでもその道を歩みたいと思わせてくれるような道。
ゼオンシルトの口元にはふっと小さな笑みが浮かんでいた。

「・・・・ギャリック大尉」
「なんだよ」
「大尉は・・・・優しいですね」
「は、はあ?!お、お前何言ってやがるんだ?!頭打ったんじぇねえのか!?」

いきなりのゼオンシルトの発言にギャリックは照れたのか素っ頓狂な声を上げる。顔は勿論色が白い部分を
探す方が困難なほど紅い。先ほどの真顔は一体何処に消えたのかと思うほど。ますますゼオンシルトの口元に
浮かんだ笑みは深くなる。手を当てて、クスクスと笑い声すら漏らす。

「て、てめえ何笑ってやがる!!」
「だ、だって大尉の顔すごく紅いですよ。ギャリック大尉って本当に照れ屋さんですよね」
「な、照れ・・・・・誰がだ!」
「大尉以外に誰がいるんですか。あ、っと話が逸れてしまいましたね。今日は本当に有難うございます。
助けて頂いた上に・・・大尉のおかげで元気が出ました。本当に有難うございます」
「な、成り行きだ、成り行き!いちいち感謝してんじゃねえ、アホか」

とても綺麗な笑顔で礼を言われてしまい、先ほど以上に顔の紅いギャリックはドスドスと大きな足音を立てて
ゼルドックへと戻っていく。ゼオンシルトもその背を追って歩く。ギャリックの言葉に腹を立てるでもなく、
にこにこと微笑んで。それを気配で感じていたギャリックは少しだけ後ろを振り返りたい誘惑に駆られたが
ぶんぶんと頭を振って更に駆け出す勢いで先を行く。

「おら、医者を待たせてんだ!急げ」
「はい、大尉・・・・あ!」
「おい?」

ギャリックの足の速さに合わせていたゼオンシルトだったが、まだ本調子ではなかったのか、地面の石に
足を取られ、それは盛大に・・・・転んだ。慌ててギャリックは背後を振り返る。

「ったく、調子が戻ってねえならそうと早く言え」
「すみません・・・・」
「・・・・本当にお前って奴は鈍くせえな。おら、手ぇ出せ」

素直に手を出したゼオンシルトのそれを掴むとギャリックは、強い力でゼオンシルトを引き起こす。
そのまま手を握られた状態で歩き出されゼオンシルトは戸惑う。

「あの、大尉・・・」
「お前は危なっかしいからな。街まではこうしておけ」
「・・・・・・・・はい」

きゅと握り返すと、ギャリックの耳が当然の如く紅い。本当に冗談でもなんでもなく、ギャリックと言う人は照れ屋
なんだなとゼオンシルトは温かくなる胸元を押さえた。刑務所で感じていた絶望も虚無も苦痛も忘れてしまいそうなほどに。
多分、ギャリックに会ったらこうなる事は分かっていた。分かっていたから、何も考えられない真っ白な頭で
こんなところまで無意識に歩いてきたんだろう。今更ながらにそう思う。

「ギャリック大尉・・・」
「なんだ?」
「・・・・・何でも、ありません」
「あ?なんだそりゃ・・・」

不意に胸が詰まって、何事かを口にしかけたゼオンシルトだったが、ゆっくりとそれを飲み込んだ。
変な事を口走ってこの今の距離を崩したくないと思って。けれどゼオンシルトは知らない。逐一、ギャリックが顔を紅く
するのはゼオンシルトにだけだという事を。


互いが互いの心の内を知るのはまだ先の事―――




憤り、懺悔、嘆き、哀れみ。
理由は色々あるのかもしれない。

けれど。
俺の前から去って行った皆の後姿が。
「化け物」と言っている気がした。

それでも。
人間だと言ってくれるあなたがいるから。
道を示してくれたあなたがいるから。

明日も俺は、生きていける―――




fin



ギャリ⇔主、ですかね。暗い明日コノヤロウイベント後、
落ち込んでしまってるゼオンシルトをギャリックに慰め(?)させてあげようという
魂胆で書きました(魂胆言うな)

なんかギャリさんはいつも忙しい言うてる割りにゼオンさんに構いますね。
その分あとで必死に頑張るんでしょうが。結構苦労性のようです、銀髪の定めですか(笑)


Back