面倒くさいと思わない事もない。

何やってんだと自分に呆れる事もある。

本当に、調子を崩されてばっかりだ。


・・・・それでも。



笑っている自分がいるという事は。

多分そういう事なんだろう。




君がため




吹き抜ける風が、耳に空いた穴を擽る。普段感じている重みがそこにないだけで、妙に気になってしまう。
スッと耳朶に触れると、じんわりとした熱をそこに感じた。弾くように外したせいか僅かに腫れているようだ。
今頃、例の刑務所では騒ぎになっている頃か。幾らなんでも水槽の前にピアスを落としておいたのだから
よほどの馬鹿でもない限り見落とすはずがない。そしてその持ち主にも気がつく頃だろう。

「軍の仕業だと思われては拙いからな・・・」

俺個人の意思であるのだと、教えてやらねばならんだろう。非常に面倒くさいが、な。
また一日戻らなくてルーファスにガミガミ叱られるんだろうが、まあ仕方ない。アイツの理不尽な鞭打ちにも
悲しい事ながら慣れては来た。伊達に何度も打たれてない。・・・このまま自分がマゾヒストにならん事を祈るばかりだ。
しかし、初めからそのつもりだったとはいえ維持軍に足を運ぶのは気が進まない。何と言うか・・・妙に平和ボケした
弛んだ空気が流れてるのが苦手なのか、それとも連中の偽善者染みた絵空事のような美辞麗句が気に障るのか・・・。
どちらにしろ不快なのは間違いない。どうも奴らは真剣味に欠けている。それが腹立たしい。

「軍を名乗ってるくせにアドモニッシャーがなけりゃあ、ただの理想論者共にしか見えねえが・・・」

言葉だけで、物事を解決出来るのならば戦争なんてものは起きない。また野心だけで戦争を起こすほどうちの国の王も
短慮じゃない。奪わねば、飢える。戦わねばいずれ死ぬ。だから戦っている。それだけの事だ。話し合いで全てが
解決するのならその方がいい。徒に犠牲を出して誰が喜ぶというのか。だが、話し合いで済む話じゃないから
いつまでも膠着状態が続いているというのに・・・。何処までも気楽な連中だな。

もし、だ。このままスクリーパーがこの世界から消えて、戦争も起きなくなったとしても。この衰退していく大地では
やがて何処も絶えるだろう。そうならねえように、残り少ない資源を誰かが管理する必要がある。
そして管理する者は、徒な小競り合いが起きぬよう、強くなければならない。少なくともネイラーンにその力はなく、
アドモニッシャーを欠いた平和維持軍にもないだろう。グランゲイルかシリルティア・・・二つに一つだ。
なのに、何故こうも我慢だけを強いられる?早く決着を着けねば、憎しみだけが募っていくだけだというのに・・・。

「・・・・・・・・・・・・・」

このまま。維持軍は過去を消していくつもりなのだろう。なかった事にするのだろう。一回の砲撃で、
どれだけの命を奪ったか。過去に縛られていては、何も変えられないと奴らは言う。だが、そんな言葉は過去の
痛みを知っていれば口に出来ないはずだろう?自国の民のために、家族のために、未来のために戦っていた
兵士たちを奴らは殺した。四肢が吹き飛び、骨は焼け、何の証も残せなかった彼らの無念――過去を
無理やりのように忘れさせようとする。そんな台詞は、過去の罪を購ってから言え。奪ったものたちに対し、
維持軍は一体何をしたというのか。何のケアもなかった。理不尽に、憤る事さえ奪われた。

親を失った子供はどうした。我が子を失った親はどうした。毎日のように子供たちに恨みの詩を綴る大人たちの
気持ちを知っているか。それを聞かされ続けた子供たちの気持ちは知っているか。仇討ちしたくとも出来なかった者の
どうにもしようのない嘆きを知っているか。それらの不満を、期待を寄せられる俺たち軍人の気持ちを知っているか。
維持軍は恨まなければいけないもの。そう教えられて、そう在るよう望まれて、過去を水に流せるか?

―――出来るわけがないだろう

まして、今も尚大事な者が傷つけられ続けている。その組織に。アイツがいるなら、許してやろうと思った事もある。
過去を忘れるわけにはいかないが、少なくともそこに留まり続ける事はやめようと・・・そう思った、のに。
奴らはまだ傷を生む。悪気はないのかもしれない。本人は善意のつもりなのかもしれない、それでも傷は増え続ける。
傷の上に傷を重ねる度、痛みはより深く、取り返しのつかないものになっていくのに。誰かが、止めてやらねば。
誰もいないなら、面倒でも、自分に呆れても、俺が止めるしかないだろう?

「・・・・全く」

厄介な感情に、いや厄介な奴に振り回されている。そう、思うのにアイツに会うと笑ってしまう自分がいるという事は、
まあつまり・・・そういう事なんだろう。気分は・・・悪く、ない。



◆◇◇◆



「あれ、ギャリック大尉またいらしたんですか?」

またしても、維持軍基地へとやって来てみれば昨日と同じ門番が立っていた。どういうローテーションで当番が
決まってるのかよく知らんが、多分コイツは夜の担当なんだろう。まさかあれから交代してない、なんて事はないはずだ。
俺の顔を見るなり首を傾ぐ。

「ゼオンシルトさんとは会えませんでしたか?」
「いや、会った。昨日は悪かったな」
「いえー、ですがそれなら今日は何の御用ですか?」

今日は議会も何もないですよ、と言葉を継がれるがそんな事は分かっている。ロミナの件は一般の兵には
知らされていないのか。それとも自分が思うほど重要視されていないのか。コイツの反応を見ている限り表立って
俺を探してはいないらしい。相変わらず、暢気な奴らだ。何でか知らんがこっちの方が頭が痛い。俺がこうして
来てやらなかったらどうする気なんだろうか。溜息吐きながらも用件を伝える。

「用事は・・・そうだな、クライアスはいるか」
「総司令ならばいらっしゃいますが・・・何やら機嫌が悪いようですよ?」
「構わん。虫の居所が悪いなら丁度いい。元凶が来てやったぞと言ってやれ」
「はあ・・・元凶、ですか。分かりました、伝えて参りますので少々お待ち下さい」

随分と素直に、門番の男はもう一人の門番に任せると基地内へと走っていく。別にパシらせる気はなかったんだが
悪い事をしたか。手持ち無沙汰な時間を過ごす。アイツは今頃ちゃんと寝てるだろうか、とか。虫の居所が悪いらしい
クライアスは一体どういう行動に出てくるか、とか何となく考えてみる。俺を捕らえるか、罰するか、責めるか。
そしたらどう応えてやろうか。考えているうちに段々愉快になってきて口元が綻んでしまう。相手がどう出ても、
ヘコませてやらねえと気が済まない。

「ルーファスのサドっ気が伝染ったかねぇ」

本人の耳に入ったら即鞭打たれるであろう事を口にすると、さっきの門番がクライアスを連れて戻ってきた。
なるほど、確かにご機嫌は悪そうだ。元々眉間に皺寄ってる奴だが、今日はいつもの非ではない・・・というほど
顔をあわせた事があるわけでもねえんだが。まあそれでも常と違う事くらいは流石に分かる。
そんでご立腹の理由は恐らく・・・。

「ギャリック・・・お前、なのか?」
「・・・元凶だと言っただろう」
「お前は、何て事をしてくれたんだっ!それにアレの事を何処で知った!?・・・まさかっ」
「おい、いいのかよ。機密事項なんじゃねえのか?話なら中でしようぜ」

別に、俺は構わないが・・・組織で働いてる奴らの事を思えば、ここで騒ぎ立てるべきじゃねえだろう。
人体実験なんてもんをしてるような組織に望んで籍を置きたがる奴なんて早々いない。まともな神経だったら、な。
本当は維持軍なんてない方がいいとは思う。だが、ここはアイツの居場所だ。白黒が着くまでは、必要なものだ。
俺の勝手で失くしていいものでは、ない。クライアスを促し、基地内の議会場まで足を運んだ。
厳重に扉を閉め、暗い室内に俺とクライアスだけが互いを睨み合い立っている。当然ながら、嫌な空気だ。
不穏、とでもいうのか。様子を見合ってそれぞれが口を噤んだまま数分が経った。が、漸くクライアスが口を開く。

「・・・・お前、アレを何処で知った・・・。ゼオンシルト、か?」
「・・・偶々、だ。悪い噂ほど隠しても自然と伝わってくるもんだろう?」
「なら今回の事は、グランゲイルの意思、という事か?」
「それは違う。俺個人の意思だ。大体我が国の意思であれば、
こんな回りくどい事せず事実を公表してお前らを直接潰すだろうさ」

ゼオンシルトとの関連を否定しつつ、話の方向を少しずつずらす。グランゲイルは本気で平和維持軍の存在を
煙たがっている。事実が知れれば恐らく好機と取ってそうするだろう。アイツと出会っていなければ、俺もその考えに
喜んで賛同していた。維持軍を疎ましく思っているのは俺も同じだからだ。ルーファスは期待しているようだが・・・
期待というのはすればするほど、裏切られるものだろう。だから俺は奴のようには思えない。意固地だとか
頑固だと言われても、それだけは譲れずにいる。人間、そう簡単には嫌いなものを好きになったりしない。

それで行くと、ゼオンシルトは例外だったという事だ。アイツ自身に惹きつけるものがあったのか、それとも
知らず知らずのうちに俺自身が変わったのか・・・。恐らく前者だろうが、絶対本人に言うつもりはない。
気恥ずかしいにも程がある。顔が赤くならないうちに逸れた思考を軌道に戻す。

「・・・・ともかく、今回の事にグランゲイルは関係ない」
「じゃあ、何故だ・・・何故遺体を盗んだりした?ご丁寧に証拠まで残して」
「死者を冒涜する事が・・・許せなかった。それだけの事だ」
「・・・それだけのために、危険を冒して遺体を盗んだのか?遺体はどうした?」

それだけ、という言葉が引っかかる。意見の相違もここまで来ると拍手もんだ。

「人の屍にする事なんて決まってるだろう?・・・燃やして埋めた」
「何て事を・・・・!彼女は貴重なサンプルだったんだぞ?それを・・・っ」
「さっきから聞いてれば・・・人の事をアレだのサンプルだの・・・馬鹿にしてるのか?」

諦めさせるために燃やしたと嘘を吐いたが・・・ここまで予想通りの反応が返ってくると笑ってしまいそうになる。
それと同時に苛立ちが込み上げる。人の躯の事をアレ呼ばわりする事を。死人の事は、モノ扱いか?
その辺に落ちてる石か何かのように。踏みつけて当然の存在か?傷つけて構わない存在か?生きている者の前には
霞んでしまう存在か?忘れ去ってしまって・・・いい存在なのか?馬鹿にするのも大概にしろ。

「お前は・・・死者を何だと思ってる。人は死んだらモノか?何をしようと構わないものか?」
「そんな事は言ってない。だが、彼女を調べれば・・・ゼオンシルトたちの身体が治るかもしれないんだ!」
「自分の親を!・・・切り刻まれて、それで身体が治ったとしても・・・アイツが喜ぶと思うのかよ・・・」

人を犠牲にして命を永らえていた奴が、人を犠牲にして元の身体を手に入れても罪悪感が増えるだけだろう。
ただでさえ、胸の痛みと罪の意識を抱えて生きているというのに、これ以上枷を増やしてどうする。
自分の罪悪感を、消したいだけなんだろう?自分の事を、綺麗な存在にしたいだけなんだろう?
人のため、平和のためなんて言いながらいつだってお前は自分の事しか考えてねえ。だから俺は、お前の事が
嫌いなんだ。利己的なだけならいい。人間とはそういうもんだ。だが、それを偽善で隠そうとするところが許せねえ・・・。

「お前は・・・いつも尤もらしい事を言いながら・・・まるで人の痛みを分かってねえな」
「何だとっ!オレは、ちゃんとっ・・・」
「口を開くな、不愉快だ。殺されてえのか」
「なっ・・・・」

絶句する顔は見ていて中々愉快だ。まあ、本当にこれ以上俺を苛立たせれば殺していたかもしれんが。
わざわざここまで自分から来てやったのは、文句を言うためでも説教垂れるためでもなく。

「まあ、聞けよ。大分話が逸れたが本題に入る。お前にとっても悪い話じゃねえはずだ」
「・・・何なんだ、一体・・・・」
「・・・・お前は、結局のところ一号細胞とやらを植え込まれた人間のサンプルが欲しいわけだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だが、生きた人間を解剖するわけにはいかねえ、死体ならば遺族の許可さえあれば出来る。
だからロミナ=エレイに目をつけた・・・・そういう事だろう?」

確認を取ってやれば、渋々ながらクライアスは頷いた。

「・・・・・だがもうロミナ=エレイの遺体はない」
「それはお前がっ・・・!」
「そう、俺が・・・奪った。だから、代わりになってやる」
「は?」

蒼い瞳が、大きく見開かれる。まあ、気持ちは分かるが。呆けた様子のクライアスの顔が愉快だ。
きっと更に繋げる言葉にその顔は歪むんだろう。

「聞こえなかったか?俺が代わってやると言ってるんだ。一号細胞とやら、俺に移殖すればいい。
お前らの人体実験に付き合ってやろう。身体、精神面の強度共にそこらの兵士よりは優れているつもりだ」
「・・・・お前、自分で何を言っているか分かっているのか?!」
「分かっている。幾ら自分の体力に自信があっても最終的には命を落とす事もあるだろう。
それでも構わんと言っている。俺はお前たちと違って自分のした事に責任は取るさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

嫌味を交えてやれば、思ったとおりクライアスの顔は歪んでいく。これは一種の賭けだ。
今、自分の目の前に立っている男が本当にどうしようもない男なら・・・俺の命はもうないだろう。
まるで自分の言葉をひっくり返すようだが、この男を試すにはこう言う他ない。勿論、口から出任せを言ったわけじゃない。
コイツが痛みをまるで理解出来ない男なら・・・俺を人体実験に使うというなら本当に付き合うつもりでいる。
それで死んでも仕方ないと・・・思う。アイツは泣くだろうが・・・俺だってアイツの身体を元に戻してやりたい。
そのために役に立つなら、俺の身体を実験に提供してやる。アイツのためなら死んでもいい。それは自己満足でしか
なくとも、アイツが喜ばなくても。アイツが生きていれば俺は・・・それでいい。

「本当に・・・・死ぬ覚悟があるのか?」
「無論だ」
「・・・・何でだ。お前はオレたちの事を毛嫌いしてるじゃないか。なのに何故協力を・・・」
「言っているだろう、自分のした事の責任は果たす」

それがアイツの命を守るという事に繋がるのなら。

「・・・・オレには分からない。お前がどうしてそんなに捨て身になれるのか」
「約束を・・・したからな。それに・・・」
「それに、何だよ・・・?」
「自分の命も懸けられねえで、他人を好きだなんて言いたくねえからな」

そんないい加減な男には俺はなりたくない。ただ何となく寄り添って、ただ何となく傍にいて、それだけで
好きだ何だと言うのなら、そんな甘えきった関係もない。一度好きだと言ったなら、何があっても、何をしてでも、
自分の命を懸けて守ってやるのが男として当然の事だろう?例え相手が同性であっても。

「・・・つまり好きな相手のためって事、か・・・」
「まあ、平たく言うとそうなるのかね」
「で、その相手は・・・・ゼオンシルト?」
「・・・だとしたら何だ」

険を含む言葉に自然とこっちも声が低くなる。

「・・・・アイツは、お前に会ってから変わった。お前に会うまでは、もっとオレを頼りにしてて・・・
オレに逆らう事なんて一度もなかった!お前が、現れたから・・・・!」
「・・・・俺が、特別何かしたわけじゃねえよ。お前が、今まで本当のアイツを殺していただけだろう」
「オレが悪いってのかよ!オレだって辛いんだよっ、オレだって・・・」

胸倉を掴まれ、叫ばれても不思議と心は動かない。もっと苛つくと思った。なのに、何故か何の感情も
湧き上って来ない。首だけが苦しいが、振り払う気も起きなかった。

「・・・・言っておくが、俺はお前に同情する気もないし、・・・理解する気もない」
「ギャリック・・・」
「怒る気も、しない・・・これ以上、話す気も起きない・・・手を離せ」
「・・・ッ、お前はいつもオレに噛み付いてくるくせに・・・オレが言い返そうとすると話し聞かねえよな」
「聞いても無駄だからな。どうしたって反りが合わねえ奴は合わねえんだろう」

ただこうしていても、手を離しそうになかったので仕方なく自分で振り払う。

「で、どうするんだ。俺をサンプルにするのか?」
「・・・・お前がいてもいなくてもっ、どちらにしろアイツはもうオレを見ない」
「自業自得だろ。お前がちゃんと大事に出来てれば・・・それこそアイツは俺の事を見なかっただろう」

俺よりも、コイツの方がずっと長くゼオンシルトと一緒にいた。普通に考えてちゃんと大事に出来てれば
俺なんかを見る必要なんて、なかったはずだ。それでもアイツは俺を選んだというなら、クライアスの自業自得だ。
逆恨みされる謂れもない。だからって俺がアイツの事をちゃんと大切に出来ているかは自分ではよく分からんが。

「・・・とにかく、俺を使わないなら・・・もう帰るぜ」
「待て。オレはお前の手は借りない。他の方法を探してでもアイツの身体を治してみせる」
「そうかよ。じゃあ、帰っていいんだな?」
「・・・・いいや。お前の力はいらない、だが・・・お前は拘束させてもらう」
「何・・・?」

手を鳴らして合図を送ると、議会室の扉が開き、武器を構えた兵士が踏み込んできた。どうやら話の展開によっては
初めから俺を捉える気だったらしい。予想はしていなくもなかったが、まさか本当にそんな強硬手段に出るとは
思っていなかった。一瞬出来た隙を狙われ、取り押さえられる。

「・・・・何の真似だ」
「お前は・・・ただでさえ、知ってはならない事を知ってしまっている。
それに窃盗は十分な罪だろう?」

羽交い絞めにされた状態で睨みつけてやるが、先ほどまで取り乱していたのが嘘のようにクライアスは
微動だにしない。ただ冷たく、優位に立つ者の眼差しで俺を見下ろしている。腹立たしい、ほどに。

「・・・・それで?俺をどうしようってんだ。監禁しようってのか?」
「そうだ。その間、誰にも会わせはしない。抜け出そうだなんて馬鹿な事考えるなよ?」

中々に物騒な単語が飛び出し、眉間を顰める。まあ、掴まれた腕が痛ぇっつうのもあるが。
それでも挑発するように問うた内容にすぐさま肯定が返ってきた。しかしその応えを聞いてそんな状況でもねえのに
笑っちまいそうになる。ああ、何て子供染みた奴なんだろう、と。

「・・・・はっ、そういう事かよ。グダグダ理屈捏ねちゃあいるが・・・早い話、
俺をアイツに会わせたくないだけだろう?やり方が幼稚なんだよ、テメェはよ!」
「口を慎めよ、ギャリック大尉。アンタの命運を握ってるのはこっちなんだぜ?」
「・・・好きにしろ。俺はテメェに頭を下げる気も媚び諂う気も更々ねえ」
「・・・・・連れて行け」

鋭い上司の命令に一般兵たちは僅かに戸惑いの表情を浮かべながらも、逆らう事なく俺を複数人で押さえ込み
ながら議会場を後にし、本部の方まで引きずって行った。



◆◇◇◆



議会場から場所を移されてからどれくらい時間が経ったのか。何故か基地内にあった牢獄の中に武装を解かれ
放り込まれ、冷たい石床の上に転がされているわけだが・・・。

「良家のお坊っちゃんになんちゅうところで寝かす気なんだ・・・」

自分で言うのもなんだが、事実なのだからしょうがない。一応寝具が付いているには付いているが、埃っぽいわ
湿っているわで横になる気が起きねえ。仕方なく壁に寄りかかって結局ぼうっと天井を眺めている。
まあ、死を覚悟して飛び込んできたわけだから落ち込みはしないが・・・流石に浅慮だったかと溜息が零れる。
自分の頭上より更に数メートル上にある格子付きの窓から陽が差し込み、朝になったのだという事だけは分かった。
分かったところで何が変わるわけでもないんだが・・・。

「しっかし、何時まで投獄されんだ?」

あんまりにも遅くなると鬼のようにぶち切れたルーファスに何をされるか分かったもんじゃない。少なくとも数日の内に
帰してくれる・・・気配は微塵もないように思える。一週間か、一ヶ月か、もっと先か。最悪このままじゃあ、軍から
切られる可能性もあるだろう。ルーファスとて、国の保身のために切り捨てられた事があるわけだ。俺もそうならない
とは言い切れない。幾ら実家に遠いながらも王家の血が流れていようと。

「おっそろしいほど薄情だかんなー」

もし軍から追放されたらどうしようか。蓄えはそれなりにあるが、今更戦う以外に自分の力を生かせる仕事を
見つけられるかも分からない。いっそゼオンシルトの村で農作でもやってやろうか?兵法の一つとして一応農業は習った。
地味な仕事だが、土いじりはそんなに嫌いじゃない。子供の頃から大地を大事にしろと教えられてきたせいもあるか。
ま、それもこれもここから出られなきゃ考えても意味がないわけだが・・・・。

「しかし・・・クライアスの奴、アイツの事好きだったのか?」

先ほどまでの会話を聞いている限り、そういう事だろう。それにしちゃあ、随分とゼオンシルトに対する扱いが
ぞんざいだった気がするが・・・。どちらにしろ面白くはない。もしかすると無意識のうちにそれを感じていたから
俺はクライアスに対して必要以上に嫌悪を感じてたんだろうか。いやしかし、実際気にいらねえ人間だ。
ゼオンシルトの事がなくとも。

「・・・・疲れた」

そういや自分も殆ど寝てない。おまけにグランゲイルからリオレー、リオレーからワースリー、そして最後に
平和維持軍基地まで一日の間で移動したんだ。疲れない方が人としておかしいだろう。こんなところで寝たら
全身痛くなりそうだが・・・暫くはここが俺の寝床になるわけだ。早く慣れておくに越した事はない。
うとうとと瞼が下がってくる。押し寄せる眠気に身を任せようと目を閉じた瞬間、カタンと奥で物音がした。
どうやら誰かやってきたらしい。誰だと不機嫌になりかけた声で問えば、鉄格子を挟んだ正面に見覚えのある顔があり。

「あ、お前・・・・」

金の髪に翠色の瞳をした男・・・俺にゼオンシルトの居場所を教え、クライアスとの取次ぎにも応じたあの門番だ。
手には簡易の食事が載せられたトレイを持っている。もうそんな時間なのか。正直今は食い気より眠気の方が
比重が高いんだが。つーかコイツはコイツで何時休んでんだ?夜勤にしても長い気がする。

「・・・・お前まだ働いてたのか?」
「え、ええ・・・維持軍は慢性的に人手不足なもので。というか大尉何やらかしたんですか?」
「あ?聞いてねえのか。じゃあ俺が勝手に喋っちゃ拙いんじゃねえの?」
「・・・まあ、きっと何かの間違いでしょう。大尉は悪い人には見えませんからね」

コトリと小さな音を立ててトレイが床に置かれる。中身は何の変哲もないスープとパン。ちらりと一瞥してから
横に退ける。門番の男が少しばかり瞠目した。

「・・・・後で食う。今は眠い」
「随分堂々とした囚人さんですね」
「そこらのお坊っちゃんと違って神経図太いんでな」
「ああ、そんな感じですよね」
「・・・・失敬な奴だな、お前」

自分で言う分には構わんが、他人に肯定されるとそれはそれでムカつく。軽くねめつけてやれば目の前の男は
軽く肩を竦めた。中々いい度胸をしている。

「囚人に敬意払ってどうするんですか」
「・・・・それもそうか。用が済んだんなら下がったらどうだ?」
「・・・そうですね。用事が出来た事ですし」
「は?」
「多分・・・一、二日で出してあげられると思いますよ。まあ、待ってて下さい」
「・・・・???」

相変わらず、妙な事を言う。そんな簡単に考えが覆るような奴じゃないだろう、クライアスは。
しかもコイツが何とかするのか?ただの一般兵に見えるんだが。色々疑問やら言いたい事はあったが、その相手が
さっさと出て行ってしまったので結局何も言えなかった。

「・・・・寝るか」

自分ではこの状況をどうにもしようがない。時間が何らかの解決を導いてくれるだろう。・・・という事にして
疲れに疲れていた俺は非常に寝心地悪い石床に頭をつけて重い瞼をそっと下ろした。



◆◇◇◆



結局、やる事もなく大半を寝て過ごしていた翌日。牢の外が騒がしくなったかと思うとドタドタと荒い足音を立てて、
誰かがこっちに向かってきた。誰だと予想する間もなく、扉が開かれ現れたのは・・・

「ギャリック!!」
「・・・・・は?」

何故か至るところに怪我をして息も絶え絶えなクライアスで。目尻には涙も溜まっている。腹を押さえながら
這って近くまでやって来た。つーか何してんだコイツ。

「・・・・襲撃でもされたのか?」
「・・・みたいなものだ、頼む、助けてくれっ!!」
「そりゃお前お門違いっつーか、俺こんなとこにいちゃ何も出来ねえよ」

コンコンと鉄格子を叩いてやればクライアスはぶんぶんと激しく首を振り。

「出す、解放するからっ・・・アイツを止めてくれ!!」
「止めるって・・・誰をだよ」
「ゼオンシルトだ!!」
「はあ?」

意味が分からん。態度に十二分に現して首を捻ってやれば、相当に追い詰められているのかクライアスは
慌てた様子で鍵を取り出し、本当に南京錠を外し始める。

「・・・・ゼオンがどうしたってんだよ」
「アイツ、誰から聞いたのかお前がここに閉じ込められてる事知って・・・釈放しろって大暴れしてんだ!」
「アイツが大暴れ?」

全く以って想像出来ん。

「と、とにかく早く出て止めてくれっ、このままじゃ殺される!!」
「・・・・・・・・・・・・」

ガチャン、と硬質な音を立てて錠が外れる。どうもクライアスの尋常じゃない動揺ぶりも大怪我も原因は暴れている
ゼオンシルトのせいらしい。あんな普段ぼうっとした温厚な奴が暴れる姿など信じがたいが・・・そんなアホみたいな
嘘をわざわざ吐く必要もないだろう。とにかく現場を見てみようと開けられた牢から出る。

「ゼオンシルトなら本部前の広場で多分まだ暴れてる・・・早く止めてくれ」
「信じられんが・・・そんな見境なく暴れてんのか?」
「いや、主に狙いはオレだったみたいだが・・・他の奴らも巻き添えを食らってる」
「・・・・猛獣かよ。そこまで大暴れしてちゃ俺の言う事も聞くか分かんねえぞ?」

よっぽど酷い目に合わされたのか思い出してクライアスは大きく震えている。この調子じゃ案内は期待出来ない。
そこら辺の兵士を拾って案内させるか。なんて思っていると喧騒が更に大きくなり・・・

「クーラーイーアースーぅぅぅぅぅ!!」
「ヒィィーーーーーキターーーーー!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

聞いた事もないような地獄から響くような声でクライアスを呼ぶゼオンシルトが肩を怒らせ、鼻息荒く駆けてきた。
クライアスの言う通り、もう手が付けられないような有様で想像以上の様子に思わず目が点になる。

「テメェ、ぶっ飛ばーーーす!!」
「ゆ、許せゼオンシルト!!つーかキャラが違ぇよお前ーー!!」

サササッとゴキブリのような素早さでクライアスは移動すると俺の背後に回りこみ、足を掴んでくる。
足を掴まれた俺は振り払う事も忘れて目の前で随分と顔を歪めているゼオンシルトを呆然と見つめていた。
こんな表情するところも、こんな汚い言葉遣いをするところも初めて見るため、相当な衝撃を受けてしまう。
そうこうするうちに足を掴んだクライアスがせっついて来る。

「お、おいギャリック!何してる、止めてくれっ」
「え・・・あ・・・ああ」

正直クライアスがどうなろうと知った事ではないのだが、目の前に俺がいる事に気づきもしない興奮した
状態のゼオンシルトを放っておくわけにもいかず、大分気後れしながらも説得を試みる。

「お、おいゼオン・・・?」
「フー、フーッ!」

獣かコイツは。全く声が聞こえてないらしい。このままだと勢いあまってクライアスを殺しかねない。
流石にそれは拙い。止めようと一歩近づく。

「ゼオン、俺だ。ちったあ落ち着け」
「フー、フー、・・・・?」

お、こっち見た。

「ゼオン・・・?」

更に呼びかけてやれば、開きっぱなしだった紅い瞳孔が段々と元の状態に戻っていく。般若顔はみるみるうちに
いつものぽけっとした女顔へと変わっていき・・・。どうやら俺の事をやっと認識したらしい。次いでその顔色は
興奮とは違う意味で真っ赤に染まっていった。

「〜〜〜〜ッ!!」
「・・・大暴れしたそうだな」
「だ、だってぇ・・・」

怒り狂う様を見られたのが恥ずかしいのか何だか分からんが今度は泣き出し、困る。わんわん子供みたいに
喚くので、クライアスの目があったが仕方なく、宥めるために抱きしめてやる。

「あー・・・ほら、泣くなよ。少し驚きはしたが・・・何とも思ってねえから」
「ち・・・違・・・ギャリック・・・死んじゃったかと思っ・・・うわああん」
「勝手に人を殺すな。・・・で、結局何があったんだよクライアス」

大泣きしているゼオンシルトからは説明は望めまいとクライアスに話を振れば、そっちはそっちで放心して
しまっている。まあ、無理もないが・・・俺一人だけ状況が分からないというのは癪だ。足にまだ引っ付いている
木偶の棒を蹴突いてやれば、はっとしたようで顔を上げた。

「な、何だよっ」
「何だよはこっちの台詞だ。何があった」
「だから・・・ゼオンシルトの耳には入らないようにしてたはずなんだが・・・お前を捕らえてる事を
誰かに聞いたらしくて・・・お前を解放しろだの、お前に何か遭ったら許さないだの言いながらオレの事を
殴るわ蹴るわで・・・周りの奴らが止めに入ったんだが、そいつらもなぎ倒してひたすら追ってきたんだよ」
「・・・・・・そうなのか?」

腕の中でまだ泣いてる奴に確認を取るとコクコク、壊れたおもちゃのように何度も頷く。

「・・・・また無茶すんなぁお前は・・・」
「だ、だって・・・悪いの俺なのに・・・ひっく、ギャリックを捕まえたって・・・だからっ」
「・・・・ロミナの件、悪いのは自分だの一点張りでな。・・・参っちまうよ」

自分の前後から情けない声が聞こえてきてどうすりゃいいんだか分からず立ち尽くしてしまう。とはいえこの場を
何とか収めにゃならんだろうと、ゼオンシルトをあやしながらもクライアスに向き直り。

「で、どうすんだよ」
「どうするも何も・・・こうなっちゃ、お前を解放する他ないだろ。それから実験の方の話もなし。
つまりだ、今回の件は水に流す・・・誰も咎めない・・・そういう事で」
「まあ、そこまでボコられりゃあそうなるよなぁ・・・。っと、その前に謝れよクライアス」
「あ・・・?お前にか?」
「違う、コイツにだ」

ゼオンシルトに視線を戻せばクライアスは、合点したように殴られて腫れた頬を押さえながらも立ち上がり、
ばつの悪そうな表情でゼオンシルトを見遣る。

「・・・・悪かったよ、ゼオンシルト。お前の母親・・・解剖しようなんてして。でも、オレは本気で
お前の身体を元に戻してやりたかったんだ・・・。お前に恨まれても・・・・」
「・・・・母さんの事は、もういよ・・・。すぐに嫌って言えなかった俺も悪いし・・・でも。
今度ギャリックに酷い事したら何したって許さないから」

そう言ってぎゅうとしがみついてくる腕は・・・何というか愛おしい、とでも言うのか。少しだけ嬉しかった・・・気もするので
頭を撫でてやるとついさっきの般若顔が嘘のように和む・・・。俺もコイツの事は極力怒らせないようにしよう。
あんな調子で迫られたら流石にビビる。

「・・・えーっと・・・じゃあもう俺帰っていいわけだな」
「ああ、構わない。謝罪文は後で送るから・・・軍から懲罰を受けたりはしないだろう」
「・・・・ま、色々拍子抜けしてるが・・・お言葉に甘えて帰らせてもらう。
・・・が、コイツどうすりゃいいんだよ。全く離してくんねえんだが・・・」
「ああ、・・・持ってってくれ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

ガタガタ震えながら言われて何も言い返す事が出来なかった。機嫌が直るまで預かってろって事か・・・。
俺はベビーシッターじゃない。それでもしがみついてくる身体を剥がす事も出来ず・・・溜息を吐き出した後、
ゼオンシルトを抱えてその場を後にした。



◆◇◇◆



「・・・・いい加減泣き止め」
「な、泣き止もう・・・っと・・・して、ひっく・・るんだ・・・よぉ」
「・・・・やれやれ」

相変わらず腰をホールドされたまま、お互いがお互いを抱えるような妙な格好でずるずると引きずってきたわけだが
道行く奴らに不審な目で見られて溜息が尽きない。仕方なく人目につかなそうな場所まで移動すると持ち上げていた
身体を降ろす。重くはないが――まあ女に比べりゃ当然重いんだが――体勢が悪かったため疲れた。
降ろした途端、汗が流れてくる。

「・・・もう大丈夫だから・・・お前のおかげで助かった」
「・・・うん」
「クライアスに・・・殴りかかったんだってな」
「・・・うん」
「やれば出来るじゃねえか。ま、殴るのはいかんが・・・安心はした」

いつも言葉や感情の湧き上りを押さえ込む性質のコイツがそれを発露出来たなら、喜ぶべき事なんだろう。
引き金が俺、というのに引っかかりを感じるが。

「・・・・・・そういえば、誰に聞いたんだ?俺の事・・・」
「え、ああ。ノースに聞いたんだ」
「ナチュラルに言ってくれるがノースって誰だよ」
「え、ノースはギャリックと話したって言ってたよ?」

と、言われてもノースなんて知らねえんだが・・・。いや待てよ、話をした?と、言う事は該当するのは一人しかいねえ。
確かあの金髪に翠色の瞳の・・・。

「・・・・門番やってる奴か?」
「そうそう、その人。俺と隣の部屋で仲いいんだ」
「・・・・・・・・・・・・・」

と、なるとあの時アイツが用事が出来たと言ってたのは・・・コイツに知らせるためだったのか。
余計な世話を焼いてくれたもんだ。助かったは助かったんだが・・・。

「しかし、お前がキレたから良かったようなものの・・・下手すりゃもっと大変な事態になってたんじゃ・・・」
「でもノースは俺が怒るって分かってたみたいだったけど」
「何でだよ」
「うん、ノースは俺がギャリック大好きなの知ってるから、かな?」
「・・・・・・・・お前、まさか・・・」

惚気とか言う奴をして回ってるんじゃねえだろうな・・・とは確認出来なかった。さっきまでわんわん泣いてた奴が
急にキラキラしながら笑ってるんじゃあ・・・聞くだけ無駄だろう。疲れが更にどっと肩に押し寄せてきた。

「・・・・頼むから、俺をこれ以上疲れさせないでくれ」
「えー、疲れてるの?あ、そうだ膝枕してあげようか?」
「〜〜〜〜いらねえ!」

さも名案が浮かんだとばかりにアホな事を言い出すゼオンシルトに即座に言い返すものの、微笑ましく見つめられ
居たたまれぬ気分になってくる。もう早いとこ帰って寝たい。が、帰るで思い出す。

「あー・・・嫌な事思い出した」
「どうしたの?」
「・・・・何だかんだでまた二日帰らなかったからな・・・鬼が怒る」
「鬼って・・・ルーファス大尉?」

無邪気な顔して聞かれると、なんだかなあという気にはなるが・・・コイツにも鬼といって通じるほど俺はアイツに
しょっちゅう絞られてるんだろうか。・・・・否定は出来ねえが・・・そう考えると非常に空しい。ただ怒られるだけならいい。
当然のように鞭を取り出すところが嫌なんだアイツは。しかもスクリーパーすら切り刻む特別製の鞭で・・・。
殺す気だとしか考えられない。よく自分は今まで生き延びられたものだと思う。

「あー・・・帰りたくねえ・・・」

でも帰るのが遅くなるほど罰が重くなる。本気でいってーんだよアイツの鞭は。アイツのせいで薬と包帯の減りが
異常に早いんだ。そんでもってそれを救護班に怒られるという嫌な連鎖が続いているわけだ。どうにかしてくれ。
なんて思っているとクイクイとマントを引っ張られる。

「あ?何だ?」
「あのさ、俺も一緒に謝ってあげるから帰ろ?」
「・・・・・そりゃどーも・・・頼もしいこって」

こんな天然っ子に諭されてりゃあ世話ねえ。思わず苦笑してしまう。

「全く、お前にゃ敵わんな・・・」
「何が?」
「いや・・・頼りにしてるぜ?」
「・・・!うん!!」

それでも・・・嬉しそうだからそれはそれでいいか。

「せっかくだ、作ったばっかの墓参りでもしとくか?」
「うん!お母さんにギャリック紹介してあげないと」
「・・・・・何てだよ」
「えー・・・彼氏?」
「・・・・・親が泣いても知らんぞ」

全く、振り回されている。だがまあ、そんなに悪い気分では・・・ない。逃がさないとでも言うかのようにがっしり
掴まれた腕も、目の前でふわふわ揺れる蜜色髪を見守るのも、べたべたくっつかれても、泣かれようが、
甘えられようが、目の前でブチ切れた様を見せられようが・・・。

「・・・あんまりはしゃいで転ぶなよ」
「大丈夫!腕しっかり掴んでるから転ぶ時はギャリックも一緒だよ」
「・・・・・道連れかよ」

こんなたわいもない事が楽しいなら、コイツといて何だかんだで笑ってしまう俺がいるなら。コイツが俺といて
馬鹿みたいに笑っているなら。コイツのために死ぬんじゃなくて、コイツのために死ぬまで一緒にいてやろう。
それがきっと俺に出来るコイツのために出来る唯一の事だと思うから・・・。


墓前の前でもう一度。

一生かけてコイツを守ると誓ってやろう。

いつもじゃなくていい。

だが、ずっと、

二人一緒に笑っていられるように・・・。


「ひゃあっ!」

「おわぁ!結局転ぶのかよ!!」

「ごめーん」


・・・・・・暫くは、転んでばかりのようだが、な。



fin



や・・・やっと終わりました。思いの外長くなってしまって
自分でも戸惑っております(オイ)
何だか色々説明不足な気もしますが、一応これでこの作品は完成ということで。
長い間お待たせしてすみませんでしたゆう様!リクエスト有難うございました!

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