※アー主アンソロジー「Anodyne」収録の「心臓の在り処」の続編に当たります。 とはいえ上記を読んでいなくとも読める内容だと思われます。 ティピ=フォルスマイヤー。 フォルスマイヤー家の、末の妹。 ・・・なんて当人が聞いたら否定しそうだけれど。 俺にとって彼女は紛れもなく、それだった。 幼い時分を除き、初めて俺が涙を見せた相手。 一緒にいると騒がしくて、そして何と言うか酷く気が緩んだ。 とてもとても、大切だった彼女。 けれど彼女は逝ってしまった。 ある日突然・・・彼女にとっては突然じゃなかったのかもしれないが。 眠るように息を引き取った。皆が泣いていた。俺も泣いた。 ―――空すらも。 葬儀の日。 彼がいなければ、俺の心は静かに音も立てずに、きっと。 何処か遠くへ行ってしまっていただろう。 必死に・・・そう必死に繋ぎ止めてくれた強い腕を俺は決して忘れない。 大切な大切な彼女と、大切な大切な彼。 質は違えど、俺を守ってくれる、愛してくれる、癒してくれる存在。 息を吐ける、寄り添える・・・心の在り処。 ―――最愛の、君。 君想う、唯それだけ 半身を失ったような痛みを知った日。 その日は酷く雨が降っていて。何故だかそれに打たれていたくて、立ち尽くしていると君は傘を差し出した。 残酷なほど優しい君。腹立たしいほど生真面目な君。的外れなことを言ってるようで、俺のことしか考えてない君。 彼女とは似ても似つかない、君。その腕も、眼差しも、思考も、言動も何もかもが違うのに。 一つだけ、良く似てる。 俺のことをいつも、守ってくれようとする――心、想い。 そこまでしてくれなくていいよ・・・って言いたくなるくらい、いつも必死で俺を助けようとしてくれる。 俺を大切にしてくれる、君。 ―――だから。 今更と思うかもしれないけれど俺も、君を大切にするよ。 今までより、もっともっともっと。 一分一秒を、一瞬一瞬を、君といられる瞬間の一つ一つを。 終わりのない時なんて、在り得ないのを知っているから。 限りある時間を、君と大事に大事に生きるよ。 ―――最愛の君。 君が望むことを、全て叶えてあげたい。 一度に全部は無理でも。 君の望みを叶え尽くすその瞬間が、来るまでずっと。 ◇◆◆◇ 彼女がいなくなってから、彼はつかない都合を無理やり取り付けて俺に逢いに来てくれるようになった。 以前は俺から逢いに行くことが多かったのを、気にしてくれていたのかもしれない。 けれどそのために一体どれほどの犠牲を払っているのか。俺には宛て推量を計ることしか出来ない。 無理はしないでくれ、と差し伸べられた手をやんわりと押し返そうとしたこともあるが、その時見せた彼の 如何ともしがたい痛切な表情が忘れられず、今ではただただ受け入れる他なかった。 「アーネスト」 執事が応対するよりも先に、呼び鈴の鳴った扉を開く。背後で仕事を取らないで下さいと、やや困った様子の 低音が聞こえたが、日付と時刻を考えるに彼の来訪であるのが分かっていたため、譲らなかった。 外界と敷地内を繋ぐ玄関が開かれるとその向こうには光を背負った長身が立っている。逆光で顔が隠れていても 印象的な紅い瞳が彼であることを示していた。 ぽふん。 以前に比べれば逢瀬の頻度が増えたといっても、最後に顔を見たのは二週間も前だ。つい、飛びつくような勢いで 来訪者を抱きしめる。女の子のような華奢な肢体とは違う、しっかりとした厚み、硬さ、抱き留めてくれる強さ。 どんなに力を込めても壊れない・・・そう感じさせる大きな体躯は、ふうわりと柔らかい女の子よりも安堵感がある。 あまり記憶はないけれどお父さん、みたいだと。言ったら多分眉を顰めるんだろうけど。そういう安堵。 感触と、清涼感漂う香りが心地良くて、幼子のように擦り寄ると宥めるように優しく頭を撫でられる。 「・・・お早う。よく眠れたか?」 「んー?・・・まあまあ、かな」 「・・・また寝不足で倒れて使用人を困らせるなよ?」 目元を軽く擦って、俺の頭上に手を置いたままアーネストは。俺の背後でやはり困っているらしい執事・・・ミネルヴァに 軽く会釈した。初めて彼がここに来た時はもっと畏まっていたが、最近では慣れてきたのか必要以上な礼は取らない。 勿論必要最低限な礼節は弁えているようなのだが。やや苦笑を漏らし、くっついたままの俺を促す。 「・・・カーマイン。熱烈な出迎えは嬉しいが・・・そろそろ中に入れてくれないか?」 「んー、もうちょっと・・・」 「まあ・・・俺は別にこのままでも構わないんだが、さっさと入らないと彼が困るだろう?」 心地良い体温が離れがたくて、腕を回したまま立ちすくんでいる間。主である俺や客に当たるアーネストを急かすわけにも いかず、綺麗な姿勢を保ったままミネルヴァは、事態が動き出すのをじっと待っている。彼からしたら早く客人を招き入れて 扉の施錠をしたいところなのだろう。屋敷内の秩序を守るものとして。そしてすぐさまもてなしの用意を、と考えているはずだ。 執事、というものは優雅な物腰とは裏腹に分刻みのタイムスケジュールというものがある。一つの業務にあまり時間を 割いていられない。名家の貴族として多くの執事を養っているアーネストは、そこら辺の事情も分かっているので気になるようだ。 「ん・・・アーネストがそう言うなら」 「いい子だ・・・」 よしよしと硬い指先が髪を梳く。フロアの床を踏みしめて邸内に数歩入るとミネルヴァは漸くほっとしたように息を吐き、 扉の施錠を行う。それから一礼してすぐさまお茶の用意をしに給仕室まで早足で向かっていった。そんなに急がなくても どうせ殆ど準備は終わらせているのだろうに。執事が優秀であれば主の評価にも繋がると、彼は俺のために優秀であろうと してくれている。そこまで徹底する必要もないと思うが、本人の意思はなるべく尊重してあげたいとも思う。 どうしたものか、考えて俺よりも執事との付き合いの長いアーネストに聞いてみようかと、顔を上げる。 「アーネスト・・・」 「ん・・・?どうした」 「ミネが全然休んでくれないんだ」 「ミネ・・・?ああ、彼か」 いつもは大抵ミネルヴァと呼んでいるので一瞬アーネストは誰のことを言っているのか分からなかったらしい。 今はもう見えなくなった彼の行き先をちらと一瞥してから緋色の瞳は俺を覗き込む。 「有能な執事というのは、休みを貰っても己のいない間に何かあったら、と気になるらしいが・・・」 「そうなのか・・・?じゃあ余計に心配だな・・・。どうしたらいいんだろう」 「・・・お前は優しいな。そう気にするな。彼も好きでやっていることだ」 言い含めるようにアーネストは言う。仕方のないことなのだ、と。それでも納得がいかない。 彼もアーネストも俺のためにと無理をする。嬉しいとは思うけれど、喜んでばかりもいられない。 俺のために彼らが倒れでもしたら、悲しい。そんなことは、決して望んでいない。 「・・・心配する気持ちも分かるが。お前がそんな表情をしていたら彼も報われんぞ」 「・・・・・・え?」 「お前が、安らかであるように、幸せであるように。ただそれだけを、願っているのだから。 お前が笑ってくれねば・・・喜んでくれねば、他の誰に褒められようと讃えられようと、報われない」 いつの間にか、塞いだような顔をしていたのだろう。俺の内情を察して告げられる言葉は諭すような響きと、 何処か痛みを伴っている。きっと彼も同じことを思っているのだろう。自惚れでも何でもなく、大切にしてくれていることを 俺はちゃんと知っているから。広い胸に凭れかかる。 「・・・・そうだな。大丈夫、俺はちゃんと知ってる」 「何をだ」 「・・・ここは、安らかで幸せな場所だ、って」 頬に当たる、質の良い生地に擦り寄れば、耳に届く彼の心音が僅かに跳ねた。埋めた顔を上げて 上向けば細面の頬がやや朱色掛かっている。滅多に顔色を変えない彼の、珍しい表情。 普段が仏頂面なだけに、照れた様はあるはずもない、母性本能を擽られる。 「アーネスト」 「な、なんだ」 「 」 声には出さず、唇の動きだけで答える。 「・・・聞こえた?」 「聞こえた」 それでも。ささやかに漏れ出る吐息すらこの人は聞き逃すことはなく。 「今日は、帰ろうかと思っていたのだが・・・気が変わった」 「へえ・・・どんな風に?」 「・・・お前を抱きしめて眠りたくなった」 つまり泊まるということだろう。そしてそこにそれ以外の意味も含まれていることは・・・流石に分かる。 分かるからこそ、少しだけ頬が熱い。顔を背ける。 「・・・セクハラ」 「何がだ」 「胸に手を当てて聞いてみろ」 そんなことで分かるはずもないが。照れ隠しに言ってみれば大きな掌が、胸に当てられる。 丁度俺の心臓の真上。手を当てろとは言ったが俺のじゃない。 「・・・おい」 「動揺しているな。・・・可愛い奴だ」 「なっ・・・!馬鹿じゃないのか?!というか馬鹿だ」 「断言するのか」 僅かに心音が乱れたのを知られ、しまったと思う。これでは幾ら口で悪態をついたところで説得力はない。 その証拠にアーネストはニヤニヤと人の悪い笑みを口元に刻んでいる。 「お前のことだ。先はまあまあとか言っていたが、どうせあまり寝ていないのだろう?」 「・・・・だとしたら何だ」 「気を失うほどに可愛がってやろうかと。そうしたら寝られるだろう?」 「・・・それはただの気絶じゃないか」 呆れを口調に含ましてみるものの、相手が悪い。全く堪えた様子もなく、俺の部屋を目指して階段を登っていく。 主より先を歩く客人。勝手知ったるなんとやらもこうも堂々とされてしまうと何も言えなくなるから不思議だ。 数歩距離を置いて後を追う。流石に扉の前まで来ると立ち止まり俺を振り返る。 「・・・別に勝手に入ってくれて構わないが。鍵も掛けてないし」 「そういうわけにもいかんだろう」 「人の前はさっさか歩くくせに・・・」 宣言通り鍵の掛かっていないドアを開く。一応どうぞと勧めてから室内に入る。待っていた以上、勧めたところで 俺より先には入らないんだろうと思っていたから、特に戸惑うこともない。客人が来るのは分かっていたので整えられた部屋。 最も客が来なくとも片付けているし、ミネルヴァがいる限り汚れることもありえない。もうすぐその彼もお茶の準備を終えて やって来るだろうと何とはなしに考えているとふわり、背後から腕が伸ばされる。 「!・・・何だ?」 「いや・・・お前は後姿の方が小さくて儚いな、と・・・思ったらつい」 「喧嘩売ってるのか?」 「いや。・・・恐らく、その強い瞳が見えないせいだろうな。こんなにもか細く感じるのは」 躯に巻きつく腕の力が強まる。あの日のように力強く背後からの抱擁。 「今日は・・・泣いてないぞ」 「そうだな。安心した。お前の泣き顔は堪えるからな・・・」 「・・・心配性だな」 「・・・お前は脆い・・・お前は優しい。だから、俺が守る。羽虫の分も」 彼女の葬儀の日。ずっと泣いていた俺のことがきっと彼の脳裏にはよほど色濃く残っているのだろう。 幾ら何でも俺だって常に泣いてるわけじゃない。ただ、いなくなった存在がとても大きかっただけ。いつも肩から聞こえてきた にぎやかな声があの日以来聞こえてこないのが無性に寂しいだけ。それを分かってくれているから、彼は俺に逢いに来る。 元々そんなにお喋りな性質でもないのに、あれから彼にしては妙によく喋ることがある。どんなに尽くしても誰かの代わりには 誰もなれないと知っているだろうに。それでも、想いを無碍にすることは出来ず。 「ありがと」 「・・・ああ。俺の方こそ・・・有難う」 「何でアーネストがお礼言うんだ」 「・・・言いたくなった。ただそれだけのことだ」 背中越しに届く熱、吐息。指先に込められる強い力。脆くて優しいのは彼の方ではないかと思う。 だから大切にしなければ。今までより、もっともっともっと・・・。高い位置にある首下に擦り寄って猫のように甘える。 見た目に反して少し高い体温と、甘めのコロンと丁度よく混じった彼自身の匂いが心地よい。 同じ性別なのに、全く別の生き物のような彼。堅くて、硬くて、強くて、でも脆くて、優しくて温かい、綺麗な。 爪を立てて縋りたくなる。腕の中からすり抜けていかないように。しっかりと、強く。 人の命は一度きり、失ったら二度と戻らない。どんなに大切で愛しくて恋しい相手でも。神かあるいは悪魔か死神か。 目には見えない『何か』は確実に簡単にいつか奪っていく。必死に必死に掴んでいても。 奪わないで、連れて行かないで。 どんなに叫んだって願ったって抗ったって。 『オマエ』は、笑って俺から彼を取り上げるんだろう? あの日彼女を俺から奪ったように。 頬に触れる心音が荒立つ心中を僅かに宥めてくれる。この音は好き。目の前の彼が生きている証だから。 この音が聞こえている限りは彼はいなくならないから・・・。だから、好き。ずっと聞いていたいと思うくらいに。 けれど物理的にそれは無理なのだけれど。ドアの外から紅茶の香ばしい匂いが香ってくる。微かな足音と共に。 ミネルヴァがお茶の用意を終えたようだ。間もなくこの扉は開かれる。見られて困ることもないが、取りあえず お茶は受け取らなければ、用意してきた彼に申し訳ない。背後の彼も同じことを思ったのか少し身じろぎ 後ろから抱えるように伸ばした腕を引こうとする。 「!」 瞬間。とっさに引かれる腕を掴み止めた。加減のない力で。 「カーマイン・・・?」 「・・・・ぃ・・・で・・・・」 押さえつける力の強さにアーネストは僅かに眉を顰めた。けれど払い退けようとはしない。むしろその口元は 微妙にだが綻んでいる気がした。優しく髪を撫でられる。 「・・・行かない、何処にも」 「アーネスト・・・?」 「お前が望むのなら。全てを捨てる。何を切り捨てても・・・お前の傍にいる」 そんな、何かの恋愛小説の中に出てくるような台詞を酷く真剣に口にする彼。きっと自分が気障だという自覚がないんだろう。 性質の悪い人だと。思うのにこの手を離せないのは、甘えか弱さか。どちらにしろロクでもない。分かっているのに。 騒ぐ心臓はこの人が好きだと、斯くも容易に雄弁に告げている。馬鹿みたいだ。 いつまでも、ずっと一緒に、なんて。時のない御伽噺の中の話だ。現実味のない話。永遠の愛なんて恒久の依存と同意か。 分かっているのに依存する。馬鹿だろう。みたい、なんてものじゃない。断定出来る。俺は愚かだ。そんな俺を腕に抱く彼も きっと愚かなんだろう。こんなに綺麗な瞳をしてて、こんなに強い意思があって、何より尊いのに・・・。 ・・・・・・・・・。 それでも。手は離せない。俺の弱さ。俺の甘え。 君のいない世界では生きられないなんて。そんなことは言わないけれど。 君のいない世界では生きたくない。君のいない世界に、しがみついていたいとは、思えない。 君の存在が、俺をこの世界に?ぎ止めている。君が思うよりずっと、確かに。 君の言葉だけは、疑わずにいられる。この虚飾に塗れた世界の中で、唯一。 「・・・アーネスト」 「お前のために生きると決めたからには・・・目の前に死神が現れようとも、殺してでも生き延びてやる」 「・・・・・・・剛毅だな。でも、出来そうなところが怖いよ」 彼ならば。本当にやりかねない。こんなに堂々と神に喧嘩を売る人は初めて見た。 ついつい、笑ってしまう。真剣なのが分かっている分、余計に。 「アーネストは本当に面白いなぁ・・・」 「・・・・何処に笑う要素があった?」 「うーん・・・真剣すぎるとこ?でも・・・そういうところ、好きだよ」 嫌いなところを探す方が、難しいだけな気もするが。そうこうしている間に、ドアをノックする音が耳に届く。 応対しようとして、制止を受けた。やんわりと押し留められ、顔を隠すように抱き込まれる。 「アーネスト・・・?」 「大人しくしてろ」 「ちょ・・・」 息苦しい状態で固定されたまま、アーネストはドアを開けてお茶を受け取る。 声の調子からして朗らかに二言三言、外の彼と話を交わす・・・というよりは付けるとドアを閉め、 更には鍵を掛けた。 「・・・ちょ・・・一体何を」 「・・・顔。・・・・あまりにも可愛かったから見せたくなくて、な」 「・・・・いい具合に頭打って治した方がいいぞ」 「人を叩けば直る機械みたいに言うな」 淡々と何でもないことのように彼は俺を甘やかして、傍から聞けば口説いているとしか思えぬ言葉で 俺を振り回す。いつもいつもこんな調子で接せられたら、誰だって心を奪われる。どんなにどんなに 否定しても。純粋な愛情と純粋な欲望を同時に注がれてしまえば、人は抗えない。厳密には人ではなく、 それを模したモノである俺も例外ではなく。狂わされる。 「・・・全く。アーネストは本当に変な奴だな」 「・・・・面白いと言ったり、変と言ったり・・・忙しいなお前は」 「誰が言わせてると・・・・ふう。それより、そろそろ離したらどうだ」 「さっきは引き止めたくせに・・・まあそういう気まぐれなところが可愛いんだが」 かたりと紅茶の入ったカップとティーポットの載ったトレイを近くの棚に置いて、片腕だけで俺を 封じていた彼は空いたもう片方も使って更に俺をその足跡の檻の中へと閉じ込める。 「・・・・俺は猫じゃない」 「そうだな。猫ではないな」 「だったら・・・」 「猫は。・・・俺を愛してくれない」 猫のような扱いに講義の声を上げれば、即座に帰ってくる否定。そして試すような言葉。 普段の強さや凛々しさが嘘のような寂しげな声音。この人の困ったところ。強くて綺麗なだけの人間なんて 存在しないのは分かっているけれど・・・この人の弱さは尋常でない気がする。 だから、らしくもないことを。 甘えてしまいたくなる。 縋りたくなる。 この異常な檻の中でさえ、心地よいと。 束縛を求める。 「・・・お前はお前だ。猫だなどと、有り得るはずがない」 「うん、だから?」 「・・・だから、俺を・・・・愛して欲しい」 「・・・・・・アーネストは本当に馬鹿だな」 とてもとても弱い君。とてもとても綺麗な君。俺だけを求めてて、俺だけを愛してて。 そんなどうしようもない君。でもだからこそ、心を預けられる。手を伸ばして縋れる、甘えられる。 だって俺は、そんな君を・・・・。 「どうしようもなく、・・・・っ・・・愛しているのに・・・分からないのか?」 「・・・・・・・。お前は・・・俺を殺す気か」 「・・・・・?」 「・・・・・死ぬかと思った」 口元を覆ってのくぐもった声に、視線を上げればいつもは真白い頬が仄かに赤い。 「照れてる・・・?」 「照れているというか・・・ヤラれた」 「何をだよ」 「・・・男心?」 「何だそれは・・・」 呆れしか出て来ない。 「うむ・・・あれだな・・・お前の言葉は殺傷力があるな」 「あるか、そんなものっ」 「いや、あるだろう。・・・・ほら」 熱を持った硬い感触が内股へと押し付けられ、瞬時に躯が固まる。 「・・・・ちょ!」 「分かり易くていいだろう?」 「良いわけあ・・・っ、んぅ・・・っ」 話途中で口を塞がれる。まだ昼日中もいいところなのに、この人は時間も場所も概ね選ばない。 常識には煩そうに見えるのに。舌が入ってきて服の下に大きな手が入り込んでくる。 「カーマイン、愛している」 「・・・・ば、か・・・ぁ・・・」 「今日はお前を愛しに来たのだから、黙って愛されていろ」 「〜〜〜〜もうっ」 優しくていつも気遣ってくれる君だけど。時々全く人の話しを聞いていない。 けれど、強引でありながらも決して無理強いはしない君。そんな君がやっぱり、どうあっても大切だから。 君の望むままに。 今日も俺は君の腕の中で眠る。 君の望みを叶え尽くすその瞬間が、来るまでずっと。 ―――ただ、それだけのこと。 fin 何かひたすら甘い話です。一応某様との相互記念として アーネストに甘えまくるカーマイン、を前提にした話のつもりなのですが どうなのでしょう??最終的に下い話になった気がしてなりません(切腹) |
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