深く、堕ちる

嫌いと言わないで

「っく･････怖、い･････」

突然泣き出したこの世の全てを集結させたかのように美しい青年。
それを間近で見て、今までにない衝撃を受けている男。その二人のいる空間は静まり返り、異様な雰囲気を醸し出していた。
広い部屋の隅で蹲って、カタカタ小刻みに小柄な身を震わしているカーマインにアーネストはどうしたものかと首を捻る。
慰めようにも泣いている原因が判らないし、知ったところで慰めてやれるほどアーネストは口に自信がない。いわゆる口下手、
という奴だ。それでも放っておく事も出来ず、恐る恐るカーマインの細い肩へと手を伸ばす。瞬間バッとすばやい動きで
下を向いていた小作りな顔が上を向く。整いすぎた端正な顔の異彩の瞳には大粒の涙。キラキラ、月光を受けて輝くそれに
不謹慎にも綺麗だと思ってしまう男を責められる者は恐らく皆無だろう。何故ならば、本当に言葉の通りだから、だ。

綺麗な者が綺麗な涙を浮かべていれば、それは綺麗でしかあり得ない。それが男の思い人であるという事実を付け足せば
尚更で。アーネストは早くも翻弄されそうになる己を叱咤し、出来うる限り驚かさないように優しく手をカーマインの頬へ寄せる。
幾重にも筋を残す涙を拭って、細身の身体を一度腕に抱きしめ、顔を覗き込む。見下ろした美貌には未だに残る、怯え。
一体何に対してそんなに怯えているのか。アーネストは刺激しないようにゆっくり、柔らかに問う。

「どうした････？」
「･････････っ････」
「･････？黙っていては分からんぞ」
「････････い」

あまりにか細い声に、眉を顰めながらアーネストは再度問う。

「････････ん？」
「･･･････わ、い･･･････怖い･････！」
「怖い･･･････？何が、だ」
「･･･････も！･････く････も！！」
「･･･････････････蜘蛛･････？」

何とか聞き取った単語の意外性に、紅い瞳を珍しく見開いてアーネストは震える指先でそれを指し示すカーマインを見遣ってから、
その指の先にいる蜘蛛を見遣る。特に毒性を持つようなものではないようだが、確かにあまり宜しくない見た目の大きな蜘蛛。
男はともかく女子供は見た瞬間に悲鳴でも上げそうだなと頭の片隅で思いつつ、アーネストは取り敢えずそれを摘んで窓から外へと
追い出す。次いでその際使用した手袋を外して、再度カーマインに歩み寄った。ぽんぽん、軽く頭を撫でて言い含めるように口を
開く。

「もう、いないぞ」
「････････え？」
「蜘蛛ならもう外に追い出した･･･････大丈夫だ」
「ほ、んとか？」

未だに涙を浮かべた金と銀の瞳で一心にカーマインはアーネストを見つめる。その顔があまりにも必死で、普段の凛々しさからは
あり得ないその表情が可愛らしく感じられ、人の良いアーネストとはいえ、ちょっとした嗜虐心というか悪戯心を呼び起こされる。
思わず噴出してしまいそうな口元を押さえながら。

「･･･！おい、そこにもいるぞ！」
「････え！！！？」

何がとも言ってない、しかも何もいない場所を指し示し、鋭く告げると途端にカーマインの肩は竦み、反射的に目の前にいる
アーネストへと抱きつく、もといしがみつく。ぎゅうぎゅうと首を絞める勢いで抱きついてくるカーマインにアーネストは軽く咽つつも、
その状況を少々楽しんでいた。そんなアーネストには気付かずカーマインはひたすらアーネストに縋りながら「どこ、どこ！？？」と
涙を流しながら叫ぶ。見たくもないほど嫌いな蜘蛛だが、居場所が分からない方が見るよりもずっと怖いらしい。何とか場所を突き
止めようとするが、それはアーネストの嘘なので、蜘蛛など見つかるはずもない。あまりの恐ろしさで気を失いそうになりながらも
カーマインは何とか視線をアーネストに合わせ、目で訴える。蜘蛛は一体どこにいる、と。その先ほど以上に必死な視線を受けて
耐え切れずアーネストは声を立てて笑う。

「･･････クッ、ククッ」
「！！？？？」

対するカーマイン、アーネストの笑う理由が判らず、滅多に見せない呆け顔。

「･････クッ、すまん･････あまりにもお前が必死だから」
「･････････････？？」
「そんなに怯えなくとも････蜘蛛はいないぞ」
「････････！」
「俺はただ『そこにもいる』と言っただけで蜘蛛がいるとは一言も言ってない」
「な･･･････た、謀ったな！！」

謀ったな、久しぶりに聞く言葉だなどと場違いな事を思いつつアーネストは本格的に笑い出す。当然、騙された挙句、大笑いされて
カーマインの機嫌は物凄い勢いでナナメへと傾く。今まで必死に掴んでいたアーネストを勢いよく突き飛ばし、壁へ身を寄せる。

「酷いぞ、騙すなんて！！アーネストのくせに！」
「アーネストのくせに、とは何だ。大体勝手に騙されたのはお前だろうが」
「････････っ！････も、うアーネストなんて嫌いだ！顔を見せるな！！」
「！」

顔を真っ赤にして、肩を怯えでなく怒りで震わせてカーマインは鋭く叫ぶ。普通に言われてもずしりと来る科白。それを大音量で
告げられてしまえば受ける衝撃は倍以上。当然の事アーネストは信じられないものを見たかのようにそれは滑稽なほど見事に
フリーズしてしまった。そう、今までこの青年には色々グサッとくる一言を何度となく突きつけられたが、今回のはそれらの比では
ない。嫌い、などという最も直球で負の意味の言葉を投げつけられたのは初めてだった。

「･･････き････らい･････？」
「そう、嫌いだ！君なんて嫌いだ！もう、蜘蛛と同じくらい嫌いだ！！」
「！！！」

蜘蛛と同じくらい････先ほどの蜘蛛に対する異常なまでの怯えぶりを思い出して更にアーネストの顔には悲痛の色が浮かぶ。
要は本当に大嫌いだと、そう言われたも同然なのだ。ショックを受けない方が人としておかしいだろう。それから暫く働かない頭で
何度も嫌いという言葉を反芻するアーネストは途端に壊れた機械のようにぷっつり動きを止めた。実際、壊れかけていた、心が。
いくらストレートな悪言を言われたとはいえ、何とも思ってない人に言われたのなら全く気にしないアーネストだったが思い人から、
しかも初めて言われたとあっては動揺しないはずがない。

「･････････････っ」

不覚にも泣きそうな自分を自覚して歯噛みする男。対して泣き喚く青年。先ほど以上に妙な空気が流れる。

「･････････アー、ネスト･･････？」

全く動かなくなってしまった男の姿を訝しみ、カーマインはそろそろと色違いの瞳をアーネストへと向ける。大粒の涙を湛えた
瞳では視界が霞むが、それでも普段は無表情を貫いた仏頂面が歪んでいる事くらいは分かった。そしてその理由も。
そういえば、嫌いなんて言った事なかったか････？ようやく落ち着き始めた頭で考えて、そしてその自分の言葉がアーネストにとって
いかに重いものだったかを知る。しかしそれに気付いたからとはいえ、そんなすぐさま自分の発言をひっくり返す事など出来ず。
所詮、カーマインもアーネスト同様に不器用な人間であった。

「････････あ、の･････アーネスト」
「･････････････････････････････」
「････アーネスト？」
「･････････････････････････････」

空気に耐えられず先にカーマインが折れるが、アーネストにはどうも彼の声が届いてこないらしい。ぽけーっと見えもしない妖精でも
追っているかのようにぼんやりとした顔で宙を見つめていた。むしろ生気が抜けている。カーマインは心配になってゆっくりと近づくと
服の裾を掴んで何度か呼びかけてみるが反応が返ってこない。よほどショックだったのか。そう思ってカーマインは何とか自分へと
意識を向けさせようとアーネストの両頬を細い手でしっかりと掴み、自分と視高を合わせる。そこにきてようやく意識が戻ってきた
らしいアーネストは恐る恐るといった感じでカーマインの添えられた手を握り締めた。

「･･････アーネスト･････大丈夫か？」
「･･･････････････ああ」
「その･････すまなかった。勢いで嫌いだなどと言ってしまったが･････その本心じゃない」
「････････････････････････」
「しかも大嫌いな蜘蛛と同じ扱いまでしてしまった･･･････許してくれ」

丁寧に謝罪をしていく泣いた為か少し掠れた美声を聞きながらアーネストは何か別の事を考えていた。それは安堵かそれとも
意趣返しか。とにかく嫌いだと言われてしまった事は彼にとって揺るぎない事実で。本心でないと言われてもショックな事は変わり
ない。だから心のどこか、まっすぐな彼にもしっかりと存在する仄暗い闇の部分が傷つけられた埋め合わせを望んでいた。

「･･･････聞いているのか、アーネスト？」
「･･･････････ああ、聞いている」
「･････････あの、嫌いなんて嘘、だからな････？」
「それでも俺はその嘘に傷ついた」
「････う、だからすまない。でもアーネストも悪いぞ？人でからかおうとしたんだから、な･････」
「･･･････････････････それだけか」
「････････えっと･････････」
「埋め合わせが欲しい。お前の言う嘘を帳消しにするような、な」

片手で手を握り締め、もう片方の空いた手をカーマインの白い頬へと伸ばす。這うような手つきで撫で上げて、それから漆黒の
絹糸のような髪の房を指に絡ませ弄ぶ。いくら鈍くても言葉の意味が伝わるようにと、大きな手のひらの動きは妖しく明らかに
夜の誘いが込められていた。鈍感なカーマインも覚えのある手の動きにアーネストが何を望んでいるのかが分かり白い頬を急速に
真っ赤に染める。

「え、なっ･･････い、今からか！？？」
「もう、陽は落ちている。気にするような時間じゃない」
「あ、だって･･･その、あの････仕事は！？」
「････どちらにしろ今日は手につかないだろうさ、お前のおかげでな」
「･････････っ！！ひ、卑怯だぞ！」
「そうだな卑怯だ。しかしここでお前が逃げるならお前もまた卑怯だ」

罪悪感を持っているカーマインには正直、アーネストの誘いを断れなかった。卑怯だと言ったところであっさり認められてしまえば
逆に何も言えない。しかもその誘いはカーマインにとって別に嫌なものではなかった。あまりに頻繁にされてしまえば身体は持たないが割とストイックなアーネストはそう何度も行為を強請るわけじゃない。だから、滅多にない誘いを無碍に断ろうとは思ってもいないし、
軽い触れ合いや言葉の遣り取りよりももっと直接的で深い愛情表現を心のどこかでは自ら望んでいるくらいで。それを口にすべきか
それともやめるべきかでカーマインは逡巡する。

「･･･････俺は･･･････････」
「カーマイン、履き違えるな。俺はお前に強要しているわけではない。逃げるなというのは嫌なら嫌だと言えと言ってるんだ」
「････････････････あ･･････」
「お前が嫌だと言うのなら俺は、何もしない」
「あ･････違、う･････嫌なんかじゃない･･････だから、その･････好きに、すればいい」
「･････二言はないな？」

ふわりと、どうやら腰砕けになっていたらしいカーマインの身体を抱き上げてアーネストは部屋の隅から、ベッドのある仮眠室へと
移動する。真新しいシーツの上に痩身を横たえてその上に覆い被さると端正な白皙の面に浮かぶのは不敵な笑み。窓辺から
差す月光に銀の髪と紅い瞳が愉悦に煌く。

「･･････好きに、させて貰おう」

細い両腕をシーツの上に縫い止めて、吐かれた言葉を合図に部屋の空気が静寂から、濃密なそれへと色を変えた。

◆◇◆◇◆

「･････っ、あ･･･････」

甘く少し切迫したような二つの吐息が混ざる。ギシギシと衣擦れの音と混じって二重奏を奏でる、スプリング音。
更に時折詰まるような喘ぎとクチュリと濡れた音が響き、白で統一された潔白なイメージが強い部屋は一気に卑猥な空気を
醸し出す。月明かりが黒髪と銀髪を照らし、照明がないのに互いの表情が容易く読み取れてしまう。

「ん、ん････････」

胸を這う節くれだった硬い指先にくぐもった吐息が漏れ、紅く色づき出した飾りをそのまま掠られると、短く悲鳴を上げる痩身。
びくびくと白い肢体は跳ね上がって、飾りに熱い舌が絡まるとよりそれが鮮明になる。その反応を愉しみながらアーネストは組み
敷いた身体を丹念に弄っていく。指で触れたり、舌を這わせたり、歯を立てたり、肌に吸い付いたり。真っ白な肌に所有の証をつけ、それと同時、普段は凛々しく強い青年の快楽を呼び起こし、乱れさせる。ただでさえ妙な色香を放つ青年は、快楽が混じれば
それは普段の比ではない。妖しく、何人をも惑わせる、魔性の姿。見ているだけで、声を聴いてるだけでクラクラと眩暈がしそうな
壮絶とも凄惨ともいえる艶やかさを露にする。アーネストは自分だけが知りうるカーマインのその顔を見るのが好きだった。

「･･･････っは、ぁ････････」

腹部を辿る手の動きに震え、胸を這う生々しい感触に悶える。その間にも、するすると上着を剥ぎ取られ、下衣にも手を伸ば
された。緩く服の上から昂ぶる熱を撫でられるとカーマインはビクンと陸に上がった魚のように大きく四肢を波打たす。恥ずかしさに脚を閉じようとするカーマインを遮るようにアーネストは自身の身体をカーマインの両脚の間に割り入れ、再び服越しに中心部を
撫でる。

「あ、あぅ･･･････はっ、やめ･･････」

愉悦に歪む美貌を眺めながらアーネストはファスナーを下げ、下衣を下着ごと脱がし露になった悦の証を流し出す、欲に直に
触れる。とろとろと溢れ出す透明な蜜が手を濡らし、それを指先へ絡め根元から先端へかけてゆるゆると扱き上げれば、桜色の
唇からは耐え切れぬ愉悦の悲鳴が上がった。耳に心地よいそれは容易く官能の淵へとアーネストを誘い込む。ふとカーマインの
中心に触れる指先の動きが変わる。焦らすようにゆっくりと、しかし時折キツく握りこまれ、先端を抉るように擦られ、引っかかれる。
強い刺激にカーマインの背は撓り、よりアーネストに密着し、そして大きな震えと共にトプンと白濁がアーネストの手中に放たれた。

「あ、ああっ･････！」
「･････････っと」
「あ、ば････か･････舐め、るな」
「･･････････？何故だ？」
「何故って･･････不味いだろ････が」
「･･･････不味くなどない」

ペロリと手に跳ねた白いモノをアーネストが舐め取るのに、荒い息を弾ませながらカーマインは反論するがにべもなく返され、
黙り込んでしまう。それどころか未だにとろとろと先端から流れ出す蜜に直接舌を這わそうとする彼に思わず絶句する。髪を掴んで引っ張りキスを強請る事で何とかそれから逃れるが、その代り吐息を奪うほど荒く、口内を蹂躙されてしまう。容赦なく絡み、
吸い上げる熱い舌を避け、離れようとしても余計に深く貪られて、口付けだけで再び身体に熱が篭もってしまうのをカーマインは
自覚した。

「･･････ふ、んぅ･･････ん、ん･･･････」
「･････逃げるな、カーマイン」
「ん、だって･････んぅ・・・・・アー、ネスト」

顔を逸らしても角度を変えて唇を塞がれ、執拗に追ってくる舌から逃れても直ぐに捕らえられ、受け止めざるを得ない。
クチュクチュと卑猥な水音が響き、耳を塞いでしまいたかったが身体に一切力が入らずカーマインはただただアーネストに
翻弄されていく。

全く止まろうとしない責めに少しずつ応えていく。それでも受け止めきれずに、細い顎をどちらのとも判別のつかない唾液が伝う。
その姿は妖艶としかいいようがなく、アーネストもカーマイン同様に愛欲を煽られていく。全身に走る甘い痺れに酔い、口を合わせ
つつ、指先はカーマインの秘部へと運び、そのままゆっくりと内へと侵入する。熱い壁を掻き分けて、後々の負担を減らす為に
ゆっくりと解していく。抜き差しを繰り返し、貫く指数を増やし、自分のモノを納める準備を怠らない。その合間にも切迫した甘い
吐息と喘ぎが乱れ飛び、欲が募っていく。抑えが効かなくなりそうだと苦笑してからアーネストはカーマインの内に収まる指を
引き抜いた。

「････う、あっ」
「･･･････っと、すまん、な」

苦しげに、しかし艶めいた叫びに社交辞令に近い謝罪を告げ、アーネストはカーマインのヒクついた蕾へと昂ぶる己を宛がう。
濡れた音が響き、暖かなものが触れてカーマインの身体は一瞬強張るが、一つ大きな息を吐き、なるべく弛緩させ、その時を待つ。

「･･･････いいか？」
「･･････ん、大丈夫･････だ」
「力、抜いてろよ」

言って、熱い塊がカーマインの中に穿たれる。ゆっくりと飲み込まれていくそれはトクトクと脈打ち、カーマインはその僅かな刺激にも
身を震わせ、肌を粟立てるが、再度降ってきた唇に直ぐに意識を奪われた。甘い痺れが背筋を伝う。口付けに夢中になって
応えると、それを待っていたかのように突き上げられ口が離された。

「ひ、あ････あ、やぁっ！」
「･･････････････くっ」

自由になった唇からは堪えようにも自然と嬌声が溢れ出す。ひくりと咽喉が引き攣る。そうして存分に晒された咽喉にアーネストの
唇が落とされ、きゅうと吸われ鮮やかな華が咲く。同時に異彩の瞳には生理的な涙が浮かび、月光を弾いてキラキラと輝く。二人の
動きに合わせ影が舞い、ベッドが激しく軋む。しかしその音すら気にならないほど結合部からは濡れた音が響き、カーマインは羞恥に
ぎゅっと目を閉じた。そうする事で余計に強く快楽を感じてしまう事も忘れて。汗で濡れた肌が合わさり、繋がりから、焼けるような熱が全身を犯していく。気が触れそうだ。過ぎる快感にそんな事を思いながらカーマインは身を躍らせる。二人のシルエットが淫らに
絡まり、行為は更に激しさを増す。初めは縁を擽るような動きを見せていたアーネストも次第にカーマインの悦を重点的に刺激し、
動きを早める。

「もう、いいぞ･･････」
「あ、ふぁっ･････ん、はあぁっ」
「････････っく」

ビクビクともう限界に近いカーマインが身を震わすのへ、アーネストは優しく微笑んで、一際大きく最奥へと滾る欲を突き立てて。
その強すぎる悦楽にカーマインは甲高く嬌声を上げると精を解き放った。それに煽られ、アーネストも苦悶の声を上げ、
溜まった熱を細い身体の内へと注ぎ込んだ。

◆◇◆◇◆

「･･････････で？」
「･･････････ん？」

息も絶え絶えに蹲ったカーマインからの不意の問いに、アーネストは首を傾げる。額に張り付いた黒髪を剥がしてやり、額へと
口付ける。今まで散々抱き合ったというのにたったそれだけの事にも顔を赤くするカーマインにアーネストは心の内で笑った
。そんな気配を何となく察したのかカーマインはやや眉を顰め、再度口を開く。

「･･････だから、気は済んだのか？」
「･･････････何がだ」
「･････嫌いって言った事。怒ってただろう」
「････いや、怒っていたというかショックだった」
「ああ、それは謝る。というか謝った。でも、人の弱点をからかうアーネストもやっぱり悪い」
「･････そうだな。だが、泣いてるお前が可愛かったんだ、だからつい、な」
「･････････可愛いって言えば何でも済むと思ってないか･･･？」

優しく裸体にシーツを絡ませ、胸に抱き寄せるアーネストにカーマインは若干の険を含んだ眼差しを向けるが、アーネストは
それを笑みで避して、いけしゃあしゃあと返す。

「俺は好きな子ほど苛めたくなる性分なんだ」
「･････････････････････ッ！」
「おお、紅い、紅い」
「んなっ！このっ、バカ！もう、キラ･････むぐっ」

真っ赤になって嫌いと叫ぼうとすれば素早く手のひらに遮られる。

「･････嫌いと言ってもいいが･･････もう一回付き合ってもらうことになるぞ」
「･････････････！」
「俺はお前にそれを言われると本当に傷つくのだからな」
「･･････････････････」
「どうせ言うなら好きだと言ってくれ」
「･･･････勝手に言ってろ」

にこにこと喰えない笑みで恥ずかしい台詞を吐かれ、カーマインは大きくそっぽを向く。アーネストからはその綺麗な顔がどんな
表情をしているのかは窺い知る事は出来なかったが、ちらりと覗いた真っ赤な耳に満足げに緋色の瞳を和ませた。そして本当に
蚊の泣くような細くて小さな声に大きく破顔した。

薄紅の可愛らしい唇から漏れた小さな呟きは･････？

『････････好き、だ』

fin

自分設定ではカーマインさんは蜘蛛とかグロ系の虫が苦手、という事になってます。
ゴキでも見つけようものなら卒倒しかねません（笑）というか何でこれが裏作品になったのか
自分でもよく分かりません。何かに憑かれてたのですよきっと（嘘は見苦しいぞ）

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