深く、堕ちる

何だって嬉しい。
君が隣りにいてくれるなら。
微笑む顔も、怒った顔も、呆れた顔も。
繋いだ手も、囁かれた言葉も。

―――全てが俺に向けられているから

だから。
そんな風に俯かないで。
俺は、君の隣りで確かに幸せだから。
君の事が愛しいから。

―――俯かないで。俺に微笑って････？

Moratorium

雨が降る、止め処なく緩やかに。
地面を湿らせて、築かれていく水溜りには反転した世界が映ってゆく。
ぱしゃりとそれに歩む者の足が踏み込まれれば、ゆらりと水面共々世界が揺れる。
人の心は、まるでその水溜りに映った世界のように移ろいやすく、揺るがされやすい。
誰かが、何かが踏み入ってくるだけで原型を留めぬほど崩れ行く、とても脆いもの。

白く大きな窓枠に身体を預け、しっとりと降りしきる雨粒を見遣りながら、彼の国の誉れたる緋眼の青年は小さく息を吐く。
仕事の息抜きに、と外の景観を眺めようなどと思ったのが失敗だった。つい先ほどまでは晴天とまでは行かずとも、
晴れ間を覗かせていた空は今ではどんよりと厚い雲が覆い、音もなく、霧雨が柔らかく地面を打っている。
せめて雨音さえあれば、余計な考えを起こす前に思考を奪ってくれたかもしれないが、霧雨程度では無音に近い。
さっさと視線を外したいのに、何故かそれは青年を引き付ける。雨など、嫌いなのに。更にもう一度溜息を吐いて、
青年―アーネスト＝ライエルは己の拳を握り締めた。ギリと骨の軋む音すらする。

「････見たくない、聞きたくない･････何も」

口に出しつつ、やはり視線は雨に注がれている。嫌いなものというのは好きなものと同じくらい、脳裏を占拠しやすい。
それは嫌う程度には関心があるから。何の興味もないものには、嫌いという感情すら起こらないものだ。アーネストは自身の
内部で見たくないのに視線を外せないという矛盾に軽く舌打ちをする。何故彼はそこまで雨を嫌うかのか。正確に言えば、
アーネストは雨が嫌いなのではなく、雨によって築かれる水溜りが嫌いなのだ。それは幼い頃に言われたから。

雨は神様が愚かな人間を悲しむ涙で、築かれた水溜りには神の力が宿り、映された者の本当の姿を映すのだと。

そんな馬鹿げた話があるか、と。絵空事を並べ立てて何が楽しいのかと、侮蔑の言葉を心中で毒づいていたアーネストだったが、
まだリシャールに出会う前、一番己が荒れていた時期に偶然水溜りを覗き込んで、そこに立っている自身が歪んで映って
いるのを確認した時、その言葉を思い出して酷く自己嫌悪に見舞われた。鏡などよりもよほど正直に自身を映すそれの中に
いた自分は思わず目を背けたくなるほど醜悪で。ぱしゃりと水面が揺れれば跡形さえなくなって。同時に自分の胸が
バラバラに切り崩されたような気がした。

それ以来、アーネストは水溜りを怖くて覗く事が出来ない。雨の日は必然的に気分が悪くなる。今も雨に気を取られつつ、
口元に軽く手をやっている。軽度の吐き気が体内を蝕んでいた。しかし、それも長くは続かない。ぼんやりと眺めていた視界に
見慣れた姿を発見したから。まるで色のない世界に一つだけ色鮮やかなものが紛れてきたかのように、すぐに見分けられる
その姿。思わずアーネストは身を預けていた窓枠から肢体を離し、大きめのタオルを一枚手に取ると慌しく駆け出した。

◆◇◆◇

「カーマイン！」

切羽詰ったような低めの声に名を呼ばれて黒髪が振り返る。はらりと水分を含んで重くなった髪が空に舞った。
服も、大降りではなかったとはいえ、結構な距離を傘も差さずに走っていたらしく肌に吸い付いている。濃い色合いのシャツ
なので透けるということはないが、それでも身体のラインが常以上に浮き彫りにされて。アーネストは目隠しの意味合いも
兼ねて、濡れたカーマインへとタオルを投げつける。そのままそれを顔に受けたカーマインが、ぷはっと頭を出すのにも
構わず駆け寄って強めに拭き取る。微かに荒い動作にカーマインが咎めるような視線をアーネストへ寄越した。

「･･････痛い」
「濡れてくるようなお前が悪い」
「だって傘持ってなかったし、そんなに降ってるわけでもないし････」

未だにわしゃわしゃと髪を拭かれているカーマインは言い訳めいた言葉を吐くが、アーネストはそれに耳を貸さず、大方
拭き終わるとカーマインの腕を引っ張って自分の部屋へと戻っていく。何やら憤然とした様子のアーネストにすれ違い様
声を掛けるような勇気を通り越して無謀な事をするほど命知らずな者はいなかった。

バタン

珍しく大きな音を立てて閉じられる扉。カーマインを連れて中に入ったアーネストは、クローゼットの中からバスローブを
取り出すとタオルを投げた要領でカーマインへと差し出す。それをなんとか受け取ったカーマインは小さく礼を言いつつ
タオルをアーネストに渡して、上着を脱いでローブへと袖を通す。ゆったりとした、アーネスト用のバスローブはカーマインには
大きすぎて気を抜けばダラリと肩から落ちてしまいそうになる。それを押さえながらカーマインはふと口を開く。

「アーネスト････何をそんなにピリピリしてるんだ？」
「････････････何がだ」
「･････いや、だって何か怒ってるじゃないか。そりゃ、濡れてくる俺も悪いけど････」
「･･･････････････････････」

ピリピリしている。それは事実。雨に濡れてきたカーマインに対する怒りもあるが、それだけではない。
雨が降っているから、自然と態度がキツくなる。それに、先ほどカーマインを階下に迎えに行った際、雨に打たれた彼と
彼の足元に築かれた水溜りを見てしまったから。醜い姿で映った自分と違ってカーマインはとても綺麗に水面に
映っていた。一点の曇りなく、歪みなく。それは本当にカーマインが見た目だけでなく、綺麗だと云わしめているも等しく。
少し、ほんの少しだけ惨めな気持ちになるのを自覚してアーネストは知らず顔を俯かせる。

「････････アーネスト？」
「････････････････････････」

心配そうに名を呼ばれて、顔を上げたかったアーネストだったが、今こんな澱んだ気持ちでカーマインの顔を見れば
絶対に更に奥深い澱みに嵌まっていくのは目に見えていたので俯いたまま。顔も上げずに立ちすくむアーネストにカーマインは
首を傾げてゆっくりと近づく。そしてだらりと垂れたアーネストの片手を両手で掴み取り、口元に運ぶ。やんわりと柔らかな
唇に押し当てられた手はその感触に小さく跳ねる。しかし、それでもアーネストは顔を上げられない。

「･････････アーネスト、どうした？」

反応のないアーネストに困った風にカーマインは問う。今度は手を解放して、下を向く白い両頬を包み込み、ゆっくりと
自分とアーネストの視線を合わせる。しかし一瞬パチッと合った瞳はすぐにアーネストによって逸らされて。いつもだったら
そんな事をしないアーネストにカーマインはますます疑念を深めた。少し強めに引き寄せる。それにより鼻先が触れ合うほどに
近づいた普段ならば怜悧な、しかし今はどこか頼りない白皙の端正な顔をカーマインは睨みつけ、告げた。

「不満があるなら、何だって言えばいいだろう？」
「･････････お前にじゃない」
「･･････？じゃあ、誰に」

態度が不審なのはきっと自分に何か原因があるのだろうと思って尋ねた言葉にすぐさま否定が入り、カーマインは軽く目を
瞬かせるが、更に質問を重ねる事で会話を続ける。が。

「･･････････････････俺自身だ」
「･･････････え？」

意外な言葉が返ってきてカーマインは先ほど以上に瞳を見開く。驚いて動きが止まったその隙に顔を押さえられている
アーネストが微かに近づき、喰らい付くかのようにカーマインの唇を自分のそれで塞ぐ。突然の事にカーマインがくぐもった
悲鳴を漏らしたが、アーネストはそれも飲み込むようにして激情のままに口腔へ滑った舌を差し込む。蠢く舌先が
粘液と絡まって淫らな音を立てた。

「･････ん、んぅ･････ア････ネ････っぅ」

押し退けたくとも体格差がある上に、口腔を蹂躙されて力が入らないカーマインは結局為すがままにされる。
糸を引くまでに濃厚な口付けを受けたカーマインは生気を奪われたようにガクリと身を沈めるがアーネストはそれを難なく
受け止め、大胆に開かれた胸元を見ないように細身の肢体を抱き寄せた。

「････アーネ････ト？」
「すまん････これでは八つ当たりだ」

言って、更に腕の中の存在を深く抱きしめる。強い力に撓やかな背が反り返った。しかし、それでもカーマインは懸命に
アーネストの背を抱き返す。理由は判らない、けれどアーネストの情緒が不安定になっているのを感じ取ったから。
ぎゅうと服に皺が寄るのも構わず、強く握り締める。外では霧雨がいつの間にか音を奏でるほどの強い雨になっていた。

「････アーネスト、どうした。俺にも･･･言えないか」
「･･･････違う。けれど、言ってしまえば････お前に嫌われるかもしれない」
「いいよ、言って。嫌わない、俺は君だけは何を言われても嫌いに･･･なれないから」
「・・・・・っ、カーマイン･･･！」

本当に愛しむような微笑を受けてアーネストは堪らなくなる。腕に力が篭もる。

「･･････俺は、自信がない」
「･････何が？」
「愛されてる自信もない、自分がお前に見合っているとも思えない、幸せにしてやれる自信も･･･ない」
「・・・・・・・・・・・ッ」

言い切ってパシンと乾いた音が響く。アーネストの頬をカーマインの手が叩いた。だが加減はしたのか当のアーネストは
あまり痛くないらしく、少しだけ眉根を寄せただけだった。アーネストが何か口を開こうとすれば視界に睨みつけるような強い
眼差しをした、しかしその目元にはうっすらと涙を湛えたカーマインの姿が映る。息を呑んだ。胸が軋む。

「失礼な奴だ･･･。自信がないという事は、君は俺の気持ちを信じてないという事じゃないか」
「･･･････････････？」
「俺は、君の傍にいて幸せで････君が好きで、愛しくて････それだけじゃ足りないか？」

切実な言葉の羅列。涙目で見上げられるよりも胸が苦しくなる。アーネストは二の句が継げない。

「俺の幸せは、俺が決める。俺は君の隣りで幸せで･････他ならぬ君が俺の幸せを否定する事は、許さない」
「･････････すまん」
「･････もう、いいよ。それより、何で急にあんな事言ったんだ」
「それは････････」

途中で言葉を切った。息を吸う。アーネストは震えそうな声音を抑えるために腹へと力を入れた。雨音が耳に届くが、
それよりも目前の青年の言葉が胸を占めている。やんわり、微笑んだ。

「これは内緒だぞ、特にオスカーには･･････」
「･･････何？」

不思議そうな瞳。急に綺麗な面差しに幼さが灯る。

「･････実は、な。俺は雨･･･いや水溜りが怖いんだ」
「は！？」
「････････水溜りに映った自分を見るのが恐ろしい。とても･････醜いから」
「アーネスト････？」

きゅうと笑いもせず、服を掴んでくるカーマインにアーネストはゆるりと髪を撫でる事で応える。

「水溜りは、映った者の本質を映す。俺はそれに映った自分が酷く歪んでいて･････恐ろしかった。
逆にお前は綺麗で･･･････だから、元より自信などなかったが、更にそれで自信をなくした」
「･････････馬鹿だな、アーネストは。本質なんて、水溜りなんかより････俺は俺の目に映る君を見るよ？」
「･･････そうだな。やはりお前は綺麗だ。そんなお前が俺も」

好きだ、と耳元で囁いてアーネストは今度は優しくカーマインを抱きしめる。カーマインは頬を真っ赤に染め上げた。
その姿を目に留める際、バスローブに着替えた為、大胆に胸元を晒しているカーマインをも視界に納め、アーネストは
煽られる。次いで細身の肢体を抱き上げた。

「･････えっ！？」
「･････身体、雨に打たれて冷えたろう。暖めてやる」
「･･････････物凄く、下心が見え隠れしている気がするんだが」

暖めてやると言いつつ、脚は仮眠室へ向かっている。それに対しカーマインが突っ込みを入れれば、にっこりと
微笑まれる。カーマインは息を吐いた。この表情は、何かを企んでいる時の表情だから。

「･････それは、多分気のせいじゃないと思うぞ、カーマイン？」
「･･････････････開き直るなよ」
「俺の目前でそんな格好をしてるのが悪い」
「君が寄越したんだ」

計画犯め、とカーマインは毒づく。それにアーネストはただ笑って。

「俺の隣りは幸せなのだろう･･･？ならば、少しは俺の幸せにも協力的になってくれ」
「････････････････はぁ」

言って重なってきた薄い唇にカーマインは諦めの溜息を吐いて、仕方なさを装いつつ絡んでくる舌に応える。
濡れた音と、仮眠室のドアを閉める音が重なった―――

◆◇◆◇

「･････････ぅん」

ベッドの上に寝かしたカーマインの横に腰掛けたアーネストは、そのままの姿勢で目下の滑らかな肌へと指先を這わせる。
それはあたかも人の寝込みに悪戯を施しているかのような光景。首筋を辿って、鎖骨を撫で、更に下へと手を伸ばす。
ローブを纏わせたままの開けた胸元を漁り、緩やかな愛撫に存在を主張し始めた胸の飾りにアーネストは気を留めた。
そっと掠るように触れ、身じろぐ肢体に笑みを零すと胸に触れていた手を下に降してゆっくりとローブの腰紐を解く。
はらりと肌蹴たローブを手荒に剥ぎ取れば、恥ずかしさのためか、白い肌を薄紅に染めたカーマインの四肢が露になる。

「････････綺麗だな」
「････ばっ、･･･んっ」

馬鹿、とでも言おうとしたのであろうカーマインをアーネストの鎖骨を舐め上げる舌の動きが押し留めた。優しく、淫らに
唇が各所に跡を刻み、下って行く。心音を感じ取り、白い胸へと到達すると躊躇なく、立ち上がった胸の尖りを口に含む。
くしゃり、身を捩ったカーマインの動きに合わせ、ベッドの上のシーツに皺が寄る。与えられる悦楽から逃れようとする
カーマインを押さえ込むために今までベッドに腰掛けていたアーネストはカーマインの上へと乗りあがった。ギシリ、と
ベッドが鈍く軋む。微かに抵抗の色を見せるカーマインを自らの肢体で固定して、一時中断していた淫猥な責めを再開する。
舌と唇、それに指先の動きで胸元の飾りを更に綺麗に磨き上げていく。初めは必死に声を殺そうと耐えていたカーマインも
次第に堪えきれずに甘い声を漏らし始めた。

「･････っ、････あぁっ」

熱い吐息が漏れる。身体は既に雨に打たれたとは思えぬほど温まってきていた。それでも、それで満足しきれず
アーネストは口付けをカーマインの全身へと施していく。下腹部を辿り、腿の付け根辺りを集中的に弄る。紅い花弁が幾重にも
広がり、アーネストは満足げに口元を歪めた。そして続けざまに悦を与えられてきた身体の中心部、普段は慎み深く、
今は何よりも素直な箇所が蜜を零し始めているのに気づき、ちろとその先端部を舐め上げた。途端、一際甘い嬌声が響く。

「････ぃっ･･･やぁあ･･･！」

大きくカーマインの背が反る。腰が逃げようと蠢く。それを押さえつけてアーネストは健気な性器を熱い口中に含んだ。
滑った感触にカーマインは更に身を捩る。しかしそれに気を留める事なく、アーネストは指先もそれに絡めて甘く、残酷に
カーマインを追い詰め、微笑む。蕩けるような喘ぎが引っ切りなしに漏らされ、それだけで室内の空気は暑くなり濃密さを増す。
不意にアーネストの口腔に囚われたものが跳ねる。限界は間近。それを知ったアーネストは幾重にも重なる行為で
知り得たカーマイン自身の最も脆弱な部分に歯を立て、強く吸い上げた。

「ふ、ぁ･･やめっ･･･んあぁっ････！」

遠慮ない責めにカーマインは高みに押し上げられ、自分を含んだアーネストの口内へと飛沫を放った。羞恥に身を焼かれ、
目にうっすらと涙を浮かべる。しかしそれは蜜を嚥下したアーネストの唇によって受け止められ、柔らかな頬をその唇で
慰められていく。愛しむような行為にカーマインはアーネストの銀糸に指を絡める事で応えた。

「･･････未だに泣くんだな、お前は」
「･････悪いか」

からかうようなアーネストの言葉にカーマインは朱に染まった顔で咎めるが、何の迫力もない。却って、アーネストを煽る
くらいで。緋眼を細めるとアーネストは纏っていた服をここに来て漸く脱ぎ払う。ぱさり、床に落ちた着衣が音を立てた。

「悪いなど、誰も言っていないだろう････可愛いな」
「馬鹿に、してるのか･･･っつぁ」
「褒めているんだろうが････それくらい判れ」

言い差し、蜜で濡れていた指先をカーマインの奥まった蕾へと触れさせ、ゆるりと入り口を撫でると、長い指を蕾に傷を
つけぬよう慎重に潜らせる。内襞が拒むように狭められたが、気にせず内を探る。くちゅくちゅ、淫らな音が零れ、
時折きゅうとその箇所がアーネストの指先を締め付けた。それはまるで離れて欲しくないかのように。それが分かって
いながらもアーネストは指を一度引き抜く。カーマインは短く悲鳴をあげ、不思議そうに首を傾いだ。

「･･･アーネ、･･･ト･･･な、に･･･アッ！」

いつの間にか秘所へと顔を埋めたのか、ヒクつく可憐な蕾に赫い妖艶な舌が這わせられ、くぬりと中へと押し入られた。
そのまま内襞を捕らえながら内側を何度も舐め上げられる。アーネストの体液でカーマインの内部は光を弾いて輝くほどに
淫らに濡れていく。

「う、ぁ････ひゃ、やぁぁっ」
「･･･嫌、という割には随分ココは乱れてるがな」

ちゅと音を立てて唇を離すと、再び指でと綻び始めた内を更に押し開いて行く。ぐぷぐぷと差して力も込めていないのに
アーネストの指は奥へと飲み込まれていく。その動きに任せて奥へと導かれた指先は最も敏感な箇所を掠る。
悲鳴が木霊した。とても甘やかな。その声をもっと聴きたくてそこを執拗に弄っていく。

「あ、あぁ････ん、んんぅ！！も、いい加減に････」
「･･････････いい加減に、何だ？」

カーマインが言いたいであろう言葉を既に分かっているくせにアーネストはわざとらしく問う。カーマインにもそうと分かるほど
露骨に。しかし、そうまではっきりとした態度を取るという事は言うまでこのままだという事。カーマインは僅かに残る理性と
格闘しながら、身を孕む快楽に耐える。だが、それも長くは続かず、カーマインは涙目になりながら諦めたように言った。

「あ･････欲し････アーネスト」
「････････何を、とは聞かないでおこう」
「な････ッ！････ふ、あぁぁっ！！」

笑い声を交えてアーネストは言い放つと予告なしにカーマインの中へと昂ぶる熱を突き入れた。撓やかに、大胆に
カーマインの背が反った。シーツが派手に乱れる。それを額や頬への口付けであやしつつ、アーネストは緩やかに
腰を使う。抜き差しを繰り返す度に、淫猥な水音と愉悦の喘ぎが響く。それは双方の熱を急激に上げていく。
カーマインの内部でアーネストのそれが育ち、絡む内襞を掻き分けて徐々に激しく高みへと押し上げる。

「あ、あ･･･アー、ネスト」
「また、泣いてるのか････本当に可愛いな」

紅く染まる目尻を舐め上げて、アーネストはびくびくと細かに震えるカーマインの内の今までは敢えて避けていた弱点を
探り当て、執拗に蕩けるような責め苦を与え続ける。締め付ける力が強くなるのを感じ、一度ギリギリまで引き抜くと、
力強くカーマインを抱きしめ、再奥を貪った。その途方もない悦楽にカーマインは熱を解き放ち、その強い締め付けで
アーネストも欲を解放し、二人でベッドへ深く身を沈めた。

◆◇◆◇

「･････アーネスト、起きてるか」
「･･････････････ああ」

いつの間にか、身を清められた状態になっていたカーマインは自分を清めたであろう男の名を呼ぶ。それにやや間を空けて
返事が返った。カーマインは自分の後ろを向く。ローブを纏ったアーネストがカーマインを背後から抱きしめるように寝ていた。
その口元には充足にも似た微笑が浮かんでいる。

「････水溜りは本質を映すという話だが･･････」
「何だ？別にその事はもうい････」

もういい、言おうとしたアーネストの声を遮るようにカーマインのそれが被さる。

「雨が降っている時に覗けば嫌でも、水面が波立って歪む」
「･･･････････････････」
「だから、今度は晴れた日に覗いてみればいい。一人が怖ければ･･･俺も一緒に覗いてやるから」
「･･････････お前はどこの母親だ」

あまりに過保護染みた台詞を吐くカーマインを揶揄るが、その実アーネストは泣きたいほどの幸福を噛み締めていた。
その名残が腕に抱いているカーマインを更に優しく抱き留めた事により伝わる。カーマインはそれに気づいて小さく笑んだ。

「････もし、それでも歪んで映ったとしても、俺の瞳にはちゃんと君は綺麗に映っているから」

安心して？甘い声にアーネストは項へ口付けて応える。細い指先へ自分のそれを絡めた。

「･････隣りにお前がいれば、平気だ。お前を感じている間は綺麗に、なれる」
「･･････････馬鹿」
「馬鹿とはなんだ。よく言うだろう？恋をすると綺麗になれると･････」
「････････････恥ずかしい奴」

カーマインは頬を紅くし、顔を前へと戻してしまう。しかし最後に一言、蚊の鳴くような細い声で告げた。

「･･････だったら、俺は君の隣りで誰よりも････綺麗に微笑んでいられるよ」

それを皮切りにカーマインは毛布を被って自分の殻へと篭もるように眠りに付いた。ただ、残されたアーネストの面には
何ともいえぬ、柔らかで綺麗な微笑が浮かんでいた。本当に、幸せそうに―――

何だって嬉しい。
お前が隣りにいてくれるなら。
微笑む顔も、怒った顔も、呆れた顔も。
繋いだ手も、囁かれた言葉も。

―――全てが愛おしくて仕方ないから

だから。
お前を悲しませぬよう、二度と俯かない。
俺は、お前の隣りで誰よりも幸せだから。
お前の事が愛しいから。

―――もう俯かない。お前のために微笑っていよう

そうして。
晴れた日に二人で覗いた水溜りに映ったのは―――？

fin

すみません、すみません。
本当に意味がないです、長いです無駄に。
一番書きたかったのは実はえろではなく、お前のために微笑っていよう、
の下りでありました。だったら表で書けよ。ごもっともです（涙）
ちなみにこれ以降アニーさんの雨嫌いは治ります。何か表のSSでは
別に雨を嫌ってない気がしますが････きっと隠してるんですよ。そういう事に
しておいてやって下さい（うぉい！）

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