初夜。 カーマインとアーネスト。 どちらがより緊張しているのか、その差は計り知れない。 だからこそ怖い。 夜が迫るにつれ、口数も少なくなる。 別に夜でなくてもいいとは思うが、何となく暗黙の了解という大きな絨毯が敷かれている気もする。 そしてそれに救われてもいる。 アーネストが考え深げな瞳をする度にカーマインは彼の様子を伺ってしまう。 やはり、ためらっているのでは。 そう見えるのは自分がためらっているからなのか。 相手は銀の月のような、バーンシュタインの誉れ、インペリアル・ナイト。 男性だ。 ……そして、自らも。 カーマインはため息をこらえ、長い睫を伏せる。 不意に指が伸びてきた。 頬を撫でられて居心地が悪いような気持ちになる。 視線を合わせて肩をすくませた。 「嫌か……?」 静かに問われて、カーマインは思う。 せめて自分の方からは迷いを見せない。 抱いているとしても。 首を横に振ると、身体を抱き寄せられた。 「……っ……」 視界が動くと同時に心拍数も跳ね上がる。 びくりと動いてしまった肩の反応はもう取り返せはしない。 カーマインはアーネストの胸にすがり、ぎゅっと目を閉じた。 背中を撫でられる。 ……ぞくりとした。 仕方なくアーネストの服を握りしめる。 「どうした」 「………」 カーマインは紅い顔をあげた。 妙な熱気が顔の周りを包んでいる。 何も変わらないアーネストの表情を見て、ますます熱くなる。 言葉が何も浮かばない。 唇を開くことも出来ずにカーマインの身体は固まった。 「……っ」 喘ぐように息をして。 カーマインは目を閉じると、また小さく首を振った。 その首筋に指が触れる。 カーマインはアーネストの服の布地を握ったまま、ただ指の行く末を気にしている。 「……っ……」 何故か呼吸をするのだけで辛い。 いつものリズムを思い出せない。 アーネストはカーマインの様子を首を傾げて見つめた後、椅子から立ち上がった。 服を掴んでいたカーマインもつられる格好で腰を浮かす。 アーネストは細い身体を腕に抱え上げた。 急に空中に連れ去られ、長い前髪の合間から見えるカーマインの瞳が大きく開かれる。 さすがに微笑むことは出来なかった。 投げ落とされることもなく、静かに横たえられるのが落ち着かない。 強引でないところは好きだ。 けれど大切に扱われるのは慣れていない。 慣れるどころか初めてのことだ。 愛されようとしている身体に汗が浮く。 実はずっと前から汗ばんでいて気づいたのが今だったというだけの話なのだが。 暗い室内に窓から注ぐ月の光と、それを反射する月光のような髪が。 共に自分の身体を見下ろす。 油断してアーネストとうっかり視線を合わせてしまい、カーマインは慌てて横を向く。 たとえ鼻先をシーツに埋めても自分の全身はアーネストの前にさらけ出されているというのに。 アーネストの手がカーマインの黒い髪に触れた。 どこに触れられるのかと構えていたせいで、それすらの愛撫にも肩が強張ってしまう。 いつも頭を撫でられているから怖くない。 平気なはずが。 「………」 カーマインは何も言えないまま髪をまさぐられている。 ちらりとアーネストのほうを見ると、彼はされているのがまるで自分の方のように安らいだ顔をしている。 「……………」 それを見てカーマインの身体から少し力が抜けた。 視線を外し、唇をそっと噛む。 「………アーネスト……」 迷いながら話しかけて、 「……何だ?」 問い返してくる言葉に目を閉じる。 「……」 捜したけれど、結局、言いたかった言葉など無い。 カーマインは瞳を薄く開けて、顔の方向を元に戻す。 合わせてアーネストの手も移動する。 頬を撫でられカーマインは少し顎を上げた。 続けて重ねられた唇を不器用に迎えながら、眉間を寄せる。 下唇を咥えられ、あの強い細い指先で肩の線をなぞられた。 それだけでカーマインの足が無意識に動く。 知り得ない感覚から思わず逃げようとして、それを愛情の心で押さえつける。 その落差が快楽を産むのか。 カーマインは素肌の肩に触れられて、キスをされたままシーツを探し当て、掴み上げた。 鎖骨にも指を当てられ、一層強く目をつぶる。 全てが予想をしていない範囲の出来事だ。 鎖骨の下、胸元のあたり、斜めに入った服の切れ込みの中に細い指が滑り込む。 服を脱がせようとするためではなく、ただ肌に触れるために。 普段服に隠されている箇所に他人の指が入り込むのが。 「……っ…ぁ」 カーマインには甘くも辛い。 唇を離すと同時に、聞く者がどうしようもない気持ちになる程の吐息を吐いて、カーマインはアーネストの肩を 少しだけ押し返した。 その手にシーツがまとわりついたままなのがアーネストの微笑みを誘う。 見下ろして聞く。 「……どうかしたのか?」 「………………」 応えないカーマインの、更にどうしようもない表情に、ナイトはやはり笑う。 初体験に惚けている顔は一生に一度の愛しいものだ。 カーマインは乱れた息を繰り返しながら汗ばんだ額にかかる前髪をかき上げた。 たった、これだけのことで息を詰めている相手に、逆にこちらが参った気になる。 恋人は困ったような、うんざりした顔で言った。 「…………まだ、続くのか……?」 照れ隠しだと気づいていながら、気づかないふりをしてアーネストは呆れた顔を作る。 「当たり前だろう」 「………」 「……嫌なのか?」 更にわざと聞くアーネストに、カーマインは横を向いた。 「アーネストが……嫌じゃなければ」 アーネストは笑った。 「お前のことを聞いているのだ」 「……………嫌だったら……、今、こういう状況になっていない……」 「そうだな」 知っている。 それでも確認するようにアーネストはカーマインの胸に手を置く。 カーマインはほんの少し顔を歪めた。 アーネストの気持ちはどうなのだろう。 ためらいは。戸惑いは。 不安に思ったが、恋人の手は構わず動き出す。 再び自分を投げ出して………カーマインはシーツを掴み直した。 薄く見えて、わりと丈夫な生地だから、そう簡単には見つけられないと思ったが。 アーネストはカーマインの胸で小さな突起のある場所を探す。 黒髪のように黒い布の上で指をさ迷わせた。 その度に身体の下で、もうひとつの身体がびくりと動いている。 明確な声は聞こえてこないが、中途半端に開いたカーマインの唇からはいつ漏れ出てきてもおかしくない。 そう思わせるのは小刻みに繰り返される首の動きのせいだ。 早くも汗がのって輝く首筋をねじるようにしてカーマインがシーツに自分の顔を押しつけている。 「……っ……!」 一瞬、とても強く身をすくませた部分があるので、アーネストはそこに範囲を絞って指先を這わせた。 「ぁ」 かすかだが声がした。 とんとんと指を落とす。 「……ん…っ」 アーネストはカーマインの腰を押さえて服をまくりあげた。 脱がされたことよりも、 「あ!」 腰に当てられた指の方がこたえたらしい。 脱がすついでに微妙に力を加えてやると、 「……ぁ、……あ」 一瞬、怯えた瞳を見せて、それから身体をくねらせた。 常にない仕草に驚いているのはカーマイン本人も一緒のようで。 ひきつる頬に嫌悪感が現れている。 それでも切なさに背筋が反っていく。 いつの間にこんなにかき乱したのか、掴んでいるのはもはやシーツの端のほうだ。 「………」 瞳を開けて、また閉じる。 アーネストの唇がこの身体に落ちてきて心を刺していく。 抱かれているという認識が酷くリアルになった。 目が覚めた。 あるいはもう一度深い眠りにつくように。 染みて、浸かっていく。 「……っ……っ!」 自分の全身がとてもシンプルになった錯覚を起こす。 濡れた舌が吸い付いてきて、そこにだけ意識がくみ取られる。 顔を傾けて上気した頬をシーツに当てる。 今自分はどんな顔をしているのか、それを恥じらう思考はアーネストの導きにかき消される。 特に胸の突起を。 そのものを直接いじられるよりも、その周囲を円を描くように舐められてカーマインは悲鳴のような声を上げた。 同時に脇腹のところを指でなぞられたから反射的に身体をひねる。 速い動きに、いつもなら舞う黒髪が汗で張り付いていて全く浮き上がらない。 カーマインは思わずアーネストを見た。 相手が泣き出しそうな顔をしているせいで、アーネストの瞳がやや気遣わしげになる。 「怖いのか?」 「………っ…」 「無理なら、止める」 「…っ……!」 カーマインは首を横に振った。 荒い息を繰り返して、普段の強情さを弱々しく出して。 そんな姿の青年を見下ろし、アーネストはやはり髪を撫でた。 「別に今日でなくとも良い」 「嫌だ。中途半端に終わらせるのは……!」 アーネストは今度は本当に呆れて眉間を寄せた。 それを見たカーマインは、唇をきゅっと結んだ。 「………俺は平気だ……!」 アーネストからしてみれば、何故カーマインがここまで強く言ったのかが分からない。 「アーネスト……!」 まだ服を着ているアーネストの胸元をぐいと引き寄せる。 「アーネストは……俺と最後までいきたくないのか」 心底から意外な問いだった。 「何を馬鹿な。今更……」 「俺は、迷っていたよ」 カーマインの言葉に、アーネストは不意をつかれる。 意味を考える。 しかしその必要はなかった。 カーマインが紅い顔で、すぐに先を告げたから。 「アーネストがためらっているんじゃないかと思っていたから、俺は迷ってた。 俺達は……同性だし、男同士だし、もしインペリアルナイツが同性愛嗜好なんてバレたら、民衆からの反感も買うだろうし」 「考えすぎだ」 「……」 カーマインは急に目線をそらした。 「………とにかく、ここで止めたら、俺はアーネストのことを疑う」 「………」 にらみつけられ、アーネストは今度は強引にカーマインの身体をベッドに押し倒した。 「……安心しろ。俺の方から止める理由はない。お前のような馬鹿げた迷いもない」 文句を言おうとしたカーマインは、アーネストが微笑んでいるのを見て、……ふと思いとどまる。 「………………………そうなのか………」 そのかすかな呟きに全てが詰まっていたことをアーネストは知らない。 これからも知らなくて良いことだ。 お互いの衣類を捨てた。 カーマインは両足を大胆に抱え上げられたことで、さすがに慌てた。 「っ! アーネスト……!」 「無理な体勢でするよりは痛みが少ない」 「今だって無理な体勢だ……!」 こんな時だというのにアーネストは声を立てて笑った。 「どうにも艶とは縁がないな……」 「…………」 カーマインは急に身体の力が抜けていくような気がした。 もちろん緊張はしている。 けれど、アーネストの笑い声を聞いて……、胸のつかえ、抱かれる前にあれだけ悩んでいたことが、 何でもないことのように思えた。 「……艶がなければ駄目なのか……?」 「無理をしなくてもその内自然と出るだろう」 何故か不愉快な気持ちになったカーマインをからかうように、アーネストは尻を撫でた。 いかにも思い知らされる手つきに、 「……んっ」 カーマインは途端に息を詰めて、今夜、唯一の味方である白いシーツを握りしめる。 「いいな?」 「………」 頷くと、最初に指が当てられた。 それから抱え上げていた足を戻され、替わりに横に広げさせられる。 「ん……!」 恥ずかしいことではあった。 頭に血が上る。 それでも一度頷いたからには、抵抗もできるはずがない。 勃ち上がるものを手で押さえられ、唾液で秘所をほぐされ。 「……っう、……あ、あ!」 まだそれが性感だとは分からない。 ただその感覚に胸の奥から声が押し出されていくようだった。 黙れと言われても、きっと従えなかっただろう。 自慰の時のあっさりとした淡泊な快感とは全く違う。 ほど遠い。 カーマインの意識は熱く高く揺さぶられていく。 「あ…あ、ああ……っ」 急にカーマインの身体がはねあがった。 押し入る痛みに身体がのけぞる。 「あ……っ!」 すぐに抜かれ、ただの指1本の圧力に耐えられなかったことに、カーマインは息を飲んだ。 それでも何も言わない。 ただ眉根を寄せて目を閉じる。 足をさきほどと同じように抱え上げられ、 「………」 息を吐いた。 アーネストは何も言わなかった。 ただ、その前に一度、手の甲で頬を撫でられた。 何気ないその仕草でほどけていく。 「……!」 痛みはあった。 痛みと言うよりも、圧迫感が苦しい。 カーマインは男性だ。 しかし男の身体は、同性のものを絶対に受け入れられないようには出来ていない。 その中には快楽を感じる神経が通っている。 確かに在る。 「ぐ……!」 喉の奥で悲鳴を上げ、カーマインは懸命に耐える。 音を立てて裂けていく衝撃はその努力の上を軽く越えていく。 「あ! あ、……あ!」 当然、こじ開けるアーネストのほうにも負担がかかる。 それでも体格の違う人間を飲み込もうとするカーマインの方が辛い。 性行為の経験の差もある。 アーネストは言った。 「力を抜け……」 一度、進む動きを止めて、労った。 カーマインは涙を零して、言う通りにしようと何とか頑張る。 それでも力の抜き方が分からない。 異物の侵入によって、全身の筋肉が岩のようになっている。 制御できない。 「焦らなくてもいい。ゆっくり息を吸え」 海から上がったばかりのようにカーマインは息を吸い込んだ。 しゃくり上げてしまう自分を落ち着かせて、アーネストの目を見る。 「……辛いか」 問われて、首を横に振る。 「平気だ………」 長引かせるのも残酷な事だ。 アーネストは再び踏み込んだ。 「………ああっ!」 カーマインの細い身体が軋んでいく。 「ッ……」 戸惑いを越えて。 距離を消した。 カーマインが悩んでいたとおり、同性愛嗜好というものに反感を持つ者は世の中にたくさんいる。 それでも愛し合えるように身体は出来ているから。 結局の所、そのことに感謝するだけだ。 愛し合う者と身体を繋ぐ。 お互いの心がそれを求めるなら、悦びをためらうのは愚かな事だ。 アーネストが自分の悩みを笑い飛ばしたように。 カーマインも、自分の中の背徳を笑い飛ばす。 そんな迷いよりも、アーネストのことを愛していると気づいてしまったからには。 初夜が、終わろうとしている。 fin きゃー、やっちゃいましたー!!夕紀様のサイトで4000打を 踏み抜き「アー主の初夜」などという妄想にかぶれまくったリクをしてしまいましたー!! でもそんな自分に正直なところが自分らしいと思うの・・・!(殴)カーマインが初々しく、 アニーさんが男らしく!素敵であります!この二人はもう何ていうか性別とか超えてますよね(何が) 想いがあればいいみたいなところが好きですv悶えます・・・・!今後も是非カーマイン氏の艶を出す為に 頑張って下さいライエル卿(おい)ではでは、こんな素敵作品有難うございました夕紀様〜vvv Back |