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それは犬すら喰わぬ×××



「顔も見たくない」

ばっさりと、告げられた。
確かにそう言われるかな、とは思っていたものの。
実際に言われると精神的にダメージを受けるものだ。

いや、それよりも。
機嫌を損ねさせたなら、どうすればそれを修復出来るか考えなければ。
ただでさえ、仲睦まじいとは言えない仲なのだから。









「いかん、思いつかねえ」

本気で考えているというのに、良案が一つも浮かんでこない。
女性を口説く時には、何も考えなくたってスラスラ美辞麗句の一つや二つ、効果的な対処法も出るのに。
本気の相手に限って、何故何も出てこない・・・?

一つ、相手が女性ではない。
二つ、相手が素直ではない。
三つ、俺に信用がない。
四つ・・・・これ以上挙げるのはしんどくなってきた。

故に終いだ。

「・・・・・はあ」

どうしたもんかねえ、椅子に凭れ掛かり天井を睨みながら再度思案する。
時間が経てば経つほど、溝は深まってしまうだろう。だから、急がなくてはならない。本格的に嫌われる前に。
と、自分で自分を追い立ててみてもどうにもならない。

「・・・・あー、本当にどうするんだ俺。機嫌取りっつっても・・・」

プレゼント、は物欲のないあいつには意味がないだろう。むしろ媚びてると怒られる気さえする。
なら、誠心誠意謝ってみるか?聞き届けてもらえる可能性が辛うじて1%あるかないかなのに・・・?
というかもし何か言葉選びを一つでも間違えば、更に逆鱗に触れる事は想像に難くない。

「・・・・難儀だな」

何度目になるか分からぬ溜息を吐いて。
それでも何もしないよりはいいだろう、と。俺が貸し与えた部屋に引き篭もってしまった相手の下へ赴く。
頭の中では何度も謝罪の言葉を反芻して、余計な事は考えないように努めて。

「・・・・クレヴァニール?」

ドアを二回ほどノックして、慎重に声を掛ける。
当然と言うべきか返答はない。とはいえ、無断で室内に突入するわけにも行かないだろう。
眉間に寄る皺を揉みしだきながら、もう一度ドアを叩く。

「クレヴァニール、いるんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「まだ、怒ってるのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・開けてもいいか?」
「言わなかったか、顔も見たくないと」
「・・・・・・・・・・・・・・」

やっぱりいるんじゃないかと心中で思いつつ、一言だけ返ってきた言葉に更に息が詰まる。
吹雪の中にいるように、身体の芯が冷え、呼吸が侭ならない、気がする。何となく襟元を緩める。
そんな事をしても呼吸がスムーズになるわけでもないのに。コトリとドアに背を向けて寄り掛かった。
もう、長期戦も辞さない、そんな意思表示を込めて。

「・・・・・お前がいいと言うまで、いつまででも待ってるからな」
「迷惑」
「知ってる」
「余計に悪い」
「それも知ってる」
「・・・・・・・開けないからな」
「それでも待ってる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ドアに隔たれた室内から、僅かに苛立たしげな吐息が漏らされたのが聞こえる。それは中のクレヴァニールが
そうと意識したものなのか、それとも単に俺が地獄耳なのかは分からないが。自分の白銀の髪を預けた木目に
擦り付けるようにして、中の物音を拾う事を意識した。どうせそれしかする事もない。



◆◇◇◆



それからどれだけ時間が経ったのか。精神的ではなく、夜の冷える廊下に立ち尽くしているせいで
足元から冷たくなる身体とコチコチと静寂な中だからこそ響く時計の針の音にそんな事を思う。
まあ、相手は素直でない上、強情だからこうなる事は初めから目に見えてはいたのだが。
言葉の遣り取りがないせいか、余計に長く感じてならない。とはいえ、待っていると言ったのだから自分から
それを反故するわけにはいかないだろう。

「・・・・・・・ふう」

飲み込んでいる言葉を吐き出すように息を漏らし、背を向けている扉の内側に意識をやった。
そっちがその気なら、俺だって意地になってやる。妙な対抗意識を持って。
それから数時間が経った。長い長い時間。そして漸く、クレヴァニールは動いた。

「・・・・・入ってくれば」
「いいのか?」
「いつまでも・・・そこにいられちゃ迷惑だ。寝れないし」

気になって、と本当に蚊が鳴くような、いやひょっとしたらそれよりも小さな声でクレヴァニールは言う。
素直じゃないなぁと思いつつ、可愛いと思ってしまう俺も俺で変なのかもしれない。手のつけられない女好きが男に
転んだ時点で充分おかしいのだが。まぁ、それはそれとして。折角心を開く気になってくれたクレヴァニールの
気が変わる前にと、鍵が外されたドアノブを捻った。



◆◇◇◆



「・・・・・・・・・・・」

心を開く気に・・・なってくれた?

それはどうやら思い違いだったらしい。部屋に招き入れてくれたものの、クレヴァニールは言葉通り顔を見せては
くれない。俺に背を向けたまま、こちらを向く素振りは一切ない。緋色の燃えるような髪だけが目前に広がって。
強情さもここまでくれば賞賛に値するだろう。思わず拍手をしてしまいそうだ。実際にはしないが。

何故かって?


・・・・・・・・・・・・・殴られるからだ。

我ながら悲しい答えだ。目に涙が溜まってきそうになる。というかもう溜まってるかもしれない。
視界の緋色が僅かに滲んできた。そうなれば、彼がこっちを向いてなくてよかったと思う。幾らなんでも情けなさすぎる。
後ろ向き万歳!・・・・・いや、そこで万歳する意味が判らん。どうやら相当動揺しているらしい。
ノミの心臓かって。いやいや、そんなの俺らしくない。それ以前にこのまま黙ってると、どんどん自分が壊れていく気が
してならない。よぅし、男クリストファー、気合を入れろ。ここで頑張らなきゃ男が廃る!

なのに。

「く、クレヴァニール・・・・」

どもったぁぁぁぁーーー!!
バーカ、俺のバーカ!!ここでどもるか普通!こーのノミの心臓、ノミの心臓ーー!!
あー、自分を罵り足りねえ!何だそれ、まるでマゾヒストじゃねえか!
どっちかって言うとサディストでありたい!いや、違うそんな事じゃなくて。
今優先すべき事は。

「クレヴァニール、さっきはすまなかった」
「・・・・・・・・・・・何が」
「だから、その・・・・お前が寝てる間に・・・キスしたのは悪かったと思ってる」
「へえ?」

返って来る声が、いつもの倍くらい低くて冷たい。顔が見えない分、余計に恐ろしい。いっそ、女性のように
ヒステリックに怒ってくれた方がよほどマシだ。

「・・・・俺、前にも同じ事しやがったお前に言ったよな?次はないって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

無意識なのか、言葉遣いまで悪くなっている。振り向かない背中からは触れたら一瞬で凍り付いてしまいそうなほどの
冷気が発せられているようにすら感じる。人間ブリザード?いや人間氷河期・・・・どっちでもいいか。
とにかく冷たい。きっと雪女より冷たい。

「何か、言う事はないのか?」
「は、いや・・・あのだな、決して出来心とかそういうんじゃなくて・・・」
「出来心じゃなくて・・・何だ?」
「だから、お前の寝顔がその・・・可愛かったからだなぁ・・・」
「可愛いって言ったら殴るって前に言わなかったか俺」
「う、だっ・・・・じゃあ何て言えってんだ?!」

弁明を、ろくにさせてくれないクレヴァニールに思わず荒げた声が出てしまう。その際、ピクリと目の前の細い肩が
動いた。その上のこれもまた細い首が小さく左右に振られる。何だと訝しむ間もない。

「この顔を見てもまだ可愛いなんてほざけるか?」

今まで聞いた中で一番低い声がしたかと思えば、クレヴァニールがゆっくりとこちらを振り返った。
そして絶句する。いつもは例え怒っていても可愛らしさが残る綺麗な顔が、般若と見間違うほどに歪められていて。
ひっ、と悲鳴を零しそうになるのを唇を噛み締めて何とか堪えた。しかし指先の震えは流石に止められない。

「どうしたクリス?顔色が悪いじゃないか」
「あ、あのなクレヴァニール。お前はそのほら・・・笑った方がかわぃ・・・じゃなくて・・・素敵だよ?」
「へえ、それはどうも」
「だ、だからその表情は止めないか?折角の素敵な顔がそれじゃあ」
「台無しだって?」

目が、全く笑ってないのに間近で微笑まれては恐ろしくて仕方ない。顔を背けてしまいそうになる。
愛しい相手の顔なのに、だ。

「クレヴァニール、話せばわか・・・・」
「お前とは口も利きたくない」
「・・・・・・何でだよ」
「・・・・お前はいつも口先ばかりだ。本気という奴を一切感じない」

もしも寝込みを襲ったのに本気を一欠片でも感じれば、許してやらない事もなかったのにと黒いルージュの塗られた
唇が動くのを見て、はっとする。クレヴァニールは怒っていたのではなく、自分を試していたのではないだろうかと。
俺は少なくとも、彼の目に軽薄に映っていただろう事は知っていた。だから彼は俺の言葉をなかなか信じてくれないのだと
分かってはいた。それなのに、俺は本気になるどころかいつもそれでは仕方ないと諦めてばかりいた。
それが、ひょっとすると今までクレヴァニールを苛つかせていたのではないだろうか。
そこまで推測すると、自然と手が出ていた。

「クレヴァニール!」

俺を避けてベッドに寝に行こうとする腕を必死で掴んだ。必死すぎて手加減が出来ないほどに。
全く、余裕がない。どんな姫君の前でもこんな態度を俺は取った事がない。本気になった事が、ない。
今思えば、俺はなんて嫌な男だった事だろう。どれだけ女性を泣かしてきたのだろう。推測すら、叶わない。
けれど、今掴んだこの腕だけは離したくない。

「クレヴァニール、俺が悪かった・・・軽率だった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも聞いてくれ。俺は適当な気持ちでいつもお前を好きだと言ってるわけじゃない。簡単に口付けたわけじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺は・・・こんなに余裕がない自分に正直戸惑っている。お前にいつも好きだと言ってないと落ち着かない。
お前が嫌がる姿を見るのが嫌で、眠ってる時にくらいしかキスも出来ない。卑怯で、軽薄なのは分かってる。でも!」

でも、何だ?俺は何を言おうとしている。
これでは自分の格好悪いところを全告白しているようなものだ。
嫌われるだけじゃないのか?俺がもし女だったらこんな事を言うような情けない男は御免だ。
なら、クレヴァニールはどう思う。答えは簡単だ。

「・・・・・・ったく」
「・・・・・・・・・・・・・?」
「お前はホント、駄目な兄貴だよ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ずきりと胸に刺さる。
その言葉は、俺がアルフの死に目に漏らしたそれだ。
自分で言った事なのにクレヴァニールの口から出ると、心臓を刺し貫かれたように痛い。
白い手首を握る指先の力が、抜ける。クレヴァニールはきっと振り払って、先の通りにベッドへ潜り込むだろう。
俺を見損なって。

そう、思うのに。

「・・・・そんなに駄目っぷり全開じゃ、俺が見ててやるしかないじゃないか」
「――――え?」

思ってもない言葉が寄越されたかと思えば、次の瞬間。
マヌケにも口を開けた俺のそれを柔らかで温かいものが塞ぐ。

「・・・・・・・・・!??」

俺の、思い違いでなければそれはクレヴァニールの唇だ。いや、夢でも見ていない限り間違う筈もない。
では夢なのか、あまりにも自分に都合のいい。それにしては触れる熱も、柔らかさもリアルすぎる。
なら、夢ではないのだろう。そう判断した刹那、俺は緩めた指先の力を再び込め、それから間近にある緋色の
髪へと指を滑り込ませ、塞がれた口を逆に塞ぎ返した。

「・・・・・・んん?!・・・・んむぅ、ん、ん」

驚きと共にぴったりと自分のそれを覆い被せてやったクレヴァニールの唇から甘い呻きと熱い吐息が零れた。
内心にやりと笑って、逃げ惑っている小さな紅い舌を執拗に追い回して絡めとる。そのまま吸い上げてやると、
俺を突き飛ばそうと突っぱねていたらしい腕から抵抗が削げ落ちていく。諦めたわけではないだろう。
恐らく酸欠で、いやそれとも快楽で、だろうか身体中から力が抜けているのだ。

可愛い。

声にはせずに、ただ口付けを貪る。
飽きるほど、深く堪能して漸く解放すれば、クレヴァニールの白い面は朱に色づき、常は強い採光を放つ
黄金色の瞳はただ頼りなく、潤んでいる。本人からすれば、睨んでいるつもりなのかもしれない。
現に眉は寄せられながらも上に釣り上がっている。それでも整わない息が、表情がそれを覆していた。

「そんな表情で、煽るなよ」
「・・・・・は?」
「声、掠れちまってるし。全然、迫力ないぞ・・・・そんなに気持ちよかったのか?」
「・・・なっ、調子に乗る、な・・・・・ッ」

顔を近づけて、目と鼻の先で。
もしかすればあの時・・・アルフの死に直面した時よりも真摯な目でクレヴァニールを見遣る。
それだけでクレヴァニールは小さく息を飲んだ。

「・・・・・俺の本気が見たいんだろう?」

悪戯な笑みを浮かべて、耳元に声を直接落とせば、今度は震える細い愛しい身体。
今まで相手にした女性の誰よりも初心で可愛らしい反応。容易く男心を揺さぶられてしまう。
男相手に、と思うと変な感じだがまあそれは置いといて。

「お前にだけは俺の本気、全て隠さず見せてやるよ」
「〜〜〜要るかっ」

フイと顔を逸らされても、吐き出される言葉が可愛くなくても。
染まった頬が、無意識にか俺の服の裾を掴む指先が、張られた虚勢を否定する。


本当、嘘の吐けない可愛い奴だよお前は。



◆◇◇◆



「・・・・せ、馬鹿」

ベッドまでそれはそれは紳士的に運んでやったというのに。
細身がシーツに沈み、その上に俺が覆い被さろうとすれば、組み敷いた身体はじゃじゃ馬宜しく暴れた。
それでも先ほどのキスの余韻か、まだ力が入らないらしい細い腕によるそれは容易く押さえつけられる。
いつもナメられている事だし、ここいらで本当に本気を出しておいた方がいいのかもしれない。
今後の自分への待遇改善を祈って。

「無駄だ、クレヴァニール」

耳元へ囁いて、嫌そうに避けられる耳裏をぺろりと犬猫がするように舐め上げれば、びくんと身体を大きく
揺らして、頬に瞬間的に朱を走らせるクレヴァニール。信じられないとでも言うかのように涙を滲ませ見開かれた
金の瞳は愛しいとしか言いようもなく。小さく笑ってその僅かに染まった目元へと唇を寄せる。

「・・・・・ぁ」

たったそれだけで、びくびく震えている彼はまるで、何も知らない、箱庭で丁寧に真っ白に愛しまれ
育った姫君のようで。妙な背徳感が背筋を奔るのと同時、酷く惹きつけられている自分がいて。
誘われるように、白いシャツへと手を掛ける。

「ば、やめろ!何する気だ」
「何って・・・・脱がせなきゃ何も出来ないだろうが。それとも服を着たまま、がお好みかい?」
「なっ・・・そ、・・・なわけある、か・・・ぁ!」

腕を振り上げて俺を殴ろうとしているのが横目に窺えて、先手を取るように開いた襟元から覗く首筋へと
吸い付けば、宙に浮いていた手は止まる。そのまま首筋を辿ってくっきりと浮かび上がる鎖骨に舌を這わすと
拳の代わりに押し殺そうとしている甘い声が上がった。

「・・・・ん、・・・ゃ、ぁ・・・・・」
「・・・・・・随分、可愛い声上げるじゃないか」
「な、・・・だと、この・・・変態馬鹿がっ」
「って!」

憎まれ口と共に、油断して押さえていなかった脚で以って男の命である腰を蹴られた。
丁度骨の部分に当たったのか、かなり痛い。やってくれたな、と意趣返しというわけでもないが、これ以上
蹴られては堪らないので、大人しくなるように片脚でクレヴァニールの脚を押さえつけつつ、もう片方の脚で
早々に男なら誰でも感じざるを得ない箇所を嬲る。

「ひ、ん・・・・おまぇ、それ・・は卑怯・・・んぁっ!」
「卑怯で、結構」
「・・・っく、・・・・・・・っ」

ぐったりと。弱点を責められている身体は、今までの勢いはどうしたのかと言うほど消沈して。
されるが侭に投げ出される。その隙に、指に掛かっていたボタンを外してシャツを肌蹴させ、露になった薄い胸に
口付けを落とした。汗でしっとりとした肌は、ほんの少し齧りついただけで、紅い華を咲かせる。
それがどうにも艶やかで、あらゆるところに痕を刻みたい衝動に駆らせた。その思いの侭に顔を動かす。
その間も脚の動きは止めず、クレヴァニールはどちらに集中すればいいのか分からないと、そんな表情で
ぱさぱさとシーツに髪を擦り付けながら首を振る。

僅かに苦しそうなその表情は艶かしく、けれど早く楽にしてやりたいという庇護欲も掻き立てて。
口の先を胸の頂に移動させつつも、服の上から辿るだけだった下肢への愛撫を強めようと、クレヴァニールの
レザーパンツのベルトを外し、下着ごとそれを脱がしに掛かる。しかし。

「あ・・・や、馬鹿、やめろ!」

下衣が脱がされそうになるのが分かったのかクレヴァニールは必死の体で身を捩らせる。爪先に纏わりついた
シーツを派手に掻き混ぜた。それでも全力で抵抗しているとは思えない肢体を力尽くでベッドへ縫いつけ、
胸の突起を強く吸い上げた際、緩んだ抵抗を掻い潜り、脚に絡んだ布を取り払う。

「!」
「おっと」

全部服を脱がされた羞恥から逃れようとクレヴァニールが脚を閉じようとしていたが、それよりも前に
既に上向いて反応していた彼の雄を握りこんで制する。今まで感じた事のない刺激だったのかクレヴァニールは
いとも容易く押さえつけられた。そんな可愛らしい様を目に焼き付けつつ、手のひらに包んだものを緩く扱き上げる。
やがて蜜を滲ませて濡れ出すそれに愛おしさは海のように広く、深く溢れるまでに込み上げてきた。

「んくっ・・・・や、め・・・・・」
「それは、無理な相談だ。それに・・・」

ここで止めたらお前がつらいだろう?
もう白い部分など見えぬほどに紅く染まったクレヴァニールの耳に囁きかけるとキッと鋭い視線が寄越されるが
熱に潤んだそれでは迫力一つない。

「んな、可愛い顔されちまうと抑えが利かなくなるだろ、が」

若干自分自身も余裕がなくなってきて、時折キスを交えながら上半身を唇と舌とで愛撫し、天を向くクレヴァニール
自身を扱いていた濡れた指先で更に奥に隠された蕾を探る。入り口に軽く触れるだけでひくりと蠢く可憐な場所に
傷をつけないよう、細心の注意で以って指を埋めていく。

「んぐ・・・・っぅ・・・・」
「痛いか?」

苦痛に滲んだ吐息を耳に捉えて、上気したクレヴァニールの顔を見遣れば、頬を涙が伝っている。
それをすまなく思いながら、舌先で拭う。労わるように瞼に、頬に口付けて小さく首を傾げれば、クレヴァニールは
照れを隠すように横を向きつつ、瞳を伏せた。明確な言葉はない。けれどそれが彼なりのお許しだろうと
判断して、蕾を掻き混ぜる指先を意識する。ゆっくりと、慌てず慎重に。

「挿れるぞ」

一言。慣らしていた指を抜いて。そんな小さな刺激にすら敏感に反応する肢体を労わりながらも
腰を掴んで、押し入った。

「ぃ、あぁぁぁっ・・・っくぅぅ」
「・・・・・・・・ッ」

悲鳴、なのか嬌声なのか。判断出来ぬほど、自分の頭の中に靄が掛かる。心地良さに。
行為自体は初めてでも何でもないのに。今まで自分がしてきたそれと大分違うような気がした。
快楽を貪るためでなく、愛しさゆえに口付ける。こんな自分は知らない。まるで自分じゃないみたいに。


深く、溺れて。

お前にしか、見せない俺の本気。


絶頂を迎える最後の一瞬。
「どうだ」と呟いた俺にお前は微笑ったか―――?
いつも怒ってばかりの癖に。

それはまるで犬も喰わない・・・・。
言葉にするのは、何だか変な感じだ。

だから。


今はただ。

柔らかな夢に―――沈む。

目覚めた後にまた始まる、騒々しいそれを迎えるまで。



fin



83333打、クリクレ裏なんとかアップです!
・・・・・がもうギャグなんだかシリアスなんだかエロなんだか。
どれかに絞れというカオスな内容ですみません。
しかもオチつけようと思ってオチつけるの忘れてました(爆)
こんなんじゃ許されないわよ!と思われるようでしたら是非ともリテイクを
お願い致します、雌株様!リクエスト有難うございましたー(逃げたよ)



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