スキ キライ スキ キライ・・・・・・スキ。 花占いは好きを示した。 我慢ならずに触れれば、優しく頭を撫でてくれる。 キスだって、時々だけどしてくれる。 でも、それだけじゃ足りない。 ・・・・・・ねえ。 ―――欲しがりはいけない事ですか? 欲しいもの一つだけ、なんて嘘 好き、は不思議。 今までの自分がまるで全部嘘だったみたいに変わっていく。 それまで目隠しでもしていたのではないかと思うくらい、好きを知ってから世界が明るく見えて。 寂しかったり、切なかったり、でもそれ以上の嬉しい、と幸せを感じられるようになって、心が動く。 心が動けば生きている実感もより強くなる。生かされている、ではなく生きている実感が。 それはきっと、生きる意味を見失いかけていた俺にとって、とても喜ばしい事。 けれど同時に自分の存在を揺るがしかねないほどの不安も胸に募っていく。 その不安とは――― ◆◇◇◆ 「ギャリックはやっぱり女の子の方がいいんじゃないか、ですって?」 コポコポと静かにカップへと紅茶を注いでいた手を止めてルーファスは碧眼を瞠った。 目前の正対色の瞳は真剣そのもの。冗談でも何でもなく、彼の告げた言葉が本心だと知れる。 どうやらこのゼオンシルトという青年は、自身の恋人であるギャリックの事を少なからず疑っているらしい。 否、疑っているというよりは自分に自信を持てずにいる、といったところだろうか。 何にせよ、ギャリックがゼオンシルトにベタ惚れ状態である事を知っているルーファスはこのまま誤解させていたのでは ギャリックが不憫だと思い、左右に軽く首を振った。 「ゼオン君、私が言うのも何ですがギャリックは貴方の事を相当好きだと思いますけど?」 「・・・・・・どうしてですか?」 「・・・・貴方はこちらに来る事があまりないですから知らないでしょうが、普段のギャリックはいつも貴方を気にしています。 あれで中々格好つけですから、貴方の前ではそれを表に出さないようにしているんでしょうけど」 素直じゃないですねぇ、とぼやきルーファスは一度は止めていた手を動かし、相談に乗って欲しいと突然訪れてきた 客へと丁寧に茶を淹れた。じっくりと蒸らした紅茶の香ばしい香りが軽やかに鼻腔を擽る。いい匂いだ。 身体の芯を蕩かすような甘く温かいそれに、緊張を露にしていたゼオンシルトも僅かに肩を落とす。更に絶妙な タイミングでヨーグルトを生地に練りこんだ焼き立てのスコーンを茶請けにと差し出され、細い指先は途惑い気味に 素朴な焼き菓子へと伸び、それを受け取った。 「・・・・・美味しいです」 「そう、良かった。私は甘いものは苦手なんですがこれなら食べれるのでよく買い置きしてるんです」 「・・・・ルーファス大尉、甘いもの苦手なんですか?」 「ええ、昔は好きだったんですが・・・この顔でしょう?甘味を食べていると女みたいだとよくからかわれて・・・。 反発のつもりで甘いものを断っていたらいつの間にか苦手になっていました」 苦虫を噛み潰したような渋面が告げた内容にゼオンシルトは悪いと思いつつも少しだけ笑ってしまった。 特別内容が面白かったというわけではなく、ルーファスの苦々しい表情が何だか彼らしくなくて面白かったのだ。 それを分かっていてルーファスはフッと細い息を吐く。 「人の顔を見て笑うのはあまり感心出来ませんね」 「あ・・・ごめんなさい」 「別に怒っていませんよ。変な顔をした自覚もありますし。それにしても貴方は随分と素直ですね」 ぽすぽすと柔らかな髪の弾力を確かめるように撫でながら告げられた言葉にゼオンシルトは首を捻る。 素直だとは、割りとよく言われるが本人はそうだとはあまり思っていないようだ。 否定の意を示し、首を振る。 「俺、別に素直なんかじゃないですよ?」 「そうですか?ギャリックに比べれば相当素直な部類に入ると思いますが」 「全然・・・だって俺、本当は言いたい事あるのに言えないし・・・して欲しい事もあるのにやっぱり言えないし・・・」 口の中でもごもごと言葉を濁らせるゼオンシルト。しかしルーファスには彼の意とするものが察せられた。 恐らく相談したい内容というのもそれだ。彼はきっとギャリックに何か言いたい事、もしくはして欲しい事があるが それをどうしたら上手く伝えられるかをギャリックの親友たるルーファスに尋ねたいのだろう。そう結論付けると途端に 目前でもじもじしている青年が可愛く思えてルーファスは目を細める。ああ、いいなあこれ。自分のだったらなぁなんて 不穏な事を考えながら。しかしあくまで考えるだけで奪おうとは思わない。それが親友としての義理であり義務のはずだ。 「ねえ、ゼオン君」 胸中に沸いてくる決して美しいとは言えない感情を悟らせる事もなく、ルーファスはゼオンシルトに呼びかける。 無垢で大きな紅い瞳が鉄壁の微笑に一心に向けられた。その直向きさは一種の途惑いを覚えるほど。 流石はあのギャリックを陥落させただけの事はある。彼の親友である率直な感想。飲みかけの紅茶を皿の上に戻し、 目の前の相手の様子を尚も窺いながらルーファスは声を繋ぐ。 「貴方はギャリックにどうして欲しいのですか?私に相談したい事とはそれなんでしょう?」 「・・・・・・・はい。あの・・・・こんな事を言ったら変に思われるかもしれないんですが・・・・」 「何でしょう?」 よほど言いづらい事なのか、ルーファスの促しにゼオンシルトは眉間に皺寄せた。 きょろきょろと視線が動き、腿の上で組まれた指先が忙しなく動いている。それでもじっと待つルーファスが気に 掛かったのか一つ息を吐いて一度は閉じた口を再び開いた。 「あの・・・俺、ギャリックを疑う気なんてないですけど・・・・・ギャリックは後悔しちゃってるんじゃないかなって」 「・・・・・・?何をですか」 「えっと・・・だから、その・・・・お、俺と・・・・・しちゃった事・・・」 「しちゃった?・・・・・・ああ、つまりセック・・・」 「わあああ!!」 ルーファスの口から出かかった言葉をゼオンシルトは全力で押さえに掛かる。あからさまに動揺しきり、頬といわず 耳まで朱に染めたその様は愛らしく、息も出来ぬほどに口を押さえつけられるという状態にありながらルーファスは その瞳を微笑ましげに眇めた。ゆっくりと口元に張り付いてくる細い指を剥がし、小首を傾ぐ。 「何を恥ずかしがる事があるのです?肉欲は誰にでも・・・特に若い男子はより顕著に現れるもの。 公衆の面前でなら分かりますが、私一人の前でまでそれを隠す必要もないでしょう」 「そ、それはそうかもしれませんが・・・・。あの、以前から思っていたのですがルーファス大尉は 少し人より羞恥心というものが薄くないですか・・・・?」 失礼かもしれない、と分かった上での発言は緊張の為かやや掠れ気味だった。ああ、きっとこういうところも ギャリックに気に入られる要因なのかも知れない、ルーファスは思う。ああ見えて清楚可憐で可愛らしい子に弱いから。 このゼオンシルトという青年から醸し出される清らかな雰囲気は彼の頑な心さえ動かすのだろう。ルーファスすらも。 協力してやりたいと真剣にゼオンシルトの言葉に耳を欹て応えを返す。 「ゼオン君、確かに私は貴方の言うとおり羞恥心というものが人より少し薄いのかもしれません。 いえ、薄いというよりは私にとっての恥というものが他人より限定されていると言うべきでしょうか・・・・」 「・・・・・・・・・?」 「難しい事ではありません。私は仲間を平気で裏切る事、そして己の過ちを認めぬ事以外を恥と思っていません」 だからそれ以外の事を恥ずかしがる事は基本的にないですと言い切る優男。事実そうなのだろう。 ルーファスは無意味に嘘を吐いたり誇張したりする人間ではない。それは悠然と足を組み、口元に笑みを浮かべている 様からも伺い知れる。ゼオンシルトはルーファスの言い分にこくりと頷いた。 「・・・それで・・・話は逸れましたけど・・・ギャリックはやっぱり後悔してると思うんです」 「何故そう思うのでしょう?」 「それは・・・・俺がクイーンを倒しに行く前日に一度したきりで・・・・それ以来してくれないから・・・」 俯き加減のゼオンシルトの言葉にルーファスは僅かに目を見開く。それもそのはず。ゼオンシルトとギャリックは 普段から見ている方が照れを感じるほどに仲が良いというか全力でバカップル要素を垣間見せているというのに、 情事は一度きりなど信じろという方が無理があるくらいだった。けれどルーファスがそうなようにゼオンシルトもまた 無意味な嘘は決して吐かない。つまりそれは事実という事で。 「・・・・・ギャリックは一体何をしているのです・・・・」 思わず口に出していた。一度は手を出したくせにそれ以来何もしないなんて、ゼオンシルトではないが確かに気持ちを 疑いたくなっても仕方のない事だろう。けれどどうだろう。ギャリックに浮気なんて器用な真似が出来るわけもない。 そんな事をしようものならすぐに顔に出るだろうし、それ以前にきっと別れを切り出すに違いない。ギャリックとは 今時珍しいくらい潔い男なのだから。ならば考えられる事は一つ。 「・・・・これはあくまで推測ですが・・・。ギャリックは言葉こそ乱暴ですが、生まれが高貴なだけに紳士です。 そして大事な者はその命を賭してでも守る性格・・・。情事はどう気をつけても受け手に負荷を与えるもの。 故に貴方を傷つけぬよう自制をしているとしか思えません。浮気なんて出来る人じゃないですし」 「・・・・・・そう、でしょうか・・・・・」 「それ以外考えられません。私は私なりに彼を尊敬していますし、理解しているつもりです。 彼はラゼリオンという一族の中で腐らず、強い花を咲かせてきた人ですから・・・・」 ギャリックの親友たる青年の声をしっかりと拾っていたゼオンシルトは『ラゼリオン』という耳慣れぬ単語に 首を傾ぐ。語尾に一族とつくからにはそれは姓名なのだろう。そしてその主語はギャリック。という事は。 「ギャリックの家名はラゼリオン・・・?」 「おや、ご存じなかったのですか?そう、ギャリック=ラゼリオン。それが彼の名です。 ついでに言うと代々グランゲイル王家の側近で王族の血を多少ながら引いてるんですよ。 だから彼にはまだ大尉という立場であっても王に対し発言力があるわけです。スレイヤーという事もありますが」 「そう・・・・なんですか」 知らなかった事を知れた喜びと、その知ってしまった内容の大きさにゼオンシルトは眩暈を覚えた。 つまり、ギャリックはこのグランゲイルという国に於いて非常に重要な人間だという事だ。そんな事は初めから 分かっていたつもりだったが、違う。自分が思っていた以上の存在の大きさ。下手をすれば王になる事だって 出来るかもしれない立場にあるのだから。 「・・・・・・・・・・・」 「どうしましたか?」 「・・・・いえ、ギャリックがそんな立場にいるなら益々俺なんかといていいのかなって・・・」 「確かにギャリックはこの国に於いてかなり高い地位にいます。それ故彼に取り入ろうと近づいてくる人間も少なくない。 しかし彼はそんな輩に取り付く島も与えない・・・逆に一度懐に迎え入れた人間を彼は決して裏切りません。 貴方は大事にされているはずです。それに・・・ギャリックは王位継承権を永久放棄していますから・・・」 軍人として昇進する事はあっても、王位につく事は未来永劫ありえないと告げられてゼオンシルトはほっと息を吐いた。 そして同時に胸がざわめく。どうしてギャリックは自分にこの事を話してくれなかったのだろうと。 信用されていないんじゃないか。思うと自然と眉間に皺が寄る。 「・・・・・ゼオン君。ここで私が推測を述べる事は幾らでも出来ます。けれど・・・本心は本人に聞くのが一番です」 「それは・・・分かっています。でも、話してくれないかもしれないと思うと・・・・」 「彼が意図して話さないというのなら・・・簡単には教えてくれないでしょうね。でも・・・・」 一度区切ってルーファスはにこりと笑う。 「何か?」 「いえ、流石のギャリックも酔ってしまえば、口が軽くなると思いますよ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「卑怯、とでも思っているのですか?ですが使える手は何でも使う・・・それがグランゲイル流ですから」 言うとおり、戦争中のグランゲイルは多少倫理的に問題のある事でも成果があるなら堂々と行っていた。 例え卑怯な手であろうとも引っかかる方が悪い、という考えなのだろう。 「とはいえあんまり飲ませても怪しまれてしまいますからね。これをどうぞ」 「・・・・・・・・?」 「アルコール度の低い酒でもすぐに酔いが回るようになる薬です」 手渡された小瓶の中身について説明され、ゼオンシルトは途惑う。まず何故ルーファスがそんな薬を持っているのか。 次にそれを使ってしまって問題ないのか。じっと小瓶を見つめながら紅い瞳が目の前の青年を上目遣いに伺う。 声に出さずとも何を考えているか想像するに難くないゼオンシルトにルーファスは笑み。 「これはグランゲイルの将校なら皆持っている安全の確認されている薬です。身体に害はないですから大丈夫ですよ」 「どうして将校さんがそんな薬を持っているんですか・・・・?」 「主に情報収集と部下の心情把握を目的に開発された薬です。相手の酒に盛れば酔いが早まる・・・。 酔えば普段は隠れている一面が浮き彫りにされ、上司に抱いている不平不満を漏らす事もあります。 まあ、多少の愚痴で罰する事はありません。ただ殺意や軍の離反を零すようなら懲罰を与える事もありますが」 不穏分子は味方であろうとも早めに刈り取る。それがグランゲイルの掟。一見酷い掟に見えるが、結果的に 被害を最も少なくする事が出来る。グランゲイルと平和維持軍とは大分その考え方も在り方も違う。 ゼオンシルトはそれを改めて痛感した。 「とにかく、不安というものは相手の事を知らないから起きる感情です。怖がらずに聞いてみなさい。 相手の事を知ればきっと、もっと近づく事が出来ますよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」 暫しの間の後、ゼオンシルトは頷き礼を言うとルーファスの部屋から姿を消す。 蜜色髪がドアの隙間から見えなくなると部屋主の青年はソファへと頭を預け、ほんのりと淡い好意を抱く青年と 大事な親友が今よりもっと幸せになってくれる事を祈って静かに目を閉じた。 ◆◇◇◆ 散々悩んだ挙句、ルーファスの言うとおりに土産と称して彼が用意してくれたかなりレアなブランデーに例の 酔いが早くなる薬、とやらを数滴混ぜたそれをギャリックに差し出すと、彼は疑う事もなくグラスに口をつけた。 それだけ自分の事を信用してくれているのだと思うと胸が痛んだがゼオンシルトは黙ってそれを見つめる。 しかしその視線に気づいたギャリックは、何とも言えぬ表情のゼオンシルトの顔を間近で覗き込み。 「どうした、お前も欲しいのか?」 低い男らしい声が耳のすぐ傍に落ちてきて、ゼオンシルトは頬を朱に染めた。こんなにすぐ近くにギャリックの顔が あるのも随分と久しぶりで。整った容貌を惚けたように見下ろしていれば、応えが返らない事を不審に思った ギャリックがむにっといつもするようにゼオンシルトの柔らかな頬を抓る。 「・・・・ッ、いひゃい」 「目ぇ、開けたまま寝てんのかと思ったんだよ」 「それにしたってもっと確認のしようがあるでしょ・・・」 引っ張られていた頬から指が離れるとゼオンシルトはそこを擦る。多少は加減してくれているんだろうが ギャリックは元々の力が強いのでそれでも痛いのだ。恨みがましく睨みつけてる間にもギャリックは更にグラスを煽る。 このくらいじゃ酔わないという自信があるのだろう。ただのブランデーであれば、の話だが。 「・・・・・・?」 「どうしたの、ギャリック」 「いや・・・思ったよりこの酒強いのか・・・?何かいつもより酔いが早いような・・・」 グラス一杯を空にしたところで異変に気づいたギャリックは首を傾ぐがもう時既に遅し。薬のおかげで酔いが回って きたらしく、白かった頬に赤みが差す。それからキリッとした瞳も何処となくぼんやりと滲んできている。 理性を保とうとしているのか眉間に皺を刻み、額を指で押さえているが酔っているのがもう目に見えてきていた。 少し心配になって伸ばしたゼオンシルトの指先を拒む事もなく、受け止めて頬を撫でられる感触に目を細めている。 「・・・ギャリック、大丈夫・・・?」 「・・・・・ああ、少し酔ってるだけだ。最近飲んでなかったからな・・・弱くなったか・・・」 「じゃあ・・・もう休む?」 僅かに期待を込めてゼオンシルトが問うとギャリックは小さく首を振った。 「・・・お前に悪い。少し待て。回復したら送ってやる」 「・・・・・・・ッ・・・・・泊まりたい、って言ったら?」 その返しは予想していなかったのか真下の紅い瞳が大きく見開いた。まじまじと不思議そうに同色の瞳を 見上げ、その真意を探ろうとする。けれど切なげな表情を乗せるそれは目に毒で。ギャリックは不自然でない程度に 目を逸らした。支える事も侭ならなくなってきた大きな肢体をソファの背もたれに寄りかからせ、ゼオンシルトを 今度は横目で見た。 「・・・・・泊まりたいなら、客室を空けるよう言ってきてやる。どちらにしろ少し待て」 「どうして?ここにいたら迷惑?俺の事・・・・嫌いになっちゃった?」 か細く矢継ぎ早な問いにギャリックは困ったような顔をした。図星、だったのだろうか。とても早い勢いで ゼオンシルトの心中を不安が駆け巡る。けれど。 「違う」 すぐさま強い否定が返って来る。 「じゃあ、どうして?」 更に重ねて尋ねると答えたくないのかギャリックは首を振る。けれど酔っているせいかいつもに比べれば否定が弱い。 片方だけになったピアスが耳元でチリチリ金属音を奏でる。 「・・・・ギャリック」 真摯な声音。ゼオンシルトが本気で答えを欲しているのが分かる。ずっと黙っていようと思っていたギャリックも たがが外れてきて、もういいかという気になってきた。ぎゅっと引き結んでいた口を開き。 「・・・・・前にも言ったろう。俺は、男だ。お前にあんまり傍にいられると・・・・手が伸びちまうんだよ」 「・・・・・・それが、どうして駄目なの?」 「どうしてって・・・・お前は抱かれてもいいって言うのか?身体は痛むし・・・プライドも傷つく」 俺はそれを強要していいわけがない。そう言ってギャリックは自分の顔を手のひらで覆う。 あの日、終わったあと考えていた。自分のした事の意味と大きさを。される側が自分だったらどう思ったろうと。 相手の事が好きなのだから何をされても嫌とは思わなかったが、やはり男に生まれた以上受け手にされれば 多少なりと自尊心に傷がつくのではないか、その答えに辿り着いた時ギャリックは酷く後悔したのだ。 ゼオンシルトの方から望んだのならともかくあの時自分の気持ちを優先してしまった。ゼオンシルトも同意したとはいえ、 本当に心のうちから同意していたとは限らない。だから、ギャリックは自分への戒めも込めてそれ以来ゼオンシルトに 深く触れようとはしなかったのだと、時折言葉に詰まりながらゼオンシルトへと告げるとそれを聞いていた 青年はぎゅうと力の限りギャリックの背へと腕を回し抱きついた。 「・・・・・・ゼオンシルト?」 「ゼオンでいい。それに俺は・・・嫌だなんて思ってなかったよ。ギャリックに触れられて・・・嬉しかったんだよ?」 「・・・・・・・・ゼオン」 「一緒にいてくれるって・・・嫌って言っても離さないって言ってくれて・・・凄く嬉しかったんだ。 だけど、ただ一緒にいるだけは寂しい。キスだけじゃ足りない。もっともっとすぐ近くで触れて・・・触れられたい」 胸の辺りに擦り寄ってくる丸みを帯びた稜線が主人に甘える子犬を髣髴とさせ、険しい顔をしていた ギャリックはうっすらと口元を緩ませた。ああ、きっとこの腕の中にいる生き物は自分が考える以上に純粋すぎるのだ。 自分の言っている事の重大さも本当はよく分かっていないのかもしれない。それでも傍にいたいという真摯な 願いは痛いほどに胸に響いて。長い前髪を掻き分けてその奥の大きな瞳を見つけると、瞼にそっと口付ける。 「お前ときたら・・・寝坊助で甘えたがりで・・・どうしようもねえ馬鹿犬だな」 「・・・・・うう、酷い」 「だが・・・・馬鹿な子ほど可愛いと言うしな。仕方ねえから可愛がってやるよ」 不満を露にする尖った唇を摘んで、以前したように口元に手袋を纏ったままの指を当ててやれば、 ゼオンシルトはハッとしてそれをやはり以前同様に口で外す。 「・・・・馬鹿犬でも流石に憶えてたか」 「馬鹿犬じゃない、ゼオンだもん」 「じゃあ、ゼオン。俺は酔っててベッドまで移動出来そうもねえ。ここでいいか?」 ぽんぽんと自分の座っているソファを叩いてここを示すギャリックにゼオンシルトは頷いた。それを見届けて ギャリックはゼオンシルトを向かい合わせに自分の膝へと座らせる。 「お前が強請ったんだ、今更嫌とは言わせねえからな」 「・・・・言わないよ」 優しい吐息が降りかかって、 そのまま柔らかな唇は自分を抱え上げる青年のそれへとゆっくり降りていった。 ◆◇◇◆ 「・・・・・・・・・っふ、ぅ」 キスを自分からしにいったはずなのに、いつの間にか形勢逆転され、攻められているゼオンシルトは 零れそうになる熱い吐息を懸命に堪えようとするが、その間にするするとたくし上げられたノースリーブの下の 隠れた肌に触れられ、びくりと肢体を震わせる。逃げようとしてもここはギャリックの膝の上で、腰には 支えの腕があるため不可能。胸の上を彷徨う指先がその中心の突起に当てられると口を塞がれているというのに 甘い声が漏れ出てしまいそうで、羞恥に悶えた。 「・・・・ん・・・・んんっ」 酔っていると言っていたのに器用に動く指が突起の上を小さく円を描き擦り上げる。見る見るうちに堅さを持ち出した それを親指と人差し指で挟み込み、二本の指先の間で転がし、時折強く摘む。それだけで不慣れな身体は 逃れるように身をくねらせた。けれど、逃がさない。強い力で押さえ込みギャリックは漸く口を離すと濡れたそれで 手で弄っているのとは逆側の胸の頂に舌を這わせる。アルコールで温まったそれの与える刺激は堪らない。 触れるか否かのギリギリの距離で突起の頂上舐め上げ、反対側の指先が強く立ち上がったそれを押し潰す。 違う刺激を同時に与えられ、細い喉は我慢ならずに音を上げ。 「あ・・・・あぁ・・・・っ・・・ん」 一度味わっているとはいえ、慣れない刺激から逃れようと背を撓らせれば、たくし上げられていた服がずり下がり 真下の銀糸にぼすっと落ちた。鬱陶しそうにそれを払うとギャリックは顔を上げ。 「ゼオン、これ咥えてろ」 持ち上げた服をゼオンシルトの口元まで運び、命じる。ゼオンシルトは逡巡するも、これを咥えていれば声を 抑えられるかもしれないと思い頷き口を開けた。かぷりと紅い布地を歯で押さえる。 「・・・・落とすなよ」 釘を差し、再び顔は胸へと落とされる。朱色に色づく中心部に吸い付き、絶妙な力加減で歯を立てれば、 早くもゼオンシルトは言いつけを破りそうになる。咥えた布地が唾液で湿っていく。それでも何とか落とさぬよう 気をつけ、ある意味無防備になっている間に腰に当てられていた腕が更に下へと伸び。股下から前に触れる。 「んぁっ!」 叫んだ拍子に口から服が落ちそうになるが、ゼオンシルトは慌てて咥え直す。落としたら何となくギャリックに 怒られるかもしれないと思ったからだ。ぎゅと布を噛んで眉間にしわ寄せ堪えようと足掻いてみるが、 下肢に伸びた指先は遠慮なくズボンの上から反応を示しているその箇所を撫で上げている。しかも次第に くにくにと指先で揉み込まれるとどうしようもなく腰が震えて。 「ん・・・や・・ら・・・ギャリ・・・んん」 「嫌とは言わないんじゃなかったのか?」 くぐもった声を拾ってギャリックは面白そうに笑う。前を揉みしだく指先を更に動かして手探りでジッパーを掴むと ゆっくりとゼオンシルトのズボンを寛げていく。 「・・・・ゼオン、少し腰を浮かせろ」 ジッパーを下ろしきると手を離し、再び細腰を支え、ゼオンシルトを中腰にさせる。 「よし、イイコだ。もう少しそのままだぞ?」 言って、ゼオンシルトの腰が浮いたのをいい事にズボンと下着を同時に腿の辺りまで引き下ろす。 中途半端な位置でズボンが引っかかり、脚を閉じて自分の丸見えになってしまった欲を隠そうとした ゼオンシルトは身動きがとれず、逆にしっかりと勃ちあがったそれをギャリックに見られてしまい。 「うう・・・」 あまりの恥ずかしさに呻く。居た堪れなくて手がそういえば空いていると前を隠そうとするが、それを捉えられ。 中心部へとギャリックによって導かれる。 「・・・・え?」 「俺に触られるのが嫌なら自分でしてみな」 「〜〜〜ッ」 未だにギャリックの手に包まれた自分の指先が握るものが言葉に反応してかぴくりと蠢いた。 ゼオンシルトは首を振り、顔を真っ赤にして小さな声で否を唱える。 「・・・・嫌・・・じゃない・・・からギャリックが・・・して・・・・」 それは自分でしているところを見られるのが恥ずかしいという理由だけでなく、本当にギャリックによって 触れられたいのだという切実な望みでもあった。一瞬ギャリックは驚くが、ふっと柔らかく笑み。 「・・・・しょうがない奴」 愛おしげな低音が耳元に吹き込まれたかと思えば手は離され、代わりにギャリックの指先が今までゼオンシルトの 触れていたものを掴む。それから優しく形をなぞり、括れを強く擦り上げ先端から溢れ出す蜜を塗り込む。 更に追い詰める為に中断していた胸への責めも再開し、ゼオンシルトにくぐもった悲鳴を上げさせる。 「・・・ん、ん・・・・ゃ・・・いっちゃ・・・・」 「いいぞ、出して・・・」 「ん・・・・ひぅ・・・・ん、ああああっ!」 きゅと先端を強く擦るとゼオンシルトは咥えていた服を落として甲高い声で啼いた。トプトプと溢れ出した白濁は ギャリックの指と紅い袖口を濡らすと垂直に零れ落ちていく。 「あ・・・・」 「結構飛んだな・・・」 ぺろと袖口に付着したものと指先に白い流れを作るそれを舐め取るギャリックの仕種が妙に野性的で且つ何処か 艶やかでゼオンシルトは達した羞恥も忘れて目を奪われる。その視線に気づいていないのかマイペースに 汚れた手を清めていくとギャリックは漸くゼオンシルトを再び膝に据わらせた。それから脚を抱え上げ、途中まで 下ろしたズボンと下着を脚から抜き取る。 「よし、脱げたな・・・じゃあ次だ」 含みを持たせた言葉にゼオンシルトはきゅうと後ろの蕾を締め上げた。前回の記憶に寄れば次とはその場所の筈 だからだ。その行動は拒んでいるようにも、期待して先走っているようにも取れ、ギャリックはどちらだろうかと 何気なく考えながら双丘を両手で割開く。が、ふとここで潤滑剤になるものがないと気づいた。 「・・・・・・ゼオン、口開けろ」 服の次は自分の指を咥えさせる。下の蕾のように口腔を犯し、ゼオンシルトの舌と唾液を指に絡ませ、濡らす。 充分に濡れた頃になって口の中から引き抜くと、ひくひく蠢き誘う蕾へと押し当て、乱暴にならぬよう ゆっくりと指を内部へと潜らせる。 「ふあ・・・ギャリッ・・・ああ・・・」 中の襞を捏ねくり回し、ぐちぐちと腸液の奏でる卑猥な音に耳を澄ます。一度経験している事なので前回に 比べれば随分とスムーズに指が動く。ゼオンシルトを伺い見れば、その真っ赤な顔にあるのは苦痛よりも快楽が強い。 それに安堵しギャリックは既に二本の指を飲み込むそこにもう一本指を加え丹念に慣らしていく。 「・・・・・・そろそろ、か」 「・・・・あっ!」 指を引き抜き、自分のズボンの前を寛げ取り出した欲望を収縮を繰り返す秘部へと宛がい、ゆっくりと持ち上げた ゼオンシルトの腰を落としていく。脈打つ熱に下から突き入れられる感覚はきっと前回以上のものなのだろう。 まだ飲み込んでいる途中なのに、ゼオンシルトは涙を零しながら甘く乱れる。 「あ・・・んく・・・・ギャリ・・・・あ、あぁ・・・んんんっ」 「よしよし、イイコだ。もうちょいだからな、我慢しろ」 「あ、ふ・・・熱・・・・奥、にいっぱい当たって・・・・あぁ!」 上から落とされた身体はより深くギャリックを飲み込み、奥のしこりを擦られ、ひっきりなしに声を上げる。 最初はゆっくりと、次第に腰を両手で掴み、強く深くギャリックはゼオンシルトのいいところを突き上げていく。 素早い抽出、それだけでも堪らないのに、奥を突き、腰を押さえつけて弧を描くように内部を擦られて ゼオンシルトはあまりの悦びに幾筋も涙を零す。 「あ、あ・・・気持ち・・・・い・・・・」 「正直なイイコだ・・・・もっと啼いてみろ」 「んはぁぁぁっ・・・・!」 スピードの上がる突き上げと、艶めいた言葉にゼオンシルトは限界を向かえ、一等強く中を抉られた瞬間、 頭の中が真っ白になり我を忘れた甘い悲鳴をあげ、強く抱き締められたまま、果てた。ほぼ同時に強い締め付けに ギャリックもゼオンシルトの内に想いを吐き出した。 ◆◇◇◆ 「・・・・・ギャリック」 「ん?」 行為が終わって、ぐったりとしているゼオンシルトを気遣い髪を撫でていたギャリックだったが不意に 呼ばれて応えを返す。しかし、幾ら待ってもゼオンシルトの口から続きの言葉が出てこない。不審に思い顔を 見下ろせば、規則正しい呼吸が見て取れ。 「・・・・・寝言か?」 問うても何も答えない。やはり寝言だったらしい。幸せそうに、何と言うかにやけている。 一体どんな夢を見ているのだろうかと思考を巡らしつつも、ゼオンシルトを風呂に入れようと、持ち上げた。 身長の割には軽い肢体。ちゃんと食べているんだろうかと心配になる。 「・・・・お前がこっちに来れば、俺が全部面倒見てやるんだがな・・・・」 まあ、それは無理な話だろう。ゼオンシルトが来たがったとしても、平和維持軍の連中が彼を手離すとは思えない。 いい加減、自由にしてやればいいのに。いつまで彼らはゼオンシルトを束縛するつもりなのだろう。 それを思うと自然と腕に力が篭る。 「・・・・・ッ」 思いの外力が篭ってしまったのか、痛かったらしく眠っているゼオンシルトの顔が一瞬歪む。 ギャリックは慌てて手の力を緩める。そうするとまたほぅと息を吐き、ゼオンシルトは心地良さそうに眠りに落ちる。 「・・・・のんきな奴だな」 呆れているのか、感心しているのか自分でも良く分からぬ呟きを漏らし、ギャリックは浴室へと足を運ぶ。 まだ酔いが抜けていないのか若干その足元はふらついているが、しかし転ぶという事はない。ゆっくりと室内を移動し、 その途中寝ている筈のゼオンシルトがギャリックの服の裾を掴む。 「・・・・・何だ?」 一瞬起きたかと思ったが違い、まだ寝たままゼオンシルトはもごもごと幸せそうに微笑む口で以って 楽しげに告げた。 「・・・・えへへ・・・・ギャリ・・・ずっと・・・傍に・・・・手、繋いで・・・一緒に・・・笑って、抱き・・・めて」 「・・・・・・・どんだけ我侭だよお前」 夢の中で答えているのか次から次へと溢れてくる願いに苦笑しギャリックはしょうがない奴とぼやき、もう一度強く 抱き締め、まだ続くらしい望みを一つも聞き落とす事なく、耳に留め。 「・・・・今すぐは無理でも・・・そのうち全部叶えてやるよ」 当人に聞こえている筈もないと分かった上で宣言し、これからはもっとゼオンシルトのためにも自分に素直で あろうと密やかにギャリックは決意した。 欲しいもの一つだけ、なんて嘘。 貴方の全てが欲しくて、俺の全部をあげたい。 ・・・・・・ねえ。 ―――欲しがりはいけない事ですか? 尋ねたらきっと貴方は笑うね。 だったら全部くれてやる。 そう、言って・・・。 ―――そんな貴方が大好きです fin 121000打を踏まれました兜さまに捧げます。 遅くなってすみませんでした!しかも酒の力を借りて襲うギャリの裏 との事でしたのに意外と最後まで理性的だった気がします(爆) でも彼についてのオリジナル設定とか書けたので満足です(自己な) リテイク絶賛受付中ですのでお気に召さなければ仰って下さいませ! ではではリクエスト有難うございました!! 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