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悪魔とラプソディー



タトン、タトンと一定の間隔で苛立たしげに指先が机を叩いてリズムを取る。
緋色の瞳は細められ、白眉の間には立派な皺。綺麗な歯並びの口元はギリギリと噛み締められ。
グランゲイル軍大尉、ギャリック=ラゼリオンは目の前で繰り広げられている、半ば見飽きた光景に対し
これ見よがしに怒りを露にしていた。その光景はといえば―――

「お久しぶりです、ゼオン。私と会えない間、寂しくはありませんでしたか?」
「うん、すごく寂しかった・・・・ルゥ・・・・・・」

新緑の髪をきっちりと結い上げた女顔の親友と蜜色髪のこれまた女顔の平和維持軍幹部が、部屋主の了承なしに
室内に踏み込んできたかと思えば、まるで当然の事のように茶を催促した挙句、勝手に世間話を始め、更には
部屋主を置き去りにして甘い空気を振りまいて盛り上がっているという、何とも奇異なものだった。
これには仲間に対し情の厚いギャリックと言えども憤りを感じずにはいられず、先ほどからささやかにその怒りのほどを
アピールしているのだが、当の本人たちは全く気づいた様子もなく。むしろ益々勢いづき。

「ああ・・・貴方にそんな寂しい思いをさせるなんて私は悪い男ですね・・・・」
「ううん、ルゥは悪くないよ。大尉だったら忙しいの当たり前だし、
それに俺が中々会いに来れなかったのも悪いし・・・・」
「ゼオン・・・・」

ギャリックが見ているにも拘らず、ルーファスはゼオンシルトの柔らかな両頬へ手を添えて顔を覗き込んでいる。
その距離は正に目と鼻の先。いつ口と口が重なってもおかしくない。否、ルーファスならやらかしかねない。
このまま黙っていれば確実に嫌なものを見せ付けられると踏んだギャリックはわざとらしくゴホンと一つ咳をして。

「おい・・・お前ら」

二人の賓客もといバカップルに自分の存在を知らしめると同時、牽制の合図を送る。それを受けて漸く碧眼と
対の緋眼が部屋主へと注がれた。気づいてくれたのは有難いが一斉に見つめ返されるとそれはそれで気まずい。
故にギャリックは一瞬怯んだ。今度は意図せぬ咳を零しながら横目でルーファスとゼオンシルトを捉え。

「・・・・お前たちの趣味、嗜好に文句を言ったりはしねえ。だが、何故俺の目の前でやる?」

言ってやれば、ゼオンシルトの方はパチパチと大きな瞳を瞬き、ルーファスの方はといえば常と変わらず
にこにこと微笑んでいる。が、それなりに長い事親友をやっているギャリックにはその笑みが常よりも機嫌のいい時の
ものだと分かった。問題は何故機嫌がいいか。何か余計な事に首を突っ込んでしまったかもしれない、とギャリックが
後悔したつかの間。ルーファスの笑みは深まり。

「いい事を聞いてくれましたギャリック。何故私がわざわざ貴方の前でゼオンと会っているかと言いますとね」
「・・・・・・いや、ちょ・・・待て。物凄く嫌な予感がする。やっぱり言うな」
「何言ってるんですか、一度尋ねた事は最後まで聞いて下さい。それで何故かと言いますとね・・・」

あくまで言いたいらしいルーファスはギャリックの制止を一切聞き入れない。それどころか邪魔をしようものなら
いつでも鞭が飛んできそうな気配すらある。彼の放つ鞭の強烈さを知りに知り尽くしているギャリックは口を噤んだ。
せめてゼオンシルトがルーファスの気を散らしてくれれば、と救いの手を求めて視線を飛ばすも此方の彼も
ルーファスしか目に入っていないようで、投げつけた視線をさらっと躱してくれる。よって。

「ギャリック。実は私・・・・・」
「・・・な、何だよ」
「私は人に私たちのラブラブぶりを見せつけるのが大好きなんです・・・!!」

止める者不在のままルーファスの口から出て来た頭の悪そうな発言に対しギャリックはこめかみに青筋を
くっきりと浮かべて見せると、わなわなと拳を震わせ、机に叩きつけると腹の底から怒声を絞り出した。

「〜〜〜馬鹿か貴様ぁぁぁっ!!貴様の変態嗜好に俺を巻き込むんじゃねえぇぇぇぇ!!」
「さっき趣味嗜好に文句は言わないと言ったではないですか!」
「うるせえ!お前らがいちゃつこうがいちゃつくまいが勝手だが俺の前ではやめろ!!寒イボ立つわ!
そんっなに人に見せ付けたいなら維持軍の奴等の前ででもかまして来い、どアホがっ!!」

血管が切れるのではないかと思うほどの怒気を露にした大声が部屋中に響く。ひゃっとゼオンシルトは驚いて
耳を塞ぎ、ルーファスはああ!と手を鼓代わりに叩いて大きく頷いてみせる。それから嬉々とした様子で
ギャリックの両手をがしりと掴み。

「それです、ギャリック貴方いい事言いました!!」
「・・・・・あ゛?」
「無反応な貴方よりも平和維持軍の方々の方が見せつけ甲斐があります!!」
「・・・・そーかい」

どうやら本当に見せ付けるのが好きらしいルーファスは目を輝かせ、手を握られているギャリックは呆気に取られ、
ゼオンシルトは、そんな二人を事態がよく分からずにただただ無垢に見つめていた。



◆◇◇◆



「行くならとっとと行け、目障りだ!!」

とギャリックに部屋から追い出されたルーファスとゼオンシルトは、それならと平和維持軍へと二人仲良く
キャリーに跨りガイラナックから出発したのだが、追い出してからギャリックはルーファスの分の仕事を抱える事になり
大いに後悔した。それはさておき。無事平和維持軍へと戻ってきた二人はといえば。

「ねえ、ルゥ本当にこっちに来ちゃってよかったのか?仕事とか・・・」

キャリーから降り、門番に声をかけてからゼオンシルトはルーファスに向き直る。他国人という事で入館チェックを
受けていたルーファスはにっこりとそんな彼に微笑み返す。

「いいのですよ。第一ギャリックが言い出したんですからギャリックに責任は取って頂きましょう」

さらっと酷い事を言ってのけ、チェックを抜けたルーファスはゼオンシルトの後を追う。それからスイと手を伸ばし、
ゼオンシルトの手を掬い取るとまるで淑女にするように流麗なエスコートで基地内部へと歩を進めていく。
本当は俺が案内しようと思ったんだけど・・・とばつの悪そうな声を耳に留めて碧眼が眇められた。

「ゼオン、私もこちらには結構来ているので案内は不要ですよ。
それに案内している時間があるくらいなら私は貴方とずっと話していたいです」
「ルゥ・・・・・」

周囲には維持軍の兵士や研究員がいるというのに、やはり気にした風もなく堂々と寄り添い合う二人。
ある者は素知らぬふりを貫き、ある者は遠巻きに美しいツーショットを眺め、そしてある者は・・・・

「あんの野郎!オレのゼオンシルトにちょっかい出しやがってー!!」
「誰が誰のですって?嘘八百はおやめなさい、クライアス。見苦しいわよ」
「そうですよ。ゼオンシルトさんは皆のゼオンシルトさんってこの間の会議で決まったじゃないですか」

ギラギラ目を光らせ物陰から二人・・・というよりは主にゼオンシルトを視姦する三人組の姿があった。
ちなみに右から平和維持軍総司令クライアス、副指令メルヴィナ、研究員ファニルである。尚、コリンはヤージェンの
ノーラの元に遊びに行っているため不在。小競り合いを交えつつ『ゼオンシルトを愛で隊』平和維持軍支部の面々は
ルーファスとゼオンシルトの動向を見守っていた。

「・・・にしても門番の奴〜、ルーファスとギャリックは特別な用がない限り入れるなって言っといたってのに!」
「貴方に威厳がないからじゃないのかしら」
「んだとぉ、やんのかメルヴィナ!幾らオレがフェミニストでも今のはカチンと来たぞ」
「あら、女に負けて恥を掻きたいと言うのなら幾らでも相手してあげるわよクライアス?」

建物の壁を這うように身を隠すゼオンシルトを愛で隊のツートップは一方は自由奔放、またもう一方はひどく
生真面目という正反対の性質ゆえに何かと争いが絶えない。そんな二人に挟まれたファニルはわたわたと慌てる。
仲裁に入りたいのだがファニルの大人しい性格では正反対とはいえ我の強さではタメを張るクライアスとメルヴィナを
諌める事など出来ず、あ〜う〜と意味のない呻き声をあげるばかりで。

「お、お二方共喧嘩はやめて下さい〜」

決死の覚悟で止めに入ってみても、二人は思い思いに口論を続けている。そうこうしている間にルーファスらが
移動してしまう。遠ざかっていく後姿を目にしたファニルは仕方なくクライアスとメルヴィナの手を取り。

「ほら、喧嘩してる場合じゃないです、二人共!見失っちゃいますよ!!」

普段引っ込み思案な彼女からは想像も付かない強い力で大人二人はずるずると引かれていく。
しかしながら彼女たちは気づいていない。よもやルーファスが自分たちの事を探しているとは。これでは果てしなく
続く追いかけっこ状態だろう。案の定ルーファスはゼオンシルトに確認を取りながらもきょろきょろと辺りを見渡している。
ささっと彼の視界に入らぬよう尾行を続ける三人は木々の茂みの中に身を隠す。

「っと、あっぶね。何きょろきょろしてんだぁ?ルーファスの奴は・・・・」
「誰か探しているんじゃないかしら」
「誰かって誰ですかね」
「まあ、そりゃあアイツの知り合いなんてオレたちくらいのもんじゃ・・・・・あ」

ぼそぼそと小声で話し合っていた面々はここに来て漸くルーファスに自分たちが探されているかもしれないという
事態に気づいた。そうなれば今度はどうするかを話し合う他なく。頭を突き合わせて作戦会議とやらに移る。

「用件は何だか分からんが・・・恐らくアイツはオレたちの誰かを探していると見ていい」
「そのようね。でもそれは考えようによってはチャンスという事よ」
「「チャンス?」」
「馬鹿ね、私たちの目的は何?あのグランゲイル軍大尉とゼオンシルトを引き離す事でしょう?」

違う?とメルヴィナが首を傾げばクライアスとファニルは目から鱗でも落ちたかのようにハッとした。

「そ、そうだった。後をつけるのに必死で忘れてたぜ」
「だから貴方は馬鹿なのよ。相手の目的が分からぬ以上、こちらが結束しなければ勝ち目はないと見て?
あのルーファス大尉の事だから用事を済ましたらゼオンシルトと二人っきりになりたがるに決まっているわ。
だから私たちは徹底的に二人の邪魔をし、帰ろうとしたり何処か行こうとするようなら引き止める。分かった?」
「は、はい。流石メルヴィナさん!頼りになります〜」

総司令と副指令、それに研究員の関係の彼女らだが、実際のリーダーは副指令のメルヴィナであった。
冷静沈着に状況を判断し、作戦を告げる美貌に残りの二人はこくこくと頷いて同意を示す。

「よし、じゃあ先ずはオレが・・・・」
「待ちなさいクライアス。ここは貴方より先ずはファニルが行くべきだと思うわ」
「え?私ですか?!」

急に話を振られてファニルは素っ頓狂な声を上げる。立ち上がりかけていたクライアスも慌てて元の態勢に戻った。
一斉に二人の視線が中央のメルヴィナへと注がれる。

「メルヴィナさん、何で私なんですか?」
「それは先ず貴方が一番警戒をもたれにくいでしょうし、それにルーファス大尉が用のある相手は
恐らくクライアスでしょう。真っ先に目的の人物が出て行ったら引き止めにくいわ」
「そ、そうか。それもそうだな。よしファニル行ってくれ!」

とにかくクライアスの居場所をはぐらかして時間を稼ぐようにとメルヴィナに付け足され、ファニルは恐る恐る
立ち上がり、辺りの人間に恐らく探し人の行方を聞いているのであろうルーファスとゼオンシルトへと近寄った。
するとファニルに気づいたゼオンシルトが声をかけてくる。

「あ、ファニル。どうかしたのか?」
「え、えっとえっと・・・ぜ、ゼオンシルトさんこそルーファス大尉とどうしたんですか?」

酷く緊張しながらの言葉も、元々彼女が人見知りである事を知っているゼオンシルトは特に疑わずに聞き込みを
しているルーファスを呼び戻す。

「ルゥ、ちょっとこっち来て」
「おや、ファニル研究員ですか。お久しぶりですね、いかがお過ごしですか?」
「あ、ははははい!お、お久しぶりですルーファス大尉!!」

時間を稼がなければ、と思えば思うほど声がどもってしまう。もじもじと身体を揺すらしているとルーファスを前に
緊張しているのだと思ったゼオンシルトは優しくファニルの頭を撫で落ち着かせようとする。

「大丈夫だよ、ファニル。ルゥは底なしに優しいからv」
「おやおや、ゼオン。そういう事はあんまり言ってはダメですよ。照れてしまうではないですか〜」
「そんな事ないよ、ルゥは本当に優しいものvv」
「もうゼオンったら相変わらず上手いんですから〜」

が、本来彼らはここに互いの仲睦まじさを見せ付けに来たわけで。早速ファニルは最初の犠牲者よろしく、
目の前できゃっきゃとはしゃぐバカップルを何処か遠い目で見つめるハメに遭ってしまった。もう時間稼ぎなんて言葉は
一度見たものは全て記憶する事が出来るというずば抜けた特技を持つ彼女の頭からでさえ抜けてしまっている。
代わりに脳裏を占める言葉は『助けて』だ。

「おい、拙いぞ・・・ファニルの奴が魂抜けてる」
「流石グランゲイル軍大尉。精神攻撃はお手の物というわけね。いいわ、次は私が」

ファニルがバカップル相手に呆然と立ち尽くしている後方でクライアスとメルヴィナは耳打ちしあい、話を纏めると
ザッと男らしくメルヴィナが立ち上がる。茂みに隠れていたため、頭の装飾に木の葉が数枚へばり付いていたが、
本人が余りにきりりとした顔で前へと詰めていくものだから、クライアスにはそれを指摘する事が出来なかった。
ただ未だ茂みの中であーっ・・・と何とも言えない未練の声を発している。

「葉っぱ付いてんだけどなぁ〜。ま、いいか。それよりオレはメルヴィナが失敗した時の事考えねえと」

さてどうやって邪魔してやろうかと最早メルヴィナに指摘する事は諦め、残されたクライアスはルーファスたちの
邪魔をする算段に頭を切り替えた。そんなわけで凛としたメルヴィナがファニルの背後に登場した早々。

「ファニ・・・」
「おや、メルヴィナ殿。貴女もおいでですか。それと失礼ですが頭に葉が乗っていますよ?」
「!!!」

彼女の中ではゼオンシルトに付き纏う敵として認識されているルーファスによって恥を一つ指摘される目に遭う。
比較的無表情、無愛想な美女は一瞬目を瞠るとゼオンシルトに見えないようにルーファスを睨みつけ。

「・・・・・ご指摘に感謝します、ルーファス大尉」

言葉だけは慇懃にしかし隠しきれない棘を露にした礼を言うとぱぱっと頭上を叩く。しかしそれでも取れなかった
葉っぱにルーファスの後ろから覗き込んでいたゼオンシルトが気づき、そっと手を伸ばす。

「メルヴィナ、まだここに付いてるよ・・・・はい、取れた」

にっこり。取れた葉っぱを目の前に差し出しながら告げるゼオンシルト。そして表には出さないものの、ゼオンシルトの
その可愛い笑顔にきゅんとしているメルヴィナは内心でガッツポーズを決めた。ナイス、私。ナイスドジ!などと
このクールな女性が心の内で自分を褒め称えている事を知らない面々はある意味幸せといえよう。が、暫くそうして
笑顔の余韻に魅入っていたメルヴィナは自分の目的を思い出し、再びキリッとした表情に立ち戻り。

「あ・・・ファニル、貴女は研究の仕事があるでしょう。持ち場にお戻りなさい」
「え・・・・研究なんて・・・・あ、あ・・・そうですね。私ったら大事な研究があるんでした!すみません、お二方!」
「あれ、ファニル今抱えてる研究なんてあったっけ?」

ルーファス相手に辟易しているファニルに逃げろとアイコンタクトを決めるメルヴィナ。それに頷くファニル。
情けないが敵前逃亡を決め込もうとしたその時、普段ならば何も言わずに送り出してくれるだろうゼオンシルトが
この時ばかりは何故かいらぬツッコミを寄越してきてメルヴィナとファニルは慌てた。冷や汗を流しつつ、
メルヴィナはああそうだと思いつく。

「く、クライアスが、急に言い出したのよ。ほらクライアスっていつも突発的でしかも人使いが荒いから・・・」
「そ、そうなんですよ。クライアスさんて基本何も考えてないですから何でも急で困っちゃいますよね」
「・・・・そうか、クライアスが・・・じゃあ急でも仕方ないか。頑張ってねファニル」

何気に上司の悪口を言い合う平和維持軍を尻目にルーファスは適当に相槌を打ち、遠くで聞いていたクライアスは
ギリギリと唇を噛み締める。

「あ、あいつら〜オレの事あんな風に思ってたのかよ!!・・・っと」

思わず大声を出してしまい、訝しんだルーファスが顔を向けたため、クライアスは慌てて口を噤む。
ばれたか?と作戦失敗を危惧するも、ルーファスは数秒もすると興味をなくしたようでメルヴィナたちに向き直る。

「ふふ、クライアスもなってないですね。こんなお嬢様方をこき使うなんて」
「ええ、全く。セルディス様の息子でなければとっとと追い出してしまいたいところですが」
「だめですよ、メルヴィナさん。クライアスさんから地位を剥奪したらシェリス様くらいしか相手にしてくれませんよ」
「それもそうね。流石にそれは可哀想かしら。とにかくファニルは研究に戻って頂戴。それからゼオンシルト」

ルーファスと引き離すにはこれしかない、とメルメルヴィナは一つ咳を零してゼオンシルトへと今度は言い放つ。

「何、メルヴィナ?」
「ええ、貴方にも仕事を頼みたいとクライアスから。書庫の整理をお願いだそうよ」
「書庫の整理?あそこの整理を一人はちょっと辛いな・・・」

本当はそんな仕事は頼まれていない。おまけに結構な広さと資料がある書庫の整理は皆あまりやりたがらないので
大分荒れていた。それ故ゼオンシルトも軽く眉間を顰め。恐らくは任命した・・・とされているクライアスに少なからず
悪い印象を持った事だろう。そこまでは計算通りと口元を綻ばせ更にメルヴィナは告げる。

「安心してゼオンシルト。私が手伝うわ」
「え・・・、いいのか?」
「ええ、貴方一人では大変でしょう?」

ここぞとばかりに自分の印象をよくしようとメルヴィナが手伝いを申し出れば、ゼオンシルトはパッと喜色を顔に
浮かべ、メルヴィナを見つめる。これではメルヴィナの一人勝ちではないかと誰もが思った時、ずっと静観していた
ルーファスが一歩前に歩み出て。

「お待ち下さい、でしたら私もお手伝いします」
「え、ルゥも?嬉しいけど・・・悪いよ。うちの仕事だし・・・・」
「その通りです、ルーファス大尉。我が軍の事を貴方に手伝わせるなどそんな事・・・・」
「私がいいと言っているのです。それとも何ですか、維持軍は他国人に見せてはならない機密書でも隠しておいでで?」

せっかくゼオンシルトと二人っきりになれると思った矢先、ルーファスが手伝いを申し出てきたため、追い払おうと
するものの、口先がその穏やかな風貌に似合わず達者な青年に迫られ、メルヴィナはうっと息を詰まらせた。
そんな風に言われては受け入れるしかない。この狸め、と内心で毒づきつつも礼を述べる。

「・・・・ご協力感謝します、ルーファス大尉・・・・・・・・チッ」
「おや、今何処からか舌打ちが・・・」
「あら誰かしら。後でようく叱っておきましょう」

舌打ちを恍けるとメルヴィナはゼオンシルトと仕方なしにルーファスを伴うと本部の書庫へと移動する。
それを尾行しているクライアスも慌てて人込みに紛れて追従し、端から見れば異常な光景がそこには拡がっていた。



◆◇◇◆



「ゼオン、これはここでいいのですか?」

書庫に案内されたルーファスは棚の外に詰まれた書籍をタイトル順に並べ替え、棚に収納しているゼオンシルトの
作業を手伝うものの、中にはタイトルがないものや一般書籍ではなくデータファイルなども混在しているため、
外部の者には判断し辛く、念のために確認を取る。するとゼオンシルトは自分の作業が中断されても嫌な顔一つせず
丁寧にそれを確認し、ルーファスに手とリ足とリ教えてやっていた。

「これはこっち、それからそのデータファイルは去年のと今年のが混じってるからこっち。
それとそこに置いてあるの全部しまうから渡してくれる?」
「ああ、ゼオンいいですよ。重いですから。貴方にこんな重たいものを持たせられません」
「重いって・・・・大丈夫だよ、これでも俺鍛えてるんだし」
「鍛えているいないの問題ではありません。私の愛しい人に重たいものなど持たせたくないのです」
「・・・・ルゥvvv」


初めは一生懸命作業していたはずなのに隙あらばいちゃつき始める、そんな二人を少し離れた棚から
メルヴィナは恨めしそうに睨みつけている。

「・・・・・ルーファス・・・何て邪魔な男なのかしら。これではゼオンシルトと二人っきり作戦が失敗になってしまうわ」

本当の事を言うと彼女の方が邪魔をしているのだが、一応恋する乙女である以上、少々周りが見えなくなっている
ようで。せめて時間を引き延ばそうとゆっくり作業しようとは思っているのだが、根が真面目なだけについつい
てきぱきと整理をしてしまっている自分がいて歯がゆい思いをしていた。と、そんな彼女の耳に不意に誰かの声が
届いてきた。思わず背後を振り返る。すると。

「・・・・・・貴方、一体何をしているのクライアス」

いつの間に書庫に入ってきたのかメルヴィナの背後の棚にクライアスが隠れていた。
隠れる気ならその悪目立ちする帽子を取れと感じるがあなり係わり合いになりたくなかったのでメルヴィナは
そっけなく視線を背ける。相手にするだけ無駄だと思ったのかもしれない。しかし、どうも鈍いというか空気の読めない
クライアスはメルヴィナに話しかけてくる。

「おい、メルヴィナ!お前さっきはよくも言いたい放題言ってくれたな」
「私は事実しか言っていないわ」
「な、なんだと!大体お前はいつもオレの印象を悪くするような事を言いやがって!!」
「元々印象が悪いんだからなんて事ないでしょう。それよりあまり騒ぐと気づかれ・・・・」

注意を促した途端にメルヴィナとクライアスの背後から黒い影が伸びてきた。一斉に振り返ればそこに立っているのは
ゼオンシルトと楽しそうに資料の整理をしていたはずのルーファスが、いつもとは違う類の・・・言うなれば何処か
邪悪な笑みを浮かべていて。蒼い瞳に見つめられた二人は一気に背筋が凍りつく。

「る、ルーファス大尉・・・・ど、どうし・・・・」
「いえ、騒がしかったので様子を見に来ましたらクライアス貴方でしたか」
「あ、ああ。オレもちょっとその・・・・気になって」

だらだらと冷や汗を流しながら暗い明日は上から見下ろしてくる男の冷たい視線に何とか堪える。
メルヴィナはメルヴィナで何やら嫌な予感がし、逃げようとは努力しているのだが、ルーファスから放たれる異様な
空気に足が竦んでその場から動けずにいる。とても重い空気、長い沈黙に二人は更に血の気の引く思いだった。
何でもいいからなにか言ってくれー!と心の中で念じさえする。するとその願いが届いたのか黙していたルーファスは
そっと口を開いた。しかし、それは二人により深い絶望を与えるもので。

「本当は・・・ここに入った時から貴方たちが私たちを尾行しているのに気づいていたんですが・・・。
まあ元より貴方たちに私たちの仲を見せ付けようと思ってきていたのでそれはよしとしましょう。ですが」
「ですが・・・・なんだよ」
「いえ、流石に鬱陶しくなってきたんですよねぇ。私は構わないんですがゼオンは貴方たちがいると
恥ずかしいらしくてキスもさせてくれませんし・・・・ああ、苛々しますねえ」

どうしましょう、この憤りは。そう酷薄に吐き捨てるルーファスには普段の温厚な雰囲気は一切感じられない。
ただただ恐ろしさだけが肌を刺して。コツリ、と一歩彼が前に出る度メルヴィナとクライアスは同様に一歩下がる。
それを何度も繰り返していれば当然壁に突き当たり。

「あ・・・・」
「る、ルーファス大尉・・・落ち着いて」
「私は落ち着いていますよ?貴方たちの方が落ち着きがないように見えますが?」

眇められた瞳の鋭さは夢に出そうなほど。これは本格的に逃げねば殺られる!と本能で感じ取った二人は
偶々背後にあった書庫内にある最重要書類を置いた別室のドアを開けて逃げ込む。滅多に人の入らないそこは
埃だらけだったが命を守るためには仕方ない。ゴホゴホと咽ながらメルヴィナらはルーファスが入って来れぬよう
内側から必死でドアを押さえる。が、しかし。

「何もそこまでしなくても・・・・まあ、私からしたら好都合ですけど?」
「何っ?!」
「お邪魔虫が勝手に退治されてくれた上に・・・、
確か維持軍の書庫は総司令か副指令の許可がなければ入れないとか。実にいい場所ですよね?」
「ま、まさか貴方・・・・・・」

壁越しに含みを持たせた艶やかな声。

「静かにしてれば、ゼオンの可愛い声が聞こえてくるかもしれませんよ?」
「な、貴様ーっ、何をする気だ!いや、何かは何となく分かるけども・・・じゃなくてオレのゼオンシルトに手を出すなー」
「・・・・・・オレのゼオンシルト・・・・・ですって?」

表情は窺い知る事は出来ないが、ドアの向こう側からひしひしと伝わってくる冷気と、刺々しい言葉。
ルーファスの裏の顔が垣間見えて犬猿の仲であるはずのメルヴィナとクライアスは狭い室内で肝試しの際、
寄り添う恋人たちのようにくっつくと、ヒィ!と甲高い声で悲鳴を上げた。何かにくっついていなければ
怖くて仕方ないからだ。そんな怖くて仕方ないもの―怒り心頭のルーファスはドアの木をミシミシと軋ませ。

「・・・・クライアス、もし今度私のゼオンを自分のもの呼ばわりしようものなら・・・・・殺しますよ?」
「ヒィィ、わ、分かったからっ・・・・!んな怖い声出すなよ」
「・・・・・分かってくれればいいのです。では後で出してあげますからお二人とも大人しくしてて下さいね?」

ガチャンとドアの外側から鍵を掛けるとルーファスは何食わぬ顔で今までずっと周りの騒音に気が付かぬほど
真剣に書籍の整理をしていたゼオンシルトの元へと戻るとクライアスらに見せた邪悪な微笑とは対照的に
心からの微笑を浮かべ、蜜色の長い前髪をそっと指先で割る。

「・・・・?あ、ルゥ・・・何処行ってたの?」
「ええちょっと・・・・向こうの方で物音がしたので見に行っただけです」
「そう・・・あれ、そういえばメルヴィナは?」
「ああ、彼女ならいませんよ。それと書庫の整理はもういいみたいですよ?」

いけしゃあしゃあと言ってのけると何も知らないゼオンシルトは小首を傾げ。

「え、でも・・・まだ半分も終わってないけど」
「どうせまたクライアスの気でも変わったのではありませんか?それより・・・・誰もいませんね?」
「うん、そうだね・・・ってもしかして?」

するりと伸びてきた手が頬をなぞり、唇の上を彷徨いだすとルーファスの言いたい事が分かり、
ゼオンシルトは途惑う。

「こ・・・こんなところでする気なの?」
「いけませんか?」
「だ、だって・・・ここ資料室だし・・・・人は・・・来ないかもしれないけど・・・・」
「私も結構我慢したんですよ?ね、少しだけなら・・・・」

心にもない言葉でゼオンシルトを惑わす。密やかにゼオンシルトの両脇に手を着き、逃げられないように囲み、
ここぞとばかりに甘いマスクで上目遣いに見上げてくる。熱情を孕んだ碧眼を見下ろして、ゼオンシルトは
頬を染めると俯き、よく見ていなければ分からぬほどに小さく一度だけ頷いた。

「す・・・少しだけだよ」
「はい、少しだけ」

上ずった可愛らしい返事を受け取ると壁際に追い詰めたゼオンシルトにルーファスは影を落とす。
目と鼻の先の距離がどんどん縮まり、やがて柔らかな唇が優しく合わさり、遥々ガイラナックから維持軍まで
自分たちの仲を見せ付けようとやってきた二人は甘く深い口付けを交わした。そんな彼らから離れた、
けれどギリギリで音を拾えるほどには近い距離にいる『ゼオンシルトを愛で隊』の存在に構う事なく―――



◆◇◇◆



外の回廊を誰かが通りかかる足音が時折聞こえてくる。しかし、入室許可を出す人間がこの部屋の奥に
閉じ込められているので誰も入っては来れない。けれども、それを知らないゼオンシルトは物音がする度びくりびくりと
身を震わした。滅多に人は入って来ないから大丈夫、大丈夫なはず・・・と何とか自分を落ち着かせようとするが
意識すればするほど、ほんの些細な接触に反応してしまう。

「・・・・ゃ・・・あ・・・ん」

背後の棚に手を着き、立ったまま下衣を取り払われ剥き出しとなった下肢にルーファスの吐息が触れただけで
甘く喘ぐ。先端に指先がそっと掠めた。瞬間、もどかしさに腰が揺れる。肢体には既に汗が浮き、頬にぺたりと貼り
付いてくる髪を鬱陶しげに首を振り払いのけるゼオンシルト。次いで床に膝を着き、ゼオンシルトの腰と同じ高さにある
ルーファスの顔を見下ろす。視線が訴えかけてくるものに気づきルーファスは笑んだ。

「ゼオン・・・・口と手と・・・どちらが良いですか?」
「あ・・・・口・・だめ、汚れちゃ・・・ンン」

制止の途中で小刻みに震えているそれを握り込まれて、鼻から声が漏れる。根元を指の腹で強く擦られると
自分の欲の証が濡れて来るのが分かり、ゼオンシルトは唇を噛んだ。尚もルーファスの指先から与えられる刺激に
立っているのも困難なほど全身から力が抜ける。ふっと気が抜けて沈みかけるとその弾みで先端から溢れ出た
蜜がぽたぽたと床に垂れ、粘り気のある小さな溜まりを作った。

「おや、下に垂れてしまいましたよ?」
「え・・・・?」
「このまま続けたら、床にゼオンのイった跡が残ってしまうかもしれませんね?」

手を休めずに動かしながらの残酷な言葉に、半分以上意識が朦朧としていたゼオンシルトもハッとして床を見た。
確かにそこにはただの水とは違う染みが出来ている。確認した途端、ゼオンシルトの全身が沸騰したように熱を持った。
恥ずかしい。ぷるぷると首を振って否を唱えるがやはりルーファスは手を止めず。

「んっ!・・・ふぁ・・・・ぁ・・・だめ・・・いっちゃ・・・やぁ・・・・」
「ああ、また零れましたね」
「やだやだ・・・恥ずかし・・・・っ・・・」
「じゃあ零れないように蓋をしてあげましょうね」

言葉と共にルーファスは手にしたものを自らの口腔に飲み込む。ぬるりとした感触と手でされるのとは違う
生暖かさにゼオンシルトは短く悲鳴を上げた。ルーファスの頭を退けようと手を伸ばすも、括れに吸い付かれると
退けるどころか自分の腰に押し付けてしまう。更に蜜を纏った指先が後孔に触れてきて弱い部分を弄られ、
誰の耳にも嬌声としか思えぬ甘い声をひっきりなしに上げた。

「ん、あ・・・ああっ・・・・・だ、め・・・・はな・・・し・・て・・・」
「どうひて?」

咥えながら問に答えるためくぐもるルーファスの声。

「やぁ、ん・・・・出ちゃ・・・」

必死の態で嫌がるゼオンシルトに構わず、ルーファスは自分の頭を動かし唇を窄めて口腔で跳ねるゼオンシルトの
欲を扱く。熱い舌が蜜に絡みつき塗り広げていく。どう見たって上品な、しかも綺麗な顔の青年が、自分のものを
卑猥な音を立て、咥えている。意識すると余計に感じてしまい、絶対に駄目だと思っていたのに、ゼオンシルトは
ルーファスの口の中で精を解き放ってしまっていた。

「・・・・・あ・・・・ぅぅ・・・・」

吐精後の気だるさに力の抜けた四肢はずるずると崩れ落ちる。何か文句を言ってやらねばと思っているのに
荒い呼吸ばかりで言葉が出てこない。ただ、吐露出来ずに羞恥だけが身を孕んでいく。そうして蓄積された羞恥は
やがて涙となってゼオンシルトの滑らかな稜線を伝い落ちた。

「・・・・ゼオン、泣いているのですか?」

口の中に吐き出されたものを嚥下したルーファスは窺うように下からゼオンシルトの俯いた顔を見上げる。
すると蒼い瞳には対照的な緋色の瞳からぽろぽろと雫が溢れてきているのが映り。申し訳なさに新緑色の眉が
垂れ下がる。それから手を伸ばすと蜜色の髪を幼子にするように何度も撫でた。

「すみません、ゼオン・・・貴方がそんなに泣くとは思わなくて・・・・」
「・・・っく・・・駄目って言ったのに・・・・ぃ・・・」
「本当にすみません。貴方の全てが欲しくて・・・抑えが利かなかったのですよ」

くすんくすんとすすり泣くゼオンシルトを柔らかく抱き締め、ルーファスは何とか宥めようとする。こうして泣いている
姿も可愛くて仕方ないけれど、出来る事なら笑っていて欲しくて。触れるだけのキスを顔中に施し、舌で涙を拭うと
漸く落ち着いてきたゼオンシルトは潤みきった無垢な瞳で自分を抱き締める男の顔を見つめる。

「・・・・・本当に・・・・恥ずかしかったんだよ?」

唇を尖らせての抗議は反省を促すどころか余計に欲情を煽ってくる。天然過ぎるのも困ったものだと内心で
溜息を吐くとルーファスはゼオンシルトと視高を合わせ。

「・・・でしたらゼオン、私にも同じ事をすればいいでしょう」
「・・・・・え?」
「恥ずかしい事、私にもして下さい。そしたらお相子でしょう?」

艶然と微笑むルーファスの誘いにゼオンシルトは何度も目を瞬いた。同じ事というのは自分もルーファスのそれを
咥えろという事だろうか。導き出した答えにゼオンシルトはボッと音が鳴りそうなほどに頬を染める。

「そ・・・そんな事・・・・した事もないし・・・・・」
「ちょっとだけでもいいですから・・・・ね?」
「う・・・・・」

はっきり言ってルーファスの少しやちょっとは当てにならない。それでも惚れた弱みか逆らえないでいるゼオンシルト。
顔を真っ赤にしたままで誘われるままに上目でルーファスの様子を窺いながらもそっと彼のズボンへと手を伸ばす。
不器用にジッパーを下ろすと一つ深呼吸をしてからぎゅっと目を瞑り、その奥の下着へと指を入れた。恐る恐る中で
指を動かすと熱くて硬いものに触れる。それが何かなんて考えるまでもない。

「・・・・あ・・・・」

ゼオンシルトはルーファスのそれに触れるとまるで自分が触れられたかのように小さく声を上げた。そのまま手にした
ものを下着の外へと取り出すとうっすらと目を開けて、両手で包んだそれの先端に怯えつつ、口をつける。
それから自分がされたようにちろと尖った部分を舐める。すると手の中のものは生き物のようにびくりと跳ねた。

「ふぁ・・・・」
「・・・・少し舐めるだけでいいですから」
「ん・・・・大丈夫・・・・んむっ」

初めは驚いたものの、ぺろぺろと数度舐めてみると動くのにも慣れてきたようでゼオンシルトは自分がされた事を
なぞるように深く、ルーファスのものを口腔に招いた。咥えているだけで結構苦しい。それでもルーファスの行為を
思い出し顔を上下に動かしてみる。喉の奥を突かれるとむせ返りそうになったが、次第にルーファスの口から
気持ち良さそうな吐息が聞こえてきて、ゼオンシルトは苦痛を堪えてもっと自分の舌と口を動かす。

「ん・・・あむ・・・・ふぁ・・・・んぐ・・・・ンン」
「・・・・・ゼオン、もう・・・いいですよ」

ぽすと頭に手を置かれ、ゼオンシルトは首を傾ぐ。まだルーファスは達していない。気持ちよくなかったのか。
不安げな表情を浮かべる緋眼を目に留めてルーファスは微笑む。

「フフ、貴方の可愛い顔を見ていたら・・・入れたくなってしまいました」
「ん・・・・れも・・・・」
「ゼオンももう辛いのではないですか?私のを咥えただけでこんなになって」

つんとルーファスはいつの間にか硬さを取り戻したゼオンシルトの自身をからかうように指先で弾く。
その刺激で思わずゼオンシルトは仰け反り、口に咥えていたそれを取り零してしまった。

「どうせなら・・・二人で一緒がいいでしょう?」

耳元に囁くとルーファスはゼオンシルトの身体を床にゆっくりと寝かせ足を開かせるとゼオンシルトの唾液に
濡れた自分の熱をひくりと蠢く可愛らしい蕾へと宛がい、いつものように力を込めて切っ先を内部に押し込む。
鋭い感覚にゼオンシルトの細い喉が悲鳴を上げ、全身がびくびくと跳ね上がる。

「ああ、本当に貴方は可愛いですね」

息を乱し、生理的な涙を浮かべ身悶えるゼオンシルトをじっくり嘗め回すように見下ろし、ルーファスは奥まで踏み込む。
急な挿入でも慣れたもののように内の奥襞は迎え入れ、心地良い締め付けと共にルーファスを魅了する。
全て入れ終えるとルーファスは身体を折り曲げ、喘ぐように呼吸を繰り返すゼオンシルトの唇を奪った。

「いっぱい啼いて下さいね」

散々舌を絡め、深く貪るとルーファスはそう言い残し、高みを目指して腰を使い始めた。



◆◇◇◆



行為を終え、疲れて眠ってしまったゼオンシルトの身体を清めていたルーファスは床にまだ少し残っている
情事の後にほんのりと口元を歪める。それからすうすうと規則正しい呼気を漏らす桜色の唇に目を留め、
数時間前、この可愛らしい口に自分のものが入っていた事を思い出すとぞくぞくと何ともいえぬ優越感が自分の
背を駆け巡るのを感じた。

「もう・・・こんなに可愛いと、どうしたらいいか分からなくなってしまいますね」

回を重ねる度に抑えきれなくなってしまう衝動を持て余し、ルーファスは次はどんな風に苛めるもとい、この愛らしい
存在を可愛がろうかと頭を悩ませた。この状況を作るために別室に閉じ込めた二人の存在を忘れたまま―――





**蛇足**



「あ、あんの野郎、本当にやりやがったー!!」
「ルーファス大尉・・・・天使のような顔して本当に悪魔のような男ね・・・・・」
「まったくだ!性悪野郎め!!」

狭く埃だらけの室内に閉じ込められた二人は、結局少しどころか最後まで行為を続けたルーファスのせいで
望まぬ形で想い人の甘い吐息を聞くハメに遭い、立ち直れぬほどのダメージを受けた。・・・・が。
転んでもただでは起きぬらしい面々はふるふると拳を震わしながらもキッと被害者同士顔を見合わせ。

「「でも、ゼオンシルトは超可愛かったよな(わよね)」」

声を揃えて叫んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・案外、懲りていないようである。

fin



126666打、裏Ver.なんとかUPです。
ルーファスは鬼畜だなあと自ら恐ろしくなってきました。
でもそれもこれもゼオンが可愛いすぎるせいだと言い張ります(殴)
しかしちょっとEROパート短かったですかね??それとも普段が長すぎるのか。
何はともあれリクエスト有難うございました、繭美様!!



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