甘戯
「随分と甘い香りがするな…」
そう言ってキッチンに現れたのはインペリアルナイトであるアーネストだった。
コムスプリングスにある別荘に帰って来て、正装から普段着に着替えもせず即このキッチンに来たにはワケがあり。
明日からの三日間、漸くまとまって取れた休暇を愛しい恋人と過ごすという。無論、恋人とは…人々から
〈グローランサー〉と呼ばれる青年・カーマインである。
久しぶりの恋人との逢瀬にアーネストは嬉しくてたまらない。別荘で彼と過ごすこの三日間は
きっと有意義なモノとなるであろう、と心躍らせていた。
そんな矢先。
なにやらキッチンから漂う甘い香り。お菓子大好き人間であるならば即飛び付くであろう。
「何を作っているんだ、カーマイン?」
キッチンに顔を出すとそこには一人の青年が楽しそうにしながら何やら作業していた。
上下漆黒色の服にいつも着崩している紅のジャケットは脱いでおり、その代わりに着ているのは薄水色のエプロン。
「…え!? あ、アーネスト…? いつの間に帰って来てたの?」
彼の少し驚いた顔が飛び込んで来る。どうやら余りに熱中していた為、
アーネストが帰って来たことに気が付かなかったようだ。
「あぁ、たった今だ。…ただいま」
微かな笑みを浮かべたアーネストは静かに近付き、背後からカーマインをそっと抱き締めた。
その温かな気配と優しさにこの身体を抱き寄せる彼の右手の上に左手を重ねる。
「うん、お帰り…」
静かに目を閉じて呟く。
アーネストはその言葉だけではどうにも満足することが出来なくて。
と、いうより早くこの愛しい彼の全てを満喫したいという欲が満たしていき。
カーマインの細い腰に巻き付いた己の左手が彼の顎を持ち上げ、背後にいる自分へと振り返らせた。
そのチカラに抵抗することなくカーマインは閉じていた目を見開く。
彼が何をしたいか判っていたから。
強引に後ろを振り返させられ、首がほんの少し痛むがそれは大したことではない
無言で見詰め合うふたり。自然とふたりの唇が合わさった。
初めは軽く啄ばむように。徐々にその行為に熱が入り、いつの間にかふたりの身体は正面を向いていた。
互いの身体をまさぐるようにして抱き合う。
キッチンという場所に似つかわしくない濡れた音が響くがそんな些細なことは今のふたりの頭にはない。
「……ぁふ…」
小さな吐息がカーマインの口から洩れた。その熱い吐息がアーネストの心を更に熱くさせる。
だがそれを遮ったのは先ほどからキッチンに漂うこの甘い香り。
シンクに視線をやればそこには料理に使う小さなボールがそれよりも大きいボールの中に浮かんでいた。
大きなボールには熱湯が入っており、今も真っ白な湯気が立っている。
そして小さなボールはその熱湯にプカプカと浮かぶように漂い、その中身はなにやらドロドロに溶けた茶色い液体。
甘ったるい香り、茶色い液体。そのことからアーネストの頭に一つの食材が浮かぶ。
(あぁ、溶かしたチョコレートか…)
ふと今日の日付を思い出す。そう、本日は二月十四日。つまりバレンタインデーである。
どうやらカーマインがそのバレンタインデー用にこのキッチンでなんらかのチョコを作っていたのだろう。
勿論、渡す相手はこの自分。
(……ふっ…)
元より料理が苦手な恋人がこうやって自分の為にお菓子を作ってくれることに対し、
アーネストは心の底から喜んだ。
自分は幸せである、と。満たされている、と。
「ところでカーマイン…」
「……ん…、あ、なに…?」
ぼんやりとする頭で返答する。ぼんやりとするのは先ほどアーネストから施された
キスの所為であるのは言うまでもないだろう。
「いったい何を作るつもりだったのだ? 溶かしたチョコの量が随分と多いのだが…?」
小さなボールに入っている溶けたチョコは確かに多い。幾らお菓子に使うと言ってもこの量は半端ではないことは、
余り料理をしないアーネストにも理解出来るというもの。
アーネストの視線が自分が今まで懸命に溶かしていたチョコの入ったボールを見ていることに気付く。
「あ、うん。えっとね……一口チョコにトリュフ、チョコケーキにホットチョコ。
それからガトーショコラにフルーツフォンデュ…かな?」
ずらずらと並べられた各種チョコのオンパレードにアーネストは片眉を上げた。
まず最初に思ったことは…
「そんなに本当に作れるのか?」
だった。
「う……(汗)」
彼の今の表情と小さく呻いた声から想像するにおそらく作ることは出来ないのだろう。
「……はぁ。カーマイン、作れないのに何故そんなにチョコを…?」
料理の天才と云われたゼノスならば先ほどのチョコ菓子を作ることは容易だろう。
しかし、包丁を握ってまだ間もないカーマインが作れるとは到底思えない。
アーネストの問いかけに降参したカーマインはとつとつと語りだした。
「だって………アーネストって凄く人気あるからきっと色んな女性から一杯チョコを
貰って来るんだろうなぁって思ったら俺……なんか凄く、悔しくて…。俺は…アーネストにチョコをあげたいんだけど
……でもどうせあげるなら既製品じゃなくて、ちゃんとした手作りチョコをあげたいなって思って…」
下を俯いて、アーネストの視線を遮るように言葉を紡ぐ恋人。その余りの可愛さと愛しさに
咄嗟に押し倒したくなったアーネストであったがそこはグッと我慢して。
カーマインの告白はまだ続く。
「だから……料理の本を見ながら俺が作れそうなチョコを考えていたんだけど…でも簡単なヤツじゃ
アーネストが貰って来るチョコに負けちゃうし、負けるのはちょっと悔しいから
難しいチョコに挑戦しようかとも思ったんだけど、でも失敗したらそれこそ本末転倒だし…」
(あぁ……やはり今ココでカーマインを押し倒しても構わないだろうか!?)
かなり切羽詰っていたアーネストである。
要するに彼は自分が貰って来るチョコに対して対抗心をメラメラと燃やしていたという。
これが可愛いと言わずなんと言おうか。
思わずニヤけてしまうのを止めることは今のアーネストには出来なくて。
「つまり…数打ちゃ当たるってことで全部作ればどれかは上手く出来るかなぁって思って……だけど、ごめん。
よくよく考えたらアーネスト、余り甘いお菓子は好きじゃないんだったよね……
俺ってバカだ…それを知っていながらこんなこと……」
俯いていた顔を上げたカーマインの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「……カーマイン…」
その涙をさっと拭い、苦笑いを浮かべるとクルリと身体を反転させシンクに向かう。
「だから、コレ……片付けるね。キッチンに篭るチョコの香りも換気して、消さないと…」
声が僅かに震えている。その言動にアーネストの心は決まった。本能が理性に勝った瞬間である。
小さなボールに入っている溶けたチョコを流しに捨てようとしたカーマインの手を
背後からガシッと掴む。これに驚いたのは勿論、彼だ。
「……え?」
「それは…捨てなくていい。ちゃんと俺が…食べてやるから安心しろ」
その言葉にカーマインは瞬時に背後を振り向く。
「ぇ……だ、だってアーネスト…チョコは好きじゃないって…」
「あぁ、余り好きではないな。だがな……愛しい恋人が自分の為に作ってくれる手作りチョコなら大歓迎だ。
しかもバレンタインデーという年に一度のこういう機会にしか食べられないチョコを貰えるというのだから、
ここで食べないというのは男が廃(すた)るってモノだろう? 違うか、カーマイン」
「ぁ…」
頬が染まり、熱くなるのを感じた。嬉しいという感情がカーマインの全身を駆け巡る。
「……ぅん、俺……嬉しい…凄く、嬉しいよ……。
あ、でも…まだ全然完成していないんだった。溶けただけのチョコじゃ…」
「いや、それでいい。それで十分だ」
ニヤリと笑うアーネスト。彼の脳裏にはこれから起こそうと思っていることが展開されていた。
それはおそらく特殊なコトと言われればそうかもしれないが。
「??」
だがカーマインには良く判っていないのは当然のことだろう。可愛く首を傾げる彼の頬を撫でて、
再び彼の身体を反転させた。
向かい合うふたり。
アーネストは器用に彼のエプロンを脱がしていく。
腰の辺りで結ばれているリボン状の紐を解くと、はらりと床にエプロンが落ちた。
「あ…アーネス、ト…??」
彼が何をしようとしているのか、カーマインには全く判らない。
ただその行動を見守るばかり。しかしこれが後々、後悔する羽目になるのだが
それは今は大した問題ではないだろう。怖い程にアーネストは無言で。
しかし本当は笑い出したいのを我慢しているだけであって、確信犯と言えるかもしれない。
漆黒色のレザータートルネックの裾を捲り上げた。
「ひゃあっ」
そのいきなりの行為にカーマインは驚きの声を上げる。
「ちょ、ちょっといきなりなに盛っているのさ!」
文句を言うが当のアーネストはどこ吹く風である。
「何って…チョコを食べるのだが?」
しれっと言い放つ恋人に唖然とする。
「食べるって……俺はチョコじゃないんだけど…?」
「あぁ、それは今からお前がチョコになるからな」
「………ハイ?」
ワケ判らんといった表情で言い返すが、アーネストはただただ不適に笑うばかり。
「いいから黙って俺に喰われてろ」
そう断言するとアーネストの行動が大胆になった。
服を捲り上げるとアーネストの目に飛び込んで来るのは真っ白な肌。
そしてその肌にあるふたつの小さな華。紅く咲く小さな華。まだ完全には咲いていないが。
アーネストはカーマインの背後にある小さなボールに人差し指を入れ、溶けたチョコを掬う。
甘く溶けたまろやかなチョコの香りが鼻をくすぐる。そのチョコをカーマインの小さな紅い華に擦り付けた。
「…ぅんっ」
くすぐったさについ甘い声が出る。瞬時に真っ赤に染まるカーマインの頬。
「ば、バカ! そんなふうにチョコを食べるなんてどうかしてるよっ!!」
漸くアーネストがしようとしていることを理解出来たカーマインが文句を付けるが、
やはりアーネストは我が道を行くようで耳を貸そうとはしない。
「これならお前もチョコも一緒に美味しく食べられるだろう? 違うか?」
「違う! 思いっきり違う!! そんな…変なプレイは、俺……ヤダよぅ…」
プレイか、なるほどそうとも言うな…などと感心したアーネストであったが、
今更止める気など毛頭ない。そのプレイをしてみたいと思ったからだ。
「気にするな。こんなプレイも新鮮でいいだろう」
「良くないって全然良くないってば……ぁん」
濡れた声がカーマインの口から出たのは胸に咲く小さな華をチョコごと舐めたからで。
「イヤと言う割にはイイ声が出るじゃないか」
クスリと意地悪く笑うアーネストを正直殴りたくなったが今はそんな余裕もない。
「ほんっ…と、に……やめ…」
更にチョコを塗りたくり、アーネストは舌で転がしながら舐める・噛む・吸う
そんなことをされれば身体が反応するのは当然のこと。
無意識にカーマインの腰が揺れる。身体のとある一部分に熱が溜まり出す。
「…や、ぁ……んんっ……」
懸命に声を出さないようにしているがそれは到底無理なことだった。
この身体はすっかり出来上がっているし、なにより恋人の愛撫に逆らえたことなど一度もないのだから。
いや、それよりも身体と心が彼を求めているのだ。例えこんな変なプレイだとしても身体が、心が、歓喜する。
カーマインの潤んだ瞳がアーネストに伝えた。早く解放して欲しい。と。
それを受けて、アーネストはレザーパンツのジッパーを下げた。前を肌蹴られ、カーマイン自身が外に出される。
冷たい空気に晒され、フルリと身体が震えた。
「ここも、な…」
アーネストは再び人差し指でチョコを大量に掬い、ゆっくりとカーマインの前にしゃがみ込む。
掬ったチョコを彼自身の先端に擦り付けた。
「くぅん…」
可愛い子犬みたいな声を出し、彼が感じているのが解る。早く早くと解放を望んでいることも。
「さて………では、頂くとするか」
下から見上げるようなアーネストの視線はまるで捕食者のようであった。無論、捕食されたのはカーマインその人。
「ん……ぁ、あ…」
背後にあるシンクに両手を付いて寄り掛かるように体重を預ける。
両足を軽く開いたその間にいるのは愛しい恋人。そして勃ち上がりかけた自身を両手で優しく握るように持っている。
その先端にはチョコが満遍なく塗り付けられており、かなり卑猥な光景とも言えて。
「喰べても…構わないな?」
アーネストから嬉しそうにそう問われればイヤとは言えず。
耳やら首やらを真っ赤に染めながら小さく小さく頷いた。
「………ぅん、俺を……残さず、食べて…」
それを聞き、アーネスト優しく微笑む。そして、丁寧に言葉を放つ。「頂きます」と。
「あああぁぁぁぁ……ぁ、っ…」
快感が全身を貫いた。一瞬だけ意識が軽く跳ぶが直ぐさま明確になる。
アーネストの頭上に置いた両手が小刻みに震えた。その手は突き放したいようにも、
行為を催促するようにも見え。
「ふぁ……んっ、んっ……ァ」
カーマイン自身に付いたチョコをねっとりと舐め、舌で絡めるように啜る。
幹の全体に舌を這わせながら残らずチョコを舐め取る。
咥えながら先端を吸い出し、窪みに舌を入れ、左手の指で二つの袋を優しく揉み上げる。
「あんっ……んん…く、ふ…」
膝から徐々にチカラが抜けていき、しゃがみ込みそうになる。
それを阻止するべくシンクに付いた両手に懸命にチカラを込めた。
眼の奥でチカチカと光が瞬き、もう何も考えられない。
ただとにかく溜まったこの熱を解放して欲しいということだけ。
ちゅう、と吸い出す音がやけに淫らで更にカーマインの頬が赤く染まった。
彼自身はもう手で支えなくとも完全に勃ち上がっており、今か今かと解放を待ち望んでいる。
「ん…あ、…ネス……ト…」
絶え絶えになりながら声を振り絞る。もう満足に声を発することが厳しくなって来た。
じゅるり、と卑猥な音を立ててアーネストがそれから口を離す。
「ん、どうした? 良くないのか?」
カーマインが何を望んでいるか知っていながら意地悪く訊ねた。
「や、ぁ……わか…て、る…く……せにぃ…」
生理的な涙が頬を伝う。見詰め合うふたり。先に降参したのはアーネストであった。
「解った解った。ちゃんとイかせてやるよ、カーマイン」
「…ぅん……は、や…くぅ」
実はイきたくともアーネストの指がカーマイン自身の根元をきつく締めており、
勝手にイくことが出来なかったのだ。
漸くイけると知り、カーマインは蕩けるような表情を浮かべる。
そうして。アーネストは彼を絶頂に導く為、口淫を再度開始した。
「あっあっあっ……あぁん、ぁッ…」
彼から与えられるその激しい愛撫にカーマインはここがキッチンであることも忘れて甲高い嬌声を上げる。
もう理性など欠片も残ってはいない。湧き上がる快感を素直に享受して高みを望む。
「そこ、駄目っ………で、ちゃうっ」
アーネストは滑(ぬめ)る右手の中指を両足の付け根の奥の秘所に突き入れた。
と同時にカーマイン自身を喉奥まで呑み込み、一気に吸引。
「――――――ッ!」
喘ぐ為に開いた口からは、声は出なかった。ビクンビクンと腰を痙攣させて背を仰け反らせる。
力一杯、アーネストの頭を突っぱねた。
びゅるっと粘着質の音が妙に鮮明に聞こえて。それをアーネストは戸惑うことなく嚥下していく。
「あ、は…ぁ……」
ゴクッと喉を鳴らし飲む干す音が虚ろな耳に入って来た。
最後に、ぢるぅっと痛いほど吸い上げられてから漸く口を離された。
秘所に突き入れられた中指も抜かれて。
その直後、両膝のチカラが抜けてズルズルと身体がシンクを伝いながら座り込んでしまう。
懸命に両肩で息をするが中々上手くいかず。
口元に付いた残滓をアーネストはペロリと舌で舐めた。
「…ふむ」
短いその彼の言葉に俯いていたカーマインは顔を上げた。
そこには大変満足げな恋人の表情。そして、放たれたのはアーネストの正直な感想。
「ご馳走様。甘くて美味かったぞ ――――― お前のミルクチョコ」
次の瞬間。
メラッと何かが湧き上がった。心の奥底から昏い闇が顔を出す。
光であるカーマインの奥底に静かに眠る…ヤミ。
ただし、顔を真っ赤に染めながらだが。
「あ、あ、あ……アーネスト、の ――――― バカァーーーーーッ!!!」
必殺の左鉄拳がアーネストの右頬に綺麗に決まった。
後日、アーネストはこう語ったという…。
あの拳はきっと神をも超えたであろう、と。
了
魁龍様宅の5周年祝いに貢ぎました微妙絵のお礼にと頂いちゃいました!
ひゃああ、アニーのエロスメン!(ほめ言葉です) チョコレートプレイですよ奥さん!マニアックプレイに萌えます。
というかもうカーマインが可愛くて!赤い顔で俯かれたら堪りませんね・・・!
アニーも変態ですが私も変態です(ついに言った!)
神速パンチ受けてでも構い倒し隊です。素敵な小説有難うございました魁龍様!
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