表の続きまで飛ばす▼


※この作品は、キリ番限定設定であります。
GL6ED後、インフィニトーを倒し、歴史が変わった世界が舞台です。
(ゼオンシルトの人間関係が全てリセットされた状態)







平和維持軍と、グランゲイル王国軍。
あまりにも両極端な思想を掲げる両軍は、表立って剣を抜きあう事はなくとも、
誰の目から見ても一触即発な険悪の仲だった。

故に、極内密にせめて見せ掛けだけでもいい、ほんの少しでも関係修復を図ろうと。
友好条約を結ぶため、その証として両軍の幹部同士を番いにしようという所謂、政略結婚が
執り行われようとしていた。本人たちの意思を無視して・・・。




ラブミステイク




「・・・・・・は?」

重要な任務があると、司令室に呼び出されたゼオンシルトは紅い瞳を何度も瞬かせながら間の抜けた
第一声を零した。正面には指令を命じるクライアスの姿、その横には非常に申し訳なさそうな表情で副指令たる
メルヴィナが控えている。クライアスはともかくメルヴィナは冗談で指令を寄越したりしない。つまりは今命じられた
任務内容は嘘でも何でもなく、事実だと言う事で・・・・。

「・・・・もう一回、聞いても?」

自分的にはその任務内容はありえない事だったので、きっと聞き間違いをしているのだろう。そんな事を気休めに
思ったゼオンシルトは二人に向かって確認を取れば、悲しい事に先ほど聞いた内容と全く同じものが繰り返された。

「だから、お前にグランゲイル軍の将校と見合いをしてもらいたい」
「な・ん・で!」
「何でってお前、それはこの間の会議で決まっちまったんだからしょうがないだろ!」
「・・・維持軍とグランゲイルは小競り合いが尽きないから・・・形だけでも和睦関係を築きたいようね」

激昂するクライアスの後にメルヴィナの落ち着いたトーンの説明が入るものの、ゼオンシルトは納得出来ずに
差し出された見合い相手の写真を見下ろす。将校と見合いと聞いた時から何かが引っかかると思っていたが、
写真を見てその引っ掛かりの正体を知る。

「そうは言うけど・・・相手は男じゃないか」
「・・・・・ああ、そうだな」
「・・・・・・・・・そうね」

頷く二人の目は遠いところを見つめている。ゼオンシルトもそれに習い遠くを見つめた。平和のために男同士で
結婚してどうするんだ。そんな事を考えながら。

「・・・で、何でまた男同士で見合いなんてしなきゃならないんだ」
「それはだなぁ・・・話せば長い事ながら、一言で言えばミスだ、ミステイクだ」
「それは流石に分かるよ、むしろ本気だったら頭おかしいだろう」

よほど苛立っているのかゼオンシルトの言葉に遠慮というものがない。言われた当人であるクライアスは
ぐさりと矢の刺さった胸を苦しそうに押さえている。そしてそんな彼をまたメルヴィナは遠い目で見つめていた。
が、どうにも打たれ弱い指令の姿に痺れをきたしたのか紫髪、紅眼は向き直り。

「・・・クライアスに任せて置けないから私が説明するけれど・・・。
どうやら仲介人が貴方の事を女性だと思ったみたい」
「・・・・・・はあ?!」
「維持軍の名簿には首から上の写真しか載ってないから・・・」
「・・・それでも男か女かくらい分かるだろう?!」
「「うーん・・・・?」」
「何で首捻るんだ?!」

自分の問いかけに返ってくる曖昧な返事にゼオンシルトは激昂するも、対する二人は微苦笑混じりで。
睨みつけてくる紅眼からすいすいと視線を避けてくれる。

「まあ、向こうも乗り気じゃないみたいだし、こうして手違いもあった事だし、形だけでいいからさ」
「そう、形だけでいいから」
「形だけって・・・本当に男同士で見合いさせる気なのか?!言っちゃ悪いけどアホだろう!」
「悪いと思うなら、言うなよー。その点は大丈夫だ、こういうものを用意させた」

ごそごそとクライアスは机の下に合った長方形の箱を取り出すと、ゼオンシルトの前に置いた。はっきり言って
嫌な予感しか齎さない。ゼオンシルトは開けたくない!と心から思いながらも、仕方なくゆっくりとした動作で
箱の蓋に手を掛け、そっと開く。瞬間、思考は白く染まった。

「!!???」

深呼吸する。ごしごしと目が赤くなるほど擦り、もう一度箱の中身を確認するとバスッと勢いよく蓋を閉め、
見なかった事にしようとするもクライアスとメルヴィナがそれを許さない。

「おい、現実逃避はやめろゼオンシルト」
「だっておかしいだろう、何ではこの中身がドレスなんだ!?」
「・・・・向こうは貴方を女性だと思っているのだから・・・合わせるしかないでしょう?」
「そ、そんな馬鹿な話が・・・・!」
「あるんだなぁ、これが。ま、嫌ならいいんだぜ。その代わり減俸せざるを得ないが」
「任務をキャンセルするんだから・・・まあ、仕方ないわね」
「〜〜〜〜〜ッ」

自己の尊厳を主張しようとしたゼオンシルトだったが、給料を引き合いに出されては黙す他ない。ただでさえ今の
給料でもきついくらいなのに、減俸なんてされれば生きていけないかもしれない。苦渋の決断だったが、命を
むざむざこんな事で捨てたくなかったゼオンシルトは不服ながら、長い長い間を空けてこくりと一度だけ頷くのだった。



◇◆◆◇



それから数日後。見合い当日を迎えて相手側の将校――ルーファス=バードゼルフは憂鬱そうに天井を眺めていた。
維持軍とグランゲイル軍の形だけの和睦のためだけに借り出された自身の身の上を哀れみながら。一体何故自分が。
思っても血気盛んなグランゲイル軍内で人材を探すとなれば、自分以外に適任はいないようにも思う。
他の人間だったら、まずこの場に足を運んでない。初めから断るつもりだとしても。黙って席にすら着いてないだろう。
それを見越しての人選だったのだろうが、腑に落ちない。何が悲しくて、維持軍の人間と見合いをしなければ
ならないのか。軍の面子を保つためだとはいえ、あまりにも気が進まない。

「おまけに随分と待たせてくれるものですね」

自分が早く来すぎたというのを差し引いても、時間の5分前には顔を見せて然るべきだろうとルーファスは思う。
礼服の首元を整え、出された茶に口をつけながら暇な時間を持て余す。溜息ばかりが何度もその場に落ち、
どうやって断ろうかとそればかりを考えてしまう。結婚する相手くらい、自分で選びたい。それは贅沢な考えで
あるのだろうか。軍人である以上、国の平和のために尽くすのが当然――分かってはいるが、自分の一生と相手の
一生を背負う事だ。流されてはいけない。自分の意思でなければ、相手の事も不幸にしてしまう。

「・・・・・・・・ふう」

面倒だ。こういう時ギャリックのような性格ならばよかったとルーファスは思う。彼だったら、嫌な事は嫌と
はっきり言うだろう。周りの人間の苦労も考えず。自分の気持ちに嘘を吐かない、長所にも短所にもなり得る性格。
いい意味で自由なその気性はついつい羨ましく感じてしまう。ルーファスはそのようには出来ない。
流される事はないが、周りの事を考えてしまう。そのせいで二の足を踏む事が、ある。どちらの方がより良いのか
分からないけれど、ふと自分とは違う存在を羨んでしまう。もう一度、ルーファスは重い吐息を吐き出した。
途端にドアをノックする音が響いてきて、碧眼が音の発生源を追う。

「はい?」
「遅れて申し訳ございません、失礼しても宜しいですか?」

抑揚のない落ち着いた女性の声が扉越しに届く。ルーファスが返事を返すとドアが開き女性が二人室内へと
入ってくる。一人は付き添いの者らしい。紫髪の僧兵服を纏った女性が、後ろの白いドレスを纏った女性の手を引き
一礼の後、後ろに居た女性だけが席に着く。俯き気味の蜜色髪の女性。肌を殆ど露出しない、レースとフリルを
あしらった清楚ながらに可愛らしいドレスが目に付く。控えめなのかずっと俯いたまま。

「・・・・あの」

どうしようかと逡巡した後、ルーファスは顔を上げてもらおうと声を掛けたが、女性は手をぎゅっと握り締め
膝の上に置いたまま下ばかり見ている。彼女も自分同様、この見合いに対して不服があるのかもしれない。
思い至りルーファスは付き添いの女性を見た。紅いルージュが映える美しい女性。目が合うとややあって
席で縮こまっている女性に向けて何やら耳打つ。最後まで聞き取って俯いていた女性が顔を上げた。
長い前髪の奥、緋色の鮮やかな瞳が不安げに姿を見せた。女性というよりは少女のようなその容貌。
白い肌に、緊張しているのか染まった頬が可愛らしい印象を持たせる――少女。

「あ、の・・・オ・・私、ゼオ・・・あ、違う、シルティーナ=エレイと・・・申します」
「ああ、すみません失礼致しました、女性に先に名乗らせてしまいまして。
申し遅れましたが私、ルーファス=バードゼルフと申します。グランゲイル軍の・・・階級は大尉です」
「ルーファス、様ですか。初めまして・・・えっとあの・・・遅れてすみません、着慣れなくて」

恥ずかしそうにドレスを摘んで見せるドレスグラブを纏った細い指先。薄く桃色のルージュが載った唇が囁く様は
妖精のように愛らしくて。ルーファスは普段の卒のなさが嘘のように、上手い事言葉が浮かんで来なかった。
見蕩れて、いるのだろうか。自分が、女性に。あまりよく働かない頭の片隅でルーファスは思う。これでも、
綺麗な女性は見慣れている自覚があった。望まなくてもそういう女性が近寄ってきたから。けれど今目の前にいる
少女は初めて見るタイプの女性だった。親友のパートナーであるロッティと少し似た雰囲気ではあるが、彼女よりも
控えめというよりは大人しくて、淑やかながら何処か堂々とした落ち着きのあるロッティとは違って目の前の少女は
本当に少女といった感じで、初めて会う相手に対して怯えているような素振りすらある。庇護欲をそそる、ような・・・。

「ルーファス大尉、シルティーナは・・・少し人見知りをするので暫く私が居ても宜しいですか?」

ふと付き添いの女性が労わるようにシルティーナと名乗った少女の背を抱き、ルーファスに話しかける。
柔らかな手が背に添えられ、少女は安堵したように息を吐く。確かに彼女の言う通り、緊張しているらしい。
いつもの自分ならば、きっと宥めてあげられるだろうとルーファスは感じたが小さく首を振り、そっと微笑む。
こうするだけで大抵の女性が警戒心を解く。それは自身の顔が女のようだからだと彼は自覚していた。
けれども少女の表情はまだ何処か硬い。気を解してやろうと・・・すぐに断ろうと思っていた事すら忘れて
ルーファスは置かれていたティーセットからカップとポットを取るとシルティーナに茶を淹れて渡す。

「如何ですか?温まりますよ」
「え・・・あ・・・有難うございます、すみません」
「いいえ。そちらの方も・・・ああ、失礼でなければお名前を伺っても?」
「ああ、失礼致しました。私は維持軍副指令・・・メルヴィナと申します。以後お見知りおきを」

挨拶を受けてルーファスはメルヴィナの前にも紅茶の入ったカップを置いた。香ばしい香りを乗せた湯気が広がる。
受け取った紅茶のカップに口を付けているシルティーナは猫舌なのか水面を吐息で冷やしていた。ふぅふぅと
息を送る突き出た唇が幼くて可愛らしい。が、冷ますのが足りなかったのか、カップを傾け紅茶を含んだ少女は
ビクリと身体を震わせ、その体動でカップから少し紅茶を零してしまう。

「アッ・・・!」
「!大丈夫ですか!?」
「ゼオ・・・シルティーナ!」

零した紅茶がクロスを伝って少女のドレスにまで垂れていく。メルヴィナとルーファスは立ち上がり、粗相を
しでかしてしまったと真っ赤になっている少女に近づき、手を伸ばす。

「大丈夫ですか、これをお使い下さい」

涙目になっている少女にルーファスは綺麗で如何にも高そうなハンカチを手渡す。少女は困惑気味にそれを眺めた。
もったいない、とでも思っているのか。使おうとする気配がない。悪いとは思いつつ、ルーファスはハンカチを持ったままの
少女の手を取り、染みの広がるドレスのスカートにそれを押し付けた。じんわりと若草色の生地に赤茶色の液体が
染み渡っていく。少女ははっと瞠目し、自分とは対照的な碧眼を見上げた。

「・・・早く洗わないと染みになってしまいますよ?」
「あ・・・ごめんなさい、ハンカチ汚しちゃって・・・・」
「いいえ、私が勝手にした事ですから。それより熱くないですか?何処か火傷してません?」
「あの、・・・オ・・・私、鈍くさくて・・・すみません」
「構いませんよ。そそっかしい女性、私は好きですから・・・可愛らしくて」

本来の調子を取り戻してきたのかルーファスは、優しく微笑み口説き文句のようなくさい言葉を平然と言ってのける。
重ねた手のひらを本人に知れぬよう、ほんの少し力を込めて握った。いつの間にかルーファスはこの出会ったばかりの
少女に心を囚われ始めている。交わした言葉も過ごした時間もあまりにも少ないというのに。対する少女も好意か
否かは知れないが、ルーファスの言葉に少なからず反応を返していた。見下ろしてくる白皙の相貌は先ほど以上に紅い。
肩に掛かる長い金の髪に指を絡め恥ずかしそうにまた俯いてしまった。

「シルティーナ殿、折角ですから・・・散歩でもしませんか?」
「え?でも・・・ドレスが・・・」
「庭先を少し歩くだけです、人目はないと思いますよ?」
「あ・・・でもメルヴィナが・・・・」

残されてしまう彼女を気遣ってか少女はもう一人の美女を振り返った。少女と同じ色の瞳は軽く瞬くと柔らかく
細められる。気にするな、と言う事だろうか。少女は困惑を顔のに乗せながらルーファスを再び仰ぐ。
きょとんとした大きな瞳が目を引く。紅玉のような艶やかさと、子供の玩具の宝石のような派手な輝きがそこにあり。
初対面なのに抱きしめたい衝動に駆られてルーファスは自分自身に対し苦笑した。

「ルーファス大尉?」
「どうしました。お許しが出たようなら、外に出ませんか?」
「あ・・・はい。でも私と一緒に歩いても楽しくないと思いますよ?」
「そんな事はありません。きっと楽しいですよ」

言ってルーファスはずっと掴んでいた手を持ち替えて、少女が立ち上がるためのエスコートをする。
その紳士的な佇まいに少女は擽ったそうに笑った。ずっと緊張した面持ちばかり見せていた彼女の見せた笑みは
思っていた以上に愛らしくて青年は言葉を失ってしまう。

「大尉?」
「あ・・・それでは行きましょうかシルティーナ姫」
「・・・・・姫なんかじゃないですよ」
「いいのです、私が姫だと感じたのですから」

またしてもくさい言葉を吐き出す男に少女は面食らったように目を見開いて、微苦笑を称えたまま導かれるままに
歩きにくそうなドレスを引きずって男の後をついて歩く。たどたどしいその足取りは親鳥の後をついて歩く、雛鳥の
ようで見守るメルヴィナは心配半分、微笑ましさ半分といった眼差しで二人を黙って視界に捕らえていた。



◇◆◆◇



二人のために貸しきられた会場を外に出ると、目前に庭園が広がっている。綺麗に切りそろえられた植木や
舗装された花の小道、壁を伝いアーチに絡みつく薔薇が綺麗な庭。大地の衰退していく土地でよくもここまで
緑を残しているものだと先を歩くルーファスは思う。グランゲイルにはこのような場所はない。緑化、農地の研究を
行っている維持軍の基地だからこそ用意出来た場所だろう。それを思うと、憎い相手だろうと縁談をさせようとした
上層部の考えも分からないでもない。維持軍の者と結ばれ、円満な関係を築ければこの緑化の研究を
国に持ち帰る事も可能のはずだ。それはつまり国を救う事に繋がる。

「・・・・・・・・」

しかし、ルーファスはそっと振り返り自分より数歩後ろを歩く少女を見遣って、溜息。控えめというよりは何処か
おどおどした様子が気を引く。如何にも純粋無垢といった感じの少女。大抵の女性は自身の身分と女のような容姿に
惹かれて集ってくるというのに、後ろを歩く彼女にはそういう打算的なところや下心は感じられない。むしろ、
縁談自体を彼女に会うまでのルーファスが思っていたように、拒んでいる気配すらある。それは困るとはルーファス。
相手を不幸にしたくない、政略結婚の犠牲にしたくない、だから断らなくてはと思っていたのに、ルーファスは
少女の事を気に入ってしまった。思惑に、乗せられるかのように。

「・・・・シルティーナ殿。いきなりこんな事を言うと、貴女に失礼な事でしょうが・・・」
「・・・・・え?」

不意に足を止めてルーファスは口を開く。少女は突然声を掛けられて驚いたように聞き返す。
呆けた様子がまた微笑ましい。笑いそうになるのを堪えてルーファスは続けた。

「私は本当はこの見合い・・・断ろうと思っていました。
私にはまだ結婚は早いし、好きな相手くらい自分で見つけたいと・・・そう思っていました」
「・・・・・そう、ですか」
「ですが、こうして貴方に会ってみて考えが変わりました」
「・・・・え?」

くるり、向き直った青年は細いドレスグラブに包まれた指先を手に取り、自身の口元まで引き寄せると唇を落とす。
それこそ姫君相手にするように。優しい紳士的な接触に少女の頬は耳まで赤い。

「る、ルーファス大尉?!」
「失礼、驚かせてしまいましたか?」
「そ・・・それは・・・はい」
「好意を、分かりやすく伝えてみようかと思いまして」
「こ、好意?!」
「はい。どうやら私は貴女に一目惚れしてしまったようです」
「はいぃ?!!」

素っ頓狂な声が上がって、ルーファスも思わず目を丸くする。今まで女性にこんな反応を返された事などない。
自分に近づいてくる女性は皆が皆、言うなれば何処に出しても恥ずかしくない――完璧な淑女であったから。
初めての反応は、それだけで自身に対し衝撃を齎してくれる。酷く強い印象。これまでの記憶が霞むほど。

「・・・すごい驚き方ですね」
「え、え、だってまだ会ったばかりで、えっと・・・」
「一目惚れに時間は関係ないでしょう?
私は貴女と最初に目が合った瞬間に・・・心を奪われてしまったようです」

囁く声に篭る色は確かに愛情を示しているような気がして少女は戸惑う。そっと熱の引かぬ頬に手が伸ばされる。
髪先を巻き込んで包まれた頬に更に血が集まってくるのを感じて少女の呼気に僅かに乱れが混じった。

「綺麗な瞳をされていますね。私は綺麗な言葉を紡ぐ人より綺麗な瞳をした人の方が好きなんです」
「・・・・・綺麗な、瞳・・・?」
「嘘の吐けなそうな、優しい瞳です。綺麗ですね・・・」
「あ、・・・でも私・・・嘘を、吐いてます」
「・・・・・・?」

穏やかな声音で自身を評されて少女は堪らなくなったのか、一度唇を噛んでそれから青年の手をゆっくりと外すと
深呼吸をして手にしたままの青年の手を自分の胸元へと押し付けた。

「・・・・・え?」

何をするのか、問おうとしたルーファスだったが触れたそこは女性特有の膨らみも柔らかさもなく、自分と同じ
平らな硬さだけがあり、声を失う。女性であればそんな事はありえない。それ以前に初めて会った男に触らせは
しないだろう。それはつまり―――

「・・・・男の方、ですか?」
「・・・ごめんなさい、騙すつもりじゃなかったんですけど・・・手違いがあって・・・」
「手違い、ですか・・・」
「その、俺・・・女顔だから女に間違われてたみたいで・・・でももう取り返しのつかないところまで
話が進んでて・・・ただの見合いじゃなくて両軍の和睦が掛かってるから・・・見合いだけでもしなきゃって・・・。
でも貴方に嘘を吐き続けるのは嫌で・・・・ごめんなさい」

未だ手が触れたままの胸の奥からは、緊張によるものか随分と早い心音が届いてくる。

「・・・どうせ上の者にでも女装で誤魔化すよう言われたのでしょう?
性別を間違えたのだって他人のミス、貴女の・・・貴方の落ち度ではないでしょう。
それよりも、黙って断ってしまえばバレずに済んだでしょうに・・・」

怒るかと思えば諭すような言葉が相手の口から零れ出し、少女を装っていった青年―ゼオンシルトは首を振る。
初めからこんな事はしたくなかった。けれど自分の生活が掛かっていたため引き受けてしまったが、相手の
ルーファスの誠実さが、自分の事を見る目が酷く良心を痛めつけて、ついには黙っている事が出来ず、
事実を打ち明けてしまっていた。咎められるのは自分だと分かっているだろうに。

「・・・貴方は正直な人ですね。この縁談は破談です。元々受ける気はありませんでしたし、
このような手違いがあったとなればもう私にこのような話は来ないでしょう」
「・・・・・申し訳ありません」
「顔を上げて下さい、私は貴方を咎めているわけではないのです。縁談は破談ですが、
先ほどの自分の言葉を変えるつもりはありませんし」
「・・・・・・え?」

怯えた紅眼には、対照的に落ち着いた優しげな碧眼が映り込む。

「私は、今まで人を恋愛対象として見た事がないんです。興味がなかった・・・わけではないでしょうが、
気になる人が現れた事はありません。でも、貴方は違う。私は自分の感性を信じます」
「でも、あの・・・俺は男で・・・」
「性別なんて単なる属性分けに過ぎないでしょう?確かに自然の摂理には反するでしょうが・・・、
私は自分の感情に反してまでそんな事に拘るつもりはありませんよ?」

信じられないような言葉を聞いて、ゼオンシルトは唖然と口を開けた。容姿こそ、自分と同じく優男に分類分け
されるだろうものであるのに。その口から出てくる言葉は穏やかでありながら非常に男らしい。
自分の頭の中にある常識をいとも容易く一刀両断されてゼオンシルトはどうしたものかと悩んだ。
目の前にいる隣国の大尉は、今日初めて会ったばかりで、まだ何も知らなくて、しかも性別が同じで。
なのに彼は自身の事を好きだと言う。性別など関係ないという。関係ないわけないだろう、思うのに。
ゼオンシルトは碧い瞳から逃れられずにいる。

「今はまだ、色々混乱しているのでしょうが・・・私は貴方を好きになってしまいました。
だから、今すぐには無理でも必ず貴方も私の事を好きにさせてみせます」
「へ・・・?!」
「グランゲイルの男は一度決めた事は、
必ず成し遂げなければならぬと教えられていますからね。
覚悟して下さい・・・?」
「!!???」

ぎゅっと手を握り締めて宣言されてゼオンシルトは驚きすぎて声にならぬ声を上げる。
そんな彼の姿に満足げにルーファスは笑み。

「あ、その前に貴方の本当のお名前をお聞かせ願えませんか?」
「え・・・あ・・・・ゼオンシルト・・・です」
「ゼオンシルト・・・女性名も可愛いですが本名も可愛らしいですね」
「は・・・・?え・・・・恐れ入ります?」

なんだかよく分からぬが、褒められてゼオンシルトはパニックを起こしながらも礼を述べると、
愉快そうなルーファスが目に入り、その姿が視界から溢れるほどに大きくなったかと思えば、頬に手のひらに
受けたのと全く同じ温もりが落とされ・・・・

「ひゃっ・・・!!?」
「今度は本当の貴方に会いに来ますよ」
「な、な、なっ・・・」
「残念ですがそろそろ帰らねばなりません。また後日改めて」

それでは、と言い残しルーファスは会場の外で待っていた部下たちを引き連れ本国への岐路に着く。
残されたゼオンシルトといえば、風の出てきた庭先でドレスを揺らし、呆然と頬を押さえて立ち尽くしていた。



◇◆◆◇



心配になって様子を見に来たメルヴィナに連れられ、着替えを済まし自室に戻ったゼオンシルトはまだ何処か
ぼうっとした様子で目の焦点を合わせられずにいた。それも仕方のない事だろう。給料を盾に男といきなり
女装をして見合いをさせられ、更には告白されるなんて夢にも思わない。おまけに去り際にキスを受けた頬が
まだ熱を持っている気がしてゼオンシルトは居たたまれなかった。

「・・・・何で同性に告白なんてされてるんだ俺・・・」

そこまで女顔なんだろうか、なんて見当違いな事を考える。けれどそうではない。ルーファス本人が言っていたが
彼は見た目ではなく、直感で自分の事を好きだと感じたのだと。性別など関係ないと思えるほど、彼の想いは
自分に寄せられている、のだろう。信じがたいけれど。

「会ったばかりなのに・・・・」

問題はそこではない気もするが、ゼオンシルトは困ったように眉根を寄せる。おかしいのだ。相手がどうあれ、
自分が何故同性に想いをぶつけられてすぐに突っぱねる事が出来なかったのか。彼はそういう事に拘らないのかも
しれないが自分は違う。ゼオンシルトは強く否定した。今現在は無理でもいつかはお嫁さんをもらって平凡に
けれど幸せに暮らしたい、そんな望みがあるのに。

「自分が嫁にもらわれてどうするんだ」

そんな馬鹿な事、反対する両親も自分にはいないけれど・・・普通に考えておかしいのは分かる。
分かるのに、どうしてあの時自分は拒めなかったのだろう。手のひらに口付けられた時も、頬に口付けられた時も、
驚くばかりで嫌だとは思わなかった・・・ような気がする。

「気のせい・・・だろう?流されているだけ・・・?」

口に出しても確信する事が出来ない。あんな風に堂々と望まれてしまったからか、自分の事を。
まだ彼の囁きが耳に残っている。柔らかなテノール。耳の心地よい声。笑った顔が綺麗で、見つめる瞳が
酷く愛しげで。その口から出る言葉は妙に力強くて、胸を騒がせる・・・。

――本当に気のせいなのか?

思い出す度に熱を帯びる頬、痛む胸、鼓膜にはいつまでも消えない声が残り、脳裏にはまっすぐ自分を
捉える強い瞳が媚り付いているのに気のせいと言い切れるのか。

「・・・・・・・・・」

答えは否だ。けれど、認めてしまったらいけない、そう思うのも確かで結局どうしたらいいのか分からず
熱を帯びた身体は考える事を諦め、ベッドに肢体を横たえた。



◆◇◇◆



「・・・・で、悩みすぎて知恵熱出してしまったのですか?」
「・・・・・・・・・・・」

ベッドに入った後も結局色々考えてしまったゼオンシルトは翌日熱を出してしまった。情けないと毛布をかぶって
寝込んでいると、誰かが尋ねてきてついつい上げてしまったわけだが、今更になって後悔してしまう。
部屋に入ってきたのは今一番顔を合わせたくない人間で。

「何でいるんですか、ルーファス大尉」
「縁談を破棄したわけですからお詫びをしに・・・というのは口実で貴方に会いにきたのです」

にっこり、間近で微笑まれてゼオンシルトは頭痛が益々酷くなった気がした。

「しかしまさか熱を出されているとは思わず・・・大丈夫ですか?」

濡れタオルの置かれた額に手が触れる。暖かい手が熱を吸うように濡れた額を撫でた。
心地良いと思ってしまったゼオンシルトは何とも言えぬ曖昧な表情を浮かべる。

「本音を言えば・・・貴方の顔は見たくなかったです」
「私の言葉を、気にしているからですか?」
「・・・・・・はい」
「こうして熱を出すほど真剣に考えて下さったのですね、有難うございます」

ルーファスは嬉しそうにそう言うとゼオンシルトと目を合わせ。

「頭や理性で考えようとするから悩むのですよ」
「・・・・・え?」
「好きとか嫌いとか考えるものじゃないでしょう?もっと直感的なもののはずです」

言葉と共に寝転ぶゼオンシルトの顎を上向け、

「・・・・ッ!?」

驚き跳ねる身体を押さえて、顔を近づける。そのまま熱を帯びた唇に自分のそれを重ねた。
一日前は紳士的だと感じた青年の、突飛な行動にゼオンシルトは怒る事も出来ず、ただ篭った吐息を零す。
どころか思いの外、他人の温もりが心地よくて気づけば目を伏せてさえいた。

「・・・っふ・・・」
「・・・例えば、今貴方は拒もうと思えば拒めたのにそれをしなかった。それは何故でしょう?」
「・・・・・それ・・・は・・・」

ほんのりと染まった頬で色の付いた呼気でゼオンシルトはルーファスと目を合わせられずに横を向く。
拒まなかった理由など自分が聞きたい。同性でこんな事、おかしいと思うのに体が動かなかった。
怖かったわけではない、むしろ安堵してしまった感がある。頭の中は真っ白で何も考えられなかった。
それが一体どう言う事なのか、結論を出せるほどゼオンシルトにはそういう経験がない。

「少なくとも、嫌ではなかった・・・そう言う事ですか?」
「・・・・はい・・・嫌では、なかったです」
「男同士なのに?」
「・・・・・・・・・」

更に問われた内容に声としての返事はなく、ただ一度こくりとゼオンシルトは頷いた。

「普通は嫌と思ったり、気持ち悪いと思うものですよね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「でもそうじゃなかった。それはつまりある程度は好意があると・・・そう受け取っても?」
「・・・・違い、ます」

黙っていたゼオンシルトは意を決したようにルーファスを正面に捉え。

「ある程度、じゃなくて・・・多分、もう好きになってます」

本当は告白された時点で恐らくそう思っていた。けれど自分の中にある常識とかそういうものが否定させた。
でもキスを受けてゼオンシルトは、目を逸らしていた事実を受け入れざるを得なくなってしまっていた。
照れくさそうに微笑んでやや驚いているらしいルーファスを見上げる。

「大尉、俺・・・大尉の事好きになっちゃいました。だから・・・責任とって下さいね?」

そう告げられて、丸まっていた碧眼はやがて優しく眇められ・・・・・・


◆◇◇◆


数ヵ月後。

無理難題と思われた同性同士の結婚をルーファス=バードゼルフはよく回る口と処世術を用いて方々を
駆け巡った末に認めさせ、挙式を挙げる事で責任を果たした。式には平和維持軍幹部、グランゲイル軍上層部、
それに新郎新婦の友人やら家族などが集められ、こじんまりとした式にすればいいものをそれなりに盛大に
執り行い、広く二人の事は知れ渡る事になったのだが・・・。

「おい、何でまた俺が全く知らない野郎との式に出なきゃなんねーんだ」
「それは貴方が私の親友代表だからですよギャリック」
「はっ、友達少ねえだけだろお前は」
「ぶっ飛ばしますよギャリック」

新郎のルーファスがモーニングの下に隠し持っていた武器をちらつかせると、客席で仕方なく料理を摘んでいた
ギャリックが背筋をぴんと張り戦いた。ゴホンゴホンとわざとらしく咳をして、猛獣のような碧眼から目を逸らす。

「ま、まあとにかく勝手に幸せになりやがれ。俺は知らん」
「知らんって・・・大体貴方が彼を見合いの相手に選んだんじゃないですか、聞きましたよ?」
「あ?それはあれだよ膨大な維持軍の写真持ってこられてお前の好みそうな奴を選んでくれっていうから
お前が好きそうな奴をちゃーんと選んでやっただろうが。だから結婚なんてしてんだろ?!」
「それは確かに好みでしたけど、性別間違えるとか考えられませんよ?」
「うるせえな、だったら結婚なんてしてんじゃねえよ」
「ちょっと逆切れですか?もう酔ってるんじゃないでしょうね」
「だからうっせえっつの。こんな薄ら寒い席で素面でやってられるかっつーんだよ、酒持って来い、後輩」
「はっ、その後輩に階級並ばれた上に先に結婚された先輩様に出すお酒はございません」
「やんのかコラ?」
「全身蚯蚓腫れ男になりたければ止めませんが?」

睨み合って一触即発な雰囲気だった二人だが、再度ルーファスが武器の鞭を取り出したため、ギャリックは
掴みかかっていた胸倉をぱっと離し、やはり視線を合わせない。

「・・・・・だー、もう俺に絡んでねえで新婦?のとこ行ってこいや、そして二度と戻ってくんな!」
「言われなくても!お先に幸せに暮らさせて頂きます!」
「だから絡むなっつの。居酒屋の酔っ払いかてめえは、さっさと行け!」

しっしと払われてルーファスは何処か心細そうなゼオンシルトの傍に寄り添い。

「・・・これからは私が幸せにしてあげますからね、ゼオン」
「うん、これから宜しく旦那様」

望まれてもいないのに、人目も気にせず神々の見守る教会の下、長い長い口付けを交わした―――



〜after〜



「さあ、これで晴れて貴方は私の妻というわけですねゼオン」

式の終わった夜、まっすぐにバードゼルフ家の屋敷へと戻ってきた二人は新たな局面を迎えていた。
所謂、初夜というものだ。心身共に夫となるルーファスに捧げる時がきて、ゼオンシルトは息を詰める。
思えば出会ってからまだそんなに長い時間を過ごしたわけでもない。けれど、会う度に互いの想いは確かに
深いものへと変わっていった。他の誰といるより、二人の時間が幸福だった。どんな事をしていても
頭の片隅にはお互いの存在が場所を占め、消える事はなかった。

「今日という日がとても待ち遠しかった。貴方が名実共に私のものになる日が」
「ルゥ・・・・俺も、皆に認めてもらえて嬉しかった」
「・・・もう、帳は降りています。最後の儀式を迎えても?」
「うん、もう怖くないから・・・大丈夫」

付き合っている最中、何度かこういう雰囲気になったもののいつもゼオンシルトが怖がって結局この日まで
肉体的な接触はなかった二人。けれど式を挙げて心は決まったのか、ゼオンシルトはルーファスに抱えられ、
部屋の奥に備えられた天蓋つきの豪奢なベッドに横たえられる。

「優しくしますから、怖がらないで私に全て委ねて下さい」
「う、うん・・・何だか緊張するね」
「大丈夫。怖い事は何もしませんから・・・・」

ゆっくりと耳元に囁き、横たわった肢体の上に覆いかぶさるとルーファスはそっとゼオンシルトの量の多い髪を撫で、
安心させるように顔中にキスの雨を降らせる。昼間に浴びたライスシャワーのような祝福の雨。瞼、額、頬、鼻筋、唇と
丁寧に宥められ、強張っていた身体から力が少しずつ抜けていく。

「・・・・ん、・・・・」

啄ばむ程度の優しい接触が次第に唾液を絡め、卑猥な水音を立て始める。割り入ってくる舌が器用に動き、
経験のない純粋な青年を酔わせていく。呼吸のために一度離れてもすぐに角度を変え追い縋る。何度も何度も
執拗なほどキスをして、熱い吐息が零れるようになった時、既に潤み始めた紅眼と強い光を帯びる碧眼が交じり。
指先が服の下に潜り込む。焦れるほどゆっくりした接触が腰骨から腹部をなだらかに辿って胸まで這い上がる。

「・・・・ぁ」

膨らみのない、平らな胸をさ迷っていた手が、その中心の色づきに触れた時、ゼオンシルトは小さく声を漏らした。
首を仰け反らし、うっすら開いた唇からは吐息交じりの喘ぎが零れ始めている。それをより顕著なものにしようと
ルーファスは意図して指の下にある突起を強く押し潰す。痛みにも似た衝撃が押された場所から広がり、細い喉は
堪えきれずに悲鳴を上げた。

「ふ、あぁっ・・・」
「可愛い声ですね、ゼオン・・・」
「や、そんなに・・・あ、あ・・・」

知らない事だらけの素直な身体は与えられる刺激に従順に応えてしまう。二本の指の間に挟まれて転がされると
嫌々と愚図る幼子のように蜜色髪は激しく首を振る。張り付いたシーツが波を作り、乱れていく。
更に指だけでなく唇を敏感な箇所に落とされてゼオンシルトの紅い瞳には薄く涙の膜が張られた。
熱い舌が色を濃くし始めた胸飾りを舐め濡らしていく。その感触の生々しさに白い肌は汗と共に戦慄を露にする。

「や・・・ルゥ・・・・ああっ!」
「大丈夫ですよ、ゼオン・・・気持ち良いのは恥ずかしい事じゃないですから」

宥める言葉を遠く感じながらもゼオンシルトは必死に頷く。耐えようと、身構えて、けれど歯を立てられると
面白いくらいに身体を浮かせる。肌を吸われて、全身を撫でられて、臍に指を埋め込まれて軽く眩暈を覚えた。
ルーファスが顔を動かす度に擦れる長い髪もゼオンシルトの敏感な四肢には辛い。好き勝手に移動する指先が
腿を行き来し、内股を何度も撫でていく。その度、びくりと中心部が疼くのを知りながらルーファスはそれより先に
手を伸ばそうとはしない。ゼオンシルトが閉じていた瞳を見開く。

「・・・・は・・・ゃ・・・・奥、・・・・」
「何ですか?」
「あ・・・・ぅ、ん・・・何、か・・・奥の方が・・・疼いて・・・あ、っ・・・!」
「ここ、ですか?」

蜜を零し、触れて欲しがっている素直なところを無視して、腿から滑らかなラインを辿っていた指先は更に奥の
秘部に触れた。瞬間、蕾がピクンと蠢く。何かを求めるように。

「少し、力を抜いて下さいね?」

言って入り口を数度擦ると、男のものにしては細い指が侵入を試みる、けれど。力を込めてもぎちぎちと閉まった
秘部はその侵入を拒む。少しだけ首を傾げルーファスは今まで埋めていたゼオンシルトの胸から顔を上げると
下方へとずらし、小刻みに震えている脚を大きく開かせその間まで移動させ・・・。髪が腿に擦れ、奇妙な
騒めきを伝え、更に新緑の綺麗な髪にゼオンシルトから溢れ出す快楽の証が染みを作る。

「・・・・ルゥ?何、・・・ぅあっ!」

何をしているのか問おうとした矢先、ゼオンシルトは全身を強張らせた。ルーファスの柔らかい舌が、対照的に
硬く拒む蕾の上をぬるぬると舐め上げていく。止めさせようと伸ばされた手は片手で封じられ、身動きすると
咎めるように中まで舌で侵食される。

「あ、あ、や、ああぁ!」
「・・・・ん、」

尖らせた紅い塊は、唾液を纏って慎ましやかな入り口を粘着質な音を立て濡らしていく。
襞を掻き分け、内側まで潤いを行き渡らせると、内股を擦っていた指が無理やり抉じ開けるように押し込まれる。
その鋭い感覚に組み敷かれた肢体は暴れた。

「あ、ああっ、だめ・・・だめ、それっ」
「駄目じゃないでしょう?こんなに深く飲み込んで」

追い立てる言葉が耳まで犯す。力を込めて内を捏ねられると、嬌声が勝手に口をついて出てきてしまう。
ゼオンシルトは必死で自分の口を両手で押さえるものの、くぐもった悲鳴は消せない。奥の硬い部分を爪の先で
掠められ、涙が溢れた。ルーファスがはっとして顔を上げる。

「ぅんン・・・!」
「ああ・・・泣かないで下さい、ちょっと強すぎたようですね」
「はぁ・・・は・・・・ルゥ・・・?」
「大丈夫ですよ、可愛いゼオン。愛してます」
「ルゥ・・・・?・・・あ・・・ッ!!」

そっと触れるだけの口付けが額に落とされた瞬間、内を蠢いていた指が引き抜かれる。しなやかな背筋が
反り返り、驚きを露にしているうちに、指の代わりに愛欲を湛えた熱が宛がわれ。

「う、ぁ・・・や、や、入ってく・・・ああぁ!」
「・・・ッ、もう少し・・・我慢して下さい」

ゆっくりと異物が濡れた内部に入ってくる。その衝撃は想像すらしていなかったもので、ゼオンシルトは
陸に打ち上げられた魚のように切れ切れの呼気を漏らす。痛みと恐怖が全身を硬くさせ、より痛みを強いものとする。
それはルーファスにもしっかりと伝わってきて。強い締め付けに苦しげに息を凝らすと被さった身体は、すっかり
力を失ってしまったゼオンシルトの欲の証に手を伸ばす。上下に緩く扱くと青ざめていたゼオンシルトの顔色は
薄紅に染まっていき、強張りが解けた。

「・・・は、・・・ほら、全部入りましたよ」
「ルゥ・・・・熱・・ぃ・・・」
「・・・明日、目が覚めたら・・・一番に貴方の顔が見れる・・・幸せです」
「・・・・うん」

手を組んで、踏み込まれる。相手の存在を一番強く近くに感じるその一瞬。熱に浮かされ白む脳裏。
見えなかったもの、知らなかった事が見えてくるように、教えられるように、刻み込まれていく。
快楽の波の奥、見つけた情愛の淵に、初夜を迎えた二人の意識はゆっくりと溺れていった。



『おはよう、ルゥ』

『おはようございます、私の愛しい人』


―――翌朝、朗らかな日差しの中、新しい一日が始まる。



fin



147000打、裏Ver.というかおまけみたいなものですけどもUPです。
結婚するという前提だったので結婚するまでルーファスは我慢したのですよ(笑)
しかし、私の書くルーゼオには必ずちょこっとでもギャリが出てきますね。
もう彼らはセットなんですよ自分の中で。何だかリクから外れまくった気がしないでも
ないのはいつもの事なのですがリクエスト有難うございました、繭美様!


Back