君と、過ごす夜。



「さむ…」

肌寒い、雨の日。

いつも通り、休暇をライエルの日程に無理矢理合わせてやって来れば。
─城より急な呼び出しで留守、との事。
伝言を受けていたバトラーに通されたのはライエルの自室で。
きちんと整えられた生活感の薄い部屋。そこにカーマインの好きな本は確かに揃えられていた。

それは、約束を忘れた訳では無いという彼の意志の表れのようで。
カーマインはその気遣いに僅かに苦笑して、夕方になるまではそれを黙々と読みふけっていた、けれど──。


「寒いぞ、アーネスト」


もたれていた窓から身を離し、少しむくれてここには居ない彼に文句。

バトラーはまめに温かい茶を用意してくれたし、ブランケットを貸してくれた。
更には退屈しないようにと職務を少し離れてまで付き合ってくれたが、それでも。

─会いたい人がいないのに。

暖かくなんて、なる筈がなかった。

ふう、と。深い溜息。

─何を女々しい事を考えているんだ、俺は。


「やれやれ。…日も暮れるし、帰るか。」

今一度窓に目を遣り、諦めて扉に向かう。
いつもならば泊まっていくのだけれど、館の主が居ないのに部屋を用意して貰うのは悪い気がして。

─ドアノブに手をかけると、

「うわ?」

同時に扉が開いた。
─足音をたてない独特の歩き方。だから気づかなかった。
職業柄仕方無いのかもしれないけれど。

「ん?どこへ行く気だ?カーマイン」
「アーネスト!」

見下ろされる仕草に何となく腹を立てて、睨み付けるように見上げる。
そんな態度にライエルは訝し気に眉を顰めて口を開く。

「どうした?」
「…帰ろうかと思ったんだ」
「何故?」
「アーネストが遅いからだ」

会話しながらもライエルは室内に身を滑らせ、さり気なく扉を閉めた。
何とはなく彼が帰るのではないか、そんな気がしたからの行動だったけれど、それは正解だったようで。

「…待たせて済まなかった。」

弁解はせず、素直な詫び。

─何があったのか、は他国の要人には聞く権利は無い。
だからカーマインは理由は訊かずそれを受け入れて。

「…もう、いいのか?」「ああ。俺が出るまでも無い些事だ。」
「…そうか。」

ほっと、息をつけば肩の力は抜けて。
纏う空気が変わればライエルもまた顔には出さずにほっとする。

やっと逢えたのに。
ここで別れては余計に悲しい。

そっと手を伸ばして。
カーマインのまだ柔らかさの残る頬に触れた。
冷たい手にぴくりと揺れるが避けはしない。
下がっていた視線は紅の瞳に戻り。
ライエルは小さな微笑を浮かべる。

「ただいま。」
「…お帰り。アーネスト。」

先程の自分の態度を照れるように、はにかんで笑い。
冷たい外気の気配残るライエルの胸元に頭を預けた。




「…で。今日はどうする?」
「んー…」

直に日は暮れ、早めの夕食を共にし湯を浴びれば宵の口。

広いベッドの上で、眠るまでの遊びの問いにカーマインは真面目に考える。
チェス、オセロ、ポーカー。
自国にいては出来ない類の盤上遊技やカードゲーム─頭脳戦─がここならばし放題。
正直ローランディアに自分と本当に『遊べる』相手はいない。レベルが違いすぎるから。
手を抜いてはつまらない。
ライエルは嫌がりもせず負けず嫌いな自分に根気よく付き合ってくれる。だからカーマインはここが好きだった。

そんな、いわば年相応に遊びを選び悩むカーマインとは逆に、ライエルは目の前の青年をじっと眺める。
少し大きいライエルの上着を借りた姿のカーマインは、袖で口元を隠していて。
言っては何だが天然で可愛い仕草。ライエルは思わず手を伸ばす。

「…?なんだ?」

カーマインの言葉に無意識下な自分の行動に気づきはっと我に返るがもう遅い。
伸ばした手をとっさに髪に落とした。

「…濡れているぞ、まだ。」

何とか言い訳。

カーマインは疑いもせず、ああ、とライエルの行動に納得。

「別にこの位、眠るまでに乾くさ。」
「…そうかもしれんが、それまでに風邪を引けば明日の予定は丸潰れだぞ?」

ぐ、と言葉に詰まるカーマインに、チェストからタオルを出してやる。
ふわりと頭に被せて拭ってやれば、うー、と小さく嫌がる声。

「アーネスト、自分でやるから」
「却下だ。お前は軽く拭って終わらすだろう」

大人しくしていろと、言えばまだ不服そうだけれど逆らいはしない。
以前と比べれば、仲は進歩。
触れる事さえ厭うていた頃を思えば、各段な。
プライド高い猫を手懐けるような、時間をかけた距離の詰め方。
それでもまぁ気長にやるさと、ライエルは既に長期戦な構え。
先程のように、若さによる欲に負ける時もあるけれど。それでも。

─受け入れて貰えた事が既に奇跡だから。

絶対に手放したくない相手だから、カーマインが心から嫌がる事はしない。
それは失う事に比べれば、何て事は無い忍耐。

「…そういえばカーマイン。俺が遅いから帰る気だったと言ったな?」
「?ああ。」
「何故だ?探していた本は発掘して揃えておいた。執事には飽きないよう茶をまめに数種色々出せと言っておいた。
眠くなった時に備えて俺のベッドは使えるよう整えてあったろう?」

あとは何が足りなかったのかと、ライエルは紅の瞳に本気の疑問を浮かべる。

「…………。あのな…」

其処まで気遣えて何故一番大事で肝心な所が分からないのか?
ばっ、と勢いよくタオルから顔を出し、整った貌に怒りを浮かべて、

「アーネストがいないのに落ち着けるか」

─お前に会いに来ているのに。

は、流石に飲み込んだ。図に乗られては堪らない。
出来たら今の尊重される立場を維持したいから。が、その言葉だけでもライエルには大層な喜びだったようで。
珍しく目をきょと、と軽く見開き、次いで僅かに明るい声音で問う。

「『俺』が、いないから帰ろうとしたという事か?」
「………部屋の主が居ないのは居心地が悪いからな。」

目を逸らしながら言われた言葉に、ライエルは苦笑。
もう少し絡みたい気はするけれど、拗ねると後が面倒。

だから、

「せっかく来てくれたのに待たせて悪かったな」

ぽんぽんと、しっとりとした黒髪を撫でた。

「だから、子供扱いをするなと言ってるだろう」

煩さ気に頭を振れば、ライエルは素直に手を下ろすが呆れた視線。

「子供のうちは甘えていろと何時も言っているだろう。」
「子供じゃないと何時も言っているだろう」

きつい目つきで睨みつけられれば肩を竦めて。

「…やはり俺では頼りない、という事か。」
「…え」
「済まなかった」
「いや、だからそうじゃない。アーネスト…」

背を向けられて、怒らせたのかと慌てる。
ライエルは見かけと違い滅多に怒らない。
今まで─敵対していた時を除いて─怒鳴られたり、無視された事は無い。何を言ってもいつも、
いつだって仕方無い奴だと許してくれていた──


「…!」

唐突に、気付いた。
頭を殴られたような衝撃と共に。

─なんだ。甘えているんじゃないか。

ライエルなら、全部受け入れて受け止めてくれるんだと。
無意識にそう、思って。


「…?カーマイン?」

何も言ってこなくなった背後を、訝しく振り返る。
機嫌取りにもう少し、何か言ってくるかと期待していたのに。


「……知らない。」
「?何だ?」

俯いたカーマインを、そっと覗き込む。
伏せられた瞳は見えず、紅い唇だけがゆっくりと動く。

「『甘え方』なんか…知らない。」
「…カーマイン…」

─しまった、と。

ライエルの頭をよぎるのは青年の背景。
捨て子を装われた彼は、宮廷魔術師の義母に育てられた。
彼の義母に対する信頼と敬愛は知っていたが、過ごした日々は知らない。
甘え方を知らないと、それではその年月は遠慮した物だったのか。
拾われたのだという負い目があったのか。

ライエルは手を伸ばし、カーマインを強く抱き込んだ。

「ッ、アーネスト、」
「済まなかった」

耳元に落とされた、痛みさえ感じる苦い詫びに。包まれた腕の中、緊張を解いてもたれかかった。


「…サンドラ様に、甘えはしなかったのか…?」「小さな頃は、くっついていたさ。何も…知らなかった。」

ぎゅう、と。ライエルの背に手を回し、胸に顔を押し付け隠した。


─子供が真実を知るのは、ほぼ絶対と言っていいくらいの確率で、心無い周りの人間の口からだ。
カーマインも、その例に洩れず。
義母が語った真実は、その噂とはかけ離れた愛情満ちた告げ方だったのだけれど。それでも。
痛んだ、傷んだ心はそのままで。
無邪気に甘える方法なんて、思い出せなかった。

ライエルは抱き締めた青年の後ろ頭を何度も撫でる。
以前と同じ、優しさを以て。

宥める仕草にカーマインは深く息をつく。
そう。忘れていたから気付かなかった。
今抱き締めてくれるこの彼に対する絶対的な、知らず抱いていた無意識下の信頼。
これはきっと─…

「…アーネストには…甘えてる。」
「は?」

何処が。何時。

言葉に成らず、思わず間の抜けた一言が出た。
カーマインは笑った気配。

「…アーネストは…俺を甘やかそうとするから」「??当たり前だが」
「その想いに、甘えてるよ。」

いつでも手を広げて受け止めてくれる。

その、想いに。


「…好きだよ、アーネスト。」

それは自然に、口から零れ出た。
ライエルの体はぴくりと揺れる。
撫でる手は止まり、預けた頭は早い心音を得て。カーマインは訝しげにライエルを見上げた。

「…アーネスト…?」
「…はじめて、言ってくれたな」
「…?何…」
「俺を好きだと、その口で」

カーマインはあれ?と金銀異瞳を見開いた。
確か、好きだと思うとは言った事があった。
けれど、確かに。
思い返せばただの一度も素直に想いを告げた事はなかった気がする。


「…た、態度で伝わっていただろう?」
「ああ。だが、口にして欲しい言葉はある。」

上擦る声で言い訳してみても、ライエルに不安を抱かせていたのだと、その事実は突きつけられて。

「…ごめん…」

カーマインは身を起こし、ライエルの肩に手をかけ顔を寄せる。
詫びとばかりにその白皙の頬に口付けた。

「、カーマイン」
「…悪かった。」

囁いて俯いた。
本当に、甘えていた。ライエルの─大切な人の不安を読み取れなかった。これでは子供扱いされても仕方無い。
そんな深い自己嫌悪に満ちた落ち込みは、強制的に終了させられた。

「──ん…!?」

いきなり唇を塞がれれば、それは当然相手の唇で。
首を振って逃れようとするけれど後ろ頭は大きな手で固定され、更には腰にも腕が絡みついてくる。

偶に降る、優しい口付けとは違い、今それは貪るように深いもの。
角度を変える動きでさえ呼吸をさせてはくれない。酸欠は目に見えていたから相手の背中を思いっきり叩きまくった。

「──あ…」
「ッあ、じゃ、ない…!」

ようやっと離れたライエルに、苦しい息を堪えて文句。それから必死で息を継いだ。

「す、すまん。大丈夫か」

一方的な口付けの余韻に浸るより、呼吸を整える青年に気がいき、慌てて背中をさすってやる。
カーマインは咳き込みながらその態度にややほっとする。

─力で敵わないのは分かりきっているから、本気でやられては絶対に抵抗出来ない。
正気に返った彼にカーマインは、

「─て、手順を踏め!」「む、すまん。」

正論を叫んだ。
ライエルは反射的に謝ったが言ってからん?と首を傾げる。

「カーマイン?」
「なんだ」

濡れた唇をごしごしと袖で拭いながら赤い顔を上げる。そこには確かに怒りはなく。

「…怒っては、いないのか?」
「?怒るって、何故」

恐る恐るの問いは、あっさりとした問いとなって返ってきた。

「…口付けを…」
「だから手順を踏めと今言っただろう」
「…、口付けは、嫌では無いという事か?」
「??何故嫌がると思うんだ?」

─噛み合わない。

「アーネストからされて嫌な事なんかある筈がないだろう?」

何を今更、と言わんばかりの訝しさが混じった言葉。

「というか俺は嫌な事は嫌だといつも口に出しているだろう?無理矢理は、嫌だ。」
「……………………。」

脱力。

身を襲う果てしない脱力感に、ライエルは目眩さえ覚えがくりとベッドに両手をついた。
子供扱いをする事で、必死で手を出さないよう堪えていた、のに。
その忍耐も覚悟も、更には遠慮さえも無駄な物だった、と。
カーマインの言葉─主張を要約すればつまりはそういう事。
毎回の、子供扱いをするな、には、ひょっとしてそういう意味も含まれていたのだろうか?
ライエルはゆらりと力無く顔を上げた。

真正面のカーマインは、その一連の行動を疑問符を浮かべつつ見守っていた。
というか突っ伏す割には真面目な顔をしているから突っ込んでいいのかどうか分からなかったし。

「…カーマイン。」
「なんだ?」
「好きだ。」
「…、知っている。」

真面目な顔して寄越された、再びの告白。
何故そういう無表情で言えるのか。照れたりするだろ普通とか、内心ではぶちぶちとごちてみる。
するりと頬に手が伸びて来た。

「…無理矢理でなければ、いいんだな?」
「…ああ。」
「俺が何をしても?」
「…だから、そう言っている」

ライエルは力が強いから、無理矢理何かされれば逃げられない。
それは、怖い。
けれど、きちんと向き合うなら。
冷たそうな顔に、確かに暖かな想いを見取れるから。
ゆっくり近づく顔に、ゆっくりと瞳を閉じた。


「─って、待った!」
「…なんだ」

優しい口付けに、ぎこちなく応えていたけれど。

「て、が…」
「手が?」

─服の下に潜って来ているんですけど。

目で必死に訴えてみるがライエルは素知らぬ顔で。

「順を追えばいいんだろう?」
「無理矢理は…」
「俺が触るのは嫌という事か?」
「…そういう言い方、狡いと思わないのかお前は…」

こんな急に、とは思うけれど。
触れる、温かさに安堵を覚えるのも本当。

ふう、と深く息をつき。腹を決めて、ライエルの首に手を回した。

「…好きに、しろ」

体の力を抜いて、もたれかかって囁いた。
ライエルに熱く抱き締められ、見上げればそこにあるのは優しい微笑。
口付けられ、そのままゆっくり押し倒された。

「…嫌な事は、言ってくれ。絶対に、お前を傷つけないと約束する。」

真摯な言葉に、小さく頷いて答えた。
ライエルの事は信用しているし、その言葉に嘘が無いのも分かっている。
それでも、未知の恐怖は消えるものでは無く。
ともすれば体は震えそうになり、深呼吸で紛らわせた。
そんな緊張を読み取り、ライエルはちゅ、と額に口付ける。
次いで瞼、頬と。
顔中に啄むような口付けを、いくつもいくつも。

「…アーネスト…?」
「ん?」

戸惑う声に、優しく応える。
決して傷つけない、焦らない。そう示すように。口付けと微笑に、カーマインの緊張は僅かでも解けたようで。

小さく笑い返して、自分からライエルに口付けた。


ゆるり、服の隙間から脇腹に手が滑れば、擽ったさに身を捩る。

「こら。」
「はは、だって、擽った…」
「…まったく。今何をしているのか分かっているのか?」
「んー…?」

覆い被さるライエルに、横抱きにされるような形で触れられる。
呆れたような言葉をはきながら、忍び込んだ手はするりと胸の頂に伸びて。
そこに手が触れれば、敏感な身はぴくりと反応。生理的な涙が目尻に浮いた。

「…アーネストに、愛されてる…?」
「…正解だ。」

目を見合わせて笑い、深い口付けを交わした。



ゆっくりとゆっくりと。

体に落ちる口付けに、気付けば息が上がっていた。
あの緊張は嘘のように、力を抜いた体は素直に快楽を受け入れて。
その反応に、それは自分を信頼してくれている証だと、ライエルは深い喜びを覚えていた。
初めてだからこそ、この夜は深く記憶に残る。絶対に痛みや恐怖を刻みたくはなかった。

一糸纏わぬ裸体は、未だ少年の線を残していて。強く抱き締めるだけで壊れそうに映る。
その下肢に手を伸ばせば、緩く反応を示す欲が触れた。


「──ひゃ…」
「ん?」

柔らかく握り込んだだけでびくりと華奢な肢体が震えた。過敏な反応に流石に手を止めカーマインを覗き込む。

「カーマイン?」
「…や…アーネスト…」「嫌と言われてもだな…まだ何もしていないんだが」

掌に包み込んでいるだけで。
嫌な事はしないと誓ったが、このまま止めれば辛いのはカーマインなんだしと、ライエルはどうしたものかと暫し思案。
ちらりと見やった手の中の欲は、既に先端よりとろりと蜜を零していた。

─止めた方が恨まれるな。

そう判断し、カーマインの耳元にそっと囁いた。


「カーマイン?何が嫌なんだ?」
「…ッ、や…」

小さなその声にさえびくりと体を揺らす。
─これは、つまり。

「…大丈夫だ。カーマイン。感覚に身を任せろ。怖くなどない。」
「…ん、ンン…」

ふるりと、黒髪が首の動きに従い揺れた。
─感じすぎて、戸惑っている、と。
初めてでここまで乱れる程敏感とは。
有り難いのかやり難いのか。
微妙に秤にかけながら、驚かせないようそっと上下に扱いた。

「──ふぅ…ん、」

鼻にかかった甘い声が耐えきれず零れ出た。
ライエルの言葉に従い、快楽を拒まず素直に受け入れた身は貪欲に快感を食む。
裏筋を煽り、括れに絡め、先端に軽く爪を立てれば若い性は耐えきれず白濁を零した。

「──うぁ…!」

抱き締める腕の中、痩躯がびくりびくりと数度痙攣する。

「…ぁ…」

やがてくたりと力が抜ければ、荒い息をつく背を宥めるように撫でてやる。そうしながらベッドサイド、
常に其処にある瓶を取り出した。
たっぷりと指に其れを纏わせ、横向きになっているカーマインの脚を少しずらし、後ろの秘奥を撫でた。


「ひゃ!?なん、何してるんだそんな所!」
「元気だな。…ただの傷薬だ。麻酔入りの。」

暴れて逃げるカーマインを呆れて見遣る。
欲情に顔を、身を染めてさえ照れの抜けない行動に、まぁ緊張でがちがちになられるよりいいかと苦笑い。
どうにも甘い雰囲気が保てない。らしい、のかもしれないが。

「どうしても嫌なら今日は止めてもかまわん。俺は待つ。」

そう言って、ライエルは離れたカーマインに小首を傾げてどうする?と問い掛けた。
決して無理強いは無く、しかも自分だけ悦くなっているこの状況。
カーマインは暫し止まり、やがて観念してにじり寄るようにしライエルの元に戻った。

「…脚、開けばいいのか」

真っ赤な顔で、それでもライエルを受け入れる準備に従う決意。
そんな健気さ─というかプライドの高さに、紅を揺らして吹き出した。

「なんだ、何笑ってる?」
「いや…無理は、するなよ?俺は急ぐ気はない。」
「別に、嫌じゃない。……物凄く、恥ずかしいが、な」

耐えられない程じゃないからと、カーマインはそろりと脚を開いた。
頑固なんだか、素直なんだか。


そんな青年に、ライエルは背にクッションをかませ上体を楽にしてやってから脚の間に入った。
すい、と顔を寄せて、真っ赤な頬に口付けて。
瞳を合わせたまま秘奥を撫でた。

「─う…」
「気持ち悪いか?」
「…いや…、なん、だか妙…ッ、」

ゆるりと撫でていれば、蕾は解れ、ひくりと収縮しだす。
薬を追加し、カーマインの異相の瞳に問うようにじっと見つめる。
真っ赤な、どこか幼さの残る顔は小さく頷いた。ライエルはそっと口付けて。

「──あ…」

指を、侵入させた。
第一関節は、意外にするりと飲み込まれた。
けれどそこできゅう、と締め付けられる。

「─い、痛…」
「そうか、抜くぞ?」
「待った。」
「…?」

カーマインは呼吸を繰り返し、なんとか其処から力を抜く努力。
ライエルはそんな協力姿勢に何とはなく感動。
実の所今日は最後までは無理かと、諦めかけていたから。


「…そう、いえば…くすり、麻酔入りって…?」「ああ…、痛み止め程度の弱いものだが、常備している。」

ぐぷ、と軽く出し入れを繰り返し、回すように動かす。
気にはなるようだが痛みはないらしいカーマインの様子に、第二関節まで進めた。

「…ッ、じゃ、あ…深い怪我、今も…するのか?」
「?まぁ、それも仕事だからな。」

気を紛らわす為にしては妙な会話だと首を捻る。大抵の怪我は回復魔法で塞がる。けれど当然、大きな怪我程
繋がりきれなかった神経、細胞はじくじくとした痛みや違和感を残す。そういう時にはやはり薬が必要だから戦士達は
常備しているものだけれど。

「…アーネストが…ぁ、怪我、するのは、嫌だな…」
「…カーマイン…?」
「ん、傍に…居れば、護ってやるのに…」

言って、カーマインは両手でライエルの頬を包み、そっと口付けを。
そうされたままライエルは微笑う。


本当に、この青年はどこまで優しいのか。
傷付いて傷付いて、同じ国の者にまで罵られて。それでも護って護って、命まで懸けて。
以前カーマインにそう言えば、それはお前もだろうと笑われた。似た者同士だなと、暖かく。

─指が、内壁の少し硬い部分に触れた。

「ひゃ…?」
「痛いのか?」
「ちがう…何だ、其処…なんか…」

鈍い、何かを感じた。
今まで感じた事の無い、淡い感覚。他と違う、違和感。
ライエルは不思議そうにしながら、指を曲げもう一度其処を撫でた。

「ッア…?や、それなんか…いい…」
「此処か?」

場所を覚えたライエルが、更に強く其処を嬲る。

「ふぅッ!」

びくんと大きく体が揺れた。
カーマインは慌ててライエルの首に手を回してしがみつく。

「カーマイン、これでは…」

見えないし、やり難い。それでもすがりつく手を払うのは忍びなく。
カーマインの背にかませたクッションを抜き、そのまま押し倒した。

「…あ…」
「ん。ほら、背に回していろ。」

自由な片手で導かれ、カーマインは素直にライエルの背に手を回した。


シャツをきゅっと掴まれ、内心でその幼い仕草にどくりと身を騒がせるが鋼の意志でねじ伏せた。

─傷付けるな。恐怖を与えるな。
腕の中の最愛のひとに。

其れを再度頭に叩き込むと、涙に潤み、やや戸惑いを浮かべたヘテロクロミアに、紅を優しく細めて大丈夫だと囁く。

「俺に任せて、素直に感じていろ。嫌なら嫌と言ってくれれば必ず止める」
「…ん…うん…」

こくりと小さく頷く。
本当に、先程から見せられる彼は普段からは想像も出来ない態度。
幼い仕草に頼りなく揺れる瞳。それでも其処には確かに欲が浮かび。
彼には、性的な興奮はそんなふうに表れるのかと、自分以外の人間が知るはずもない姿に優越感。

深く唇を奪うと、たどたどしくも応える拙い舌に覚えがいいなと更に煽る。
カーマインがそれに溺れているうちに、内に潜ませた指に中指を添えた。背は緩やかに反るが其処には押し出す
動きはなく逆に吸い込むように蠢いた。
指先に触れる少し硬い場所に刺激を与えながらも少しずつ其処全体を広げていく。


カーマインの口からは最早嬌声しか洩れなくなった。それでもライエルは薬の追加を止めない。
いい加減カーマインの方が焦れた。

「ッア、アーネスト…も、いいから…」

慣らさなくていいから来い、と。
震えながら言い募るけれどライエルはすげなく、

「駄目だ」
「何故!」

受け入れる側が言ってるのにと、カーマインは目を見開いた。

「きちんと慣らさねば、裂ける。」
「さ…?」

現実的な言葉に興奮がやや冷めた。けれど、はしたなく欲を滴らす下肢は疼き、しかもライエルは蕾を慣らす間
其処を触ってくれない。達するに充分な興奮を得ているのに決め手を貰えないこれは拷問のようだった。

「…アーネスト…本当にもう、大丈夫だから…」

というか分かってて触ってくれないんだろお前、とか文句を言いたいがぐっと堪えた。

「…いいのか?」

戸惑うようにも聞こえるライエルの声音に、カーマインはきょとんとし、次いで少し笑う。

何だか本当に手探りだ。お互いに初めてなんだし仕方無いけれど、やはり普段何でもそつなくこなし優位に立つ
ライエルが自分の事にだけはこうして揺れてくれてる。それが、嬉しい。


─こんなに大切にされて幸せだなと、不意に涙が零れ出た。

「か、カーマイン?やはり怖いのか?」
「いいや…アーネストとこうしていられて、幸せだなと、思ってさ…」
「…カーマイン…」
「アーネストが凄く近い。俺はずっとこうしたかった。きっと…」

囁いて、強く抱き付いた。そうすれば、力強い片腕はぎゅっと強く抱き返してくれて。
深い安堵の息が洩れた。ライエルの耳元に、そっと言葉を落とす。

「…待ってる間、寂しかったんだぞ…」
「…済まなかった」

囁いて、ライエルは指を引き抜いた。
代わりにあてられた熱の大きさにカーマインは軽く喉をひきつらす。
さらりと、髪を撫でられた。

「アーネスト…」
「大丈夫だ…」

余裕で、笑うライエルに、カーマインは同じ男としてすまなく思う。こんなに我慢していたのに、
なのにまだ優しく微笑うのかと。
どこまでも優先してくれる、包み込む優しさに思いきり甘える。
すり寄って、熱い息と共に強請った。

「…いれて…?」
「…あぁ。」

応えてライエルは僅かに身を起こし、態勢を変える。
ふう、と。
意識して、カーマインが息をつき力を抜いた瞬間に、先を一息に挿入した。


「ぅあッ…?!」

覚悟していても、指なんかとは比べものにならない質量が踏み込めば自然呼気と共に悲鳴が零れ出た。
きゅうっと其処が締まればライエルは無理には進まず動きを止めて息を詰める。
解して慣らした蕾はライエルを柔軟に飲み込んだけれど、無意識の締め付けはカーマイン自身を苦しめる。
眉を顰めて耐えていれば、ライエルの手が優しく頬を撫でた。

「大丈夫か…?息を、はけ。多少はましになる…」
「あ…」

言われて、自分が息を必死に止めて力んでいたのに気付いた。

はー、と、息を吐けば力は僅かでも抜けて。
内にいるライエルを感じる余裕が出来た。


「…痛いか?」
「んン…なかには、圧迫感…というか違和感あるけど…痛くは、ないよ」

広がっている入口には痛みというか感覚がそもそも無い。多分使った薬の麻酔効果だろうなと、
ほぼ同時に思い至った。


「…いいか?」
「うん…」

了承の頷きに、浅い所で止めていた身をゆっくりと沈めていった。

「うぅんッ…」

痛みは無くとも内を圧される感覚は酷く不快で、力は入れないよう努力するけれど圧迫感は
やはり心理的にもキツい。

─ライエルの手が、萎えかけていたものにかかった。

「─ひぁ…」

宥めるように扱かれれば敏感に飛びついて。
ぞくりと濡れた快感に、背を反らせば追うように更に深くライエルが踏み込んだ。
其処は先程触れていた、鋭敏な場所で。

「ひゃ…あ、あァッ…」

痺れるような甘い感覚が腰から下を襲った。
太ももがびくびくと痙攣すれば、それは背筋まで走り、堪えきれない快感にカーマインは髪を散らした。
ぞくぞくと鳥肌立つ程震えれば、心得たとばかりにライエルは其処を擦り上げる。

「ひゃ…ァ…ア、ネストッ…!」

浅く達するような快感が、ライエルが動く度に何度も身を襲う。
苦しさは既に無い様を見取り、ライエルは絡めた手を離し腰を押さえ更に奥へと進んだ。


全てを収め、身を折りカーマインを抱き締めた。ぴったりと肌が合わされば、小刻みに痙攣する彼が意識を
飛ばしかけているのに気付いた。涙に濡れた顔は惚けたように虚ろで、初めてだというのにそこまで快楽に
溺れる姿にライエルは貫く下肢に更に熱を感じた。

「ッあ、ふ…」

違わず其れは質量を増し、狭い秘所を圧迫する。濡れたアカイ唇から熱い喘ぎが洩れた。

「…起きたか」
「ふぅッ…ン、ねて、ないッ、そもそも…」

ひくりひくりと痙攣しても、しっかりと文句。震える言葉にライエルは苦笑。そろそろ我慢も限界近い。
ゆっくりと腰を揺らした。

「ア…あ、」

はふ、と洩れ出る呼気には快感への陶酔から蕩ける甘さが混じり。
繋がる秘所は、絡みつくようにうねり、締め付けてくる。

深く強く、貫いた。

それでも華奢な体は順応する。もっとと言わんばかりに背を掻かれ、汗に濡れた背にちりりと痛みが走った。
構わず律動を開始すれば洩れ出る甲高い嬌声に煽られ動きは早まり、片足を抱え更に深く繋がった。

「や、ぁ深ッ…!」

それは恐怖からなのか快楽からなのか。
僅かに正気に返ったようなカーマインの声に宥めるようにまた口付けを交わし、責め立てる。


涙を流す幼い頬に唇を移し、長い指をカーマインの下肢へと落とし天を仰ぐそれに絡めた。

「やっ…もぉ、」

駄目だからと、続ける前にそれはびくりと動き何より雄弁に限界を示した。ライエルは自らも悦に捕らえられながら、
それでも耳元に囁いた。

「…カーマイン?」
「ンー…」

聞こえているのかいないのか。
欲に溺れきる愛しい人に。

「愛している…」

お前を。
言葉と同時に手にした先端を愛撫すれば、

「──ッアアァ…!」

組み敷いた肢体は大きく震え、数度にわたり欲を放つ。
其れに従うように蕾は収縮を繰り返し、捕らわれたライエルもまた最奥へと欲望を放った。



「何を拗ねているんだお前は。」

情事後、後始末をする間カーマインは意識を失くしていた。
変に力を入れられるよりかは遥かに楽で、ライエルは有難くその隙に彼を清めていた、のだが。

「…俺だけだ。」
「ん?」

真白いシーツにくるまり、ライエルに背を向ける形で寝そべるカーマインは、明らかに拗ねていると分かる口調で
呟きを洩らす。

「…アーネストは一回だけなのに。俺だけ…」

出さないで迎えた軽い絶頂を足せば、何回達ったか分からない。
いくら初めてで受け身でも、同じ男としてライエルが気の毒でならない。だから起きたらもう一回くらい
付き合おうと思ったのに。

─終わりとばかりに清められていた。

「…つまらなかったのか?」
「何故そういう結論が出るんだお前は」

もしやと呟けば背後のライエルからは呆れた突っ込み。
ころりと身を倒し向き直る。

「だって。一回だけだろうアーネスト。」
「お前が慣れれば好きなだけやらせて貰う。だから今はこれでいい。」

そう言って大きな手で頭を撫でられれば、カーマインは気持ち良さげに目を細めた。


が、何だかやはり気になるので一応問いを口にした。

「…あのさ…アーネスト。」
「ん?」
「お前、男本当に初めてだったのか?」
「…は?」
「だって、巧すぎないか?」

自分の感度の良さを棚に上げて人を疑うとは。
ライエルは僅かに気分悪げに眉を顰め、次いで、にっと意地悪く笑みを浮かべた。

「そう疑うほど悦かったという事か。」
「なっ、違っ…」

とは言い切れず、顔を朱に染め言葉を濁した。
そんな正直な反応に、ライエルは堪えきれず顔を背け、笑う。

「…笑うな。」
「ふ、…いや…お前が、悦かったのなら、それが一番だ。良かった。」
「俺だけよくても仕方無いだろう。…アーネストは…?」

身を起こしすり寄るようにして問われれば、ずっと欲しかった身を抱けて満足しない男がいるかと静かに、微笑んだ。

そんな恋人の表情に、カーマインはまた赤くなりころりと横になる。
昼の日の下では絶対に見れない態度、仕草。
ライエルは堪えきれずまた笑う。
これは全部、自分だけの物だという、幸福感から。



「…カーマイン」
「ん?」

呼べば、身は寄り添い。腕に抱き込めばすっぽり収まる。
最早慣れたその位置で、カーマインは素直に身を預ける。
ライエルは微笑みを浮かべたまま愛おしげに黒髪を撫で。
夜にだけ、素直なその恋人を。


─熱く強く、抱き締めた。



fin


☆ましろなおはなし☆ソラマシロ様より

運良くソラ様のサイトにてキリ番を踏ませて頂きまして
アー主のお初を本能的にリクエストさせて頂きました(刺)
ツンデレというかプライド高いカーマインが可愛くて、気長なアーネストが男前な
素敵作品を拝めて幸せであります。萌えの局地ですね!!
美味しい思いをさせて本当に頂きまして本当に有難うございます、ソラ様!


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