百花繚乱−犯− 2008.5.3 発行 サンプル
※R18本なのでお見せできる部分がここしかありませんでした(オイ)

広い隣国の城の回廊を、漆黒の礼服に身を包んだ青年が音もなく歩いていた。
常は凛とした無表情が、今は僅かに何かに怯えるように顰められている。

異色の相貌は、懸命にとある色を視界に映さぬようにと警戒を露にしていたが、
その努力も空しく、見つけてしまった。

―――淡い月光のような銀と紅玉のアルビノ、を。

瞬間、しまったと青年――カーマインは思う。
出来る限り、会いたくなかった人物が寄りにもよって正面から向かって来る。
引き返すのは、幾らなんでもあからさま過ぎるだろう。

カーマインは、迷ったものの手に抱えた書簡をきつく握り締めることで逃げ出しそうになる
自分を押さえ込んだ。けれど、当の向かいからやって来た男は、青年を一瞥するなり特に
声を掛けることもなく、脇を通り過ぎていった。

微かな緊張に息を詰めていた痩身は、途端に脱力してその場にしゃがみ込んだ。
それから乱れた呼吸を整え、ゆっくりと立ち上がる。
ほっとしたような拍子抜けしたような、何ともいえない感覚に眉間に皺を寄せて
再び回廊を進む。

正直、何か言ってくれた方がましだったかもしれない。
あんな真似をしておいて。カーマインには先ほど通り過ぎた男――ライエルが一体何を
考えているのか、全く分からなかった。
 
―――ずくりと、胸が軋む。

押さえた心臓が、あの日の光景を思い出して激しく鼓動を刻んだ。
カーマインとライエル。両名の心中にだけしまわれている出来事を・・・。
鮮やかに、けれどうっすらと雲が掛かったように薄暗く・・・。


百花繚乱 ― 犯 ―本文より抜粋





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