トクン トクン と。
力強い鼓動が聴こえる。
頬に触れる体温は暖かくて心地良い。


・・・・だが。
この状況はいい加減如何にかして欲しい。



若干頬を朱に染めながら、大陸最強と謳われる彼の救世主様は非常に困っていた。







 drunkly







何故、こんな事態に陥ってしまったのだろう。
今も尚、ぎゅうっとあたかも放さないとでもいうように抱き締めてくる男の顔をちらりと目に留め、盛大に息を吐く。
そして混乱する頭をプルプルと振って、今日一日を振り返り原因究明を試みる。





◇    ◆    ◇    ◆    ◇




今日は・・・・。
書簡を届けにここバーンシュタインに訪れて、その後の予定が休暇と言うこともあり茶会に呼ばれたまでは良かった。
王であるエリオットを始め、遠征中のウェインを除くインペリアルナイト勢、即ち国の重鎮たちが一斉に集っているのは
問題に思われはするが、な。

だが最近は仕事尽くめだったからこうして気兼ねなく親しめる友と語らう時間はとても安らぐもので。
かなり長い時間、彼らと共に過ごしていたように思う。しかしやはり彼らは国の重鎮であるため、あまり長く職務から離れられない。
特に王であるエリオットは目を通さねばならぬ書類が山ほどあって。渋るエリオットを補佐(もとい監視)役のジュリアがずるずると
引きずって退室していった。






「君たちは仕事に戻らなくていいのか?」

未だ自分の眼前で優雅に足を組み紅茶を啜っている男二人に尋ねるとゆるゆると首を振られる。

「今回はオスカーが奇跡的に仕事を真面目にやっているからな。俺は大分余裕がある」
「奇跡的にって、失礼な。だって仕事終わらせなきゃカーマインに会っちゃ駄目って言うんだもん」

僕だって君と(アーネストで)遊びたいのに横暴だよねーと同意を求めてくるオスカーへ一言当然の報いだ、と返すアーネストに
小さく笑う。本当に仲がいい・・・・・なんて言うと二人は怒るだろうか。そんなことを考えながら俺も花柄の雅なティーカップを口元に
運ぶ。そこにああそうだ、と前置きしてオスカーが身を乗り出してきた。


「・・・・・・・どうかしたか?」

問うとにまーっ、と俺の見間違いでなければかなり人の悪い笑みを浮かべ嬉々とする男の顔があって。
かなり厭な予感がする。同じことを思ったのかアーネストもやや眉間を顰めた。

「実はね、この間ランザック産の珍しいブランデーが手に入ってね。二人にも飲ませてあげようと思って」

流石に陛下に飲ませる訳にはいかないから待ってたんだよーと言ってゴソゴソと酒瓶を取り出すオスカーを見遣りながら俺と
アーネストは何だそんなことかとほっと胸を撫で下ろした。だが、本当はお互いこの時点で気が付くべきであった・・・・・・オスカーの
本当の狙いに。






はいどうぞーと差し出された薄紅色の綺麗な液体が注がれたグラスを受け取り、何の疑いもせずコクリと一口喉に流し込んだ。
途端に喉を焼け付くようなひりつきが通り越していったためこれがかなりの強い酒であると判った。


「オ、スカーこれ、大分強い酒だろ」
「そりゃねえ、ランザックといえば酒豪が多く集う国だし。当然アルコール度は高いだろうね」

しれっと言うオスカーに溜息を吐きつつ、もう一口煽った。それに瞠目しつつオスカーはチッと舌打ちする。
どうやら俺を酔わせようとしていたようだが実は自分で言うのもなんだが俺はかなり酒に強い性質である。このくらい強い方が
かえって飲み応えがあるくらいで。


「残念だったな、オスカー」
「君が酒豪とは抜かったな。未成年だからって油断したよ・・・」

拗ねた口調の男にクスリと声を漏らすと先程から随分と静かになった銀髪へと目を移す。するとクテッと首を垂れて
全く動かなくなった男がいて。端正な白い面にふうっと影を落とす様は如何見ても異常で。俺はカタンと音を立てて立ち上がると
向かいの男の肩を軽くゆすった。


「おい、アーネスト大丈夫か?具合でも悪い・・・・・・」

悪いのか、そう言葉を紡ごうとした時、アーネストの顔がのろりとした動作で上がり、彼の肩に置いた手を引っ張られ次の瞬間には
俺は彼の膝の上に横抱きにされていた。


「ちょ、ア、アーネストぉっ(//////)!?」

バタバタと手足を動かして暴れてみるもギュッと抱き込まれて身動きが取れない。腰と腿に絡められた腕を外そうにも全く力が入らず
自分も多少なりに酔いが回っていることに気付く。それでもかなり渾身の力を込めているにも関わらずピクリともしない彼の腕の力に、
普段は如何にアーネストが自分に対し手加減してくれているかを知る。
いつもの彼なら自分が少し力を込めて抵抗すればすぐに放してくれるだろう。こんな風に遠慮なく抱き竦めてくるなんて、
彼がかなりの泥酔状態にあると伝えているも同じだった。





「アーネスト・・・・・放して・・・・・・」
「厭だ、断る」

更に胸元へと抱き寄せられて鼓動が跳ねる。
助けを求めようとオスカーへと視線を向ければ、どうやらすっかり傍観を決め込んでいるようで。


「いやー、アーネストみたいに理性的なタイプって酔うと自分の欲求に忠実になるんだねぇ」

のほほんと自分は紅茶を啜りながらこちらをまるで見世物でも見るような眼差しで見つめてくる。


「オスカー、後で覚えてろよ」
「アハ、それは怖いねvでも僕そろそろ仕事に戻んなくちゃー♪」

責任感まるでなしの明朗な声で告げるとオスカーはこの場から逃げるように去っていった。


「・・・・・あ、こら!
俺に・・・・・・どうしろって言うんだ・・・・・・・?」

アーネストの膝上でお人形みたいに抱えられているカーマインは急にガランとしてしまった部屋の中でポツリと不平を漏らし、
困り果てた。




「本当に・・・・・どうしよ・・・・・・・・」






呟いた後、彼の救世主様は色々と頑張ってみたのだが、某堅物騎士様は一向に放してくれず、結局一日をそのままで過ごす
破目になり、解放されたのは二日酔いで朦朧とするアーネストがはっきりと目を覚ました翌日の正午であった。



ちなみに、悪酔いしたアーネストに昨日一日の記憶が全くなかったというのは最早お約束であっただろうか。







◇    ◆    ◇    ◆    ◇





    おまけ




「本当に昨日のこと、覚えてないのか?」

君のおかげで昨日は実家に帰れなかったんだけど、とは心の中だけで呟いて。まだ少し、頭痛がするのかアーネストはやや
硬い表情で眉間を押さえ込む。


「・・・・・・・・・悪いが全く何も覚えていない」
「何にも?」
「・・・・・・・・・ああ」
「・・・・・・・・・ほんの少しでもいいから思い出せないか?」
「・・・・・・・・・無理だ。そういえば何故お前は俺の膝の上に座ってたんだ・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・(怒)」

自分でしっかりとこちらの腰を押さえ込んでいたことすら覚えていないのか、アーネストは如何にも不思議そうに問うてくる。
この期に及んで『何故』だって・・・・・?それは君が俺がどれだけ抵抗しても放してくれなかったからだろう・・・・・?
確かにことの起因はあのバーンシュタイン一の曲者、オスカーにあるよ。それでも、例えオスカーの所為であっても俺を一日中
拘束していたのは間違いなく君なわけで・・・・。そう考えるとどうにも行き場のない怒りがふつふつと込み上げてきて・・・・・・。
どうかしたのか、とキョトンとした少々幼い表情を見せるアーネストをキッと睨み付ける。相手が怒る理由が全く判らないのか
アーネストは更に不思議そうに首を傾げて。


「・・・・・・・・な、何を怒っているか知らんが、俺が何かした、のか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

急にオロオロと狼狽し出すアーネストににっこりと微笑んで。
未だに昨日の酔いが抜けていない上に自分がしたことを一切覚えていないアーネストの頭に思いっきり拳を振り下ろした俺は、
恐らく間違ってはいないと思うのは果たして身勝手な考えであっただろうか。





「な、何で殴られたんだ・・・・・・?」

ズキズキと痛む頭を抱えながら後にオスカーに真相を聞いたアーネストはその事態を引き起こす原因を作ったオスカーに報復し、
被害者である救世主様に何度も土下座して謝った、らしい。(貴族のプライド・・・?そんなもんないよ、彼には)



END



▽ 管理人戯言
ふ、これは日頃お世話になっている&御迷惑を掛けている氷花様に捧げたSSなのですが別ヴァージョンをアップする
とか言いつつそのまんまの奴を今更アップしている綺月さん。←おい(怒)

いや、別ヴァージョン書いてましたらアーさんがすっごいタラシになってしまいそうだったのでイメージダウンもいいとこよ
と思い、途中で辞めたのでした。(つーか18禁になりそうな勢いだったので理性をフル活用したのです)
でもこれでも既にアーさんの株下がりそうだな。何か情けないぞアーさん。

約束を違えてしまったのでこれとは全く違うSSを書き起こしたいと思います。それまで暫しお待ち下さい氷花様☆

そして今氷花様と綺月の間で水面下の密談をしているのです、ふふふふふ(不気味)
何のことだと頭を悩ませておいて下さいね(何てこと言うのこの子は)
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