昼間から取り合えず自分の目を疑った。 次の瞬間、お決まりの情熱が炸裂した。 Little servant 目を擦る。 自分の勘違いでなければ、今己の目の前にいるのは親友にして戦友、オスカーである。 そして、何故か彼の机の上にはいわゆる『人形遊び』に使うサイズのコップが置いてある。 書類の束を抱えて訪れた親友の執務室で、アーネストは親友の新たな一面を見た……気がした。 「オスカー、お前」 「どうしたんだい、アーネスト? 顔が悪い……じゃなくて顔色が悪いよ」 「誰の顔が悪いだと、これは地だ。 いや、そうではなくてだな、お前……。 お前、人形遊びをするのが趣味だったのか?」 ゴス。 『図解 バーンシュタイン軍兵装一覧』と刻印された分厚い本がアーネストの頭を強打する。 常日頃笑みを絶やすことのない顔に青筋を浮かべて、ぐりぐりと押し付けられる本がモヒカンのカツラでもつけたような様相を呈する 親友の顔を覗き込んでオスカーが凄む。 「だ、れ、が、人形遊びをしてるって? この部屋の何処にドールハウスやら何やらがあるっていうんだい? 言っておくけどねアーネスト、いくら僕が女顔だっていっても君と同い年、二十歳も過ぎた大の男、それが人形遊びしてると 推測する根拠は一体なんだい?」 「ならその机の上のどう見ても人形サイズのコップは何だ? あいつらが来ていないのだからあの妖精を接待したわけでもあるまい……!」 ぐぬぬ、と頭を押し上げながらアーネストも負けじと凄む。 顔なじみの双子の騎士、彼らにくっついている妖精(正確にはホムンクルスだが)をもてなしたのでないなら、そんなもの…… どうみても人形サイズの食器が置いてある道理がない。 そう言い返したアーネストに、オスカーは拍子抜けしたような顔で兵装一覧をアーネストの頭から離した。 つんのめるように膝を突いたアーネストが睨むのも構わず、意外なことを口走る。 「あれ、知らないの? 君のことだからもう里親を引き受けたものだとばかり思ってたけど」 「里親?」 あの子達の、とオスカーが親指で差した先に、アーネストは自分の常識の外の世界を見た。 小さい。 事務机の上に置かれた筆立ての陰からこちらを興味深そうに覗いているのは、小さな、そう、人形サイズに小さな…… 「か、カーミ、ラ?」 そう、隣国の双子の英雄騎士の片割れ、カーミラ。 小人も同然のサイズながら、色違いの両目といい長い黒髪といいそっくりそのままである。 呆然とそれを見つめるアーネストを尻目に、オスカーはあの小さなコップを手に取る。 「ああごめんごめん、そろそろコレの時間だっけ?」 水差しから器用にミルクのような液体を注ぎ、そっと前においてやる。 くぴくぴとそれを飲んでいる小さなカーミラの様子はもはやアーネストの目には入らない。 彼の脳内で思考回路が激しく計算を行い、弾き出された推論の前に彼はただ暴走するばかりである。 「おい」 「何……どうしたのそんな顔して」 「あの子『達』と言ったな」 「ああ言ったよ?」 「ということは、だ………… カーマインもそんなサイズになってしまったのか!? 前々からそうではないかと疑っていたがやはりお前ガムランに弟子入りしていたのか! いくら見込みがないとはいえそんなことをするとは思わなかったぞ!? 羨ましい!」 途中からもはや断定形である。 おまけに本音も丸出しである。 胸倉を引っつかんで必死の形相でそんなことを叫ぶアーネストに、やっぱり、とオスカーは内心溜息をついた。 要するに、アーネストはオスカーがガムランから習得した何がしかの呪術によって双子を小人サイズにし、二人揃って手元に おいているのだと考えているのである。 ついでに言えば、ツンツンツンツンツンデレとでも形容すべき性格の愛しのカーマインがこんな状態になっているなら自分だって 引き取りたいと息巻いているのである。 「なんだ、騒がしいな」 「お邪魔します」 そんな疑惑をかけられているとも知らず、問題の双子が室内に入ってきた。 寒さのためかカーミラのほうはジャケットをきちんと着込んで前をしめているが、カーマインのほうは相変わらず肩丸出し。 またも唖然として両方を見比べるアーネストの前で、お構いなしに話は進む。 「どうしたんだアーネスト、そんな唖然とした顔で」 「ああ、なんかの呪いでカーミラが小さくなったと勘違いしてたんだよ」 「…………ふぅ、しょうがないな。 説明してやるからよく聞けよアーネスト、実はな」 * * * 「ホムンクルス!?」 「そう、アリオストの実験に付き合ったらこんな小さいのが何体か出来てな。 この間……ああ、アーネストが留守にしてたときか、連れてきたら結構な人気だったんで、里親になってもらった。 俺のコピーホムンクルスは一人ジュリアのところに行ってるが」 ああ、それで最近出勤が早かったのか、と納得しながらもアーネストは耳ざとく疑問点を見つける。 「…………一人?」 「言ったろ、何体か出来たって。 ウェインのところにもちびかーまいんが一人、エリオットはちびかーみらを一人引き取って行ったな。 あとアリオストのところにもちびかーみらが一人」 「おまけに、元が元なのでやたら生命力が強いというおまけ付き。 普通サイズに比例するはずのホムンクルスの寿命が、どれだけ長いか想像付かないという検査結果で」 「なぁ? ゲヴェルってこんな状態でも生命力発揮するなんて意外だったよ。 ……ああ、俺はちょっとジュリアのところへちびの様子を見に行ってくるよ」 いってらっしゃーい、と見送る二人の傍らでアーネストは落ち込んだ。 自分だけ、出張していたばっかりにチャンスを逃したのか、と。 体操座りでじゅうたんにのの字を描く彼の傍らに座って、カーミラはそっと声をかけた。 「実はちびかーまいんが一人残ってるんですが」 ガバチョ。 「本当か」 「ええ、ただちょっとばかり難しい子ですが」 「難しいって、僕達が引き取ったのはすごくいい子だけど?」 「ちょっと材料が問題ありで……比較対象として材料を変えたらしいんですが……その、 『フライシェベルグの危険な水』」 ブッフ。 二人が同時に噴き出した。 要するにフライシェベルグ内に満ちているゲヴェル成分満載の『あの』水なのだが、危険にもほどがある材料である。 「アリオストさんのところに残ったちびかーみらもフライシェベルグ仕様の子なんですが、どうですライエル卿。 里親になりますか?」 アーネストは迷…………わなかった。 躊躇もなく頷くのを受けて、カーミラがジャケットの前を開く。 そこから顔を出したのは、仮面騎士張りの自信に満ちた表情のちびかーまいん。 「ライエル卿、鼻血」 「止めようともしないんだね」 「うるさい止めてくれるな俺は今猛烈に感動している」 「ショタコン?」 「変態ですか?」 「やかましい!」 去り際のカーマイン達たちから主食となる特別製のミルク(注文はアリオスト研究室へ)と『ホムンクルスと一緒』と題された 特別冊子(ただし手製)、持ってきていたらしい小さな食器を受け取ったアーネストは至極満足そうに指を一本 ちびかーまいんに差し出す。 挨拶のつもりで行われた行動はひどくちびの気に障ったらしく、 がぶ と指先に噛み付かれながら、指の痛みにも『説明書は読もうよ』と小冊子を差し出すオスカーにも構わず、アーネストは 再び鼻血を拭うのであった。 ========================================= 後日。 ひどく困ったような顔でアーネストの執務室を訪れたカーマインは開口一番、 「なあアーネスト、今更言うのも何だが、ちびがちょっとな」 と切り出した。 「どうした?」 「いや……お前がやらかしたことを交信で教えてくれるんだが…………」 あれはどうだろうと正直思うんだが。 そう呟く。 ボキ。 アーネストの手元でペンの先が折れる音がした。 一体どんなことを彼がやらかしたのかは……当の二人だけが知っている。 おわれ。 あとがき。 大台おめでとうございますー! ゲヴェル系列なので、ちび達は本体(?)のカーマインやカーミラと交信することが出来る、という設定です。 果たしてアーネストは何をやらかしたのか…… 1、カーマインに対する愛をありったけぶちまけた(それも毎晩) 2、サイズの合う服を入手してちびを女装させた 3、もっとここでは書けないようないかがわしいことをした。 番外、実は全部やらかした。 どれにしてもアニーが変態です。 本当にごめんなさい(土下座)。 夜更けの乱気流:霧生更夜様より 十万打のお祝いに頂きましたーーー!!ショタコンアーネストが愛しいです。 チャットのネタがこうして形になるのはなんと言うか俺は今猛烈に感動している!ですね。 いいなぁ、ちびかーまいん。私も一匹欲しいです。 ぷくぷく突付いて噛まれたい(ここにも変態が。おまわりさーん!) オスカーに対しガムランの弟子〜言った後の羨ましいが本音炸裂しまくりで 彼は本当に正直な人だなあと感じました(笑) 是非是非シリーズ化して下さいませ!次回作を既に大いに期待です! あ、そして最後の問いは勿論全部やらかしたですよね!(断定) MでありSな真なる変態アーネストの伝説がこれからも楽しみです。 本当に有難うございましたーーーー!!。 |