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※CAUTION この作品はアー主ですが、魚主要素を含みます。 おまけにカーマインが仲間の複数と肉体関係(爆)にある設定ですので そんなカーマインは嫌だと思われるお方は目を背けて下さい(え?) いやいや大丈夫、バッチコーイ!というお方はスクロールプリーズ。 忘れてしまいたかった。 誰かに全ての記憶を奪われてしまえば、 どれだけ楽になるか。 この空しさも、寂しさも、惨めさも。 消えてなくなれば、どれだけ救われるか。 誰でもいい、忘れさせてくれ。 必死に手を伸ばし続けた。 そうして俺は、裏切り者に成り果てる。 他人の熱を欲しがって、冷めた時の寂寥に蹲り。 また堕落していく。 胸の奥底で叫んでいる、真実の想いに目を伏せて――― それでも君は・・・ 自分が堕ちていくのを、止められない。 「・・・・・ん、は・・・ぁ・・・・」 薄暗闇の中、衣擦れの音と共に濡れた声が響く。 ベッドのスプリングは軋み、白いシーツの上で朱に染まった裸体が華麗に踊る。 黒髪を散らして悶える様は蟲惑的で、男女問わずその精神を官能の淵へ誘い込む。 強く深く突き上げられて、行為の最中とは思えぬほどに冷たく細い指先は自身を抱く男の広い背へと 回される。熱く乱れた吐息が慣れたように男の名を呼ぶ。 「・・・ウォ・・レ・・ス」 「・・・・・何だ」 「もっと・・・・強く・・・・」 「・・・・・また、悪い癖か・・・・」 もう何度こうして強請られた事か。男は青年からの要求に苦く笑った。それから、一つ息を吐いて 望みに応える。重なり合った肢体を更に引き寄せ、強く穿つ。途端に青年は悲鳴にも似た喘ぎを零し背を撓らせた。 色違いの瞳は涙に濡れ、愉悦を隠しもせず晒していて。それなのにその双眸は男を見ていない。 天井を仰いでいるわけでもなく、遥か遠く、この場には在りもしない何かを求めている。 快楽に酔っているようで、心は誰にも開かない。絶対不可侵の領域。 「・・・お前は一体・・・・誰を、求めている」 「・・・・・・・・・・・」 「まあ・・・俺はこのままでも構わんがな」 そう告げて、男の指先が青年を乱そうと妖しく蠢く。慣れた手管。経験の違いに青年はされるがままになる他ない。 悔しいとそんな事も思えなくなっている。むしろ、もっと何も考えられなくして欲しいと青年は願う。 こうして溺れさせられているのに、胸の奥、誰にも触れさせない聖域では別の誰かを想う。忘れたいと思っているのに。 こんな時こそ思い出してしまう。触れる事も触れられる事も望めぬただ一人を。狂おしくて狂おしくて。 胸を焼き焦がされそうで。苦痛が押し寄せる。 「・・・・んん・・・っ」 「・・・・本当にお前は・・・しょうがねえ奴だ」 その一途さも、生真面目さも。自分を追い詰める要素にしかならないというのに。 出来る事なら忘れさせてやれればと思う。けれど何をしても青年の心に触れる事は出来ない。 いっそ残酷だと男は感じる。この青年は何処までも穢れがなくて、それ故に途方もなく堕ちていく。 自分では掬い上げる事が出来ない。それが歯がゆい。その歯がゆさを払拭させようと込み上げてくる劣情を 己の重ねてきた年月と精神で抑え込む。 「・・・・もう、イッちまえ」 身も世もないほど、無様でもいい。積み上げてきた倫理など捨ててしまえ。願うのに青年は首を振って否を唱える。 本当に不器用な奴だと男は心中で泣き笑いにも似た嘆きを覚えた。 ◆◇◆◇◆ 「カーマイン」 「・・・・何?」 欲を解放し、緩く瞳を閉じていた青年は自分を呼ぶ低い声に答える。目は余韻に浸るためか、それとも今の自分の 有様から逃避するためか閉じたまま。声を掛けた男はそんな相手の様子に顎を掻いて溜息を吐く。 堪らず呆れにも似た言葉をベッドに埋もれた黒髪へ投げかける。 「・・・何、じゃねえ。お前一体何時まで続けるつもりだ」 「・・・・・何を」 「分かっているんだろうが。結局・・・・溺れきれねえくせに」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 男の声にカーマインは煩わしげに眉を顰めた。くるりと背を向け、シーツに包まる。 半ば予想していた反応だけに男は背後からカーマインの細い首を掴む。そのまま徐々に力を込めた。 けれど首を掴まれたカーマインは身じろぎ一つしない。まるで殺せばいいと告げているかのように。 「・・・・死にたいのか」 「・・・・・・・・・・・」 「お前がそのままでもいいって言うなら俺も構わんさ。そこまでお節介な親父じゃねえ」 「・・・・・・充分お節介だろう」 フッと、目前の細い肩が小さく笑った気配がして男は指先を離した。 「・・・・俺が死んだら・・・泣いてくれるのかな」 「誰がだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 問いかけというよりは、独り言に近い呟き。自嘲が色濃く滲むそれに男の眉間に深い皺が刻まれた。 この場には自分もいるのに、この青年は独りでいる事を選んでいる。非常に、不快だ。 「また黙るか・・・。お前が誰を想おうと俺は気にしちゃいないが・・・・他の奴の前ではやめとけ」 「・・・・・知っているのか」 「お前、身体の方は正直だからな」 「身体の方は・・・ね」 思うところがあるのか噛み締めるようにカーマインは男の言葉を繰り返した。 くしゃりと自分の下敷きになっているシーツを掻き乱す。 「・・・・嘘つきでいい。言ってはならない言葉を口にするくらいなら」 「辛いのは自分だぞ」 「耐えられる、これくらいの寂しさも惨めさも。拒絶される事に比べれば・・・・」 「・・・・・まあ、若いうちは悩んどけ。但し、手遅れにはなるなよ」 何だかんだ言って結局お節介な男にカーマインは小さく手を掲げて了解の意を示した。 けれど心の中ではもう手遅れだと囁いて。それが分からぬ男ではないが、ただ黙って受け流した。 それきり二人は沈黙を守りあう。それぞれの胸の内で言い知れぬ思いを抱きながら。 ◆◇◆◇◆ 「・・・・もうそろそろ潮時かな」 微かに痛む腰を抑えながらカーマインは誰に言うでもなく呟く。 まだ夜が明けて間もない薄篭もった空を見上げる。そっと今まで熱を共有しあった相手の要る筈の兵舎を 振り返った。その瞳には寂寥と罪悪感が浮かんでいた。そして何もかも分かった上で自分に付き合ってくれた 年上の友人への感謝を湛える。同時にそんな彼に頼りきって甘えている自分が酷く醜いものに思えて 顔を顰める。ガリと自分の腕へと爪を立て、鮮血を滲ませた。 けれど、どんなに自分の肉体を痛めつけても心の上げる悲鳴の痛みには敵わない。 まるで全身を引き裂かれるような、心臓を踏みつけられているような激しい衝撃が絶えず突き抜けて。 気が狂ってしまいそうになる。今思えば、初めにこの行為に逃げてしまった自分の弱さを呪う。 もっと自分が強ければ誰を傷つける事もなかったのに、と。 「・・・くそっ」 どんなに嘆いたところで過去は取り戻せない。そんな事は自分が一番身に染みている。 もしも過去を全て忘れる事が出来るというのなら、どれだけ救われるだろう。己の出自も、胸を占める想いも。 今まで行ってきた穢れた行動もなかった事になれば、どんなに。 「・・・・・・・・ッ」 初めはただ、寂しさを埋めたいだけだった。 自分の存在を疑い続けていたから。他人の熱を感じて、自分の存在を確かめたかった。 本当にそれだけ。そこには相手に対して信頼は在っても恋情はなかったように思う。 そうして自ら仲間たちに身体を開いたカーマインだったが、ある日唐突に気づいてしまった。 自ら、求めた筈の熱が自分の求めていたそれではなかったと。 確かに他人の熱が欲しかった。けれど違う。この人の熱が欲しいわけじゃない、そう思ってしまっていた。 では誰の腕に抱かれたかったのか。考えて思い当たった人物にカーマインは口を閉ざした。 一度も触れた事のないその人。愛される筈も、愛していい筈もない、その人。 何より穢れからあまりにも遠い場所に立っている白くて清くて強い、自分とは正反対な相手。 カーマインは苦悶の表情で傷口に更に爪を立てる。脳裏に浮かんだ相手を記憶から消し去るように。 ぽたぽたと地面に紅い雫が落ちていく。カーマインが流せないでいる涙の代わりの如く。 「・・・・ったく、馬鹿が」 身も心も深く深く傷つけていく華奢な背中をそうとは知れないように見守っていた男は吐き捨てる。 いつの間にか本当の親のようにカーマインを見守るようになってしまった自分を微かに笑いながら。 重い重い鉛のような息を零して、何も映し出さない瞳を上向きながら覆い隠す。 さらりと長い茶金の髪が弧を描いて揺れ動く。腕を強く組む。原因は、自分にもあるのだと。 カーマインが何を思って、身体を差し出したのか分かっていながら何も言わなかったのは自分だ。 受け止めた気になって救えていないのもまた事実。あんなか細い肢体で、弱さを抱えた心で、耐え切れる わけもないのは分かりきっている。中途半端な優しさは崩れていく心を余計に崩す手伝いにしかならない。 かと言って今更放り出す事も出来ず。そうなれば出来る事はもう一つ、余計な世話を焼く事くらいだ。 「あいつは何処にいるんだったかな・・・」 薄々と感じていた、カーマインが頑なに秘めた心に住まう相手。カーマインと同じく、非常に不器用な相手。 恐らく二人は魂の色が酷く似ているのだろう。傍から見ていてもそれは分かる。だから惹かれ合ってるのだろう。 お互い口に出す事はないが、秘めやかに。周りが胸を燻らせるほど。男は最後に一度カーマインの儚い後姿を 認めて歩き出した。ゆっくりと、けれど力強く。 ◆◇◆◇◆ 本当に、余計な事を。 目前に立っている相手を見遣ってカーマインは、密かに毒づいた。 ウォレスに呼び出され、また夜の相手になるのかと思いきや、指定された場所には違う相手が立っていて。 夜闇に、白く浮かび上がるそのシルエット。出来る事ならば、会いたくないと思っていたその人物。 カーマインは思わずといった体でまだ自傷の跡の残る腕を押さえる。目を背けた。 「・・・・・カーマイン」 「・・・・・・ッ」 「・・・言いたい事が、ある」 名を呼ばれた瞬間に震えた肢体を懸命にカーマインは抑え込んだ。それから、逃げ出したい衝動を 歯を食い縛り耐える。それでも、震えが止まらない、視界が定まらない。目の前の相手を見つめたいと思う 自分を感じて余計に。ふと、目を逸らしているうちに相手が近づいてきている事に気づく。 はっとしてカーマインは目に見えて身を竦ませた。 「どうした」 「・・・・、近づかないで・・・くれ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 拒絶としか取れないカーマインの台詞に男は悲痛な顔で立ち止まる。嫌な沈黙が訪れた。 居心地の悪さにガリガリと腕を引っ掻く。瘡蓋が剥がれて血が溢れ出た。鼻腔に鉄錆びの匂いを嗅ぎ取ったのか 男は眼を見開いて一気に距離を詰める。切羽詰ったように、自分の腕に爪を食い込ませる華奢な指先を捕らえた。 「・・・・やめろ、何をして・・・っ」 「!触・・・・」 触るな、そう口にする前に、カーマインは息を飲んだ。苛烈なまでに憤りを乗せた真っ直ぐな瞳が自分を見据えている。 その瞳に囚われている隙に、指先に纏わりついた血を同じくらいに紅い舌で拭われた。 「!?」 「お前に・・・・血は似合わない」 「だからって・・・・嫌だ、離せ・・・・ライエル!」 振り払うためにカーマインは腕を引くが、より強い力で握り締められ逃れられない。 痛みではなく、触れられている事にカーマインの表情が歪む。嫌悪でも露にするかのように。 嫌がられている事が分かりながら、男はそれでも手を離さない。半ば意地になっているのかもしれない。 そのまま更に引き寄せ、カーマインの肢体を抱き寄せた。 「離せ、馬鹿!離せ、離せ!!」 「・・・・・ッ、話を聞け」 「嫌だ離せ!」 「・・・カーマイン!!」 ドンドンと頬に押し付けられる厚い胸をカーマインは力の限り叩きつけるが、相手は引こうとしない。 どころか、カーマインの態度に焦れたようで、鼓膜を痺れさせるほど大きな怒声が響く。 あまりの迫力にカーマインは目を丸めて全身を強張らせる。 「・・・・昨日、ウォレス将軍が来た。何か、思い詰めたようだった」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「俺に『お前はそのままでいいのか』と言った。嫌だと思った、だから来た」 「・・・・・・何が」 「お前の事だ、カーマイン」 淡々と言葉にする低い声音に、カーマインは吐き捨てるように問うたが男は気にしない。 肩を強く掴んで視線を合わせる。緋色の瞳が刃のように鋭く、まっすぐにカーマインを捉えた。 穢れのない、強い瞳。それに自分が映し出される事が酷く罪深い事のような気がしてカーマインは唇を噛んだ。 もう一度逃れようと暴れるが、体格差に阻まれる。 「お前が、俺を嫌っているのは分かる。だが、話くらい聞け」 「・・・・・・何言って」 「俺が何か言ってどうなる事もないのも分かっている。それでも・・・黙しているのは耐えられない。 一度でいい、ただ黙って聞いてくれさえすれば・・・それで・・・・・」 切実な訴えにカーマインは困惑を覚える。それと同時、話を聞きさえすれば解放されると言うのなら 言う事を聞いた方がいいのかもしれないとさえ思う。これ以上、この白い腕に触れられたくない。 自分などに触れたら触れた場所から穢れてしまう。この、清らかな人が。そんな事はカーマインには耐えられなかった。 上目に男を仰ぐ。許しを与えるように。 「・・・・・もういい、分かったから。好きにしろ」 「礼を言う。・・・・カーマイン・・・俺はお前の事を・・・・・」 好きなんだ。形のよい唇がそう動くのを目に留めてカーマインは頭が真っ白になった。 何を言ってるんだろうと、信じられない面持ちで。突き放す事を一瞬本気で忘れてしまうほど。 驚きで声が出てこない。身体に血が巡らず、動けない。唇が震えた。 「・・・・・何も言いたくなければ黙っていていい。俺が言いたかった事はこれだけだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「嫌な思いをさせて悪かった。もう二度とお前の前には姿を見せない」 もう二度と。その言葉がカーマインの脳裏に強く焼き付く。出来る事ならそうあって欲しいと思っていた。 こんな穢れた行いに耽る自分を知られるくらいなら、二度と逢えなくなる方がいいと。 そう、思っていたのにいざ直面してしまうと、衝動的に否と唱えてしまいそうになっている自分に気づき カーマインは嫌悪感を抱いた。口元を手のひらでそっと覆い隠す。その間に黙っているカーマインを悲しげに見つめて 男は踵を返す。自分の言葉を実行しようとしての事だろう。カツリと一歩一歩離れていく足音が耳に届く。 「・・・・・・・ッ」 止められる筈が、なかった。そんな権限は自分にないし、資格もない。 愛しい人に想われる価値もなければ想う事を許されもしない。遠ざかっていく背中を見つめる事も出来ずに カーマインは深く項垂れた。地面を見るともなしに見下ろしていれば、透明な雫がじわりと拡がっていくのが見えた。 どうやら今自分は泣いているらしい。今までずっと泣けなかったのに。こんな時ばかり涙が出てくるなんて 皮肉な話だとカーマインは自身を嘲笑う。視界が滲んで白い世界が一気に黒に染まっていく。 これが絶望の色なのだろうか、ぼんやりとそんな事を考えていればふと気配を感じた。 誰かの腕が自分へと伸びてくる、そんな気配。一体誰だとカーマインは顔を上げる。そして後悔した。 自分の視界が再び白く染まる。清潔な輝きがそこにはあった。眩しすぎて目を開けていられないほど。 「・・・・・・嘘に、なってしまった」 「・・・・・・・・・・?」 「二度と姿を見せないと言ったばかりなのに・・・・」 「・・・・・・・・・ぁ」 「泣くな、独りで。俺がお前を傷つけたか・・・・?」 優しく甘い声が耳へと滑り落ちてくる。怖いくらいに落ち着いてしまう自分が余計に恐ろしくてカーマインの瞳からは 大粒の涙が止め処なく溢れ出てしまう。その度、男は指先で懸命にそれを拭った。白い指先に透明の雫が幾重にも 流れていく。カーマインは申し訳なくなって、必死に泣き止もうとするが止まらない。 「・・・・・ぃっく」 「・・・そんなに嫌だったのなら、忘れてくれていい」 「・・・・・・・・・・?」 「好きだと言った事・・・・。お前が思い悩む必要はない。どうにもならない事はちゃんと分かっている」 「・・・・・違う。その事じゃ・・・ぃ」 啜り泣きと混じって何を言っているのか非常に聞き取り辛い。しかし男は黙ってカーマインの言葉を聞いた。 優しく頭を撫でる。愛しむ動きに戸惑いながらもカーマインはその優しさに酔いしれた。 ああ、欲しかったのはこの熱だと。心地よさと背徳の板ばさみにされても、こんなにも弱った時に手放せるわけもなく。 本当ならば、この気持ちのままにその厚い胸へと飛び込みたい。そんな願いさえある。 「・・・れは、君にす、きにな・・・てもらえ・・・よ、な人間じゃ・・・なぃ。穢れ、て・・・・」 「穢れ・・・・?」 「お、れ・・・は・・・自分が楽にな・・・ために・・・他人の熱を欲しがる寄生虫、だ・・・・」 「・・・・・それの何が悪い」 「・・・・え?」 自分からは到底離れられそうもなく、相手に離れてもらおうとカーマインは知られたくなかった事実を告げたが 男からの返答は自分が思い描いていたものと遥かに違う。 「俺のから、だ・・・・穢れて・・・・ど、して」 「自分の寂しさを埋めるために他人を利用する奴なんて幾らでもいる。だがそれを悪いと思わないのが大多数だ。 けれどお前はこんなにも傷ついている。俺は・・・お前がどれだけ男に身体を開いていたとしても・・・・、 お前を・・・・美しいと思う」 「!」 間はあったものの、躊躇いを感じない物言い。貫き通すまっすぐさは居心地が悪くなるほど胸に響く。 嬉しいと思うよりも前に何故という思いが前に進み出る。カーマインは眉間に皺寄せた。 「お前は、美しい。姿よりも何よりもこの奥が」 言いながら男はカーマインの胸の中心部、心臓の上に触れる。指先にとくとくと早まる脈動を感じ取った。 少なからず自分の言葉に動揺してくれている事に男は安堵したのか口元を綻ばし。 尚も同じ言葉を繰り返す。 「カーマイン、お前は美しい」 「・・・・・嘘だ」 「お前は美しい」 「違う、違う!俺は・・・・俺は醜い!!」 「お前は美しい」 「・・・・俺は、寂しさを紛らわすためなら平気で誰とでも寝るような・・・裏切り者なんだぞ」 最後は半ば悲鳴のように。男の言葉を遮ろうとしてか、カーマインは自虐の言葉を叫び続けた。 それでも男は優しくカーマインの肢体を抱き締めたまま。むしろ悲鳴が痛々しくなるほど穏やかに言の葉を紡ぐ。 ゆるりと双眸を閉ざして、言い聞かせるように耳元へ直接落とす。 「・・・・・それでも。それでもお前は、美しい」 「・・・・・・っ!!」 「だから俺は、お前が愛しいんだ」 その言葉を聞いた瞬間、カーマインは全身の力が抜け落ちるのを感じる。 何も、考えられない。ただ自分を包んでくれる心の奥底でずっと望み続けた熱に浮かされて。 一度は止まりかけた涙がまた堰を切って流れ出す。凍らせ続けた心が、邂逅されたのかもしれない。 無意識に震える指先を男の背へと回す。 「・・・・・どうして君は・・・・そんなに馬鹿なんだ」 「失礼な物言いだな」 「・・・・でも、そんな君を好きな俺は・・・・もっと馬鹿なんだろうな」 「何だ、と・・・?」 「好きだって言ったんだ。俺たち、二人してとんだ馬鹿だな・・・・」 一度では信じられなかったのか男はしきりに瞳を瞬いていた。そんな彼をカーマインは小さく笑う。 ずっと触れたいと思っていた目の前の大きな身体に頭を預ける。 「・・・・・・後悔した?」 「・・・・してない」 「・・・・・じゃあ、もう一回言って」 「・・・・・好きだ」 じんわりと溶け入るような甘い調べにカーマインは頑なだった心を全て受け止めてくれる男に委ねた。 抱き締めあう二人はそれこそ絵画のように美しく、世界に鮮やかな色彩を残す。 遠くの方で全てを見守っていたもう一人の男は上手く纏まったらしい様子にほっと胸を撫で下ろした。 「・・・・本当に世話の焼ける奴等だ」 言葉の割りに嬉しそうな表情を、想い人の胸に顔を埋めてしまっているカーマインは知る由もない。 色褪せた世界にただただ二色の美しい色彩が眩しいほどに重なり続けている。 嘘で覆い隠していた真実がそこには在った――― 自分が堕ちていくのを、止められない。 けれど、柔らかな腕が優しく優しく受け止めてくれる。 ―――どんなに穢れても、お前は美しいと湛えながら――― fin 何書いてるんだろう、自分(慌)思いっきり衝動のままに書きました。 でも一応遠い昔に採らせて頂きましたアンケートで頂いたネタだったり。 確か「カーマインがアーネストへの思いを自覚するものの仲間の複数と肉体関係を持ってしまった ためにその思いを言えないでいる話」だったかと。間違ってたらすみません。三年前の記憶ですので(遅) 本当はもっと悲恋的な感じにしたかったんですが甘くなってしまいました。あれ? アー主贔屓ってその他のキャラを物凄く不幸にさせますね(コノヤロウ) Back |