この作品はコチラのカーマインver.になります。


The peep is kicked by the horse.




――ひた…、ひた…、ひた…、ひた…。
日が沈み始めたバーンシュタイン城に足音が聞こえる。極力足音を立てないようにしているせいなのか、
何やら恐怖映画の登場シーンのようだ。

「人様の国の王城に忍び込むなんて、ドキドキものだな。ばれても不味くないが…。」

小声で独り言を零しつつ、目指す先は日頃から周囲への気苦労が耐えない人の所。今日もまた紫頭の悪友に
振り回されて尻拭いをしてるのだろうか。などと考える。

「決心したのは良いが、実行に移せなかったら間抜けだなぁ。……頑張るかぁ。」

何を頑張るのか謎だが、自分に言い聞かせるようにして、足を進めて行く。そして見えてきた目的地の扉には
可笑しな張り紙があった。

「え?『邪魔立て禁止。』?何だこれ。せっかく此処まで来たのになぁ。
ふぅ…。今更、帰るのなんて、嫌だよなぁ。…よし、怒られても良いから突撃だ!」

なにやら決意を固め静かにドアをノックし、返事が返る前に中に入ってしまう。けれど、目的の人物が見あたらない。

「あ、あれ?アーネストが居ない…。あんな張り紙があるんだから、中に居ると思ったのに。」

ぶつぶつ呟きつつ辺りを見回す。すると部屋のすみから足が生えているのが見えた。
カーマインは咄嗟に自分の口を押さえ忍び足で近寄ってみる。

「――すぅ〜……、すぅ〜……。」
「うわぁ。寝ちゃってる〜。アーネストの寝顔って初めて見た。…くすっ、瞳が見えないといつもより幼い感じだな。
そう言えば『深紅の瞳って妙な威圧感があるんだよねぇ。』とかオスカーが零してたな…。」
「…ふっ。……すぅ〜……、すぅ〜……。」
「あっ!起きた、ってわけじゃないみたいだね。でも、只起きてくるのを待ってるのも芸がないよねぇ。
……そぉだ!お腹の上に人が乗ってたら起きたときに驚くよね、きっと!」

近くにしゃがみ込み、初めて見る彼の寝顔を眺めていると、唐突だが彼を吃驚させてやりたいような楽しませたい
気持ちになった。有言実行とばかりにアーネストが起きてしまわないように慎重に彼の腹部の上に跨る。

……なんか熟睡、って感じだよね。お腹の上に乗られているってのに、目を覚ます気配すらないよ。
俺は楽しくて良いけどね。……

それでも健やかな寝息を立て続ける彼を見下ろしつつ、好奇心から彼の上に寝そべり、より近くで彼の寝顔を眺めるが、
やはり起きない。そうこうしてる内に客観的におかしな自体になってる事に思い至り、彼の上から降りようとした。

「……んっ。」
「!」
「……カーマイン、か?」
「おそよう?ございます、アーネスト・ライエル卿。」

口に笑みを浮かべつつ、からかうように名前を呼んでみると、頬に暖かいものが触れた。

「…何故、此処に?夢では、無い…ようだな。」
「ふふっ。どーしてだろうね。 何だか…、顔、見たくなっちゃった、からかな。」
「それは、光栄の至りって奴だな。わざわざ、それだけの為に来たのか?」

本当は彼に言いたいことがあって来たのだが、何故か咄嗟に違う言葉が出てしまう。
でも、彼に触れて貰えるのが嬉しくて、掛け合いのような言い合いが心地良くて、眉根を寄せて意図しない言葉を
溢れるがまま紡ぐ。

「それ、嬉しいのか、そーでないのか分かり難い答えだな。」
「……そう感じたか?」
「……そう感じる。で?」
「嬉しいに決まっているだろう。」
「そっか。なら良かった。立ち入り禁止みたいな張り紙在ったから、怒られるかと思ったよ。」

ほっと自分の身体から力が抜けるのが判った。自分が思っていた以上に力が入っていたようだ。

「あぁ、あれか…。ちょっと気分を害すことが遭ってな……。少しばかり休息したかっただけだ。」
「じゃ、もういいの?」
「お前の顔も見れたことだしな。」
「そんなもんか?まぁ、嫌な気分になったとかじゃないならいいけどさ。」

自分の口からどんどん言葉が溢れてくる。『彼に呆れられてないかな?』などと思いつつも、止まることはなかった。

「あっ。ちょっ…まって、アーネスト!」
「……どうかしたのか?俺の腹の上に居なければいけない意味でもあったか?」

彼を見下ろしながら話している状態が何故か楽しくて、咄嗟に身を起こし自分を身体の上から降ろそうとする
アーネストに制止の言葉を掛け、彼の洋服や触れていたソファをしっかりと鷲掴んでしまう。

……いっそこのまま言ってしまおう!……

心の内で呟き、彼に伝えようと思うのだが、良い言葉が思い浮かばない。

「あっと、その…何というか……ちょっとだけ待って欲しい。」
「お前が気にせんのなら俺は構わないが……。ふむ。」
「な、何…?何を納得しようとしているの?」
「いや、お前が何を考えているのかちょっとな。」
「あ、うん…。もうちょっと、待ってて。今まとめちゃうから…。」

自分の置かれた状況などもう考えられず、頭の中は『どうやって想いを言葉にするか』で、埋め尽くされてしまう。
何時の間にかアーネストのお腹の上に置いていた掌が僅かに動いていることもカーマインは気付いては居なかった。

「あっとね、実はアーネストに言いたいことがあって…。で………。」
「何だ?言ってみっ…!」
「………んっ…。好き……だよ?」

伝えるべき言葉を練るたびにアーネストへの想いが高まっていき、気付いたときには彼に口づけをしつつ、
一番シンプルな言葉が口から零れ出ていた。

「なっ……ちょっ、待ってろ。今、考えをまとめる!」
「…ん。わかった。待ってる。」

アーネストの顔はいつもとあまり変わりなかったが、内心はひどく驚いているようだった。その間、
カーマインは依然変わらずアーネストの腹に乗りつつ胸に手を付き、アーネストを見ていた。

……アーネスト、考えてる、っていうか悩んでる?なのになんか格好いいんだよね…。何かずるいかも。
こっちは胸がいっぱいドキドキゆってるのに。でもこれって、それだけアーネストが大好きって証拠だよね。……

そうこうしている内に、考えがまとまったのか、アーネストが顔を上げた。だが、顔を見た瞬間浮かんできた不安を
アーネストが言葉を発する前に吐露してしまう。

「迷惑、だった?…嫌な思い、して欲しくない。……忘れても、いいよ?」
「無理、だな。嬉しすぎて忘れられん。」
「……え?」
「俺も、お前の事が好きだ、と言っているんだよ。ずっと前からな。」

言われた言葉が上手く理解出来なかった。でも、目の前に自分の胸が一番ときめく人の極上の笑顔があった。

「…え?え?……もしかして、喜んで良いのかな?」
「当然だろう。両思い、ってやつだな。カーマイン?」
「……あっ!うっわ〜〜〜。そ、そうなるのか!うっ。」

自分の心だけで手一杯で、想いを受け入れて貰えた後のことなど、全く考えてなかった。顔がどんどん赤く
染まっていくのが自分でも判る。顔全体がとても熱くて、恥ずかしい。

「くすっ。顔が真っ赤だぞ?平気そうか?」
「へ、平気……じゃないかも?」
「そうか。ふっ、お前を愛しく思うぞ。」
「あっ、う、うん……。」

アーネストは俺が落ち着くまでその大きな掌で、頬や頭を優しく撫でてくれていた。撫でられるたびに心の中に
優しい感情が生まれ落ち着いていくのが判った。

「顔の赤みが落ちついて来たな。もう平気か?カーマイン…。」
「うん…、平気。」
「さて、どうするかな。このままお前を帰してしまうのは、惜しいのだがな……。」
「あっ、えっと…。俺も、もうちょっと、一緒に居たいな…。」

恥ずかしくないわけじゃなかった。でも、『一緒に居たい』それは、自分の中にある、とても素直な気持ちだった。

「では、場所を移すとするか…。このままでは机の上の書類に気を取られてしまいそうだ。」
「……いいの?書類、片付けなくて…。」
「かまわん。本来なら俺がやるべきものではないからな。」

ほんの少し意地の悪さが見えるような微笑みを浮かべ、アーネストは俺を自分の上から降ろした。そして、
頬に浮かぶ笑みを優しいものに変えて、俺の手を掴み楽しそうに執務室から出ていく。



◇◆◆◇



気付けばアーネスト誘われて、彼の家まで来ていた。アーネストはいつも仕事が忙しく、逢うのは彼の執務室か、
任務途中に外で偶然会うくらいだった。なので、家に連れてきて貰い、酷く浮かれている自分に気付いてはいたが、
気にはならなかった。

「遠慮せずに上がっていいぞ。取りあえずは、リビングのソファにでも座っていてくれ。」
「…うん。お邪魔しま〜す♪ソファ、ソファっと。」
「さて、こんな夜更けには何を出すべきかな…。」

アーネストはキッチンに向かったようだった。どうやらウェルカムドリンクを用意しようとしているらしい。
声が遠ざかっていく。その声を聞きつつ、ふと自分の服がじっとりと汗で湿っている事に気付いた。思いの外緊張が
強かったらしい。すぐにアーネストを追いかけ恥ずかしげに言ってみる。

「…あの、アーネスト。図々しいかも知れないんだけど、お願いがあるんだ。」
「あぁ、何だ?」
「えっと…。お風呂、かして貰っても良い、かな?何か服が湿ってて…。」
「……風呂、か?」

……や、やっぱり図々しかったかな?でも緊張していたせいか、服がひっついて気持ち悪いんだよね。……

言ってしまってから後悔した。けれど、布の張り付く不快感が堪らなく嫌だった。不安を胸に俯いていると、
言葉が降ってきた。

「…くっ。風呂、ね。一緒にはいるか?時間の短縮になるぞ?」
「な、ななな!何で時間を短縮しなきゃいけないの!?」
「――カーマイン…。時間を考えてくれ……。」
「だ、だって!アーネストが、アーネストがいきなり!!んっ!」
「っふ。……静かにしてくれ、カーマイン。もう夜中だ。」

いきなりの大声にアーネストは眉を寄せ注意を促す。しかし、カーマインは自分の事で精一杯なのか、
アーネストを叱咤する。が、アーネストはうるさいとばかりに唇をふさぎ窘める。カーマインの全身が綺麗な桜色へと
変わっていく。頭からは今にも湯気が出そうである。アーネストはその様子を見て、楽しそうに笑う。

「くっくっく。両思い記念と言うことで、思い出づくりだ。入るぞ。」
「え!?ちょっ、待ってよ!心の準備がぁ〜!!」
「…でも、嫌ではないのだろう?」
「――あ、アーネストの、馬鹿ぁ…。せめて、姫抱きはやめてくれ……。」
「やはり、お前は可愛い。綺麗な桜色だ。」
「……///。」

アーネストに問答無用とでも言うかのように、抱き上げられる。抵抗はしてみたものの、彼との体格差が災いし効果は
なかった。頬を優しく撫でられると、抵抗する気が萎え易々と浴室へと運ばれてしまう。此処まで来ては最早、
逃げることは不可能だろう。確かに彼の言う通り不快感は全くと言っていい程無かった。でも、せめて何かやり返したくて、
先手必勝とばかりに降ろされた瞬間から、彼の服に手を掛ける。アーネストは少しばかり目を見開いたものの、
頬に淡い笑みを浮かべされるが儘にしている。

……うぅ。咄嗟にアーネストの服に手を掛けてみたものの、すごく恥ずかしい!……

今日の自分は感情が先走って突拍子もない行動に出てしまっている。そんな思いも頭をよぎったが、
今更後には引けず、開き直る。恥ずかしさのため指が上手く動かない。そんな一生懸命な姿のカーマインを
アーネストはとろける様な眼で見ていた。

「う〜、う〜。後ちょっとで釦が…。」
「…ふむ。俺ばかり脱がされていては不公平だな。お前も剥いてしまおう…。」
「………何か、妖しい笑みが見えるんだけど。それに剥くって表現も、ちょっと…。」
「気のせいだと思っておけ。その方が身のためだ。」
「……………了解。」
「恥ずかしいなら、腰にタオルを巻いて入ってもいいぞ?それくらいなら許そう。」
「…何か釈然としないけど……ご厚意、ありがとう?」

掛け合いのような応酬をし、二人の口には笑みが浮かぶ。恥ずかしいと言えば恥ずかしいのだが、
彼と一緒にいられることや、たわいない言い合いは楽しさや嬉しさを募らせる。互いの服を脱がせつつ笑い合う。
全部の布が取り去られたとき、カーマインはアーネストに掬い上げられて湯船に運ばれた。アーネストはカーマインを
後ろから抱きしめつつ、顎を掴み幾度も唇を奪う。カーマインは戯れる様にキスを避けたり湯を頭から掛けたり、
子どものようにじゃれ合う。いつの間にか時間が過ぎていく。

「先に上がる。逆上せぬ程度に暖まってから出て来い。」
「…ん〜。はしゃぎすぎたのか、ちょっと疲れたかも。」
「ならば、尚更ゆっくり浸かって、身体を解しておくことだ。」

どっぷりと濡れてしまった前髪を掻き上げ、カーマインに声を掛ける。アーネストは恥ずかしがる事も無く裸体をさらし、
脱衣所に向かう。一方カーマインは掛けられる声が優しくて、身体だけでなく心までもぷかぷかと心地よく漂っているような
気持ちになっていた。

「…あぃ、あーねすと……。」
「…………決して、寝るな。溺れられては困るぞ。」
「自信、ない…。この家、居心地良すぎぃ……。」
「嬉しい言葉だが……、少ししたら見に来る。死んでいるなよ?」

湯船から出した右手をひらひらと振り、アーネスト見送る。一応は起きていようと努力したものの、
その意思はむなしくも僅か1、2分の間に散ったのだった。

「カーマイン?ふぅ、熟睡か……やはりな。」
「ん〜。…すぅ〜、すぅ〜。」
「このままだと茹で上がってしまうな……。」

アーネストが戻ってきた頃にはカーマインは熟睡状態だった。アーネストはカーマインを湯船から掬い上げ、
呆れを含んだため息を吐きつつ、ふかふかのタオルで体を拭いてやる。

「…ふっ。意識があったら絶対に出来ないことだな。」

そして、クローゼットから持ってきた、カーマインの身体には大きいパジャマを着せてやる。そして、ほかほかに暖かい
身体を抱き上げベットまで運び乗せてやる。

「一緒のベッドで眠る。そんな仄かな下心ぐらいは許してくれるのだろう?カーマイン。」

少しだけ、先に眠りに着いてしまったカーマインを責めるような色を含む言葉が出ていた。ふと、ベットの脇にある窓から夜空を見上げる。

「今夜は満月か…。俺は神の様な眼に見えぬ存在など信じはしない。だが、貴方には礼を言いたいと思う、月下老。
カーマインがいま俺の傍にいる。それは貴方のお陰かも知れない…。感謝、している…。」

一人、ベッドで身を起こし傍らの愛しい人の髪を撫で額にキスを落とし、呟く。大切な存在と共に居られる事、
それが一番尊いものだと知っているから……。



◇◆◆◇



カーマインが意識を微かに取り戻したとき、彼は非常に心地よいものに抱きつき光に囲まれていた。
とても心地よく暖かい感触で、幸せを感じていた。近くから聞こえてきたものは、心から呆れてしまっているような、彼の声。

「………ふぅ〜。お前は、よほど俺の腹の上が気に入ったようだなぁ、カーマイン…?
まさか朝から腹の上に乗られ、尚かつ全力で抱きつかれているとは思わなかったぞ………。」
「んん〜っ、…ん〜。」
「はぁ、お前には勝てん。もう、好きにしてくれ……。」

声は聞こえてはいた。が、まだ覚醒していた意識より眠気が勝っていたため、脳内に言葉が残らない。
それに優しく額に柔らかい感触が触れ髪を梳かれて、意識が再びまどろみへと沈んでいく。諦めたかのような静かな
ため息が聞こえる。その雰囲気は不愉快な感情を含んではいないように感じられた。このとき、ため息を吐く彼の口元に
淡い笑みが浮かんでいたかは、朝を告げに来た小鳥たち以外誰も知ることは出来なかった。



Fin♪



柊氷片様より

柊様からまたしても頂きましたー。
前回のアーネスト視点のカーマインver.になります。
とにもかくにもカーマインの愛らしさにノックアウトされております。何だこのマブイ子!
こんな子が起きたら自分の腹部に乗っかってたら起きた瞬間鼻血を噴きます(変態)
そして筆頭とのからかいあうような掛け合いがまたツボです。自分こういう関係大好物です(聞いてない)
更に筆頭がとても男前で・・・!ウチのアニーにも是非とも見習って欲しいばかりです。
柊様、お忙しい中での素敵作品毎度有難うございます〜。