※CAUTION!


この作品にはオリジナルキャラクターである、
アーネスト=ライエルの父親―ストレイ=ライエル―が出てきます。
オリキャラ嫌い、苦手というお方は閲覧にご注意下さい。
基本的には大人アーネストと口調は一緒です。


オッケェェイ、という気さくなお方はスクロールプリーズ。



























アーネスト=ライエル、現在七歳。
芽生えた自我が確立し始める幼少期の中頃という時期、既に可愛げはなし。
父親と瓜二つの端正な顔を持つ少年は、大抵の事は率なくこなしてのけるために、少々高慢であった。
よって他人を見下す事もしばしば。けれども、とある親交のある貴族の催すパーティにて運命的な出会いを
果たす事でその人格に一種の変化が起きていく。


淡く淡く、色づく柔らかな感情。
定まらなかった優しさという輪郭が、ゆっくりと露になり。
それは無機質な世界に生きていたはずの少年の、
本当の目覚めの日―――





オーヴァチュアは鳴り響き





優しいとは何だろうか。家臣に問えば、慈しみを持って相手に接する事だという。
ならば慈しみとは何なのか。もう一度問えば、困った顔をする大人たち。少し悩んでそれから、
大事にする事、愛する事だと口にした。

愛。自分には縁のない言葉だと思う。家族から恐らくそれは注がれているのは分かる。
けれど、自分にはそれを誰かに捧げる事が出来ない。愛というものが何で、どう示すものなのか
分からないからだ。家臣にそれを伝えればまだ幼いのだから当然ですと、微かな笑みと共に返される。
そういうものなのか。年を重ねれば何れは分かる事なのか。疑問は幾重にも降り積もって。

こんな事ばかり考える自分は、およそ子供らしくないのだろう。その自覚はある。可愛げもない事だって。
それがどうしたと開き直るのはきっと自己防衛でしかない。本当はもっと人に優しく出来ればいいと思っている。
そうすれば、愛される事もあるだろう、と。情愛というものに興味のない振りをしているが、恐らく誰よりも
自分はそれを欲している。孤独が怖い。一人の方が落ち着くなんて、ただの虚勢でしかないのに。

「アーネスト」

物思いに耽っていると名を呼ばれ、僅かに顔をそちらへと向ける。そこに立っているのは皆が瓜二つと
称する自分の父。ストレイ=ライエル。皆が云う通り、確かに顔の造りは自分とよく似ていると思う。
けれど父は自分と違い、人に優しくする事も、情愛を示す事も出来る。同じ、顔なのに。
俺も大人になればそうなるのだろうか。子供だから分からない、のか?

「どうした、アーネスト。難しい顔をして」

じっと見つめたまま、返事も返さぬ俺を不思議に思ったのだろうか。父は首を傾ぐと俺のすぐ傍に膝を着く。
同じくらいの背になると苦笑を滲ませた銀髪紫眼が真正面に映った。正直言って俺は父が苦手と言える。
顔が似ているから、というだけでなく子供を苦手としているくせに自分にはやたらと構ってくるからだ。
頭に伸ばされた手から逃れるように身を捩れば、父の苦笑は深まる。

「何故避ける」
「俺が他人に触れられるのが苦手なのは知ってるでしょう・・・・父さん」
「私はお前の父だ、他人ではないだろう?」

ちゃんと血が繋がっている、と諭されても苦手なものは仕方ない。毎日鏡を見ているようで、嫌になる。
父は俺と同じ風には思わないのだろうか。自分とよく似た顔がすぐ傍にあって気味が悪いと。訊いてやろうかと
考えた事がないわけではない。けれど、尋ねてしまえば己も父も傷つくような気がして、言葉に出来なかった。
気まずさを隠しきれずにひたりと注がれる視線から目を逸らせば、大きな手がそれを許さず。

「アーネスト。誰かと話をする時は、
相手の目をきちんと見ろといつも言っているだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前は可愛げはないが、賢い子だ。
私の言う事が正しいか間違っているかくらい分かるだろう?」

そんな事、訊かれなくても分かっている。父の言う事は偶に俺をからかって嘘を教える事もあるものの、大抵は
正しい。目を合わせなければ、口から発する言葉を殺すようなもの。人の意思は言葉よりも何よりも身体に現れる。
特に目は時に口よりも雄弁に己の心を曝け出す事もあるくらいで。目を合わせない人間の言葉は信用するなと
何度云われたか知れない。仕方なく頷けば、微かに父の目許は和らぎ。

「アーネスト。お前は私の事が煩わしいのかもしれんが・・・私にとって、お前がどんなに意地っ張りで
可愛げがなくて、頑固でも私と私の最愛の妻の子なのだ・・・どうしても、可愛いのだよ」
「・・・・・分かって・・・います」

愛されて、いる事は分かっている。それでも、自分の中の何かがそれに対して反発してしまう。
一種の反抗期とでも云うのだろうか。理解していても、与えられるものを素直に受け取れない自分がいる。
そんな俺の事は見透かしているのだろう。現に先ほどから俺を見つめる顔は優しい。

「お前は少し、不器用でまっすぐ過ぎるのだろうな。
愛を与えられても、与えられた分だけ返せぬ自分に苛立つのだろう。
それで他人に無関心な振りをする・・・・真面目なのはいいがそれではいつか孤独になるぞ」
「・・・・・・・・・ッ」

図星を突かれた。何も返す事が出来ず、息を飲む。

「アーネスト、お前は逃げさえしなければ必ず誰か、掛け替えのない人に出会えるだろう。
だから、ほんの少しでもいい。人に関心を持ちなさい。臆病にならずに、心を開きなさい」
「・・・・・・・・でも・・・・」

口を挟めば、両肩を掴まれ父の顔が近づく。俺とよく似た、俺とは全く違う表情をする、その顔。
コンプレックスなのかもしれない。外見は似ているのに、中身は違う事に対して。それはきっと当たり前の事
なのだろうけれど。ないもの強請りばかりする自分には父の姿が眩しくてしょうがない。
羨ましくて、でも自分は可愛げのない子供だからそれを素直に伝える事も出来ないで、悪態ばかり
ついてしまう。こんな俺にも父は気づいているのだろうか。掴まれた肩に加わる手の力は穏やかで。

「今度、知人の催す夜会に招待されている。お前も来なさい。確かお前と近い年頃の子供たちが
数人いたはずだからな。恋人はお前にはまだ早くとも、友人くらいは作れるだろう?」
「・・・・・・・友、人・・・・」
「・・・・・・この世で最も恐ろしい事は独りきりになる事だ・・・と私は思う。
私も妻も家臣たちも、ずっとお前といられるわけではない。それは・・・分かるな?」
「・・・・・・・・はい」

頷けば、くしゃりと髪を撫ぜられる。要するに父も母も、俺に友の一人もいない事が心配なのだろう。
今までは面倒だからと夜会に連れて行こうとする両親にずっと否と唱え続けてきたが、もう潮時なのかもしれない。
友を作るまでは、いつまでも両親に心配をかけたままだ。それは子として情けのない事だろう。
あまり気は進まないが、今回ばかりは逃げずに向き合う事としようか。


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幼少期1話目というか序章です。
本当はパーティの様子まで書こうと思ったのですが毎回長いのも
どうかと思って分けてみました。続きは早めにUP予定です。

それと今回、うっかりアニー父をオリキャラとして出してしまったのですが
大丈夫ですかね・・・。オリキャラ嫌いーというお方がいらっしゃいましたらすみません。
もう既に彼と彼の妻のキャラは固まってますのでその内またひょっこり出てくるかもしれません。
問題がないようでしたら、改めてキャラクター設定集に組み込む予定です。


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