※CAUTION ・ゼオンがルーファスの副官で上官×部下なパラレル設定 ・被災地はカーマインIK化パラレルのバーンシュタインで ・今回の被害者はカーマイン+相手が美系の男達と知って付いてきた過保護な恋人二人の三人で 以上が今回頂いたキリ番リクエストです。 パラレルにパラレルを重ねた特殊設定ですので読む際にお気をつけ下さい。 大丈夫だぜ!何でも来いやああ!!という頼もしい 雪深い北に位置する王国、バーンシュタイン。 年の終わりともなれば、雪が止め処なく降り注いでくるのが日常で。 吐く息は白く、手袋なしでは手がかじかんで動かすことも侭ならない。 そんな中、陽光ですらその深く積もった雪を溶かすのに労すると言うのに、いとも容易く溶かしていく 有難いのか迷惑なのか、何とも判断しがたい暑苦しい異邦人がやって来た。 ―――遠い遠い、時空すら越える異国の地から・・・。 やって来た異邦人 滔々と雪が降りしきる季節になり、引き寄せられるように窓際から外を覗く緋色の瞳。 歳月を重ねるほど砂漠化が広がっていくグランゲイルに雪が降ること自体、真冬と言えど滅多にない。 数年に一度あるかないか。そんな珍しい日を何処か楽しげに見守っていた青年だったが、 次第にその喜色の浮かんだ表情は常の渋面へと変わり。苛立たしげに眉間へと深い深い皺を寄せた。 「・・・・いい加減にしろ、テメェら」 腹の底から絞り出したはずの低音。けれど、ぶつけてやった相手は全く堪えた様子がない。 青年の怒気になどまるで気づいていないのか、敢えて無視しているのか。咎められた主達は冷え切った室内を 暖める暖炉以上に濃密な熱を周囲に放っていた。まるでそこが自分達だけの世界かのように・・・。 「おい。ルーファス、聞いてんのか?」 再三の呼びかけに返ってくるのはいっそ清々しいシカトっぷり。名を呼ばれたにも拘らずルーファスは、 他人の室内で先日、平和維持軍より奪ってきた青年と仲良く―と言うよりはイチャイチャと逢瀬を楽しんでいる。 背後から華奢な背を抱き締めて、頬をすり寄せ合うその様は、男同士なのに双方共が女顔であるがために 言うなれば百合行為のように映った。細い指を絡め合い、擽るように触れ合う肌に口付けを施していく・・・。 「だあああああああ、他所でやれ馬鹿野郎共があああああ!!」 これまでどんなに無視を決め込まれても何とか堪えて来た部屋主だったが、もう我慢の限界だったらしい。 喉が枯れ果てるのではないかと思うほどの大声を室内に響かせた。綺麗に整えられている家具類がそのあまりの 声量にまるで地震でもあったかのように震えている。カップの中に注がれた紅い水面が波紋を描く。 その一部始終をきょとんと見守っていた碧眼はふうと重く溜息を吐き。 「ギャリック、煩いですよ。何を騒いでいるのですか」 「ア゛アン?煩いだとこの野郎。それはこっちの科白だ、すっとこどっこい!」 「ちょっとすっとこどっこいなんて今世紀初めて聞きましたよ!」 「っせえな!大体テメーはなんっっっで俺の部屋に居ついてんだよ!風情も何もあったもんじゃねえ!!」 外を見てみろ、雪だぞ雪!とやや興奮した声音の指し示す窓の外へと碧眼と、その対になる色合いの緋色の瞳が 一斉に向けられ。緋色の方が、動いた。 「わあ、雪!」 言われて初めて気がついたのか、嬉しそうに立ち上がると自分を抱きしめていた男の腕から抜け出して 窓際までととと、とあんよを覚えたばかりの赤子のような危うい足取りで近づき。そんな彼の様子をまるで珍獣でも 見るかのような目で見守るギャリック。ひんやりと冷たいガラスに青年の指が触れ、その箇所だけ僅かに曇る。 「・・・何だ、お前も雪が珍しいのか?」 「え、はい。ネイラーンやフェルメンティアならともかく、滅多に雪なんて降りませんから」 「・・・そういや、そうか。確かお前、ワースリー村出身・・・」 言いかけて、少し離れた位置に座っている同僚から寄せられる険しい視線にギャリックはうっと一度息を詰まらせた。 見るからに貧弱そうな優男であるのに、ルーファスと言う男はスクリーパーすらも相手取る力を有し、 更には怒りを露にすると普段の温厚そうな風貌が嘘のように誰よりも恐ろしくなる。猫かぶり、とギャリックは思う。 もちろん常に見せているのが全て偽りの姿とは思えないが、その本性は怒っている時の方である、と。 口に出そうものなら即座に鞭が飛んでくるので声にすることはない心情。きっと、今自分の真横にいる青年はそれを 知らないのだろう。ギャリックは内心で溜息を吐く。 「・・・・おい、ゼオンシルト」 「え、はい。何ですかギャリック大尉?」 「雪が物珍しいのは分かったが・・・俺の隣に立つな。馬鹿が煩いからな」 「・・・まさかと思いますが、その馬鹿とは私のことではないでしょうね?」 ゆらり。静かに怒気を讃えた痩身が、ソファを軋ませ立ち上がる。新緑色をした長い髪が動きに合わせて揺れた。 まるで貴婦人のように上品に微笑んでみせる白皙。けれどもその碧い瞳の奥は笑ってはいない。 だからこそ空恐ろしい。体格で言うならば、細身ではあるもののほどよく鍛えられ長身なギャリックが身じろぐ。 みっともないと恥じるよりも本能的な恐怖の方が上回るのだろう。白眉を吊り上げ、頬の筋肉を引き攣らせた。 「お、おい・・・何も一々殺気立つこたぁねえだろっ」 「殺気立つ?誰がです。ゼオンの前でおかしなことを言わないで頂きたいですね」 「おかしなことだと?よく言う。いつもどんだけ俺が迷惑してると思ってんだ」 むさ苦しい容姿でないのが唯一の救いだが、毎日のように男同士がべたべたしてる様を見せ付けられれば どんなに寛容な心の持ち主でも嫌気が指すだろう。こと、同性なら尚更。 「ったく、見たくもないものを強制的に見せ付けられる人間の気持ちも少しは理解しろ」 「おや、私のおかげでゼオンの可愛いところが見れるというのに・・・感謝されこそすれ迷惑がられる道理はありません」 「ル、ルゥ!可愛いなんて・・・照れるよ」 「ああっ、ほら見て下さい。何て可愛いんでしょう。私のゼオン!」 「見せるなっちゅーに」 ひしぃ!と寄せられた賛辞に照れたらしいゼオンシルトをルーファスは力強く抱きしめる。ついでとばかりに朱に染まった 頬へ口付け、それだけに飽き足らず瞼や鼻に音を立てて自らの唇を押し当てていく。完全なる恋人同士の睦みに 強制的に巻き込まれたギャリックは、ぎょっとした後、居た堪れず顔を赤くする。 「〜〜ッ、だから、俺の前ですんなつってんだろがぁあああ!!」 ごん、ごごん! と新緑色と蜜色の頭を力の限り殴りつけて目前の凶行を半ば無理やり制止する白いグラブに包まれた拳。 布地の上からでもその下ではくっきりと血管が浮き上がっているのが分かる。 「〜〜〜ッ」 「いったぁぁぁ、何するんですか、馬鹿力!!」 唐突に殴られた二人はといえば、じんじんと痛みが浸透していく頭頂部を両手で押さえ、地面に蹲った。 よほど痛かったのだろう。文句を告げる碧眼の目尻には淡く涙が滲んでいる。その歪んだ表情を見て取って ほんの少し、気が晴れたのか殴りつけた主は眉間の皺をやや薄くさせた。 「・・・軍人たるものこの程度でヒィヒィ言ってんじゃねえよ。そっちの副官のが幾らかマシだな」 「・・・いえ。俺は単に痛みのあまり声が出なかっただけです」 「まあ、何て可哀想なんでしょう。代われるものならその痛みを代わってあげたいくらいです」 切々とわざとらしいくらいに己の副官を心配する上司。そこに伴うのが恋愛感情でなければ 美しき師弟愛にも映るのだろうが、思い切り瞳の奥に欲が篭っているため、美しさも半減する。 むしろ精神に及ぼす害の大きさから考えて公害と言ってもいい。薄れさせた眉間の皺を再度濃くして ギャリックは仰々たる溜息を吐き。 「・・・・いいこと言ってる雰囲気出してるとこ悪ぃが、お前も殴られてるからな」 「分かってますよ、気持ちの問題です、気持ちの!本当に貴方はデリカシーがありませんね!」 「お前らにデリカシーがあったら俺もお前らを殴らなくて良かったんだがな・・・。まあ、それはいいとして」 ひょいと向き合っている細身の襟首を引っ掴んで男二人を軽々と持ち上げたギャリックは、 唖然としたまま運ばれているルーファスとゼオンシルトを扉の前まで移動させ、手が塞がっているために 行儀悪くドアを蹴り開くとずかずかとそのままの格好で廊下を進み、魔法技術研究を行っている 通称魔研室まで足を運び、研究員が瞠目している間をすり抜け部屋の奥まで移動すると、漸く 猫のようにみっともない格好で連れてきた二人を投げ捨てた。 「「・・・ッ!」」 「・・・今までは何とか堪えてきたが今日という今日はもう限界だ。 いい加減目障りだ、仕事もしねえなら居たって邪魔なだけだからな。暫く旅にでも出るといい」 「「はい?」」 あまりにも唐突な物言いに相反する四つの瞳は紅を見仰ぐ。 「新大陸・・・というか向こうの大陸にトランスゲートとか言うものがあっただろう。その原理が 分かれば移動手段として非常に便利な代物だ。秘密裏に調べさせていたんだが・・・先日やっと 新たにゲートをこの城内に試験的とはいえ開くことが出来たんでな。テメエらで実験してやろう」 「「実験??」」 不穏な単語を耳にして、綺麗にハモる色の違う二つの声。 「まだ何処に飛ぶのか分からねえらしいが・・・お前ら二人なら何処へ飛ぼうと死にゃしねえだろ」 「ちょ・・・何言ってるんですか。そんな危険な・・・」 「問答無用だ。俺はテメエの指図は受けん」 横暴、鬼、悪魔ー!と騒ぎ立てる同僚には目もくれず、完成したばかりという見様見真似で作らせた トランスゲートを開門させるとギャリックは、非情にも宣言通り、安全の確認も取れていないまま、 ルーファス及びゼオンシルトを『何処か』へと飛ばした―――。 ◆◇◇◆ ―――所変わって、腰ほどまで埋もれるほどの大雪に見舞われた北国バーンシュタイン王国にて。 一人の青年が部下を従えてせっせと雪かきを行っていた。白魚のように美しい手は、分厚い手袋に 覆われているとはいえ長時間にも及ぶ屋外での作業にじんじんと痛みすら齎すほどに冷えている。 大した意味はないと分かりながらもシャベルを雪面に突き込んで手が空いた際に吐息を吹きかけていると 一回りほど大きな手にそれを掬い取られた。 「雪で濡れているな。これでは手袋も逆効果だ」 「・・・アーネスト」 グイと言葉通り濡れている手袋を剥ぎ取られると現れた真っ赤に染まる指先が酷く痛々しく。 柔らかく暖かな両手に包まれて念入りに吐息を吹き掛けながらのマッサージを受ける。 序に熱を取り始める指先に小さく口付けられて青年―カーマインは寒さだけでなく頬をほんのりと染めた。 「・・・は、・・恥ずかしいだろう」 「ん?俺は別に恥ずかしくなどないが」 「違う、アーネストのことじゃなくて俺がだ!」 パッと掴まれた手を取り戻してみせると白眉はあからさまに不服げに歪む。 少し離れたところには部下の兵士達がいるのだからカーマインとしては当然、真っ当な反応であった。 誰だって喩えどんなに慣れ親しんだ相手にでも、真逆の見知らぬ相手でも、恋人との逢瀬を 見られることには抵抗がある、はずだ。 「全く・・・インペリアルナイトがこれじゃあ他の兵士に示しがつかない」 「模範になどならなくとも、初めから真面目にやる者は真面目にやるし、だらけた者はだらけたままだ」 「・・・それは、そうかもしれないけど・・・。と言うかいつから屁理屈とか言うようになったんだ?」 「言い訳上手の口達者が身近にいるからな」 明らかに棘のある言い様にカーマインが苦笑すると、雪路を凛と踏みしめる音が届いた。 「・・・ねえ、その言い訳上手の口達者ってまさか僕のことじゃないよね?」 「あ、オスカー」 「・・・何だ、自覚があったのか?意外だな」 白銀に覆われた世界の中に、突如飛び込んできた藤色の高貴な色―オスカー=リーヴスに、 カーマインははっとしたようにアーネストはいっそ清清しいほど綺麗に片眉を吊り上げた。 士官学校時代からずっと続く青年の奪い合いは今も尚、衰えることはないらしく。一歩敵が近づく度に アーネストは間近のカーマインを人目を気にした風もなくその腕に抱き寄せた。 「・・・ちょっと、離しなよ。カーマインが嫌がってるでしょ」 「嫌がってない」 「・・・別に、嫌ではないけど・・・少しは人目も気にして欲しいとは思う」 ぎゅうとお気に入りの人形を抱きしめる少女のような恋人兼幼馴染その一の有様にカーマインは呆れ半分、 諦め半分の声音で一つ文句を。しかし、常ならば多少強めに言うのだが、現在は雪の降り積もった屋外・・・。 要するに途轍もなく寒いため、暖代わりには丁度いいと受け入れ気味ではあった。特に腕の中で身じろぐこともなく、 むしろ背後の懐に冷えた頬を摺り寄せるように自ら身を寄せる痩身。 「・・・あのね、カーマイン。人目を気にしろとか言っといて自分から擦り寄ってどうするの」 「―――だって・・・寒い」 「ならこっちにおいで。そっちより安全だから」 「なんだと?」 そっち、やらまるで危険物のような扱いをされてアーネストは当然だが憤る。怒気だけではなく、微かにだが 殺気も混じった低音。不穏な空気の流れる中、けれどもカーマインは慣れているのか動じない。 もぞもぞと自分を抱く男の上質なコートの前を開けて、体温で暖められ外側よりも暖かい内部への侵入を試みる。 どうにも寒さに弱いらしい。 「・・・ちょっと、カーマイン。雪が降り出してから・・・って言うか冬になってから僕に冷たくない?」 両手を広げて受け入れ態勢で待っていたのに一向に飛び込んでくる様子もないカーマインにオスカーは 拗ねたように問うが、カーマインはアーネストのコートの中で可愛らしく小首を傾げ、可愛げのないことを言う。 少なくともオスカーにとっては。 「・・・・冬は、アーネストの方が体温高くて暖かいから好き」 「『冬は』というのが気になるが・・・まあいい。聞いたろう、オスカー。そういうわけでこの時期は俺に譲れ」 「ああそう、分かったよ・・・なーんて言うかぁぁぁ!!殺してやるぅぅぅ!!」 ・・・・・・・・・。 いつまで経っても、幾らも進歩していない遣り取りが日常茶飯事宜しく行われている真っ只中。 いつもの、変わりない、日常に一つの変化が前触れもなくやって来た。 「・・・だからっ!君って人は本当に子供だね!」 「そういう貴様こそ。何百何千何万回と・・・!同じことを何度言わせる気だ」 「・・・それは俺がどっちも二人に言いたいんだけど・・・聞いていないな」 やれやれと、身動きの取れない状態でカーマインが大仰に溜息を吐いた瞬間。 鈍い銀灰色の空が、きらりと光る。まるで星が落ちてくるように。妙な気配を感じ取ってアーネストは 足元が雪で埋もれているのをいいことに腕の中の痩身を背後に突き飛ばす。雪面がクッションになって 怪我はしない。そう分かっていたからこそ出来た行動。怪我をするようであれば、腕の中に抱いたまま背後に 飛んでいただろう。武器に手を掛ける。オスカーも同様に試作段階のリングウェポンに呼び掛けて武器を 手中に呼び出す。 ―――が。 「「!!」」 見上げた先に見た、異質なものに紅と碧の瞳は大きく見開かれた。 「「わああああ、危ないっ!退いて下さい!!」」 「「はあっ??!」」 ドスン 地響きと共に二人の騎士目掛けて、二人の人間が舞い降りた。メキリと下敷きにされた男達の骨から 妙な音が鳴る。突き飛ばされた上体を起こしたカーマインは心配そに様子を伺い。 「・・・おい?だ、大丈夫・・・か?」 「ごほ・・・これが、大丈夫に見える?」 「・・・内臓吐くかと思った・・・」 腹部に激しい圧迫を受けたようでアーネストもオスカーも息苦しげに応える。が、口を開く元気はあるらしい。 そのことにほっとしながらカーマインはそんな彼らの上に落ちてきた面々を繁々と見下ろす。 新緑の髪の・・・青年に金髪の青年、だろうか。そっと窺えた横顔はどちらも女性的で判断に窮する。 「・・・で、誰よ」 「俺が知るか」 「・・・とにかく、医務室に運ぼう。二人とも気を失ってるみたいだ」 「運ぶと言っても・・・」 「よかったね、アーネスト馬鹿力が役に立つじゃない」 「・・・お前もに決まっているだろう」 真紅の瞳が嫌そうに他人事のように言ってのける碧眼を睨みつけ。 有無を言わせず顔の割りにガタイのいい、異邦人を引き摺るように運ばせた。 NEXT パラレルinパラレルという異色作です(嗚呼) そしてまた前後編かーい!と思わせる内容で申し訳ありません。 ルーゼオが書く度に気持ちが悪くて困ってます。 誰かこの子達を止めてやって下さい(無茶を言うな) つ、続きます。 Back |