七万打有難うございます。
御礼企画としてもうやんねえとか言ってた気がする
童話パロをまたやってみようかと(またっすか)
今回はヘンゼルとグレーテルです。
配役は・・・いつもとそんなに変わりませんが、
OK大丈夫!という方だけスクロールプリーズ。


ヘンゼル(兄):アーネスト
グレーテル(弟):カーマイン
お母さん:サンドラ様
父親・・・は不在で(何!?)
人食い魔女:勿論オスカー
ナビ&ツッコミ:やっぱり管理人


この面子でOKという心の広いレイデーは下へスクロール!















〜世界迷作劇場 ヘンゼルとグレーテル〜








昔、大きな森の入り口に木こりの夫婦と二人の子供が住んでいました。
しかし配役の都合上(言うな)、夫は数年前に他界し今では母親一人で子供を育てています。
白銀の短い髪に、緋色の瞳をした黒衣を纏う長身な兄のヘンゼルと
黒髪の長い前髪の間から金と銀の双眸が垣間見える白皙の美貌を湛えた弟のグレーテル、
そして紫の長い髪をした間もなく四十路を迎えるとは思えない(失言)美しい造作の顔をした母のサンドラの
三人は仲睦まじく、というか母と兄が弟のグレーテルを溺愛しているという管理人の趣味の塊な構図で暮らしていました。
特にヘンゼルの弟への溺愛ぶりは傍目から見ればアイタタターと思わず呟いてしまうほどです。

・・・・・話が脱線しました。
とにかく、仲の良い木こりの一家はそれなりに幸せに暮らしていましたが、家計を支える大黒柱が不在のため、
金銭面で多少不便があり、日々の食料は自分たちで自給自足しなければならず、母のサンドラは二人の兄弟に
森の奥へ野いちごを摘みに行くようおつかいを頼みました。

「この籠一杯に野いちごを摘んで来て下さい。それからヘンゼル、グレーテルに手ぇ出したらぶっ飛ばしますからねv」
「・・・・・・・(配役上)自分の息子に何物騒な事言ってるのですか。というかそんな節操のない真似しません(多分)」
「あら、・・・・・(多分)って何ですか?」

キラキラと周囲に星を散らせて実に爽やかな笑みでサンドラがヘンゼルに問えば、ヘンゼルはもう慣れたように
小さく息を吐きつつも淡々と切り返します。

「大丈夫です。自分で言っててかなり空しいですが俺は理性的と書いてヘタレと読まれる男ですから」
「・・・・・ホホホ、そうでしたね。所詮貴方はヘタレですからね。お母さん安心だわ」
「・・・・・・・・・・・・・(俺を苛めて楽しいか管理人)」

かなり楽しいです(笑)ライエルさ・・・・じゃないヘンゼルさん。

「・・・・・・貴様わざとだろう。楽屋裏で覚えておけよ・・・・・・・・(怒)」

宣戦布告を受けてしまいました。まあ、それはいいんです。後でカー君連れて行きますから(盾にする気らしい)
それより物語に戻りまして。野いちご摘みのおつかいを頼まれた二人の兄弟は母のサンドラから籠を受け取って
目の前に広がる森の中へとお手て繋いでとことこと歩いていきました。




◆◇◆◇




野いちごを摘むために、森の中を数時間適当に歩いていた兄弟は適当に歩いていたがために道に迷ってしまいました。
まあ、当然といえば当然です。籠を腕に抱えたグレーテルは歩き疲れてしまったのか、隣りを歩く兄の無駄に上半身を
曝け出した黒いジャケットの裾をクイクイと引っ張ります。微かな振動に気づいたヘンゼルは緋色の目を自分の顎辺りに
ある小さな漆黒の頭へと向けました。

「・・・・・・どうした、カ・・・・いやグレーテル」
「・・・・・俺、もう疲れちゃったよ、お兄ちゃん」
「・・・・・・・・・ッ!!」

眉根を寄せ、上目遣いに見上げてくる可愛い弟の良く通る美声で「お兄ちゃん」と呼ばれ、ヘンゼルは内心狂気乱舞
しました。しかし理性的という事になっているので、うっかり出しかけた手を無理やり引っ込めて、未だ邪心が渦巻く白い頭を
近くの木へとガツンと打ち付けます。突然の凶行に当然グレーテルは驚き、啄木鳥のように頭を木に打ちつけ続けている
兄に気遣うように問いました。

「お、お兄ちゃん、どうしたんだ!?大丈夫・・・・っていうか何やってるの!?」
「い、いや・・・・・精神統一を少し・・・・・・」

額から血をダラダラと垂れ流しながらも至極真面目に応えるヘンゼルの姿は異様なものでしたが、グレーテルは
マイペースなのであまり気にせず、ポケットからハンカチを取り出すとまだ出血の止まらぬ兄の額を優しく拭い始めました。
いい子です。お姉ちゃん、お嫁に貰いたい(何か間違っている)

「とにかく血を拭いて・・・・・大丈夫?」
「ああ、というかあまり顔を近づけるな。今危ないから・・・・」
「は?」

言われた意味が分からずグレーテルは色違いの瞳を大きく見開きます。きょとんとしたその表情は可愛らしく、またしても
手が伸びそうになったヘンゼルは母の言いつけを思い出し、ベチンと自分で自分の両頬を叩いて何とか堪えます。
ある意味でヘンゼルの方が色々限界でした。

「つ、疲れたのなら俺がおぶってやるから・・・・・ほら」

乗れ、とヘンゼルはグレーテルの前に屈み、首だけ振り返って自分の背中を指差します。グレーテルは暫し逡巡しますが、
足はもうクタクタだったので籠を置いて有難く兄の背中におぶさりました。大きな背中にすっぽりと収まってしまった
グレーテルは、落っこちないようにぎゅうと兄にしがみつきます。その際首に回された腕ががっちりと締め上げてきて、
予期せぬ事態にヘンゼルは息を詰まらせ一瞬あの世に逝きかけました。

「・・・・・ぐ・・・ちょ・・・・グレーテル、もう少し力を抜いてくれ・・・・ると嬉しいのだが」
「え、あ・・・・・ごめん!!」

自分がヘンゼルの首を絞めていた事に気づいたグレーテルは素直に腕の力を緩め、遠慮がちに兄の肩へと手を置き、
ぷらぷらと足を揺らせました。妙に子供っぽい仕種にグレーテルを背負ったヘンゼルは密かに胸キュン(おい)しつつも、
森の出口を探しながら足を進めます。




◆◇◆◇




「お兄ちゃん、お腹空いた・・・・・・」
「・・・・・・・・すまんな、何も持っていない」

背中の上で、ぽつっと呟くグレーテルに、ヘンゼルは申し訳なさそうに答え、何とかしなくてはと歩む速度を速めるものの、
家への道のりは一向に見えて来ず、内心ではほとほと困っているのが現状です。ヘンゼルは体格もよく、体力に自信が
ありましたが、グレーテルの方は華奢で、兄に比べれば幾らか体力が少なく、とっぷりと日が暮れ月が昇る頃には
どこかぐったりとしていました。弟を溺愛しているヘンゼルは弱っていくグレーテルに慌てます。

「・・・・・・グレーテル、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・うん、ごめんね。お兄ちゃんの方が大変なのに」

流石にお兄ちゃん連呼にも慣れてきたようでヘンゼルはもう精神統一のために頭を木に打ち付けるなどと危ない真似は
しなくなりました。一安心です。しかし、少しでも早く家に辿り着きグレーテルを休ませてあげたいヘンゼルは自分の疲れを
物ともせずグレーテルを背負ったままスタスタ歩いていきます。そんな献身的な兄の姿に神様も絆されたのか、
普段これでもか!というほど不運な彼の目前に一つの民家が見えてきました。自分たちの家ではなかったようですが、
もう夜も更けているし一晩泊めてもらおうとヘンゼルはその家を目指します。距離が狭まり、よく見てみれば、彼の
目前に現れた家はなんと全てお菓子で出来ていました。甘い匂いにヘンゼルの背でぐったりしていたグレーテルが
顔を上げます。

「わ、お菓子の家だ」
「そのようだな。まあ、維持が大変そうな家ではあるが・・・・・」

しみじみと夢も何もない事を言ったのがヘンゼル、素直に感嘆の声を上げたのがグレーテルです。

「・・・・・・美味しそう」
「勝手に食うなよ?俺がちゃんと家の者に(拳で)話をつけてやるから」

せめて交渉して下さい、ライエ・・・・いえいえヘンゼルさん。

「だから、お前わざとだろう」

何ですか。言いがかりはよして下さい。私いつでも一生懸命デスカラー!!(本当かよ)
それはともかく。ヘンゼルはグレーテルを背から下ろすと、夏場だったら絶対どろっどろに蕩けそうなチョコレートで
出来た戸を数回ノックしました。これで誰も出てこなかったら、堂々と不法侵入しようと決意して(おいおい)

「おい、誰かいないか」
「何方かいらっしゃいませんかー?」

少し大きめに声を掛けるとゆっくりと見せかけてドアの目前に立ったヘンゼル目掛けて勢いよくチョコレートの戸が
開かれました。当然、戸の前に立っていたヘンゼルの顔面に激しく衝突します。

ガツン

「・・・・・・・っ」
「おっと、ごめんごめん。まさかそこに立ってるとは思ってたけど」
「きっさま、わざとか・・・・!!」

強打した額を擦りながらヘンゼルは、戸を開いて現れた人物に向かって怒声を浴びせるものの、紅い視線に黒いローブを
羽織った紫髪の男を捉えると、開かれたドアを憎しみを込めて勢いよく閉め返しました。

バタン!ゴッ!!

「あだぁっ!」
「あ、お兄ちゃん今誰か頭打ったぞ!?」
「気のせいだ、気のせい。ここは危険だ引き返すぞ」
「え、何で!?」
「怪しい人間がいた、怪しい人間が」

ヘンゼルはグレーテルの手を取ると、くるりと踵を返し元来た道を戻ろうとしました。納得行かないのはグレーテルです。

「・・・・・でもお菓子・・・・・・・・」
「あー、家に帰ったら俺がいくらでも買ってやるから諦めろ」
「・・・・・・・・・・・・・本当に?」
「ああ。ゴディバのチョコでも何でも買ってやる。大体野ざらしにされた菓子の家なぞ埃だらけで腹を壊すぞ」

正論のようなやはり夢の欠片もなさそうな事を言って丸め込もうとするヘンゼルですが、先ほど戸を閉めて、引き返して
来た家の住人が出てきたので眉を顰めます。

「ちょっと待てー!!そこの白頭、さっきはよくもやってくれたね!」
「白頭言うな、この不審者めが!」
「どこが、不審者だって言うんだい、この男前を捕まえて!!」
「寄るな、ナルシスト病が伝染る!!グレーテル、近寄るなよ、こいつは危険だ!!」

サッと贔屓目なしに見ても可愛らしいグレーテルに変な虫がつかぬようにとヘンゼルは自分の背に弟を隠しますが、
黒いローブの男はキラリと青灰の瞳を光らせ言います。

「あ、君可愛いねえ。僕についてきたらあの家のお菓子全部上げるよ」
「・・・・・・・・・・本当?」

男がヘンゼルの背に隠れたグレーテルに向けて優しく囁けば、お菓子につられてグレーテルはぴょこと顔を出し、
とてとてと不審な黒いローブの男の後をついていきました。

「あ、コラ!グレーテル!!怪しい奴には付いていくなといつも言ってるだろう!」

自分から離れてお菓子の家の方へ戻っていくグレーテルを見咎めて、ヘンゼルも仕方なく黒いローブの男の背を
追っていきます。先ほど勢いよく閉めたドアは金具が外れて少しだけひしゃげていました。どうやらヘンゼルは馬鹿力の
ようです馬鹿故に。

「馬鹿って言うな!!」

怒られました。怖くはないですが。まあ、腹を立てたヘンゼルは取り敢えず無視して話を戻します。
家の中に連れられていくグレーテルを追ってヘンゼルはお菓子の家の玄関へと足を踏み入れたもの、急にそこで
身体が動かなくなってしまいます。

「何だ・・・・?」
「フッフッフ、君は邪魔っぽいから僕の魔法で動きを止めさせてもらったよ」
「何ぃ、貴様ちょこざいな!!早く魔法を解け!グレーテルに手を出そうものなら問答無用で斬る!」
「そーんな事言われて自由にする悪人がいると思うかい?お ば か さ んv」
「くっ、顔からしてムカつく奴だとは思ったが中身はもっとムカつく奴だな貴様!」
「何とでもー。動けない君なんて恐るるに足らずだもんねーだ」

んべーと舌を出しながら言われた言葉にヘンゼルは白い額にくっきりと青筋を浮かべます。どうやらヘンゼルと魔女は
本能的に反発してしまうようです。そんな二人をグレーテルはおろおろと見守っていましたが、人食い魔女にサッとお菓子を
チラつかされると兄をほったらかしでそっちに意識を持っていかれてしまいました。嗚呼、哀れヘンゼル。

「んじゃ君、邪魔だから牢屋にでも入っててね。弟君は僕がしっかりと幸せにしてあげるからv」
「な、貴様!俺だって手を繋ぐだけで精一杯なのにそれ以上の事をしようものなら母が黙ってないぞ!」

―――お前じゃないんかい。
そんなツッコミはさておき。魔女によって動きを封じられた兄、ヘンゼルは納屋にある牢屋の中へ閉じ込められてしまい、
弟のグレーテルは魔女の身の回りの世話をする事になった模様です。

「グレーテルー、お茶淹れてーvでないとお兄ちゃん食っちゃうよーvvv」
「だめ!お兄ちゃんは食べないで」
「うん、グレーテルがこのケーキ食べさせてくれたらお兄ちゃん食べないであげる」
「な、何か注文が増えてないか?本当にお兄ちゃん、食べたりするなよ?」
「ははは、愚問だね。僕が嘘をつくとでも思ってるのかい」

にっこりと笑いながらヘンゼルの命を盾に人食い魔女はグレーテルを毎日自分のいいように操作しました。
ちなみに魔女は嘘つきです。グレーテルには言う事を聞けばヘンゼルは食べないと言っていますが、ヘンゼルが
魔女の用意した食事で太ってきたら、グレーテルに内緒で食ってしまおうと思っていました。しかし、ヘンゼルは
食べても太らない体質だったのでいつまで経っても体型は変わりませんでした。業を煮やした魔女は仕方なく、
そのままのヘンゼルを食べる事にします。

「グレーテル、釜一杯に湯を沸かしておくれ」
「・・・・何で?人食い魔女さん」
「フッフッフ、いやー何か急にでっかい兎の釜茹で食べたくなっちゃってー」
「でっかい兎???」

兎って小さくないっけ?と首を傾げながらもグレーテルはヘンゼルの命を守るために釜一杯に湯を沸かしました。
しかし、その兎というのはヘンゼルの髪と肌、そして瞳の色を比喩したもので。魔女の言葉を正確に表現するのならば
「ヘンゼルの釜茹でが食べたい」という事になり、兎を茹でる為に湯を沸かしてると思っているグレーテルでしたが
その実はヘンゼルを茹でる為に湯を沸かしている事になるのでした。




◆◇◆◇





一方その頃、当の食われようとしているヘンゼルはといえば。

「っく、あの魔女め。小賢しい真似を。おかげで牢を破るのに半月もかかってしまったではないか」

大人しく日々出された食事を摂るだけの生活をしていたと見せかけて、ヘンゼルは毎食ついてくるスープを牢の鉄柵の
根元に掛け、酸化させる事で鉄柵を脆くさせ、約二週間かけてやっと牢を破る事が出来ました(脱獄犯の手口v)
でも半分は持ち前の馬鹿力の賜物です(二週間意味なかったな)

「さて、さっさとあの馬鹿魔女を倒して帰らなければ母上に殺される」

やはり恐れるべきは母上様なのですね。
ヘンゼルは恐れの為か多少顔色を悪くしつつも、人食い魔女とグレーテルのいる部屋へと急ぎました。
グレーテルの無事を祈りながら。





◆◇◆◇





「さーて、ついでだしパンも焼こうか」
「パン・・・・・?」
「ああ、そうだよ。じゃあグレーテルには釜戸を見ていてもらおうかな」

初めはヘンゼルだけ食ってしまおうと考えていた人食い魔女はヘンゼルよりも柔らかで美味しそうなグレーテルを
見ているうちに気が変わってしまったようです。パンと一緒に釜戸の様子を見ているグレーテルも一緒に焼いて
食べてしまおうなどと恐ろしい事を考えていたのです。しかし。

「・・・・・あの、釜戸ってうちにはないからどうやって見ればいいのか分からないんだけど・・・・」

本当に知らないのか、眉根を寄せながら呟かれた言葉に人食い魔女は呆れました。

「なんだい、現代っ子は釜戸の見方も知らないのかい。嘆かわしいねえ」

じゃあ、僕が見本を見せるからよぅく見ておくんだよ?といいながら人食い魔女は腰を折り、釜戸を開きます。
グレーテルは興味津々でそれを見守っていました。まさか自分を焼くためにそんな事をしているのだとは露も知らずに。
ふんふんと頷きながら作業工程を覚えたグレーテルに魔女は言いました。

「じゃあ、見方は分かったね?後は任せたよ」
「・・・・・・・うん」

魔女の言うままに場所を入れ替わって釜戸の様子を見ようとグレーテルは傍に屈みました。その背後では魔女が
グレーテルが釜戸を開くのを今か今かと待ち構えています。グレーテルが釜戸を開けた瞬間にその細い背を押して
釜戸に放り込もうとしていたのでした。しかし、それはここに現れる筈がないと思っていた人物によって阻まれます。

「危ない、グレーテル!」
「・・・・・え?」
「この不届き者が!」

久しぶりに聞く兄の声にグレーテルは今まさに釜戸を開けようとしていた手を止め振り返ります。そこには両手を
突き出し中腰になった妙な格好をしている人食い魔女とその背後から息を切らせて駆けてくる兄の姿が映りこみます。
かと思えば、兄はそのままの勢いで魔女の背中を遠慮なく蹴りました。見事に足型がつくほど憎しみが篭もっています。
そしてそのあまりの勢いに魔女はバランスを崩し、釜戸の厚くて硬い鉄戸に凄まじい音を立て、クラッシュしてしまいます。

「ぶぎゃ!」
「あ、魔女さん・・・・!」
「グレーテル、今のうちに逃げるぞ」
「え!?えっ!?」

頭を打ったあまりの痛さにその場に蹲る魔女は無視して、ヘンゼルは呆然としているグレーテルの腕を力任せに
引っ張り、口にした通り、逃げる為にチョコレートで出来た扉の方へと走っていきます。魔女はそれを食い止めようと
するものの、想像を絶する痛みと多少負った火傷で集中出来ず、自慢の補足魔法が使えません。その間にまんまと
ヘンゼルとグレーテルは魔女のお菓子の家から逃げ出しました。

「ねえ、いいの?魔女さんにあんな事して・・・・」
「構うか。大体アイツはお前を食おうとしていたのだぞ?」
「え、本当に?!」
「本当だ。パン釜の様子を見させている最中に背中を押してお前ごと焼くつもりでいたんだろう」
「ふわ〜、じゃあ俺本当に危なかったんだ。助けてくれて有難うね、お兄ちゃん」
「・・・・・・・!」

二週間ぶりに、漸く慣れたと思っていた『お兄ちゃん』コールを受けてヘンゼルは見事に固まってしまいます。
そしてもうする事はないと思われていた啄木鳥病が再発してしまいました。

「お、お兄ちゃん、そんなに頭打ったら馬鹿になるぞ!」

君がお兄ちゃんって言うの、やめればいいだけの話なんですがね。
そうとは知らぬグレーテルは尚も木に頭を打ちつけて精神統一を図る兄に『お兄ちゃん』を連呼します。
その度に邪心が込み上げてくるヘンゼルは最後に一際大きく頭を打ちつけると、ふらふらになりながらも
家に帰ろうと歩き出します。

「お、お兄ちゃん大丈夫?」
「・・・・・・・・ああ」
「でもまた血が・・・・・」
「・・・・・・・・・ああ」
「・・・・・聞いてる?」
「・・・・・・・・・ああ」
「・・・・・・・・・大丈夫じゃないみたいだな・・・・」

何を聞いても「ああ」としか答えない兄にグレーテルはそう判断すると、ヘンゼルの代わりに自分が
引っ張っていこうと手を伸ばしかけたその時。

「貴方たち!こんなところにいたのですか!?」

木々の陰から、すっかり忘れ去られていたであろう母、サンドラの声が聞こえ二つの視線は一斉にそちらへと
向けられます。それと同時、物凄い速さでサンドラは二人に駆け寄ってきていました。そのあまりの速さに二人の
息子は仰天しました。

「何日も帰ってこないから心配で探しに来たのですよ!」

そう言って更にサンドラは近寄ってきたかと思えば、ヘンゼルの方を突き飛ばして黒髪のグレーテルに
それはそれは強い力で抱きつきました。ちなみに突き飛ばされたヘンゼルは、先ほどから血を流していた額を
更に近くの木にぶつけるはめに遭い、その痛みで瀕死状態です。

「〜〜〜ッ、母上一体何をするのですか!!」
「あら、いたんですかヘンゼル」
「いましたよ。大体先ほど俺たちを複数形で呼んでいたのは貴女ではないですか!」
「あら、そうだったかしら。まあ、それはそれとして。何故ずっと帰ってこなかったのですか」

サンドラはグレーテルには優しい声で労わり、ヘンゼルには問答無用で睨みつけます。差別も甚だしいですが
ヘンゼルは慣れているので特にその事をツッコんだりしません。むしろそんな事をしようものなら命に関わります。
それよりも、上手く説明しないと酷い目に遭うのは自分なのでヘンゼルは悩みました。そして悩んだ挙句。

「森の中のお菓子の家に住んでた人食い魔女にグレーテルが誘拐されたんです」

初めに自分が迷ったのが原因なのだけど、とは口にせずヘンゼルは全ての責を人食い魔女に
押し付けることにしました(爆)それを聞いたグレーテルは複雑そうな顔をし、サンドラに至ってはもはや
鬼の形相でした。

「・・・・・・どこの誰が私の可愛いカ・・・・グレーテルを誘拐したですって・・・・?」
「(やっぱり俺の事はどうでもいいんだな)・・・・お菓子の家に住んでる人食い魔女・・・・・」
「許さないわ、人食い魔女!この私が成敗してやりましょう!」
「え、ちょっと母さん・・・・」
「貴方たちは先に帰ってなさい!お母さんちょっと行ってきますから!!」
「そんな、母さんちょっと待っ・・・・・」

グレーテルが呼び止める前にサンドラは森の中のお菓子の家へと駆け出してしまいました。
一方残された息子二人は・・・・・。

「・・・・・先に帰れと言われても道が分からんのだが・・・・」
「人食い魔女さん大丈夫かな・・・・・・・」
「いや、あれは死んだな」
「え!?ちょっと怖い事言わないでくれ・・・・・」
「こうなってしまった以上関わらないのが吉だ、帰るぞ」
「だから道わかんないんじゃないのか・・・?」
「・・・・・・・・・勘でどうにかする」
「・・・・って言って迷ったんじゃなかったっけ〜?!」
「・・・・・・・過去に拘りすぎるとろくな大人にならんぞグレーテル」

ろくな大人じゃないお前が言うな。
そんなツッコみが聞こえてきそうな中、ヘンゼルは結局グレーテルの手を引いて、言った通り勘を頼りに
家を目指して歩きました。その途中後方の森の中から凄まじい爆音となんとも言えぬ断末魔の悲鳴が聞こえて
きたものの、二人は「気のせい、気のせい」と言い聞かせ続けたのでした。

ちなみに、結局また迷った二人は妙に清々しい顔をして戻ってきた母に拾われて無事に家に辿り着く事が
出来たとか。その帰りの岐路、妙に母から焦げ臭い匂いがしたもののやはり二人は「気のせい、気のせい」と
呪文のように唱え続けていた。そして今後、二人だけでお使いに出される事はなかったと言う―――





・・・・・本当は六万打記念のものでした(爆)
途中まで書いてほったらかしにしているのを本日発見したので
書き足したのですが・・・・・微妙。でもアニーの兄馬鹿ぶりを書けて
それはそれで満足です(おい)
何はともかく七万打有難うございましたー!!

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