波乱☆混乱☆大乱闘 〜タイトルセンスがまるでないよ〜 第二話





「―――宣誓」

壇上で紅、白それぞれの団長が見守る中、各組のもっとも運動神経に長けた者―副団長が、左手を掲げ
決まり文句を叫ぶ。今年度の団長は紅組がグロー学園生徒会長―カーマイン、白組がインペリアル学園執行部会長
であるリシャール、更に紅組副団長はオスカー、白組副団長がアーネストという面子で構成されている。
インペリアル学園勢が多いのは元々彼らの学園の校風が武術重視な点に起因していた。故に合同体育祭と
銘打ったものの実際はインペリアル学園の体育祭と言っても過言ではない。グロー学園の生徒は大概が
パフォーマンスに回っている。芸術を慮る校風なのでそれが自然な形であった。

「以上を以って、選手宣誓とする」

最後に白組副団長―アーネストが締めて選手宣誓が終わる。各副団長はそれぞれの組の最前列へと戻っていく。
彼らが元の定位置についたのを見届けると、紅組団長のカーマインが一歩前へと歩み出る。

「それでは、ここに合同体育祭開戦を宣言し、開戦式を終了する。生徒諸君の健闘を祈る。以上」

腹から出されたよく通る美声で開戦式を閉じ、全校生徒に向かい立礼すれば、形式通り一般生徒も立礼し、
各々に宛がわれた席に戻る。そうしてその場に残るのは各団長、副団長、そして生徒会の面々のみ。
そこで最後の打ち合わせが行われる。

「よし、諸君ご苦労だった」
「・・・・本当ですよ、全く。自分は殆ど仕事もしないで」
「ふん、何を言う。インペリアル学園執行部会長にさえなってしまえば、後はやりたい放題だから私は会長になったのだぞ?」

そんな事今更だ、と溜息混じりに呟かれたアーネストの徒労の言葉にリシャールは鼻で笑うように返す。この言葉で元から
胃の弱いアーネストの胃が更に痛んだのは言うまでもないか。苦しそうに胸を押さえだしたアーネストを後目にリシャールは
別の話を切り出す。ちなみにオスカーはカーマインに構い倒しで話を全く聞いてない。その場で一応話を聞こうとしているのは
アーネストともう一人、インペリアル学園執行部の紅一点、とは名ばかりで男よりも男らしいジュリアの二人だけであった。

「よし、ここからは内輪話になるのだがなかなか大事な話になるので心して聞け・・・とオスカーの奴はどうした」
「・・・・・・・・奴なら向こうで軟派行為に没頭していますが?」
「・・・・アイツ。・・・・・いや、むしろ好都合だ。アーネスト、それにジュリアよく聞け」
「・・・・・・は、何でしょうか」

どうせまた何か無理難題でも降っかけようとでもしてるのだろう、とそう短くない付き合いをしている部下二人は何処か
投げやりに返事をしつつ、横目で実はカーマインに引っ付いて廻っているオスカーを険のある眼差しで見守っていたりする。
更に恐ろしい事にジュリアに至ってはチッと舌打すらする始末だった。そんな彼女の珍しい様子を目の当たりにして
隣りに立っていたアーネストは若干緋色の目を瞠り、驚いている。その内心では、こいつ・・・案外態度が悪いな、などと
思いながら。しかし、そんな二人の様子にまるで頓着せずリシャールは続ける。

「実はな、今回の勝敗には景品が掛かっているのだ」
「「・・・・・・・・は?」」

聞き流そうと思っていたアーネストとジュリアは思ってもみない単語に思わず間の抜けた声を上げた。

「いや、毎年私にやる気が感じられないとでも思ったのか学園長がやる気を出して勝ったら副賞をくれると言っててな」
「・・・・・・・・・はあ。馬を人参で釣ろうって魂胆ですか」
「それを言うならエビで鯛を釣るんじゃないのか、ライエル・・・・?」
「いや、リシャール様が鯛なんて勿体無い。鯛は高級魚だぞ。馬で充分だ」
「ああ、そうか。確かに会長はろくに仕事もしないし、馬鹿面下げた馬で充分だな」
「・・・・・・お前たち・・・・・」

言いたい放題の部下の罵詈雑言にリシャールは流石にこめかみに青筋を立てる。その様子を見て言いすぎたか、と二人は
慌てて今までの付き合いで習得した、人畜無害な、言うなれば不○家のぺ○ちゃんスマイルを浮かべて誤魔化す。
その顔はその顔でムカつく、というのはこの際置いておこう。何だか毒を抜かれて、というか白くなったリシャールを
視認すると二人はコンマ一秒で元のきりっとした表情に戻る。傍目からみれば愉快この上なかった。

「・・・・・ま、まあとにかく白が勝てば白組執行部メンバーで某ネズミ王国リゾートの二泊三日特別ご優待券が貰える」
「「・・・・・・しょぼっ」」
「な、なんだと!!」
「だってそうじゃないですか!成金学校のくせに今更ディ○ニーランド!?経費削減にも程があります!」
「あ、貴様!私が気を遣って名前を出さなかったのに!!(著作権問題があるから)全国のネズミ王国スキーに謝れ!!」
「ディ○ニーランドなんて自腹でいけるじゃないですか!何つられてんですか貴方は!!」
「あ、お前らまた!そんなに言うならこれでどうだ。白組執行部プラスカーマイン!」
「「・・・・・・・・!」」

ビタリと。犬のように煩く吼えていたアーネストとジュリアの咆哮が一人の青年の名前で止まる。それは滑稽なほど。
そして人を射殺しそうな極悪面が一瞬にして天使とまではいかないが善良な面構えに変貌した。リシャールの口元に
にやり、としか形容しがたい笑みが浮かぶ。

「・・・・・で、やる気は出たか御両人・・・・?」

腰に手を当て身長的には見上げるしかないが、精神的には二人を見下ろすようにして紡がれた言葉に返るのは。

「「お任せあれ!打倒紅組、打倒オスカー!!(名指し)」」

その場に響いたのは普段は犬猿の仲ともいえる二人のいつになく綺麗にハモった二重奏であった。




◆◇◆◇




一方その頃、熱くなる三人集の後ろでは。

「っくしゅ・・・・」
「・・・・・風邪か、オスカー・・・?」
「いや・・・・誰か噂でもしてるのかな?」

進行予定表を確認しているカーマインの隣でオスカーはくしゃみを漏らしていた。原因は上記の三人だろう。
しかし特にうろたえる事もなく飄々と紫髪の男は返す。

「それより、頑張ろうね・・・?」
「あ、ああ・・・・それはもちろん。けど・・・・・」
「けど、なあに?」

オスカーが首を傾げるとカーマインは多少言い辛そうに咳払いをする。それから逡巡するものの、諦めた風に
溜息を落とし、じっと隣に並ぶ男の青灰の瞳を見据え。

「・・・・・その、無意味に密着するのは止めてくれないか・・・?」

自分の腰に回された腕を指差しながら言う。困り顔で眉を顰めるカーマインはにこにこと楽しそうに笑っている
オスカーにまるでぬいぐるみのように抱き締められていた。その密着度はセクハラといっても過言ではないかもしれない。
しかし、指摘されたオスカーは表情を変えないどころか、腕を放そうとしない。更にカーマインの眉間の皺が深まる。

「無意味じゃないよ。連帯感を高めようと思ってv僕等同じ組じゃないか」
「それは・・・そうだが、いやしかし・・・・。オスカーは紅組の人全員にこれをする気か・・・?」

女の子にしたら怒られるぞ、とカーマインは所在無さげにオスカーに告げる。金と銀の瞳が忙しなく動く。
誰かどうにかしてくれないだろうか、と訴えかけながら。しかし、インペリアル学園執行部経理であり、更に影の支配者と
名高い彼に向かっていく勇気ある者は皆無といっていい、筈なのだが。

「貴様、マイ=ロードに何をしてくれるー!!」

紅一点、と名高い女生徒の怒声と繰り出された回し蹴りによって阻まれる。ひらりとそれはそれは華麗な蝶の如し
舞でオスカーは避けたが。その際急に解放されてバランスを崩したカーマインはきっちりと背後に立っていたアーネストに
よってキャッチされた。稀に見る珍しいコンビによる連係プレーである。

「・・・・・わぷっ」
「・・・・・・・・大丈夫か?」

躱された回し蹴りに続いてニーキック、ハイエルボー、跳び蹴りとオスカーに技を繰り出しているジュリアを余所に
カーマインを受け止めたアーネストは謝罪を告げ労わると、やや名残おしさを感じさせつつ、自分の身体を後退させた。
仰ぎ見る異彩の双眸と緋色の眦がかち合うと慌てて視線を逸らす。不健康な真っ白い肌が珍しく朱色掛かっていたが
視線を逸らされた事に気を取られたカーマインは気づかなかった。照れ隠しによる不自然さをどうにかしようと
アーネストは顔の向きを元に戻して口を開く。

「・・・・・うちの変態が迷惑を掛けたな」
「・・・・・・・・・・え?」
「ちょっと、その変態ってまさか僕の事じゃないだろうね?」
「あ、リーヴス貴様!マイ=ロードに近づくな」

ジュリアとじゃれていた筈のオスカーが自分の悪口に反応して戻ってくる。その後ろを息を乱したジュリアが追う。
カーマインは至ってマイペースにアーネストは軽く息を吐くと、対オスカー用に顔を作る。無表情に僅かの怒気と呆れにも
似た侮蔑を乗せて。紅と蒼の対照的な瞳がバチバチと火花を散らす。そして睨み合いながらもオスカーよりは安全だと
判断したらしくアーネストはぽんとカーマインをジュリアに向けて押し出した。

「・・・・・え?」
「・・・・・・・おい、ジュリアン任せたぞ」
「・・・・あ、ああ」

今度はジュリアの手に収まってカーマインは僅かに戸惑う。きょときょととその場にいる三人を見て回る。
しかし二人は険悪、そして自分を抱いているジュリアは思わぬ棚ぼたにふしゅーと茹蛸状態(いわゆるヘタレ)に
なってしまっていてどうすればいいのか分からない。結局自分をジュリアに預けたアーネストを頼るしかない。
困惑した瞳を向ければ、既にオスカーと組み手を取り合っていたアーネストはにっこりと笑って。

「俺はコイツと少々準備運動をするんでな。お前はジュリアンと一緒に本部席に戻るといい」
「・・・・・あ、はい。分かり、ました・・・・・・・」
「ああ、それと。うちの馬鹿会長が妙な事をしていたら遠慮なく止めてやってくれ」
「え、えーっと・・・・が、頑張ります」
「じゃあ、頼んだぞ?」

やはりまた笑顔で送り出すアーネストの何とも言えぬ気迫に圧されてカーマインは自分の後ろで地蔵さん
状態のジュリアを引き摺って本部席へと戻っていく。彼らのそんな後姿を目に留めた瞬間、休戦状態だった二人は
つかみ合った手に力を込めた。

「・・・・さて、人の恋路を邪魔した挙句、変態呼ばわりしたお返しをさせてもらおうか」
「・・・・それを言うなら俺こそ、貴様の不埒な所業への制裁と前回の俺の出番の少なさの借りを返させてもらおう」
「前者はともかく、後者は知らないなぁ。君の存在感がないのが悪いんじゃないの〜?」
「ほう、では貴様はその存在感のない俺にさえ公式のキャラクターコンテストで大敗を帰していたな」

それはどういう了見だ?と小馬鹿にした笑みを敷き、アーネストは一瞬怯んだオスカーの腕を締め上げる。

「・・・ッ、そん、な古い話覚えてないねえ」
「・・・・・何だったか・・・・30位と圏外だったか?しかも美形でもない敵キャラ以下・・・・惨敗だなオスカー」
「うるっさいなー、出番に差があるの、出番に!」
「・・・・・・・だが俺はU、V、Wの主人公にも勝ったがな。出番は彼等の方が多い筈だが・・・・?」
「〜〜〜〜ッ、過去の栄光に縋る男はみっともないよ」

エスカレートしてきた子供染みた言い争いをする足元では更に子供染みた足の踏み合いが行われてたりする。
今度こそ誰も止められないか、と思ったその時。嵐は更なる大きな嵐に飲み込まれる。

『レディースアーンドジェントルマン!!ノってるかーい!?』

「「・・・・・・・は?」」

突如響いた何ともハイテンションなマイクからの音声にマヌケな声が落ちる。

『合同体育祭、総合司会&実況担当はインペリアル学園三年リビエラ=マリウス!どうぞ夜露死苦☆』
『ちょ、リビエラお前勝手にマイクで遊ぶな!!おい、誰かリビエラからマイク取れ!!』
『あ、アンタたち何すんのよ!!人が気持ちよくマイクパフォーマンスしてるところに!!』

ガン、ガガガ、ピー

「「・・・・・・・・・・・・・・」」

『えー、お騒がせしました。間もなく第一競技が始まります。担当選手は入退場門へ集合して下さい』

「・・・・・・おい、誰だあんなキャラ強い奴を司会にした奴は・・・・・」
「・・・・・・・・・あ、あーうちの人選は全部会長がやってる筈だけど・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど。興が殺げた。戻るぞ」
「・・・・・・確かに緊張感失くすよね。あんなの聞かされちゃ・・・・・・」

パッと、何処か遠い目をしていたアーネストが先にオスカーを放し、本部テントへと戻っていく。それについていきながら
ふとオスカーは足を止める。その気配に気づいてアーネストも足を止め、ゆっくりと振り返った。

「・・・・・・どうした?」
「いや。今の続き、競技でしっかりと勝負つけようじゃないか」
「・・・・・・・・・当たり前だ」

腕を組んで不敵な笑みを携えるオスカーにアーネストも口角を上げる。ザアッと強い風が吹いた。
まさしく一触即発の緊迫感が漂う。しかし。そんな状況の中、実はアーネストは副賞のために・・・・!と
拳に力を込めながら心の内で叫んでいた事をオスカーは知らない。




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な、何だかんだで中編に・・・。そしてアホバトルLOVEバトルが
中途半端になってしまいました。更に今のところほぼカーマイン以外みな
キャラ壊れの嵐を巻き起こし・・・・(特に女性陣)
じ、次回も大荒れになりそうです。というか終わるのかこれ(コノヤロウ)


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