茨姫の棺





愛されたいわけじゃなかった。
むしろ忘れて欲しかった、自分の存在など。
それなのに、この手を離せない。
どうして、どうして・・・。


愛されたいわけじゃなかった。
お前を幸せにしたくても、俺では幸せに出来ないから。
それなのに、どうしてこんなに愛しいのだろう。
どうして、どうして・・・。






Act:14恋






金色の月が芽吹く花のように輝く、狂ったような夜。
重ねられた手のひらが、触れ合う熱が理性を崩壊させていく。

「・・・・・・・んっ・・・」

濡れ羽色の髪に月明かりが照り返し、そこに指が差し込まれる。
強く引き寄せられ、啄むような軽い口付けからより深く、熱いそれへと変わっていく。
カーマインは執拗に絡んでくるアーネストの舌から初めは逃れていたものの、やがて観念したように拙いながらも、
熱く蹂躙してくる舌先を受け止めた。口腔で互いの唾液を交換する音がやけに耳につく。
上手く息継ぎが出来ずにカーマインは塞がれた口の端から温まった吐息と鼻に掛かる甘い声を漏らす。

「・・・・・ふぅ・・・んっ・・・・・はぁ・・・」

歯列を舐められるだけで脳髄が痺れたように思考が停止し、身体からは力が抜けるため、カーマインはアーネストの広い背へ
腕を回し縋りつく。その際傷を負ったアーネストの肩に触れてしまい、触れられたアーネストは一瞬痛みに身を震わした。
その反応を受けてカーマインは慌てて手と身体を離す。

「・・・・ごめ・・ん・・・アーネスト・・・怪我が・・・・」
「・・・・・気にするな、大した事はない」
「でも、血が滲んで・・・・早く手当てを・・・」

まだ整わない呼吸のままにカーマインは何とか言葉を紡ぎ、アーネストの傷を見るために紅く染まりつつあるローブの
合せ目を開き、肌蹴させる。するりと肩から落ちたローブの下には貫通した深い傷と止まる事のない血が拡がっていた。
思っていた以上に酷い傷の有様にカーマインは綺麗な眉を歪ませ、今さっきの行為で潤んだ瞳で頭上の紅玉をキッと
睨みつける。鋭い視線を受けてアーネストは小さく息を飲んだ。

「・・・・っ、どうしてアーネストはいつも・・・こんな無茶ばっかり・・・!」
「・・・・・少し、油断していた」
「だからって、何故こんなに酷い傷放っておくんだ!せめて止血くらい・・・・んっ」

半ば悲鳴のような怒声を上げるカーマインの口を言葉ごと飲み込むようにアーネストは塞ぐ。ローブが開かれ、空気に晒された
傷は強い鉄錆びの匂いを発していた。戦場で溢れかえっていたその匂いは、鼻腔を擽ると無性に普段奥深くに隠している
凶暴性を呼び起こす。それはまるで血に餓えた野生の獣のように。

「・・・・あ、・・ふ・・・・ゃぁ・・・アー・・ネ・・・・・・ト」

知らず、カーマインから拒絶が返される。それでも焚きつけられたかのような本能は姿を隠す事なくカーマインを犯す。
細い項と腰を押さえつけ、苦痛を感じるほどに激しくアーネストは口付けた。腕に力を込める度、傷口が開いて
痛んだがそれすらも気にならないくらいに夢中で柔らかな唇に喰らいつき、何もかもを奪い取る。
けれど息苦しさに堪らなくなったらしいカーマインに爪を立てられ、漸く正気を取り戻した。

「・・・・・・・は、ぁ・・・・・っ・・・・・・・」
「・・・すまん・・・・苦しかったか・・・・?」

先ほどまでの強引さが嘘のように、眉根を寄せたアーネストは、喘ぐように息をするカーマインの崩折れる肢体を抱き留め、
丸まって浮き上がった背筋を優しく撫でる。それから静かにベッドの縁へと腰掛けさせた。ギロリと涙に濡れた相違の瞳を細める
カーマインにアーネストは困ったように微笑して、自身が掻き乱してしまった黒髪を指先で梳くように整える。

「・・・・少々、焦ってしまったようだ・・・・本当にすまない」
「焦ったって・・・どういう事だ・・・?」
「・・・・そんな瞳で、そんな表情をされたら・・・・抑えが効かなくなる・・・そういう事だ」

切実な思いを告げるような声音に、カーマインはパチパチと大きな双眸を瞬かせる。そしてひたりと注がれるアーネストの何処か
甘さを含んだ眼差しに目元を染めた。居心地が悪そうにきょときょとと視線を彷徨わせる。すぐに顎を掴れ、固定されてしまうが。

「・・・っ・・・・・・」
「・・・・・取り敢えず、傷は手当てする。そしたら・・・・・」

お前を抱いてもいいか?と耳元に直接アーネストが声を落とすとカーマインは信じられないほどに顔を紅くする。
まるで生娘のような青年の反応にアーネストは嬉しそうに口角を持ち上げ、傷口を塞ぐためにキュアを唱えた。
溢れた血で分かりづらいが、急速に活発化された人体の治癒能力は見る見るうちに傷を塞いでいく。あくまでも表面上のもの
ではあるが。そうして大方の傷を塞ぎ終えると濡らしたタオルで血を拭い、アーネストは動向を見守っていたカーマインへと
向き直り、再び色違いの瞳を下から覗き込んだ。

「傷は塞いだ。覚悟の方はいいか・・・?」
「・・・・・・・ぁ・・・・・」
「手荒な真似は・・・もうしない。大切に優しく愛しむ・・・・・」

言いながら、するりとカーマインの頬を大きな手で包み込み、こめかみから微妙な力加減で辿っていく。
言葉通りの優しく甘い接触は、鼓動を早まらせる一方で柔らかに落ち着かぬ痩身を安堵させた。
僅かに警戒で身を強張らせていたカーマインは全身から力を抜く。次いで覆い被さってくる男の影を嫌がる事もなく
ただ静かに受け入れた。掠めるように口付けられ、上半身をゆっくりとシーツの波へと倒されていく。

「・・・・・あ・・・アーネスト・・・・」
「・・・・・・・・・・大丈夫だ」

耳元に囁いて、そのまま頬を唇で辿り、反り返った首筋をなぞっていくアーネストの背にカーマインは力の入らぬ指先を伸ばし、
広い肩に引っかかっているローブの先を掴む。何かに縋っていなければ、落ち着かなかったからだろう。頬を染め、
これから何をされるのかも分からぬ無垢な痩身は、今にも震えてしまいそうになるのを唇を噛んで懸命に堪えていた。
それを見咎めたアーネストは止めさせるために少しきつめに噛み締められた桜色の下唇を吸い上げる。

「・・・・・・ん・・・・」
「あまり強く噛むな・・・切れるぞ」

でも、と食い下がるカーマインにアーネストは一つ溜息を吐いて、真綿で包むように、安心させるようにしなやかな柳腰へ腕を回し
抱き締めた。じんわりと伝わってくる他人の熱に、体温の低いカーマインは心地良さ気に金銀の瞳を閉じる。
更に腕を掬い取られ、冷えた指先に熱を帯びた唇が宛がわれた。至極紳士的に扱われ、カーマインは戸惑う。
伺いを立てるように真上にある紅蓮の瞳を上目遣いに見上げた。

「どうした?」
「あ・・・いや・・・その・・・・・」
「・・・・俺は、お前が嫌がる事はしない。だから、嫌ならそう言って欲しい」

酷く寂しげな言霊は、カーマインの胸に落ちてきゅぅと締め付けてくる。それは違うと、細い首をふるふると左右に動かす。
重力に沿って黒髪がぱさぱさと音を立てながら中空に舞った。紅い視線はそれを見て不可解そうに首を傾いだ。
カーマインは何事かを呟こうとして口を開くがそれは声としてアーネストの耳に届く前に掻き消える。どうにも上手く言葉に
して伝える事が出来ないらしい。歯痒さにカーマインは綺麗な眉を寄せるが、やがて何を思ったのかアーネストに囚われたままの
腕を取り戻すと自らアーネストの白い胸の上、心臓の辺りへと触れさせ、それから目に付いた呪の証である黒の逆さ十字に
そっと何もかもを許すように口付けた。驚いてアーネストは両眼を瞠る。

「・・・・・カーマイン・・?」
「・・・・・・・大丈夫・・・俺、アーネストなら・・・・何をされても・・・へ・・・ぃ・き・・・」
「・・・・そう、か」

徐々に萎んでいく蚊の鳴くような声に、アルビノ特有の双眸は愛おしげに細められ、腕の中に身じろぎ一つせず収まっている
肢体に緩く指を這わす。薄布を纏った胸を撫で、適度に引き締まった腹部を下った後、怯えさせぬようにゆっくりと服を剥いでいく。
露になった肌は血が透けて見えそうなまでに白く、少し力を込めただけで折れてしまいそうなほど華奢な体つきだった。
それもこれも、儚さとそう遠くない死を連想させるには充分で。それらを思考から払拭させるためにも、アーネストは丹念に
繊細にカーマインを愛しむ。

「・・・・・・・っ、・・・・・・・・・・」

胸の頂に硬い指の腹が触れる。ただそれだけでジンと胸の奥が痺れた。首を逸らしながら片目で自分を組み敷く男を
カーマインは見遣る。ずっと血を垂れ流していたせいか、顔が青白い。心配になって頬へ手を添えれば、淡く微笑まれる。
有難うと、そんな気持ちがあったのかは分からないけれども、カーマインがアーネストにしたようにアーネストも
カーマインの胸に刻まれた呪の十字架に唇を落とした。

「・・・・ふ、ぅ・・・・・・」
「・・・・・・消えないな・・・・」
「ん、ふ・・・ぁ・・・・・な、に・・・・?」
「消えない・・・・」

ぴちゃぴちゃと卑猥な水音を響かせながら、胸を這う舌の動きがまるで拭い去るような強さを持ち出して、カーマインは
堪らなく甘い声を上げた。尚も滑った熱は肌を擦り上げる。それに指先まで加わればカーマインはシーツを掻き乱して身を捩り、
逃げようと蠢く。直ぐに男の力で押さえつけられてしまうのに。

「・・・・俺が、巻き込んだ。お前を・・・・怒っているか・・・・?」

不意に上から尋ねられた言葉に、意味が判らないとばかりに閉じられていたヘテロクロミアが薄っすらと開かれた。
叱られた子供のような顔をしているアーネストを見上げ、乱れた息を整える事も忘れて動かすのも辛い腕を伸ばして
白銀の頭を抱える。

「・・・俺が、何を怒るって・・・・?」
「・・・・・この胸の呪の印だ。・・・俺のエゴでお前から自由を奪ってしまった」
「それは・・・・アーネストも同じだろう・・・?」

ちゅっと近づいた白い額に慰めるようにカーマインは顔を寄せ、短くて触り心地のよい白銀の髪を撫でる。
慰められているようで、アーネストは複雑に思いながらも、益々そんな優しい彼への愛おしさが込み上げ、心のままに
柔肌に触れ、愛撫を施す。

「・・・・・・ぅやぁ・・・あ、あ・・・」

頭を抱えられ不自由な体勢のまま、それでも間近の細い首筋に噛り付いて痕を刻み、浮き上がる内股を擦る。
びくびくと震え、淫らに啼き悶えるカーマインはあまりに艶やかで。普段誰よりも傍近くにいても見る事がなかった姿に
自然とアーネストは煽られる。太腿を行き来していた指先を双丘へ導き、加減なく揉みしだくと、ヒクリと震えた蕾を掠め、
その上で蜜を溢し出しているカーマインの雄へと触れさせる。初めて他人の手が触れたその場所は目に見えて
快楽を露にし、触れたアーネストの手を止め処なく濡らしていく。

「・・・・・・っ・・・・ぃ・・・・・ぁ・・・・あ、んぅ」
「・・・・カーマイン、そろそろ手を離してくれないか。これではお前の顔がよく見えない・・・」
「・・・あ、だめ・・・見ちゃ、だ、め・・ぇ・・・・・」

俺、今変だからとふるふると首を振りながら、アーネストの頭を抱く腕に力を込めた。けれどそんな事を言われれば
余計に顔が見たくなるというもの。どうにか腕を外させようと手にしたカーマイン自身を強く扱く。溢れた液が指先に
絡まって粘着質な音を奏でる。ただでさえ弱い部分を弄られて自分を見失いそうになっているというのに、更に聴覚まで
犯され、快楽の海に沈んだカーマインは全身から力が抜け落ちていく。その隙に彼の腕から抜け出したアーネストは
存分に悦に歪んだ美貌を眺めた。

「・・・・・・・・・・・・」

数日前までは、ただ触れるだけでも後ろめたかった存在をこうして抱けるという事が、今更ながらに幸福でそして同時に
やはり罪深いと感じざるを得ない。それでも一向に止めようとは思わない自身の異常さに哂いながらも、アーネストは
蜜で濡れた指先を組み敷く身体の奥の搾まりへと埋めていく。

「・・・・や、ぃ・・・・、ん、んンっ・・・・」
「・・・・・力を抜け・・・・・・」
「あ、ふ・・・・で、も・・・・あぁっ・・・・!」

濡れているとはいえ、異物を含まされた奥襞は押し寄せる圧迫感に外部からの侵入を許すまいと身を強張らせる。
ギリギリときつく締め上げられ、その痛みに白銀の眉は顰められた。けれど引く事はなく、時間を掛けてゆっくりと堅く閉ざした
入り口を拡げていく。出来るだけ痛い思いも苦しみも与えたくはない。ただそれだけを思って少しずつ蕾を解し続ける。
そうして漸く震える蕾が開き出した頃、アーネストは絡んでくる襞から指を抜いた。

「あ・・・!」
「・・・・いいか?」

真上の首が傾ぐのを何処かぼんやりと追いながらカーマインは小さく頷いた。それを受けてアーネストの口端が持ち上がり、
最後に一度柔らかく唇を重ねられる。離れ際、カーマインも綺麗に微笑む。

「・・・・・大丈、夫・・・だから・・・・もっと近くに来て・・・・?」
「・・・・・・・ああ」

頷きながら僅かに身体に掛かっているローブを脱ぎ捨て、静かに身体を倒し、カーマインの脚を持ち上げるとアーネストは
内へと踏み込む。痛みを徒に長引かせるよりはいいと一息に。

「・・・く、ああぁぁ・・・っ!」
「・・・・・・・っ」

指などとは比べようもないほどに熱く硬い異物を飲み込んで、カーマインは苦痛に綺麗な顔を歪ませた。上手く息が出来ない。
相違の瞳からぼろぼろと涙を零す。それを唇で受け止めつつ、アーネストもきつく締め上げられる痛みに息を凝らして耐える。
互いの乱れた吐息だけが耳に届く濃密な空間。この時ばかりは自分たちの置かれた状況も悲痛も何もかもが頭から消えていた。
ただ在るのは目の前の愛しい存在、それだけ。

「・・・・カー、マイン・・・・平気、か?」
「・・・・少し苦し、・・・けど・・・・・大丈・・・・ひっ、ん・・・」
「もう少し力を抜け・・・。それから脚を開け。多少は楽になる・・・」

言われてカーマインは恥ずかしさに顔をこれ以上なく紅くしながらも、アーネストに心配させまいとなるべく言う事をきこうとした。
息を吸ってどうにか力を抜くよう心掛け、はしたないと思いながらもそろりと脚を開く。窺うようにアーネストを見遣ればいい子だ、と
シーツの上に散らばった髪を撫でられる。それだけで身体を繋げて敏感になっている今はカーマインにとって刺激になってしまう。

「・・・・・ん・・・・」
「・・・・動くぞ・・・・・・」

心の準備が出来るようにと告げてからアーネストはゆっくりと腰を使い始める。驚かせないように、苦しませないように。
ただでさえ、弱っているというのにこれ以上苦痛を感じさせるのはあまりに酷だと。そう思うのに細い喉からは悲鳴染みた
叫び声が漏らされ、アーネストの胸が痛む。謝罪するように何度も何度もあらゆるところに口付けを落とした。

「・・・・・っ、カーマイン・・・・」
「あ・・・・、あっ・・・・・アーネ・・・、ひゃぁ、ん・・・!」

少しでも痛みが遠のくように、胸を嬲り、緩く立ち上がり蜜を零しているカーマイン自身を扱き上げる。あらゆるところから
悦楽を与えられてカーマインはいつしか痛みを忘れ、愉悦に喘いだ。気遣わしげに見つめてくるアーネストの頭を引き寄せ
耳元に囁く。

「・・・・お・・・れは・・・君を・・・愛していい、・・・?」

突然の問に一瞬双眸を瞠りながらもアーネストは優しく微笑み返す。カーマインは安堵したように瞼を下ろすと
満足したような顔でもう一言だけ添えた。

「ほん、とは・・・・俺の事な・・て忘れて欲しかっ・・・た・・・・でも・・・アーネストだけ、は・・・覚え、てて・・・」

俺が死んでも、そう言われたような気がしてアーネストはそれ以上自虐の言葉を吐かせぬように唇を塞ぎ、正気など
消え失せるように、カーマインが最も反応する箇所に激しく律動を刻む。今までの紳士的な動きに比べればまるで獣のように。
高みだけを目指してただ、ただ腰を打ち付け続けた。

「・・・・や、ん・・・・も、・・・・だ・・め・・・ふぁぁぁ、んっ・・・・!」
「・・・・・・・・・く・・・っ・・・」

カーマインが快楽に溺れきった声を上げたのを機に、一際深く強く突き入れられ、カーマインは白む思考を手放して絶叫を
残し、果てた。それを追うようにアーネストは夜闇に妖しく輝いていた紅い瞳を閉じた。





◆◇◇◆





「・・・・・大丈夫か?」

何とか呼吸が整いだした頃、アーネストはベッドにぐったりと沈んでいる痩身を気遣って声を掛ける。
それから手に持った水入りのグラスを差し出す。カーマインは小さく礼を言いながらそれを受け取ると、身体を起こそうと
するが、ずきりと腰に走った痛みに顔を歪めた。

「・・・・・・・っ・・・!」
「カーマイン・・・・・!」

倒れ込むまではいかなかったが、ふらついている上半身を受け止めるとアーネストは心配そうにカーマインの顔を
覗き込んだ。その顔は普段の凛々しさは微塵も感じられぬほど情けなくて、カーマインは痛みを忘れたようにくすくすと
声を立てて笑う。

「なんて表情するんだ、アーネスト・・・・」
「・・・・・・やはり、無理をさせたな・・・・すまない」
「謝らないでくれ。それに言ったろう?俺はアーネストになら何されても・・・いいって」
「しかし・・・・」

尚も言い縋るアーネストにカーマインは呆れたように息を吐いて緩く首を振った。

「・・・・俺は愛されたいわけじゃなかった、むしろ嫌ってくれればいいと思った。でも・・・・こうして腕に抱かれて、
愛されて・・・・幸せなんだ。どうしてだろう、君を傷つけたくなんてないのに、俺は君に愛されていたい、覚えてて欲しい」
「・・・・・カーマイン」
「だから、謝らないでくれ。俺が勝っ手で我侭なだけなんだ・・・・こんな奴の事・・・・忘れたかったら、忘れていいよ?」

もう忘れてとも、忘れないでとも言わないから、君の好きでいいから。そう言うカーマインにアーネストは鋭い視線を
飛ばす。それは恰も侮られたとでも言うかのように。

「・・・・随分と俺も安く見られたものだなカーマイン」
「・・・・・・・?」
「・・・・こんな風に嘆いてるお前を、誰よりも愛しい者を、俺が忘れられるとでも思うのか・・・・?」

そんな事があるはずがない。例え誰かに記憶を奪われても彼の事だけは覚えている自信がアーネストにはあった。
確かにあまりに儚くて、本当にこの世に存在しているのか時々疑いたくもなるが、自らの腕に抱き、互いの熱を分け合い、
誰よりも愛した相手をどうしたら忘れられるというのか。方法を知ってる者がいれば直接聞いてやりたいくらいだと
息巻いて、アーネストは自虐に走るカーマインの事後で過敏になっている肌に仕置きとばかりに吸い付く。

「・・・・あ・・・ぁ・・・」
「それ以上、もう自分を痛めつけるな。例え・・・・本当は口になどしたくないが・・・お前の終わりがすぐ傍に近づいて
いたとしても、お前がこの世から姿を消しても俺はお前を忘れない。忘れられるわけがないんだ・・・・」

愛しくて愛しくて愛しくて気が狂いそうなのに。
否、きっともうとっくに狂っている。恋とは、愛とはそういうもの。正気のうちはそれは恋でも愛でもない。
ただの思い違いだ。憧れだったり、親愛だったりを履き違えているだけ。
一度狂い、恋に落ちたらもう後戻りは出来ない。それがどんなに罪深く間違った恋でも。

「・・・さあ、堕ちるとしよう・・・もっと深く、奈落の底まで・・・・どうせ後戻りなど出来ないんだ・・・・」






深く深く、神の記憶にも留まるように。

二度と誰もが忘れぬほどに堕ちよう、何処までも。

狂ってこそ恋も愛も美しく咲くのだから。

差し出した手に重ねられた白すぎる手が、それを証明している。

金色の月が芽吹く花のように輝く、狂ったような夜に、狂った二人が艶やかに狂い咲いて。

あとはただ散りゆく日を今か今かと待ち侘びるだけ―――




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茨姫に於けるアー主初夜でございましたが、最後の方眠くて
何書いてたか覚えてません(殴)ゆえにひょっとしたら最後の部分はあとで
書き直すかもしれません。表しか見ないという方へのダイジェスト?は後日!


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